kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit「一夜限りの≪夏食材の饗宴≫」のご案内です。

 2019年6月7日に気象庁が「関東梅雨入り」を発表いたしました。艶やかに咲き誇った春の花々の色は、晩春を迎えるにつれ黄色へ、そして紫へ。そして、初夏の梅雨時期前後は、なにかと白い花が目に入るものです。街路樹で目にする「ヤマボウシ」、地表を飾る梅雨を告げる花「ドクダミ」、そして今まさに咲き誇っているのが「クチナシ」。厚みのある花びらを、濃い緑の葉が生い茂る中でいっぱい広げる大きな花は、まるで和菓子の「ねりきり」のようです。

f:id:kitahira:20190618160508j:plain

 日本の「三大香木」とは、春の「ジンチョウゲ」、夏が「クチナシ」、秋は「キンモクセイ」。「ジンチョウゲ」と「キンモクセイ」は芳しく、ある種の爽やかさを感じる香りのため、芳香剤などでも採用されているのを目にすると思います。「クチナシ」はというと、この花の前に立ち止まった時、その理由がわかっていただけるのではないでしょうか。曇天の中、色濃い緑の葉が生い茂る中に、白さ輝く花びらを大きく開く美しさ。その花のまわりに漂う甘い香りは、バニラビーンズを贅沢に加えて作ったカスタードクリームのような…まだクリームが温かい時のあの香り。湿気の多い時期だからこそ、濃密に感じるのでしょうか。うっとりとする妖艶なこの香りが、部屋中に満ち満ちていることを想像すると、やる気の全てを削いでゆき、リラックスしすぎる、ただただこの香りに溺れてゆく自分の姿が目に浮かびます。

 日本原産のクチナシ。秋には結実するも、果実が裂けないために、「口無し」な実なのだと。これが命名の由来だともいいます(※もちろん諸説あり)。この実を乾燥させたものは、「山梔子(さんしし)」や「梔子(しし)」とよばれ、漢方の生薬として活用され、真っ白な花からは想像もつかない、赤みがかった黄色の「梔子(くちなし)色」の染料へ。さらには、染物ばかりではなく、和菓子やたくあんなどの色付けにも使用されています。

f:id:kitahira:20190618160456j:plain

 残念ながら、花から魅惑の香の成分は抽出できていません。しかし、その果実は漢方薬に、染料に、食品添加物へと、用途は多岐にわたります。さらに、花も果実も樹本体も、まったく使用せず、ただ実を象(かたど)ったものが、将棋盤の足に。「クチナシ」は「口無し」であり、第三者は口出し無用という意味が込められているといいます。

 棋士にとって今後の明暗を分かつことになる真剣勝負に、自由気ままに口出すことの煩(わずわら)わしさ。何も将棋の世界に限らず、何か真剣に取り組んでいるときに、横から茶々を入れられる経験をされている方は多いのではないでしょうか。レベルの違いはありますが、想いは同じです。聞き流せば良いのですが、なかなかそうはいかないものです。なぜか?言葉の持つ力を、我々日本人が信じているから、煩わしさに加えて何かの想いに駆られるのでは?「言霊(ことだま)」という考え方です。

 言葉には霊力が宿ったおり、口に出すことで実現してゆくという、「言霊信仰(ことだましんこう)」というものを、知らず知らずに信じているからなのでしょう。「祝詞(のりと)」や「忌言葉(いみことば)」のような宗教的な雰囲気は薄くなりつつも、今なお我々の生活に根付いているものです。例えば、結婚式などで「別れる」「割れる」、何かの契約の時に「流れる」などの言葉の使用を避けるようにします。宴席の時においても、「終わり」ではなく、これから発展する意味を含む「お開き」と。何の確証もないのですが、口に出すことはもちろん、書面に「書く」場合にも同じような思いを抱いているのです。オリンピック選手やプロスポーツ選手の小学校の時の寄せ書きなどを振り返ると、しっかりと「将来の夢」に、今の姿を書いている。口に出す、書き記すことで、夢が夢ではなくなり、実現してゆくのです。努力を続けチャンスを掴みと本人の実力の賜物ではありますが、何か「言霊」の力を信じたくはなりませんか?

 

 「言祝ぐ(ことほぐ)」とは、言葉によって祝福の気持ちを伝えること。ここから「寿(ことぶき)」が誕生しています。そこで、四季折々に姿を見せる旬の食材には精霊が宿り、その満ち満ちた栄養によって我々を養ってくれる。栄養ばかりではなく、その美味しさも言うに及ばず。Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、旬の食材を使い、一夜限りの「夏食材の饗宴」を、Benoitで開催することを、クチナシではなく「言霊の力」を借りて皆様に言祝がせていただきます。

 開催といっても、ミュージックディナーのように、何かイベントがあるわけでありません。通常通りのディナー営業です。しかし、この一夜だけは、シェフのセバスチャンが、「今、これを食せずして夏は始まらない」という思いを込めて旬の食材を使い組み立てたコース料理のみご用意いたします。Benoitディナーの営業時間内のご都合の良い時をご指定いただき、ご予約いただけると幸いです。

f:id:kitahira:20190618160459j:plain

Benoit特選メニュー「一夜限りの≪夏食材の饗宴≫」

日時:201971()17:30より(21:00LO)Benoitの営業時間内にお越しください。

コース料金:お一人様 9,800(税サ別)

※ご予約をご希望の際は、自分へメールをお送りいただくか、Benoitへご連絡をいただけると幸いです。何か質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

いったいどのような饗宴となるのか。夏を代表する旬の食材は、日持ちのするものが少なく、食材を厳選し、手に入るかどうかの確認をとるのもなかなか難儀な作業でした。よほど天候不順などの問題がなければですが、食材が決まり、シェフのイメージするコース料理「夏食材の饗宴」メニューをご紹介させていただきます。食材の都合により、直前に変更になる場合もございます。ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

Menu de saison du CHEF “C’est l’ÉTÉ !! ”

≪一口の前菜≫

スウィートコーントマトのスープ

≪前菜≫

(仮称) イタリア産アーティチョークのバリグール

≪魚料理≫

(仮称) Benoit風ブイヤベース オマール海老/カサゴ/シマアジ/ホタテ貝

≪肉料理≫

(仮称) ウサギモモ肉の煮込み マスタード風味 福井県六条大麦

≪デザート≫

(仮称) 宮崎県綾町より完熟マンゴーのタルト

 

※苦手な食材や、アレルギー食材が組み込まれている場合には、お教えいただけると幸いです。アレンジするか、別の料理を提案させていただきます。

 

 今回のメニューを鑑み、シェフソムリエの永田から、「料理とワインのマリアージュ」の提案です。シャンパーニュ、白・ロゼ・赤ワインの計4杯のセットで、お一人様7,000(税サ別)にてペアリングをご用意しようと思います。

NV  Louis Roederer   Brut Premier 

2012  Pessac-Léognan  Cteau Latour Martillac

2015  Côtes de Provence rosé « Garrus »  Château D'Esclans

1995  Charmes-Chambertin grand cru  Charles Noëllat

 最初のシャンパーニュと、殿(しんがり)を担う赤ワインについては、コメントの必要はないでしょう。シャンパーニュの中でも確固たる地位を得ている逸品「ルイ・ロデレール」。そして、ブルゴーニュ地方のChambertin村で、特級を名乗ることのできる「シャルム・シャンベルタン」というだけでも心躍るものですが、今回は24年前にブドウを摘み醸されたもの。もともとが美味なるワインを醸す地に加え、「時」だけが成せる魔法によって、どのような「旨味」に変わってゆくのか?皆様に教えてくれるはずです。

 2つ目のボルドーの白ワイン。ボルドー地方に於いて赤ワイン銘醸地で名を馳す「Médoc」地区。1855年のワインの格付けが行われた中で、Château Haut-Brion以外は全てこの地区から選ばれました。では、前出のワインはどの地域かというと、Médocから少し河を上ったところに「Grave」地区があり、この中でも美味しい赤ワインを醸す地が「Pessac-Léognan」です。ボルドー=赤ワインという図式が我々を占有する中で、赤ワインだけで「商売は成り立つ」でしょう。しかし、白ワインを醸すのはなぜか?美味なるワインに仕上げる自信があるからです。

 世界で醸されているロゼワインの9割以上が「辛口」。その頂点に君臨しているのではないかと思う逸品を醸しているのが、プロヴァンスに居を構えるChâteau D'Esclansです。金持ちが道楽で作っている、名ばかりの商売っ気の無いワインではありません。商売のため、多種多様に及ぶワインを買い付けるのが「バイヤー」であり、彼らの審美眼が価格に反映されます。そのプロがGarrusというロゼワインに、世界最高値をつけました。ネットで調べてみてください、きっと驚かれることでしょう。最高のロゼワインを追い求め、辿り着いた境地ともいうべき逸品です。

 この豪華なラインナップのご用意のため、14名様限定です。ご希望の場合はご予約の際にお伝えいただくと幸いです。当夜にご希望の旨をお伝えいただけることも可能ですが、前回はご希望に添えない方が多くいらっしゃったため、事前にお伝えいただくことをお勧めいたします。

 

 以下に今回のメニューや食材について、どれほどのものか自慢をさせていただきます。参考までに、Benoitシェフのセバスチャンは、生まれはBretagne(ブルターニュ)地方ですが、育った地はProvence-Alpes-Côte d’Azur(以下プロヴァンス)地方。そう、人は、食べたもので成り立つとはよく言ったもので、幼少の頃より口にしてきたものが、そのまま料理のお手本となるのです。これは、セバスチャンに限ったことではありません。巨匠アラン・デュカスも例外ではなく、ランド地方の四季折々の食材豊かな地で、子供のころに食べ馴染んだ母親の手料理が基本になっているのだと、本人も言っているのです。彼の料理哲学である「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」の原点は、幼少時代に育まれていったのでしょう。アラン・デュカスの元で研鑽に励み、食に対するノウハウを叩き込まれるも、根本になるのはセバスチャンの育った地であるプロヴァンス地方です。あらましは以下を参照ください。

f:id:kitahira:20190618160511j:plain

今回は道のりの長いコースを組み立てたため、前菜の前の「小さな一品」としてご用意するのは、「トウモロコシ」のスープです。初夏を代表する食材であり、甘く美味しいトウモロコシの美味しさは、誰しもが知るところ。しかし、収穫後1日経つと、糖度が0.5度も落ちるといいます。そう、鮮度を最も意識しなければなりません。そこで、すでに始まっているトウモロコシは、宮崎県綾町から始まり。香川県観音寺市へ移ろうとしています。桜前線ならぬ「Benoitトウモロコシ前線」の詳細は、以下のURLより「はてなブログ」をご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 ただし、トウモロコシの冷たいスープでは芸がありません。やはり夏ということもあり、旬の食材であるトマトを加えます。スウィートコーンの甘さとコクに、「トマト」特有の心地良い酸味とみずみずしさを加えます、いったいどのようなスープに仕上がっているのか、この美味しさの想像がつきますか。

 

 前菜は、初夏を代表する食材である「アーティチョーク」です。これまた初夏を代表する食材です。ホワイトアスパラガスを食せずして春は終われず、アーティチョークを食せずして夏は迎えられない、まさにヨーロッパの人々にとっての季節を迎えるための旬の食材です。日本でも栽培され始めていますが、まだまだ日本では馴染みの食材ではないため、栽培ノウハウが確立していないといいます。そして、栽培品種もぽてっとまるまるしたものが主流です。

f:id:kitahira:20190618160505j:plain

 今回は、海外の力を借り、南フランスの代表的なÉpineux(エピノー)という品種がイタリアから届きます。前述したぽてっとしたものは、湯がかれ後に、苞片(ほうへん)と呼ばれる花を包む一片一片を歯でしごくように楽しみます。今回の品種は、生のままで苞片はむしり取り、中央の花托(かたく)と呼ばれているところのみを調理していきます。ほくっとしながらそら豆のような風味があり、なんともいえぬ優しいほろ苦さを持ち合わせます。このアーティチョークと他の旬食材とともに鶏のスープで湯がかれ、心地良い酸味とコク、ブドウ特有の甘さをもつバルサミコヴィネガーで風味づけされます。北半球の古今東西を問わず、これから迎える夏を乗り切るために我々が必要としている栄養に満ち満ちた、それでいて野菜それぞれが美味しさを奏でる逸品です。

 

 今回の1つ目のメインディッシュは、南フランスを代表する伝統料理「ブイヤベース」を、Benoit風にアレンジしたものです。簡単に言ってしまうと、濃厚な魚の旨味を煮出したスープに、旨味の抜けきった魚介ではなく、別に用意していたものを旨味を逃がさないように焼き上げたものを具として組み合わせたものです。今回は、「Benoit風」なので、「オマール海老」に登場していただき、シェフ曰く「ブイヤベースの必須条件となるカサゴ」、そしてホタテ貝。今までにBenoitメニュー初登場の「シマアジ」が一堂に会するのです。

f:id:kitahira:20190618160518j:plain

 千葉県鋸南町(きょなんちょう)の勝山漁港は、房総半島の南端から西側に少し入った東京湾外湾に位置し、日本でも数少ない「シマアジ」養殖に成功した港です。この港からBenoitに直送されるシマアジは、鮮度があまりにも良いために、身の締まりと旨味は抜群で、お刺身でおおいにお楽しみいただきたい逸品です。これを、焼いてしまうという贅沢さ。オマール海老にカサゴとホタテ貝と、美味しい魚介として名を馳せた逸品の中で、遜色ない美味しさを放つ、いや勝るかもしれぬシマアジ美味しさを、ぜひBenoit風ブイヤベースの中で見出していただきたいと思います。

 

