kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

トレ・ボン!日本のテロワール≪岐阜食材の饗宴≫メニュー確定のご案内です。

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 秋が深まりゆく今日この頃。9月13日には、夕刻には雲多く、半ば諦めかけていた「仲秋の名月」も夜半には見事な美しい姿は、まるで我々を励ましているかのようです。里芋に見立てた団子を積み上げ、ススキを飾り、感謝の気持ちを伝えた方々も多かったのではないでしょうか。そして、23日に太陽の分岐点ともいえるに「秋分」を迎えました。

 日本の季節の目安として欠かすことのできないものが「春分」や「夏至」に代表される「二十四節気」と、さらにそれを細分化した「七十二侯」。詳しい説明は割愛させていただきますが、両者の語尾を並べて作られた言葉が、「気候」です。その二十四節気の中で、季節の基準となる重要な目安となるのが、昼夜の時間が同じになる「春分」と、対をなすのが「秋分」。太陽の周りを一周する期間を1年とすることは周知の事実。しかし、365日では、徐々にずれが生じてくるために、閏年という仕組みで調節します。そのため、春分秋分にもずれが生じてくるのです。

 そこで、国立天文台が太陽の通り道である黄道と、赤道の延長線上に当たる天の赤道が同じとなる時期、我々からすると太陽が真東から登り真西に沈む時期を、「春分点」を毎年算出し、公表します。これが基準となり、秋分はもちろん、それぞれの節気もカレンダーにあてはめられているようです。とうことは、春分秋分の両日は、変動する祝日というわけです。この春分秋分の日を中日に前後3日の7日間、が2019年は9月20日から26日までが「彼岸」です。そして、仲秋の名月が「お月見団子」であるならば、お彼岸は「おはぎ」が欠かせません。

 

 「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく耳にいたしますが、古人の言うとおりに、日中はまだまだ残暑を感じるものの、朝晩には「涼しさ」を感じ取れるようになりました。夏の疲れを「おはぎ」の甘さで回復した後は、食欲がもどってくるというものです。この「食欲の秋」の到来を待ちかまえていたかのように、其処彼処で目にする秋食材は、我々を魅了して止みません。そこで、日本の秋食材と、地方地方に眠る美味なる食材とを組み合わせつつ、フランス料理という「技」を駆使した特選料理の数々が、10月からBenoitメニューに登場いたします。Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、日本のテロワールの魅力を感じ取っていただけるはずです。

 その先駆けとして、皆様には10月1日に「一夜限りの特選メニュー」をご用意いたします。季節食材はもちろんですが、今回は「日本のテロワール」の素晴らしさも感じていただきたく、食を通して旅に出るかのように。日本全国津々浦々に特選食材を見出すことができる中で、今回の旅先は「岐阜県」です。飛騨牛奥美濃古地鶏や郡上クラシックポークが、そして岐阜伝統野菜の宿儺かぼちゃに和栗。岐阜県というひとくくりでは説明できない、育んだ地の魅力に満ち満ちた逸品の数々。フランス料理の技法によって仕上げられた料理に舌鼓を打つことで、まるで食を通して岐阜県へと旅をしているかのようなひとときを体験できるはずです。

 今回は10月にBenoitメニューに組み込まれるものの中から、10月1日のみの一夜限りの特選メニュー 「トレ・ボン!日本のテロワール≪岐阜食材の饗宴≫」特別メニューを組み立てます。当夜は、ミュージックディナーのように、何かイベントがあるわけでありません。通常通りのディナー営業なのですが、この一夜だけは、シェフのセバスチャンが、「今、これを食せずして岐阜県は語れない」という地の食材をつかって組み立てたコース料理のみご用意です。もちろん、皆様から「選ぶ楽しみ」を奪ってしまうため、特別な価格でご案内させていただきます。Benoitディナーの営業時間内のご都合の良い時をご指定いただき、ご予約いただけると幸いです。

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Benoit一夜限りの特選メニュー 「トレ・ボン日本のテロワール≪岐阜食材の饗宴

日時:2019101()17:30より(21:00LO)Benoitの営業時間内にお越しください。

コース料金:お一人様9,800(税サ別)

※ご予約をご希望の際は、Benoitへメールをお送りいただくか、直接ご連絡(03-6419-4181)をいただけると幸いです。何か質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

www.benoit-tokyo.com

 

