kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoitシャンパーニュパーティ「THIÉNOT(ティエノ)」のご案内です。

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 世界一の収量を誇る果物は、「ブドウ」です。もちろん、生食と加工用を含めてです。世界規模で栽培されているだけに、その歴史は深く、紀元前3000年前には、黒海カスピ海沿岸ではすでに栽培化が成されていたといいます。文明の伝播が、そのままブドウ栽培地という様相を見せる中で、ローマ帝国時代に加速度的に版図を広げたのだといいます。彼の帝国が崩壊すると、ブドウ栽培の伝道者としての役割を担ったのが「修道士」でした。

 キリスト教を布教する目的で、イタリアからフランスへ、プロヴァンス地方を境に、さらに北へ西へと向かっていきました。その際に、拠点となる教会を中心に町を造り上げ、周囲には神聖なる「ワイン」を醸すために葡萄を植え付けていきます。しかし、肥沃な土地は葡萄など植えることなく作物を育て、民に食を提供しなくてはなりません。自給自足のできる農業国フランスとはいえ、昔々はまだまだ未開の地。生きるための糧こそ、まず先に確保しなければなりません。嗜好品のワインは「二の次」だったはずです。そこで、他の作物に比べ屈強な葡萄は、斜面や他の農作物が育たないような不毛の地に植えられることになりました。これが、今のワイン産地の礎を築くことになります。

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 過酷な環境でこそ高品質の葡萄が育つとは、今でこそ周知の事実です。かつては、生きるために必要不可欠な食料を確保しなければならない、その糧が育てられない「不毛な地だからこそブドウしか植栽できなかった」。斜面や地盤の緩い危険な地もあったことでしょう、過酷な環境の中で開拓を進めていったのです。彼らは、試行錯誤を繰り返すも、情報が無い中で多くの生死を分かつ失敗もあったことでしょう。そして、確たる情報もない中で、土壌ごとに適した品種を選び植えつける。先人たちの苦悩と苦労は計り知れません。フランス中央のブルゴーニュ地方を過ぎ、さらに北へ北へと向かった修道士達が行き着いた地は、冷害と紙一重の厳しい自然環境もった地、フランス最北の地、シャンパーニュ地方です。

 

 パリから東へ東へと向かった先、Grand Est(グラン・エスト)地域圏のMarne(マルヌ)県の主要都市がReims(ランス)は、パリからは約130kmの距離に位置しています。歴代フランス国王が戴冠式を行ったノートルダム寺院がある観光地でありながら、シャンパーニュ醸造の一大都市。この地で1985年に誕生したシャンパーニュ・メゾンが「THIÉNOT (ティエノ)」です。量より品質を、保守主義よりも創造性を重んじながら、偉大なメゾンの中でその地位を築き上げました。他のシャンパーニュ・メゾンと比べると、歴史は浅いですが、2013年2014年と2年連続でのアカデミー賞の公式シャンパーニュに選ばれていることは、世界が認めた証ともいえます。

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 創業者であるAlain THIÉNOT(アラン・ティエノ)氏は、若かりし頃の銀行員の経験を生かし、Courtirt(クルティエ)と呼ばれる、ワインの仲買人へと転身。クルティエとは、ワインを買い付けバイヤーのこと。しかし、ただ単に右から左へと流通させるという単純なものではありません。ワインに対する知識だけではなく、時の経過が熟成の美味しさを生み出すかどうかの鑑定眼も必要になります。さらに、ワインが農産物であるがゆえに、原料となるブドウの収量の大小や品質の良し悪しも見極めなければなりません。これほどの専門性を要求され、職人気質のブドウ栽培者や醸造家の「閉鎖的な世界」は、素人が簡単に入り込めるものではありません。そう、銀行家としての人脈が生かされていたのです。

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 彼のクルティエとしての経験は20年近くに及びます。この間に、それぞれのクリュの最大限の表現を絶えず求めて、丘陵地帯のぶどう畑をくまなく歩きながらその知識を深めていました。彼の知識と、弛まぬ努力に裏打ちされた経験は、多くのバイヤーから厚い信頼を得ることになり、他のクルティエの中でも群を抜いていたといいます。そこに着目したある有名シャンパーニュ・メゾンから、「希少で質の高いブドウだけを手に入れて欲しい」と依頼が入ったのです。この仕事がもたらしたものは、報酬という金銭面だけではなく、「自らのシャンパーニュ・メゾンを立ち上げたい」という野望だったのです。多くの人には「夢」で終わるこの夢物語ですが、銀行時代の資金調達のノウハウと人脈、クルティエ時代に培われたブドウとワインへの造詣の深さと鋭い審美眼、さらにはブドウ栽培者との信頼が、夢では終わらせませんでした。

