kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

春の陽射しで雪がとける…「溶ける」、「融ける」それとも「解ける」?

 春の陽気は、雪や氷をとかしてゆき、その雪の下には春を待ちわびた草草が萌えいずる機を伺っています。さて、雪や氷が「とける」、これを漢字で書くと、「溶ける」、「融ける」、それもと「解ける」?

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 現代文では、「氷がとける」を「氷が解ける」と書き記します。ネットで調べてみると、産経ニュースの中で、産経新聞社の用字用語集「産経ハンドブック」の紹介がされていました。それによると、 「解かす・解く・解ける」=とけてなくなる、緊張がゆるむ、ほぐす。(用例)氷・雪が解ける〈自然現象〉。 「溶かす・溶く・溶ける」=とけ合う、固体を液体にする。(用例)氷・鉄・雪を溶かす。

 自然現象を意識するからこその漢字なのだと。なるほど、春の風物詩でもある、せせらぎに流れ込む清らかで冷たい水を「雪解け水」といい、暖かくなり氷がとけることを「氷解」という。他方、熱を加えることで人為的に雪や氷をとかすときには「溶かす」という。自動詞と他動詞の違いもあるかもしれません。漢字それぞれの語源を調べてみれば、さらに明快な回答が得られるのではないか。そこで、語源辞典「漢辞海」で調べてみると、意外な事実を知ることになるのです。

 「溶」は、「川の流れが盛んなさま/ゆったりと流れるさま」という形容詞としての語義があります。明治期に入り、「熔(よう)」から類推して「溶ける」という動詞が日本で誕生した国訓であるというのです。これが、中国でも採用されたのだと。国訓とはl「椿」のように、中国で誕生した漢字に、日本独自に読みを与えた漢字のこと。中国の「椿」と日本の「椿(日本固有種)」は全く別物です。

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 「融」もとけるに使います。動詞として、「氷や雪が水になる」という意味を持ちます。しかし、この漢字は説文解字(古代中国の語源書)によれば、「鬲(れき)」から立ち上る蒸気を象(かたど)るのだといいます。古代の調理道具に見ることのできる鼎(かなえ)と鬲。鼎は食材を煮るためのもので、鬲は蒸すために用いたようです。鬲には器の中に仕切りがあり、その構造は今でいう蒸し器と大差はありません。蒸し器だからこそ、器の外に漏れた湯気は渦を巻くように立ち上る。このもやもやっとした湯気を象ったものが「虫」であり、昆虫の「虫」という意味はありません。

 個体が加熱されて液体となることを「融解」といい、金属が高温となり液状化することを「熔解」といいます。「熔」から国訓の「溶」が生まれ、「溶解」もまた同義。なんとなく、「溶ける」も「融ける」も、人為的に熱が加わることで「とける」ということが分かります。言葉を生業(なりわい)としている新聞社だけに、「産経ハンドブック」は的を射た使い方を教えてくれます。ただ、「融解」、「熔解」、「溶解」、すべてに「解」の字を導いていることが気になるものです。

 「解」は「とく/とける」という動詞なのですが、「切り拓く/動物を解体する」「分裂する・引き離す」「(結んだものを)とく/服を脱ぐ」や「答える・釈明する」などという意味があります。説文解字によると、「解」は刀で牛と角をわけるようすから構成された「会意」であると教えてくれる。どこをどう探しても、「氷や雪がとける」という意味はありません。

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岩間とぢし 氷もいまは 溶けそめて 苔のしたみづ 道もとむなり 西行

 岩と岩の隙間を閉ざしていた氷も、いまは溶け始めたようだ。僅かな水は苔に染み入り、その下で流れ出でるべき道を探しているのだろうか。全ての音を吸収しているかのような、しんしんとした山奥の庵から、春の到来を教えてくれるかのように、氷が「とけた」幽(かす)かな水の音を見出したのでしょう。西行は「氷が溶ける」と書き遺している。

 おやおやと混迷をきたす中で、漢字の発祥の地である中国ではなんというのか?多くの知恵を拝借させちただいているお客様に聞いてみたところ、中国では氷や雪がとける表現に用いる漢字は「化」でした。「氷や雪が解ける」とは、誤った漢字を使用し続けているということなのでしょうか?

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 過ぎし1月のこと。日本列島を寒波が覆うことで、都内でも最低気温が氷点下となる日々が続きました。寒々とした風吹きすさぶ公園の池は、ものの見事に氷が張っていたのを思い出します。朝の陽射しが、水面(みなも)とは違って、鋭く照り返してくる。そして、その氷の面には周囲の公園の気色が映しだされていました。

 この、氷の面に周囲の気色が映りでることは、今ではコンクリートの建造物が入りますが、今も昔も変わりません。何事もふさぎ込みがちな冬にありながら、先人たちは「美を見出す」ことを忘れないようです。氷が鏡のように周りの景色を映しだすことを、「氷面鏡(ひもかがみ)」と書き遺しました。なんという美しい音の響きでしょうか。

 和歌の世界では、この「氷面鏡」は序詞(じょことば)に分類されており、氷は暖かくなると「とける」ことから、「とける」「とく」を導くのだといいます。似ているものに枕詞(まくらことば)があります。「あしびきの」は「山」を導きます。枕詞は、意味をなさずに歌い手の想う情景を加味しながら和歌の文体を整えるというもの。序詞は、意味を成していることが大きな違いでしょうか。詳細は、専門家のご意見をお伺いください。

 これほどに美しい言葉でありながら、中世頃の造語なのではないかと言われているのです。万葉の時代、後世から歌聖と称えられた柿本人麻呂が書き遺した一首があり、その誤解から生まれたのだと説明されています。

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紐鏡(ひもかがみ) 能登(のとか)の山も ()がゆゑか (きみ)来ませるに (ひも)()かず寝む

 

 ふと思う。

 歌聖は「紐鏡」を「紐解かず」と詠う。「解」には、結ばれたものを解くという意味があることから、紐鏡の紐を解かないのだと理解できます。しかし、詠者は歌聖と称されている賢人だけに、この歌にはもっと深い意味が込められているのではないかと勘ぐってしまうのです。そこで、素人ながら自分が勝手気ままに歌聖の想いを探ってみることをお許しください。

 「紐鏡」を「氷面鏡」と解くことは、歌聖だからこそ意図的に歌に組み込んだのではないかとも思えてしまうものです。「紐」は「解く」を導きます。「紐解く」とは蕾(つぼみ)がほころぶという意味もあることから、「紐解かず」は蕾がまだ硬く閉じていることであり、まだまだ寒さが厳しい時期であると推測されます。

 歌聖の屋戸(やど)には、池があったのかもしれません。はたまた、近隣に池や湖沼があったのかもしれません。春夏秋と、季節ごとに草木は美しく姿を変えます。ただ眺めるのも良いですが、水面(みなも)に映る姿も趣きがあるもの。風によってささやかに波打った水面は、咲き誇る季節の花々を散らしてしまうのではないかと思うほど。しかし、冬では景色に彩りが少ない上に、水面も氷で覆われます。風情(ふぜい)がないのかと思いきや、冬の陽射しに照らされる氷の美しさはもちろん、はっきりと景色が映る水面(みなも)とは違い、氷面(ひも)には「ぼかし」が加味されているようで、何が映っているのかついつい見入ってしまうもの。「氷面鏡」とはなんと魅力ある美しい言葉なのでしょうか。

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 「氷」が「溶ける」を導くように、「氷面鏡」も「とける」を導きます。前述したように、「溶ける」は国訓であり、確固たる地位を得るには明治期まで待たねばなりません。「融ける」は、今でも常用漢字外になっているほど、何か学術的な雰囲気を持っています。まして伝来してきた中国語の「化」では、あまりにも日本の美意識の中ではそぐわないと考えたのでしょう。

 誰がいつ定めたのか?いまだに分かりません。春の陽気で「氷面鏡」が「とける」ことで、花々が「紐解く」のです。だからこそ、「氷面鏡」が「解ける」であり、「氷」が「解ける」と賢人は考えた。異論反論あるかと思いますが、なかなかに面白い推測ではないでしょうか。氷の消えた近隣の池を眺めつつ思い耽(ふけ)た戯言だ、そうご笑納いただけると幸いです。

