kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoitミュージックディナー「三味線 ≪史佳 Fumiyoshi≫のご案内です。」

春風の のどかにふけば 青柳の 枝もひとつに あそぶいとゆふ  寂蓮(じゃくれん)

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 柳の花が咲き終わり、若葉が萌えている「青柳」。枝一つ一つが糸すだれのようであり、春風にあおられることで、もつれあう。「いとゆふ」は漢字で「糸遊」と書きます。春風にあおられる柳のしなやかな枝一本一本が、まるで風と遊んでいるかのようであり、まさにこれこそ「糸遊」なのだと我々に伝えているのでしょうか。

 「糸遊」とは、春晴れの日に蜘蛛の子が自らの糸を風に流し、それに乗じて空を飛びながら移動する光景のことをいうようです。蜘蛛の糸が、陽射しの加減で見え隠れする様から、「陽炎(かげろう)」とも。陽によって熱せられた地より立ち上る温かな空気は、冷えた空気との密度にムラが生じることで、そこを通過する光が不規則に屈折し、その先の光景がゆらゆらと歪んで見える。この光学的現象が「陽炎」です。

 さらに、「陽炎」はトンボに似ている(トンボとは別種)「蜉蝣(かげろう)」へ通ずるのです。ゆらゆらと空を飛ぶ姿が陽炎のようだからなのでしょうか。それとも、あるかないかもわからない不可思議な「陽炎」と、成虫になるも、その日の晩を待たずに一生を終える「蜉蝣」の「はかなさ」に共通点を見出したからなのか、もちろん自分に知る由はありません。

 「いとゆふ」という4文字が、調べるほどに深みを帯びてきます。「青柳の枝が遊ぶ糸遊」、あえて漢字で表記しないところに、歌心があるのでしょう。著名な研究者が分析することで、他を異端として排除するのではなく、自分のように読むままに感じ入ることこそ、古き良き歌を理解するには良い気がいたします。今も四季それぞれに美しい姿を見せてくれる中に、古人の想い描いた情景をあてはめる、各々の感じ入るままに楽しむこと。これが31文字に込めた、古人からのメッセージなのではないでしょうか。

 

 今回、皆様にご紹介したいイベントは、Benoitの「糸遊」です。「蜘蛛の糸」でも、「陽炎」でも「蜉蝣」でもありません。絹糸が紡がれ「弦」となり、それが弾かれ音を成す。それが、遊ぶかのように旋律を奏でる時、音に色を帯び人々を魅了します。この音色というのは形を成さないため、確かに陽炎のようなものかもしれません。はかなく消えゆく音色なれど、まやかしや幻想ではなく、しっかりと我々の心に響いてきます。文字ではなく、音色に込める奏者の想いに共感を覚え、人世になぞり、笑みをこぼすか涙するか、受け取る人の感じ様は十人十色。音色はデータ化することで色彩を失い、単色へ。なぜ、コンサート会場へ足を運ぶのか?データ化できない、生き生きとした色彩の深さや移ろいの「音色」を感じ取りにゆくのでしょう。

 2019年、Benoitの初音(はつね)は、三味線の音色から始まります。音を聞き、奏者の想いを込めた音で応える弾き三味線。史佳さん「糸遊」の音色を皆様にお楽しみいただこうと思います。

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Benoitミュージックディナー 「~際会(さいかい) 三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

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 津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。それがためなのか、初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生しました。なぜ?新潟県に。自分なりに解釈した理由を書いてみました。お時間のあるときに以下よりご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 今は二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー「史佳 Fimiyoshi」さん。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まっています。その前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。今回のメンバーをご覧いただければ納得いただけるのではないでしょうか。

 

三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi

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 ふるさと新潟に拠点を置き、三味線プレイヤーとして国内外で演奏活動・講演活動を行っている。音の響きを大切にする“弾き三味線”奏法を得意とし、津軽三味線のスタンダード曲はもちろんのこと、近年は作曲家/アレンジャーの長岡成貢氏とともに新しい三味線の楽曲作りにも取組んでおり、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しいニッポンの音楽を目指して活動している。

