kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit特選食材「静岡県掛川のイチゴ≪紅ほっぺ≫」のご案内です。

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 現在、日本のイチゴ消費量は世界一です。一年中見かけることのできるフルーツですが、やはり初春に想う「旬の美味しさ」は、老若男女を問わず、人々を魅了して止みません。「あまおう」や「とちおとめ」が世を席巻するも、さらなる美味なる品種を生み出そうと、各都道府県がしのぎを削り、ブランド化を目指している昨今。まさにイチゴの世界では群雄割拠の様相を見せています。ここで、一つの疑問が頭をよぎります。

日本初の「イチゴの品種」が誕生したのはどこなのか?

 そもそもが、イチゴには、今主流をなしている「オランダイチゴ」のグループと、「キイチゴ」のグループに分かれるようです。キイチゴに関しては、ヘビイチゴも含めた野生種であり、にローマ時代には食用として栽培されていたといいます。日本では10世紀に書き記された「本草和名」に「以知古」という名を見ることができるのですが、栽培までにはいたっていません。まさに当て字のような、「以知古」とは、ひらがなの誕生は平安時代まで待たなくてはならないため、万葉仮名で名を残しているのです。では、今のイチゴの起源ともなる「オランダイチゴ」はというと、その名の通り、18世紀にオランダで育種されたのです。それが、大航海の後に日本に辿り着いたのは、江戸時代のこと。鎖国していた日本が、例外的に交易していた「オランダ」からもたらされたのです。日本ではなかなか広まらず、本格的に栽培が始まるのは明治に入ってからとのことです。

 では、最初の問いでもある、「日本初品種」はどこで誕生したのか?

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 東京都新宿区にある「新宿御苑です。

あまりに意外な答えに、皆様、驚かれたのではないですか。しい宿場町である「新宿」と、「新宿御苑」の話は、以前「青木さんの蜂蜜」の話で触れました。お時間のある時に訪問いただけると幸いです。

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 新宿御苑は、かつて内藤家の下屋敷でした。その地が、明治初めに名を「内藤新宿試験場」へと変え、農作物や園芸植物の栽培試験場として稼働することになります。海外からさまざまな樹木や野菜を導入し、栽培研究がなされていました。今でも、新宿御苑にその片鱗を垣間見ることができます。そして、1879(明治12)年に、内藤新宿試験場の地が皇室に献納されることになり、皇室の御料地として「新宿植物御苑」が動き出しました。1906(明治39)年に国民公園として開園され、今に至ります。この御料地となっていた1898(明治31)年、福羽逸人(ふくばはやと)農学博士が、フランス産イチゴの「ゼネラル・ジンジャー」種の種を譲り受け、発芽・結実に成功。そして、待望の国産初品種「福羽苺(ふくばいちご)」を生み出したのです。しかし、当時が皇室の御料地であったことから「御料イチゴ」と呼ばれ、しばらくは門外不出とされていました。1919(大正8)年に解禁され、全国へと伝播してゆくことになります。今でこそ、覇を競い合っている数々のイチゴ品種全てが、この「福羽苺」から始まっているのです。彼が、「イチゴの父」たる所以がここにあります。

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 多くのイチゴ品種が誕生する中で、1980年代には≪東(栃木県)の「女峰」、西(福岡県)の「とよのか」≫」という二大勢力が台頭するも、ここに「章姫」が割り込んできます。時が過ぎ、2000年前後ともなると、≪東(栃木県)の「とちおとめ」、西(福岡県)の「あまおう」≫へと移り行く。そして、ここに章姫と「紅ほっぺ」が姿を見せます。日本のイチゴ生産量の1位栃木県2位福岡県に負けじと健闘しているのが、地理的にも中間に位置している静岡県(4位)。イチゴ勢力図を二分する中に、割って入るかのように登場する≪章姫≫と≪紅ほっぺ≫という品種を生み出したのも、静岡県。甘さでは「あまおう<とちおとめ」、酸味では「あまおう>とちおとめ」。「紅ほっぺ」はどちらも中間に位置しているのだといいます。甘みと酸味を兼ね揃え、酸味があるからこそ甘みも冴えるのです。

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静岡県掛川から直送、赤ずきんちゃんおもしろ農園さんの「紅ほっぺ

 Benoitシェフパティシエールの田中が、フランスとのやり取りの中で決まりつつあるレシピを知った時、あまりの驚愕に言葉を失いました。デザートに使用するイチゴの量、一人分がMサイズで約20粒ほど必要であること。さらに、イチゴの品質がそのままデザートの味わいに反映してしまうこと。つまり、高品質のイチゴを、定期的に過不足なく購入し続けなければなりません

 みずみずしく、しゃくしゃくの食感。心地良い酸味がイチゴの優しい甘さを引き立てる。甘いだけではない、イチゴの優劣はこのバランスによって決まるように思います。鮮度を維持することが難しいため、収穫は随時行わなくてはなりません。さらに、水分が多いからこそ輸送に耐え得ないフルーツでもあります。Benoitの席数を考えると、一農家さんからの購入では、イチゴの確保がかなり厳しいのです。

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 この難問を、いとも簡単に解決へと導いてくれたのが、静岡県掛川市にて広大な農園を構えている「赤ずきんちゃんおもしろ農園」さんでした。看板に偽り無し、まさに日本最大級の畑を有しているからこそ、一度も滞ることなく、Benoitへ「紅ほっぺ」のみを送り続けていただいています。サイズ指定も購入量も、担当してくださった方の「大丈夫です」という一言に、どれほど安堵したことか。さらに、届いたイチゴの品質にはただただ脱帽するのみ。豊潤な香りをはなちながら、美しい輝かんばかりの赤い色、口中いっぱいに広がる豊潤な甘さに心地よい酸味、いかに丁寧に育てられた「紅ほっぺ」か。自分のみならず、パティシエチーム皆が「美味しい」と納得の逸品です。

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静岡県掛川の「紅ほっぺ」をつかった真っ赤なデザート

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 紅ほっぺMサイズを、お一人様10粒分は半分にカットしてオリーブオイルと塩少々。もう10粒分は、広島県大崎上島の岩﨑さんの瀬戸内レモンとともに、軽く火にかけザルの上に。ゆっくりと滴り落ちる紅ほっぺのジュース。ザルに残ったイチゴは、そのままマルムラードへ姿を変え、ジュースはオリーブオイルが加えられてソースへ。そのままを盛り付ける中に、心地良い酸味とほろ苦さを演出する瀬戸内レモンの皮のコンフィ。さらに爽やかなミルクの風味を生かしたフレッシュチーズのソルベを一番上に。イチゴの調理方法を変えることで、それぞれ違った魅力を引き出すように。

 皆様お察しの通り、「イチゴそのもの美味しさ」が、今回のデザートのポイントになります。だからこそ、彼の地を代表する品種を選び、その中でもこだわりの農園から直送しなければならなかったのです。違った表情をみせるイチゴに、レモンとソルベが加わり、オリーブオイルを加えたイチゴジュースをそそぐ。一つの器の中で、それぞれが奏でられた時、このデザートが皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことになるでしょう。4月末まで、プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+1,000円にてお選びいただけます。

 

 栽培地域は、ほぼ日本全土を網羅し、新品種育成を目指し、各都道府県が鎬(しのぎ)を削る。美味なるものであれば、彼の地を代表する品種となります。しかし、この熾烈を極める戦いの中で、全国に名を馳せるにいたるものは、ごく僅か。毎年どれほどの新種が生まれ、淘汰されていったことか。それもこれも、誰しもが愛してやまない「イチゴ」だからなのでしょう。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com