kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2019年干支のお話です。

 2019年は、亥(いのしし)年です。お釈迦様への新年の挨拶に赴いた動物たちの順番が十二支となった、とはある一説のお話。己をよく知る牛は足が遅いことを理解しているために前日早いうちから出発し、一番先に門先に到着するも、その背に乗っていた賢いネズミがひょいと先に門をくぐる。順を追ってぞくぞくと主役が到着する中で、犬猿の仲といわれる両者の仲裁に入ったがためにニワトリは10番目。猫はなぜ登場しないのか?猫はお釈迦様への新年の挨拶の日を忘れ、ネズミに聞いたところ2日だと。翌日に事実を知った猫は怒り、これ以降ネズミを追いかけ続けるのだと。

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 では、イノシシはどうだったのか?このお釈迦様の住んでいる館までは、「ほぼ」1本道なのだとか。猪突猛進が相応しいイノシシなだけに、この動物達の列の最前列を独走していたようです。ところが、森から続く1本の長い道のりを進む中で、館の入り口で曲がらなければならない。勢いあまってまっすぐ駆け抜けてしまい、戻った時には12番目だったとか。いや、間に合って良かった良かった。と、よくできた話ですが、これは十二支に動物を配当するのは、多くの人に理解してもらうために考えられたといいます。ちなみに、イニシシの駆けるスピードは抜群ですが、急停止に急方向転換は可能だそうです。山中で追い立てられた時には、十分ご注意ください。

 

 さて、今年の干支は「己亥(つちのとい)」です。古の賢人は、毎年の世相を分析し、時代時代を表現する漢字一文字をあて、後世に伝えようとしました。その英知の結晶が「干支」です。甲・乙・丙…と続く「十干(じっかん)」と、馴染みの子・丑・寅…と十二支。この10と12という数字が、我々の生活の中でどれほど溶け込んでいるか。算数を学ぶ上で、数字の区切りとなるのが10。そして、半日は12時間、1年は12ヶ月。10と12の最小公倍数は「60」。還暦のお祝いとは、この漢字の通り「暦が還(かえ)る」人生60年目の節目を迎えたことを祝うもの。そして、あてがわれた漢字は、それぞれに樹の成長を模したものだというのです。

 人が抗しがたい時世の勢い、世相には10年というサイクルを見出し表現したものが、「十干」。昨年の2018年は「戊(つちのえ)」、漢字の語源辞典にみると、「戊」は「茂」だともいう。かたい殻に覆われた状態の「甲 (きのえ)」、芽が曲りながらも力強く伸びる様「乙(きのと)」、芽が地上に出て、葉が張り出て広がった姿、「丙(ひのえ)」。そして、4番目の「丁」は、重力に逆らうかの如く、ぐんぐんと勢いよく天に向かい成長する、そして「戊」は大いに茂る。時世は円熟期に達し、抗しがたい勢いの中に包み込む優しさをも持ち合わせていたようです。

 

 今年は「己(つちのと)」です。「説文解字(せつもんかいじ)」によると、万物が土中にしまいこまれて、湾曲した形に象(かたど)る。さらに、「釈名(しゃくみょう)」によると、「己」は「紀」であり、みな定形があって紀識(=識別)できる。十干の中で、1番目の「甲(きのえ)」から始まり、6番目の「己(つちのと)」までは、樹そのものの成長を、7番目の「庚(かのえ)」から最後の「癸(みずのと)」それ以降は花を咲かせ種を生み出すことを象っているといいます。朔円の「戊(つちのえ)」で、勢いよくぼうぼうに生い茂った樹が、理路整然と体裁を整え、効率よく光合成をおこなうことで養分を蓄えてゆく。「紀」は糸の一方の端といい、一定の数の極限・終わり、さらには日・月の交わるところも意味します。

 人世における栄枯盛衰は世の常であり、繰り返すもの。古人はここに12年を見出します。人生もまた、樹の成長になぞった漢字1文字をあてがいました。「亥(い)」、部首の「なべぶた」を「二」とし、一つの「人」は男性を、もう一つの「人」は女性であり、彼女が子を抱きかかえて体をくねらせている「咳う」形に象(かたど)る、そう「説文解字」は教えてくれる。「咳」はセキの意味もありますが、「幼児」のこと。「咳う」は「わらう」と読み、幼児が笑うこと。樹が葉を落とし、種に生命を引き継いだ状態なのだと。さらに「釈名」は、「亥」は「核」であり、百物を収穫して、その良し悪しの真偽を核(えら)びとる。ものが成ってみな堅核(=しっかりしたさま)だという意味であるとも。

 