 メインディッシュ2つ目は、ウサギのモモ肉の煮込みの登場です。野ウサギではなく、もちろん愛玩動物でもありません。我々日本人には、ウサギを食す習慣に対する驚きとともに、敬遠する食材だと思います。ところが、フランスはもちろん、ヨーロッパの中では何も違和感のない食材のひとつなのです。フランス語では、lapin(ウサギ) とlièvre(野ウサギ)、まったく違う単語を使用するということは、日本のように、ただ単に「野」がつくのとはわけが違いうほどの馴染みの現れでしょう。Benoit東京では、過去に一度だけ「ウサギのモモ肉」がメニューに登場しました。時のシェフはダヴィット・ブラン、フランスのPoitou-Chanrentes出身です。

 日本人には、なかなか理解しにくい「ウサギ」という食材は、フランスでは馴染みのものであり、言うなれば「ソウルフード」なのです。ダヴィッドシェフ(現グランドハイアット東京副料理長)も、今のBenoitセバスチャンに話を聞いても、「昔懐かしい家庭的な食材」だといいます。鶏肉よりも脂が無く旨味が多いウサギモモ肉を、ブイヨンで煮込んでいく中で、ディジョンマスタードを少々。今回は、初夏に収穫を迎える旬の食材、福井県の「六条大麦」と共に皆様へ。ほろっと崩れるかのような肉質に、噛むほどに旨味が口中に広がる。さらに、リゾットのように仕上げた六条大麦が、ぷちぷちの食感と麦の香ばしい美味しさ、ソースと合わせた時の相乗効果は抜群です。

f:id:kitahira:20190618160453j:plain

「郷に入っては郷に従え」ということで、この機会のぜひお試しいただきたいと思い、メニューに組み込みました。

 

 デザートは初夏の食材を代表する、それも美味しいことであまりにも有名な、宮崎県綾町の「完熟マンゴー」の登場です。この食材の美味しさは、言うに及ばずでしょう。6月のBenoitでは、沖縄県西表島のピーチパインと組み合わせましたが、今回のイベントを含め7月は、「マンゴーのタルト」と銘打ち、綾町の完熟マンゴーを一人半分使用しようと思います。

f:id:kitahira:20190618160515j:plain

 今、Benoitシェフパティシエールの田中が、フランスと調整しているため、詳細を語ることはできません。しかし、今まで彼女の仕上げたデザートが、あまりにも美味しかったことを考えると、今回は昨年を上回る美味しさを誇る逸品に仕上げてくるのではないでしょうか。知りえる情報の中では、沖縄県糸満市の「パッションフルーツ」も組み合わせるようです。ご期待ください。

 

 梅雨によって目覚めた食材を使い、7月1日の一夜限りの「夏食材の饗宴」をご用意いたします。それぞれが個性的であり、夏の美味しさを内包した逸品食材が、一堂に会するこの一夜は、皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことでしょう。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

次回の開催日は未定ですが、10月に「秋食材の饗宴」を考えております。

 

以下は「言霊」について思うこと、余談です。

 自分が、サービス業を生業と定めて、はや20年ほど経つでしょうか。この職は、調理人のような「クチナシ(口無し)」な職人気質ではまかり通りません。今の時代を鑑みても、「美味しい料理」を調理すれば、店が成り立つ時代ではなくなっている気がいたします。都内星の数ほどもあるレストラン、美味しい料理を提供するお店を探すことには困りません。そう考えると、Benoitが美味しい料理やデザートを準備するも、皆様にお伝えしBenoitにお越しいただく、さらにはメニューの中より勧めの逸品をお選びいただくには、やはり自分のような職業が必要なのでしょう。

 実際に、自分は何も調理することもなく、タマネギの皮をむくような手伝いもしていません。調理人のこだわりや苦労を見聞きし、どのような料理に仕上がっているかを、分かりやすく面白くお伝えすることを目指します。料理とは「理(ことわり)」を「料(し)る」ことだといいます。自分の職業は、ただただ「言霊」の力を借りて、皆様に料理人の「料理への想い」を伝えること。こう考えると、言葉遣いには注意しなくてはなりません。言霊は、話し言葉はもちろん、その延長にある書き言葉にも宿るはず。この長文レポートもまたしかり。

 

しきしまの 大和の国は 言霊(ことだま)の 幸(さき)わう国ぞ ま幸(さき)くありこそ  柿本人麻呂万葉集より~

f:id:kitahira:20190618160522j:plain

 日本という国は、言霊によって幸せになっている国です。これからも幸多きことを願います、と伝えたいのでしょうか。古人は、「美しい心から生まれる言葉は、その言葉通りの良い結果を実現する。しかし、乱れた心から生まれた粗暴な言葉は災いをもたらす。」と信じていました。今回の歌は、スケールが違うようです。柿本人麻呂は「日本国」は言霊によって幸福を得ているというのです。八百万の神々への感謝、四季折々の自然への感謝、その恩恵に授かる山の幸に海の幸に感謝する。この美しい心を持った皆々が、美しい言葉を口にしているという自負があるからこそ、大和(やまと)は「幸わっている国」なのだというのです。※画像は勝山港から望む夕日です。

 時代時代に、新しい言葉が生まれるのはもちろん、多少の文法や言葉遣いが崩れるのも、よほど行き過ぎでなければ理解できるものです。しかし、誹謗中傷がはびこるネットの世界や、やじの飛び交う会合など、およそ「幸わう国」とは乖離したものに感じます。「令和」とは「美しい(令)」「調和(和)」ともとれます。古人の英知を鑑み、美しい言葉を意識して日々過ごしてみてはいかがでしょうか。きっと住み良い環境が、生まれてくる気がいたします。皆で「言祝ぐ」ことも、また一興かと。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit「トウモロコシ前線」北上中です。

 桜前線に一喜一憂していた時期も遠い記憶となり、今は日々の天気が気になる梅雨の時期。我々が憂鬱に感じる曇天や雨天も、見方を変えると恵みの雨でもあります。生きとし生けるものにとって欠かすことのできない「水」を、動植物にもたらしてくれるのです。春の陽射しに誘引され咲き急いだ花々も、一息つくかのように体に瑞々しさを補う時期。さらには、夏の猛暑に向け、つかの間の休養期間なのかもしれません。「翠雨(すいう)」とは、この時期らしい美しい表現ではないですか。

 

 さて、今回はBenoitのメニューに登場している、この時期らしい前菜、「とうもろこしの冷製スープ 北海道のフレッシュチーズ“フェッセル”」のご案内です。というよりも、このスープに使用している「トウモロコシ」のご紹介としたほうが良いかもしれません。

f:id:kitahira:20190617231038j:plain

 初夏を代表する食材であり、甘く美味しい「トウモロコシ」の美味しさは、誰しもが知るところです。さらに、今旬を迎えているもう一つ、「トマト」を加えます。甘くコクのある冷たいコーンスープに、トマトが心地良い酸味と爽やかさを与えます。そこに、まろやかさを加える北海道のフレッシュチーズ。北海道のフレッシュチーズがどれほど特選食材なのか?以下のブログに思いのたけを記載させていただきました。お時間のある時に訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 今回の特選食材である「トウモロコシ」は、我々にとって馴染み深い食材です。しかし、意外に知られていないことに、収穫後1日経つと糖度が0.5度も落ちるというのです。そう、鮮度を最も意識しなければなりません。さらに、1地域1品種では1週間ほどという収穫期間なのです。そこで、今期のBenoitは「トウモロコシ前線」を作成し、購入させていただいている逸品が届く地を、南から順を追ってご紹介していこうと思います。皆様がBenoitへお越しいただく日には、どこの地域なのか?

 

 今月当初は豊洲の助けを借りましたが、先週から宮崎県の「綾町」のトウモロコシが届いています。この地は宮崎県のほぼ中央に位置し、宮崎市から西へ20km、大淀川支流の本庄川をさかのぼった中山間部。町の約80%が森林で、それも日本一の照葉樹林を形成しています。さらに、この恵まれた環境は、名水百選にも選ばれる水源を生み出しました。自然豊かな環境で育てられた農畜産物の美味しさは県内外に知れ渡り、多くの観光客が彼の地を訪れているそうです。ただ自然豊かだから美味しい?

f:id:kitahira:20190617231101j:plain

 「自然生態系を生かし、育てる街にしよう」、これは綾町憲章です。この基本理念を実践すべく、なんと30年以上も前から町全体で有機栽培に取り組んでいる地なのです。見た目に美しく効率よく大量生産をめざす飽食の時代に、まさに逆行するかのような行動に出たのが、当時の綾町の町長でした。1988年(昭和63年)、「綾町自然生態系農業の推進に関する条例」が制定されました。「わが綾町は~中略~先人の尊い遺産である照葉樹林の自然生態系に恵まれ限りない恵を享受してきた。~中略~今日の経済社会の諸情勢は、我が国の農林業を厳しい環境に落とし入れようとしている一方、食の安全と健康を求める消費者のニーズは、日本農業に大きな期待と渇望のうねりが生じつつある。~中略~消費者に信頼され愛される綾町農業を確立し、本町農業の安定的発展を期するため、本条例を制定する。」(詳細は綾町役場のHPを参照ください)。

 「有機栽培」、いまではこの言葉が独り歩きをしてしまい、ありがたい文言として其処彼処で見かけることができます。なぜ、この言葉の響きに魅力があるのか、今の自然生態系を鑑みず、近代化・合理化の名のもとに、利便性と効率を追求しています。全ての企業が求めていることで、決して否定することは致しません。しかし、これがために、自然生態系が壊れることになりました。安心安全を求めているようで、かえって自然自体が持っている浄化能力を阻害し、生きとし生けるもの自らが持ち得る抵抗力をも低下させることに。結果、さらなる薬剤が必要になり、それが我々に還ってきます。だから、今は自然の生態系に習い、農薬を減らした「有機農法」を実践しています。いうなれば、現代のノウハウを生かしながら、古人の農法に戻ろうということなのです。

f:id:kitahira:20190617231104j:plain

 綾町に畑を有する福重正直さんご一家の手掛ける「福じいさん」ブランドのトウモロコシ。ひたに有機栽培を実践することで、すでに畑は生物の楽園と化していることでしょう。代々引き継がれてきた農のノウハウを、正直さんからご子息の龍さんへ太陽さんへと。どれほどの自信をもってBenoitに送り出してくれたことか。後日送っていただいた彼らの輝かしい笑顔が、その証ともいえるのではないでしょうか。除草剤不使用に加え、土作りも堆肥から。広大な照葉樹林から湧き出でる名水と自然の生態系を生かした良質な土から育まれた、まさに自然の摂理を尊重する自然生態系農業を実践する「福じいさん」のトウモロコシが、美味しくないわけがありません。

f:id:kitahira:20190617231107j:plain

 

 トウモロコシ前線の北上は、「時」を待ちません。宮崎県綾町から香川県観音寺(かんおんじ)市に移動します。愛媛県との県境に位置しているこの地は、北は中国山地、南は四国山地讃岐山脈と、自然の要害により暴風に守られるばかりか、瀬戸内海に面していることで、比較的穏やかな気候が特徴です。そこで、Benoitでは彼の地に畑を有する三豊セゾン(みとよせぞん)さんからトウモロコシを送っていただいていております。

f:id:kitahira:20190617231045j:plain

 この三豊セゾンさんは、地域高齢化や後継ぎ問題など、地元の大切な農地を耕作せずにいる遊休農地を生かしていこうと考え、さらに農家も安定収入を得ることができるよう、平成5年に法人を設立しました。矢野匡則さんを代表とし、「農業を通して、心を豊かに、暮らしを豊かに、大地を豊かに」を目指します。四季折々(saison仏:季節)の恩恵に授かりながら、3つの豊かさの実現へ。矢野さんが社名に託した意味を、もうご理解いただけたのではないでしょうか。

 農地は1年耕作を止めてしまうと、復活に10年かかると言われていります。この大切な地を守りたい一心に、遊休農地を借り受けることで規模を拡大し、今では9haの水田をはじめ、26haにおよぶ野菜畑を手掛けています。さらに、農作業の受託の地は20haほど。そして、学校給食へ食材の納入に加え、効率の良い販売経路の模索に取り組んでいます。この野菜畑の中に、今回の特選食材「トウモロコシ」が入っています。

f:id:kitahira:20190617231033j:plain

 画像の男性こそ、この法人の代表を務める矢野さんご本人です。自ら動き畑にて自然と対峙する姿に共感を覚え、同志が集う。彼の采配のもとで、次なる高みへの挑戦が始まるのです。「三豊セゾンは、自然の恵みに人間の知恵をプラスして、できる限り薬に頼らない野菜作りをしている香川県農業法人です。地域の環境や人間にやさしい、安全で美味しい農産物を生産することにこだわりながら、新しいスタイルのアグリビジネスを目指しています。」と、コメントをいただきました。

f:id:kitahira:20190617231041j:plain

次なる地は、少しだけ北上し香川県高松市香南町へ。ここはグリーンアスパラガスの「さぬきのめざめ」でお世話になった、「薫る農園」の河田薫さんから、まもなくトウモロコシの「ゴールドラッシュ・ネオ」という品種が届こうとしています。まだトウモロコシに対する彼女の心意気は伺ってはおりませんが、アスパラガスへの想いがどれほどのものか?以前に「はてなブログ」に記載しております。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。アスパラガスに対しても、トウモロコシに対しても、彼女は全く変わらないものと考えております。

kitahira.hatenablog.com

 

 トウモロコシ前線は、自分が思った以上に、急ぎ足で北上していくようです。トウモロコシの1品種が、おおよそ1週間で収穫を終えることを考えると、致し方ないのかもしれません。今後の予定では、岐阜県を経由して、神奈川県へ。さらに岩手県へと向かい、最後は青森県へと向かう予定です。今、Benoitに届いているトウモロコシが、どの産地なのか?こればかりは、Benoitへお越しいただくときのお楽しみです。いずれの地にしても、こだわりのある栽培者が、丹精込めて育て上げた逸品であることに間違いはありません。料理には料理人の想いが込められ美味しさを増します。食材は栽培者の想

f:id:kitahira:20190617231806j:plain

いがあればこそ、美味しく元気に育ってゆきます。産地が重なり合いながら、北上を続けるBenoit「トウモロコシ前線」の取り組みは、まだまだ始まったばかり。どの地の生まれであっても、Benoitは皆様に最高のトウモロコシを、大いなる自信をもってご案内いたします。

