kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoitミュージックディナー「三味線プレイヤー≪史佳Fumiyoshi≫」の再案内です。

 日本に根付く歳時記の世界は、農作業の暦であり、古人の英知の結晶ともいえます。カレンダーという便利な代物に頼ってしまったがために、ついつい見過ごしてしまいがちな変わりゆく自然の機微を、昔の人々は読み取り、農作業の目安にしていました。我々日本人が、桜の開花を待ち望み、桜前線に一喜一憂するのはなぜなのでしょうか。理由は多々あるかと思いますが、「日本人が農耕民族である」ことが大いに関係している気がいたします。

 「農耕の神」を指し示す言葉は「さ」なのだといいます。その神が山より里へやってくることで、無事息災に稲が育つ。実りの時期を迎えた後に、神は山へと帰ってゆくのだと考えていたようです。春、山よりいでし「農耕の神(さ)」が、宿る場所が、「座」を意味する「くら」なのだといいます。桜は「さ・くら」であり、神が降り立つ場所が「桜」だと。花咲く頃に神が宿り、豊穣を祈りお祝いをすること、これが花見のルーツなのだといいます。桜の開花に心躍る心地がするのは、古人の想いが、今なおDNAに刻み込まれているからなのでしょう。この桜の開花を目安に、「耕(たがえし)」「田打ち」とよばれる、田の土を起こす作業が始まります。北の地では桜の開花が遅いため、コブシが桜の代わりでした。そのため、コブシを「田打ち桜」と呼ぶのは、このような理由からなのです。

 稲作の農耕民族であるがゆえに、桜の開花が仕事始めのタイミングです。その名の如く、「田を起こし」た後に「畔塗(あぜぬり)」、別で「苗代(なえしろ)」をこしらえると同じく、「種浸し」そして「種蒔(たねまき)」と。田植えの準備が整うことで、田に水を引き込む作業が始まります。今でこそ、機械化が進み、耕運機や田植え機が活躍することで、時間短縮を図ることが可能となりました。しかし、稲を育むのは太陽であり大地であるため、栽培手順の流れは今も昔も変わりません。今は、隅々まで代掻きが行われた田に水を引き込み、再び耕す「代掻き(しろかき)」へ。ビニールハウスのない時代にあっては、発芽に必要な温度を見極めながら苗代を作り上げる作業を並行しながらの、なかなかの重労働だったことでしょう。

f:id:kitahira:20190605113817j:plain

ますげ生(お)ふる 荒田に水を まかすれば うれしがほにも 鳴くかはづかな  西行

 真菅(ますげ)とは、今は懐かしい菅笠(すげがさ)や蓑(みの)の原料となる、スゲ属の草本(そうほん)で種類は豊富。まだまだ手が回らず、真菅が生えている荒田。この田に水を引き入れると、必ず嬉しそうに蛙が鳴き始めることだなあ。この情景は、間違いなく今も変わりません。

f:id:kitahira:20190605113903j:plain

 日本有数の米どころである新潟県。広大な越後平野を有し、豪雪地域ならではの水資源の豊かさが、この名声をもたらしたのでしょう。先日、鹿児島県のある農家さんが、田んぼの休眠期である晩秋から、特産でもある「そらまめ」を植えることで二毛作を行っている話を耳にいたしました。なるほど、マメ科の植えることで、田にも良い影響がでるのだと。ところが、新潟県で「二毛作」は、雪に覆われる地ゆえにまったく不可能なこと。春を告げる「梅」が花開く時期も遅ければ、「桜」もまたしかり。

