kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

福岡県 井上果樹園の「こいひめ柿」

さやけさを 今宵と人の いひおきし むかしもかくや 月はすみけん  藤原長方(ながかた)

  過ぎし10月21日は雲一つない夜空となり、見事なまでの「十三夜」を迎えました。十五夜の満月には2日足りない月の姿は、向かって左手が少し欠けています。完全無欠ではなく、ほんの少し足りないところに奥ゆかしさを感じるという感覚は、四季折々の自然の厳しさを甘受し、共存することを良しとするからこそ得ることのできる日本独特の感性なのでしょうか。古人の自然の機微を捉える感覚は遠く及ばないものの、文明の豊かさで失いつつあるこの感覚を、少なからず持ち合わせている気がいたします。この一句、心に響きませんか?

  藤原長方詠。清らかな夜空に輝く月の美しさを、満月ではない姿に見出した古人が言い残した名月「十三夜」。当夜も今宵も同じように月は澄んでいたのであろうか。悠久の時を過ぎたとて、変わることはないであろう。少し、自分の感情も入り込みますが、そう大きな意味の間違いはないかと思います。古より、今自分のいる地から、どれほどの人が同じ時期に月を眺めたことでしょうか。いつの時代においても、曇っていたとしても、月は美しく輝いていたことでしょう。素敵な一句ではありませんか。そして、過去を鑑みることの大切さを、暗に教示している気がいたします。

  

 さて、今回の旅人は、なんとBenoitのシェフパティシエール田中真理、本人が自らの休暇を利用して赴きました。今まで、Benoitダイニングマネージャーがスタッフを「食材探しの旅」に自費で強制的に送り出す、このようなパワハラ疑惑の嫌疑をかけられておりますが、真っ白なのでご安心ください。今回は、旅行代理店のごとく、田中の個人旅行に、「Benoit特選食材訪問」のオプションを提案し、快諾いただいたのです。旅の行先は、東京から南西へ飛行機で約2時間、「福岡県」です。計画を立てるにあたり、9月の特選食材「イチジク」でお世話になった、同県糸島半島の髙橋さんへのお礼の訪問も検討しておりました。しかし、今回の計画が強行スケジュールであったため、断腸の思いで断念し、今からBenoitに届く特選食材に的を絞らせていただきました。

  食材豊かな福岡県だけに美味しいものが多く、さらに大宰府などの観光地も豊富。全てを横目に流して、いや自らが車の運転なので、まったく視界にすら入れず、ひたに目的地へ車を走らせる。断腸の思いは、自分ではなく田中ですね。ただ、今回は、田中にとって時間は少なかったのですが、得るものが大きい旅になったようです。Benoitで楽しそうに語る彼女がその証でしょう。では、皆様を食材の旅へとご案内いたします。

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 時は10月16日、早朝に飛行機に乗り込み、いざ福岡県へ。日頃の行いが良いのかどうかは分かりませんが、間違いなく福岡県からは歓迎を受けたようで、見事なまでの晴天に恵まれました。定刻に博多空港に降り立ち、車を借りて「食材の旅」の始まりです。福岡都市高速に乗り込み、さらに九州自動車道へ。地図の左上の黄色の箇所が福岡市です。旅路は市街地から少し右手に外れた福岡空港から始まり、佐賀県側の脊振(せふり)山地を迂回するように、尾根伝いに南へと導かれていきます。

 

