kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoitシャンパーニュパーティ「THIÉNOT(ティエノ)」のご案内です。

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 世界一の収量を誇る果物は、「ブドウ」です。もちろん、生食と加工用を含めてです。世界規模で栽培されているだけに、その歴史は深く、紀元前3000年前には、黒海カスピ海沿岸ではすでに栽培化が成されていたといいます。文明の伝播が、そのままブドウ栽培地という様相を見せる中で、ローマ帝国時代に加速度的に版図を広げたのだといいます。彼の帝国が崩壊すると、ブドウ栽培の伝道者としての役割を担ったのが「修道士」でした。

 キリスト教を布教する目的で、イタリアからフランスへ、プロヴァンス地方を境に、さらに北へ西へと向かっていきました。その際に、拠点となる教会を中心に町を造り上げ、周囲には神聖なる「ワイン」を醸すために葡萄を植え付けていきます。しかし、肥沃な土地は葡萄など植えることなく作物を育て、民に食を提供しなくてはなりません。自給自足のできる農業国フランスとはいえ、昔々はまだまだ未開の地。生きるための糧こそ、まず先に確保しなければなりません。嗜好品のワインは「二の次」だったはずです。そこで、他の作物に比べ屈強な葡萄は、斜面や他の農作物が育たないような不毛の地に植えられることになりました。これが、今のワイン産地の礎を築くことになります。

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 過酷な環境でこそ高品質の葡萄が育つとは、今でこそ周知の事実です。かつては、生きるために必要不可欠な食料を確保しなければならない、その糧が育てられない「不毛な地だからこそブドウしか植栽できなかった」。斜面や地盤の緩い危険な地もあったことでしょう、過酷な環境の中で開拓を進めていったのです。彼らは、試行錯誤を繰り返すも、情報が無い中で多くの生死を分かつ失敗もあったことでしょう。そして、確たる情報もない中で、土壌ごとに適した品種を選び植えつける。先人たちの苦悩と苦労は計り知れません。フランス中央のブルゴーニュ地方を過ぎ、さらに北へ北へと向かった修道士達が行き着いた地は、冷害と紙一重の厳しい自然環境もった地、フランス最北の地、シャンパーニュ地方です。

 

 パリから東へ東へと向かった先、Grand Est(グラン・エスト)地域圏のMarne(マルヌ)県の主要都市がReims(ランス)は、パリからは約130kmの距離に位置しています。歴代フランス国王が戴冠式を行ったノートルダム寺院がある観光地でありながら、シャンパーニュ醸造の一大都市。この地で1985年に誕生したシャンパーニュ・メゾンが「THIÉNOT (ティエノ)」です。量より品質を、保守主義よりも創造性を重んじながら、偉大なメゾンの中でその地位を築き上げました。他のシャンパーニュ・メゾンと比べると、歴史は浅いですが、2013年2014年と2年連続でのアカデミー賞の公式シャンパーニュに選ばれていることは、世界が認めた証ともいえます。

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 創業者であるAlain THIÉNOT(アラン・ティエノ)氏は、若かりし頃の銀行員の経験を生かし、Courtirt(クルティエ)と呼ばれる、ワインの仲買人へと転身。クルティエとは、ワインを買い付けバイヤーのこと。しかし、ただ単に右から左へと流通させるという単純なものではありません。ワインに対する知識だけではなく、時の経過が熟成の美味しさを生み出すかどうかの鑑定眼も必要になります。さらに、ワインが農産物であるがゆえに、原料となるブドウの収量の大小や品質の良し悪しも見極めなければなりません。これほどの専門性を要求され、職人気質のブドウ栽培者や醸造家の「閉鎖的な世界」は、素人が簡単に入り込めるものではありません。そう、銀行家としての人脈が生かされていたのです。

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 彼のクルティエとしての経験は20年近くに及びます。この間に、それぞれのクリュの最大限の表現を絶えず求めて、丘陵地帯のぶどう畑をくまなく歩きながらその知識を深めていました。彼の知識と、弛まぬ努力に裏打ちされた経験は、多くのバイヤーから厚い信頼を得ることになり、他のクルティエの中でも群を抜いていたといいます。そこに着目したある有名シャンパーニュ・メゾンから、「希少で質の高いブドウだけを手に入れて欲しい」と依頼が入ったのです。この仕事がもたらしたものは、報酬という金銭面だけではなく、「自らのシャンパーニュ・メゾンを立ち上げたい」という野望だったのです。多くの人には「夢」で終わるこの夢物語ですが、銀行時代の資金調達のノウハウと人脈、クルティエ時代に培われたブドウとワインへの造詣の深さと鋭い審美眼、さらにはブドウ栽培者との信頼が、夢では終わらせませんでした。

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 新進気鋭の創業者であるアラン・ティエノ氏が、一線から退き、次なるステップへ向かうことに。そして今は、彼よりワインの知識と醸造の秘訣を、いやシャンパーニュへの心意気を引継いだ、長男のStanislas(スタニスラス)氏と、長女のGarance(ガランス)氏によって切り盛りされている、まさに家族経営のシャンパーニュ・メゾンです。受け継いだ理念と際立つスタイルは、独自の風格をまとい、保守的ではない常に新しい独創性を求める現代的なスタイルへと昇華しているのです。家族皆が、美味なるシャンパーニュを醸すという同じ目的を持ちながら、各々がお追い求める至高の作品には違いが表れるものです。それが、それぞれの名を冠したシャンパーニュを生み出すことになったのです。そして、アーティスト「スピーディ・グラフィット」とコラボレーションしたマグナムボトルは、そのデザイン性から、大きい反響を呼びました。

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 今回は、初来日となるガランス氏をBenoitへお迎えし、豪華なシャンパーニュディナーを開催いたします。ラインナップには、デザインの異なる 1st と 2nd の「スピーディ・グラフィット」を。さらに、各々の名を冠したファミリーシャンパーニュが登場いたします。Benoitのシェフソムリエ永田とシェフのセバスチャンが協議の末に組み立てた料理の数々は、皆様に忘れえぬマリアージュを体感いただくことになるでしょう。「口福な食時」のひとときをお約束いたします。

 

Benoitシャンパーニュディナー THIÉNOT (ティエノ)

日時:2019530()  18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代サービス料込・税別)

※Benoit恒例のワイワイ相席スタイルです。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。席数に限りがございます。ご予約はこのメールへの返信、もしくはBenoit(03-6419-4181)にご連絡いただけると幸いです。

 

ラインナップは合計6アイテム

NV  SPEEDY 1st Edition  Magnum

NV  SPEEDY 2nd Edition  Magnum

2008  Millesimé

2007  Cuvée Stanislas  Blanc de Blanc

2008  Cuvée Garance  Blanc de Noirs

2007  Cuvée Alain Thiénot

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 有史以前から存在していたであろうワイン。収穫したブドウを、保管しようと器の中に入れることで、果実が圧し潰される、すると、果皮に付着している天然酵母が発酵を行うたうため、人類が最初に口にしたアルコール飲料ではないかと言われています。ブドウは液果に分類されるほど果汁に富んでいます。そのほとんどが水で数%の成分の違いが、ワインの品質に左右するというのです。ワインの造り手は、飽くなき探求心と弛まぬ努力を、この数%の僅かな違いに、まさに心血を注いできたのです。どんなに醸造技術が発達したとしても、最高のブドウ果実を無くして最高のワインは生まれません。5の能力のブドウから10のワインは、魔法でもかけない限り醸せません。例外はありますが、何も加えずに造られるワインだからこそ、素材そのものが重要なのです。さらに、10の能力のブドウから5のワインが生まれることは往々にしてあること。そのため、ヴィンテージが云々、造り手が云々と語られる所以はここにあるのです。

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 テロワールを重んじ、自然との紙一重の攻防を繰り広げ、妥協のない手間暇をかけて見事なまでの果実を育て上げ、さらに厳しい選別を乗り越えた高品質のブドウが、彼女の手の下でどのような変貌をとげたのか。彼女はどのような想いをシャンパーニュに込めたのか。ワインを通して、さらに彼女の話の中に見出すことの楽しみをお届けしたいと思います。それぞれのシャンパーニュは、何を我々に語るのか?料理とのマリアージュが、お互いの美味しさをどれほど引き立たせるのか?アラン氏より受け継がれた弛むことのない努力と飽くなき探求心を、経験に裏打ちされた匠の技と感を、そして揺るがぬ自信と誇りを、このパーティーを通して美酒に酔いしれながら実感してみませんか。5月30日は最高の出会いをお約束いたします。

 

 さて、「夏も近づく♪八十八夜~♪」の茶摘みの歌は、春の輝かんばかりの美しい緑に染まった茶畑を見ると、ついつい口ずさんでしまうものです。新茶の美味しさは言うに及ばず、この日に摘んだお茶を飲むと長生きするという、なにやらお祝い事のような日なのですが、ここには古人からの注意喚起のメッセージが込められていました。

 中国から伝わった「二十四節気(にじゅうしせっき)」、中国生まれながら日本風にアレンジされた「七十二侯(しちじゅうにこう)」、これらとは別に、日本の気候風土の下で生まれたのが「雑節(ざっせつ)」です。前述した「彼岸(ひがん)」も、なんとなく仏教の色濃くインドから伝わったかのようですが、実は日本独自の考え方、そう雑節です。そして、立春から数えて88日目の日、2018年は5月2日、この日が雑節の「八十八夜」です。さらに、「八十八夜の別れ霜」「八十八夜の泣き霜」といい、農を生業にする者のとっては気をつけなければならない日。暖かくなったからといって、まだまだ遅霜には気をつけなけなさい、と日本独特の雑節を作り、注意を喚起したのです。なんという先人達の知恵なのでしょうか。

 ワインを作るのに不可欠なものがブドウ。厳冬を乗り越え、休眠していた樹が目覚め涙する。ほっこりと芽吹き、可憐な花を咲かし小さな緑色の実を成す。葉は緑美しく太陽の恩恵を受けようと広く大きく成長し、夏場の陽射しを十二分に浴びる。白ブドウは透明感のある黄金色に、黒ブドウは色濃く美しいルビーの色あいに、これぞ完熟の証。1年の弛まない努力の成果が秋に収穫という形で訪れます。そのブドウ栽培が、どれほどの苦労と労力を費やし、天候に左右されることか。