 冬の間、日本海から湿気のある風が越後山脈にぶつかることでもたらされる大雪は、豊富な雪解け水を確保する利点はあるものの、人々は長く厳しい冬の期間を過ごすことになります。寒冷な期間が晩春まで続くのかと思いきや、新潟県では春が急ぎ足で訪れます。南から吹き荒れる春の風が、越後山脈を乗り越える際に「フェーン現象」を引き起こし、いっきに気温が上がってくるのです。関東では、梅が咲いた後に、桜の開花が待ち遠しくなる「間」がありますが、新潟県では意外に短いものです。そして、米どころだからこその多忙を極める日々が到来いたします。

f:id:kitahira:20190605114023j:plain

 今か今かと待ちわびる春告げる「鶯(うすいす)」の初音(はつね)で、仕事始めに対する心の準備を整え、蛙の鳴き声を耳にすることで、いざ向かう「田植え」という一大作業へ向かう心を決めるのでしょうか。関東ではGW前に田植えが始まりますが、新潟ではその後です。順に、田に水を引き込み、代掻きを行う。陽が暮れ始める頃には家路につきます。人々で賑わいのあった田も、夕刻には静まり返り、耳にするのは嬉しそうに合唱する蛙の初音。目覚めさせてくれたお礼なのか、まだまだ続く農作業への励ましなのか?「蛙の初音」は、今も昔も変わることのない新潟の春の風物詩です。

 

際会(さいかい)

~ 出会うこと。優れた人物などにめぐり合うこと。~

 

 今回、皆様に「際会」していただきたいイベントは、Benoitの「初音」です。4月にもご案内をしましたとおり、2019年は三味線の音色から始まります。三味線といえば青森県の「津軽三味線」を皆様は想い描くことでしょう。三味線を芸能音楽として大成した地であり、「叩き三味線」という奏法も生み出しました。さらに、彼の地に異彩を放った一人の天才が誕生することで、津軽三味線がさらに名声を博すことになります。彼こそ、音を聞き、奏者の想いを込めた音で応える「弾き三味線」を確立した、高橋竹山師です。そして、この竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと誕生したのが、「新潟高橋竹山会」。新潟県?そう津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。なぜ?新潟県に。自分なりに解釈した理由を書いてみました。お時間のあるときに以下よりご訪問いただけると幸いです。

 

kitahira.hatenablog.com

 新潟県高橋竹山会は、二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤーが、2019年Benoitの初音を担っていただく「史佳 Fumiyoshi」さんです。昨年4月のBenoit初開催は、大好評の下に終わり、ご参加の皆様より再演を求められておりました。しかし、彼の演奏を待ち焦がれるのはBenoitだけではなく、とうとう海外からも。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まりました。準備に余念がない中で、ついにBenoitで奏でることが決まったのです。

 

以下は史佳さんからのメッセージです。

f:id:kitahira:20190605114159j:plain

 「昨年、ブノアさん初の和楽ライブとして大勢の皆様に聴いていただきありがとうございました。大好評のお声とともに次の出演へのお問い合わせが多く、皆さまには大変お待たせいたしましたこと、お詫び申し上げます。Benoitで2回目となる史佳ライブ!皆様には極上のお食事との最強コラボレーションをお楽しみください。

この秋10月5日には、ニューヨークカーネギーホールでの演奏会も決まり、熱く燃えております。2019年、平成から令和へと新時代の幕開け。麗しき元号のスタートにあたり、三味線の新たな可能性にもチャレンジする今回のBenoitライブ。豪華なトップミュージシャンを率いて、最高のパフォーマンスをご披露いたします。

皆様とお会いできることを楽しみにしております。」 三味線player 史佳

 f:id:kitahira:20190414141105j:plain

Benoitミュージックディナー 「~際会(さいかい) 三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 

≪演奏曲のご案内≫

津軽よされ節

ふるさと〜津軽あいや節

秋田荷方節

門付け三味線

津軽じょんから節

越中おはら節〜こきりこ節

十三の砂山

弥三郎節

タイトロープ

ROOTS

即興曲津軽よされ節

※曲目・曲順は変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。

 f:id:kitahira:20190414141154j:plain

 絹糸が紡がれ「弦」となり、それが弾かれ音を成す。それが、弾かれることで旋律を奏でる時、音に色を帯び人々を魅了します。この音色というのは形を成さないため、はかなく消えゆく音色なれど、まやかしや幻想ではなく、しっかりと我々の心に響いてきます。文字ではなく、音色に込める奏者の想いに共感を覚え、人世になぞり、笑みをこぼすか涙するか、受け取る人の感じ様は十人十色。音色はデータ化することで色彩を失い、単色へ。なぜ、コンサート会場へ足を運ぶのか?データ化できない、生き生きとした色彩の深さや移ろいの「音色」を感じ取りにゆくのでしょう。