  たびたび出てくる「説文解字」と「釈名」という名前。本というよりも辞典と言い表した方が良いかもしれません。しかし、これらが編纂されたのは、古代中国でした。「説文解字」は紀元後100年頃、六書(りくしょ)の区分に基づき、「象形」「指事(指示ではないです)」「会意」「形声」に大別され、さらに偏旁冠脚(へんぼうかんきゃく)によって分類されています。「指事文字」とは、絵としては描きにくい物事や状態を点や線の組み合わせで表した文字をいい、「上」や「下」が分かりやすいと思います。十干の「己」は指事文字です。そして、「会意文字」は、既成の象形文字指事文字を組み合わせたもの。例えば「休」は、「人」と「木」によって構成され、人が木に寄りかかって休むことから。干支の「亥」は会意文字です。「偏旁冠脚」は、漢字を構成するパーツのこと。そのパーツの主要な部分を「部首」と定め、現在日本の漢和辞典は「康熙字典」の214種類を基本にしています。しかし、偏旁冠脚では、漢数字、十干や干支もこのパーツに含まれ、その分類区分は、「一」から始まり「亥」で終わる、総数が540です。気づかれましたか、数あるパーツの中から、殿(しんがり)を担ったのが「亥」です。

 この後、さらに時は流れ紀元後200年頃、音義説によった声訓で語源解釈を行い編纂されたものが、「釈名」です。

 

 万物を陰と陽にわける陰陽説と、自然と人事が「木・火・土・金・水」で成り立つとする五行説が合わさった考え方が、陰陽五行説です。兄(え)は陽で弟(と)は陰。陽と陰は、力の強弱ではなく、力の向く方向性の違いのこと。陽は外から内側へエネルギーを取り込むこと、陰は内側から外側へ発することだといいます。運の良い人とは、陽の人であり、外側から自分自身へ力を取り込んでいる人のこと。「運を呼び込め」とはよく耳にいたします。陰の人とは、運が悪いわけではなく、自分自身のみなぎるエネルギーを外に発している人のこと。一方が良くて、他方が悪いわけではなく、すべては陽と陰の組み合わせです。陰陽の太極図を思い浮かべていただきたいです。2つの魂のようなものが合わさって一つの円になる。一方が大きければ、他方は小さくなり、やはり円を形成するのです。森羅万象全てがこの道理に基づくといいます。

 

 昨年の「戊戌」の場合、戊は「つち(土)のえ(兄)」で「土」、戌もまた「土」をさす。同じ土の気同士、ますます盛んになることを暗示する「五行比和」。今年は、己は「つち(土)のと(弟)」で昨年に引き続き「土」、亥は「水」を指し示します。土は水をせき止める、相手を抑え込む「五行相克」。十干が「時世」を十二支が「自世」を表すのだとすると、2018年は、時世が円熟期を迎えるなかで、人世は成熟期にあたっていました。ともに勢いの方向が同じだったため、時世が人生の背中を力強く押し続けてくれた、陽の時世のエネルギーを受け入れることで、ますます力強くなる。諦めることなく努力し続けることが、大いなる結果をもたらす年だったのではないでしょうか。2019年は、人世(水)のがむしゃらな勢いを、時世(土)が止めなに入るのだと、古人は教えてくれている。時世は人世の勢いを断ち切るのではなく、己(紀)が教えてくれるように、ひとつの区切りとして人倫の道を外さぬよう、なりふり構わず頑張ったことを省み、紀識(きしき/しるすこと)し紀念(きねん/こころにとどめて忘れないこと)することを促すのだと。忘れ去るのではなく、真摯に受け止め真実の核心となし、次へ引き継いでゆくこと。引き継ぐ先は、今一度訪れる自らの人世である「子(ね)」の時へ。

  1984年の「甲子(きのえね)」に幕開けした60年の世相のサイクル。「世」の字には30年という意味が込められていると聞きます。60年の中に30年の2つの世相。2014年「甲午(きのえうま)」からはすでに後半の世相が始まっています。還暦の中には6つの時世と5つの人世。人世における栄枯盛衰は世の常であり、「亥」というひとつの区切りを美しく終るための、1年なのではないでしょうか。説文解字では、「亥」は前述したように会意文字とする中で「二」から構成されたものなのなのだと。さらに偏旁冠脚の分類では最後に位置しています。これは、「終わり」を意味するのではなく、「二」へと続くために繰り返すこと教えてくれている。世相が、我々を次の高みへと誘(いざな)うため、人世1サイクルの「終活」を求めている気がいたします。宝の地図(人世のさらなる高み)が、きっと見つかるはずです。

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 今年の初春のご挨拶に「ユズリハ」を載せさせていただきました。この添付画像は初夏のものです。まさに新旧の語らいの姿です。なぜ「ユズリハ」なのかは、もうおわかりいただけたのではないでしょうか。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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