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 霜害はその年の収量・品質に多大な影響を及ぼす一要因、皆が避けたい天災です。しかし、その過酷な環境でこそ高品質のブドウが育つのも事実です。凍(い)てつく冬は大地を凍らし、土の中に増殖した悪玉菌類を浄化する役割を担います。それゆえ、北へ北へと向かうことに。フランスが農業国であることは周知の事実ですが、比較的北に位置しているフランスの自然環境は、そこまで人々の生活を温かく包み込んだわけではありません。農作物に適した地には、もちろん野菜や穀物を植えていたはずです。そして、斜面や水はけのよすぎる地、農作物が育たないような不毛の地を選び、他の作物に比べ屈強な葡萄を植えつけていました。

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 フランスに限ってみてみると、南の地よりも北の地の方が植えつかれているブドウ品種数が少ないと思いませんか。「品種を選び」と書きましたが、昔は今のような品種の知識はなかったはずです。南より修道士が持ち込んだブドウの品種は、今でいう多種にわたっていたはずです。それを植栽するも、厳しい環境に適応できずに枯死するこで淘汰されていきます。生き残った中から、さらに優良株を選別し植え付けていったはずです。結果的に、それが同じ品種であり、「それぞれの地に適応した品種」という形で今なお残っているのです。南に比べ北に向かうほど品種が少なくなる理由は、このあたりに理由があるのかもしれません。

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 凍えるような寒さの中でも、冬芽はプロテクターに守られているため何も問題はありません。しかし、冬芽が膨らみ、前年の秋に蓄えた栄養を解放するかのように萌芽する頃から、新梢がぐんぐん成長し、奥の葉が開く中に花の蕾が姿を現す頃まで。葡萄の産地は寒冷地が多いので、4月半ばほどから5月いっぱい。この時に霜が降りるとどうなるのか。霜焼けをおこし、芽が葉が、そして蕾が枯死します。葡萄は、「前年の芽」が伸びた「新梢(しんしょう)」に実を成します。前年の芽や新梢を無くしたことで有り余る樹のエネルギーが、新たな芽を生み出し成長しますが、この枝は実を成しません。つまり、「前年の芽」が枯死することは、その年の収穫が激減、もしくは見込めないことを意味します。農を生業としている者にとっては死活問題なのです。

 あがうことのできない天災ではありますが、霜害を少しでも減らそうと、天気予報に一喜一憂し知恵をめぐらす。何も葡萄に限ることではありません。野菜や果実、もちろんお茶も。気づかないところでの並々ならぬ苦労と苦悩は計り知れません。全ては美味しい産物を実らせるために。過去に天の辛酸を舐めた古人が、後世の助けにと遺した言葉の一つが、「八十八夜」です。深い言葉ではないですか。

 食べなければ生きてはいけな。誰かが育て作らなければ食物を食べることができません。「いただきます」と「ごちそうさま」に込められた感謝の気持ち。これがために人々は頑張れるのかもしれません。

 

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますが、皆様のご多幸とご健康を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特別プラン「四月尽」のご案内です。

 春の陽気に誘われるかのように花開いた「桜」も、すでに葉桜へ。春を代表する桜の開花は、我々に田を耕す「田打ち」のタイミングを教えてくれます。東北では、桜の開花が遅いためコブシの花を基準にしていたようで、その名残が「田打ち桜」という栄冠を手に入れています。稲作では、田打ちが仕事始め。日本では4月に入学式などの「新たな旅立ち」を迎えるのは、このあたりに理由があるのでしょうか。それとも、厳しい冬を乗り切り、美しく花開く桜に魅了されるも、その花期の短さにある種の「潔さ」に感じ入る日本人の感性なのでしょうか。はたまた、萌芽し花開くも、すぐに花散り葉が生い茂る。短い期間に移り行く桜の姿に、出会いと別れを見いだしたからなのでしょうか。 

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さくら色に 衣はふかく 染めて着む 花の散りなむ のちの形見に  紀有朋(ありとも) 古今和歌集より

 「 惜花(せきか)」の想いは、今も昔も変わることはありません。それが、開花を待ち望んだ桜であればなおのこと。散るを惜しむがあまりに、桜色を染め込んだ着衣を、さらにはお化粧に桜色を取り入れるのも、この時期ならではのこと。古人も観桜の際に、花散ってからも思い出として脳裏に焼き付けんばかりに、桜色の衣を身につけることが風流だったのだといいます。江戸時代には、頬がぽっと色付くような桜色で染める、「うっきり」というお化粧がありました。彼の時代はおしろいを使うも紙で抑えることで化粧をしていないような素肌を演出し、「紅花(べにばな)」で頬を染めていました。血色良く見え艶やかな「うっきり」を演出するのが「桜色」であり、下の画像の色合いです。

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 ところが、古今和歌集の編纂された平安時代は、少し色合いが違っていたようなのです。今の「桜色」であれば、「衣に深く染める」という表現に違和感を覚えます。染料を生地に一回染め込むことが「一入(ひとしお)」であれば、桜色は深く染め込む「八入(やしお)」ではないか。では、紀有朋が詠う「深く染めた着物」は、いったい「どのような色」だったのでしょうか。染織を生業とする人が継承してきた伝統色、八入の「さくら色」は、今の桜色とは別の色合いのようです。

 桜は桜でも、「染井吉野(ソメイヨシノ)」ではなく、「山桜(ヤマザクラ)」の若葉の色なのだと。若葉だからといって「透けるようで、やわらかい緑色」ではありません。百聞は一見に如かず、ご覧ください。

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 決して枯れているわけではなく、これが「山桜の若葉」であり、紅葉といえば紅葉ですが、この色から美しい深緑へと色変わりしてゆきます。これが山桜の「葉萌ゆる色」であり、この色を染織したものを身につけ、桜の花を愛でることが風雅の慣わしであったのだといいます。花散りし後に、咲き誇る姿を思い起こさせてくれるようにと、さくら色の染めた衣をまとう。その姿で観桜することは、花の姿を脳裏に焼き付けると同時に、八入に染められたさくら色の着衣に、桜の姿を憑依させるかのように。そして惜花を偲びながら、初夏を迎える準備をする。まるで四季の色彩の機微を、自然に習いながら楽しんでいるかのようです。

 今、Benoitで皆様にお勧めしている「千葉県勝山漁港直送“桜鯛”とホワイトアスパラガス」の逸品。画像に見る「二十日大根」を、お皿の上に花咲く桜色の花と見るか?それとも、山桜のように白い花咲く中に萌える若葉と見るか?Benoitシェフ、セバスチャンが、知ってか知らずか、なかなか趣き深いことを我々に問うてきています。

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 「桜色」もしくは「さくら色」を身にまとい、Benoitで夜桜(ディナーの桜鯛)を鑑賞(ご賞味)いただくというのも一興なのではないか。そこで、皆様には、特別プライスの「4月尽(しがつじん)特別プラン」をご案内させていただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、430日までです。各コース料理の内容は、プリ・フィックスメニューからお選びいただけます。ご予約人数が8名様を超える場合は、ご相談させてください。

 

4月尽特別プラン≫

ディナー

前菜x2+メインディッシュ+デザート

7,100円→6,100円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+デザートx2

夢のダブルデザート→6,100円(税サ別)

※ご予約は、電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 

 今回の桜鯛の逸品は、+1,200円の追加料金でお選びいただけます。それ以外にも、春に旬を迎えている逸品をそろえております。今月で終わりを迎えるものもございます。特選食材とお勧めの逸品の詳細をご紹介する「4月のダイジェスト版」は、「はてなブログ」に掲載いたしました。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。27日28日以外は、自慢の料理の数々を、自分が皆様に大いに語らせていただきます。

kitahira.hatenablog.com

 

 この時期になるとよく質問をいただくのが、自分が座右の銘としている、「観梅の心、観桜の目」の意味です。正直にいうと正確な意味は分かっていません。この名文との出会いは7年ほど前のことでした。どの本の中だったかも思い出せません。歳時記を長文レポートの題材としていることもあり、意味深で気になるものの、そのまま放置されたまま月日は流れ、再度出会うことになったのが5年前の某新聞のコラムでしたの中。運命を感じ、調べてみたものの、はっきりとは分からず、こうなれば自分で解釈してみようという結論にいたったのです。

 梅と桜とは春を代表する花であることは、周知の事実。白梅、紅梅とありますが、やはり主役は白。桜に関しても、白から淡い紅色まで、さらには黄色に緑と多種多様にわたりますが、やはり桜は淡い白です。花びらに違いはありますが、色や一見の姿は似た者同士。「花」といえば、万葉の時代は「梅」を指し、以降は「桜」を意味します。どちらも時代時代を反映する春の代表花。まだ日本固有の仮名文字(ひらがな)の無かった万葉の時代。中国から伝わってきた漢字が書き言葉です。舶来へのあこがれからでしょうか、中国から伝わってきたのが「梅」です。対する「桜」は日本固有の品種、一時は「花」の地位を梅に奪われるも、今では確固たる地位を確立しています。

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 さて、本題です。この画像は白梅の花です。2月のまだまだ寒い頃より、春の訪れを告げるかのように、ぽつりぽつりと花開いていくため、比較的長い期間を楽しめます。まだ冬枯れの閑散とした景色の中で、おだやかな春風に香りを漂わせながら、順を追って花開く姿に、何か奥ゆかしさを感じます。ただ舶来もの、それだけではない魅力があります。

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 そして、 桜の花は、咲き始めると一気に満開へ。その姿に圧巻するも、見ごたえのある期間は1週間ほど。一輪一論の花は決して長く花開いていることはなく、3~4日にて花の生涯を閉じることになります。春の陽気に誘われるかのように多くの花が咲き誇る時期にあり、桜の満開の姿は他を圧倒しています。古の時代、今のように食が豊かではありませんでした。しかし、美味しく食せる実を成さない桜がもてはやされたことの理由は、満開の姿が言葉にならないほどの美しさを誇るからではないでしょうか。

 「梅」は一輪一輪時間をかけながら咲き続けます。顔を近づけながら香りや花の姿を愛でるように。「桜」は近くで鑑賞するもよし、ですが、遠めに眺める満開に咲き誇る姿にこそ、得も言えぬ美しさがあります。ということは、「観梅の心」は「小さなことも見逃さずない、細やかな心遣い」を、「観桜の目」は「大局を見誤らない、時世を見極めの目」のことを意味しているのだと。