 

 暦の上でも「入梅」を迎え、何かと不安定な天気が続く日々です。日差しが照り付ける中でも、暴風雨の中でも、収穫の時は待ってはくれません。どれほど、過酷で危険を伴う収穫作業になることか。Benoitに食材を送ってくださる皆様の想いを無駄にしないよう、最高の品質を損なわないよう最善を尽くします。そして、感謝の想いを込め、ありがたくいただかせていただきます。

「いただきます。」

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoitミュージックディナー「三味線プレイヤー≪史佳Fumiyoshi≫」の再案内です。

 日本に根付く歳時記の世界は、農作業の暦であり、古人の英知の結晶ともいえます。カレンダーという便利な代物に頼ってしまったがために、ついつい見過ごしてしまいがちな変わりゆく自然の機微を、昔の人々は読み取り、農作業の目安にしていました。我々日本人が、桜の開花を待ち望み、桜前線に一喜一憂するのはなぜなのでしょうか。理由は多々あるかと思いますが、「日本人が農耕民族である」ことが大いに関係している気がいたします。

 「農耕の神」を指し示す言葉は「さ」なのだといいます。その神が山より里へやってくることで、無事息災に稲が育つ。実りの時期を迎えた後に、神は山へと帰ってゆくのだと考えていたようです。春、山よりいでし「農耕の神(さ)」が、宿る場所が、「座」を意味する「くら」なのだといいます。桜は「さ・くら」であり、神が降り立つ場所が「桜」だと。花咲く頃に神が宿り、豊穣を祈りお祝いをすること、これが花見のルーツなのだといいます。桜の開花に心躍る心地がするのは、古人の想いが、今なおDNAに刻み込まれているからなのでしょう。この桜の開花を目安に、「耕(たがえし)」「田打ち」とよばれる、田の土を起こす作業が始まります。北の地では桜の開花が遅いため、コブシが桜の代わりでした。そのため、コブシを「田打ち桜」と呼ぶのは、このような理由からなのです。

 稲作の農耕民族であるがゆえに、桜の開花が仕事始めのタイミングです。その名の如く、「田を起こし」た後に「畔塗(あぜぬり)」、別で「苗代(なえしろ)」をこしらえると同じく、「種浸し」そして「種蒔(たねまき)」と。田植えの準備が整うことで、田に水を引き込む作業が始まります。今でこそ、機械化が進み、耕運機や田植え機が活躍することで、時間短縮を図ることが可能となりました。しかし、稲を育むのは太陽であり大地であるため、栽培手順の流れは今も昔も変わりません。今は、隅々まで代掻きが行われた田に水を引き込み、再び耕す「代掻き(しろかき)」へ。ビニールハウスのない時代にあっては、発芽に必要な温度を見極めながら苗代を作り上げる作業を並行しながらの、なかなかの重労働だったことでしょう。

f:id:kitahira:20190605113817j:plain

ますげ生(お)ふる 荒田に水を まかすれば うれしがほにも 鳴くかはづかな  西行

 真菅(ますげ)とは、今は懐かしい菅笠(すげがさ)や蓑(みの)の原料となる、スゲ属の草本(そうほん)で種類は豊富。まだまだ手が回らず、真菅が生えている荒田。この田に水を引き入れると、必ず嬉しそうに蛙が鳴き始めることだなあ。この情景は、間違いなく今も変わりません。

f:id:kitahira:20190605113903j:plain

 日本有数の米どころである新潟県。広大な越後平野を有し、豪雪地域ならではの水資源の豊かさが、この名声をもたらしたのでしょう。先日、鹿児島県のある農家さんが、田んぼの休眠期である晩秋から、特産でもある「そらまめ」を植えることで二毛作を行っている話を耳にいたしました。なるほど、マメ科の植えることで、田にも良い影響がでるのだと。ところが、新潟県で「二毛作」は、雪に覆われる地ゆえにまったく不可能なこと。春を告げる「梅」が花開く時期も遅ければ、「桜」もまたしかり。

 冬の間、日本海から湿気のある風が越後山脈にぶつかることでもたらされる大雪は、豊富な雪解け水を確保する利点はあるものの、人々は長く厳しい冬の期間を過ごすことになります。寒冷な期間が晩春まで続くのかと思いきや、新潟県では春が急ぎ足で訪れます。南から吹き荒れる春の風が、越後山脈を乗り越える際に「フェーン現象」を引き起こし、いっきに気温が上がってくるのです。関東では、梅が咲いた後に、桜の開花が待ち遠しくなる「間」がありますが、新潟県では意外に短いものです。そして、米どころだからこその多忙を極める日々が到来いたします。

f:id:kitahira:20190605114023j:plain

 今か今かと待ちわびる春告げる「鶯(うすいす)」の初音(はつね)で、仕事始めに対する心の準備を整え、蛙の鳴き声を耳にすることで、いざ向かう「田植え」という一大作業へ向かう心を決めるのでしょうか。関東ではGW前に田植えが始まりますが、新潟ではその後です。順に、田に水を引き込み、代掻きを行う。陽が暮れ始める頃には家路につきます。人々で賑わいのあった田も、夕刻には静まり返り、耳にするのは嬉しそうに合唱する蛙の初音。目覚めさせてくれたお礼なのか、まだまだ続く農作業への励ましなのか?「蛙の初音」は、今も昔も変わることのない新潟の春の風物詩です。

 

際会(さいかい)

~ 出会うこと。優れた人物などにめぐり合うこと。~

 

 今回、皆様に「際会」していただきたいイベントは、Benoitの「初音」です。4月にもご案内をしましたとおり、2019年は三味線の音色から始まります。三味線といえば青森県の「津軽三味線」を皆様は想い描くことでしょう。三味線を芸能音楽として大成した地であり、「叩き三味線」という奏法も生み出しました。さらに、彼の地に異彩を放った一人の天才が誕生することで、津軽三味線がさらに名声を博すことになります。彼こそ、音を聞き、奏者の想いを込めた音で応える「弾き三味線」を確立した、高橋竹山師です。そして、この竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと誕生したのが、「新潟高橋竹山会」。新潟県?そう津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。なぜ?新潟県に。自分なりに解釈した理由を書いてみました。お時間のあるときに以下よりご訪問いただけると幸いです。

 

kitahira.hatenablog.com

 新潟県高橋竹山会は、二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤーが、2019年Benoitの初音を担っていただく「史佳 Fumiyoshi」さんです。昨年4月のBenoit初開催は、大好評の下に終わり、ご参加の皆様より再演を求められておりました。しかし、彼の演奏を待ち焦がれるのはBenoitだけではなく、とうとう海外からも。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まりました。準備に余念がない中で、ついにBenoitで奏でることが決まったのです。

 

以下は史佳さんからのメッセージです。

f:id:kitahira:20190605114159j:plain

 「昨年、ブノアさん初の和楽ライブとして大勢の皆様に聴いていただきありがとうございました。大好評のお声とともに次の出演へのお問い合わせが多く、皆さまには大変お待たせいたしましたこと、お詫び申し上げます。Benoitで2回目となる史佳ライブ!皆様には極上のお食事との最強コラボレーションをお楽しみください。

この秋10月5日には、ニューヨークカーネギーホールでの演奏会も決まり、熱く燃えております。2019年、平成から令和へと新時代の幕開け。麗しき元号のスタートにあたり、三味線の新たな可能性にもチャレンジする今回のBenoitライブ。豪華なトップミュージシャンを率いて、最高のパフォーマンスをご披露いたします。

皆様とお会いできることを楽しみにしております。」 三味線player 史佳

 f:id:kitahira:20190414141105j:plain

Benoitミュージックディナー 「~際会(さいかい) 三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 

≪演奏曲のご案内≫

津軽よされ節

ふるさと〜津軽あいや節

秋田荷方節

門付け三味線

津軽じょんから節

越中おはら節〜こきりこ節

十三の砂山

弥三郎節

タイトロープ

ROOTS

即興曲津軽よされ節

※曲目・曲順は変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。

 f:id:kitahira:20190414141154j:plain

 絹糸が紡がれ「弦」となり、それが弾かれ音を成す。それが、弾かれることで旋律を奏でる時、音に色を帯び人々を魅了します。この音色というのは形を成さないため、はかなく消えゆく音色なれど、まやかしや幻想ではなく、しっかりと我々の心に響いてきます。文字ではなく、音色に込める奏者の想いに共感を覚え、人世になぞり、笑みをこぼすか涙するか、受け取る人の感じ様は十人十色。音色はデータ化することで色彩を失い、単色へ。なぜ、コンサート会場へ足を運ぶのか?データ化できない、生き生きとした色彩の深さや移ろいの「音色」を感じ取りにゆくのでしょう。

 カーネギーホールでの演奏の前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。今回のメンバーをご覧いただければ納得いただけるのではないでしょうか。

 

三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi

f:id:kitahira:20190605234739j:plain

 ふるさと新潟に拠点を置き、三味線プレイヤーとして国内外で演奏活動・講演活動を行っている。音の響きを大切にする“弾き三味線”奏法を得意とし、津軽三味線のスタンダード曲はもちろんのこと、近年は作曲家/アレンジャーの長岡成貢氏とともに新しい三味線の楽曲作りにも取組んでおり、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しいニッポンの音楽を目指して活動している。

 1974年新潟市生まれ。9歳より津軽三味線の師匠であり母でもある高橋竹育より三味線を習い始める。 2000年よりプロ活動をスタートし、新潟を拠点に国内外で演奏活動を行っている。ホールコンサートの他、国指定重要文化財等の日本建築等でも演奏会活動を行っており、2011年にはルーブル美術館にて日本人として初めて演奏を披露。 2001年に1stアルバム「新風」を高橋竹秀の名で、2003年には本名である小林史佳としてオリジナル曲を含む2ndアルバム「ROOTS TABIBITO」をリリース。 2006年リリースの3rdアルバム「Ballade」では弦楽四重奏との融合にも取り組み、三味線の楽器としての新たな可能性も追求している。 2010年には津軽三味線の名人・初代高橋竹山とかつて共に全国を廻った、民謡の生きる伝説・初代須藤雲栄師とのライブを収録した4thアルバム「風の風伝」(かぜのことづて)、2012年にはそれに続く5thアルバム「続 風の風伝」を“fontec” レーベルよりリリース。同年よりアーティストネームを“史佳Fumiyoshi”と改め、故郷新潟をテーマにしたオリジナル曲「桃花鳥-toki-」を発表。 2013年には自主レーベル“penetrate”を立ち上げ、全曲オリジナル楽曲のアルバム「宇宙と大地の詩」をリリース。2015年2月には、通算7枚目となるニューアルバム「糸際 ITOGIWA」を“fontec” レーベルよりリリース。初代高橋竹山津軽三味線の継承者として挑んだ、奥深いアルバムとなっている。

 2016年1月1日に、三味線ユニット「Three Line Beat(スリーラインビート)」を結成。幅広い年齢層からファンを獲得しており、そのライブパフォーマンスで観客を魅了する。

www.tlb.jp

津軽三味線瞬間芸術という領域に昇華させる独自の世界観を持つ、初代高橋竹山津軽三味線正統継承者。2011年フランスパリのルーヴル美術館にて、日本人として初めて演奏を披露し、現地の聴衆から「ブラボー」の大歓声が上がったといいます。さらに、2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決定しており、世界を席巻するであろう、新進気鋭の三味線プレイヤーです。

 

和田啓 ~レク~

f:id:kitahira:20190414141413j:plain

 幼少の頃から学んだ江戸里神楽をもとに独自の世界を表現するアジア系ハンドドラム奏者であり、作曲家、演出家。タンバリンの原型とも言われるアラブの打楽器「レク」をエジプト・カイロにてハニー・ベダール氏に師事。海外での演奏活動も多く、主なものには、95年能楽と民族楽器とによるヨーロッパ5カ国公演、96年奄美島唄とのジョイントグループ「天海」でのキューバ公演、2002年大津純子(バイオリン)オセアニアツアーに参加、佐藤允彦氏(ピアノ)と共にベトナム、オーストラリアなどで公演を行う。2005年ルーマニアポルトガルより招聘を受け国際交流基金助成事業としてRabiSari欧州コンサートツアー、2006年国際交流基金派遣事業として常味裕司氏と共にエジプト・アラブ音楽院でのエジプト音楽家との共演による古典音楽コンサートをともに成功させた。2009年ノース・シー・ジャズフェスティバルに佐藤允彦氏率いる「Saifa(サイファ)」のメンバーとして出演。2010年レバノンベイルートUNESCOホールにて常味裕司氏と演奏。

 1997年に、バリ仮面舞踊家たる小谷野哲郎とともに仮面舞踊劇団「ポタラカ」を結成、作演出を手掛ける。毎月一本の新作を書き下ろし、ライブハウスで約2年間上演していた。1999年江戸東京博物館にて「冥途の飛脚」(近松門左衛門作}の上演をきっかっけに「南洋神楽プロジェクト」として再編成し、中野シアターポケットなどで定期公演を重ねる。2001年にはジャワ島・バリ島のアーティストらと日本人による「真夏の夜の夢」をバリアートフェスティバルにて上演、好評を博す。

 作曲家としても数多くの演劇・映画音楽を手掛けており、2015年以降の主な作品は,、2015年「新・復活」(劇団キンダースペース、原作/トルストイ、脚本演出/原田一樹)、16年「静寂の響き」(船橋文化創造館きらら主催事業)。さらに演出作品が多数あるほか、2009年度より船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザーも務めている。

 

吉野弘 コントラバス

f:id:kitahira:20190414141700j:plain

 1975年に東京藝術大学音楽学部器楽科(コントラバス専攻)に入学、江口朝彦氏に師事。1980年、坂田明(sax)トリオに参加、以後、富樫雅彦加古隆山下洋輔板橋文夫塩谷哲など数多くのグループに参加する。 また現代音楽の分野での活動も活発で、故・武満徹プロデュースの" MUSIC TODAY "や「八ヶ岳高原音楽祭」に参加、2006年の東京オペラシティでの"SOUL TAKEMITSU"にも出演した。また2009年には間宮芳生書き下ろしの新作オペラ「ポポイ」、2011年には「間宮芳生の仕事」コンサートにも出演する。