 寒暖を繰り返しながら春は歩を進め、雪や氷も解けているか、解けつつあるかでしょう。それに呼応するかのように、花々も紐解かれてゆきます。「花微笑(ほほえ)み」、そして「花笑う」季節が訪れています。

 

 2021年3月14日、例年よりも早く東京都の開花宣言が発せられました。靖国神社の境内にある標本木を、気象庁の方が「1、2…5輪。開花ですね」と数えてゆく光景は、この時期の風物詩といっても良いのではないでしょうか。この桜の開花宣言や、ウグイスやセミなどの初音などは、「生物季節観測」という名称で気象庁が実施している公式発表です。

 アナログとも思える目視や耳を使った確認方法ですが、桜の花を見ることで春の訪れを実感することを思うと、あながち的外れなことでもありません。この「生物季節観測」に関して、昨年に気象庁から観察対象となる動植物の大幅な削減がなされました。寂しい気もするのですが、昨今の環境を考えると致し方ないのかもしれません。

 Benoit3月の特別プランと旬の食材とともにブログでご紹介させていただきます。お時間のある時にご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2021年2月 Benoit特選情報 ≪フランス伝統料理とデザート≫ のご紹介です。

 暦の上では、「立春」を迎えたことで春が始まりました。陽気な春を思い浮かべますが、古人はこの時期を「三寒四温」だと教えてくれます。明治時代に太陰太陽暦からグレゴリオ暦へと改暦したこともあり、多少の季節の誤差があろうとも、今も昔もそう変わりはなく、寒暖の日々が交互に訪れてくるようです。しかも、今年はこの気温差が大きいような気もいたします。

 

≪季節のお話 「埋み火」とは?≫

 かつて暖房器具が乏しい頃にあり、暖を取る方法は薪(たきぎ)を燃やすことでした。しかし、屋内では火災の危険が付きまといます。昔の日本は住居が密集しているため、一歩間違うと町自体が焼け野原となり消滅してしまう可能性すらありました。そこで、先人たちは、「炭」という画期的な逸材を発明したのです。

 今回の季節の話は、「埋み火(うずみび)」について書いてみました。便利に快適になった今の生活によって、失ったものがそこにはある、そのような気がいたします。お時間のある時に以下よりブログをご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

≪お勧め!フランス伝統料理とデザートが登場です。≫

 パリの4区、サン・マルタンと名付けられた脇道の一角に、1912年にBenoitさんが店舗を構えました。そう、Benoitという店名は、創業者の名前です。彼はフランスの伝統料理に、さらに料理上手であったというマリー伯母さんのノウハウを加味することで仕上げられた料理の数々を世にはなってゆきます。美味しかったのでしょう、今なおその場所に健在であり、約110年という長い歴史を誇ることがその証なのではないでしょうか。

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 「Benoitほどビストロらしく、またパリらしい店はありません。味わい深い歴史と盛りだくさんの美味しさに溢れるこの店に私は特別な愛着を感じています。Benoitで感じられる心地よさと懐かしさは、いつの時代にもあり続ける食文化でありまた伝統でもあるのです。」と、アラン・デュカスも語っています。

 

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 同じ名を冠する東京のBenoitは、この本店に連綿と受け継がれてきた料理への想いを引き継ぎます。フランス伝統料理を踏襲しつつも、アラン・デュカスの料理哲学を追究し続けた料理の数々が、プリ・フィックスメニューに名を連ねているのです。その中に、フランスの古き良き伝統料理の代表ともいえる2つが、メニューに姿を現しました。

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 GRATINÉE À L'OIGNON

オニオングラタンスープ

 ランチでは+1,000円、ディナーは+800円でプリ・フィックスメニューの前菜としてお選びいただけます。ご用意できる数に限りがあるため、予約の際にご希望数をお伝えいただけると幸いです。今期は3月31日(水)までのご用意です。

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 PARIS-BREST

パリ・ブレスト

 ランチでもディナーでも、プリ・フィックスメニューのデザートとしてお選びいただけます。ご用意できる数に限りがあるため、予約の際にご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 

 オニオングラタンスープはお馴染みの料理。パリ・ブレストは画像から見るに特に華やかさはありません。しかし、今回のご案内をなぜ皆様にお送りしたのか。この2つのフランス伝統料理は、名称だけでは伝えきれないBenoitのこだわりが隠されているのです。お時間のある時に、以下よりブログをご訪問いただけると幸いです。

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≪余寒特別プランのご案内です。≫

 日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、自分よりご案内している長文レポートに目を通していただけている皆様の労に報いるため、「美しい(令)」季節に春食材が「和」する料理をお楽しみいただくことで、無事息災に日々を過ごしていただきたく、「余寒特別プラン」をご案内させていただきます。そして、岐阜県飛騨高山地方のカボチャ名人と称される若林さんより「飛騨の花もち」をいただきました。この花もちに託された若林さんの想いとは?併せてご紹介させていただきます。

kitahira.hatenablog.com

 

北平のBenoit不在の日

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 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない2月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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 上記日程以外は、Benoitを優雅に駆け回る所存です。自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

 

 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2021年2月Benoit ≪お勧め!フランス伝統の料理とデザート≫のご紹介です。

 パリの4区、サン・マルタンと名付けられた脇道の一角に、1912年にBenoitさんが店舗を構えました。そう、Benoitという店名は、創業者の名前です。彼はフランスの伝統料理に、さらに料理上手であったというマリー伯母さんのノウハウを加味することで仕上げられた料理の数々を世にはなってゆきます。美味しかったのでしょう、今なおその場所に健在であり、約110年という長い歴史を誇ることがその証なのではないでしょうか。

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 「Benoitほどビストロらしく、またパリらしい店はありません。味わい深い歴史と盛りだくさんの美味しさに溢れるこの店に私は特別な愛着を感じています。Benoitで感じられる心地よさと懐かしさは、いつの時代にもあり続ける食文化でありまた伝統でもあるのです。」と、アラン・デュカスも語っています。

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 同じ名を冠する東京のBenoitは、この本店に連綿と受け継がれてきた料理への想いを引き継ぎます。フランス伝統料理を踏襲しつつも、アラン・デュカスの料理哲学を追究し続けた料理の数々が、プリ・フィックスメニューに名を連ねているのです。その中に、フランスの古き良き伝統料理の代表ともいえる2つが、メニューに姿を現しました。

オニオングラタンスープ

パリ・ブレスト

 

 オニオングラタンスープほど、フランスのビストロを象徴するような料理はないのではないでしょうか。知名度は群を抜いており、家庭でも作ることができあくもありません。しかし、Benoitのオニオングラタンスープは、一味も二味も違います。その美味しさをご存知の方より幾度となくご要望をいただきながら、久しくメニューに登場していませんでした。下ごしらえに、思いのほか手間暇を要求してくる料理だからです。

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 美味しさの秘訣は、時をかけて牛すね肉から旨味を煮出すかのようにしたブイヨンにあるのでしょう。肉と香味野菜を「ことこと」というよりも「こと、こと」と煮てゆくこと2日間です。じっくりと丁寧に旨味を引き出した輝かんばかりの美しいブイヨンへと仕上げます。

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 オニオングラタンスープですから、欠かせない食材はたっぷりのタマネギです。ゆっくりと優しい熱加減は、タマネギの持つ甘みとコクを十二分に引き出すかのよう。タマネギが飴色へと変わり、甘い香りが漂うようになったときに、先ほどのブイヨンを加え、馴染ませるように1時間ほども煮込んでゆきます。この時点で、すでに美味しさを感じとれます。

 Tête de Lion(ライオンの頭)と名付けられたスープ用の器は、オニオングラタンスープ以外に使わないのではないかと思えるほど、相性を見せます。時をかけて仕上げたオニオンスープを注ぎ、オーブンへ。そののスープの上に、Benoit自慢のパン・ド・カンパーニュの厚切りに小さな短冊状に削ったグリュイエールチーズをたっぷりとのせ、熱々スープ液面に浮かべ再度オーブンへ。