 人と人との助け合いで成り立つ社会における処世術を、我々に教えてくれている気がいたします。特に自分のように接客を生業にしている者にとっては、各テーブルのお客様お一人お一人の所作や言葉から、その機微を捉え最善を尽くさねばなりません。さらに、日ごと月ごとに変わる食材、それによって仕上げられる料理の数々。そこへ、レストランの雰囲気が加わることで、料理が輝きをまといます。飽くなき探求心と、目先の欲に囚われずに時世を読み解くことで、魅力あるBenoitが姿を見せるのです。前者が「観梅の心」であれば、後者は「観桜の目」。これを身につけなければならない。そこで、自分の座右の銘としたのです。勝手な解釈ではありますが、なかなかに説得力があるのではないでしょうか。

 毎年、梅を見、桜を見ることで、再認識させられ忘れることない座右の銘です。こう考えると、やはり身を引き締め、事始めとする新年度を4月とするのは、自分にはちょうど良いタイミングなのかもしれません。

 

 古代中国を発祥とする二十四節気では、四季の始まりを「立春」「立夏」「立秋」「立冬」と記しています。このそれぞれの日を迎えるまでの18日間の「季節の移り変わる期間」が「土用」です。「土用」は「土旺」とも書き、大地の勢いが旺盛になる時というのです。そのため、土をいじくるような、地鎮祭上棟式なイベントは行わず、さらに昔の土葬なども避けていたようです。農耕民族らしい、大地への畏敬の表れでもあるようです。土用は、変化に伴う強大なエネルギーに満ち。大地は、人が太刀打ちできないほどの自然の力を備えている期間。何やら新興宗教のような話になってきていますが、土用の期間というのは「季節の変わり目」であり、とかく寒暖・乾湿が大きく、不安定な天気が続きます。ここで無理をすると、大病を患いますよ、という先人たちからの我々へのメッセージなのでしょう。我々は農耕民族ですから、土をいじくるなということは、「無理に農作業をしないで、体を休めなさい」ということに。

 同じ中国で誕生した「五行説」では、1年は春夏秋冬の「四季」に、季節の変わり目である「土用」が加わり、5つに分けられ、それぞれに色があてがわれています。暑さの盛りでもある「夏は赤」、寒さ厳しい「冬は黒」。待望の実りの時期であり、紅葉・黄葉と彩り豊かですが「秋は白」。若葉青々しいというように、かつては緑も青に含まれていましたので、「春は青」。ちなみに「青春」はここから誕生したようです。では、土用は何色なのか?寒暖乾湿の差が激しい季節の移り変わる時期は、健康管理に注意しなさいよとの警告でしょうか、「土用は黄」です。

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 ここは先人たちのアドバイスに従い、「働き方改革」も施行されたことですし、十分な休養と睡眠を意識してみてはいかがでしょうか。そして、「美しい(令)」季節に春食材が「和」する逸品は、令和元年にこそふさわしい。そこで、皆様に旬の食材に出会い、食することで無事息災に春を過ごしていただきたい。旬を迎える食材を旬の食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできていいます。さあ、Benoitへ。皆様を「口福な食時」なひとときへとご案内いたします。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなく返信ください。いつも温かいお心遣い本当にありがとうございます。再会を心待ちにしております。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoitミュージックディナー「三味線 ≪史佳 Fumiyoshi≫のご案内です。」

春風の のどかにふけば 青柳の 枝もひとつに あそぶいとゆふ  寂蓮(じゃくれん)

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 柳の花が咲き終わり、若葉が萌えている「青柳」。枝一つ一つが糸すだれのようであり、春風にあおられることで、もつれあう。「いとゆふ」は漢字で「糸遊」と書きます。春風にあおられる柳のしなやかな枝一本一本が、まるで風と遊んでいるかのようであり、まさにこれこそ「糸遊」なのだと我々に伝えているのでしょうか。

 「糸遊」とは、春晴れの日に蜘蛛の子が自らの糸を風に流し、それに乗じて空を飛びながら移動する光景のことをいうようです。蜘蛛の糸が、陽射しの加減で見え隠れする様から、「陽炎(かげろう)」とも。陽によって熱せられた地より立ち上る温かな空気は、冷えた空気との密度にムラが生じることで、そこを通過する光が不規則に屈折し、その先の光景がゆらゆらと歪んで見える。この光学的現象が「陽炎」です。

 さらに、「陽炎」はトンボに似ている(トンボとは別種)「蜉蝣(かげろう)」へ通ずるのです。ゆらゆらと空を飛ぶ姿が陽炎のようだからなのでしょうか。それとも、あるかないかもわからない不可思議な「陽炎」と、成虫になるも、その日の晩を待たずに一生を終える「蜉蝣」の「はかなさ」に共通点を見出したからなのか、もちろん自分に知る由はありません。

 「いとゆふ」という4文字が、調べるほどに深みを帯びてきます。「青柳の枝が遊ぶ糸遊」、あえて漢字で表記しないところに、歌心があるのでしょう。著名な研究者が分析することで、他を異端として排除するのではなく、自分のように読むままに感じ入ることこそ、古き良き歌を理解するには良い気がいたします。今も四季それぞれに美しい姿を見せてくれる中に、古人の想い描いた情景をあてはめる、各々の感じ入るままに楽しむこと。これが31文字に込めた、古人からのメッセージなのではないでしょうか。

 

 今回、皆様にご紹介したいイベントは、Benoitの「糸遊」です。「蜘蛛の糸」でも、「陽炎」でも「蜉蝣」でもありません。絹糸が紡がれ「弦」となり、それが弾かれ音を成す。それが、遊ぶかのように旋律を奏でる時、音に色を帯び人々を魅了します。この音色というのは形を成さないため、確かに陽炎のようなものかもしれません。はかなく消えゆく音色なれど、まやかしや幻想ではなく、しっかりと我々の心に響いてきます。文字ではなく、音色に込める奏者の想いに共感を覚え、人世になぞり、笑みをこぼすか涙するか、受け取る人の感じ様は十人十色。音色はデータ化することで色彩を失い、単色へ。なぜ、コンサート会場へ足を運ぶのか?データ化できない、生き生きとした色彩の深さや移ろいの「音色」を感じ取りにゆくのでしょう。

 2019年、Benoitの初音(はつね)は、三味線の音色から始まります。音を聞き、奏者の想いを込めた音で応える弾き三味線。史佳さん「糸遊」の音色を皆様にお楽しみいただこうと思います。

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Benoitミュージックディナー 「~際会(さいかい) 三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

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 津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。それがためなのか、初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生しました。なぜ?新潟県に。自分なりに解釈した理由を書いてみました。お時間のあるときに以下よりご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 今は二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー「史佳 Fimiyoshi」さん。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まっています。その前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。今回のメンバーをご覧いただければ納得いただけるのではないでしょうか。

 

三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi

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 ふるさと新潟に拠点を置き、三味線プレイヤーとして国内外で演奏活動・講演活動を行っている。音の響きを大切にする“弾き三味線”奏法を得意とし、津軽三味線のスタンダード曲はもちろんのこと、近年は作曲家/アレンジャーの長岡成貢氏とともに新しい三味線の楽曲作りにも取組んでおり、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しいニッポンの音楽を目指して活動している。

 1974年新潟市生まれ。9歳より津軽三味線の師匠であり母でもある高橋竹育より三味線を習い始める。 2000年よりプロ活動をスタートし、新潟を拠点に国内外で演奏活動を行っている。ホールコンサートの他、国指定重要文化財等の日本建築等でも演奏会活動を行っており、2011年にはルーブル美術館にて日本人として初めて演奏を披露。 2001年に1stアルバム「新風」を高橋竹秀の名で、2003年には本名である小林史佳としてオリジナル曲を含む2ndアルバム「ROOTS TABIBITO」をリリース。 2006年リリースの3rdアルバム「Ballade」では弦楽四重奏との融合にも取り組み、三味線の楽器としての新たな可能性も追求している。 2010年には津軽三味線の名人・初代高橋竹山とかつて共に全国を廻った、民謡の生きる伝説・初代須藤雲栄師とのライブを収録した4thアルバム「風の風伝」(かぜのことづて)、2012年にはそれに続く5thアルバム「続 風の風伝」を“fontec” レーベルよりリリース。同年よりアーティストネームを“史佳Fumiyoshi”と改め、故郷新潟をテーマにしたオリジナル曲「桃花鳥-toki-」を発表。 2013年には自主レーベル“penetrate”を立ち上げ、全曲オリジナル楽曲のアルバム「宇宙と大地の詩」をリリース。2015年2月には、通算7枚目となるニューアルバム「糸際 ITOGIWA」を“fontec” レーベルよりリリース。初代高橋竹山津軽三味線の継承者として挑んだ、奥深いアルバムとなっている。

 2016年1月1日に、三味線ユニット「Three Line Beat(スリーラインビート)」を結成。幅広い年齢層からファンを獲得しており、そのライブパフォーマンスで観客を魅了する。

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 津軽三味線瞬間芸術という領域に昇華させる独自の世界観を持つ、初代高橋竹山津軽三味線正統継承者。2011年フランスパリのルーヴル美術館にて、日本人として初めて演奏を披露し、現地の聴衆から「ブラボー」の大歓声が上がったといいます。さらに、2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決定しており、世界席巻するであろう、新進気鋭の三味線プレイヤーです。

 

和田啓 ~レク~

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 幼少の頃から学んだ江戸里神楽をもとに独自の世界を表現するアジア系ハンドドラム奏者であり、作曲家、演出家。タンバリンの原型とも言われるアラブの打楽器「レク」をエジプト・カイロにてハニー・ベダール氏に師事。海外での演奏活動も多く、主なものには、95年能楽と民族楽器とによるヨーロッパ5カ国公演、96年奄美島唄とのジョイントグループ「天海」でのキューバ公演、2002年大津純子(バイオリン)オセアニアツアーに参加、佐藤允彦氏(ピアノ)と共にベトナム、オーストラリアなどで公演を行う。2005年ルーマニアポルトガルより招聘を受け国際交流基金助成事業としてRabiSari欧州コンサートツアー、2006年国際交流基金派遣事業として常味裕司氏と共にエジプト・アラブ音楽院でのエジプト音楽家との共演による古典音楽コンサートをともに成功させた。2009年ノース・シー・ジャズフェスティバルに佐藤允彦氏率いる「Saifa(サイファ)」のメンバーとして出演。2010年レバノンベイルートUNESCOホールにて常味裕司氏と演奏。