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 新進気鋭の創業者であるアラン・ティエノ氏が、一線から退き、次なるステップへ向かうことに。そして今は、彼よりワインの知識と醸造の秘訣を、いやシャンパーニュへの心意気を引継いだ、長男のStanislas(スタニスラス)氏と、長女のGarance(ガランス)氏によって切り盛りされている、まさに家族経営のシャンパーニュ・メゾンです。受け継いだ理念と際立つスタイルは、独自の風格をまとい、保守的ではない常に新しい独創性を求める現代的なスタイルへと昇華しているのです。家族皆が、美味なるシャンパーニュを醸すという同じ目的を持ちながら、各々がお追い求める至高の作品には違いが表れるものです。それが、それぞれの名を冠したシャンパーニュを生み出すことになったのです。そして、アーティスト「スピーディ・グラフィット」とコラボレーションしたマグナムボトルは、そのデザイン性から、大きい反響を呼びました。

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 今回は、初来日となるガランス氏をBenoitへお迎えし、豪華なシャンパーニュディナーを開催いたします。ラインナップには、デザインの異なる 1st と 2nd の「スピーディ・グラフィット」を。さらに、各々の名を冠したファミリーシャンパーニュが登場いたします。Benoitのシェフソムリエ永田とシェフのセバスチャンが協議の末に組み立てた料理の数々は、皆様に忘れえぬマリアージュを体感いただくことになるでしょう。「口福な食時」のひとときをお約束いたします。

 

Benoitシャンパーニュディナー THIÉNOT (ティエノ)

日時:2019530()  18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代サービス料込・税別)

※Benoit恒例のワイワイ相席スタイルです。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。席数に限りがございます。ご予約はこのメールへの返信、もしくはBenoit(03-6419-4181)にご連絡いただけると幸いです。

 

ラインナップは合計6アイテム

NV  SPEEDY 1st Edition  Magnum

NV  SPEEDY 2nd Edition  Magnum

2008  Millesimé

2007  Cuvée Stanislas  Blanc de Blanc

2008  Cuvée Garance  Blanc de Noirs

2007  Cuvée Alain Thiénot

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 有史以前から存在していたであろうワイン。収穫したブドウを、保管しようと器の中に入れることで、果実が圧し潰される、すると、果皮に付着している天然酵母が発酵を行うたうため、人類が最初に口にしたアルコール飲料ではないかと言われています。ブドウは液果に分類されるほど果汁に富んでいます。そのほとんどが水で数%の成分の違いが、ワインの品質に左右するというのです。ワインの造り手は、飽くなき探求心と弛まぬ努力を、この数%の僅かな違いに、まさに心血を注いできたのです。どんなに醸造技術が発達したとしても、最高のブドウ果実を無くして最高のワインは生まれません。5の能力のブドウから10のワインは、魔法でもかけない限り醸せません。例外はありますが、何も加えずに造られるワインだからこそ、素材そのものが重要なのです。さらに、10の能力のブドウから5のワインが生まれることは往々にしてあること。そのため、ヴィンテージが云々、造り手が云々と語られる所以はここにあるのです。

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 テロワールを重んじ、自然との紙一重の攻防を繰り広げ、妥協のない手間暇をかけて見事なまでの果実を育て上げ、さらに厳しい選別を乗り越えた高品質のブドウが、彼女の手の下でどのような変貌をとげたのか。彼女はどのような想いをシャンパーニュに込めたのか。ワインを通して、さらに彼女の話の中に見出すことの楽しみをお届けしたいと思います。それぞれのシャンパーニュは、何を我々に語るのか?料理とのマリアージュが、お互いの美味しさをどれほど引き立たせるのか?アラン氏より受け継がれた弛むことのない努力と飽くなき探求心を、経験に裏打ちされた匠の技と感を、そして揺るがぬ自信と誇りを、このパーティーを通して美酒に酔いしれながら実感してみませんか。5月30日は最高の出会いをお約束いたします。

 

 さて、「夏も近づく♪八十八夜~♪」の茶摘みの歌は、春の輝かんばかりの美しい緑に染まった茶畑を見ると、ついつい口ずさんでしまうものです。新茶の美味しさは言うに及ばず、この日に摘んだお茶を飲むと長生きするという、なにやらお祝い事のような日なのですが、ここには古人からの注意喚起のメッセージが込められていました。