 皆様の前にオニオングラタンスープが見せた時、ふつふつとしたチーズに目を奪われ、はなたれる甘い香りに魅せられるはずです。「熱く食べにくいですが、熱い時にこそオニオングラタンスープの美味しさをお楽しみいただけます。」とシェフは言う。冷めてくると、塩っ気が姿を現してくるのだと。「熱っ」と小声をこぼしながら、はふはふしながら楽しむのが、オニオングラタンスープの醍醐味なのかもしれません。「語らい」を楽しむ暇(いとま)を与えないほどのこの美味しさは、「黙食」をお勧めいたします。

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GRATINÉE À L'OIGNON

オニオングラタンスープ

 ランチでは+1,000円、ディナーは+800円でプリ・フィックスメニューの前菜としてお選びいただけます。ご用意できる数に限りがあるため、予約の際にご希望数をお伝えいただけると幸いです。今期は3月31日(水)までのご用意です。

 

 フランス料理が我々の生活に馴染まない理由の一つに、「難解な料理名」があるかと思います。伝統料理の数々は、その歴史に裏打ちされた名前となり、今もその名を遺しているのです。フランス人であれば誰しもが知っている料理であり、説明を必要としないものです。これは、海外から見た日本料理も同じこと。この難解さが料理の魅力の一つともいえなくもありません。

 とはいえ、フランス料理のデザートに関しては、無法地帯とも思えるほどの名づけがされているものです。Benoitの御三家にデザートの一つ、「ババ」は千夜一夜物語に登場する「アリババ」から。「サントノーレ」は、創作者に店舗がサントノーレ通りに面しているから。「ピーチ・メルバ」はオペラ歌手メルバさんへのオマージュから、などなど。諸説ありながら、不思議なことにデザートとしてはフランスの方々には周知されていつのです。

 今回ご紹介するデザートの「パリ・ブレスト」は、2つの地名です。一つは誰しもが知る「Paris(パリ)」、もう一つはブルターニュ半島の西端に位置している港湾都市「Brest(ブレスト)」。この2つの都市を結ぶ一大イベントが「Paris-Brest-Paris(パリ-ブレスト-パリ)」と呼ばれている、個人参加は5年ごと、団体は4年ごとに開催されている自転車レースです。往復1,200kmにも及ぶ距離を自転車で走破する過酷なもので、1891年に初開催から今も継続中です。1951年開催がプロレース最後となり、今では一般の人も参加できるイベントになっているのです。

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 この自転車レース初開催にあたり、記念すべきデザートとして考案されたのがデザート「Paris-Brest(パリ・ブレスト)」だというのです。誰が発案者なのかは諸説あるため、断言することはできません。シューの生地をドーナツ状にした理由は、自転車のタイヤに模したのだといいます。さて、信じるかどうかは皆様のご判断にお任せいたします。

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 このフランス伝統のデザートを、Benoitらしく再現いたしました。シュー生地をドーナツ状に絞り込み、ヘーゼルナッツと「あられ糖」を散りばめ焼き上げます。このあられ糖とは、その名の通り米菓子の「あられ」のような食感のある優しい甘さの砂糖のこと。粗熱を取るように休ませて、横から半分に切り分けます。

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 切り分け下半分に、ヘーゼルナッツのプラリネを加えて仕上げたムースリーヌを丁寧に絞り込んでゆきます。いとも簡単にこの絞り込みをこなしてゆくのですが、なかなかな技を要求してくる作業であることは、素人目で見ても明らか。再度ヘーゼルナッツを散りばめ、生地の上半分をのせると、Benoitのパリ・ブレストの全貌が明らかになります。

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 これだけでも美味しいと思うのですが、Benoitパティシエールは美味しさへ追及の手を緩めません。何かが足りない…そこで、白羽の矢が立ったのが、今期モンブランで登場した「笠置ゆず」だったのです。このたっぷりのヘーゼルナッツのムースリーヌの下に、ひっそりとユズのマルムラードを絞り込んでいるのです。このユズがどれほどの特選食材であるかは、以前ブログに綴ったご案内を参照ください。

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 シュー生地だからこそのの心地よい食感。たっぷりとヘーゼルナッツを使うことで、芳しい香りとナッツの美味しさをたっぷり内包したムースリーヌ。このヘーゼルナッツの独特のほろ苦さが、ユズの心地よい柑橘のほろ苦さと相まった時、なぜレモンではなく、ユズを使ったのかの答えが導き出されます。フランス伝統のデザートが、新たなマリアージュの下でBenoitに「登場です。

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PARIS-BREST

パリ・ブレスト

 ランチでもディナーでも、プリ・フィックスメニューのデザートとしてお選びいただけます。ご用意できる数に限りがあるため、予約の際にご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 

 日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、自分よりご案内している長文レポートに目を通していただけている皆様の労に報いるため、「美しい(令)」季節に春食材が「和」する料理をお楽しみいただくことで、無事息災に日々を過ごしていただきたく、「余寒特別プラン」をご案内させていただきます。そして、岐阜県飛騨高山地方のカボチャ名人と称される若林さんより「飛騨の花もち」をいただきました。この花もちに託された若林さんの想いとは?併せてご紹介させていただきます。

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 かつて暖房器具が乏しい頃にあり、暖を取る方法は薪(たきぎ)を燃やすことでした。しかし、屋内では火災の危険が付きまといます。昔の日本は住居が密集しているため、一歩間違うと町自体が焼け野原となり消滅してしまう可能性すらありました。そこで、先人たちは、「炭」という画期的な逸材を発明したのです。

 今回の季節の話は、「埋み火(うずみび)」について書いてみました。便利に快適になった今の生活によって、失ったものがそこにはある、そのような気がいたします。お時間のある時に以下よりブログをご訪問いただけると幸いです。

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 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2021年2月 季節のお話「埋み火 (うずみび)」とは?

 暦の上では、「立春」を迎えたことで春が始まりました。陽気な春を思い浮かべますが、古人はこの時期を「三寒四温」だと教えてくれます。明治時代に太陰太陽暦からグレゴリオ暦へと改暦したこともあり、多少の季節の誤差があろうとも、今も昔もそう変わりはなく、寒暖の日々が交互に訪れてくるようです。しかも、今年はこの気温差が大きいような気もいたします。

 かつて暖房器具が乏しい頃にあり、暖を取る方法は薪(たきぎ)を燃やすことでした。しかし、屋内では火災の危険が付きまといます。昔の日本は住居が密集しているため、一歩間違うと町自体が焼け野原となり消滅してしまう可能性すらありました。そこで、先人たちは、「炭」という画期的な逸材を発明したのです。

 この炭の登場が、どれほど人々の生活を変えたことでしょうか。暖房器具としては、今のストーブとは比べてはいけないほど微力ながら、古くは平安時代に始まり、戦後の高度成長時代にまでの長きにわたり、我々の生活に密接にかかわってきました。

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 この炭の利点は、囲炉裏(いろり)や火鉢の中に深く敷き詰めた尉(じょう)の中で、種火の残った炭を保管することができたことです。火鉢の中で、炭や樹々を最後まで燃しきった時、グレーがかった白い灰となります。これが尉です。この中に火のついた炭を埋(うず)めておくことで、種火を残しておけるのです。これを「埋み火(うずみび)」や「埋(い)け火」といいます。ライターなどあろうはずもなく、火を起こすことが難儀な時代です。なんという生活の知恵でしょうか。

 

さよふけて かきおこすかげの くれなゐも 花の春ある 埋み火のもと  三条西実隆

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 詞書(ことばがき)には、「炉火(ろか)忘冬」と書き記してあります。冬を忘れさせてくれるものといえば、炉の埋み火である実隆はいう。夜が更けて、寒さ一段と厳しくなる頃。外はしんしんと雪が降ってるのでしょうか、それとも寒さに冴えわたる星月夜なのでしょうか。月明かりもない部屋の中で、あまりの寒さになかなか寝付けない。この寒さはなんとかならんものだろうか、と心に思いつつ、凍える手に吐息を吹きかけ、火鉢のもとへと向かう人影がある。