 1997年に、バリ仮面舞踊家たる小谷野哲郎とともに仮面舞踊劇団「ポタラカ」を結成、作演出を手掛ける。毎月一本の新作を書き下ろし、ライブハウスで約2年間上演していた。1999年江戸東京博物館にて「冥途の飛脚」(近松門左衛門作}の上演をきっかっけに「南洋神楽プロジェクト」として再編成し、中野シアターポケットなどで定期公演を重ねる。2001年にはジャワ島・バリ島のアーティストらと日本人による「真夏の夜の夢」をバリアートフェスティバルにて上演、好評を博す。

 作曲家としても数多くの演劇・映画音楽を手掛けており、2015年以降の主な作品は,、2015年「新・復活」(劇団キンダースペース、原作/トルストイ、脚本演出/原田一樹)、16年「静寂の響き」(船橋文化創造館きらら主催事業)。さらに演出作品が多数あるほか、2009年度より船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザーも務めている。

 

吉野弘 コントラバス

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 1975年に東京藝術大学音楽学部器楽科(コントラバス専攻)に入学、江口朝彦氏に師事。1980年、坂田明(sax)トリオに参加、以後、富樫雅彦加古隆山下洋輔板橋文夫塩谷哲など数多くのグループに参加する。 また現代音楽の分野での活動も活発で、故・武満徹プロデュースの" MUSIC TODAY "や「八ヶ岳高原音楽祭」に参加、2006年の東京オペラシティでの"SOUL TAKEMITSU"にも出演した。また2009年には間宮芳生書き下ろしの新作オペラ「ポポイ」、2011年には「間宮芳生の仕事」コンサートにも出演する。

 現在は、ベース・ソロと『彼岸の此岸』(太田恵資violin,鬼怒無月guitar,吉見征樹tabla)、『環太平洋トリオNEO』(津嘉山梢piano, 大村 亘drums &tabla)を活動の中心にしながら、大ベテランの中牟礼貞則guitarや渋谷毅pianoとのデュオも行なっている。 また下北沢レディージェーンでの作家の山田詠美奥泉光との " 朗読と音楽 "のセッション(太田恵資violin,小山彰太drums)は、毎回熱心なファンの待望するところとなっている。リーダー作品に「泣いたら湖/吉野弘志・モンゴロイダーズ」(2002年/ohrai)と、ベース・ソロアルバム「on Bass」(2004年/ rinsen music)、「吉野弘志 彼岸の此岸/Feeling the Other Side」(2013年/AKETAS DISK)が有る。

 

庄司愛 ~バイオリン~≫

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 桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業。演奏活動を行うほか、新潟市ジュニアオーケストラ教室、桐朋学園大学附属「子どものための音楽教室」、新潟中央高校等で後進の育成にも力を注いでいる。これまでに山宮あや子、奥村和雄、辰巳明子の各氏に師事。「トリオ・ベルガルモ」メンバー。

 

際会(さいかい)

~ 出会うこと。優れた人物などにめぐり合うこと。~

 「際会」の「際(さい)」には「きわ」という読みもあり、「境界」や「~のあいだ」、さらには「ある情況生まれる時期」という意味が込められています。球技においてよく使われる「球際(たまぎわ)」の良し悪しは、野球でもサッカーでも、ボールとの絶妙なる距離が生み出す「際」に求められる処理能力の良し悪しのこと。一流の選手になればなるほど、「際」が小さく、さらにどのような球種でも対応できる高度の技術をもっているものです。

糸際(いとぎわ)

 史佳Fumiyoshiさん自身が造った言葉です。三味線は、撥(ばち)を扱う右手と弦をはじく左手のコンビネーションで音を奏でていく楽器だと、彼はいいます。右手の弦への撥のあて方、左手の弦のはじき方、この微妙な差が音色を左右する。フレットレスな三味線の奏でる至高の音への追求は、1mm単位での調整を瞬時に行うことを求められます。弦と撥、弦と指との際(きわ)を見極め奏でる瞬間芸術が三味線だと。糸際が奏でる三味線の音色は、きっと古典曲によって我々の魂に問いかけてくることでしょう。

 さらに、今回のカルテットのアンサンブルも忘れてはいけません。コントラバスバスやバイオリンもまた、糸際がなせる音色を放ちます。左手で弦を押え、右手で弦を弾くコントラバス。同じく左手で弦を押え、右手の「弓」で音を奏でるバイオリン。どちらも、三味線同用に弦(糸)を使って至高の音を極めんとするもの。そこに、アラブの打楽器「レク」が加わります。タンバリンの原型ともいえるこの楽器は、奏者の腕により、我々の想像をはるかに超える多彩な表情を見せてくれます。左右の手の絶妙なコンビネーションが打ち鳴らす音色に、驚愕されるはずです。

 指揮者のいないカルテットでは、各々が魅惑の音色を奏で、奏者それぞれがメンバーの音色を聞きながら音やリズムをあわせ、ひとつの曲を紡いでいきます。まさに譜面のない音楽会。即興で曲を奏でる三味線史佳さんの腕の見せどころです。さらに、相手をさらなる高みへと導くかのようなそれぞれの楽器。プロとしての「遊び」心なくして成しえない、今までに体感したことの無い世界観を我々に見せてくれるはずです。三味線を含めた弦楽器が「糸遊(いとゆふ)」であるのであれば、レクは「打遊(うちゆふ)」というのでしょう。三味線という楽器の常識が変わる無限響の世界へ、皆様をご案内いたします。

 

 ナズナアブラナ科の植物で、「春の七草」にも登場するなじみ深い植物です。どのような過酷な環境でも順応できるのではないかと思えるほど丈夫なため、田畑はもちろん、荒れ地や道端でもよく目にします。子供のころには、画像のように果実がついたナズナの茎をもち、でんでん太鼓のようにくるくると回し音を楽しんで遊んだ方も多いのではないでしょうか。このネタは厳しいでしょうか…でんでん太鼓も…ご存知の方が少ないやもしれません。

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 このナズナ、別名が「ぺんぺん草」です。そう「~の後にはぺんぺん草も生えないよ」などという言い回しができる理由は、環境適応能力が強いからです。この別名の「ぺんぺん」とは、果実を打ち鳴らしたときの音から「ぺんぺん」なのかと自分は思っておりました。ところが、果実のハート形が三味線の「撥(ばち)」に似ていることから名付けられたのだそうです。そう、「ぺんぺん」は三味線の音色に由来していたのです。そのため、「三味線草」という別の名ももっています。

 都内でも其処彼処で見て取れるナズナ。童心に帰り、三味線を想いながら打ち鳴らしてみてはいかがでしょうか。「糸遊」ならぬ「打遊(うちゆう)」をお楽しみください。※ひとり「にやにや」しながらの「打遊」は、周りから冷ややかな眼差しを受けることがございます。楽しむ際には、十分ご注意ください。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますが、皆様のご多幸とご健康を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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新潟県の三味線文化

 音楽とは、人類が言葉以前に手に入れることができた、意思疎通を図る手段だったはずです。何かを何がしかで打ち叩くことで音を発する、それがリズムを刻み、吠え声ともとれる声や踊りが加わる。音を楽しむことが音楽であるのであれば、これもまた立派な音楽。そして、人々は「音を奏でる」ことを欲し地方色豊かな楽器を創作することに。叩く、弾く、吹く、さらに素材由来の音色が加わり、まさに千葉の彩(せんようのいろどり)のごとく。

 

 13世紀の中国(時の王朝は元)に誕生したといわれている中国の伝統楽器「三弦(さんげん)」。その名称の通り、弦が3本あり、弦をはじく音を出します。これが、琉球王国に持ち込まれ、「三線(さんしん)」として宮廷音楽に取り入られることになりました。さらに16世紀には、今の大阪府に位置している「堺」の町に伝わり、平家琵琶の要素を取り入れた楽器が日本全国に伝播していくことになります。この伝播(でんぱ)の行方は、南は琉球王国にまで及び、今の三線が完成を見るにいたったといいます。そして、北は本州最北端へ。日本の楽器の中では、比較的歴史の浅い楽器、「津軽三味線」が生まれました。

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 大阪の堺に生まれた三味線が、地方に持ち込まれることで、さらなる改良を加え加え北へ北へと。徒歩というよりも、江戸時代に活況した北前船が一役を担ったといいます。堺を発した北前船が寄港する地域に三味線を持ち込み、さらに地域地域で育まれた芸能に地唄が北へ北へと移ることでさらなる発展を遂げることに。それが津軽地方で大成されたものが津軽三味線でした。棹(さお)と呼ばれる、ギターでいうネックの部分は細棹から太棹へ、音を響かせ複雑かつテンポの速いものを求めるがゆえに、より高度な技術を必要としました。そのため、他とは違い、叩くかのように弦をはじく「叩き三味線」の真髄ともいえる「津軽三味線」というひとつの音楽が誕生したのです。時が経つにつれて、多くの流派が生まれるも中で、叩き三味線を踏襲するも、「弾き三味線」という一味違った音を奏でる人物が登場することになります。地方の一つの音楽であった津軽三味線を全国に知らしめた人物でもある、高橋竹山(たかはしちくざん)師です。

 

 初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生し、昨年夏までは二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。さて、三味線界の大御所である竹山師の拠点は青森県です。なぜ、新潟県なのか?実は、津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるというのです。

 

 山梨県、埼玉県さらには長野県の県境にそびえる甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)を源流に、長野県内では千曲川(ちくまがわ)と呼ばれた清流が、新潟県に入ると名を信濃川と名を変える。総延長は日本一、と小学校で習ったのではないでしょうか。越後山脈谷川岳によりもたらされる豊かな水脈を源に発する魚野川(うおのがわ)は、長岡市のあたりで信濃川に落ち合います。さらに、阿賀野川(あがのがわ)、北は荒川で南は関川が並走することで、形成されたものが越後平野です。この豊かな水資源は、時に自然の猛威となり甚大なる水害をもたらす一方、肥沃な大地を約束いたしました。かつて、街道が二つの大きな街道に分かれる地点を「追分(おいわけ)」と呼び、そして、川が合流する地を「落合(おちあい)」といいました。この落合が形成した雄大な流れが、海に落ち合う地が、新潟市です。

