kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021年9月 Benoitお勧め料理「エイヒレのグルノーブル風」のご紹介です。

残暑お見舞い申し上げます。

 

 まだまだ暑い日々が続きますが、朝晩は思いのほか風に涼しさを感じるものです。そういえば、この「涼しい」やら「涼風(りょうふう)」というのは、夏の季語になっています。そして初秋ともなると、「初涼(しょりょう)」や「新涼(しんりょう)」へと表現が変ってゆきます。暦の上では、8月7日に「立秋」を迎えているので、秋が始まっています。しかし、自分の中ではまだまだ晩夏であり、「新涼」というよりも、「涼風」である気がするものです。

 なにやら言葉遊びのようですが、これは古人のまさに遊び心のある言葉選びなのだと思うのです。暑さの度合いに違いはあるとは思いますが、今も昔も夏は暑いものです。そして、秋ともなると少しは過ごしやすい日々となります。

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 昔は今のようにエアコンなどあろうはずもなく、人々は川辺や木陰などに涼をもとめたはず。清流に足先を落としたり、水しぶきを浴びたり、木陰を吹き抜ける風を浴びたり。思うに、気温が下がっていることはないですが、水が気温よりも冷たいからこそ感じる涼しさであり、水しぶきや汗による気化熱の作用で体温が下がる涼しさのこと。夏は気温そのもとというよりも、体感温度に及ぼす「涼しさ」を意図している。これに対して、秋は気温そのものが低くなるからこその「涼しさ」だと考えています。

 今の時期の朝晩は、確かに気温も下がり、風にも涼しさを感じます。ただ、半袖の衣服を着用していている時点で、我々は体感温度の「涼しさ」を求めている気がします。これが、半袖で玄関から踏み出したとき、「あ!少し肌寒いかな?」と、何か羽織るものを考えた時、気温そのものが下がった「涼しさ」であり、「新涼」「初涼」の到来と考えたのではないかと思うのです。

 さて、夏の涼しさと秋の涼しさ、皆様はいったいどこで線引きしますか?

 

 雄大な大海原を、まるで自らの優雅な時を謳歌するかのようにゆったりと羽ばたくかのように泳ぐマンタの姿は、海の中だからという理由以外にも、魅せられた者に得も言われぬ涼しさを与えるものです。このマンタ、正式名称は「オニイトマキエイ」といい、その姿からも想像がつく通りエイの仲間で、エイ目トビエイ科に属します。エイの多くは、羽ばたくように泳ぎはするものの砂地の海底で佇(たたず)んでいたり、ゆらゆらと海の底でエサを探していたりもします。オニイトマキエイは、休憩の時すら水面近くで浮いてるといい、トビエイとは生態を熟知しているからこその的を射た表現ではないでしょうか。

 今回の特選食材は、もちろんトビエイのマンタではありません。海底で佇んでいる方のエイ、「ガンギエイ」です。日本を含めた温帯域の海を棲みかとしており、「アカエイ」とともに、日本でも「カスベ」という名前で北海道や青森を中心に流通しています。そもそも、この「カスベ」といのは、北海道の方言でエイのことをいうようです。

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 エイの特徴といえば、背と腹で圧し潰されような縦扁(じゅうへん)という平らな姿をし、体とは区別がつきにくい大きな胸ビレではないでしょうか。この胸ビレを、鳥が飛ぶ時の翼のように波打つようにし動かして泳いでいます。日本ではエイヒレといいますが、フランスでは「Aile de Raie (エル・ドレ)※難解なRの発音!」です。「Raie」はエイのことを意味しているので、これは「エイのaile」ということに。では、この「aile」はというと…決して「ail(アイユ)」のニンニクではありません。「aile(エル)」は「ヒレ」ではなく「翼」という意味です。

 

 日本の食用エイでは、「アカエイ」が主流です。皆様が想像しやすいエイの姿をしており、高さの低い縦扁の姿なために、両翼が大きく薄いことが特徴です。そのため、焼くというよりも、煮付けにすることが多いようです。乾燥させて焙って食べたりする「エイヒレ」は、酒の肴(さかな)として馴染み深い逸品ではないでしょうか。

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 今回の「ガンギエイ」は、この両翼がコンパクトなため厚みがある。まして、ブルターニュ地方の北に広がるドーバー海峡の激しい海流にもまれにもまれたいるからこそ、さらに肉厚な「Aile de Raie (エイの翼)」なのです。日本からは地球の地軸に対してほぼ反対に位置しているフランスから。鮮度が重要な食材だけに、現地で捌かれた後、間髪入れずCASシステムと呼ばれている瞬間冷凍の技術を利用します。そして、「エイの翼」は飛行機の翼を利用し飛んできたのか、はたまた船に揺られて来日したのか、とにもかくにもBenoitに届いています。船の舵(かじ)も、なんとなく「エイの翼」のように見えなくもない…

 

 我々には「エイヒレ」という名前の方が分かりやすいので、以下エイヒレという表現で書かせていただきます。「エイヒレ」は、白身ではあるのですが、ふるふるっという身質に加え、少しぷるっとしているのが特徴でしょう。カレイやヒラメでいうエンガワのようなものであり、それが大きく肉厚である。そして、ヒレを支える軟骨も、コリコリと口中を楽しませてくれます。ぷるっということは、そう、「コラーゲン」がたっぷりです。