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 地図左下に緑に色づけられた広大な地、皆様がやんちゃな日々を送っていなければ、中学校の地理の授業で学んだはず、筑紫(つくし)平野です。ゆうに1,200㎢を誇り、中央には九州最大の筑後川有明海に流れ込みます。この河川を挟み西側が佐賀平野(佐賀県)、東側が筑後平野(福岡県)。正三角形のように形成されている筑紫平野の、海から一番離れた頂点、ちょうど県境に位置しているところに久留米市があり、田中はここで高速道路をおり、筑後川と並行して走っている国道210号に移り、右へ右へと進みます。北の筑紫山地と、南の耳納(みのう)山地に挟まれた尾根を、観光名所もそっちのけでひたに進み、今回の特選食材の育まれた地、河童(かっぱ)伝説のある「田主丸(たぬしまる)」へ。この地が、今回ご紹介する特選食材の育まれた地です。もちろん、河童ではありません。地図の中でも、小さいですが、南北の山の稜線にフルーツのマークが記載されています。これが、田中が探し求めていた食材、今回ご紹介するBenoit特選食材は「柿」、それも「井上農園の柿」です。

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  田主丸の地域は、尾根ならではの自然の恩恵に授かるように、東から西へと、筑後川と支流である巨瀬川が並行して流れているため、この豊富な水資源によって平地では稲作が盛んなようです。灌漑技術の発達していない時代にあっては、田は水害の多い下流域よりも山間部で耕作されることになりました。添付した画像を参照ください。河童がでそうな美しい田園風景です。実はここが井上農園へと続く曲がり角です。文明の利器であるカーナビ無くして、土地勘のない田中はたどり着けなかったでしょう。ここから、目の前の耳納連山に向かって走り続けます。山麓に近づくと、一面に広が柿畑に出会うことになります。振り返らなければ、目の前はもちろん左右一帯も柿、柿、柿。地図帳に柿のマークが記載される理由に納得しつつ、柿畑の脇をさらに進むと、目的地である「井上果樹園」に辿り着きます。なんと、井上ご夫妻が果樹園前でのお出迎えくださいました。

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 井上農園は、代々柿を栽培し続け、今のご当主である井上永太郎さんは三代目といいます。柿の栽培面積は8反(約8,000㎡)、この広大な地に「こいひめ柿」と「富有柿」の2品種を植栽しています。さて、「富有柿」はよく耳にするかと思いますが、「こいひめ柿」とは?おそらくご存知の方はいないのではないでしょうか?それもそのはず、日本広しといえども、この品種を栽培しているのは井上ご夫妻のみ。なんと「こいひめ柿」の命名は、井上永太郎さんご本人でした。そう、パティシエール田中が井上農園さんを訪問する理由は、この品種のデザートとしての可能性を探るためだったのです。

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 今回訪問のお礼を伝えるも、すぐに柿畑へと園主自らのご案内です。樹々をすり抜けるように進む中で感じることは、地面が適度な柔らかさを維持していること。なんとうか、落葉樹林が生い茂る腐葉土のやわらかい土ではなく、下草の影響なのか靴底に感じる弾力があるような軽やかな歩き心地というのでしょうか。この柿畑散策の中で井上さんが語ってくれたことは、「土作り」への想いでした。彼は世界的農業指導者である神谷成章氏が確立した「好熱炭素菌農法」を実践しています。パン酵母は勝手知ったるパティシエール田中も、さすがに土壌細菌については、自分と同じレベルの知識しかありません。困惑した彼女を察してくれたのでしょう、井上さんが簡単に解説してくれました。「土の中の構造が、どのような状態であるか理解し、土を育てていくことによって、土はそれに応えてくれる」と。「土を育てていく」ということは、土壌成分に加え、草木や昆虫、微生物にいたる全てのものが、理想的な自然のサイクルを形成できるよう、人が手助けをすること。それによって、「土」自体が持ちうる能力を最大限に発揮できるようになるといいます。理想的な微生物群が、化学肥料を必要としない肥沃な土を作り上げ、そこで育まれた産物には高品質で美味しいものとなるのだといいます。農薬の使用は、この自然サイクルの何かを欠けさせることになる。何かが欠ければ、それに連鎖するように自然サイクルが崩壊し、悪玉菌や微生物がはびこることになり、痩せた地へと変貌するのだと。