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 自然の厳しさを甘受するという条件ながら、この肥沃な越後平野は、人々に広大な稲作をもたらしました。その収量の豊かさゆえに、人々が集い町を成してゆく。新潟の「潟」は、塩分を含んだ土地のことであり、干潟などのように、浅海の一部が砂州などによって外海から切り離されてできた湖沼を意味します。そう、海岸に越後砂丘が広がるため、海の玄関口は信濃川が海に注ぎ込む地に港が作られました。これが新潟港です。

 物流・人流ルートは、古より船舶により大量輸送を主とし、京都を目指す日本海側の地域は、若狭湾から陸に揚がり琵琶湖を経由して淀川で下る道のりでした。これが江戸時代に入り山口県の下関を廻り瀬戸内海に入る航路に加え、秋田県の酒田を拠点に西廻り航路と東廻り航路が確立することで、北前船の全盛期を迎えることになります。これにより、三味線が持ち込まれ、人流と同時に文化芸能が北へ北へと運ばれていくことになります。そして。青森県で「津軽三味線」が大成するにいたるのです。

 新潟県は京都から見て、上越中越下越と続き、越後平野が広がるように長く続く海岸線が特徴です。それゆえ、要所要所で港町が形成され、北前船の中継地として栄えました。その中でも、新潟港(今の新潟西港)は別格です。ペリー率いる黒船が神川県の浦賀に姿を現した5年後の1858年に締結された日米修好通商条約の中で、アメリカが開港を求めた5つの港のひとつに指定しているほどです。多くの人々が行き交い、農を生業として生活をしていたことか。人が多く人々が居住しているということは、そこに文化芸能が育まれることになります。

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 越後平野が日本有数の「米どころ」となり、多くの人々を養うことができた理由は、対馬海流を語らずして、説明できません。北前船にも大いに関係するこの暖流は、フェーン現象により夏が猛暑になる厳しさはあるものの、十分な日照時間を約束し、東北地方の太平洋側に流れる千島海流(寒流)による「やませ」の冷害はありません。しかし、冬は一変し、極端に日照時間が無くなります。シベリア高気圧が日本海を通過する際に、北西の季節風を導き、対馬海流(暖流)の蒸発した水分を大量に含んだ大気を越後山脈にぶつけるのです。湿気を含み厚い雲で覆われる冬のため、厳しい冷え込みこそないものの、世界有数の豪雪地帯へと変貌します。

 この豪雪こそ、稲作に必要な豊富な水資源となることは十分に理解できるのですが、一面白銀の世界となった時の生活が、どれほど厳しいものか。さらには太陽に恩恵に授かれない日々が、どれほど気持ちに悪影響をおよぼすのか。「新潟県の出身です」というだけで、スキーやスノーボードが達者だと思われがちですが、日々雪との格闘を強いられていると、雪遊びをすることをついつい疎んじてしまうものです。降り積もる雪が数mなどに及べばなおのこと。この過酷な環境を打破すべく、人々が冬を乗り切るために考えだしたものが、塩引き鮭や漬物、さらには日本酒などの食文化であり、皆で祝う祭りごとであり、芸能なのだと考えています。人々を勇気づけ、日々の生活の活力となるべく奏でられる三味線の音色が、弱弱しくてはいけません。津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にある。この理由はこのあたりにあるのではないでしょうか?

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 昨年、佳史Fumiyoshiさんが、珍しいものをお見せしますよ、とBenoitで三味線を組み立てました。棹が三分割となり収納されていたのです。棹が長い一本だと、曲がってしまうと音色が変わるからといいます。豪雪地帯だからこそ、持ち運びしやすく、湿気によって棹の曲がりを防ぐのか、なんという古人の知恵なのか。そう感じたひと時でした。もちろんその後に奏でられる彼の「弾き三味線」の音色に酔いしれたことは言うに及ばず。

 さあ、「新潟高橋竹山会」二代目会主の高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入り、音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー、史佳(Fumiyoshi)。皆様に、Benoitで「際会」していただこうと思います。

イベントの詳細はこちらを参照ください。

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際会(さいかい)」 出会うこと。優れた人物などにめぐり合うこと。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoit特選食材「静岡県掛川のイチゴ≪紅ほっぺ≫」のご案内です。

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 現在、日本のイチゴ消費量は世界一です。一年中見かけることのできるフルーツですが、やはり初春に想う「旬の美味しさ」は、老若男女を問わず、人々を魅了して止みません。「あまおう」や「とちおとめ」が世を席巻するも、さらなる美味なる品種を生み出そうと、各都道府県がしのぎを削り、ブランド化を目指している昨今。まさにイチゴの世界では群雄割拠の様相を見せています。ここで、一つの疑問が頭をよぎります。

日本初の「イチゴの品種」が誕生したのはどこなのか?

 そもそもが、イチゴには、今主流をなしている「オランダイチゴ」のグループと、「キイチゴ」のグループに分かれるようです。キイチゴに関しては、ヘビイチゴも含めた野生種であり、にローマ時代には食用として栽培されていたといいます。日本では10世紀に書き記された「本草和名」に「以知古」という名を見ることができるのですが、栽培までにはいたっていません。まさに当て字のような、「以知古」とは、ひらがなの誕生は平安時代まで待たなくてはならないため、万葉仮名で名を残しているのです。では、今のイチゴの起源ともなる「オランダイチゴ」はというと、その名の通り、18世紀にオランダで育種されたのです。それが、大航海の後に日本に辿り着いたのは、江戸時代のこと。鎖国していた日本が、例外的に交易していた「オランダ」からもたらされたのです。日本ではなかなか広まらず、本格的に栽培が始まるのは明治に入ってからとのことです。

 では、最初の問いでもある、「日本初品種」はどこで誕生したのか?

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 東京都新宿区にある「新宿御苑です。

あまりに意外な答えに、皆様、驚かれたのではないですか。しい宿場町である「新宿」と、「新宿御苑」の話は、以前「青木さんの蜂蜜」の話で触れました。お時間のある時に訪問いただけると幸いです。

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 新宿御苑は、かつて内藤家の下屋敷でした。その地が、明治初めに名を「内藤新宿試験場」へと変え、農作物や園芸植物の栽培試験場として稼働することになります。海外からさまざまな樹木や野菜を導入し、栽培研究がなされていました。今でも、新宿御苑にその片鱗を垣間見ることができます。そして、1879(明治12)年に、内藤新宿試験場の地が皇室に献納されることになり、皇室の御料地として「新宿植物御苑」が動き出しました。1906(明治39)年に国民公園として開園され、今に至ります。この御料地となっていた1898(明治31)年、福羽逸人(ふくばはやと)農学博士が、フランス産イチゴの「ゼネラル・ジンジャー」種の種を譲り受け、発芽・結実に成功。そして、待望の国産初品種「福羽苺(ふくばいちご)」を生み出したのです。しかし、当時が皇室の御料地であったことから「御料イチゴ」と呼ばれ、しばらくは門外不出とされていました。1919(大正8)年に解禁され、全国へと伝播してゆくことになります。今でこそ、覇を競い合っている数々のイチゴ品種全てが、この「福羽苺」から始まっているのです。彼が、「イチゴの父」たる所以がここにあります。

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 多くのイチゴ品種が誕生する中で、1980年代には≪東(栃木県)の「女峰」、西(福岡県)の「とよのか」≫」という二大勢力が台頭するも、ここに「章姫」が割り込んできます。時が過ぎ、2000年前後ともなると、≪東(栃木県)の「とちおとめ」、西(福岡県)の「あまおう」≫へと移り行く。そして、ここに章姫と「紅ほっぺ」が姿を見せます。日本のイチゴ生産量の1位栃木県2位福岡県に負けじと健闘しているのが、地理的にも中間に位置している静岡県(4位)。イチゴ勢力図を二分する中に、割って入るかのように登場する≪章姫≫と≪紅ほっぺ≫という品種を生み出したのも、静岡県。甘さでは「あまおう<とちおとめ」、酸味では「あまおう>とちおとめ」。「紅ほっぺ」はどちらも中間に位置しているのだといいます。甘みと酸味を兼ね揃え、酸味があるからこそ甘みも冴えるのです。

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静岡県掛川から直送、赤ずきんちゃんおもしろ農園さんの「紅ほっぺ

 Benoitシェフパティシエールの田中が、フランスとのやり取りの中で決まりつつあるレシピを知った時、あまりの驚愕に言葉を失いました。デザートに使用するイチゴの量、一人分がMサイズで約20粒ほど必要であること。さらに、イチゴの品質がそのままデザートの味わいに反映してしまうこと。つまり、高品質のイチゴを、定期的に過不足なく購入し続けなければなりません

 みずみずしく、しゃくしゃくの食感。心地良い酸味がイチゴの優しい甘さを引き立てる。甘いだけではない、イチゴの優劣はこのバランスによって決まるように思います。鮮度を維持することが難しいため、収穫は随時行わなくてはなりません。さらに、水分が多いからこそ輸送に耐え得ないフルーツでもあります。Benoitの席数を考えると、一農家さんからの購入では、イチゴの確保がかなり厳しいのです。

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 この難問を、いとも簡単に解決へと導いてくれたのが、静岡県掛川市にて広大な農園を構えている「赤ずきんちゃんおもしろ農園」さんでした。看板に偽り無し、まさに日本最大級の畑を有しているからこそ、一度も滞ることなく、Benoitへ「紅ほっぺ」のみを送り続けていただいています。サイズ指定も購入量も、担当してくださった方の「大丈夫です」という一言に、どれほど安堵したことか。さらに、届いたイチゴの品質にはただただ脱帽するのみ。豊潤な香りをはなちながら、美しい輝かんばかりの赤い色、口中いっぱいに広がる豊潤な甘さに心地よい酸味、いかに丁寧に育てられた「紅ほっぺ」か。自分のみならず、パティシエチーム皆が「美味しい」と納得の逸品です。

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静岡県掛川の「紅ほっぺ」をつかった真っ赤なデザート

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 紅ほっぺMサイズを、お一人様10粒分は半分にカットしてオリーブオイルと塩少々。もう10粒分は、広島県大崎上島の岩﨑さんの瀬戸内レモンとともに、軽く火にかけザルの上に。ゆっくりと滴り落ちる紅ほっぺのジュース。ザルに残ったイチゴは、そのままマルムラードへ姿を変え、ジュースはオリーブオイルが加えられてソースへ。そのままを盛り付ける中に、心地良い酸味とほろ苦さを演出する瀬戸内レモンの皮のコンフィ。さらに爽やかなミルクの風味を生かしたフレッシュチーズのソルベを一番上に。イチゴの調理方法を変えることで、それぞれ違った魅力を引き出すように。

