kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit特選食材「南三陸志津川漁港より≪マサバ≫」のご案内です。

 地球の表面積のゆうに7割を占めるのが海。この海の恩恵によって人類は、その漁場による特色を生かした食文化が成り立っています。日本人には馴染みの「アジの開き」は、新潟県で育った自分などには全く持って馴染みのないもの。どこにでもありそうなのですが、大陸とはいえない島国の日本と言えど、やはり太平洋側と日本海側では、大いなる違いがあるのです。世界其処彼処に点在する漁場の中でも、やはり魚種が豊富な地域がある。その中でも群を抜いている、ノルウェー沖、カナダ・ニューファンドランド島沖のグランドバング、そして三陸金華山沖(きんかさんおき)が「世界三大漁場」と称されています。

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 この金華山沖とは、ちょうど宮城県の中間に位置する場所。石巻(いしのまき)から東へ進むと、太平洋へと突き出た牡鹿(おしか)半島に辿り着き、その半島の先端から西へ目をやると、ほんの700m先に緑深き大きな島、まるで海から聳える小高い山の様相。島全体が黄金山神社の神域であり、神職の方しか住んではいないようです。この沖合では、船乗りさんは「金華山沖〇〇m」と、自船の位置を表現するのだそうです。

 さあ、この沖合はいったい何がどうなっているのか?簡単に言うと、寒流暖流が真正面からぶつかり合う海域なのです。南からは暖流である「黒潮」、北からは千島海流(寒流)こと「親潮」が、金華山沖でぶつかり合い、押し合いへし合い東へと進路を変える海の難所。低海水温・低塩分であり、生育に欠かせない栄養塩類と溶存酸素量が多いことから、プランクトンに富んでいる。そのため、これを餌とする魚類にとっては、あまりある好環境は魚たちにとっての親のような潮。これが、親潮と呼ばれる所以のようです。イワシ・サンマ・カツオ・マグロなあどの回遊魚の好漁場なのです。そして、忘れてはいけない今回の特選食材は

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志津川漁港より南三陸のマサバ」

 この類稀(たぐいまれ)なる好漁場で育った一番有名なマサバは、「金華サバ」ではないでしょうか。これは、南三陸金華山沖で水揚げされ、石巻漁港で水揚げ、その中で基準を満たす大きさのもののみ名乗れます。「幻の金華サバ」などと言われますが、金華山沖が隔離されているわけでもなく、海はつながっております。そう、南三陸町志津川港で水揚げされたマサバも、負けず劣らず見事なマサバなのです。それもそのはず、漁場はお隣で、ほぼ同じです。一般的に岩手県沖を「北三陸」、宮城県沖を「南三陸」と呼んでいます。志津川漁港のある南三陸町は、まさにその中間地点に位置しています。

 

 自分が南三陸町に知り合いがいたわけではありません。日頃より並々ならぬご愛顧を賜っているお客様の一言が、この出会いを導いてくれたのです。「私の姪っ子が、インターンシップでお世話になった鮮魚店が南三陸にあるのですが」と。「ご迷惑でなければご紹介したいのですが…。」ご紹介いただいたのは、南三陸町に本店を置く「山内鮮魚店」さんです。

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 親潮黒潮のぶつかり合う狭間は、素人では予知できぬ潮の流れを生み出します。さらに、リアス式海岸という独特の地形が織り成す複雑怪奇な海流の動向とくる。「天気晴朗なれども波高し」と。この海流の流れに右往左往するのは素人の船乗りなのだろう。玄人は波を読む。海際まで山々がせり出すリアス式海岸は、その山々が育んだ山の養分に満ち満ちたものが流れ出ていることになる。この環境下の中で育て上げた海産物が美味しくないわけがない。その山々の養分に満ちた海水と親潮が出会う。この海域に生きとし生けるものは、エサに恵まれ、海流の早さによって鍛えられることで、他地域には見られない筋肉質は個体へと成長してゆくよかのよう。

 山内鮮魚店さんが皆様にお届けしたいものは、この恵まれてはいるものの、環境厳しいかなかで育まれた「確かな品質」である美味しさではない。漁師さんが命懸けで、飼育や捕獲した海産物を、皆様が口にした時の「感動」なのだといいます。数々ある逸材の中で、Benoitが白羽の矢が立てたのが「マサバ」でした。旬は9月から年明けの1月頃といいます。この時期は、豊富なエサのおかげで脂肪が身にしっかりとのるだけではなく、我々にとっての栄養価が満ち満ちているのだとか。さらに、海水温が低くなることで、身が引き締まり美味しさが格段に良くなるといいます。

 

 仕入れ担当の山内さんが、朝早くに港に赴き、鮮度抜群のマサバを競り落とし、すぐさま鮮魚店へ。エラとハラワタを取り除き、すぐさま梱包され、Benoitへと旅立ちます。見事なサイズに加え、パンパンな胴回り。捌いているキッチンスタッフは、「脂の乗りも素晴らしいですよ」と話しています。これほどの鮮度の良いものが手に入るのであれば、とシェフが考えたのが、生食でした!生食?