 中国から伝わった「二十四節気(にじゅうしせっき)」、中国生まれながら日本風にアレンジされた「七十二侯(しちじゅうにこう)」、これらとは別に、日本の気候風土の下で生まれたのが「雑節(ざっせつ)」です。前述した「彼岸(ひがん)」も、なんとなく仏教の色濃くインドから伝わったかのようですが、実は日本独自の考え方、そう雑節です。そして、立春から数えて88日目の日、2018年は5月2日、この日が雑節の「八十八夜」です。さらに、「八十八夜の別れ霜」「八十八夜の泣き霜」といい、農を生業にする者のとっては気をつけなければならない日。暖かくなったからといって、まだまだ遅霜には気をつけなけなさい、と日本独特の雑節を作り、注意を喚起したのです。なんという先人達の知恵なのでしょうか。

 ワインを作るのに不可欠なものがブドウ。厳冬を乗り越え、休眠していた樹が目覚め涙する。ほっこりと芽吹き、可憐な花を咲かし小さな緑色の実を成す。葉は緑美しく太陽の恩恵を受けようと広く大きく成長し、夏場の陽射しを十二分に浴びる。白ブドウは透明感のある黄金色に、黒ブドウは色濃く美しいルビーの色あいに、これぞ完熟の証。1年の弛まない努力の成果が秋に収穫という形で訪れます。そのブドウ栽培が、どれほどの苦労と労力を費やし、天候に左右されることか。

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 霜害はその年の収量・品質に多大な影響を及ぼす一要因、皆が避けたい天災です。しかし、その過酷な環境でこそ高品質のブドウが育つのも事実です。凍(い)てつく冬は大地を凍らし、土の中に増殖した悪玉菌類を浄化する役割を担います。それゆえ、北へ北へと向かうことに。フランスが農業国であることは周知の事実ですが、比較的北に位置しているフランスの自然環境は、そこまで人々の生活を温かく包み込んだわけではありません。農作物に適した地には、もちろん野菜や穀物を植えていたはずです。そして、斜面や水はけのよすぎる地、農作物が育たないような不毛の地を選び、他の作物に比べ屈強な葡萄を植えつけていました。

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 フランスに限ってみてみると、南の地よりも北の地の方が植えつかれているブドウ品種数が少ないと思いませんか。「品種を選び」と書きましたが、昔は今のような品種の知識はなかったはずです。南より修道士が持ち込んだブドウの品種は、今でいう多種にわたっていたはずです。それを植栽するも、厳しい環境に適応できずに枯死するこで淘汰されていきます。生き残った中から、さらに優良株を選別し植え付けていったはずです。結果的に、それが同じ品種であり、「それぞれの地に適応した品種」という形で今なお残っているのです。南に比べ北に向かうほど品種が少なくなる理由は、このあたりに理由があるのかもしれません。

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 凍えるような寒さの中でも、冬芽はプロテクターに守られているため何も問題はありません。しかし、冬芽が膨らみ、前年の秋に蓄えた栄養を解放するかのように萌芽する頃から、新梢がぐんぐん成長し、奥の葉が開く中に花の蕾が姿を現す頃まで。葡萄の産地は寒冷地が多いので、4月半ばほどから5月いっぱい。この時に霜が降りるとどうなるのか。霜焼けをおこし、芽が葉が、そして蕾が枯死します。葡萄は、「前年の芽」が伸びた「新梢(しんしょう)」に実を成します。前年の芽や新梢を無くしたことで有り余る樹のエネルギーが、新たな芽を生み出し成長しますが、この枝は実を成しません。つまり、「前年の芽」が枯死することは、その年の収穫が激減、もしくは見込めないことを意味します。農を生業としている者にとっては死活問題なのです。

 あがうことのできない天災ではありますが、霜害を少しでも減らそうと、天気予報に一喜一憂し知恵をめぐらす。何も葡萄に限ることではありません。野菜や果実、もちろんお茶も。気づかないところでの並々ならぬ苦労と苦悩は計り知れません。全ては美味しい産物を実らせるために。過去に天の辛酸を舐めた古人が、後世の助けにと遺した言葉の一つが、「八十八夜」です。深い言葉ではないですか。

 食べなければ生きてはいけな。誰かが育て作らなければ食物を食べることができません。「いただきます」と「ごちそうさま」に込められた感謝の気持ち。これがために人々は頑張れるのかもしれません。

 

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますが、皆様のご多幸とご健康を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com