kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit特選情報「12月のダイジェスト版」のご案内です。

 「雑木林(ぞうきばやし)」とは、落葉広葉樹で構成された人が作り上げた林のことです。整備された庭園とは違い、樹は薪(まき)や炭としての原材料となり、落ち葉は農産物の肥料として堆肥へと活用されるばかりか、降り積もることで、豊かな土壌を形成することになります。江戸時代に、一面のススキ原に植樹して作り上げたのが「武蔵野の雑木林」。江戸っ子にとっては、生活するうえで欠かすことのできない資源だったことでしょう。

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 其処彼処で目にする雑木林。今年はゆっくりと黄葉・紅葉が進んでいるようで、12月にいたってなお美しい姿を我々に披露してくれています。生地を染色する際、染料に浸すことを「一入(ひとしお)」といい、これを幾度となく繰り返すことで色の濃淡を表現します。紅葉の時期の雨は、「八入(やしお)の雨」といい、雨が一入一入と樹々を色付かせてゆくのだと。最近の雨続きこそ、「八入の雨」だったのでしょうか。近くの雑木林のケヤキが美しい粧いへと姿を変えていました。

 かつては、農作業の目安は、草木の芽吹きやら花開く時期、小動物や鳥たちの鳴き声や行動パターン、遠く望める山々の冠雪の有無など、自然に教わるものでした。今でも十分に活用でき、気象庁の定める「生物規則観測」などは興味深いものです。通勤途中や散歩などの外出中に、人々の喧騒にもまれる中で、ふっと息つくひとときに、耳に入ってくる「初音(はつね)」には、感慨深いものがあります。しかし、暦を手に入れた人類は、この暦に支配されてしまうことになりました。スケジュールに支配される息苦しさは皆様も感じているのではないですか。ただ、暦は人類史上の大発見であり、どれほど日々の生活に欠かせないものであるか。これは今も昔も変わりはありません。

 

花すすき あすは冬野に たてりとも けふはながめむ 秋の形見に  源顕仲(あきなか)

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 暦の上では、11月7日に「立冬」を迎え、冬が始まりました。旧暦との誤差はあるものの、源顕仲は「立冬」の前日「節分」に詠んだのでしょうか。「日」が変わることで「季節」が変わる。「花すすきよ、明日から季節が変わり冬野に立つことになる。今日の秋の姿を瞼(まぶた)にしっかりと焼き付けることにしよう。秋の形見として」。ススキのとっては、日増しに寒くなる「一年の中のただの一日」。しかし、我々にとっては、「秋最後の一日」。暦があればこそ生まれたものであり、この自然と暦との微々たる差を捉えることのできる詠者の美的感覚は、今に至っても十分に深々と感じ入ることができます。四季折々の美しさを誇る日本だからこそ育まれたこの感覚を大切にしなさい。そして、一日とて無駄な日はない。そのようなメッセージが込められている気がいたします。

 秋の七草に含まれている「尾花」とは、ススキの別称です。稲穂に姿が似ていることから、月見の場や五穀豊穣を神々に感謝する秋の祭りには欠かすことのできない花。例年であれば、11月中旬ごろにはススキの花穂が開き、ホワホワとした姿を見せてくれます。しかし、今年は暖かかったからなのでしょうか、今まさにその盛り。そして、ススキは枯れてゆく。枯れてなお、季語として名を残すのがススキ。源顕仲が目にしたのは、このような姿だったのでしょうか、「枯れ尾花」。

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 綿々と繰り返される自然のサイクルは、その年ごとに何かしらの変化をもたらすことになり、我々はその機微に一喜一憂するものです。四季折々の機微なる移ろいは、自然が草木へと語りかけながら決めていることであり、我々が勝手にカレンダーなるものにあてはめること自体がおこがましいのでしょう。旬の食材もまた然(しか)り。やっと冬の食材が姿を見せ始めました。