 こう語る井上永太郎さんは、井上果樹園の三代目園主であり、幼き頃から祖父・父の手伝いをしながら柿栽培を目のあたりにしており、柿栽培を生業として40年、ベテランといっても過言ではありません。その彼が、いまだ試行錯誤で取り組んでいるのが「こいひめ柿」なのです。この命名は井上永太郎さんご本人。1玉180g前後と他の柿に比べ少し小ぶり。完全な甘柿で、糖度はなんと22~27度にもなり、マンゴーのようだと例えられています。「御所柿」や「次郎柿」の良き特徴も受け継ぎ、群を抜いた美味しさを誇りながら、結実量が少ない上に、育てるのが難しいがために、他の栽培者から敬遠されてしまうのです。栽培方法を確立した井上さんですら、この柿の気まぐれに翻弄される日々。「こいひめ柿」は「気難しいお姫様」ですと語る井上さんは、なぜか嬉しそうでした。

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 柿の表皮に浮かぶ黒い斑点は、露や雨粒等が付着したまま乾くことで「シミ」になります。ハウス栽培が、シミ一つない美しい柿の姿をしている理由はここにあります。露地栽培でも、収穫前に樹をゆすることで水滴を落とすことで防ぐことができるようですが、水滴が付着したままで収穫をすることは、さらなるリスクを負うことになります。そこで井上果樹園さんでは、朝露の乾く午前10時ごろから収穫を始め、選果と箱詰め、さらに出荷もその日のうちに行います。特に「こいひめ柿」は収穫してからの追熟が早いため、細心の注意を払わなければなりません。購入いただいた方の要望にお応えするように、特にBenoitへは輸送に耐えることのできるものを選んで送っていただいております。

  福岡から東京へ、直線距離では886kmですが、道のりはどれほどの距離でしょうか。それにもかかわらず、Benoitには発送日の翌日の夕刻に届きます。井上さんご夫妻の想いと、果樹園の空気とともに詰め込まれた「こいひめ柿」。待ち焦がれていたのは自分以上にパティシエールの田中です。「気難しいお姫様」と対峙した時、プロの表情へと一変、実を手の取り、感触を確かめてから、おもむろに皮をむきカット、そしてパクリと一口。手際の良さにただただ見ているだけの自分へも一口サイズへとカットしてくれました。満面の笑みとともに、「どう!この美味しさ」と口に出してはないが、目が力強く物語っている。確かに、柿は馴染みの食材で、家でも食べている。しかし、「こいひめ柿」の美味しさに感嘆するのみ。フレッシュらしい柿本来の食感がありながら、干し柿のような甘さとコクだ。

 

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 柿がデザートに向かない理由は「柿自体が味わいの強い食材」だからです。例えば、柿にラズベリーを加えてシャーベットを作っても柿の味です。Benoitが今まで柿に手を出さなかった理由がここにあります。濃厚な食材の柿で、バランスの良く食べ飽きない逸品が可能なのか?それも、今回は柿のなかでも群を向いて味わいが濃い「気難しいお姫様」です。この自分の心配は、田中の手腕によって「ものの見事に瓦解いたしました。「美味しいのを作れる?」という自分の質問に対して、「誰に言ってるの?」との答えは、今年の6月のマンゴーの時でした。田中へのこの問いは、まさに愚問というもの。自分はどのようなデザートに組まれるのか、期待以外の何物もありませんでした。そして、ものの見事に応えてくるのです。

 