 暗がりに目が慣れることで、白みがかった灰色の尉が、闇の中でうっすらと浮かび上がってくるようだ。火箸でその尉をかき分けると、ぽっと闇の中から眩(まばゆ)いばかりの炎が姿をみせる。尉の下に埋もれいた炭にくすぶっていた埋み火が、空気に触れることで熾(おこ)るのです。

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 暗闇の中で、深紅から鮮やかな紅色へ、めらめらではなくゆらりゆらりと熾るその埋み火には、得も言われぬ優艶な美しさがあります。実隆は、ここに花咲き誇る春を見出します。彼は室町時代後期から戦国時代にかけて活躍したお公家さん。彼(か)の時代、「花」は「桜」のことを指し示すことが多いのですが、埋み火を想うと、今花笑っている紅梅や木瓜(ぼけ)の花の方がしっくりときます。「梅の花」を「花」と詠い遺した万葉歌人へ敬意の表れなのでしょうか。

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 皆様にご案内しているブログの画像は、ネット上のものを勝手に使用することをしておりません。可能な限り自らが赴き撮影するようにしています。しかし、どうしても訪れることができない遠方などは、現地の方々のご協力を仰いでいます。今回の「埋み火」の画像をご覧になって、「北平家には火鉢がある」と思われた方も多いのではないでしょうか。

 さすがに我が家に火鉢はありません。炭火の画をなんとかしようかと画策するも、このコロナウイルス災禍によって身動きままならず、撮影は諦めておりました。先月にお送りした「寒中お見舞い」のご案内で「埋み火」に触れてはいるのですが、画像はありませんでした。

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 このブログをご覧になっていただいたお客様から、「ちょうど最近、火鉢を復活させました。」とメッセージが届きました。一昨年の台風で倒れたままになっていた銀杏の木を、つい先日に小ぶりに切り分け燃やしたのだといいます。その熾火(おきび)や灰を眺めているうちに、ふっと蔵の中に火鉢が眠っていることを思い出したのだといいます。そして、彼女のお父様が炭焼きの技を習得していることもあり、ひっそりと家の片隅に見事なまでの炭があったのです。ここまで素材が整っていると、彼女の中に「熾(おこ)さない」という選択肢はなかったでしょう。

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 彼女が幼少の頃、ご自宅では薪を燃やしてお風呂を沸かしていたといいます。ということは、お風呂の壁の外側に釜戸(かまど)があった。その釜戸の熾火を利用して、寒くなった時には炭炬燵がお目見えしたのだといいます。そして、最後に床に就く人の仕事は、この炭炬燵の熾火を尉の中に埋めること、そう「埋み火」にすることだったと教えてくれました。朝一番に目覚めた人は、前述した三条西実隆の歌のように、「埋み火」を熾すことから始まるのです。まさに、「朝一に起きたものが熾す!」これが暗黙の家庭内ルールだったのでしょう。

 彼女は今回火鉢を復活させたことで、昔を懐かしむことができたのだと思います。そして、熾火を眺めることで、連綿と受け継がれてきた日本の生活文化の風情に浸ることができたのです。「今は灯油や電気を使っていますが、今考えると贅沢なことです!」と語っていましたが、彼女のご主人様からすると、さほど暖かくもなく灰が散る火鉢は不評なのだと、笑いながら教えてくれました。

 便利に快適になった今の生活によって、失ったものがそこにはあるのでしょう。今の生活を捨ててまで、昔に戻ろうとは思いません。しかし、時に時間を作り、ゆっくりと自然の機微を感じる時間を作ることは、日本人としての感性を呼び覚ますことができるのかもしれません。失ったからこそ気付く大切さを感じ取れるはずです。

 彼女から火鉢お話を聞いた時、熾火と埋み火の画像をいただけないものかと、自分の我がままを伝えさえていただきました。快諾していただいた上に、貴重なお話まで伺えたこと、この場をお借りしまして、深く深く御礼申し上げます。

 

 昨今のコロナウイルス災禍は、計り知れない試練を我々に与えています。今まで当たり前だと思ってきた日々が、たまたま守られてきただけであったことを知りました。そして、この災禍は、「食」を疎かにすることは日々を寂しいものとすることを、さらに「語らい」の場を失うことが人生におおきな喪失感を与えることを知ることができた気がいたします。

 微力ではありますが、Benoitという場所で旬の食材で美味しい料理に仕上げ、そして「語らい」の場を設けることで、皆様に「口福な食時」のひとときをお楽しいいただけるよう、最善を尽くさせていただきます。

 

 パリの4区、サン・マルタンと名付けられた脇道の一角に、1912年にBenoitさんが店舗を構え、今なおその場所に健在であり、約110年という長い歴史を誇ります。同じ名を冠する東京のBenoitは、この本店に連綿と受け継がれてきた料理への想いを引き継ぎます。フランス伝統料理を踏襲しつつも、アラン・デュカスの料理哲学を追究し続けた料理の数々が、プリ・フィックスメニューに名を連ねているのです。その中に、フランスの古き良き伝統料理の代表ともいえる2つが、メニューに姿を現しました。

 日本伝統の「埋み火」の話で心温まった後は、今Benoitのメニューに名を連ねるフランス伝統料理をお楽しみいただきたいと思います。温かいというより熱々の「オニオングラタンスープ」、そして自転車乗りの情熱を掻き立てる「パリ・ブレスト」をご紹介させていただきます。

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 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2021年2月 「Benoit営業時間の変更」と「余寒特別プラン」のご案内です。

余寒お見舞い申し上げます。

 

 「立春」過ぎたのもつかの間、2月4日に関東では「春一番」が吹き込みました。暦通りの温かい春の到来かと思うのですが、古人はこの時期を「三寒四温」であると、我々に注意を促しています。その漢字の如く、3日寒い日の後に、4日暖かい日が続く。春の兆しは感じ取れるも、まだまだ暖かさはゆっくりと訪れるのだという。

 中国の北宋山水画家である郭煕(かくき)は、自信が書き記した「臥遊録(がゆうろく)」の中で、「春山淡冶にして笑うが如く」と書き遺しました。これが日本に伝わり、「山笑う」という春の季語が誕生したのです。異国の地である、郭煕の見た景色と、今我々の眼に映るものとでは別のもののはずです。しかし、不思議なことに共感を覚えるものです。そして、日本の先人たちは、花が咲くことを、「笑う」「笑(え)む」と美しい表現を生み出しました。

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 この陽気に誘われるかのように、「マンサク」が微笑(ほほえ)み始めています。例年よりも早いような気もすると思うことは、勝手気ままに自分が暦に合わせるという自分の浅慮(せんりょ)を省みる機会を与えてくれているようです。自然の機微を捉える能力は、自生する草木には到底及びもしません。早春を彩る美しい花々の中にあり、他に先駆けて笑うことから「まず咲く」に名は由来するともいいます。

 花?よく見ると小さな蕾(つぼみ)から、4本の黄色いひょろひょろしたものが。これが、マンサクの花です。まだまだ花は微笑み程ですが、小枝にたわわに花笑う頃は、遠めからでも目を引く美しさを誇ります。

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 鮮やかな黄色といい、花付きといい、何か縁起が良さそうな気もするということで、「万年豊作」の願いも込めて「万作(まんさく)」なのだともいいます。暦の春ではなく、季節の春の到来を、この花は教えてくれています。

 

 先日、Benoitに紅白に花笑う可愛らしい花が届きました。送り主は、岐阜県高山市の若林農園さんから。若林さんは、2年続けてBenoitが購入させていただいている「宿儺(すくな)かぼちゃ」の栽培者です。しかも、彼の地では「かぼちゃ名人」と称されている人物です。宅急便の宛名シールには、「花もち」と書いてありました。