 1974年新潟市生まれ。9歳より津軽三味線の師匠であり母でもある高橋竹育より三味線を習い始める。 2000年よりプロ活動をスタートし、新潟を拠点に国内外で演奏活動を行っている。ホールコンサートの他、国指定重要文化財等の日本建築等でも演奏会活動を行っており、2011年にはルーブル美術館にて日本人として初めて演奏を披露。 2001年に1stアルバム「新風」を高橋竹秀の名で、2003年には本名である小林史佳としてオリジナル曲を含む2ndアルバム「ROOTS TABIBITO」をリリース。 2006年リリースの3rdアルバム「Ballade」では弦楽四重奏との融合にも取り組み、三味線の楽器としての新たな可能性も追求している。 2010年には津軽三味線の名人・初代高橋竹山とかつて共に全国を廻った、民謡の生きる伝説・初代須藤雲栄師とのライブを収録した4thアルバム「風の風伝」(かぜのことづて)、2012年にはそれに続く5thアルバム「続 風の風伝」を“fontec” レーベルよりリリース。同年よりアーティストネームを“史佳Fumiyoshi”と改め、故郷新潟をテーマにしたオリジナル曲「桃花鳥-toki-」を発表。 2013年には自主レーベル“penetrate”を立ち上げ、全曲オリジナル楽曲のアルバム「宇宙と大地の詩」をリリース。2015年2月には、通算7枚目となるニューアルバム「糸際 ITOGIWA」を“fontec” レーベルよりリリース。初代高橋竹山津軽三味線の継承者として挑んだ、奥深いアルバムとなっている。

 2016年1月1日に、三味線ユニット「Three Line Beat(スリーラインビート)」を結成。幅広い年齢層からファンを獲得しており、そのライブパフォーマンスで観客を魅了する。

www.tlb.jp

 津軽三味線瞬間芸術という領域に昇華させる独自の世界観を持つ、初代高橋竹山津軽三味線正統継承者。2011年フランスパリのルーヴル美術館にて、日本人として初めて演奏を披露し、現地の聴衆から「ブラボー」の大歓声が上がったといいます。さらに、2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決定しており、世界席巻するであろう、新進気鋭の三味線プレイヤーです。

 

和田啓 ~レク~

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 幼少の頃から学んだ江戸里神楽をもとに独自の世界を表現するアジア系ハンドドラム奏者であり、作曲家、演出家。タンバリンの原型とも言われるアラブの打楽器「レク」をエジプト・カイロにてハニー・ベダール氏に師事。海外での演奏活動も多く、主なものには、95年能楽と民族楽器とによるヨーロッパ5カ国公演、96年奄美島唄とのジョイントグループ「天海」でのキューバ公演、2002年大津純子(バイオリン)オセアニアツアーに参加、佐藤允彦氏(ピアノ)と共にベトナム、オーストラリアなどで公演を行う。2005年ルーマニアポルトガルより招聘を受け国際交流基金助成事業としてRabiSari欧州コンサートツアー、2006年国際交流基金派遣事業として常味裕司氏と共にエジプト・アラブ音楽院でのエジプト音楽家との共演による古典音楽コンサートをともに成功させた。2009年ノース・シー・ジャズフェスティバルに佐藤允彦氏率いる「Saifa(サイファ)」のメンバーとして出演。2010年レバノンベイルートUNESCOホールにて常味裕司氏と演奏。

 1997年に、バリ仮面舞踊家たる小谷野哲郎とともに仮面舞踊劇団「ポタラカ」を結成、作演出を手掛ける。毎月一本の新作を書き下ろし、ライブハウスで約2年間上演していた。1999年江戸東京博物館にて「冥途の飛脚」(近松門左衛門作}の上演をきっかっけに「南洋神楽プロジェクト」として再編成し、中野シアターポケットなどで定期公演を重ねる。2001年にはジャワ島・バリ島のアーティストらと日本人による「真夏の夜の夢」をバリアートフェスティバルにて上演、好評を博す。

 作曲家としても数多くの演劇・映画音楽を手掛けており、2015年以降の主な作品は,、2015年「新・復活」(劇団キンダースペース、原作/トルストイ、脚本演出/原田一樹)、16年「静寂の響き」(船橋文化創造館きらら主催事業)。さらに演出作品が多数あるほか、2009年度より船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザーも務めている。

 

吉野弘 コントラバス

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 1975年に東京藝術大学音楽学部器楽科(コントラバス専攻)に入学、江口朝彦氏に師事。1980年、坂田明(sax)トリオに参加、以後、富樫雅彦加古隆山下洋輔板橋文夫塩谷哲など数多くのグループに参加する。 また現代音楽の分野での活動も活発で、故・武満徹プロデュースの" MUSIC TODAY "や「八ヶ岳高原音楽祭」に参加、2006年の東京オペラシティでの"SOUL TAKEMITSU"にも出演した。また2009年には間宮芳生書き下ろしの新作オペラ「ポポイ」、2011年には「間宮芳生の仕事」コンサートにも出演する。

 現在は、ベース・ソロと『彼岸の此岸』(太田恵資violin,鬼怒無月guitar,吉見征樹tabla)、『環太平洋トリオNEO』(津嘉山梢piano, 大村 亘drums &tabla)を活動の中心にしながら、大ベテランの中牟礼貞則guitarや渋谷毅pianoとのデュオも行なっている。 また下北沢レディージェーンでの作家の山田詠美奥泉光との " 朗読と音楽 "のセッション(太田恵資violin,小山彰太drums)は、毎回熱心なファンの待望するところとなっている。リーダー作品に「泣いたら湖/吉野弘志・モンゴロイダーズ」(2002年/ohrai)と、ベース・ソロアルバム「on Bass」(2004年/ rinsen music)、「吉野弘志 彼岸の此岸/Feeling the Other Side」(2013年/AKETAS DISK)が有る。