 現在は、ベース・ソロと『彼岸の此岸』(太田恵資violin,鬼怒無月guitar,吉見征樹tabla)、『環太平洋トリオNEO』(津嘉山梢piano, 大村 亘drums &tabla)を活動の中心にしながら、大ベテランの中牟礼貞則guitarや渋谷毅pianoとのデュオも行なっている。 また下北沢レディージェーンでの作家の山田詠美奥泉光との " 朗読と音楽 "のセッション(太田恵資violin,小山彰太drums)は、毎回熱心なファンの待望するところとなっている。リーダー作品に「泣いたら湖/吉野弘志・モンゴロイダーズ」(2002年/ohrai)と、ベース・ソロアルバム「on Bass」(2004年/ rinsen music)、「吉野弘志 彼岸の此岸/Feeling the Other Side」(2013年/AKETAS DISK)が有る。

 

≪Rica ~パーカッション~≫

f:id:kitahira:20190605114440j:plain

 津軽三味線の古典曲には、カホンを使用し、小柄ながらにも叩き出すビートは力強く、三味線の音色に独自の感性をからめていく。ドラマーでありながら、様々なスタイルの音楽に体当たりで飛び込み、どん欲に自分自身の糧にしている。史佳Fumiyoshiの音楽性を鮮明に浮き彫りにし、色彩豊かに後押しするセンスは抜群である。

 

庄司愛 ~バイオリン~≫

f:id:kitahira:20190414141800j:plain

 桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業。演奏活動を行うほか、新潟市ジュニアオーケストラ教室、桐朋学園大学附属「子どものための音楽教室」、新潟中央高校等で後進の育成にも力を注いでいる。これまでに山宮あや子、奥村和雄、辰巳明子の各氏に師事。「トリオ・ベルガルモ」メンバー。

 

 史佳さんが、2018年にリリースした9枚目となるCDには「守破離(しゅはり)の絲(いと)」と銘打ってあります。以下は史佳さんのメッセージです。

 「守破離とは、伝統芸の世界で使われている言葉です。芸事は、まず型とうものが大切で、これを≪守≫ることから始まります。次にその型を≪破≫り、自分の型を模索して自己のスタイルを確立していきます。そして、最終的にはその自分のスタイルをも超越する、≪離≫れた境地に到達します。その境地は、まさに自由自在という領域であり、宇宙にも通じる無限の広がりなのです。私の演奏においては、そのような宇宙的な広がりのある、無限の響きの世界をつくりたいと思っています。」

 よく耳にする「稽古(けいこ)」という言葉。「稽」の漢字を調べてみました。「稽(かんが)える」、考証する、比較して調べる。「稽(と)う」、問い尋ねる。「稽(くら)べる」、比べて論争する。「稽(あ)う」、合致する。「稽(とど)まる」、遅延する。稽古とは、古人の英知の結晶でもある「型」を、体験することで今の自分との違いを稽(かんが)え、型に込められた古人の想いを稽(と)い、同志とともに現世との違いを稽(と)う。納得のゆく答えを見出すことは、型と稽(あ)うこととなり、これを会得するために稽(とど)まる。この無駄とも思える稽(とど)まる期間こそ、己をよくよく考察するに大切なこと。そして、この稽古の繰り返しが、時間はかかるものの、着実に自らをさらなる高みへと導くことになると伝えているのです。

 小さき頃より身近であった三味線を手にし、師である母に指導を仰ぐ。芸事の世界は、まさに「稽古」の積み重ねでしか会得できない「型」がある。綿々と成長を遂げながら受け継がれてきた先人達の英知の結晶でもある「型」を稽古によって身につける。まさに「守」以外に、輝かしい成長は望めません。型を疎(おろそ)かにし、「破」へ向かうことを「型なし」というようです。しっかりと型を「守」ることを続け、「破」ることで新たな高みへと誘(いざな)われるという。そして、型の延長線上で自分らしさが加わることで確立されたスタイルから、「離」れることで無限に広がる可能性の境地へと導かれるのだと。

 これは決して芸事だけの教えではなく、今自分が置かれている状況を稽えると、全てにおいて「守破離」の大切さを考えさせられます。「型なし」にならぬよう、稽古によって「守」すること大切さ。しかし、この辛抱強く「守」する過酷さを、史佳さんは語ろうとはしません。しかし、長きにわたる「守」の期間で会得した「型」無くして、今の史佳さんはなかったことでしょう。

 

糸際(いとぎわ)

 史佳Fumiyoshiさん自身が造った言葉です。三味線は、撥(ばち)を扱う右手と弦をはじく左手のコンビネーションで音を奏でていく楽器だと、彼はいいます。右手の弦への撥のあて方、左手の弦のはじき方、この微妙な差が音色を左右する。フレットレスな三味線の奏でる至高の音への追求は、1mm単位での調整を瞬時に行うことを求められます。弦と撥、弦と指との際(きわ)を見極め奏でる瞬間芸術が三味線だと。糸際が奏でる三味線の音色は、古典曲によって我々の魂に問いかけてきます。

 指揮者のいない演奏会では、各々が魅惑の音色を奏で、奏者それぞれがメンバーの音色を聞きながら音やリズムをあわせ、ひとつの曲を紡いでいきます。まさに譜面のない音楽会。即興で曲を奏でる三味線史佳さんの腕の見せどころです。さらに、相手をさらなる高みへと導くかのようなそれぞれの楽器。「守破離」によって会得した、今までに体感したことの無い世界観を我々に見せてくれるはずです。三味線という楽器の常識が変わる無限響の世界へ、皆様をご案内いたします。

f:id:kitahira:20190605114526j:plain

 新潟の初夏は、夕刻に優しく響く楽し気な「蛙の初音」から始まります。Benoitの2019年の初音は、「三味線プレイヤー史佳Fumiyoshi」で始まります。奏でられる旋律の先に、新潟の田園風景が、そして羽ばたくトキの姿を目にすることでしょう。※画像はシロサギです。

皆様にはBenoitで「際会(さ・いかい)」していただこうと思います。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康と

ご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特選食材「グリーンアスパラガス≪さぬきのめざめ≫」の食べ納めのご案内です。

ぬしなくて 荒れにし屋戸の 庭のおもに ひとり菫の 花さきにけり  藤原公重(きんしげ)

 f:id:kitahira:20190527203457j:plain

 「菫(すみれ)」は、日本では北海道から沖縄県まで津々浦々で目にすることのでき、紫色の小さな花を咲かせます。あまりにも控えめな姿のため、園芸品種として育種されている「パンジー」の方が有名となってしまい、名こそ知るも、実際にどのような花が咲くものなのか、ご存じない方が多いのではないでしょうか。しかし、春の花々が咲き荒れた地に、ひっそりと可憐に咲くスミレの美しさを、古人は見逃しませんでした。日本最古の歌集「万葉集」にも、しっかりと名を残しています。しかし、スミレの葉や花は食することができるため、山菜採りのひとつとして人気を博していたのではないかとも。そんな邪推を持ちつつも、菫に対する人々の想いは、古今東西を問わず共通のようです。ヨーロッパでは、「誠実」や「謙虚」の象徴とされる花であり、そのまま花言葉にもなっています。

 冒頭の一句は、平安時代後期に活躍した歌人、藤原公重が詠んだものです。自分の住居を言い表す場合は「宿(やど)」ではなく「屋戸(やど)」であるといいます。長きにわたり留守にしていた我が家に辿り着いた時に、手入れのされていない庭に、ひっそりと咲いている薄紫色の小さな花。あ~スミレだけが待っていてくれたのだ、と愛おしく想う。

 荒れ放題の庭ではあるものの、何かしらの花は咲いていたであろうに、スミレに心奪われるのは、何か奥ゆかしさを、豪華絢爛ではなく可憐さに、感慨深い美しさを見出すのでしょう。ひそやかに咲くスミレの花は、それに気づいた人の心を慰(なぐさ)める。

 

 抱く想いは惜春(せきしゅん)であるも、食の世界ではまだ晩春です。春を代表する食材が、料理一皿一皿に彩りを与えることで、我々の目でも愉しませてくれる。旬の食材は、我々が必要としている栄養に満ちているといいます。春食材は、脂ののった濃い味わいという食材とは一線を画し、優しい美味しさとほろ苦さを兼ね揃えている気がいたします。見た目にも味わいにも、ある種の青々しさがあるような。

 これほどまでに、春食材が豊富に姿を見せる中で、ついつい身近にありすぎて見落としてしまいがちな「グリーンアスパラガス」。メインの食材として一料理を成しえる唯一の野菜ではないでしょうか。3月に始まったアスパラガスに心躍るも、月日が流れることで他の春野菜に目を奪われてしまいます。しかし、この野菜の美味しさはまだまだ継続しているのです。八百屋さんで片隅に並ぶ国産のアスパラガス、それに気づいた人の心を和(なご)ませる。

 f:id:kitahira:20190327103153j:plain

 飲食を提供する場に身を置くことを心に決め、皆様には「安心・安全で美味しい」お料理をお持ちしたい。そう考えるものの、自分が何か「創り出す」ことができるわけではない。そこで考えたのが、食材へのこだわりを皆様にお伝えしていこうと。食材探しにおいて、シェフにはない自分の強みとはなんだとう?築地(当時、今は豊洲)は素晴らしいシステムであり、プロのバイヤーが集結しています。シェフは彼らの協力のもとで、食材を選んでいる。では、自分は皆様と直に接しているのだから、皆様に地元の、旅行先での貴重な情報をいただき、調べていこう。さらに、各都道府県に聞いてみよう。こうして自分食材探しが始まったのが5年前です。

 食材探しを始めて思うことは、日本には多種多様な美味しい食材がごまんと存在しているということ。表面上の食材の知識しかしらない自分は、皆様から、さらに地元の方々から、多くのことをご教示いただけました。そこで、Benoitで購入させていただいている特選食材を、皆様に随時ご紹介していこうと思います。

f:id:kitahira:20190527203653j:plain

 今回は、3月から今に至るまで何度となく自分からのご案内に登場している特選食材、香川県の「グリーンアスパラガス≪さぬきのめざめ≫」です。香川県農業試験場で試験栽培を重ねた末、2005(平成17)年にオリジナル品種として誕生したのが「さぬきのめざめ」です。アスパラガスは、種をまいて数ヶ月で収穫できる野菜ではなく、植えてから収穫までに3年間を要します。アスパラガスはわさわさとした葉を成し、香川県のありあまる陽射しを十二分に受け、根(地下茎)に栄養を蓄えていき枯れてゆく。これを毎年繰り返すことで、大地に根を広げてゆくのです。2005年から3年、まだ産声を上げたばかりの香川県特選食材なのです。

 地下茎を広げ新芽を出す姿は、竹に似ています。新芽を美味しくいただくことも似ています。筍は竹であり山菜のように収穫期は短いもの。しかし、アスパラガスは野菜であり、可能な限り長期にわたり美味しいアスパラガスを皆様の食卓へ届けたいという栽培者願いのもと、彼らの弛まぬ努力と知恵が「立茎栽培」という独特の栽培方法を生み出しました。初春、緑色が皆無のまっさらな大地より顔をのぞかせるのが新芽(アスパラガス)です。ある一定の長さで収穫するも、次々と地下茎に蓄えられた栄養を使い、次々と新芽が成長していきます。そして、栽培者が天候とアスパラガスの体力を見極め、収穫を止め数本の新芽を成長させるのです。新芽は葉を開き、わさわさと成長してゆく(立茎)、そして太陽の力によって光合成を成し、栄養を地下茎に送るようになります。そして、再度収穫期が訪れるのです。この立茎を境に、前期が「春芽」、後期が「夏芽」と表現し、収量は春芽>夏芽です。もちろん、香川県「さぬきのめざめ」も例外ではなく、この立茎栽培による、つかの間の「昼寝の期間」があるのです。

 Benoitでは、3月に香川県まんのう町、丸亀市のアスパラガス栽培者から購入していました。3か月間の長期にわたり収量を確保できるアスパラガス栽培者はおりません。前半を担ってくださった方から、次の方々へとバトンが受け渡され、今は殿(しんがり)となる一人の栽培者の方から購入させていただいております。今回はお礼も兼ねて彼女のご紹介。彼女?香川の農業女子として活躍中、「薫る農園」の園主である河田薫(かわだかおる)さんです。

f:id:kitahira:20190527203758j:plain

 香川県高松市香南町。薫る農園は、香川県の県庁所在地・高松市の南部に位置する香南町(こうなんちょう)にあります。この町は、もとは香川県香川郡にあった町で、2006年1月10日に高松市編入合併されました。香南町と聞くと、香川県の人々が想い描くのは、「高松空港」がある町であるといいます。地図では香川県のちょうど真ん中に位置しています。そして、この空港滑走路の南には「さぬきこどもの国」という大型児童館が隣接しています。公園や自転車コースを始め、プラネタリウムや大型遊具設備も備えた複合施設で、休日はもちろん平日も子どもの親子連れで賑わっています。他方、農地面積が町全体の5割近くを占め、米作のほか富有柿などの果樹栽培が盛んに行われています。豊かな田園景観の中に空港を有する香川の空の玄関口というイメージ。

 この香南町に畑を有する「薫る農園」さん。「さぬきのめざめ」を栽培するにあたり、多くのこだわりを伺いうことができました。学ばせていただいたポイントは大きく3つ。「高畝」と「畝間」、そして「灌漑と温度」です。