 秋が我々をそ知らぬ顔で過ぎ去り、冬本番を迎えようとしています。降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出すのです。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に冬食材が「和」する逸品に出会い、食することで無事息災に年末を迎えていただきたい。この想いを込め、Benoit12月のお勧め情報をお送りさせていただきます。

 

Benoitで牡蠣?メニューに初登場です

 この時を、どれほど待ち焦がれたことか。皆様の中にも、どうしてBenoitでは「牡蠣(かき)料理」が供されないのか、疑問に思ったことはないでしょうか。フランスでは、大西洋沿岸では、日本以上に馴染みの食材かもしれません。そして、家族皆が揃うクリスマスでは、お父さんが生ガキを剥くのが恒例の行事のようになっていると聞きます。それほどの食材が、なぜBenoit東京に登場しなかったのか?これには深い深い理由があったのです。

 Benoitシェフ野口と自分は、思いのほかBenoit勤務が長く、かれこれ十数年となりました。何がどうしてなのか想い出すこともできないほど過去のことですが、「アラン・デュカスグループでは牡蠣(以下「カキ」と書かせていただきます。)の使用が禁止されている」と耳にしていたのです。二人ともです。Benoit東京のメニューは、日本からフランス本部のエグゼクティブシェフへメニューのレシピを打診し、了承を得たものが、アラン・デュカスの下に届き承認を得ます。そのため、敢えて禁止と知りえる食材を提案することはしません。もちろん、自分もシェフに提案しません。4~5年前のイベントでカキを使用したものが最初で最後でした、今までは。イベントだからと許可が下りたのだと。

 これが、まったくの誤解であると知ったのは、11月のことです。12月の特選料理を考える中で、ふつふつと沸き起こるカキ料理への想い。シェフも同感の中で、いっそこの想いをフランスへぶつけてみようと。返答は、なんの支障もなく「OK」だったのです。何も禁止されていたのではなく、我々が禁止だと思い込んでいただけだったのです。なんということか!深い深い理由などではなく、なんと浅はかな理由だったのか。今までの10年は何だったのか!と。この失態を省み、12月に、Benoitのプリ・フィックスメニューに、念願のカキ料理が登場したのです。

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 カキは豊洲市場に届いた鮮度抜群のものを剥きます。そのため、産地は大きく分けて2か所から。カキ養殖激戦区である瀬戸内海の広島県と、東北のリアス式海岸が特徴の岩手県です。甲乙つけがたい美味しさを共に誇りますが、比較的多くBenoitに届くのは、岩手県のようです。山が海沿いにまでそそり立つリアス式海岸は、山のミネラル豊富な清らかな水が、海へ流れ込み、豊富な植物性プランクトンを育みます。そのプランクトンを食(は)む食(は)むしているカキが、美味しくないわけがありません。瀬戸内海の穏やかな海流が、牡蠣筏による養殖に適しているように、規模こそ小さいですがリアス式海岸の湾もまた然り。

 カキは殻から剥き、しんなりと甘さを引き立てるように熱を加えたポロ葱を、殻中に敷くようにのせます。生のカキ身をポロ葱の上にのせ、シャンパーニュを降り注ぎ、サバイヨンという卵黄を使ったクリームのソースをかぶせるように。そして、オーブンへ。卵の入ったサバイヨンが、焼き色がつくことで、まるで蓋のように。この中では、前述した「ふつふつと沸き起こるカキへの想い」が反映したかのように、シャンパーニュによってふつふつとカキが蒸しあげられてゆくのです。さらに、このサバイヨンの蓋がカキの旨味のスープを逃がしません。テーブルに供された時、芳しい香に魅せられ、口にした時には言葉を失うでしょう。生ガキも良いですが、フランスの伝統が生み出した「カキのグラタン」こそ、カキの美味しさを最大限に引き出す逸品かもしれません。シャンパーニュや白ワインが呼んでいます。

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HUÎTRES gratinées au sabayon de Champagne

