kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit「トウモロコシ前線」北上中です。

 桜前線に一喜一憂していた時期も遠い記憶となり、今は日々の天気が気になる梅雨の時期。我々が憂鬱に感じる曇天や雨天も、見方を変えると恵みの雨でもあります。生きとし生けるものにとって欠かすことのできない「水」を、動植物にもたらしてくれるのです。春の陽射しに誘引され咲き急いだ花々も、一息つくかのように体に瑞々しさを補う時期。さらには、夏の猛暑に向け、つかの間の休養期間なのかもしれません。「翠雨(すいう)」とは、この時期らしい美しい表現ではないですか。

 

 さて、今回はBenoitのメニューに登場している、この時期らしい前菜、「とうもろこしの冷製スープ 北海道のフレッシュチーズ“フェッセル”」のご案内です。というよりも、このスープに使用している「トウモロコシ」のご紹介としたほうが良いかもしれません。

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 初夏を代表する食材であり、甘く美味しい「トウモロコシ」の美味しさは、誰しもが知るところです。さらに、今旬を迎えているもう一つ、「トマト」を加えます。甘くコクのある冷たいコーンスープに、トマトが心地良い酸味と爽やかさを与えます。そこに、まろやかさを加える北海道のフレッシュチーズ。北海道のフレッシュチーズがどれほど特選食材なのか?以下のブログに思いのたけを記載させていただきました。お時間のある時に訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 今回の特選食材である「トウモロコシ」は、我々にとって馴染み深い食材です。しかし、意外に知られていないことに、収穫後1日経つと糖度が0.5度も落ちるというのです。そう、鮮度を最も意識しなければなりません。さらに、1地域1品種では1週間ほどという収穫期間なのです。そこで、今期のBenoitは「トウモロコシ前線」を作成し、購入させていただいている逸品が届く地を、南から順を追ってご紹介していこうと思います。皆様がBenoitへお越しいただく日には、どこの地域なのか?

 

 今月当初は豊洲の助けを借りましたが、先週から宮崎県の「綾町」のトウモロコシが届いています。この地は宮崎県のほぼ中央に位置し、宮崎市から西へ20km、大淀川支流の本庄川をさかのぼった中山間部。町の約80%が森林で、それも日本一の照葉樹林を形成しています。さらに、この恵まれた環境は、名水百選にも選ばれる水源を生み出しました。自然豊かな環境で育てられた農畜産物の美味しさは県内外に知れ渡り、多くの観光客が彼の地を訪れているそうです。ただ自然豊かだから美味しい?

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 「自然生態系を生かし、育てる街にしよう」、これは綾町憲章です。この基本理念を実践すべく、なんと30年以上も前から町全体で有機栽培に取り組んでいる地なのです。見た目に美しく効率よく大量生産をめざす飽食の時代に、まさに逆行するかのような行動に出たのが、当時の綾町の町長でした。1988年(昭和63年)、「綾町自然生態系農業の推進に関する条例」が制定されました。「わが綾町は~中略~先人の尊い遺産である照葉樹林の自然生態系に恵まれ限りない恵を享受してきた。~中略~今日の経済社会の諸情勢は、我が国の農林業を厳しい環境に落とし入れようとしている一方、食の安全と健康を求める消費者のニーズは、日本農業に大きな期待と渇望のうねりが生じつつある。~中略~消費者に信頼され愛される綾町農業を確立し、本町農業の安定的発展を期するため、本条例を制定する。」(詳細は綾町役場のHPを参照ください)。

 「有機栽培」、いまではこの言葉が独り歩きをしてしまい、ありがたい文言として其処彼処で見かけることができます。なぜ、この言葉の響きに魅力があるのか、今の自然生態系を鑑みず、近代化・合理化の名のもとに、利便性と効率を追求しています。全ての企業が求めていることで、決して否定することは致しません。しかし、これがために、自然生態系が壊れることになりました。安心安全を求めているようで、かえって自然自体が持っている浄化能力を阻害し、生きとし生けるもの自らが持ち得る抵抗力をも低下させることに。結果、さらなる薬剤が必要になり、それが我々に還ってきます。だから、今は自然の生態系に習い、農薬を減らした「有機農法」を実践しています。いうなれば、現代のノウハウを生かしながら、古人の農法に戻ろうということなのです。