 さあ、いったいどのような饗宴となるのか。岐阜を代表する食材を厳選し、手に入るかどうかの確認をとるのもなかなか難儀な作業でした。食材がほぼ決まり、シェフのイメージするコース料理の流れ、料理内容が確定いたしましました。特選食材のご案内と、垣間見える料理を少しばかりご紹介させていただきます。食材の都合により、直前に変更になる場合もございます。ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

≪一口の前菜: 飛騨高山の伝統野菜“宿儺かぼちゃ”の温かいスープ≫

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 岐阜県の飛騨高山に伝承される鬼神「宿儺(すくな)」の名を冠する伝統野菜がBenoitに届いています。大きなサイズになればなるほど栽培が難しくなると言われるなかで、この見事なサイズにまで育て上げられた逸品は、高山市で「かぼちゃ名人」と称される若林さんの手によるもの。シェフ曰く、「かぼちゃ個々にムラが無い」と。

 薄い表皮を削ると、見事なほどの黄色がかったオレンジ色が姿を見せます。和かぼちゃの多くは、味わいが素朴であるのに対し、この宿儺かぼちゃはそれとは一線を画します。コクのある甘さを持ちながら、後引く旨さに和かぼちゃらしい優しさがあります。ここに、タマネギの甘さとバターのコクを加え、黄金色のとろりとしたスープに仕上げます。

 

≪前菜: 奥美濃古地鶏とフォアグラのプレッセ 黒トリュフ≫

 昔も昔の物語。天照大神を岩戸の中に身を隠し、世は闇の中へ。これは一大事と多くの神々が天照大神を岩戸から引き出すために、試行錯誤しる様子が古事記に書き記されています。その時に、肌もあらわに踊った天宇受賣命(あまのうずめりみこと)は、芸能の神様として飛騨市河合町の鈿女(うずめ)神社に祀られています。その鳥居の下には「金の鶏」が埋められた。この鶏は天照大神を自ら「天の岩戸」を開けさせるため、気を引くために鳴かせたという「常世の長鳴鳥」だと。そして、この鶏こそ「岐阜地鶏(天然記念物)」の祖先であると。岐阜県養鶏試験場が、この「岐阜地鶏」をもとに、「神代の味」の再現しようと研究を重ね、並々ならぬ努力の末に生み出したのが、「奥美濃古地鶏(おくみのこじどり)」なのです。

 雄大大自然のなかで、のびのびと育てあげられる奥美濃古地鶏。すべての生産者の鶏が、この名を名乗れるわけではありません。岐阜県では奥美濃古地鶏普及推進協議会を発足し、厳しい基準を順守する生産者のみに与えられるもので、定期的に調査を行うことで品質の維持に努めています。この徹底した管理のもとで育てられた鶏肉は、ほんのり赤みを帯びた歯ごたえのある肉質を生み出し、深みのある旨味に満ち満ちています。

 今回は、奥美濃古地鶏の美味しさを十二分にお楽しみいただきく、シェフのセバスチャンは型の中で重ねていくように仕上げる「プレッセ」という前菜に仕上げます。コクがあり地よい食感のモモ肉の小ブロックと旨味溢れる胸肉のミンチ、さらにはフランスから届いたフォアグラとトリュフを少々加えたものを、ミンチにしない胸肉で挟み込むように肩に詰めてゆきます。上から軽く押すようにゆっくりと低温で熱加え、冷ますことで完成です。いうなれば、奥美濃古地鶏の奥美濃古地鶏ばさみ。部位の違いは食感や美味しさの違いを生み出し、口に運ぶ場所場所によって、旨さの表情を変えてゆきます。鶏肉の持つ、美味しさを損なうことなくしっとりと仕上げたこの逸品は、「神代の味」を十二分にお楽しみいただけるはずです。時代を超えた神々の世界へ皆様を誘(いざな)うでしょう。

 

≪肉料理 1つ目: 郡上明宝牧場“クラシックポーク” バラ肉のコンフィと自家製ソーセージ レンズ豆の煮込み≫

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 岐阜市から清流長良川を上流へと上がった先に、山間(やまあい)から突如姿を現す古京都を思わせるような街並み、これぞ奥美濃の小京都と称される「郡上八幡(ぐじょうはちまん)」です。県のほぼ中央、飛騨高地の南側に位置し、山々より湧きいずる美しきせせらぎが落ち合い長良川へ。郡上市のほぼ全域が長良川流域ということもあり、この豊富な水資源は、水路として街並みに引き込まれ、「水の町」としての名声は今でも健在です。