 カーネギーホールでの演奏の前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。今回のメンバーをご覧いただければ納得いただけるのではないでしょうか。

 

三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi

f:id:kitahira:20190605234739j:plain

 ふるさと新潟に拠点を置き、三味線プレイヤーとして国内外で演奏活動・講演活動を行っている。音の響きを大切にする“弾き三味線”奏法を得意とし、津軽三味線のスタンダード曲はもちろんのこと、近年は作曲家/アレンジャーの長岡成貢氏とともに新しい三味線の楽曲作りにも取組んでおり、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しいニッポンの音楽を目指して活動している。

 1974年新潟市生まれ。9歳より津軽三味線の師匠であり母でもある高橋竹育より三味線を習い始める。 2000年よりプロ活動をスタートし、新潟を拠点に国内外で演奏活動を行っている。ホールコンサートの他、国指定重要文化財等の日本建築等でも演奏会活動を行っており、2011年にはルーブル美術館にて日本人として初めて演奏を披露。 2001年に1stアルバム「新風」を高橋竹秀の名で、2003年には本名である小林史佳としてオリジナル曲を含む2ndアルバム「ROOTS TABIBITO」をリリース。 2006年リリースの3rdアルバム「Ballade」では弦楽四重奏との融合にも取り組み、三味線の楽器としての新たな可能性も追求している。 2010年には津軽三味線の名人・初代高橋竹山とかつて共に全国を廻った、民謡の生きる伝説・初代須藤雲栄師とのライブを収録した4thアルバム「風の風伝」(かぜのことづて)、2012年にはそれに続く5thアルバム「続 風の風伝」を“fontec” レーベルよりリリース。同年よりアーティストネームを“史佳Fumiyoshi”と改め、故郷新潟をテーマにしたオリジナル曲「桃花鳥-toki-」を発表。 2013年には自主レーベル“penetrate”を立ち上げ、全曲オリジナル楽曲のアルバム「宇宙と大地の詩」をリリース。2015年2月には、通算7枚目となるニューアルバム「糸際 ITOGIWA」を“fontec” レーベルよりリリース。初代高橋竹山津軽三味線の継承者として挑んだ、奥深いアルバムとなっている。

 2016年1月1日に、三味線ユニット「Three Line Beat(スリーラインビート)」を結成。幅広い年齢層からファンを獲得しており、そのライブパフォーマンスで観客を魅了する。

www.tlb.jp

津軽三味線瞬間芸術という領域に昇華させる独自の世界観を持つ、初代高橋竹山津軽三味線正統継承者。2011年フランスパリのルーヴル美術館にて、日本人として初めて演奏を披露し、現地の聴衆から「ブラボー」の大歓声が上がったといいます。さらに、2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決定しており、世界を席巻するであろう、新進気鋭の三味線プレイヤーです。

 

和田啓 ~レク~

f:id:kitahira:20190414141413j:plain

 幼少の頃から学んだ江戸里神楽をもとに独自の世界を表現するアジア系ハンドドラム奏者であり、作曲家、演出家。タンバリンの原型とも言われるアラブの打楽器「レク」をエジプト・カイロにてハニー・ベダール氏に師事。海外での演奏活動も多く、主なものには、95年能楽と民族楽器とによるヨーロッパ5カ国公演、96年奄美島唄とのジョイントグループ「天海」でのキューバ公演、2002年大津純子(バイオリン)オセアニアツアーに参加、佐藤允彦氏(ピアノ)と共にベトナム、オーストラリアなどで公演を行う。2005年ルーマニアポルトガルより招聘を受け国際交流基金助成事業としてRabiSari欧州コンサートツアー、2006年国際交流基金派遣事業として常味裕司氏と共にエジプト・アラブ音楽院でのエジプト音楽家との共演による古典音楽コンサートをともに成功させた。2009年ノース・シー・ジャズフェスティバルに佐藤允彦氏率いる「Saifa(サイファ)」のメンバーとして出演。2010年レバノンベイルートUNESCOホールにて常味裕司氏と演奏。