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 綾町に畑を有する福重正直さんご一家の手掛ける「福じいさん」ブランドのトウモロコシ。ひたに有機栽培を実践することで、すでに畑は生物の楽園と化していることでしょう。代々引き継がれてきた農のノウハウを、正直さんからご子息の龍さんへ太陽さんへと。どれほどの自信をもってBenoitに送り出してくれたことか。後日送っていただいた彼らの輝かしい笑顔が、その証ともいえるのではないでしょうか。除草剤不使用に加え、土作りも堆肥から。広大な照葉樹林から湧き出でる名水と自然の生態系を生かした良質な土から育まれた、まさに自然の摂理を尊重する自然生態系農業を実践する「福じいさん」のトウモロコシが、美味しくないわけがありません。

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 トウモロコシ前線の北上は、「時」を待ちません。宮崎県綾町から香川県観音寺(かんおんじ)市に移動します。愛媛県との県境に位置しているこの地は、北は中国山地、南は四国山地讃岐山脈と、自然の要害により暴風に守られるばかりか、瀬戸内海に面していることで、比較的穏やかな気候が特徴です。そこで、Benoitでは彼の地に畑を有する三豊セゾン(みとよせぞん)さんからトウモロコシを送っていただいていております。

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 この三豊セゾンさんは、地域高齢化や後継ぎ問題など、地元の大切な農地を耕作せずにいる遊休農地を生かしていこうと考え、さらに農家も安定収入を得ることができるよう、平成5年に法人を設立しました。矢野匡則さんを代表とし、「農業を通して、心を豊かに、暮らしを豊かに、大地を豊かに」を目指します。四季折々(saison仏:季節)の恩恵に授かりながら、3つの豊かさの実現へ。矢野さんが社名に託した意味を、もうご理解いただけたのではないでしょうか。

 農地は1年耕作を止めてしまうと、復活に10年かかると言われていります。この大切な地を守りたい一心に、遊休農地を借り受けることで規模を拡大し、今では9haの水田をはじめ、26haにおよぶ野菜畑を手掛けています。さらに、農作業の受託の地は20haほど。そして、学校給食へ食材の納入に加え、効率の良い販売経路の模索に取り組んでいます。この野菜畑の中に、今回の特選食材「トウモロコシ」が入っています。

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 画像の男性こそ、この法人の代表を務める矢野さんご本人です。自ら動き畑にて自然と対峙する姿に共感を覚え、同志が集う。彼の采配のもとで、次なる高みへの挑戦が始まるのです。「三豊セゾンは、自然の恵みに人間の知恵をプラスして、できる限り薬に頼らない野菜作りをしている香川県農業法人です。地域の環境や人間にやさしい、安全で美味しい農産物を生産することにこだわりながら、新しいスタイルのアグリビジネスを目指しています。」と、コメントをいただきました。

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次なる地は、少しだけ北上し香川県高松市香南町へ。ここはグリーンアスパラガスの「さぬきのめざめ」でお世話になった、「薫る農園」の河田薫さんから、まもなくトウモロコシの「ゴールドラッシュ・ネオ」という品種が届こうとしています。まだトウモロコシに対する彼女の心意気は伺ってはおりませんが、アスパラガスへの想いがどれほどのものか?以前に「はてなブログ」に記載しております。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。アスパラガスに対しても、トウモロコシに対しても、彼女は全く変わらないものと考えております。

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 トウモロコシ前線は、自分が思った以上に、急ぎ足で北上していくようです。トウモロコシの1品種が、おおよそ1週間で収穫を終えることを考えると、致し方ないのかもしれません。今後の予定では、岐阜県を経由して、神奈川県へ。さらに岩手県へと向かい、最後は青森県へと向かう予定です。今、Benoitに届いているトウモロコシが、どの産地なのか?こればかりは、Benoitへお越しいただくときのお楽しみです。いずれの地にしても、こだわりのある栽培者が、丹精込めて育て上げた逸品であることに間違いはありません。料理には料理人の想いが込められ美味しさを増します。食材は栽培者の想

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いがあればこそ、美味しく元気に育ってゆきます。産地が重なり合いながら、北上を続けるBenoit「トウモロコシ前線」の取り組みは、まだまだ始まったばかり。どの地の生まれであっても、Benoitは皆様に最高のトウモロコシを、大いなる自信をもってご案内いたします。

 

 暦の上でも「入梅」を迎え、何かと不安定な天気が続く日々です。日差しが照り付ける中でも、暴風雨の中でも、収穫の時は待ってはくれません。どれほど、過酷で危険を伴う収穫作業になることか。Benoitに食材を送ってくださる皆様の想いを無駄にしないよう、最高の品質を損なわないよう最善を尽くします。そして、感謝の想いを込め、ありがたくいただかせていただきます。

「いただきます。」

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com