殻付き牡蠣のグラタン シャンパーニュ

プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+1,000円、ディナーでは+800円にてお選びいただけます。しかし、入荷に限りがあるため、ご予約の際にご希望の数量をお伝えいただけると幸いです。

 

 

宮城県志津川港より「南三陸産マサバ」が届いています。

 世界其処彼処に点在する漁場の中でも、やはり魚種が豊富な地域がある。その中でも群を抜いている、ノルウェー沖、カナダ・ニューファンドランド島沖のグランドバング、そして三陸金華山沖(きんかさんおき)が「世界三大漁場」と称されています。この金華山沖は、イワシ・サンマ・カツオ・マグロなあどの回遊魚の好漁場。この海域で育まれた今回の特選食材が

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志津川漁港より南三陸のマサバ」

いったいどれほどの特選食材なのか?どのような料理に仕上がるのか?「はてなブログ」に詳細を記載しております。お時間のある時に以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。

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 この特選食材を「エスカベッシュ」という料理に仕上げます。スパッとした響きの心地よい名前の料理は、日本でいう南蛮漬けに似ています。ニンジン、タマネギ、セロリといった香味野菜と共に甘酸っぱいスープに漬け込むように仕上げます。しかし、脂がのりにのったマサバを焼いてしまうなどもったいない話であり、旨味を打ち消してしまうような甘酸っぱさなど言語道断。

 そこで、旬の食材を使って、冬らしい逸品に仕上げようと。サバとの相性が抜群の香味野菜の風味はソースとして生かしつつ、少しばかりにヴィネガーに心地良い柑橘の甘さとほろ苦さをアクセントに加える。そう、前述した熊本県のみかん「豊福」が、ここに登場します。厚めにカットしたマサバの切身に、このソースを絡めるように。青魚特有の臭みなどどこ吹く風、香味野菜以上に、ミカンの風味がマサバの美味しさを一層引き立てるのです。日本の南北を代表する旬の食材が、Benoitで一堂に会し、冬ならではの味覚を我々に教えてくれる。これほどまでに、生の「南三陸のマサバ」が美味しいものかと、驚きを隠せない逸品に仕上がるのです。

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MAQUEREAU en escabèche

三陸産マサバのエスカベッシュ

  鮮度抜群の南三陸の旬のマサバ、生でいただけるこの美味しさは、一食の価値あり。ディナーのプリ・フィックスメニューで、前菜の選択肢に入っています。ランチでご希望の方は、ご予約の際にお伝えいただけると幸いです。

 ここまでご案内をしておきながら、昨今の温暖化の影響なのか、海の中が荒れています。すでにサンマの不漁はご存知のことと思いますが、マサバも例外ではございません。水揚げのある際に南三陸町山内鮮魚店さんより直送をお願いいたしますが、ご用意できない場合もございます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

 

福井県六条大麦」と冬野菜がCookpotで出会います。≫

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 自然食品への回帰が叫ばれている昨今にあり、食文化を築き上げているフランスももちろん例外ではありません。フランスのアラン・デュカスグループのレストランでも「スペルト小麦」や「キヌア」などの食材が多用されています。もちろん、Benoitも例外ではありません。四季折々の食材が豊かな日本での食材探しが始まったのです。「国産」へのこだわりは、この「六条大麦」との出会いを導いてくれました。この特選食材の生産量日本一を誇るのが、福井県。そこで、その主産地である福井県の「大麦倶楽部」さんよりBenoitへ直送いただいております。

 麦茶はもちろん、白米とともに炊き上げ食感と栄養を補う役割を担う「六条大麦」。もちろん、ビールや焼酎の原料となる「二条大麦」とは別品種です。二条種は穂を実らせたときの粒の配列が「2列」、ということは六条種は「6列」。六条大麦は二条種よりも小ぶりで、丸粒のプチプチとした食感は病みつきになりそうです。さらに、食物繊維を含めた栄養価も抜群であり、「グルテン」を含まないことも特筆すべきでしょう。