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 昔から歳暮(としのくれ)が近づくと、岐阜県飛騨地方の農家では、枝ぶりの良い切り株を探すために、雪深い山に入ります。見つけた木株は、自宅へと持ち帰り、丁寧に整形された後に、この木株の小枝に搗(つ)きたての餅を花のように飾り付けるのです。さらに、紙で作った小判、ガラスで作った金の玉などを枝に吊り下げたりもします。これを座敷天井下の横柱に飾りつけ、鏡餅をお供えし、五穀豊穣を願いながら新年を迎えます。かつては幕府の献上品としても喜ばれ、今は皇室の飾りとしても親しまれています。

 自分が新潟出身であることから、雪深い冬の気色や嫌というほどに理解できます。雪で覆われる冬は、身動きがとれない上に、雪かきに終われる日々。さらに雪をうっちゃる場所もないほど、其処彼処が雪の山。空は曇天で、日中でも陽が射すことが少ないので薄暗さがあります。飛騨高山地方は、さらに厳しい寒さが、ここに加わるのです。

 春の雪解け待ちわびる中で、先人が考えたのが「飛騨の花もち」でした。新年を迎えるにあたり、雪深いからこそ、まだまだ笑う花などあろうはずもなく、それでも皆が笑顔になれるように明るく飾りつけたいと願う。紅白に笑う花もちが、どれほど勇気と希望をもたらしたことでしょうか。この伝統が、飛騨人の心に生き続けているからこそ、800年もの長きにわたり連綿と受け継がれてきたのでしょう。

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 若林さんからの直筆の手紙が添えてありました。飛騨の冬に鍛え抜かれた屈強な心の持ち主なのでしょう。言葉の端端に力強さがあるも、行間には優しさが溢れています。新型コロナウイルス災禍が、若林さんにも重くのしかかっているにもかかわらず、感謝の言葉が綴られていました。そして文末に、「今年もおいしいカボチャをお届けできるようにします。」と。

 この厳しい冬を乗り越えると、豊富な水資源を育んだ、類稀(たぐいまれ)なる自然環境が住む人々を癒してくれる。風光明媚な景色ばかりではなく、美しい空気に、清らかな水の恩恵は計り知れません。さらに、その風土が育んだ特産物が美味しくないわけがありません。まして、若林さんの手掛けた野菜が美味しくないわけがありません。

 まるで白梅・紅梅のように、Benoitで笑っている「飛騨の花もち」に、大いなる希望と勇気をいただきました。若林さんの、そして皆様の、ご期待にお応えできるよう、コロナに屈することなく、日々最善を尽くさせていただくことを、ここにお約束いたします。

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営業時間変更のお願いです。

 昨今の日本の状況を鑑み、Benoitでは、考えうるウイルス対策を徹底し、ランチは時間を延長し毎日、ディナーは土日祝日の限定で、時間を短縮して営業させていただきます。誠に勝手ながら「平日ディナー営業自粛」は継続させていただきます。皆様には、多大なご迷惑をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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ランチ: 1130分から1600 (1430 ラストオーダー)

平日ディナー: 営業を自粛させていただきます。

週末・祝日ディナー: 1700分から2000 (1900 ラストオーダー)

 

余寒特別プランのご案内です。

 万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出します。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。

 そこで、日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、自分よりご案内している長文レポートに目を通していただけている皆様の労に報いるため、「美しい(令)」季節に春食材が「和」する料理をお楽しみいただくことで、無事息災に日々を過ごしていただきたく、「余寒特別プラン」をご案内させていただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、202137()まで。ご予約は、(kitahira@benoit.co.jp)への返信をご利用ください。お急ぎの場合には、Benoitメール(benoit-tokyo@benoit.co.jp)より、もちろん電話でもご予約は快く承ります。

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余寒特別プラン

ランチ (週末・祝日含みます)

前菜x2+メインディッシュ+デザート

5,500円→4,200円(税サ別)

週末・祝日ディナー

前菜x2+メインディッシュ+デザート

7,800円→6,200円(税サ別)

※プリ・フィックスメニューの料理内容は、当日にメニューをご覧いただきながらお選びいただきます。ご希望人数が8名様以上の場合は、ご相談させてください。

 

香川県の薫る農園さんのご紹介です。

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 今回は自然の機微に依り従いながら、丹精込めて野菜を育て上げている一人の女性、香川県香南(こうなん)町「薫る農園」の園主、河田薫さんのご紹介です。今はブロッコリーを直送しており、上記のテイクアウトボックスだけでなく、ランチメニューの中でも2月14日(日)までですが、組み込まれています。いまさら?との声が聞こえてきますが、彼女の力量が大いに発揮されているのは、グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」です。しかし、彼女が丹精込めて育て上げたグリーンアスパラガスは、まだ芽吹きません。

 そこで、グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」が芽吹く前に、なぜ彼女の栽培する野菜が美味しいのかを、紹介させていただきます。Benoitの春の「めざめ」は、グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」から!

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北平のBenoit不在の日

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 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない2月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。 

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 上記日程以外は、Benoitを優雅に駆け回る所存です。自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

 

 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2021年2月Benoit 「 香川県の≪薫る農園≫」さんのご紹介です。

 旧暦2月を、別称で「如月(きさらぎ)」と学びました。よくよく考えると、これはかなりの難読漢字です。語源辞典「漢辞海」によると、この「如」という漢字の成り立ちは、古代中国で編纂された語源辞典「説文字解(せつもんじかい)」でいう「会意文字」であるという。これは、既成の象形文字指事文字を組み合わせたもので、「如」は「女」と「口」で構成されているという。「女」には「依(よ)り従う」という意味があり、食べる話すことに必要な「口」が添えられています。

 東京五輪組織委員の森会長の言動が思い浮かびますが、そのような意味ではありません。この「如」が、いまで言う男女差別的な意味合いがあるのであれば、大宇宙の真理に依(よ)り従い、悟りをひらいた、仏様の最高位である「如来(にょらい)」という言葉は生まれなかったでしょう。

 歴史を顧(かえり)みると、今とは比較にならないほどに、古代は「力こそ正義」である。権謀術数に溺れ謀殺されることもあれば、戦場(いくさば)に屍(しかばね)をさらす事例も数知れず。男共は、なんと勝手きままに死に急ぐ人生だったであろうかと思う。その男共の菩提を弔うという重役を女性が担っていたようなのです。以前、「平家物語」と下関の観光案内をブログに書き記しました。お時間のある時にご訪問いただけると幸いです。

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 話を元に戻します。この「如」という漢字を調べてみても、「じょ/にょ」と読みがあるものの、「き」で始まる読みは「如月」以外はないようです。では、どうして古人はこの漢字を2月にあてがったのでしょう。

 自分の憶測の域をでないのですが、新暦(太陽暦)と旧暦(太陰太陽暦)とで誤差はあるものの、春分点を基準に二十四節気新暦にあてがうことを鑑みると、やはり2月の今の時期が如月のはずです。天気が不安定で、日々の気温差や、昼夜の寒暖差が大きい時期。春の陽気に心緩ませるのもほどほどに、自然の機微に依り従いながら日々を過ごさなければならない月ですよ、との想いを込め「如月」としたのではないでしょうか。

 

 さて、今回は自然の機微に依り従いながら、丹精込めて野菜を育て上げている一人の女性、香川県香南(こうなん)町「薫る農園」の園主、河田薫さんのご紹介です。

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 「うふふ」と、園芸を楽しむとはわけが違い、農作業という力仕事をこなし、自らが園主としいて切り盛りする経営者です。天候に一喜一憂しながら、栽培する野菜の選択と栽培管理、スタッフ皆への気遣いとまとめ上げる統率力。美味しく安全な野菜を育てあげるべく、飽くなき探求心は、県外にまで学びに行き教えを請うという行動力を生み出しています。

 当然のことながら、彼女の育てあげた農産物は美味しく、周知されるようになります。諸先輩方からは、「若いのに大したもんだ」と一目置かれるようになり、「農業女子」としての名声を得るのです。農業は思いのほか重労働であり、猛暑極寒や暴風雨に関係なく、作物と向き合わなければなりません。農を生業とするということはそれ相応の覚悟と体力を必要とします。「農業女子」とは、陣頭指揮を執って自ら農産物に向き合う彼女の姿への賞賛の表れなのです。