 1997年に、バリ仮面舞踊家たる小谷野哲郎とともに仮面舞踊劇団「ポタラカ」を結成、作演出を手掛ける。毎月一本の新作を書き下ろし、ライブハウスで約2年間上演していた。1999年江戸東京博物館にて「冥途の飛脚」(近松門左衛門作}の上演をきっかっけに「南洋神楽プロジェクト」として再編成し、中野シアターポケットなどで定期公演を重ねる。2001年にはジャワ島・バリ島のアーティストらと日本人による「真夏の夜の夢」をバリアートフェスティバルにて上演、好評を博す。

 作曲家としても数多くの演劇・映画音楽を手掛けており、2015年以降の主な作品は,、2015年「新・復活」(劇団キンダースペース、原作/トルストイ、脚本演出/原田一樹)、16年「静寂の響き」(船橋文化創造館きらら主催事業)。さらに演出作品が多数あるほか、2009年度より船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザーも務めている。

 

吉野弘 コントラバス

f:id:kitahira:20190414141700j:plain

 1975年に東京藝術大学音楽学部器楽科(コントラバス専攻)に入学、江口朝彦氏に師事。1980年、坂田明(sax)トリオに参加、以後、富樫雅彦加古隆山下洋輔板橋文夫塩谷哲など数多くのグループに参加する。 また現代音楽の分野での活動も活発で、故・武満徹プロデュースの" MUSIC TODAY "や「八ヶ岳高原音楽祭」に参加、2006年の東京オペラシティでの"SOUL TAKEMITSU"にも出演した。また2009年には間宮芳生書き下ろしの新作オペラ「ポポイ」、2011年には「間宮芳生の仕事」コンサートにも出演する。

 現在は、ベース・ソロと『彼岸の此岸』(太田恵資violin,鬼怒無月guitar,吉見征樹tabla)、『環太平洋トリオNEO』(津嘉山梢piano, 大村 亘drums &tabla)を活動の中心にしながら、大ベテランの中牟礼貞則guitarや渋谷毅pianoとのデュオも行なっている。 また下北沢レディージェーンでの作家の山田詠美奥泉光との " 朗読と音楽 "のセッション(太田恵資violin,小山彰太drums)は、毎回熱心なファンの待望するところとなっている。リーダー作品に「泣いたら湖/吉野弘志・モンゴロイダーズ」(2002年/ohrai)と、ベース・ソロアルバム「on Bass」(2004年/ rinsen music)、「吉野弘志 彼岸の此岸/Feeling the Other Side」(2013年/AKETAS DISK)が有る。

 

≪Rica ~パーカッション~≫

f:id:kitahira:20190605114440j:plain

 津軽三味線の古典曲には、カホンを使用し、小柄ながらにも叩き出すビートは力強く、三味線の音色に独自の感性をからめていく。ドラマーでありながら、様々なスタイルの音楽に体当たりで飛び込み、どん欲に自分自身の糧にしている。史佳Fumiyoshiの音楽性を鮮明に浮き彫りにし、色彩豊かに後押しするセンスは抜群である。

 

庄司愛 ~バイオリン~≫

f:id:kitahira:20190414141800j:plain

 桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業。演奏活動を行うほか、新潟市ジュニアオーケストラ教室、桐朋学園大学附属「子どものための音楽教室」、新潟中央高校等で後進の育成にも力を注いでいる。これまでに山宮あや子、奥村和雄、辰巳明子の各氏に師事。「トリオ・ベルガルモ」メンバー。

 