 この品種は、日本全国で栽培されている品種(ウェルカム種)に比べて表皮が薄く柔らかいため、病気に弱く、ハウスで栽培しなくてはなりません。さらに、香川県独自の高畝栽培です。通常、県外での栽培方法は、地面からにょきにょきとアスパラガスが姿を見せる「平畝(ひらうね)」での栽培。しかし、香川県では、「高畝(たかうね)」にして栽培しています。地面から60cmの高さまで土を盛り、そこにアスパラガスの苗を植えて栽培します。高畝にすることによって、アスパラガスはのびのびと根を張ることができ、地下茎が広範囲に広がり、地中の栄養分をより多く蓄えることを可能とします。

f:id:kitahira:20190527203839j:plain

 いただいた畑の画像、見事なアスパラガスに目を奪われてしまいますが、畑の様子をご覧いただきたいです。高畝の様子に加え、この広々とした空間ですよ。効率を重視するのであれば、畝(うね)と畝の間隔を狭くすることで、苗をより多く植栽し、葉を剪定するように育てていきます。しかし、彼女は畝の間を広げる方法を選んでいます。通気性を重視し、さらには、余計な剪定はせずアスパラガス本体がのびのび元気に育つ。それにより、自然に持ちうる病虫害への抵抗力が増すことになる。さらに、通気性の良さは害虫がつきにくいという利点もあるようです。

 畝を高く畝間を大きくとることで、アスパラガスはのびのびと地下茎を拡げることができる上に、成長したアスパラガスは剪定する必要が無いため、心置きなくわさわさと茂ることを許されます。だからこそ、ぐんぐんと育ち、より美味しくジューシーなアスパラガスが育つのだといいます。そして、もう一つ重要なことが「灌漑と温度」です。品種改良の末に生み出された「さぬきのめざめ」ではあっても、もとは地中海東部が原産の野菜です。特に夏場は、少量をこまめに灌漑を実施する必要があり、気を抜けないといいます。さらに、ハウス栽培だからこその夏場の温度管理も忘れてはいけません。

薫る農園の園主、河田薫さんからのコメントをいただきました。

f:id:kitahira:20190527203903j:plain

 「今年はアスパラを起こすタイミングが他の作物の都合で遅れたため、ゆっくりとスタートする作戦にしました。昨年は、2週間ごとに起こしていきましたが、今年はペースが早くなっているので、管理方法を変えました。年ごとに、天候や作業状況に応じて臨機応変に対応しています。なるべくみなさんに春芽の旬を楽しんでいただきたいので、ハウスの換気を重視して温度差の少ない低温管理に努めます。」

 この言葉通り、Benoitのアスパラガス料理の最後を飾る5月をメインに担ってくれたのは、「薫る農園さんのアスパラガス」でした。一度も滞ることなく、見事なサイズで届くアスパラガスに、シェフ・セバスチャンは感嘆の声を上げたものです。収穫されたばかりの鮮度抜群のアスパラガスのみを、河田さんご本人が選別し、その日のうちにBenoitへ送り出された逸品、美味しくないわけがありません。アスパラガスの芽吹きを促すことを、「起こす」というのですね。この野菜は平均気温が15℃を越えないと、新芽が動き出さないといいます。叱咤激励の下でたたき起こすのではなく、外気を取り入れながらハウスの温度を調節し、その年の天候を見極めながら、ハウスごとに優しく春芽を「起こす」ようです。

 

 薫る農園さんから購入するアスパラガスも夏芽へと移りました。収量が減り、全体的に細くなるという話でしたが、いやいや見事なまでの逸品が届いています。どれほど徹底した管理の下で栽培し、最後に厳しい選別を行っていることか、その美味しさが物語っています。Benoitのアスパラガス料理は今月末まで。5月29日に届く便が今期最後です。ご希望の際には急ぎご予定の調整をお願いいたします。Benoitでは今期最後を迎えるアスパラガスですが、香川県の「さぬきのめざめ」は、9月あたりまで出荷が続くようです。夏芽は収量が少なくなるため、なかなか目にする機会はないか思いますが、見つけた際にはぜひご購入をご検討いただけると幸いです。

f:id:kitahira:20190527203931j:plain

 Benoitで薫る農園さんの逸品をご用意できるのも、残り数日しかございません。皆様へのご案内がこれほどまで遅くなりましたこと、深くお詫び申し上げます。それでも、皆様にご案内お送りしました理由は、薫る農園さんのこだわりをお伝えせずに今期を終えることができないという使命感と、次に彼女が丹精込めて育て上げた逸品を購入させて いただこうかと考えているからです。薫る農園さんは、アスパラガス「さぬきのめざめ」の他にも、ブロッコリーやスイートコーンを栽培しているのです。そう、来月からプリ・フィックスメニューにランチ・ディナーともに登場する料理にトウモロコシを使用するのです。

f:id:kitahira:20190527204057j:plain

 旬を迎えるトウモロコシをたっぷりと使い、黄色のトマトと共に仕上げる冷たいスープ。コクのある甘さのトウモロコシに、心地良い酸味とみずみずしさのトマトが加わる。まだ、自分が口にしていないためこれ以上のコメントは控えさせていただきますが、シェフ・セバスチャンが語る口調に自信のほどを窺い知ることができます。

薫る農園さんは、今期「スウィートコーン≪ゴールドラッシュ・ネオ≫」を植栽しています。収穫予定は6月後半です。乞うご期待ください。

 

 春の新芽から夏の新芽に姿を変えながら、長きにわたりBenoitの料理に旬を届けてくれました。穂先がきゅっと締まった美しい姿、根元までやわらかいが歯ごたえはシャクシャク。鮮度が良いので、みずみずしいのはもちろん、にじみ出でるアスパラガスのジュースには野菜特有の甘さを楽しむこともできました。香川県の自然と、栽培にあたる人々の弛まぬ努力が育んだ、まさに「春一番の美味しいめざめ」です。Benoitの春は「讃岐から目覚め」、「讃岐で眠りに就きます」。まだ目覚めているうちに、皆様のお越しをお待ちしております。

 

 香川県まんのう町のアスパラガス栽培の方々と繋いでいただいた「さぬきこだわり市」の臼杵さん。今回タイミングを逃し、ご紹介できなかった丸亀市の「坂田農園」の坂田透さんと「藤井農園」の藤井義博さん。そして、今回紹介させていただいた「薫る農園」の河田薫さん。彼らとBenoitを結びつけていただいた「讃岐を食べるネット」の森田直子さん。「讃岐」を教えていただいた香川県東京事務所の柴田和彦さん。皆様、誠にありがとうございます。このご縁は、大切にさせていただきます。そして、アスパラガスは終了するも、まだまだ讃岐にある自慢の食材は、Benoitの料理に紫陽花(あじさい)ならぬ「味彩」を与えくれることでしょう。

 

 日本中の「美しい(令)」旬の食材が所狭しと並ぶ中、ひっそりと翠輝かせるアスパラガス「さぬきのめざめ」、それに気づいた人は、その美味しさに心を和(なご)ませる。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特別プラン「五月尽」と「5月ダイジェスト版」のご案内です。

 立夏を迎え、暦の上では夏が始まりました。少し時期がずれるのですが、今回のテーマは晩春の季語になっている「竹の秋」です。「春」の季語なのに「秋」?

f:id:kitahira:20190522100052j:plain

 「竹」とは謎多き植物です。あまりにも身近な植物なため、あまり珍しさを感じないものなのですが、学術的には「木」でもなく「草」でもないといいます。イネ科に属する理由の一つとして挙げられるのが、イネ科の特徴でもある茎が空洞を成す「稈(かん)」を持つということ。竹の場合、その「稈」が硬く木質化する「木の特徴」を示すも、そのまま肥大化しないため年輪ができないという「草の特徴」も持ち合わせます。ということは、竹は竹以外のなにものでもなく、草木に分類してはいけないようです。しかし、植物ゆえに花を咲かせ実を付けます。「竹の花」?皆様が疑問に思うのも無理はありません。花の周期は1年ではなく、孟宗竹で60年、真竹で120年というのです。花の後には実を成すも、その後には、竹は枯死するのだというのです。この開花の周期では、一生見かけることがないのも無理はありません。

 「竹の花」が稀では、種から竹が増えてゆくことなく、「竹の子」によって竹林が拡がりを見せることになります。竹林は一本の竹が地下茎を広げ、「竹の子」という新芽が竹林を作り上げます。大きな竹林も地下茎でつながっているため、1本でも病原菌に感染すると、竹林が全滅するというのも、ここに理由があります。この竹の子が地面より顔を出すのが晩春です。和食では欠かすことのできない、この時期の旬の味覚の代名詞的な食材でもあります。「竹偏(へん)」に「旬」と書くと「筍(たけのこ)」とは、なんと的を射た漢字をしつらえることか。そして、4月の末から今に至る期間が、まさに筍の旬。

f:id:kitahira:20190522100121j:plain

 今、竹林を赴くと、周りの樹々が新緑美しく青々としているのに対し、黄葉している姿を目にします。竹の地下茎の無数に芽吹いた「筍」に養分を奪われているからです。さらに、収穫や実りを意味するのが「秋」。そのため、冒頭に紹介した「竹の秋」は、晩春の季語になるのです。これに対して、竹の葉が生い茂り翠輝かんばかりの姿を「竹の春」といい、秋の季語。春が秋となり、秋が春となる。この一見ちぐはぐに思える表現に、機知を含ませながら、人々に問う。この自然の機微の捉え方、言い表しの妙は、今でも十分に共感を得るものではないでしょうか。「麦秋」とは夏の季語、もう理由はお分かりかと思います。

 

 初夏を迎えながらも、食材においては、竹の話だっただけに、まだまだ「春たけなわ」です。アラン・デュカスの料理哲学である、「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を、Benoitシェフであるセバスチャン・ルソーとパティシエール田中真理が、この彼の料理哲学を実践し、5月のプリ・フィックスメニューの選択肢に加えております。残念ながら、「筍」は登場しませんが、春を代表する食材で仕上げられた一皿一皿に、惜春(せきしゅん)の想いを感じ取っていただきたいと思います。

 そこで、皆様には、特別プライスの「五月尽(ごがつじん)特別プラン」をご案内させていただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、531日までの平日限定です。各コース料理の内容は、プリ・フィックスメニューからお選びいただけます。ご予約人数が8名様を超える場合は、ご相談させてください。

 

≪五月尽特別プラン≫

ディナー

前菜x2+メインディッシュ+デザート

7,100円→6,100円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+デザートx2

夢のダブルデザート→6,100円(税サ別)

※ご予約は、電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 

 5月は、自分の怠慢から、「ダイジェスト版」を作成することをいたしませんでした。誠に申し訳ありません。そこで、今回の「五月尽特別プラン」のご案内と合わせ、今更ではありますがご紹介させていただきたいと思います。今月で終わりを迎えるものもございます。「美しい(令)」季節に春食材が「和」する逸品は、令和元年にこそふさわしい。そこで、皆様に旬の食材に出会い、食することで無事息災に夏を迎えていただきたい。旬を迎える食材を旬の食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べのものでできています。この想いを込め、皆様にご紹介したい内容は、以下の13件です。

「特選食材」のご案内 6件

「料理/デザート」のご案内 4件

「イベント」のご案内 3件

 

香川県香南町からグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」が届いています。≫

f:id:kitahira:20190327103153j:plain

 香川県農業試験場で試験栽培を重ねた末、2005(平成17)年にオリジナル品種として誕生したのが「さぬきのめざめ」です。アスパラガスは、種をまいて数ヶ月で収穫できる野菜ではなく、植えてから収穫までに3年間を要します。この期間、アスパラガスはわさわさとした葉を成し、香川県ならではの陽射しを十二分に受けることで、根に栄養を蓄えていき枯れてゆく。これを毎年繰り返すことで、大地に根を広げてゆかねばなりません。そう、まだ産声を上げたばかりの特選食材なのです。

 今回Benoitに送っていただいているアスパラガスは、県庁所在地のある高松市の南に位置している香南町から。この地の畑を展開している、「薫る農園」さんからです。栽培者は、香川の農業女子として活躍中の河田薫さん。Benoitに届けられる、彼女の手掛けた「さぬきのめざめ」は、穂先がきゅっと締まった美しい姿、根元までやわらかいが歯ごたえはシャクシャク。鮮度が良いので、みずみずしいのはもちろん、にじみ出でるアスパラガスのジュースには野菜特有の甘さを感じまみれす。香川県の自然と、栽培にあたる人々の弛まぬ努力が育んだ、まさに「春一番の美味しいめざめ」です。

 地下茎を広げ新芽を出す姿は、竹に似ています。新芽を美味しくいただくことも似ています。筍は竹であり山菜のように収穫期は短いもの。しかし、アスパラガスは野菜であり、栽培者の弛まぬ努力と知恵が生み出した「立茎」という独特の栽培方法により、春の新芽から夏の新芽に姿を変えながら、長きにわたり我々の食卓に旬を届けてくれます。この立茎栽培には、芽の切り替えにともなう、つかの間の「昼寝の期間」があるのです。Benoitの春は「讃岐から目覚め」、「讃岐で眠りに就きます」。まだ目覚めているうちに、皆様のお越しをお待ちしております。

 

≪春に旬を迎える珍しいキノコ「モリーユ茸」が惜春を告げています。≫

f:id:kitahira:20190308181344j:plain

 多くのキノコが秋に旬を迎えるのに対し、このモリーユ茸は春に旬を迎える珍しいキノコです。ご覧のように、キノコの傘の部分が網のような姿のため、日本では「あみがさ茸」という名で自生しているのです。都内でも見ることができるのですが、素人がキノコに手を出すことは、あまりにも危険極まりないこと。それらしい姿のキノコを見かけても、鑑賞するにとどめてください。なぜ、国産が流通しないのか?和食では美味しさを見出せなかったのでしょう。

 対するヨーロッパでは、春を代表する高級食材の位置付けにあり、モリーユ茸食せずして春は終われません。これほどの食材のため、多くの人が「栽培」に取り組むも、いまだ成功例はなく、大自然が育んだ天然のものしかありません。そのため、天候に左右されることはもちろんですが、天気にも大きな影響を受けるのです。適度な雨は大地よりモリーユ茸が顔を出すことを促すも、キノコゆえに雨が降り続くことで、子供の手ほどにいっきに成長してしまうのです。大人の親指の指先ほどの大きさが、食感はもちろん味わい深く美味しいサイズ。大きくなると大味になってしまうのです。この気難しさもまた、この茸の価格を上げてしまう要因のひとつのようです。