 

庄司愛 ~バイオリン~≫

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 桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業。演奏活動を行うほか、新潟市ジュニアオーケストラ教室、桐朋学園大学附属「子どものための音楽教室」、新潟中央高校等で後進の育成にも力を注いでいる。これまでに山宮あや子、奥村和雄、辰巳明子の各氏に師事。「トリオ・ベルガルモ」メンバー。

 

際会(さいかい)

~ 出会うこと。優れた人物などにめぐり合うこと。~

 「際会」の「際(さい)」には「きわ」という読みもあり、「境界」や「~のあいだ」、さらには「ある情況生まれる時期」という意味が込められています。球技においてよく使われる「球際(たまぎわ)」の良し悪しは、野球でもサッカーでも、ボールとの絶妙なる距離が生み出す「際」に求められる処理能力の良し悪しのこと。一流の選手になればなるほど、「際」が小さく、さらにどのような球種でも対応できる高度の技術をもっているものです。

糸際(いとぎわ)

 史佳Fumiyoshiさん自身が造った言葉です。三味線は、撥(ばち)を扱う右手と弦をはじく左手のコンビネーションで音を奏でていく楽器だと、彼はいいます。右手の弦への撥のあて方、左手の弦のはじき方、この微妙な差が音色を左右する。フレットレスな三味線の奏でる至高の音への追求は、1mm単位での調整を瞬時に行うことを求められます。弦と撥、弦と指との際(きわ)を見極め奏でる瞬間芸術が三味線だと。糸際が奏でる三味線の音色は、きっと古典曲によって我々の魂に問いかけてくることでしょう。

 さらに、今回のカルテットのアンサンブルも忘れてはいけません。コントラバスバスやバイオリンもまた、糸際がなせる音色を放ちます。左手で弦を押え、右手で弦を弾くコントラバス。同じく左手で弦を押え、右手の「弓」で音を奏でるバイオリン。どちらも、三味線同用に弦(糸)を使って至高の音を極めんとするもの。そこに、アラブの打楽器「レク」が加わります。タンバリンの原型ともいえるこの楽器は、奏者の腕により、我々の想像をはるかに超える多彩な表情を見せてくれます。左右の手の絶妙なコンビネーションが打ち鳴らす音色に、驚愕されるはずです。

 指揮者のいないカルテットでは、各々が魅惑の音色を奏で、奏者それぞれがメンバーの音色を聞きながら音やリズムをあわせ、ひとつの曲を紡いでいきます。まさに譜面のない音楽会。即興で曲を奏でる三味線史佳さんの腕の見せどころです。さらに、相手をさらなる高みへと導くかのようなそれぞれの楽器。プロとしての「遊び」心なくして成しえない、今までに体感したことの無い世界観を我々に見せてくれるはずです。三味線を含めた弦楽器が「糸遊(いとゆふ)」であるのであれば、レクは「打遊(うちゆふ)」というのでしょう。三味線という楽器の常識が変わる無限響の世界へ、皆様をご案内いたします。

 

 ナズナアブラナ科の植物で、「春の七草」にも登場するなじみ深い植物です。どのような過酷な環境でも順応できるのではないかと思えるほど丈夫なため、田畑はもちろん、荒れ地や道端でもよく目にします。子供のころには、画像のように果実がついたナズナの茎をもち、でんでん太鼓のようにくるくると回し音を楽しんで遊んだ方も多いのではないでしょうか。このネタは厳しいでしょうか…でんでん太鼓も…ご存知の方が少ないやもしれません。

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 このナズナ、別名が「ぺんぺん草」です。そう「~の後にはぺんぺん草も生えないよ」などという言い回しができる理由は、環境適応能力が強いからです。この別名の「ぺんぺん」とは、果実を打ち鳴らしたときの音から「ぺんぺん」なのかと自分は思っておりました。ところが、果実のハート形が三味線の「撥(ばち)」に似ていることから名付けられたのだそうです。そう、「ぺんぺん」は三味線の音色に由来していたのです。そのため、「三味線草」という別の名ももっています。

 都内でも其処彼処で見て取れるナズナ。童心に帰り、三味線を想いながら打ち鳴らしてみてはいかがでしょうか。「糸遊」ならぬ「打遊(うちゆう)」をお楽しみください。※ひとり「にやにや」しながらの「打遊」は、周りから冷ややかな眼差しを受けることがございます。楽しむ際には、十分ご注意ください。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますが、皆様のご多幸とご健康を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com