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 田中が今回のデザートに求めたものは「柿そのものの美味しさ」を引き出すこと。ただでさえ味わい深いフルーツな上に、今回は「気難しいお姫様」です。一筋縄ではいきません。そこで、彼女が着目したのが「ほろ苦さと」と「渋さ」とのマリアージュでした。ただ単に、柿の甘さだけであれば、食べ飽きてしまうことでしょう。ただ、柿本来の美味しさを失っては元も子もありません。そこで、「こいひめ柿」は2つの調理方法へと導きます。一方は、ただカットしたものを、一晩バニラビーンズを加えたシロップに漬けておく。他方は、カラメルソースの中で、くたくたになるまで煮詰めたマルムラード。ともに、柿の強い味わいを損なうことなく、さらに引き立たせる役割を担います。そして、ここに柿の良さを生かすために茶葉アッサムをつかった心地良い渋みを生かしたアイスクリーム。ほわほわのメレンゲをしようした、優しい風味を緩衝材とし、パリパリと焼き上げたアーモンドのチップス(ポリニャック)。最後に、ほんの少しのアニスとカルダモンで香り付けしたカラメルのソースを目の前で。全てがそろったとき、「気難しいお姫様」が麗しき「気品あるお妃様」へと姿を変えるのです。※詳しい調理方法は、田中真理著「フルーツ・デザートの発想と組み立て」誠文堂新光社出版を参照ください。

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 よほど天候不順に見舞われない限り、11月末まで井上果樹園の「こいひめ柿」、次に続く「富有柿」を使った柿のデザートを皆様にご用意いたします。ランチでもディナーでも通常のプリ・フィックスメニューの選択肢の中で+800円でお選びいただけますが、日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、さらにはこの長文レポートに目を通していただけている労に報いなければなりません。そこで、特別プランをご案内させていただきます。11月末までの平日限定。各コース料理の前菜とメインデッシュは、プリフィックスメニューからお選びいただけます。ご予約人数が8名様以上の場合は、ご相談させてください。

 

ランチ

前菜+メインディッシュ+柿デザート

4,600円→4,100円(税サ別)

ランチ

前菜+メインディッシュ+柿デザート+もう一つデザート ※

4,900円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+柿デザート

6,900円→5,900円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+柿デザート+もう一つデザート ※

6,700円(税サ別)

※夢のダブルデザートプランです。それは、もう一つの特選食材がBenoitにとどいているからです。「恵那川上屋さんの和栗」のデザートです。このお話は次回のご案内で送らせていただきます。デザートは柿デザートx1でいいから、前菜x2がご希望の方も、※プランの価格で承ります。

  ご紹介しましたプランは、BenoitのHPなどには記載いたしません。このメールを受け取っていただいている皆様への特別なご案内です。「こいひめ柿」はいつまで続けることができるかは、この「気難しいお姫様」しかわかりません。しかし、井上果樹園さんの「富有柿」もまた美味なのです。なぜか?井上さんが栽培しているからです。そこで、このプランをご希望の方には柿の状況もお伝えいたします。ご面倒とは存じますが、ご予約のご連絡をいただけると幸いです

 

  さて、ここから自分が井上果樹園の園主である井上永太郎さんにお伺いしたことを書いてみようと思います。「こいひめ柿」の栽培方法を確立するまでの道のりは、まさにいばらの道の如く。しかし、解決の糸口が見えない中で、もがき苦しむも諦めることなく信念を貫いたからこそ、助けの手が差し伸べられ、天が味方したのでしょう。子供時代を含めれば、柿と向かい合ってゆうに50年は経過するという大ベテランでさえも。

  代々引き継がれてきた「柿栽培」を担うことになり、このままでただ継続するだけではいけない、そう感じるようになったそうです。有機農法はもちろん、まだ何かできるはずだと思い悩む中で、1冊の本に出合うことになりました。福岡正信著「自然に帰る」です。福岡氏自身が肺炎を患い死を垣間見たからこそ、自然本来の姿を尊重しようと考えたのでしょう。化学的なアプローチというよりも、自ら「無肥料・無農薬・不耕起」の自然栽培を実践することで、その成功例と失敗の対策を本に遺しました。さらに、無農薬栽培は不可能だと考えられていたリンゴ栽培において、「奇跡のリンゴ」の実践者である木村秋則さんの存在が、背中を強く押したようです。しかし、福岡さんも木村さんも順風満帆だったわけではありません。当時の井上さんの心中は「これ以上、迷惑をかけられない」だったといいます。「無難に」という試みで、自家菜園から自然農法を始めたものの、さんざんな結果しか生み出すことができません。そして、ただただ4年という歳月が過ぎ去ってゆくのみ。