 なぜ、日本では見向きもされないキノコが、ヨーロッパではこれほどまでに珍重されるのか。やはり、相性の良い調理法になるのです。生の時にはうんともすんとも美味しさの「お」の字も香らないモリーユ茸が、バターやクリームによって熱を加えられることで、豹変するのです。この驚嘆すべき芳しさと美味しさだからこそ、春を代表する食材の地位を確固たるものにしているのです。

 

≪日欧の春を代表する食材が一堂に会する「アスパラガスとモリーユ茸のフリカッセ」が前菜に。≫

f:id:kitahira:20190308181452j:plain

前菜ではありますが、今回の主役たりうる一皿であり、自分が心待ちにしていた料理が、「モリーユ茸とグリーンアスパラガスのフリカッセ」です。2019年の春は「讃岐で目覚め」た「さぬきのめざめ」が、ヨーロッパの山々で目覚めた「モリーユ茸」と、東京Benoitで出会います。日欧の春を代表する食材が一堂に会するのです。

香川県の生み出した至高のグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」は、瀬戸内海を想わせる塩分の湯の中で、職人ならではのしゃくっという心地よい食感を残すように湯でられます。さらに、モリーユ茸はもちろんフレッシュが届きます。生の時にはパッとしない香りが、熱を加えることで豹変するのです。芳しい香りを放つこの茸に、相性の良いクリームを加え、旨味を十二分に引き出した中に、フランスのSavoie(サヴォア)県の特産でもあるVin Jaune(ヴァン・ジョーンヌ)と呼ばれる黄色いワインを香りづけに使用。なかなか独特な風味のワインですが、モリーユ茸とクリーム、さらにグリーンアスパラガスとを全て調和させる力を持っている山のワインです。

プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+2,000円、ディナーでは+1,500円にてお選びいただけます。天気・天候に左右されやすいこの2つの春食材のため、ご希望の場合は、ご予約の際に「アスパラガスとモリーユ茸希望」とお伝えいただけると幸いです。

 

Cookpot(クックポット)とは?≫

f:id:kitahira:20190522100449j:plain

 アラン・デュカスが、その土地土地で育まれた旬の野菜を、いかに美味しく皆様に供するべきかと思案した結果、考案された器のことで、2010年の春に、世界に点在するアラン・デュカスグループのレストランで使われるようになりました。「このCookpad(クックパッド)とは何ですか?」とよく聞かれますが、レシピ集ではありません。

 1987年に、アラン・デュカスがモナコの「ルイ・キャーンズ」で取り組んだコースメニューが、野菜への敬意を込めた「ジャルダン・ドゥ・プロヴァンス(プロヴァンスの庭)」です。デュカス自らが、プロヴァンスを巡って見つけ出した至高の野菜をお楽しみいただくコース料理。Cookpotは同じエスプリに基づいて誕生したのです。いうなれば、彼の料理原点と哲学を象徴した逸品を仕上げるためのツールというのでしょう。世界各地にある、デュカスグループのレストランで、テロワール(土地特有の気候風土)の恵みと季節感のある料理に仕上げるための「器」であり、「料理名」でもあります。

 

≪惜春のCookpot(クックポット)は春野菜が揃います。≫

f:id:kitahira:20190522100515j:plain

 筍の美味しい時期であり、これほど話題にしておきながら、 Cookpotには加わりません。春野菜の総集編ともいうべき、そうそうたる野菜が名を連ねるも、Benoitシェフのセバスチャンが美味しいと判断した野菜が採用されるため、日によっては内容が多少変わります。ほぼ毎日のように三浦の農家さんより届けられるもの、津々浦々の産地より直送されるもの、はたまた海外から。

 添付しました画像をご覧の通り、アスパラガス「さぬきのめざめ」はもちろん、フランスのランド産ホワイトアスパラガス、そら豆にスナップエンドウ、春ニンジン、カブ、新じゃがいも、さらにはウイキョウと。忘れていけないものがマッシュルームです。細かく刻み、バターと鶏の旨味のスープで煮炒めるようにデュクセルを仕上げる、これが野菜だけの味わいにコクを与えることになります。全てをCookpotの中に詰めるようにし、オーブンで焼き上げ、仕上げにパルメザンチーズをぱんぱんと振り、再度オーブンへ。まさに惜春を想いながらの食べ納めともいうべき、野菜のみの逸品が完成いたします。

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+1,000円、ディナーでは+800円にてお選びいただけます。天気・天候に左右されやすいこの春食材のため、野菜の内容が変わること、ご理解のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

 

青森県の「ウスメバル」は今月末までです。≫

f:id:kitahira:20190522100539j:plain

 磯釣りでも人気を博すメバル。赤・白・黒メバルと見た目にはなかなか区別のつきにくい魚です。今回は、これらのメバルよりも、深場に生息している美味なる魚「ウスメバル」が青森県より届いています。津軽海峡の早い潮の流れの中で育ったウスメバルは、クセの無い淡白な白身で、カサゴの仲間らしいぷりぷりの肉質。今旬を迎えている魚で、あまりにも美味なため、和食でも煮付けで供されることが多いでしょうか。

 この美しく輝くオレンジ色と黒の模様が特徴であり、これが鮮度の目安ともなり、時が経つと色がくすんでくるといいます。ウスメバルの美味しい時期が、ちょうど筍の美味しい時期と重なるため、「筍メバル」との相性がつているのです。決してウスメバルが筍を食しているわけではなく、魚の知識に長けた日本人ならではの、旬を迎えた美味しい時期につけてしまう「魚の愛称」なのです。

 

青森県の「筍メバル」をブーリッドスタイルで。≫

f:id:kitahira:20190522160652j:plain

 青森県ウスメバルをオリーブオイルと使って表面をパリっと焼き上げ、その後にオーブンを使ってしっとりとぷりぷりとなるように焼き上げます。これだけでも十分に美味なることは、この食材が旬そのものの美味しさを持ち合わせているからでしょう。「筍メバル」の愛称は酔狂で名付けられたものではありません。

 さらに、「Benoitでは「Bourride(ブーリッド)」のスタイルで仕上げたソースを合わせます。南フランスの旧名Provence(プロヴァンス)地方の伝統的な魚料理で一番有名なのがBouillabasse(ブイヤベース)であるならば、同じ地中海に面する隣のLanguedoc(ラングドック)地方がBourrideです。地中海の海の幸である、魚をふんだんに使う漁師さん煮込み料理とでもいうのでしょう。同じ海岸線の隣に位置しているだけに、ほぼ同じような作り方です。魚の旨味が煮出したスープを、とろみが出るまで煮詰めたものをソースとして、今回の旬の筍メバルともに。

 ディナーのプリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、お選びいただけます。ランチでご希望の際には、何気兼ねなくお問い合わせください。

 

≪フランスのランド地方から「ホワイトアスパラガス」がBenoitに届いています。≫

f:id:kitahira:20190308181255j:plain

 春を迎えると、なんとなく山菜を口にしたくなるのが 日本でるならば、ヨーロッパの人々にとって、ホワイトアスパラガスを食せずして春尽きることはないのでしょう。マルシェ(朝市)に山積みにされるこの食材が、人々がいかに待ち望んでいた食材であるかを物語っています。

 アスパラガスの原産は地中海東部。3000年前のエジプト文明の時すでに野生のアスパラガスが食されていたといいます。古代ギリシャ古代ローマ時代には栽培が始まり、フランスがルネッサンスを迎えると同時に、イタリアから持ち込まれたのだといいます。この時代に、丘陵地での栽培方法が確立したことで、ホワイトアスパラガスが世に登場したのだとか。

 アスパラガスの栽培には軽い砂地が適しており、フランスではパリ北西に位置しているArgenteuil(アルジャントゥイユ)町から始まりました。今でも栽培されている最古参の品種にその名を遺しています。そして、Val de Loire(ロワール地方)、Aquitaine(アキテーヌ地方)、そしてBassin Méditeranéen(南フランス)へと栽培ノウハウが伝わっていきます。

 今回、Benoitに送っていただく地は、Aquitaine(アキテーヌ)地方のBordeaux(ボルドー)の南に位置しているLandes(ランド)県です。この地のホワイトアスパラガスは、水はけのよい砂地で育て上げます。作物にとっては過酷な土壌なのでしょう。だからこそ、力強く成長することで、太く、そして独特のほろ苦さを特徴とする新芽へ。さらに、大西洋海流がもたらす温暖な気候、しかしそれは昼間の表情であり、この時期ならではの寒暖の差が、作物を魅惑的な甘さをもたらします。この環境下に、栽培者の弛まぬ努力が加わるのです。新芽を陽射しに当ててしまうと、光合成をおこなうことで緑色になってします。まだ暗い夜明け前、新芽に砂をかぶせるという重労働から始まります。

 フランス国王として全盛を極めた太陽王ルイ14世は、ヴェルサイユ宮殿の庭師に、「一年中収穫できる栽培方法を模索するように」と命じたという。それほどまでに愛してやまないアスパラガス。いつの時代もどの国も、権力者はいいたい放題です。旬があるからこそ美味しいのであり、収穫が待ち遠しい。時期が決まっているからこそ、失う前に楽しもうと思うのでしょう。

 

≪北海道より届いた「エイヒレ」のグルノーブル風とランド産ホワイトアスパラガス≫

f:id:kitahira:20190522100709j:plain

 馴染みのエイヒレは、乾物で焙って美味しくいただくものです。しかし、東北や北海道では「かすべ」という名前で販売されており、煮付けにして楽しんでいるといいます。フランスのビストロでは、欠かすことのできない食材でありながら、日本ではほぼどの海域でも水揚げがあるものの、食材として流通しない理由とは何なのか?食材としての認知度が低いことに加え、鮮度を維持することの難しさがあります。時が経ることで、独特なアンモニア臭を放つのです。そのため、神奈川なので水揚げがあった際にも、新鮮なうちに「かまぼこ」の原料へとまわされてしまうのです。今回は鮮度抜群の大ぶりの「エイヒレ」が、北海道よりBenoitに届いています。

 エイヒレの表面に小麦粉をまぶすように焼くムニエルのスタイルに。白身でありながら、ヒラメでいうエンガワの部位。プリっとしながらふるふるな食感でもあります。さらに、軟骨のパリパリ間もアクセントとなり、かなり美味です。たっぷりのバターを使いながら、焼き上げた後、その旨味の加わった溶けたバターへ、レモンの心地良い酸味とケッパーの旨味を加えます。ホワイトアスパラガスとエイヒレ、これ以外の調理方法が見当たらないほどの相性抜群のグルノーブルスタイル。日仏を代表する2つの特選食材が、仏伝統的な調理方法で仕上げられBenoitで一堂に会する。お皿の上でどのようなハーモニーを奏でるのでしょうか。

 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+1,500円、ディナーでは+1,200円にてお選びいただけます。ご希望の際は、ご予約の際に「エイヒレ希望」とお伝えいただけると幸いです。

 

沖縄県西表島石垣島より「ピーチ種のパインアップル」がBenoitへ≫

f:id:kitahira:20190522100739j:plain

 沖縄本島 からさらに西へ進むこと400kmほどで石垣島に辿り着きます。さらに西に位置している大きな西表島。強酸性土壌にしか生育せず、台風や干ばつの耐性のあるフルーツだからこそ、この2島が選ばれたのかもしれません。パインアップル冠芽を植え付けてから、収穫までは2年を要します。その間、溢れんばかりに降りそそぐ、沖縄の陽射しを十二分に受け、完熟を待ってから収穫された逸品が美味しくないわけがありません。

 池村英勝さんを代表とする西表島グループと、平安名貞市さんを代表とする石垣島グループの協力のもと、16玉入の段ボールでBenoitへ送っていただいています。届いた段ボる箱の脇にある、運ぶために指を入れる小窓から、なんと魅惑な甘い香りが漂うことか。完熟を待ち、朝一で収穫した後に沖縄を旅立つ。完熟を待つがために日持ちがしない時間との勝負。しかし、この美味しさを知ってしまうと、もう海外産には戻れない。パインアップルは追熟しないため、保管していても劣化するだけ。海外産は輸送に時間を必要とするため完熟前に収穫するのです。そう、収穫の時点でパインアップルの品質が決まるのです。

 この西表島石垣島の「パインアップル」と、沖縄本島の南側に位置する糸満市から届いた「パッションフルーツ」。今の沖縄県の特産で組み立てた逸品が、デザートメニューに加わっています。6月も、この2つの特選食材は残しますが、パインアップルの美味しさを堪能するのであれば、今月のほうがお勧めです。パッションフルーツの甘酸っぱさとプチプチの種の食感との相性も抜群です。

 プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+800円にてお選びいただけます。

 

シャンパーニュメーカーズディナー「THIÉNOT(ティエノー)のご案内です。≫

f:id:kitahira:20190513231931j:plain

 シャンパーニュ地方・ランスに1985年に誕生したシャンパーニュメゾン「ティエノー」。そのシャンパーニュは保守的ではなく、常に新しい独創性を求める現代的スタイルです。創業者・アラン・ティエノ、長男スタニスラス、長女ガランスの3名による家族経営のシャンパーニュメゾンで、それぞれの名を冠したシャンパーニュがあるのも特徴のひとつです。また、アーティスト「スピーディー・グラフィット」とコラボレーションしたマグナムボトルはそのデザイン性から多くの反響を生みました。今回が初来日のガランス女史をお迎えし、豪華シャンパーニュディナーを行います。ラインナップはデザインの異なる1stと2ndの「スピーディーグラフィット」。また、それぞれの名前を冠したファミリーシャンパーニュをお楽しみいただきます。

 

Benoitシャンパーニュメーカーズディナー「THIÉNOT(ティエノー)