 史佳さんが、2018年にリリースした9枚目となるCDには「守破離(しゅはり)の絲(いと)」と銘打ってあります。以下は史佳さんのメッセージです。

 「守破離とは、伝統芸の世界で使われている言葉です。芸事は、まず型とうものが大切で、これを≪守≫ることから始まります。次にその型を≪破≫り、自分の型を模索して自己のスタイルを確立していきます。そして、最終的にはその自分のスタイルをも超越する、≪離≫れた境地に到達します。その境地は、まさに自由自在という領域であり、宇宙にも通じる無限の広がりなのです。私の演奏においては、そのような宇宙的な広がりのある、無限の響きの世界をつくりたいと思っています。」

 よく耳にする「稽古(けいこ)」という言葉。「稽」の漢字を調べてみました。「稽(かんが)える」、考証する、比較して調べる。「稽(と)う」、問い尋ねる。「稽(くら)べる」、比べて論争する。「稽(あ)う」、合致する。「稽(とど)まる」、遅延する。稽古とは、古人の英知の結晶でもある「型」を、体験することで今の自分との違いを稽(かんが)え、型に込められた古人の想いを稽(と)い、同志とともに現世との違いを稽(と)う。納得のゆく答えを見出すことは、型と稽(あ)うこととなり、これを会得するために稽(とど)まる。この無駄とも思える稽(とど)まる期間こそ、己をよくよく考察するに大切なこと。そして、この稽古の繰り返しが、時間はかかるものの、着実に自らをさらなる高みへと導くことになると伝えているのです。

 小さき頃より身近であった三味線を手にし、師である母に指導を仰ぐ。芸事の世界は、まさに「稽古」の積み重ねでしか会得できない「型」がある。綿々と成長を遂げながら受け継がれてきた先人達の英知の結晶でもある「型」を稽古によって身につける。まさに「守」以外に、輝かしい成長は望めません。型を疎(おろそ)かにし、「破」へ向かうことを「型なし」というようです。しっかりと型を「守」ることを続け、「破」ることで新たな高みへと誘(いざな)われるという。そして、型の延長線上で自分らしさが加わることで確立されたスタイルから、「離」れることで無限に広がる可能性の境地へと導かれるのだと。

 これは決して芸事だけの教えではなく、今自分が置かれている状況を稽えると、全てにおいて「守破離」の大切さを考えさせられます。「型なし」にならぬよう、稽古によって「守」すること大切さ。しかし、この辛抱強く「守」する過酷さを、史佳さんは語ろうとはしません。しかし、長きにわたる「守」の期間で会得した「型」無くして、今の史佳さんはなかったことでしょう。

 

糸際(いとぎわ)

 史佳Fumiyoshiさん自身が造った言葉です。三味線は、撥(ばち)を扱う右手と弦をはじく左手のコンビネーションで音を奏でていく楽器だと、彼はいいます。右手の弦への撥のあて方、左手の弦のはじき方、この微妙な差が音色を左右する。フレットレスな三味線の奏でる至高の音への追求は、1mm単位での調整を瞬時に行うことを求められます。弦と撥、弦と指との際(きわ)を見極め奏でる瞬間芸術が三味線だと。糸際が奏でる三味線の音色は、古典曲によって我々の魂に問いかけてきます。

 指揮者のいない演奏会では、各々が魅惑の音色を奏で、奏者それぞれがメンバーの音色を聞きながら音やリズムをあわせ、ひとつの曲を紡いでいきます。まさに譜面のない音楽会。即興で曲を奏でる三味線史佳さんの腕の見せどころです。さらに、相手をさらなる高みへと導くかのようなそれぞれの楽器。「守破離」によって会得した、今までに体感したことの無い世界観を我々に見せてくれるはずです。三味線という楽器の常識が変わる無限響の世界へ、皆様をご案内いたします。

f:id:kitahira:20190605114526j:plain

 新潟の初夏は、夕刻に優しく響く楽し気な「蛙の初音」から始まります。Benoitの2019年の初音は、「三味線プレイヤー史佳Fumiyoshi」で始まります。奏でられる旋律の先に、新潟の田園風景が、そして羽ばたくトキの姿を目にすることでしょう。※画像はシロサギです。

皆様にはBenoitで「際会(さ・いかい)」していただこうと思います。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康と

ご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com