  3年前、YouTubeを通して、出会うべくして出会ったの方が、山川良一先生でした。画面を通して語られる山川先生の一言一言に惹き込まれる井上さんがいました。今まで未知の領域であった「土の中」が、どのような仕組みで成り立っているのかを、論理的に雄弁に語られる山川先生の解説は、悩み続けた井上さんが光明を見出すことになったのです。植物は人が施す肥料ではなく、地下部の微生物と共存共栄して成長しているのだ。実際に田中が撮影した中に、芝を刈ったものをそのまま放置している状態のものが写っています。緑肥として植えられた植物の根が土を耕し、微生物を多様にする。刈った上草を表土の敷いたままにすることで、地表面で微生物のエサとなる。スギナはカルシウムを、マメ科の植物は窒素を土壌の補う役割を果たすといいます。

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 山川先生は、担子菌(きのこ)の研究者でした。山の中では、農薬も肥料もなく土を耕すこともありません。しかし、多くの微生物(小動物や菌類)が自然のサイクルを形成することで、豊かな土壌を作り上げているといいます。日々、山の中で微生物から多くを学んでいると、農地が彼らにとってあまりにも生きていく上で過酷な環境であるかを目の当たりにします。微生物の住家ともなる土の団粒構造は、人間が次の作物を植え付ける際に、機械によって畑を耕すことで一切を破壊するのです。そして、自然サイクルが形成されたとしても、農薬の化学肥料により、ある菌が減ってしまうと、その菌が食していた菌が増殖したり、一方でその菌を食していた菌や小動物が激減することになる。この小さな破壊が、土を痩せさせ、全て我々人間に還ってくるのだといいます。山の土壌の表土には分解菌が活動し、それより下には共生菌が生きている。この境界を壊してはいけない。この理想形の土壌へ蘇生させるのが、山川先生が発案した「ヤマカワプログラム」です。山の土に潤いをもたらすものが湧水であるならば、井上果樹園に引き込まれた、耳納連山からもたらされた清らかな水が、彼の農園にどれほどの恩恵を寄与しているかも忘れてはなりません。

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福岡正信さん、木村秋則さん、糸島半島で無農薬栽培に取り組むブドウ農家の髙橋さん(Benoitはイチジク「フィーグ・バナーヌ」でお世話になりました)、皆が辿り着いた自然農法を、井上果樹園で追い求める日々だといいます。その一方で、2年前に新たな農法で会いました。神谷成章先生の考案した有機農「好熱炭素菌農法」です。今はこの農法を学んでおります。家庭菜園ではなんとか結果を出すことができ、収穫量も野菜の味わいも十分納得のいくものです。しかし、柿畑ではまだ実践するにいたっておりません。

  この農法は、無農薬・無化学肥料の栽培方法というところまでは似ていますが、画期的なことは好熱炭素菌という微生物の力を借りて、雑草の生えない、害虫が住み寄らない、さらには水やりも少なくて済むという農法です。炭素を使った下着のヒートテックの秋発者であり、車などに使用されているカーボン繊維や川や湖の水質汚染をカーボン資材を使いものの見事に改善した実績を持ち、洗剤の「酵素」の力を発見し活用した方でもあります。あまりにも多い彼の功績によって、国内はもとより、海外からも絶大なる信頼を得ている人物です。あまりにも科学的に解説されているため、詳しい内容は字数の関係上、ここでは割愛させていただきます。神谷先生は、人の体を作るのは自然の食べ物であり、これは農業の役割であること。しかし、若者が後を継がないことによる農業の衰退は、ゆゆしき問題であり、労力に対して見返りが少ないことを改善しなくてはいけないと語っています。