 この六条大麦は、生姜やマスタードシードとともに、野菜のブイヨンで炊き上げるように途中まで仕上げ、Cookpotの器に盛り付けます。冬ならではの根菜を、その特有の旨味を引き出すように熱を加え盛り付け、オーブンへ。さらに紫ケールの厚みのある葉野菜の食感と美味しさを。からし菜を、コリアンダーやカルダモンとともに、野菜のブイヨンで煮詰めていったものを、ソースとして注ぎかける。それぞれの野菜の旨味が一堂に会する中で、少しばかりスパイシーなソースが食材を引き立て、我々の食欲を駆り立てるかのよう。

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COOKPOT d'orge et légumes de saison, condiment de feuilles de moutarde

“クックポット” 大麦と野菜 からし菜風味

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+1,000円、ディナーでは+800円にてお選びいただけます。

 

Benoit伝統の逸品、「Notre PÂTÉ EN CROÛTE (パテ・アン・クルート)」が復活です。

 「Benoit Paris」が、フランスで開業したのが107年前のこと。時代に翻弄されながらも、いまだ老舗の雰囲気と味わいは健在です。同じ名を冠する「Benoit東京」の歴史はまだまだ足元には及ばないものの、味への訴求に妥協はありません。本家のパリBenoitに習い、フランスの伝統を昇華させることを日々心掛けております。

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 待望の「Notre PÂTÉ EN CROÛTE (パテ・アン・クルート)」が復活いたしました。鶏・鴨・豚・仔牛肉、豚の背油、フォアグラにトランペット・ドゥ・ラ・モー(きのこ)を、食味良く丁寧に合わせ、生地で包んでゆっくりと焼き上げたものです。それぞれの奏でる味わいを、曖昧にならないよう心明けることで、口に運ばれるパテの場所場所によって、表情を変えていきます。さらに、熱を加えることで肉よりしみ出でる旨みの肉汁を、生地が逃さないよう包み込む。これぞ、パテ・エン・クルートの最大の特徴でしょう。

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチ+1,000円、ディナー800円にてお選びいただけます。

 

香川県小豆島の「島鱧」が美味なり。

 

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 香川県小豆島(しょうどしま)。穏やかで温暖な瀬戸内海に浮かぶ県下最大の島です。オリーブ栽培で有名な地ですが、島だけに海産物も豊富。一見穏やかに見える瀬戸内海ですが、小豆島近海は海流が早い。そして、ここはエビ類カニ類が多く生息する海域でもある。ということは、この小豆島近海のハモは、筋肉質で実が締まり、美味しいエビ・カニをたらふく食すことで、ハモ自らが旨味をもつことになるのです。そのハモがBenoitに届いています。

 島鱧(しまはも)とは、どのようなものか?「はてなブログ」に詳細を記載しております。お時間のある時に以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。

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 美味しい島鱧を、Benoitのシェフはどうするか?もちろん、フランスではお目にかからないハモは、シェフのセバスチャンにとって初めてのこと。焼いたり煮たりと試行錯誤の末、ふっと脳裏に浮かぶフランス伝統の逸品、「リヨンのクネル」だ!フランスでは淡水に棲むカワカマスを使用します。我々には馴染みのないこの魚は、小骨が多く、取り除こうとは微塵にも考えたくないもの。そこで、フランス人は考えたのです、「骨ごとミンチにしよう」と。そして、リヨンが内陸の地ゆえにエビはいない。では、代わりにザリガニで濃厚なソースに仕上げ、カワカマスと合わせようとなるわけです。この発想と同じく、小骨の多いハモは、ミンチにし、団子に姿を変えます。しかし、味わいは雲泥の差ほどにハモが勝る。そこで、海には海のエビでソースを仕上げようと。誕生!「島鱧のクネルBenoit風」です。