 皆様お察しの通り、「イチゴそのもの美味しさ」が、今回のデザートのポイントになります。だからこそ、彼の地を代表する品種を選び、その中でもこだわりの農園から直送しなければならなかったのです。違った表情をみせるイチゴに、レモンとソルベが加わり、オリーブオイルを加えたイチゴジュースをそそぐ。一つの器の中で、それぞれが奏でられた時、このデザートが皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことになるでしょう。4月末まで、プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+1,000円にてお選びいただけます。

 

 栽培地域は、ほぼ日本全土を網羅し、新品種育成を目指し、各都道府県が鎬(しのぎ)を削る。美味なるものであれば、彼の地を代表する品種となります。しかし、この熾烈を極める戦いの中で、全国に名を馳せるにいたるものは、ごく僅か。毎年どれほどの新種が生まれ、淘汰されていったことか。それもこれも、誰しもが愛してやまない「イチゴ」だからなのでしょう。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoit特選情報「4月のダイジェスト版」のご案内です。

待てというふに 散らしで止まる ものならば 何を桜に 思ひまさまし 「古今集より」よみ人しらず

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  「待ってくれ」と言うことで、散らないでいてくれる花であれば、誰がこれほどまでに桜に対して思いを募らせようか。夏から秋にかけて葉を茂らせ、越冬するための栄養を蓄える。冬の間は、余計なエネルギーを使わないようにと葉を落とし眠りにつく。春の陽射しが桜の目覚めを誘(いざな)い、花開く。桜の花ひとつの開花の期間は2~3日だといいます。実を食用としない花桜の場合は、このいっときの開花のために1年間を費やすといってもいいのではないでしょうか。この潔く散ってゆく「はかなさ」こそ、人々がこれほどまでに花開く時を待ち焦がれ、花散る時を惜しむのでしょう。

 満開の桜は、人々に笑顔をもたらし、かつては農作業の始まりを教えてくれました。今では新しい人生の門出を演出してくれています。日本の学校の卒業と入学の時期が、桜花咲く時期の前後に位置していることは、世界の多く初秋であるのために、海外に目を向ける学生たちには不自由なものです。それでも、日本では変えることがありません。「桜」という花の存在が、どれほど我々日本人にとって大切であるのか。もちろん、理由はこれだけではないはずですが、理屈ではない「日本人の心」のなかでは密接に関係している気がいたします。「別れ」があるからこそ「出会い」がある。逆もまた真なり。

 「出会い」が無ければ、「別れ」もありません。人世には悲喜こもごもありますが、「出会い」の無い人生は全く平凡なもので、つまらないものだと思いませんか。食の世界でも同じことで、季節折々で旬を迎える食材の無い、食事では飽きてしまうことでしょう。旬の食材の美味しさを知っていために、旬の短い「ひととき」を待ち焦がれ、大いに楽しみます。いずれは終わりを迎える食材の美味しさを見逃さないように。そして、我々はここに、「口福な食時」を見出すのです。

 「美しい(令)」季節に春食材が「和」する逸品は、令和元年にこそふさわしい。そこで、皆様に旬の食材に出会い、食することで無事息災に春を過ごしていただきたい。旬を迎える食材を旬の食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べのものでできていいます。この想いを込め、Benoitの4月のダイジェスト版を作成いたしました。

皆様にご紹介したい内容は、以下の15件です。

「特選食材」のご案内 8件

「料理/デザート」のご案内 4件

「イベント」のご案内 2件

「余談」 1件

 

香川県まんのう町と香南町からグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」が届いています。≫

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 Benoitの春は「讃岐から目覚める」、香川県の生み出した至高のグリーンアスパラガスが「さぬきのめざめ」と名付けられました。

 香川県仲多度(なかたど)郡まんのう町と高松市香南町より届けられる逸品は、春を代表する食材「グリーンアスパラガス」です。国内で栽培されている多くは「ウエルカム」という海外育成品種です。香川県では、県農業試験場で試験栽培を重ねた末、2005(平成17)年にオリジナル品種として誕生したのが「さぬきのめざめ」。他の品種に比べ春の萌芽が早く、まさに「春一番の美味しいめざめ(萌芽)」な特選食材です。

 アスパラガスは、種をまいて数ヶ月で収穫できる野菜ではなく、植えてから収穫までに3年間を要します。この期間、アスパラガスはわさわさとした葉を成し、香川県ならではの陽射しを十二分に受けることで、根に栄養を蓄えていき枯れてゆく。これを毎年繰り返すことで、根を大地に広げてゆくのです。香川県の気候風土が育んだ逸品。穂先がきゅっと締まった美しい姿、根元までやわらかいが歯ごたえはシャクキシャク。鮮度が良いので、みずみずしいのはもちろん、にじみ出でるアスパラガスのジュースには野菜特有の甘さを感じます。瀬戸内に降り注ぐ太陽の恩恵を十二分に受け、まんのう町そして香南町の皆様が守り抜いた自慢の大地があるからこそ、この美味しさを生みだすのです。

 香川県の自然と、栽培にあたる人々の弛まぬ努力が育んだ、「春一番の美味しいめざめ」がBenoitに届きます。この特選食材を、Benoitシェフのセバスチャンが「Benoitの美味なるめざめ」となるよう、もう一つの特選食材と出会うことで、さらなる高みへと導くのです。

 

≪春に旬を迎える珍しいキノコ「モリーユ茸」が届いています。≫

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 多くのキノコが秋に旬を迎えるのに対し、このモリーユ茸は春に旬を迎える珍しいキノコです。ご覧のように、キノコの傘の部分が網のような姿のため、日本では「あみがさ茸」と名付けられました。そう、日本にも自生しているのです。都内でも見ることができるのですが、素人がキノコに手を出すことは、あまりにも危険極まりないこと。それらしい姿のキノコを見かけても、鑑賞するにとどめてください。なぜ、国産が流通しないのか?和食では美味しさを見出せなかったのでしょう。

 対するヨーロッパでは、春を代表する高級食材の位置付けにあり、モリーユ茸食せずして春は終われないのです。これほどの食材のため、多くの人が「栽培」に取り組むも、いまだ成功例はなく、大自然が育んだ天然のものしかありません。そのため、天候に左右されることはもちろんですが、天気にも大きな影響を受けるのです。適度な雨は大地よりモリーユ茸が顔を出すことを促すも、キノコゆえに雨が降り続くことで、子供の手ほどにいっきに成長してしまうのです。大人の親指の指先ほどの大きさが、食感はもちろん味わい深く美味しいサイズ。大きくなると大味になってしまうのです。この気難しさもまた、この茸の価格を上げてしまう要因のひとつなのです。

 なぜ、日本では見向きもされないキノコが、ヨーロッパではこれほどまでに珍重されるのか。やはり、相性の良い調理法になるのです。生の時にはうんともすんとも美味しさの「お」の字も香らないモリーユ茸が、バターやクリームによって熱を加えられることで、豹変するのです。この驚嘆すべき芳しさと美味しさだからこそ、春を代表する食材の地位を確固たるものにしているのです。

 

≪日欧の春を代表する食材が一堂に会する「アスパラガスとモリーユ茸のフリカッセ」が前菜に。≫

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 前菜ではありますが、今回の主役たりうる一皿であり、自分が心待ちにしていた料理が、「モリーユ茸とグリーンアスパラガスのフリカッセ」です。日欧の春を代表する食材が一堂に会する、フランスと日本との育ちの違いこそあれ、ともに太陽の恵みを十二分に受けた春の食材が一堂に会する。2019年の春は「讃岐で目覚め」た「さぬきのめざめ」が、東京Benoitで、ヨーロッパの山々で目覚めた「モリーユ茸」と出会います。

 香川県の生み出した至高のグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」は、瀬戸内海を想わせる塩分の湯の中で、職人ならではのしゃくっという心地よい食感を残すように湯でられます。さらに、モリーユ茸はもちろんフレッシュが届きます。生の時にはパッとしない香りが、熱を加えることで豹変するのです。芳しい香りを放つこの茸に、相性の良いクリームを加え、旨味を十二分に引き出した中に、フランスのSavoie(サヴォア)県の特産でもあるVin Jaune(ヴァン・ジョーンヌ)と呼ばれる黄色いワインを香りづけに使用。なかなか独特な風味のワインですが、モリーユ茸とクリーム、さらにグリーンアスパラガスとを全て調和させる力を持っている山のワインです。

 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+2,000円、ディナーでは+1,500円にてお選びいただけます。天気・天候に左右されやすいこの2つの春食材のため、ご希望の場合は、ご予約の際に「アスパラガスとモリーユ茸希望」とお伝えいただけると幸いです。春が萌えてくる山を想い描きながら、この美味しさのマリアージュをご堪能いただきたいと思います。

 

≪千葉県勝山漁港より「桜鯛」が直送です。≫

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 千葉県房総半島の先端から、少し内房に入ったところに「勝山漁港」があります。東京湾への入り口に位置しているため、内房外房の豊かな漁場から、網で巻き上げられた魚、釣り上げられた魚と多くの種類が集められているその中から、今回皆様にご紹介するのは「真鯛」。天然の真鯛であることはもちろんですが、今の時期ならでは選ばれし真鯛が、「桜鯛(さくらだい)」です。

 「腐っても鯛」といわれるほど美味しい魚のため、日本では真鯛は魚の王者として君臨し続け、料理の食材としてはもちろん、お祝い事にも欠かすことのできない逸品です。だからなのでしょう、季節のよって愛称がつけられ、産卵後から夏にかけての期間は、特になし。秋は「紅葉鯛(もみじだい)」、冬は「寒鯛(かんだい)」、そして春が「桜鯛(さくらだい)」です。

 言葉というものは、話し手である人々の生活習慣や趣味嗜好が密接にかかわっているようです。今でこそ焼肉ブームの影響から、肉の部位の細かな名称が馴染みになっていますが、肉食が伝播していった時期が明治のことなので、そこまでの歴史がありません。これに対して魚食文化は、四方を海に囲まれ、長細い形をしている日本だからこそ、多種多様雄海産物に恵まれていることもあり、地方色豊かな特産を生みだし、ひいては調理法までをも確立していくことに。さらに、魚が季節を表現することも。だからこそ、学名ではない魚の名前が、我々の生活の中で確固たる地位を得ることになります。