日時:2019530()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

<ラインナップ>

NV  SPEEDY 1st Edition Magnum

NV  SPEEDY 2nd Edition Magnum

2008  Millesimé

2007  Cuvée Stanislas, Blanc de Blancs

2008  Cuvée Garance, Blanc de Noirs

2007  Cuvée Alain Thiénot

kitahira.hatenablog.com

 

≪ミュージックディナー「三味線プレイヤー 史佳」のご案内です。≫

f:id:kitahira:20190414141154j:plain

 津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。それがためなのか、初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生し、今は二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー「史佳 Fimiyoshi」さん。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まっています。その前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。

 

Benoitミュージックディナー 「三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi ≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

kitahira.hatenablog.com

 

≪一夜限りに特選メニュー「夏食材の饗宴」のご案内です。≫

f:id:kitahira:20190522101033j:plain

 Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、梅雨によって目覚めた食材を使い。一夜限りの「夏食材の饗宴」を、Benoitで開催することにいたしました。開催といっても、ミュージックディナーのように、何かイベントがあるわけでありません。通常通りのディナー営業です。しかし、この一夜だけは、シェフのセバスチャンが、「今、これを食せずして夏は始まらない」という旬の食材をつかって組み立てたコース料理のみご用意いたします。Benoitディナーの営業時間内のご都合の良い時をご指定いただき、ご予約いただけると幸いです。

 

Benoit特選メニュー「一夜限りの≪春食材の饗宴≫」

日時:201971()17:30より(21:00LO)Benoitの営業時間内にお越しください。

コース料金:お一人様9,800(税サ別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。何か質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

 

 

 「筍」を少し調べてみました。「たけのこ」という読みの他に「しゅん(じゅん)」とも。名詞とは別に形容詞としても使うようで、「筍鶏(じゅんけい)」とは、若い鶏のことだといいます。使用頻度は皆無ですが、なかなかに言いえて妙だと思いませんか。漢字の発祥は古代中国であり、その漢字の成り立ちを編纂したのが「説文解字」、時は紀元後100年頃、漢字辞典の誕生です。それによると、「意符の≪竹≫から構成され、音符の≪旬≫で組み立てられた形声文字」なのだと。

 六書(りくしょ)の区分に基づき、「象形」「指事(指示ではないです)」「会意」「形声」に大別され、さらに偏旁冠脚(へんぼうかんきゃく)によって分類されています。「指事文字」とは、絵としては描きにくい物事や状態を点や線の組み合わせで表した文字をいい、「上」や「下」が分かりやすいと思います。十干の「己」は指事文字です。そして、「会意文字」は、既成の象形文字指事文字を組み合わせたもの。例えば「休」は、「人」と「木」によって構成され、人が木に寄りかかって休むことから。そして、6割がたの漢字が分類されているのが「形声文字」です。「江」は≪シ(さんずい)≫の意符と、≪エ≫の音符で構成されたもの。

 「晴」もまた、形声文字。≪日≫天文事象を意符とし、≪青≫は音符であり、意味がないのだといいます。確かに正確に分類するとそうなのかもしれませんが、「日(太陽)」が光り輝き空「青い」状況が、「晴れ」と考えたいです。こう考えると、「筍」は「竹」が美味しい「旬」を迎えたものであると。専門家の皆様、誠に申し訳ありません。勝手気ままな自分の願望です。「竹の秋」で始まった五月尽のご案内は、「筍」で終わりを迎えさせていただきます。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoitシャンパーニュパーティ「THIÉNOT(ティエノ)」のご案内です。

f:id:kitahira:20190513231548j:plain

 世界一の収量を誇る果物は、「ブドウ」です。もちろん、生食と加工用を含めてです。世界規模で栽培されているだけに、その歴史は深く、紀元前3000年前には、黒海カスピ海沿岸ではすでに栽培化が成されていたといいます。文明の伝播が、そのままブドウ栽培地という様相を見せる中で、ローマ帝国時代に加速度的に版図を広げたのだといいます。彼の帝国が崩壊すると、ブドウ栽培の伝道者としての役割を担ったのが「修道士」でした。

 キリスト教を布教する目的で、イタリアからフランスへ、プロヴァンス地方を境に、さらに北へ西へと向かっていきました。その際に、拠点となる教会を中心に町を造り上げ、周囲には神聖なる「ワイン」を醸すために葡萄を植え付けていきます。しかし、肥沃な土地は葡萄など植えることなく作物を育て、民に食を提供しなくてはなりません。自給自足のできる農業国フランスとはいえ、昔々はまだまだ未開の地。生きるための糧こそ、まず先に確保しなければなりません。嗜好品のワインは「二の次」だったはずです。そこで、他の作物に比べ屈強な葡萄は、斜面や他の農作物が育たないような不毛の地に植えられることになりました。これが、今のワイン産地の礎を築くことになります。

f:id:kitahira:20190513231621j:plain

 過酷な環境でこそ高品質の葡萄が育つとは、今でこそ周知の事実です。かつては、生きるために必要不可欠な食料を確保しなければならない、その糧が育てられない「不毛な地だからこそブドウしか植栽できなかった」。斜面や地盤の緩い危険な地もあったことでしょう、過酷な環境の中で開拓を進めていったのです。彼らは、試行錯誤を繰り返すも、情報が無い中で多くの生死を分かつ失敗もあったことでしょう。そして、確たる情報もない中で、土壌ごとに適した品種を選び植えつける。先人たちの苦悩と苦労は計り知れません。フランス中央のブルゴーニュ地方を過ぎ、さらに北へ北へと向かった修道士達が行き着いた地は、冷害と紙一重の厳しい自然環境もった地、フランス最北の地、シャンパーニュ地方です。

 

 パリから東へ東へと向かった先、Grand Est(グラン・エスト)地域圏のMarne(マルヌ)県の主要都市がReims(ランス)は、パリからは約130kmの距離に位置しています。歴代フランス国王が戴冠式を行ったノートルダム寺院がある観光地でありながら、シャンパーニュ醸造の一大都市。この地で1985年に誕生したシャンパーニュ・メゾンが「THIÉNOT (ティエノ)」です。量より品質を、保守主義よりも創造性を重んじながら、偉大なメゾンの中でその地位を築き上げました。他のシャンパーニュ・メゾンと比べると、歴史は浅いですが、2013年2014年と2年連続でのアカデミー賞の公式シャンパーニュに選ばれていることは、世界が認めた証ともいえます。

f:id:kitahira:20190514163544j:plain

 創業者であるAlain THIÉNOT(アラン・ティエノ)氏は、若かりし頃の銀行員の経験を生かし、Courtirt(クルティエ)と呼ばれる、ワインの仲買人へと転身。クルティエとは、ワインを買い付けバイヤーのこと。しかし、ただ単に右から左へと流通させるという単純なものではありません。ワインに対する知識だけではなく、時の経過が熟成の美味しさを生み出すかどうかの鑑定眼も必要になります。さらに、ワインが農産物であるがゆえに、原料となるブドウの収量の大小や品質の良し悪しも見極めなければなりません。これほどの専門性を要求され、職人気質のブドウ栽培者や醸造家の「閉鎖的な世界」は、素人が簡単に入り込めるものではありません。そう、銀行家としての人脈が生かされていたのです。

f:id:kitahira:20190513231641j:plain

 彼のクルティエとしての経験は20年近くに及びます。この間に、それぞれのクリュの最大限の表現を絶えず求めて、丘陵地帯のぶどう畑をくまなく歩きながらその知識を深めていました。彼の知識と、弛まぬ努力に裏打ちされた経験は、多くのバイヤーから厚い信頼を得ることになり、他のクルティエの中でも群を抜いていたといいます。そこに着目したある有名シャンパーニュ・メゾンから、「希少で質の高いブドウだけを手に入れて欲しい」と依頼が入ったのです。この仕事がもたらしたものは、報酬という金銭面だけではなく、「自らのシャンパーニュ・メゾンを立ち上げたい」という野望だったのです。多くの人には「夢」で終わるこの夢物語ですが、銀行時代の資金調達のノウハウと人脈、クルティエ時代に培われたブドウとワインへの造詣の深さと鋭い審美眼、さらにはブドウ栽培者との信頼が、夢では終わらせませんでした。

f:id:kitahira:20190513231824j:plain

 新進気鋭の創業者であるアラン・ティエノ氏が、一線から退き、次なるステップへ向かうことに。そして今は、彼よりワインの知識と醸造の秘訣を、いやシャンパーニュへの心意気を引継いだ、長男のStanislas(スタニスラス)氏と、長女のGarance(ガランス)氏によって切り盛りされている、まさに家族経営のシャンパーニュ・メゾンです。受け継いだ理念と際立つスタイルは、独自の風格をまとい、保守的ではない常に新しい独創性を求める現代的なスタイルへと昇華しているのです。家族皆が、美味なるシャンパーニュを醸すという同じ目的を持ちながら、各々がお追い求める至高の作品には違いが表れるものです。それが、それぞれの名を冠したシャンパーニュを生み出すことになったのです。そして、アーティスト「スピーディ・グラフィット」とコラボレーションしたマグナムボトルは、そのデザイン性から、大きい反響を呼びました。

f:id:kitahira:20190513231853j:plain
 今回は、初来日となるガランス氏をBenoitへお迎えし、豪華なシャンパーニュディナーを開催いたします。ラインナップには、デザインの異なる 1st と 2nd の「スピーディ・グラフィット」を。さらに、各々の名を冠したファミリーシャンパーニュが登場いたします。Benoitのシェフソムリエ永田とシェフのセバスチャンが協議の末に組み立てた料理の数々は、皆様に忘れえぬマリアージュを体感いただくことになるでしょう。「口福な食時」のひとときをお約束いたします。

 

Benoitシャンパーニュディナー THIÉNOT (ティエノ)

日時:2019530()  18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代サービス料込・税別)

※Benoit恒例のワイワイ相席スタイルです。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。席数に限りがございます。ご予約はこのメールへの返信、もしくはBenoit(03-6419-4181)にご連絡いただけると幸いです。

 

ラインナップは合計6アイテム

NV  SPEEDY 1st Edition  Magnum

NV  SPEEDY 2nd Edition  Magnum

2008  Millesimé

2007  Cuvée Stanislas  Blanc de Blanc

2008  Cuvée Garance  Blanc de Noirs

2007  Cuvée Alain Thiénot

f:id:kitahira:20190513231931j:plain


 有史以前から存在していたであろうワイン。収穫したブドウを、保管しようと器の中に入れることで、果実が圧し潰される、すると、果皮に付着している天然酵母が発酵を行うたうため、人類が最初に口にしたアルコール飲料ではないかと言われています。ブドウは液果に分類されるほど果汁に富んでいます。そのほとんどが水で数%の成分の違いが、ワインの品質に左右するというのです。ワインの造り手は、飽くなき探求心と弛まぬ努力を、この数%の僅かな違いに、まさに心血を注いできたのです。どんなに醸造技術が発達したとしても、最高のブドウ果実を無くして最高のワインは生まれません。5の能力のブドウから10のワインは、魔法でもかけない限り醸せません。例外はありますが、何も加えずに造られるワインだからこそ、素材そのものが重要なのです。さらに、10の能力のブドウから5のワインが生まれることは往々にしてあること。そのため、ヴィンテージが云々、造り手が云々と語られる所以はここにあるのです。

f:id:kitahira:20190514092935j:plain

 テロワールを重んじ、自然との紙一重の攻防を繰り広げ、妥協のない手間暇をかけて見事なまでの果実を育て上げ、さらに厳しい選別を乗り越えた高品質のブドウが、彼女の手の下でどのような変貌をとげたのか。彼女はどのような想いをシャンパーニュに込めたのか。ワインを通して、さらに彼女の話の中に見出すことの楽しみをお届けしたいと思います。それぞれのシャンパーニュは、何を我々に語るのか?料理とのマリアージュが、お互いの美味しさをどれほど引き立たせるのか?アラン氏より受け継がれた弛むことのない努力と飽くなき探求心を、経験に裏打ちされた匠の技と感を、そして揺るがぬ自信と誇りを、このパーティーを通して美酒に酔いしれながら実感してみませんか。5月30日は最高の出会いをお約束いたします。

 

 さて、「夏も近づく♪八十八夜~♪」の茶摘みの歌は、春の輝かんばかりの美しい緑に染まった茶畑を見ると、ついつい口ずさんでしまうものです。新茶の美味しさは言うに及ばず、この日に摘んだお茶を飲むと長生きするという、なにやらお祝い事のような日なのですが、ここには古人からの注意喚起のメッセージが込められていました。

 中国から伝わった「二十四節気(にじゅうしせっき)」、中国生まれながら日本風にアレンジされた「七十二侯(しちじゅうにこう)」、これらとは別に、日本の気候風土の下で生まれたのが「雑節(ざっせつ)」です。前述した「彼岸(ひがん)」も、なんとなく仏教の色濃くインドから伝わったかのようですが、実は日本独自の考え方、そう雑節です。そして、立春から数えて88日目の日、2018年は5月2日、この日が雑節の「八十八夜」です。さらに、「八十八夜の別れ霜」「八十八夜の泣き霜」といい、農を生業にする者のとっては気をつけなければならない日。暖かくなったからといって、まだまだ遅霜には気をつけなけなさい、と日本独特の雑節を作り、注意を喚起したのです。なんという先人達の知恵なのでしょうか。