  井上さんからのメッセージです。「こいひめ柿」の収穫は、今年で5回目の試行錯誤がはじまりました。一年の苦労を棒に振るかもしれない、緊張感みなぎる日々です。しかし、この日を迎えるために、今まで労を惜しまず努力してきました。奥様からは大概(テーゲ※韓国語ブームなのでしょうか)にしてくれと常々言われますが、止めることはできません。過去に妥協という産物を受け入れてしまったその都度、怒られてきたからです。まだまだ洟垂(はなた)れ小僧なのですが、急がないと年齢が足りないのです。神谷先生の有機農を会得することは、自分だけの農ではなく、農業界や地域のことを考えた結果です。そのため、自分が学んできたノウハウを、包み隠さず伝え遺していくことも始めました。農はあくまで自然の原理、ルールに従って行うものです。それを超えることはできないし、無視してはいけないのです。今の経済活動のやり方とは明らかに違うと思っています。

自然農の農産物は、本当に自然の味がします。有機農の産物は味が濃いです。どちらがいいのではなく、どちらもいいと思っています。

 

 今も昔も月の美しさは変らないもの、その感慨を歌った冒頭の一句でした。農業とは古来より綿々と続いてきた自然のサイクルに習うことであり、豊かな土壌の中では今も昔も変わりはないでしょう。「過去を鑑みること」を常として、さらなる境地を探し求めることが、まさに「稽古」こそ今の日本の農業には求められているのかもしれません。※「稽古」の話は(「稽古」と「ワイン造り」? - kitahira blog)を参照ください。果樹の栽培は一年に一度しか収穫の機会がありません。井上さんが農を生業とすることを決意し今に至るまで、数え切れないほどの辛酸を舐めるかのような厳しい状況の追い込まれるも、家族の友人の先人たちの協力のもと必死に耐え抜き、妥協することなく克服してきた経験があってこそ、自分には分かりえない次の「高み」が見えてきているはずです。そして、この亜新たな挑戦に楽しみを見出したかもしれません。井上さんのコメントにある 「年齢が足りない」、試したいことが山ほど出てきたのだと思います。遠い青山の地からではありますが、井上さんの挑戦を心より応援させていただきます。

  収穫期という多忙極まる時期にもかかわらず、突然の訪問を快諾いただき、誠にありがとうございます。さらには、農業素人の自分からのトンチンカンな質問にも、快く回答をいただき、重ね重ね御礼申し上げます。井上様の想いが、少しでも皆様に伝われば幸いです。

  いつもながらの長文、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。末筆ではございますは、皆様のご健康とご多幸を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

 以下余談です。

 

柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺

 柿の句として、誰しもが知る正岡子規の名句です。「法隆寺茶店に憩ひて」という一文が添えられており、奈良の秋景色を眺めながら、茶店で柿を食む、すると法隆寺から鐘が聞こえてくるではないか。17文字と短い言葉の羅列にもかかわらず、誰もがイメージすることのできる素晴らしさがございます。それも、人それぞれが想い描く秋の景色は、まさに十人十色でしょう。だからこそ多くの人を魅了しているのだと思います。

  しかし、この一句、実は正岡子規法隆寺を訪問する前に、宿で柿を食んでいるときに、遠く東大寺の鐘の音を聞いたのだという、そのような一説を目にいたしました。おやおや、そうなると「柿くへば 鐘が鳴るなり 東大寺」です。では、なぜ彼は東大寺から法隆寺へ変えたのか?興味深いと思いませんか?この答えは、きっと秋の奈良で見つけることができるかもしれません。「さあ、奈良へ行こう!」。いやもとい、今回の特選食材の地、「さあ福岡へ行こう!」。どちらにせよ、Benoitでの腹ごしらえをお忘れなきように。

  

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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