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 毎年話題になるのは、サバなどを生食することで起こる食中毒です。原因は「アニサキス」によるもの。もちろん、そんな危険なものをBenoitで皆様に供することはできません。では焼くのか?生とかいているが?ということなのです。この食中毒の対処方法は、60℃以上で1分以上加熱すること。と、もう一つ、-20℃で24時間以上凍らすこと。そう、Benoitでは後者の方法をとります。24時間以上凍らせた後に、旨味を逃がさぬようゆっくり解凍、営業直前に表面をバーナーで焙り香ばしさを加えた後に、すぐに冷やすことで中は生のまま。激しい海流にもまれにもまれ、さらに美味しいエサをたらふく食べた、南三陸のマサバの旨さ。これを損なうことの無いよう手間暇を惜しみません。

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ここにもうひとつの特選食材が登場です。熊本県オリジナル品種の極早生温州ミカン「豊福」です。豊後(ぶんご)という旧地名があるだけに、「ぶんぷく」と読み、日本昔話の「ぶんぷくちゃがま」に関係するのか?と面白いネタの得たと思いきや、よくよく考えると、豊後は大分県熊本県のキャラクターは「くまモン」、「分福茶釜」と書きました。このみかんの品種は「豊福(とよふく)」と読みます。今回の熊本県天草の栽培者は、ミカンが完熟に向かう前に、マルチと呼ばれるフィルムを樹の根元に張り巡らすようにし、摂水制限を行います。これにより、濃密なる甘みを内包するミカンに仕上がるのだといいます。確かにシェフも美味しい絶賛。では、このミカンがいったいどうなるのか?

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 「エスカベッシュ」という料理。スパッとした響きの心地よい名前の料理は、日本でいう南蛮漬けに似ています。ニンジン、タマネギ、セロリといった香味野菜と共に甘酸っぱいスープに漬け込むように仕上げます。しかし、脂がのりにのったマサバを焼いてしまうなどもったいない話であり、旨味を打ち消してしまうような甘酸っぱさなど言語道断。

 そこで、旬の食材を使って、冬らしい逸品に仕上げようと。サバとの相性が抜群の香味野菜の風味はソースとして生かしつつ、少しばかりにヴィネガーに心地良い柑橘の甘さとほろ苦さをアクセントに加える。そう、前述した熊本県のみかん「豊福」が、ここに登場します。厚めにカットしたマサバの切身に、このソースを絡めるように。青魚特有の臭みなどどこ吹く風、香味野菜以上に、ミカンの風味がマサバの美味しさを一層引き立てるのです。日本の南北を代表する旬の食材が、Benoitで一堂に会し、冬ならではの味覚を我々に教えてくれる。これほどまでに、生の「南三陸のマサバ」が美味しいものかと、驚きを隠せない逸品に仕上がるのです。

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MAQUEREAU en escabèche

三陸産マサバのエスカベッシュ

 

 鮮度抜群の南三陸の旬のマサバ、生でいただけるこの美味しさは、一食の価値あり。ディナーのプリ・フィックスメニューで、前菜の選択肢に入っています。ランチでご希望の方は、ご予約の際にお伝えいただけると幸いです。

 ここまでご案内をしておきながら、昨今の温暖化の影響なのか、海の中が荒れています。すでにサンマの不漁はご存知のことと思いますが、マサバも例外ではございません。水揚げのある際に南三陸町山内鮮魚店さんより直送をお願いいたしますが、お約束できない状況です。豊洲市場の力を借りて、日本全国津々浦々より「マサバ」を購入し、皆様にマサバの美味しさをお楽しみいただこうと考えております。

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 南三陸のマサバの美味しさを、どうしても皆様にお楽しみいただきたい!南三陸の漁獲量が回復するかどうかは、海の神々に祈るしかありません。皆様のご期待にお応えできない日があるかと思いますが、なにゆえ自然のこと、ご容赦のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com