 ワインを作るのに不可欠なものがブドウ。厳冬を乗り越え、休眠していた樹が目覚め涙する。ほっこりと芽吹き、可憐な花を咲かし小さな緑色の実を成す。葉は緑美しく太陽の恩恵を受けようと広く大きく成長し、夏場の陽射しを十二分に浴びる。白ブドウは透明感のある黄金色に、黒ブドウは色濃く美しいルビーの色あいに、これぞ完熟の証。1年の弛まない努力の成果が秋に収穫という形で訪れます。そのブドウ栽培が、どれほどの苦労と労力を費やし、天候に左右されることか。

f:id:kitahira:20190513232026j:plain

 霜害はその年の収量・品質に多大な影響を及ぼす一要因、皆が避けたい天災です。しかし、その過酷な環境でこそ高品質のブドウが育つのも事実です。凍(い)てつく冬は大地を凍らし、土の中に増殖した悪玉菌類を浄化する役割を担います。それゆえ、北へ北へと向かうことに。フランスが農業国であることは周知の事実ですが、比較的北に位置しているフランスの自然環境は、そこまで人々の生活を温かく包み込んだわけではありません。農作物に適した地には、もちろん野菜や穀物を植えていたはずです。そして、斜面や水はけのよすぎる地、農作物が育たないような不毛の地を選び、他の作物に比べ屈強な葡萄を植えつけていました。

f:id:kitahira:20190513232052j:plain

 フランスに限ってみてみると、南の地よりも北の地の方が植えつかれているブドウ品種数が少ないと思いませんか。「品種を選び」と書きましたが、昔は今のような品種の知識はなかったはずです。南より修道士が持ち込んだブドウの品種は、今でいう多種にわたっていたはずです。それを植栽するも、厳しい環境に適応できずに枯死するこで淘汰されていきます。生き残った中から、さらに優良株を選別し植え付けていったはずです。結果的に、それが同じ品種であり、「それぞれの地に適応した品種」という形で今なお残っているのです。南に比べ北に向かうほど品種が少なくなる理由は、このあたりに理由があるのかもしれません。

f:id:kitahira:20190513232110j:plain

 凍えるような寒さの中でも、冬芽はプロテクターに守られているため何も問題はありません。しかし、冬芽が膨らみ、前年の秋に蓄えた栄養を解放するかのように萌芽する頃から、新梢がぐんぐん成長し、奥の葉が開く中に花の蕾が姿を現す頃まで。葡萄の産地は寒冷地が多いので、4月半ばほどから5月いっぱい。この時に霜が降りるとどうなるのか。霜焼けをおこし、芽が葉が、そして蕾が枯死します。葡萄は、「前年の芽」が伸びた「新梢(しんしょう)」に実を成します。前年の芽や新梢を無くしたことで有り余る樹のエネルギーが、新たな芽を生み出し成長しますが、この枝は実を成しません。つまり、「前年の芽」が枯死することは、その年の収穫が激減、もしくは見込めないことを意味します。農を生業としている者にとっては死活問題なのです。

 あがうことのできない天災ではありますが、霜害を少しでも減らそうと、天気予報に一喜一憂し知恵をめぐらす。何も葡萄に限ることではありません。野菜や果実、もちろんお茶も。気づかないところでの並々ならぬ苦労と苦悩は計り知れません。全ては美味しい産物を実らせるために。過去に天の辛酸を舐めた古人が、後世の助けにと遺した言葉の一つが、「八十八夜」です。深い言葉ではないですか。

 食べなければ生きてはいけな。誰かが育て作らなければ食物を食べることができません。「いただきます」と「ごちそうさま」に込められた感謝の気持ち。これがために人々は頑張れるのかもしれません。

 

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますが、皆様のご多幸とご健康を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特別プラン「四月尽」のご案内です。

 春の陽気に誘われるかのように花開いた「桜」も、すでに葉桜へ。春を代表する桜の開花は、我々に田を耕す「田打ち」のタイミングを教えてくれます。東北では、桜の開花が遅いためコブシの花を基準にしていたようで、その名残が「田打ち桜」という栄冠を手に入れています。稲作では、田打ちが仕事始め。日本では4月に入学式などの「新たな旅立ち」を迎えるのは、このあたりに理由があるのでしょうか。それとも、厳しい冬を乗り切り、美しく花開く桜に魅了されるも、その花期の短さにある種の「潔さ」に感じ入る日本人の感性なのでしょうか。はたまた、萌芽し花開くも、すぐに花散り葉が生い茂る。短い期間に移り行く桜の姿に、出会いと別れを見いだしたからなのでしょうか。 

f:id:kitahira:20190423101908j:plain

 

さくら色に 衣はふかく 染めて着む 花の散りなむ のちの形見に  紀有朋(ありとも) 古今和歌集より

 「 惜花(せきか)」の想いは、今も昔も変わることはありません。それが、開花を待ち望んだ桜であればなおのこと。散るを惜しむがあまりに、桜色を染め込んだ着衣を、さらにはお化粧に桜色を取り入れるのも、この時期ならではのこと。古人も観桜の際に、花散ってからも思い出として脳裏に焼き付けんばかりに、桜色の衣を身につけることが風流だったのだといいます。江戸時代には、頬がぽっと色付くような桜色で染める、「うっきり」というお化粧がありました。彼の時代はおしろいを使うも紙で抑えることで化粧をしていないような素肌を演出し、「紅花(べにばな)」で頬を染めていました。血色良く見え艶やかな「うっきり」を演出するのが「桜色」であり、下の画像の色合いです。

f:id:kitahira:20190423102004j:plain

 ところが、古今和歌集の編纂された平安時代は、少し色合いが違っていたようなのです。今の「桜色」であれば、「衣に深く染める」という表現に違和感を覚えます。染料を生地に一回染め込むことが「一入(ひとしお)」であれば、桜色は深く染め込む「八入(やしお)」ではないか。では、紀有朋が詠う「深く染めた着物」は、いったい「どのような色」だったのでしょうか。染織を生業とする人が継承してきた伝統色、八入の「さくら色」は、今の桜色とは別の色合いのようです。

 桜は桜でも、「染井吉野(ソメイヨシノ)」ではなく、「山桜(ヤマザクラ)」の若葉の色なのだと。若葉だからといって「透けるようで、やわらかい緑色」ではありません。百聞は一見に如かず、ご覧ください。

 f:id:kitahira:20190423102025j:plain

 決して枯れているわけではなく、これが「山桜の若葉」であり、紅葉といえば紅葉ですが、この色から美しい深緑へと色変わりしてゆきます。これが山桜の「葉萌ゆる色」であり、この色を染織したものを身につけ、桜の花を愛でることが風雅の慣わしであったのだといいます。花散りし後に、咲き誇る姿を思い起こさせてくれるようにと、さくら色の染めた衣をまとう。その姿で観桜することは、花の姿を脳裏に焼き付けると同時に、八入に染められたさくら色の着衣に、桜の姿を憑依させるかのように。そして惜花を偲びながら、初夏を迎える準備をする。まるで四季の色彩の機微を、自然に習いながら楽しんでいるかのようです。

 今、Benoitで皆様にお勧めしている「千葉県勝山漁港直送“桜鯛”とホワイトアスパラガス」の逸品。画像に見る「二十日大根」を、お皿の上に花咲く桜色の花と見るか?それとも、山桜のように白い花咲く中に萌える若葉と見るか?Benoitシェフ、セバスチャンが、知ってか知らずか、なかなか趣き深いことを我々に問うてきています。

 f:id:kitahira:20190423102050j:plain

 「桜色」もしくは「さくら色」を身にまとい、Benoitで夜桜(ディナーの桜鯛)を鑑賞(ご賞味)いただくというのも一興なのではないか。そこで、皆様には、特別プライスの「4月尽(しがつじん)特別プラン」をご案内させていただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、430日までです。各コース料理の内容は、プリ・フィックスメニューからお選びいただけます。ご予約人数が8名様を超える場合は、ご相談させてください。

 

4月尽特別プラン≫

ディナー

前菜x2+メインディッシュ+デザート

7,100円→6,100円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+デザートx2

夢のダブルデザート→6,100円(税サ別)

※ご予約は、電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 

 今回の桜鯛の逸品は、+1,200円の追加料金でお選びいただけます。それ以外にも、春に旬を迎えている逸品をそろえております。今月で終わりを迎えるものもございます。特選食材とお勧めの逸品の詳細をご紹介する「4月のダイジェスト版」は、「はてなブログ」に掲載いたしました。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。27日28日以外は、自慢の料理の数々を、自分が皆様に大いに語らせていただきます。

kitahira.hatenablog.com

 

 この時期になるとよく質問をいただくのが、自分が座右の銘としている、「観梅の心、観桜の目」の意味です。正直にいうと正確な意味は分かっていません。この名文との出会いは7年ほど前のことでした。どの本の中だったかも思い出せません。歳時記を長文レポートの題材としていることもあり、意味深で気になるものの、そのまま放置されたまま月日は流れ、再度出会うことになったのが5年前の某新聞のコラムでしたの中。運命を感じ、調べてみたものの、はっきりとは分からず、こうなれば自分で解釈してみようという結論にいたったのです。

 梅と桜とは春を代表する花であることは、周知の事実。白梅、紅梅とありますが、やはり主役は白。桜に関しても、白から淡い紅色まで、さらには黄色に緑と多種多様にわたりますが、やはり桜は淡い白です。花びらに違いはありますが、色や一見の姿は似た者同士。「花」といえば、万葉の時代は「梅」を指し、以降は「桜」を意味します。どちらも時代時代を反映する春の代表花。まだ日本固有の仮名文字(ひらがな)の無かった万葉の時代。中国から伝わってきた漢字が書き言葉です。舶来へのあこがれからでしょうか、中国から伝わってきたのが「梅」です。対する「桜」は日本固有の品種、一時は「花」の地位を梅に奪われるも、今では確固たる地位を確立しています。

 f:id:kitahira:20190423102137j:plain

 さて、本題です。この画像は白梅の花です。2月のまだまだ寒い頃より、春の訪れを告げるかのように、ぽつりぽつりと花開いていくため、比較的長い期間を楽しめます。まだ冬枯れの閑散とした景色の中で、おだやかな春風に香りを漂わせながら、順を追って花開く姿に、何か奥ゆかしさを感じます。ただ舶来もの、それだけではない魅力があります。

 f:id:kitahira:20190423102159j:plain

 そして、 桜の花は、咲き始めると一気に満開へ。その姿に圧巻するも、見ごたえのある期間は1週間ほど。一輪一論の花は決して長く花開いていることはなく、3~4日にて花の生涯を閉じることになります。春の陽気に誘われるかのように多くの花が咲き誇る時期にあり、桜の満開の姿は他を圧倒しています。古の時代、今のように食が豊かではありませんでした。しかし、美味しく食せる実を成さない桜がもてはやされたことの理由は、満開の姿が言葉にならないほどの美しさを誇るからではないでしょうか。

 「梅」は一輪一輪時間をかけながら咲き続けます。顔を近づけながら香りや花の姿を愛でるように。「桜」は近くで鑑賞するもよし、ですが、遠めに眺める満開に咲き誇る姿にこそ、得も言えぬ美しさがあります。ということは、「観梅の心」は「小さなことも見逃さずない、細やかな心遣い」を、「観桜の目」は「大局を見誤らない、時世を見極めの目」のことを意味しているのだと。

 人と人との助け合いで成り立つ社会における処世術を、我々に教えてくれている気がいたします。特に自分のように接客を生業にしている者にとっては、各テーブルのお客様お一人お一人の所作や言葉から、その機微を捉え最善を尽くさねばなりません。さらに、日ごと月ごとに変わる食材、それによって仕上げられる料理の数々。そこへ、レストランの雰囲気が加わることで、料理が輝きをまといます。飽くなき探求心と、目先の欲に囚われずに時世を読み解くことで、魅力あるBenoitが姿を見せるのです。前者が「観梅の心」であれば、後者は「観桜の目」。これを身につけなければならない。そこで、自分の座右の銘としたのです。勝手な解釈ではありますが、なかなかに説得力があるのではないでしょうか。

 毎年、梅を見、桜を見ることで、再認識させられ忘れることない座右の銘です。こう考えると、やはり身を引き締め、事始めとする新年度を4月とするのは、自分にはちょうど良いタイミングなのかもしれません。

 

 古代中国を発祥とする二十四節気では、四季の始まりを「立春」「立夏」「立秋」「立冬」と記しています。このそれぞれの日を迎えるまでの18日間の「季節の移り変わる期間」が「土用」です。「土用」は「土旺」とも書き、大地の勢いが旺盛になる時というのです。そのため、土をいじくるような、地鎮祭上棟式なイベントは行わず、さらに昔の土葬なども避けていたようです。農耕民族らしい、大地への畏敬の表れでもあるようです。土用は、変化に伴う強大なエネルギーに満ち。大地は、人が太刀打ちできないほどの自然の力を備えている期間。何やら新興宗教のような話になってきていますが、土用の期間というのは「季節の変わり目」であり、とかく寒暖・乾湿が大きく、不安定な天気が続きます。ここで無理をすると、大病を患いますよ、という先人たちからの我々へのメッセージなのでしょう。我々は農耕民族ですから、土をいじくるなということは、「無理に農作業をしないで、体を休めなさい」ということに。

 同じ中国で誕生した「五行説」では、1年は春夏秋冬の「四季」に、季節の変わり目である「土用」が加わり、5つに分けられ、それぞれに色があてがわれています。暑さの盛りでもある「夏は赤」、寒さ厳しい「冬は黒」。待望の実りの時期であり、紅葉・黄葉と彩り豊かですが「秋は白」。若葉青々しいというように、かつては緑も青に含まれていましたので、「春は青」。ちなみに「青春」はここから誕生したようです。では、土用は何色なのか?寒暖乾湿の差が激しい季節の移り変わる時期は、健康管理に注意しなさいよとの警告でしょうか、「土用は黄」です。

f:id:kitahira:20190423102236j:plain

 ここは先人たちのアドバイスに従い、「働き方改革」も施行されたことですし、十分な休養と睡眠を意識してみてはいかがでしょうか。そして、「美しい(令)」季節に春食材が「和」する逸品は、令和元年にこそふさわしい。そこで、皆様に旬の食材に出会い、食することで無事息災に春を過ごしていただきたい。旬を迎える食材を旬の食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできていいます。さあ、Benoitへ。皆様を「口福な食時」なひとときへとご案内いたします。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなく返信ください。いつも温かいお心遣い本当にありがとうございます。再会を心待ちにしております。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com