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 Benoitでは、夏に香川県さぬき市の飯田桃園さんから「すもも」を毎年購入させていただいております。先日に、園主の飯田さんとお会いでいた際に、彼女の話題になったのです。「河田さんを存じていますが、まだお会いしたことはありません。」と教えてくれました。

 

 香川県の県庁所在地である高松市、この南部に位置しているのが香南町です。2006年1月10日に高松市編入合併された、比較的新しい町。この町の南には、香南台地を切り拓いた「高松空港」があり、まさに香川県の「空の玄関口」。この空港の滑走路の南には「さぬきこどもの国」という大型児童館があり、公園や自転車コースを始め、プラネタリウムや大型遊具設備も備え、休日はもちろん平日も子どもの親子連れで賑わっているといいます。

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 高松空港のある香南台地は、標高185mもの高さがあり、この地より北には讃岐平野が広がります。かつては、秋にもなると、稲穂が頭(こうべ)を垂れた、金色の地が一望できたのではないでしょうか。今ではかつてほどではないにしても、香南町は、讃岐平野の一端を担うだけに、農地面積が町全体の5割近くを占めています。お米や野菜はもちろん、丘陵地を利用しての果樹栽培や畜産も盛んです。

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 香南町という地域だけで、これほど多種多様な一次産業があるということは、生産供給機能が十分にあるばかりではなく、自然環境の保全機能をも兼ね揃えているということになります。高松市・香南町合併協議会の資料によると、「“田園環境と空港を生かした快適生活、新産業創造交流ゾーン”として位置づけることとします。」と書き記されています。

 

 限られた圃場(ほじょう)で、同目同科の作物を栽培することを「連作」といいます。園芸をされているかたは、大いに経験していることかと思いますが、連作は病気や害虫の発生を招き、収穫がなくなることもあります。水田の場合は、乾田とした後に寒い冬が訪れることで田が休まり、この連作障害を防ぎます。野菜の場合は、稲よりも栽培期間が少ないため、栽培計画をしっかりたてなければ、この障害を引き起こすことになります。

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 農薬がすべて悪いとは考えていません。農を生業とする以上は、収穫を得なければならず、必要不可欠のものであるはずです。しかし、農薬が良いとは思いません。必要以上に摂取することで、体に支障をきたすことになります。そして、農薬の過剰使用は、圃場を枯らします。連作障害を農薬で解決しようと試みることは、負の連鎖を導くことになるのです。

 彼の地で農を営む河田さん、もちろん生産供給と自然環境保全とを両立させる「循環型農業」に取り組んでいます。循環型農業とは、環境への負荷に配慮した農業のこと。土作りから始まり、土作りで終わる。作物の根付く土の徹底的な管理こそが、農薬をほとんど使用しない安心安全な作物を育て上げるのです。

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 連作を避けるために、他目他科の作付けの計画を立てる中で、収益の出ない「ソルゴー」を組み込んでいます。ソルゴー(ソルガム)は、イネ科の一年草で、モロコシの一変種といいます。これを育て、刈り込み、土に混ぜることで緑肥とする。さらに、アブラムシやアザミウマを捕食するテントウムシやヒメハナカメムシの宿り場にもなるのです。最近は、「ひまわり」もこの仲間に加わったといいます。緑肥効果ばかりではなく、畑一面に咲き誇るひまわりの美しい景観は、夏の暑さに辟易しているすさんだ心を癒してくれるかのよう。昨年は近隣3軒の農業者でしたが、今年は4軒で取り組むといいます。

 緑肥が作物の健康のためならば、美味しい実りを得るための土作りも必要です。そこで欠かすことができないのが、「堆肥」です。健全な堆肥を得るために協力してくれているのが、同じ香南町にある赤松牧場です。その堆肥のいただくかわりに、河田さんは、所有する圃場(ほじょう)の一部で牛の飼料となる「稲WSC(稲ホールクロップサイレージ)を栽培し、赤松牧場へお渡ししているといいます。稲WSCとは、飼料に適した稲を穂と茎葉まるごと刈り取ってロール状に成型し、フィルムでラッピングしたもの。これを赤松牧場さんが、乳酸発酵を促します。栄養価を上げると同時に、牛にとって消化が良く、食が進むのだというのです。まあ美味しいかどうかは、牛に聞いてみるしかありません。

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 河田さんからすると「循環型農業」ですが、赤松牧場さんからすると「循環型酪農」となるのです。この耕畜連携は、机上ではいとも簡単なのですが、別の業態だからこそ大いに面倒なことのはず。しかし、お互いが安心安全で美味しい農産物やミルクを皆様に届けたいとする思いが、この連携を可能としているのです。さらに、香南町という小さな地域に農業と酪農が相まっているからこそ可能なのかもしれません。2030年までに世界が目指す国際目標、SDGs(持続可能な開発目標)を、ひたに実践しているということなのです。

 

 一昨年、2019年に株式会社ウエイ企画の森田さんのご紹介で、Benoitは薫る農園さんと出会うことができました。彼女なくして、自分は河田さんと出会うことはありませんでした。お送りいただいたグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」は、直送なだけに鮮度の良さはもちろん、その色艶と手にした時のずっしりとした重さで、我々を魅了しました。試食した時、シェフはその美味しさに頷(うなず)き、自分は感銘を覚えたのを鮮明に覚えています。

 昨年2020年は、残念ながら、新型コロナウイルス災禍に見舞われたために、空白の春を迎えたことは周知の事実です。皆様に薫る農園さんのグリーンアスパラガスの美味しさを語ることのできなかった無念さが募る中で、彼女がブロッコリーを栽培していると小耳に挟み、今期に白羽の矢が立ったのです。

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 Benoitに届いた見事なまでのブロッコリーは、緑美しく、ずっしりと重い。素晴らしい品質だとシェフは言う。ちょっとばかり調べてみると、良いブロッコリーの見分け方には、「花蕾(からい/頭のこんもりしている花のつぼみ)が密で濃い緑色である」「外葉(茎から伸びている小さな若葉)がしおれていない」「茎が変色しておらず、≪す≫が入っていない」ものが良いといいます。段ボールに入っていた多くのブロッコリー、どれ一つとして当てはまらないものはありませんでした。

 ブロッコリーの実力といえば、毎日でも食卓に並べたいほど。カロテンとビタミンCが豊富であるばかりか、体内の解毒酵素や抗酸化酵素の生成を促進し、体の抗酸化力や解毒力を高める「スルフォラファン」を含んでいます。だからでしょうか、収穫したてのブロッコリーはあまりにも勢いが強いため、扱いが難しいといいます。確か、香川県の農協から出荷する際には、クラッシュアイスをたっぷりと詰め込んで出荷している。この出荷方法を考案したのは香川県で、他県が模倣するようになるのです。

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 河田さんが危惧していた点はここにありました。あまりにも真摯に目の前の栽培中の野菜に向き合うがために、Benoitに送るために氷漬けにするという手間をかけることができないほどに多忙だったのです。どうする?