 この郡上市の片隅に、明宝牧場の広大な地が広がっています。澄んだ清らかな水と空気という、この類稀なる自然環境中で、さらにモーツアルトを聴きながら、ストレスなく健やかに育った「クラシックポーク」が特選食材です。今回は、肩肉とバラ肉を使い、バラ肉は塩ふって一晩置いた後に塩抜きして焼き上げる。この塩でマリネする一手間が、バラ肉の美味しさを引き出すのです。さらに、肩肉を6割以上加えてバラ肉とともに仕上げるBenoit自家製のソーセージ。食品添加物を全く使用しない、クラシックポークそのものの旨味を、フランス伝統のシャルキュトリーの手法で引き出したバラ肉のコンフィとソーセージが、美味しくないわけがありません。

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≪肉料理 2つ目: 飛騨牛ランプポワレ 胡椒風味 自家製フレンチフライ≫

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 「清流の岐阜」の自然が育んだ逸品。誰しもが知る日本が誇る「和牛ブランド」です。岐阜県の全ての和牛が名乗れるわけではなく、黒毛和種であることはもちろん、飛騨牛銘柄推進協議会の厳しい審査をのりこえた牛肉のみに与えられる称号なのです。その肉質はきめ細かくやわらかで、とろけるような旨味に、舌鼓をうっていただけることでしょう。

 今回は、ランイチという腰の部位を選ばせていただきます。適度に入るサシが肉の旨味を引きたたせる、赤身の多い部位で、ステーキとして楽しむには最適。フランス料理の技法として、特徴的なのが「休ませる」という発想ではないでしょうか。素材を焼き上げた後に、肉でも魚でも必ず「休息の時」を設けます。鉄板焼きの場合には、焼き立てほやほやが提供されますが、Benoitでは、表面を鉄板で焼き色を付けた後に、温かい肉の休息場所へと移されます。肉の中の温まった肉汁は、まさに旨味そのものであり、この休息部屋で過ごす時間は、この旨味をゆっくりと肉に馴染ませるのに必要なひとときなのです。これにより、肉にナイフを入れた時、肉汁があふれでるということが無くなります。カットした一口サイズの肉の塊の中に、美味しさが内包されていることを意味するのです。

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 肉の状態を見極め、切ることなく中の状況を把握せねばならない、まさに職人技。食材の美味しさを、生かすも殺すも調理次第です。飛騨牛の美味しさに感嘆の唸りを上げると同時に、肉の扱いに秀で たフランス料理の真髄を感じ取っていただけるはずです。

 

≪デザート・: 岐阜県老舗の和菓子処から“和栗” モン・ブラン ブノワ風≫

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 毎年姿を変えるBenoitの栗デザート「モン・ブラン」。2019年はどうなるのか?和栗の収穫を待ち、待ち続けてしまったがために、いまだその全貌は明らかになっておりません9月も最後の30日に、2019年モン・ブラン用の全ての食材がBenoitに集結するのです。前日ですが、Benoitシェフパティシエールの田中を知るものは、皆様にご案内できないという焦りの中で、任せていれば大丈夫という、何か安心感のようなものを覚えるのです。今までのデザートを知る皆様も、期待感の方が大きいのではないでしょうか?

 昨年に引き続き、岐阜県恵那市の「恵那川上屋」さんより、和栗を炊きほぐしていただいた栗のペーストを送っていただきます。55年間もの間、栗に向き合ってきた彼らの慧眼は本物です。今年は、さらに同県内の大垣市に店を構えること260年という「御菓子のつちや」さんに白羽の矢が立つのです。岐阜県の美味なる栗をつかった「渋皮煮」を図々しくお願いしたのです。長きにわたり店を盛り立てる和菓子の技術は伊達ではなく、さらりと送っていただいた渋皮煮の美味しいこと美味しいこと。この、岐阜県に綿々と引き継がれる「和の技法」をもって仕上げらえた栗菓子の逸品が、Benoitに集うのです。

「そのままが美味しいのでは?」と皆様はお思いだと思います。素材が美味しく、確立した技の為せる逸品であり、間違いはありません。しかし、そこのフランスのエッセンスが加味されたとき、和のお菓子とは、一味も二味も違った美味しさを我々に魅せてくれるはずです。2019年のBenoitのモン・ブランは?皆様、気になりませんか。