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 このエイヒレを、フランスの伝統料理でありながら、ビストロ料理として確固たる地位を確立している、「グルノーブル」というスタイルに仕上げます。ココットの中にたっぷりのバターを加え、ゆっくりと溶かしてゆきます。ふつふつと泡立つのと同時に、バター特有の甘い香りが立ちのぼる。そこへ、丁寧に下ごしらえを施したエイヒレを入れる。ジュワジュワッと心地良い音がココットから漏れ出で、香りにも磯の雰囲気が加わったようだ。熱々のバターを、スプーンを使ってエイヒレの上から幾度となくふりかける。ココットにスプーンが当たるカシャカシャという音の後に、ピチピチッとバターの気泡が弾け、香ばしい香りが周囲に漂い始めます。

 

 エイヒレにしっとりと熱が入った後に、その旨味が加わったバターの中へケッパーとレモン、そしてクルトンを加えます。香ばしいバターの風味に、ケッパーの旨味とレモンの心地よい酸味が加わり、その美味しいソースがカリカリのクルトンに染み入る。こ

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れをエイヒレにまとわせるようにして完成。これぞ、グルノーブル料理なり。

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Aile de RAIE à la grenobloise, épinards juste tombés

フランス産エイヒレのムニエル グルノーブル ほうれん草

※プリ・フィックスメニューの主菜として、ランチ+1,500円/ディナー+1,000円でお選びいただけます。

 

≪季節のお話 立秋があるからかこそ気になる一首」≫

 「涼しさ」というものを、体感的に感じるのか、実際の気温で感じるのか。冒頭で勝手な持論を書いてみましたが、なかなかに説得力があるのではないでしょうか。そうすると、同じ「涼しさ」という言葉でも、思い浮かぶ風景は少しばかり変わってきます。こう考えながら、藤原季経(すえつね)の一首を詠(なが)めてみると…つい気になってしまいます。季経が詠(うた)ったのは、「立秋」の前?それとも後?

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≪エイヒレグルノーブルの出会いについて考えてみました…≫

 フランスのビストロ料理として欠かせない「エイヒレのムニエル」。我々日本人には馴染みのない食材である「エイ」、それがグルノーブルという調理スタイルで仕上げた逸品は、美味しいからなのでしょう、今なお多くの人々に愛され続けられている料理です。そもそも、グルノーブルとは何を意味しているのでしょう。そして、どうしてエイなのでしょう。皆様、気になりませんか?

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≪特選食材「六条大麦」を使ったお勧め料理のご紹介です!≫

 六条大麦の国内シェア約3割を有し、堂々たる全国1位の生産量を誇るのが福井県。6月初旬に麦秋を迎えた「六条大麦」がBenoitに届いています!さあ、この栄養価満点に旬の食材を、Benoitではどのような料理に姿を変えるのでしょうか?

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≪初秋特別プランのご案内です。≫

 気がつけば、蝉の諸声(もろごえ)が止んでいる…

 コロナウイルス災禍が猛威を振るう中でも、季節は巡り去ってゆく。蝉は我々に秋の到来を教えてくれた気がします。そして、季節と同じように、旬と呼ばれる季節の食材も巡り去ってゆきます。彼らに「待つ」という優しはありません。そこで、この機を逃してはならないとの思いから、「初秋」と銘打った特別プランと、個室貸切プランをご案内させていただきます。

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≪季節のお話 「言の葉はあはれおよばぬ撫子の花」≫

 平安時代の美的理念を表現する言葉に、風情がある、趣きがある、美しい、というような意味の「をかし」というものがあります。清少納言は、随筆「枕草子」の中でこの「をかし」をランク付けするように紹介していいます。その中で、「草の花は撫子(なでしこ)」と彼女は書き遺しました。

 自分の「言の葉もあはれおよばぬ」ものですが、知っているようで知らないナデシコの花をご紹介させていただきます。

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≪晩生のピーチ・メルバを楽しまずして、9月は終われません!≫

 晩生(おくて)の桃を使ったデザート「ペッシュ・メルバ(ピーチ・メルバ)2021」をご案内せずして、自分は10月を迎えることはできません。そうなのです、皆様!このデザートの美味しさを楽しまずして、9月を終えることはできません。

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≪ピーチ・メルバ2021の全貌を公開!≫

 どれほど美味しいのかお伝えることはできませんが、どうしても皆様に2021年版ピーチ・メルバをお勧めしたく、自分の持ちうる言の葉を使い、それぞれのどのような「葉(パーツ)」であるのかを説明させていだきます。皆様には、それぞれの「葉(パーツ)」を知っていただき、どのような「樹(デザート)」であるかをご想像いただけると幸いです。

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岐阜県の飛騨もも「亀山果樹園」のご紹介です。≫

 今回の訪問先は、高山市の南に位置している久々野町に居を構える「亀山果樹園」さんです。標高750mの高冷地の大自然の中に2.5haの園地を有し、今は二代目園主の亀山忠志さんが陣頭指揮を執っています。甘く香り高い高品質の果実を皆様へお届けすべく、研鑽に励む日々。どのような果樹園なのか、少しばかり岐阜県を観光するようにご紹介させていただきます。

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北平のBenoit不在の日

 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない9月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。緊急事態宣言如何によって変更の可能がございます。ご不便をおかけいたしますが、ご容赦のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com