 昨年にBenoitは空白の春を迎えたことは前述いたしました。大々的に告知はしなかったものの、河田さんのグリーンアスパラガスは随時購入させていただいておりました。アスパラガスの時期は、ブロッコリーとは比較にならないほど多忙を極める期間だったのです。前年の夏から根に蓄えていた栄養を糧に、ぐんぐん芽を出す「さぬきのめざめ」は、河田さんに休息を与えません。そこで、彼女が提案してしてくれたのが、「信用のおける」八百屋さんだったのです。

 高松市を拠点に、移動販売も手掛けるsanukisの鹿庭大智さん。行動範囲は四国4県に及び、自らが美味しいと納得のいく生産者さんのものしか扱っていないという、四国野菜のスペシャリストだったのです。ご紹介いただいた当初は分からなかったのですが、すでに1年近くお付き合いさせていただく中で、なぜ河田さんがBenoitに鹿庭さんを紹介したのか、今では大いに納得するばかりです。

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 河田さんは、Benoitにブロッコリーを送るにあたり、鹿庭さんと一考してくれました。Benoitへは、収穫後すぐに鹿庭さんが受け取りに赴き、彼の保有する冷蔵庫でゆっくりと休ませ、翌日に発送してくれたのです。もちろん、寒波の折には、鮮度を維持するためにすぐに発送でした。

 この行動は、野菜に素人である自分はもちろんですが、野菜の美味しさにこだわるシェフにとっても知らないところ。どうでもよいと思うのであれば、そのまま送ればいいのです。しかし、それを1日鮮度が落ちるということを鑑みても、敢えてすぐに送らないところに、河田さんと鹿庭さんの心意気がある。Benoitに「美味しいブロッコリーを届けたい。」と。この思いが込められたブロッコリーが、美味しくないわけがありません。言い換えると、この二人なくして、美味しいブロッコリーはBenoitに届いておりません。

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 これほどの特選食材「薫る農園」さんのブロッコリーも、2021年2月14日をもって終わりを迎えます。あと数日を残すのみで、なぜ今回のご案内を送ったのか?すでにお察しかと思いますが、今期も河田さんのグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」が、Benoit届くのです。「Benoitの春の目覚めは讃岐から」…しかし、目覚めるには今少し、3月まで待たねばなりません。

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 同じ野菜であっても、栽培者によって美味しさは異なるものです。どの作物でもそうだと思うのですが、特にグリーンアスパラガスは、収穫に3年を要し、その間にどれほど手間暇をかけたかが顕著に表れるといいます。収穫に3年間ということは、連作ということで、土の徹底した管理を栽培者に求めてくるのです。

 河田さんが最高品質を求め、丹精込めて育て上げたグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」。その想いを受け、最高の状態でBenoitへ届けようと尽力していただける鹿庭さん。この連携なくして、Benoit「春のめざめ」ないでしょう。皆様、どれほど美味しいのか、こうご期待ください!

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 そういえば、昨年後半に、河田さんが大型二輪の免許取得の過程をfacebookで投稿していました。今、休日のツーリングを楽しんでいるようです。さらに、圃場を回るのに愛車を活用しているといいます。ハーレーダビッドソン。ハーレー女子になりましたと、教えてくれました。イケイケです…この行動力こそが、途方もないほどに手間暇のかかる「循環型農業」を可能としているのでしょう。

 

 鹿庭さんは収穫された野菜から、その栽培者の能力を見極め、取引をされており、その行動範囲は四国4県に及びます。昨年のこと。彼と果実の話をしている時に、こう教えてもらいました。「香川の方もどんな気候でも味のブレが少ないように努力されています。そして、糖度より味の方に力を入れております。」と。

 栽培者の皆様は、自然に依り従いながら、最高のものを育て上げるようにと、日々最善を尽くしています。昨今は、ただ「甘い」ということを追究する果実が多いものです。しかし、口にした時の美味しさは、甘さはもちろん、酸味と瑞々(みずみず)しさとのバランスがとれていないと食べ飽きてしまうものです。このバランスは、品種の特性を識(し)り、丁寧に育て収穫時期を見誤らない。その土地土地によって風土は異なるために、培ってきた経験あればこそ可能なことです。

 「気候の変動でも味のブレが少ない」、栽培者はいつでも美味しいものを我々に届けようとの想いが伝わります。しかし、この言葉の裏には、「我々は味のブレない作物」を希求していることになります。確かに、いつでも美味しいものをと考える自分がいます。よくよく考えると、画一的な産物は、工場でしかできません。

 ワインにヴィンテージという考えがあり、その年は良かった悪かっただのと語ります。これは、ワインは農産物であるブドウから醸されるため、そのブドウの良し悪しがワインの味わいに反映するからです。では、なぜ他の農産物に、この考えが及ばないのでしょうか。

 季節によって産地によって、その年の天候によって違いがあって当然のこと。消費者である我々こそ、スーパーや八百屋さんで所狭しと並ぶ野菜が、自然に依り従いながら育てられた産物であることを理解しなければなりません。この理解は、栽培を担う方々が、無理に体裁を整えるために農薬を使うことを避けることにもなるでしょう。そして、それが自らの口から体に入った時に、我々に大いなる健康と幸福をもたらしてくれることになるはずです。

 

 日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、自分よりご案内している長文レポートに目を通していただけている皆様の労に報いるため、「美しい(令)」季節に春食材が「和」する料理をお楽しみいただくことで、無事息災に日々を過ごしていただきたく、「余寒特別プラン」をご案内させていただきます。そして、岐阜県飛騨高山地方のカボチャ名人と称される若林さんより「飛騨の花もち」をいただきました。この花もちに託された若林さんの想いとは?併せてご紹介させていただきます。

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 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2021 まもなくBenoitの「モンブラン」が終わりを迎えます!

 2021年1月20日に、四十節気の24番目の「大寒(だいかん)」を迎えました。この最後の日、2月2日をもって暦の上での季節「冬」は終わりを告げます。翌日の3日は「立春」、いよいよ春が始まるのです。寒いからこそ、其処彼処(そこかしこ)に春の兆しを感じ取れる昨今。この時期は「春隣(はるとなり)」と呼ばれ、季語にもなっています。

 「節分(せつぶん)」とは、季節の分かれ目のことをいい、年に4回あります。暦の上では各季節は、「立春」「立夏」「立秋」「立冬」から始まるので、その前日が節分です。皆様、気づかれましたか?「2月3日が立春」ということは、その前日が節分です。2021年は22日が、「鬼は~外♩福は~内♬」の豆まきの日の節分です。124年ぶりに、1日早く迎えるのです。なぜか?この話は長くなるので、後日に書き綴ろうかと思います。

 

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 さて、1月5日「小寒」から「寒の入り」した一番寒い時期「寒中」も、大寒の最後の日、節分を持って「寒の明け」です。一日の一番気温が下がる時は、夜明け前です。日増しに暖かくなるであろう「春」の前が、一年で一番寒い時期ということで名付けられたのでしょう。「寒」「寒」と教えてもらわなくとも分かります!と愚痴を言いたくなるような今日この頃でしょうか。

 日本列島を寒波が覆うことで、都内でも最低気温が氷点下となる日々が続くことで、公園の池に氷が張っていました。そのような氷が、鏡のように周りの景色を映しだすことを、古人は「氷面鏡(ひもかがみ)」と表現しました。寒い時期だからこそ、空気が冴えわたり、美しく氷が映しだす。なんという美しい表現でしょうか。

 「氷面鏡」は、序詞(じょことば)に分類されており、氷は暖かくなると「解ける」「解く」を導くのだといいます。枕詞(まくらことば)と似ているのですが、これは意味をなさずに歌い手の想う情景を加味しながら和歌の文体を整えるというもの。序詞は意味を成していることが大きな違いでしょうか。詳細は、専門家のご意見をお伺いください。

 これほどの言葉でありながら、中世頃の造語なのではないかとの解説があります。万葉の時代、後世から歌聖と称えられた柿本人麻呂が書き遺した一首に、「紐鏡(ひもかがみ) 能登香(のとか)の山も 誰(た)がゆゑか 君(きみ)来ませるに 紐(ひも)解(と)かず寝む」とあります。この誤解から生まれたのだと。

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 歌聖は「紐鏡」が「紐解かず」と詠う。「紐解く」とは「つぼみがほころぶ」という意味もあることから、「氷面鏡」が美しく映える時期は、「つぼみはまだ硬く閉じている」であり、「花」微笑(ほほえ)むには、時期尚早であり「氷が解ける」まで待ちなさい、という意味を込めたのでしょうか。真相は定かではないですが、「誤解」から生まれたと片づけてほしくないほどに、奥深い言葉に思えてしまうのは、自分だけではないのではないでしょうか。

 

 春の花々が紐解く頃には、日増しに暖かくなっていることでしょう。おのずと「氷」は解けて姿を消してゆきます。日本に誇れるほどの美しい四季があり、この時の流れが多種多様の旬の食材を育んでいます。そのため、季節の移り変わりに従うように、食材も次へ次へと引継ぎを行っているかのようです。