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※苦手な食材や、アレルギー食材が組み込まれている場合には、お教えいただけると幸いです。アレンジするか、別の料理を提案させていただきます。

 

 今回のメニューを鑑み、シェフソムリエの永田から、「料理とワインのマリアージュ」の提案です。シャンパーニュ、白・赤ワインの計4杯のセットで、お一人様6,000(税サ別)にてペアリングをご用意しようと思います。数量に限りがあるため、当夜では承れないことがございます。ご希望の方は、ご予約の際に、「ワインとのマリアージュ」希望とお伝えいただけると幸いです。今回のワインのラインナップは以下を参照ください。

2012 Louis Roederer rosé vintage

2009 Riesling grand cru Schlossberg Albert Mann

2015 Chassagne-Montrachet 1ercru Les Caumées François D’Allaines

2004 Château Quinault L’Enclos

 

 山の頂から流れ落ちたせせらぎが、谷間を縫うように落ち合い、やがて岐阜市内を悠然と流れゆく。世界農業遺産に認定されている長良川は、まさに天からの贈り物ではないでしょうか。この豊かな自然が育んだ食材の数々はあまりある魅力にあふれ、我々を魅了してやみません。世界無形遺産に登録されたフランス料理の「食の技」によって姿を変えた時、新たな美味しさの感動を、歴史と伝統がつくりあげる食のマリアージュをお楽しみください。

 

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  冒頭でも書きましたが、秋の彼岸には「おはぎ」をお供えすることで、五穀豊穣と家族を見守ってくれているご先祖様への感謝の意を伝えます。何度となく自分の長文レポートに登場する「秋の七草」。筆頭に上がるのは「萩(はぎ)」の花です。そう、「おはぎ」は、秋に咲き誇る「萩の花」に見立てたものといいます。では、「春の彼岸」の時は、何をお供えするのか?春は「ぼたもち」、牡丹餅と書く通り、牡丹の花に見立てた丸い形だそうです。幸せを呼ぶ赤い色の小豆(あずき)は、赤飯を代表するように祝い事には欠かせません。その小豆も、収穫したての外皮が柔らかいものは、そのまま「粒あん」となり「おはぎ」へと姿を変えます。ながらく時を過ごして乾燥した小豆は、漉すようにして「こしあん」となり「ぼやもち」へと。諸説はあるかと思いますが、ついつい「なるほど」と頷いてしまいます。

 その「秋のお彼岸」も終わりを迎えました。それと同時に終わりを迎えるものがあると古人は遺しています。七十二侯で区分けされた秋分初侯は「雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)」といい、春分末侯の「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」と、これまた対をなすかのように始まった、雷鳴轟かす時期が終了するというのです。もくもく入道雲にピカピカゴロゴロの光景は、夏の風物詩そのもの。そう、「雷」は「神鳴り」とも書き、人が抗することができない神の怒りの象徴「神業」といい、夏の季語になっています。しかし、その象徴ともいうべきイナズマは、なんと秋の季語です。なぜでしょうか?

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 イナズマは、漢字で書くと「稲妻」。古語の「妻」は夫と妻の共用、ということは、稲にとって欠かせない役割を担うもの。稲に実りを導く神の一手というのです。古人は、夏場は怒りの矛先が向かぬようひたに祈り、秋は豊作をいざなうために祈念する。ピカリと照らされた田は、見事に稲穂の頭を垂れるというのです。

 もちろん何の因果関係もありません。しかし、過酷な労働に加え、自然の気まぐれに翻弄されながらの農の営みは、何か目に見えるものに、実り多き収穫を約束してもらいたいと願うものなのではないでしょうか。それが神の成せる業の神鳴りへ向かい、出会いたくない畏怖の雷から、招き寄せたい感謝の稲妻へ。これがひとつのゲン担ぎとなり、迎える収穫という一大イベントを乗り越える力となり、来季への活力へとつながる。其処彼処で執り行われる「お祭り」は、五穀豊穣を神々に感謝するものであり、新嘗祭などの規模の大きさは、人々が不安の中で切に願うその気持ちの表れなのでしょう。

さあ、Benoitで秋の収穫祭を楽しみましょう。すべてに感謝の気持ちをこめて、「いただきます」と。

 

いつもながらの長文、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸をお祈りいたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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