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QUENELLES à la lyonnaise, bisque légère

香川県小豆島産 “島鱧"のクネル リヨン風

 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+1,000円、ディナーでは+800円にてお選びいただけます。

 

郡上明宝牧場“クラシックポーク”、今度はロース肉でディナーに。

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 岐阜市から清流長良川を上流へと上がった先に、山間(やまあい)から突如姿を現す古京都を思わせるような街並み、これぞ奥美濃の小京都と称される「郡上八幡(ぐじょうはちまん)」です。県のほぼ中央、飛騨高地の南側に位置し、山々より湧きいずる美しきせせらぎが落ち合い長良川へ。郡上市のほぼ全域が長良川流域ということもあり、この豊富な水資源は、水路として街並みに引き込まれ、「水の町」としての名声は今でも健在です。

 この郡上市の片隅に、明宝牧場の広大な地が広がっています。澄んだ清らかな水と空気という、この類稀なる自然環境中で、さらにモーツアルトを聴きながら、ストレスなく健やかに育った「クラシックポーク」が特選食材です。最初にBenoitに届いたバラ肉が、あまりの美味しさに、シェフを始めスタッフ一同が絶賛。脂と肉のバランスが良く、特に脂の美味しさは「甘く澄んだ美しさ」です。そこで、今度は「ロース肉」の登場です。

この「郡上クラシックポーク」どれほどの特選食材であるか、詳細を「はてなブログ」記載しております。お時間のある時に以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。

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 生では食すことのできない豚肉でありながら、焼き過ぎると固くなり、美味しさも逃げてしまう。なかなかに気難しい食材でもあります。今回は、ゆっくりと時間をかけながら低温で焼き上げることで、噛むほどにジュワっとくる豚ロース本体の旨味をお楽しみいただきます。トリミングすることで余計な脂や筋は取り除き、残した脂身には、仕上げにディジョンマスタードを少々。さらには、ソースにはピクルスを加えることで、豚の旨味の凝縮した甘さえ感じるソースに心地よい酸味と食感を加えます。

Longe de COCHON finement panée, sauce charcutière

岐阜県郡上の“クラシックポーク" ロース肉の香味焼き シャリュキトリーソース

 プリ・フィックスメニューのディナーのみ、肉料理の選択肢としてお選びいただけます。ランチでのご希望は、ご予約の際にお伝えいただけると幸いです。

 

岐阜県奥美濃古地鶏」とフォアグラのマリアージュが登場です。

 昔も昔の物語。天照大神を岩戸の中に身を隠し、世は闇の中へ。これは一大事と多くの神々が天照大神を岩戸から引き出すために、試行錯誤した様子が古事記に書き記されています。その時に、肌もあらわに踊った天宇受賣命(あまのうずめりみこと)は、芸能の神様として飛騨市河合町の鈿女(うずめ)神社に祀られています。その鳥居の下には「金の鶏」が埋められた。この鶏は天照大神を自ら「天の岩戸」を開けさせるため、気を引くために鳴かせたという「常世の長鳴鳥」だと。そして、この鶏こそ「岐阜地鶏(天然記念物)」の祖先であるという。岐阜県養鶏試験場が、この「岐阜地鶏」をもとに、「神代の味」の再現しようと研究を重ね、並々ならぬ努力の末に生み出したのが、「奥美濃古地鶏(おくみのこじどり)」です。

 雄大大自然のなかで、のびのびと育てあげられる奥美濃古地鶏。すべての生産者の鶏が、この名を名乗れるわけではありません。岐阜県では奥美濃古地鶏普及推進協議会を発足し、厳しい基準を順守する生産者のみに与えられるもので、定期的に調査を行うことで品質の維持に努めています。この徹底した管理のもとで育てられた鶏肉は、ほんのり赤みを帯びた歯ごたえのある肉質を生み出し、深みのある旨味に満ち満ちています。