 生活に根付いた魚文化に加え、魚の王者「真鯛」が美味しいがために、日本人は姿が似ていて美味しい魚を「~鯛」と名付けています。今でこそ、魚類図鑑で細かな分類がなされていますが、美味しい魚は美味しい魚であり、細かな学術的な分類など野暮というもの。「イトヨリダイ」や「アマダイ」など、美味しいけれども「マダイ」の仲間ではありません。後に鯛の仲間ではないとわかっても、名を変えることはなく、「もどきダイ」だと一蹴するところが、世界に誇る魚食文化の日本人気質というのでしょう。日本には「サクラダイ」という名の付いた魚がいます。これも「もどきダイ」であり、「桜鯛」とは全く別物。混乱をきたすようですが、このあたりの違いが分かる人が、粋(いき)というもの。

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 さて、今回は正真正銘の天然真鯛で「桜鯛」です。海深く、美味しい海老をたらふく食べている真鯛が、産卵に向けて浅瀬に姿を現す時期が「春」。エビをむしゃむしゃいただいているということで、身の色がピンク色になるのだといい、まさに春色。日本人の心に花咲く「桜」にぴったりという、古人の名付けのセンスに感服です。縦横無尽に大海原を泳いでいるため、身が締まり格別な旨味をもち、運動不足と飽食の養殖とは違い適度な脂によって美味しさを増しています。今この「時」を逃しては、来年を待たねばなりません。4月いっぱいの特選食材です。

 

≪フランスのロワール地方から「ホワイトアスパラガス」が飛行機で旅立ちました。≫

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 春を迎えると、なんとなく山菜を口にしたくなるのが 日本でるならば、ヨーロッパの人々にとって、ホワイトアスパラガスを食せずして春尽きることはないのでしょう。マルシェ(朝市)に山積みにされるこの食材が、人々がいかに待ち望んでいた食材であるかを物語っています。

 アスパラガスの原産は地中海東部。3000年前のエジプト文明の時すでに野生のアスパラガスが食されていたといいます。古代ギリシャ古代ローマ時代には栽培が始まり、フランスがルネッサンスを迎えると同時に、イタリアから持ち込まれたのだといいます。この時代に、丘陵地での栽培方法が確立したことで、ホワイトアスパラガスが世に登場したのだとか。

 アスパラガスの栽培には軽い砂地が適しており、フランスではパリ北西に位置しているArgenteuil(アルジャントゥイユ)町から始まりました。今でも栽培されている最古参の品種にその名を遺しています。そして、Val de Loire(ロワール地方)、Aquitaine(アキテーヌ地方)、そしてBassin Méditeranéen(南フランス)へと栽培ノウハウが伝わっていきます。

 今回、Benoitに送っていただく地は、ロワール地方のロワール河の中流域に位置しているIndre et Loire(アンドル・エ・ロワール)県です。旧地方名はTouraine(トゥーレーヌ)。この地に居を構えるBellorr(ベルオール)研究所は、地元の栽培者を選抜することで、高品質のアスパラガスを栽培し続けています。そこで、彼らが出会った栽培者が、フレデリック・プーパー氏でした。この地の生まれで、70ヘクタールの農地を引き継ぎ、2009年からオーガニック栽培を実践している新進気鋭の若者です。先祖代々続いた栽培ノウハウを踏襲しつつ、積極的に最新技術を取得する。多品種のアスパラガスを選別して植栽し、地熱をうまくコントロールすることで、2月から6月までの長期間、高品質のアスパラガスの供給を可能にしています。彼の年間収穫量は250トンにも及びます。

 ホワイトアスパラガスは、陽射しに当たらない状況で収穫しなければなりません。遮光フィルムを使って栽培することも可能ですが、やはり健全な土壌を維持するには、陽の光は欠かせません。そう、ホワイトアスパラガスはまだ表土から顔を出さない状態で収穫するのです。熟練した者は、見事なまでに土中にあるアスパラガスを見つけるといいます。そして、グージュという特殊な器具ひとつきで、横の芽を傷つけることなく収穫するのです。

 アスパラガスの芽の勢いは強く、日に10cmも伸びるのだといいます。そこで、収穫した後すぐに冷たい水で冷やすことで勢いを止めると同時に、新鮮さを維持しながら穂先がピンク色になるのを防ぐ。傷は酸化によって品質を著しく損なうため、専任のプロフェッショナルが厳しい目で選別を行い、木箱へ納められ、すぐに世界に向けて旅立ちます。

 フランス国王として全盛を極めた太陽王ルイ14世は、ヴェルサイユ宮殿の庭師に、「一年中収穫できる栽培方法を模索するように」と命じたという。それほどまでに愛してやまないアスパラガス。いつの時代もどの国も、権力者はいいたい放題です。旬があるからこそ美味しいのであり、収穫が待ち遠しい。時期が決まっているからこそ、失う前に楽しもうと。まさに桜と同じ、「終わるなよ」といって素直に聞いてくれるようでは、食す楽しさも美味しさも半減するというものでしょう。冒頭の句のいう、「思いまさまし」です。

 

勝山漁港直送「桜鯛」のグルノーブル風とロワール産ホワイトアスパラガス≫

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 千葉県勝山漁港直送の「桜鯛」は、表面に焼き色を付けるようにし、オーブンを使ってふんわりと焼き上げます。大海原が育んだ真鯛は、身質の見事なまでの食感に加え、海深いところで美味しいものを食べているのでしょう、溢れんばかりの旨味に満ちています。さらに、この時期らしいきれいな脂を持ち合わせているため、火入れには細心の注意を払わなければなりません。Benoitキッチンスタッフの焼きの職人技が、桜鯛の美味しさを十二分に引き出すのです。

 そして、フランスからは春食材の代名詞的な逸品、ロワール地方Indre et Loire(アンドル・エ・ロワール)県から送られてくる「ホワイトアスパラガス」です。フランスの大地が育んだ独特の春の苦みと優しく甘い味わい。これこそ、日本でなかなか内包できないフランスのホワイトアスパラガスの美味しさです。この特徴を生かすように、シンプルに茹であげたものを真鯛の下に。

 バターを火にかけ、香り立つ一瞬を見極めた後に、レモンの心地良い酸味とケッパーの旨味を加り。日仏を代表する2つの特選食材が、Benoitで一堂に会した時、お皿の上でどのようなハーモニーを奏でるのでしょうか。最後に、Benoitシェフのセバスチャンが、味わいのアクセントとして選んだ「ラディッシュ(はつか大根)」。まるで、満開に咲き誇る桜の花々の中に、次なる出番の桜の深い紅色の若葉を想わせます。いや、幹(桜鯛)に枝(ホワイトアスパラガス)が伸び、そこに桜(ラディッシュ)が咲くイメージなのか。はたまた、別か。これは、皆様の判断にゆだねようと思います。

 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+1,500円、ディナーでは+1,200円にてお選びいただけます。天気・天候に左右されやすいこの2つの春食材のため、ご希望の場合は、ご予約の際に「桜鯛とホワイトアスパラガス希望」とお伝えいただけると幸いです。

 

愛媛県宇和島より「樹成完熟デコポン」」が届きました。≫

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 不知火(しらぬい)という品種の中でも、甘味と酸味が基準値を超えたもののみに与えられる名称のため、この名を名乗ることができるだけでも、美味しさは保証されたようなもの。日本屈指のミカンの産地である愛媛県の中にありながら、海より隆起した地形ゆえにミネラル分を多く含み、急斜面だからこそ水はけの良さを誇ると同時に、恵まれた日照条件を満たす地。温暖だからという理由以外に、数々の条件を兼ねそろえた、愛媛県の西側に位置する宇和島市の吉田町の産物です。

 今回は愛媛県東部、瀬戸内海に面している西条市、JA周桑(しゅうそう)のもと、県下最大級の直売所として2006年にオープンした「周ちゃん広場」。他の直売所と異なることは、地元の食材のみならず、県内の素晴らし食材を探し集めていること。いうなれば、愛媛県の農について知らぬことはないプロ中のプロが選んだ逸品がそろう直売所なのです。前述した宇和島吉田町の多種にわたる柑橘を育む山ひとつ分の全量を買い取り販売しているといいます。この柑橘フルーツを指揮しているのが、皆より柑橘のプロと称された武田さんです。

 彼女の見立てにより、吉田町で完熟まで収穫せずに樹に実らせておく「樹成完熟デコポン」がBenoitに届いています。完熟に向かえば向かうほど、糖度が上がり酸味が減るため、劣化・腐敗というリスクが高まります。その危険を冒してまでも、美味しさを追求することを求めたのが「樹成完熟」なのです。天気との駆け引きの中で、どこまで耐えることができるのかを見極めることは、経験なくして成しえないもの。彼らがここまで求めるにはそれなりの理由が存在します。どれほどの美味しさなのか、この機会にぜひご賞味ください。来週いっぱいご用意できるかどうかは、このデコポンに祈るのみ。

 

愛媛県宇和島の「樹成完熟デコポン」と熊本県天草の「不知火」「パール柑」で至高の柑橘デザート≫

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 デザートは、これを以外に春を語るものは無いのではないでしょうか。今まさに旬を迎えている、熊本県を代表する柑橘「不知火」と「パール柑」を惜しげもなく使用し、冬眠気味の我々の体を目覚めさせてくれる今の時期ならではの至高の逸品。不知火とデコポンはパール柑、それぞれ色味の違う果肉と果皮は、見た目にも美しいばかりではなく、味わいや香りの違いを生み出します。果実はそのままに、果皮は甘さ控えめのシロップで煮るようにコンフィへ、さらに果肉と果実をつかって甘ほろ苦いマルムラードへ。さらに、果汁を絞り、そこへ果肉と果皮を加えて仕上げた、輝かんばかりに美しいオレンジ色を放つシャーベットは、今回の特選食材2種類の柑橘の魅力を凝縮したかのよう。さらに愛媛県から「樹成(きなり)完熟デコポン」が加わることになりました。