 「氷面鏡」が姿を消す頃には、「山笑う」季節が訪れます。そして、Benoitもこの時の流れを追いかけるように、2月15日にランチ・ディナーともにメニューを大きく変更いたします。そう、今Benoitを牽引してしてくれている冬食材も、この日をもって食材へと引継がれてゆくのです。

 今、メニューに名を連ねる料理の数々には、Benoitが選びに選んだ特選食材を惜しげもなく使用しております。その多くが、2月15日に姿を消してゆくのです。昨年末より続いてきた、「牡蠣のグラタン」の前菜も、口惜しいことに終わりを迎えます。「惜しげもない」やら「口惜しい」やら、「惜」の漢字ばかりが登場します。そこで、花微笑む前に、「惜冬(せきとう)」の思いを込めて、今皆様にお召し上がりいただきたい特選食材を続けざまにご紹介させていただきます。ますは、これです。

「Benoitのモンブラン

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 毎年のように、秋冬にかけてBenoitのメニューに堂々と名を連ねるデザート「モンブラン」。なんと美しく心に響く音色でしょうか。西ヨーロッパアルプス最高峰のMont-Blancが、このデザートの名前の由来といいます。しかし、どこをどう見てもデザートのモンブランと、山のモンブランでは似ても似つかない、そう思うのは自分だけではないはずです。もしや、。「Mont(山)」「Blanc(白い)」という名だけに、雪を冠した姿は目を見張るほどに美しい。比類なきこのデザートの美味しさを讃えるために、人々を魅了してやまない山の名前をあてたのでしょうか。

 これほどに壮大なネーミングなだけに、Benoitではシェフパティシエールの田中が毎年苦悩しながら組み立ててゆきます。今年は和栗7割とフランス栗3割の比率で栗のペーストを仕上げます。フランスらしい風味にするのであれば、フランス栗だけで仕上げればいい。しかし、職人である田中の場合、「美味しい食材が目の前にあるのにもかかわらず、なぜ海外産を使わなければならないのか。」との思いが強い。美味しいフランス産の栗を無下にすることも、洋菓子であるデザートを組み立てる上で無下にはできない。そこで、試行錯誤の末に、今期は7 :3と決めたのです。

 栗を知り尽くし、炊きほぐした栗の品質に絶大なる信頼のある恵那川上屋さんに、今期もBenoitへ送っていただきました。栗きんとんの専門店だからこそ、その自慢の栗きんとんそのものである「加糖された栗ペースト」。さらに、Benoitのために炊いてほぐしただけの「加糖していない栗ペースト」の2種類です。

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 これを半々のブレンドにして、フランス栗を加え、丁寧に丁寧に細心の注意を払い混ぜてゆき、裏ごししてゆきます。この作業を怠ることは、最後に絞り込む栗ペーストの滑らかさを失うばかりか、和栗の旨さを損なうことになるのです。女性にはなかんか難儀な力仕事であることを、加筆させていただきます。

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 そして、たっぷりと絞り込みます。今回、このモンブランには、タルトやスポンジ生地などは一切加わりません。栗の下には、軽やかに仕上げた生クリーム。Benoit自慢の、優しい甘さと心地よい食感のメレンゲを焼き上げ、これを土台とします。濃くも滑らかな栗の美味しさを、軽やかなクリームが引き立てる、やわらかい中にカリっと加えることで心躍る心地とはこのことでしょうか。

 最初感じるコクのある甘さはフランス栗が、後引く深い深い栗の旨味は和栗が、それぞれの大役を担っています。これだけでも美味しい。しかし、何かが足りない。フランスでは、カシスとのマリアージュが最高であるとい、多くの日本人パティシエがこのマリアージュに果敢に挑戦する。カシスの強さに栗の風味が消されてしまうこと、しばしば。

 Benoitの田中ならば、彼女の経験からカシスも間違いなく上手に使いこなす。しかし、「目の前に美味しい食材があるにもかかわらず、なぜ海外産を使わなければならないのか」と彼女は思っている。今期のモンブランの味わいの構想をしているときに、すでに心に決めていた感があります。2020年9月の時点で自分にこう言ってきたのです。

「美味しいユズを探してほしい。」と

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 今期に出会った「笠置ゆず」。果肉果皮を惜しげもなく使ってマルムラード仕上げ、モンブランの中に加えるのです。このユズだからこその酸味とほろ苦さが、栗をいっそう引き立てるかのよう。和栗だからこそ、和の柑橘ユズがいいのかもしれません。そして、果肉と果汁から粗目のかき氷のようなグラニテも仕上げ、別の器で用意します。交互に、もしくは一緒にお召しがありいただくことで、さらなる栗とユズのマリアージュをお楽しみいただけるはずです。

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Mont Blanc à notre façon

モンブラン ブノワ風

 ランチでもディナーでも、+1,000円でプリ・フィックスメニューのデザートとしてお選びいただけます。其処此処に春の兆しが見え始めました。今期のBenoitモンブランは、2月14日(日)までのご用意です。

 

 西ヨーロッパの中央に、7か国にまたがる壮大な峰々がアルプス山脈です。交通の難所でありながら、この山脈に端を発しいる大河川は、ヨーロッパの人々に貴重な水資源を提供しています。そして、その山の端の中で、際立つように聳(そび)えているのが、名にし負うモンブラン」です。

 この山脈を源流とし、フランスを悠々と流れるのが「ローヌ河」。食の都「リヨン」の脇を流れるように南下してゆき、地中海に注ぎます。この河の中流域、ちょうどフランスの中央高地の南東部に、Ardèche(アルデシュ)県があります。Auvergne-Rhône-Alpes(オーベルニュ-ローヌ-アルプ)地域圏に属しており、その名の如く、アルプス山脈の麓(ふもと)に位置しています。この「アルデシュ」と聞いて、ピンときた方はかなりの栗好きの方ではないでしょうか。フランス国内でも栗の産地として有名で、ワインと同じように原産地を名乗ることのできる政府保証付きの銘産地なのです。

 そういえば、日本にも日本アルプスと呼ばれる峰々が本州中央に鎮座しています。これは、北アルプス飛騨山脈中央アルプス木曽山脈、そして南アルプス赤石山脈という3つの山塊で構成され、それぞれを源流とする河川が大地を潤しています。特に、前者2つは豊穣な濃尾平野を形成しているのです。さらに、中央アルプスを源流とする木曽川が、濃尾平野に流れ込む手前、ここは日本でも有数の栗の銘産地です。

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 フランスのパリにある老舗Benoitの「Mont Blanc」が、フランス栗を使うのであれば、同じ名を冠するBenoit東京の「モンブラン」は和栗をつかいます。フランスでは、モンブランにアクセントとなる酸味を加えるべくカシスやレモンを加えます。これが洋栗とのマリアージュを成すのだといいます。では、Benoit東京では何を加えるのか…これもまた、今回の特選食材です。

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 山間を流れていた木曽川は、美濃加茂(みのかも)市の南東、可児(かに)市の北部のあたりで、が濃尾平野に流れ着きます。そして、この地で北アルプスこと飛騨山脈に端を発した飛騨川が落合います。急流から悠々と流れる「大河」へと姿を変え西へ西へと流れゆき、岐阜城を北に眺めながら、ほどなくして南に向きを変え、伊勢湾に注ぎ込みます。

 「大河」、そういえばNHKさんの大河ドラマ明智光秀を主人公に据えた「麒麟(きりん)がくる」です。「歴史は勝者が作る」というだけあって謎が多く、なんと魅力に満ちた武将でしょうか。木曽川の「大河」の話をしてきたので、少しばかり明智光秀の出生の地をご紹介させていただきます。

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≪北平のBenoit不在の日≫

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 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない2月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

3日(水)

5日(金)

 上記日程以外は、緊急事態宣言延長如何によって変動してしまうため、後日ご報告させていただきます。Benoitへお運びいただける際には、自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。

 皆様にお会いする機会を賜りながら、自ら放棄する無礼、ご容赦のほどよろしくお願いいたします。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

 

 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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