 余計な甘さは一切なし。旬の柑橘のもつ「甘さ」「酸味」「苦さ」が、見事なまでのハーモニーを奏でることで、ひとつの作品へと仕上がります。アーモンドのシャーベットを添え、イタリアンメレンゲを軽やかにぱりっと焼き上げたものを飾る。メレンゲを使うことで、デザートの名称は「ヴァシュラン」です。熊本県天草と愛媛県宇和島がはなつ「春の魅力」を我々に教えてくれることになるでしょう。

 樹成完熟デコポンでのご用意は、時間との勝負です。この機会をお見逃し無きように。プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+800円にてお選びいただけます。

 

≪イタリアの「グリーンピース」が飛行機でBenoitに。≫

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≪フランス・ロワール地方、モローさん「Selles-sur-Cher (セル・スュル・シェル)のご案内です。≫

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 ロワール河の中流域は、古城が多くある観光名所。その周りに広がるブドウ畑と広大な牧草地が、彼の地を風光明媚なものへと演出しているかのようです。その牧草地で放牧されているのが山羊(やぎ)。この地域は、フランスで抜群の品質と美味しさ、種類の多さを誇る山羊チーズの一大産地です。

 多々ある山羊チーズの中でも、最高傑作だといわれているのが、なんとも発音の難しい「Selles-sur-Cher (セル・スュル・シェル)」。その産地にあり、山羊のスペシャリストとして名を馳せるのがMOREAU(モロー)さんです。

 山羊ミルクらしい優しさの中に心地よい酸味、チーズに仕上げた時の、しっとりとした水分を含みながら、きめの細やかな食感。一口ほおばると、かすかな甘みと程よい塩加減が、きれいな余韻となって続きます。切った時の断面の美しさは必見です。さらに、若草が牧草地を輝かんばかりに美しい緑色に染める春。山羊がその春の草を食むことで生み出されるミルクは、一年で一番爽やかな味わいをもっています。そのミルクでモローさんが仕上げたセル・スュル・シェルがBenoitに届いています。

 

≪「Pulpe de CACAO(ピュルプ・ドゥ・カカオ)」がBenoitに届きました。≫

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静岡県掛川特産「紅ほっぺ」の真っ赤なデザートは4月末までです。≫

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 静岡県を代表するイチゴの品種「紅ほっぺ」を、Mサイズ指定でBenoitへ送っていただいております。これを、一人20粒ほど使用。10粒分は半分にカットしてオリーブオイルと塩少々。もう10粒分は、レモンとともにスチームオーブンんにかけザルの上に。ゆっくりと滴り落ちる紅ほっぺのジュース。ザルに残ったイチゴは、そのままマルムラードへ姿を変え、ジュースはオリーブオイルが加えられてソースへ。そのままを盛り付ける中に、心地良い酸味とほろ苦さを演出するレモンの皮のコンフィ。さらに爽やかなミルクの風味を生かしたフレッシュチーズのソルベを一番上に。

 皆様お察しの通り、「イチゴそのもの美味しさ」が、今回のデザートのポイントになります。だからこそ、彼の地を代表する品種を選び、その中でも高品質を栽培し続ける「赤ずきんちゃんおもしろ農園」さんから直送しなければならなかったのです。違った表情をみせるイチゴに、レモンとソルベが加わり、オリーブオイルを加えたイチゴジュースをそそぐ。一つの器の中で、それぞれが奏でられた時、このデザートが皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことになるでしょう。

 プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+1,000円にてお選びいただけます。

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シャンパーニュメーカーズディナー「THIÉNOT(ティエノー)のご案内です。≫

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 シャンパーニュ地方・ランスに1985年に誕生したシャンパーニュメゾン「ティエノー」。そのシャンパーニュは保守的ではなく、常に新しい独創性を求める現代的スタイルです。創業者・アラン・ティエノ、長男スタニスラス、長女ガランスの3名による家族経営のシャンパーニュメゾンで、それぞれの名を冠したシャンパーニュがあるのも特徴のひとつです。また、アーティスト「スピーディー・グラフィット」とコラボレーションしたマグナムボトルはそのデザイン性から多くの反響を生みました。今回が初来日のガランス女史をお迎えし、豪華シャンパーニュディナーを行います。ラインナップはデザインの異なる1stと2ndの「スピーディーグラフィット」。また、それぞれの名前を冠したファミリーシャンパーニュをお楽しみいただきます。

 

Benoitシャンパーニュメーカーズディナー「THIÉNOT(ティエノー)

日時:2019530()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

<ラインナップ>

NV  SPEEDY 1st Edition Magnum

NV  SPEEDY 2nd Edition Magnum

2008  Millesimé

2007  Cuvée Stanislas, Blanc de Blancs

2008  Cuvée Garance, Blanc de Noirs

2007  Cuvée Alain Thiénot

 

≪ミュージックディナー「三味線プレイヤー 史佳」のご案内です。≫

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 津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。それがためなのか、初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生し、今は二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー「史佳 Fimiyoshi」さん。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まっています。その前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。

 

Benoitミュージックディナー 「三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi ≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

≪史佳Fumiyoshi プロフィール≫

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≪余談ですが、2019年の「干支」のお話です。≫

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 古代中国の賢人の英知の結晶でもある「干支」。なぜこの漢字なのか?もちろん、自分は占い師ではなく、漢字の語源から読み解いてみたものです。添付の画像は、今年早々に撮影したものです。そして、ブログの中には昨年の初夏の画像。なぜ「ユズリハ」を干支の話で選んだのか?この理由も理解していただけるはずです。

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 早乙女(さおとめ)、早苗(さなえ)など、「さ」を冠するものは、田の神がかかわる神聖なものという意味が込められているそうです。「桜」は「サ(田の神)・クラ(座る)」であり、春に山から舞い降りた田の神が降り立つ木なのだといいます。これを祝うお祭りこそ、今の「花見イベント」のルーツなのだとか。その後、田の神はカカシに宿り田を見守る、そして10月の神嘗祭で山に帰るのです。農耕民族の日本人にとって、稲作が生活の糧、この桜の開花が、田植え前の田起こしの目安であり、まさに仕事始めお知らせです。桜咲く中での学校の卒業式、桜の花びらが舞う中での入学式、会社での入社や異動など…この時期につきものの出会いと別れ。感情が交錯する節目として日本人が選んだのが、春でした。海外では夏前に卒業、9月に入学することが多いシステムの中で、日本人が春に固辞する理由がこの辺りにある気がいたします。

 桜もソメイヨシノから八重桜へ移りつつある今日この頃。十人十色の想いの詰まった百人百様の人生がスタートしていることと思います。このような時だからこそ、自分の人生はもちろん、身近な方の人生にも溢れんばかりの幸せが訪れるように、声に出して祝してみてはいかがでしょうか。日本には「言祝ぐ(ことほぐ)」という美しいことばがあります。声に出すことで実現するという、古来より信じられてきた言霊思想。新たな門出を、出会いを言祝いでください。きっと素晴らしい一年を迎えることができると思います。「言祝ぐ」は「寿ぐ(ことほぐ)」へ、そして「寿(ことぶき)」と姿を変え、今に生き続けています。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、皆様の新たな門出が幸多きことを、遠く青山の地よりお祈り申し上げます。書くだけでは効果は不十分でしょう。続きは皆様と再会した際に、お会いできる時を、心待ちにしております。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特選食材「グリーンピース」のご案内です。

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 日本でもお馴染みの春食材の「グリーンピース」。ところが、缶詰の普及がこの食材への偏見を導き、好き嫌いの多い食材になってしまったことは否めません。しかし、鮮度の良いグリーンピースの美味しさは格別で、春にしか楽しむことができない旬の味わいです。

 国産の食材を愛する自分ですが、今回ばかりは驚きの美味しさを誇る、地中海の太陽をさんさんと浴びて育ったイタリア産に席を譲るしかありません。船便では間に合わないため、飛行機で運んできた逸品です。もちろん、品種が違うといえば違うのですが、あまりにも国産を凌駕する甘みのある美味しさは、一食の価値あり。生の鞘(さや)を口にすると、鞘の筋が口中に残るものの、春らしい甘さを堪能しながらポリポリと食べることができるのです。鞘がそれほどまでに美味しいということは、中の粒粒は言うに及ばずでしょう。

 

 グリーンピースそのものをお楽しみいただきたいので、余計なことはしない、その美味しさを十二分に引き出した、とろりとした緑美しいスープへと仕上げます。コクのある甘みに満ちた味わいは、過去何人もの「グリーンピース嫌い」の方々を「好き」へと導いた実績があります。しかし、粒のみで仕上げてしまうと、あまりにも豆の甘さが際立ってしまうため、ほんの少しの「鞘」を加えます。ハーブではなく「鞘」です。もともと同じものだからこそ、その相性は抜群であることは間違いありません。

 さらに今回は、さらなる美味しさを追求するがために、北海道のフレッシュチーズ、それもフランスのフロマージュ・ブラン「Brise de mer Faisselle (ブリーズ・ドゥ・メール フェッセル)」とのマリアージュをお楽しみいただこうと思います。以前にブログにてご紹介しました「Benoitデザート物語」

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 ここでは、フランスのエグゼクティブシェフチームとの新作デザートをめぐる息詰まる攻防?を書いてみました。料理を担うMatthias HAHN(マティアス)とデザートのJean-Marie HIBLOT(ジャンマリ)。彼らがBenoitに来た2日目の朝、実は自分が二人にこのフレッシュチーズを試食してもらったのです。そして、「美味しい」との評価を獲得。何かを画策していたわけではなく、ただ日本のフレッシュチーズを自慢しただけのつもりだったのですが。キッチンに入ったマティアスの一言、「今Benoitに、日本の美味しいフレッシュチーズがあるが、なぜ使わないのか?」。これが転機となったのです。このフレッシュチーズの詳細は以下を参照ください。

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 グリーンピースが完熟したものが「えんどう豆」。グリーンピースの前、まだまだ実がなりたての若さやの状態が「絹さや」です。まさに出世魚ならぬ出世豆なのです。未熟だから栄養が貧弱かと思いきや、このグリーンピースの栄養価はまさにエリート級です。豊富なビタミンB群は糖質や脂質の代謝を盛んにし抵抗力を、さらにビタミンCとの相乗効果で感染症から守ってくれます。特筆すべきはカリウムと食物繊維の豊富さです。便秘解消、生活習慣病の予防にも最適。まさに春の美容と健康のためにあるような食材です。

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチでは5月末まで(予定)、ディナーでは4月末まで(予定)、ともに追加料金なくお選びいただけます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬
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