 今回は、奥美濃古地鶏の美味しさを十二分にお楽しみいただきたく、胸肉のみを使います。ぱさぱさになりがちなこの部位は、実は火加減さえ間違えなければ、鶏肉本来の美味しさが満ち満ちているのです。しっとりとした食感と、旨味を引き出すために、時間をかけながら低温で調理をしていきます。ここへ、スペインの港町の名を冠する「アルビュフェラ」というソースを絡めるのです。調べると、多くのレシピが登場します。しかし、一味も二味も異なる美味なるソースを、Benoitシェフ野口が仕上げました。ブランデーとマディラ酒で香りとコクを加え、そこへフォアグラを潰しこんだ、口当たり滑らかなソースを鶏胸肉に絡めるのです。

 「昔、アラン・デュカスのレストランで食べたアルビュフェラが、あまりにも美味しくて…」と語る野口が、皆様に提案する冬らしい美味なる逸品です。鶏肉の持つ、美味しさを損なうことなくしっとりと仕上げたこの逸品は、「神代の味」を十二分にお楽しみいただけるはずです。時代を超えた神々の世界へ皆様を誘(いざな)うでしょう。

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VOLAILLE de Gifu, légumes en beaux morceaux, sauce Albuféra

奥美濃古地鶏" 胸肉と冬野菜 フォアグラのアルビュフェラソース

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+1,500円、ディナーでは+1,000円にてお選びいただけます。購入できる数量に限りがございます。ご予約の際に、ご希望数をお伝えいただけると幸いです。ご不便をおかけいたしますが、特選食材ゆえにご理解のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

 

岐阜県の栗の名店“恵那川上屋さんの和栗”、Benoitへ、2019年版モン・ブランへと姿を変えます。

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 毎年姿を変えるBenoitの栗デザート「モン・ブラン」。2019年はどうなるのか?和栗の収穫を待ち続けてしまったがために、全ての食材がBenoitに集結したのは9月30日、まさに直前だったのです。その2019年版Benoitモン・ブランは、いったいどのように仕上がるのか?今回はBenoitパティシエール田中真理と、アジアを統括するパティシエであるジュリアンのニュアンスが加味されました。ジュリアンはアルザス出身、彼の地は栗デザートです。モン・ブラン発祥の伝統の地でもあるのです。彼の中でイメージしてきたのは、アルザスの伝統的なスタイル「Torche de Marron(トルシュ・ドゥ・マロン)」でした。トルシュとはトーチのことで、トーチの先に輝かんばかりに揺らめいている炎の模した姿のデザートということです。

 昨年に引き続き、岐阜県恵那市の「恵那川上屋」さんより、和栗を炊きほぐしていただいた栗のペーストを送っていただきます。55年間もの間、栗に向き合ってきた彼らの慧眼は本物です。昔から、「東山道」「中山道」の宿場町として、栗を旅人に振舞ってきた「栗菓子の技」。これを綿々と引き継ぎ今なお輝きを放つ栗菓子の逸品。フランスの洋栗と和栗が、Benoitで出会います。恵那川上屋さんのお話は、「はてなブログ」に詳細を記載しております。お時間のある時に以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。

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 「栗きんとんそのままが美味しいのでは?」と皆様はお思いかもしれません。素材が美味しい上に、匠の技の為せる逸品であり、間違いはありません。しかし、そこのフランスのエッセンスが加味されたとき、和のお菓子とは、一味も二味も違った美味しさを我々に魅せてくれるはずです。2019年のBenoitのモン・ブランは?トルシュの姿だけお披露目いたします。皆様、気になりませんか。

 プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+1,000円にてお選びいただけます。

 

広島県大崎上島の岩﨑農園さんから「瀬戸内レモン」」が届きました。

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 広島県、瀬戸内海に浮かぶ離島「大崎上島(おおさきかみじま)」。サンサンと降り注ぐ陽光に温暖な気候という恵まれた環境の中、飽くなき探求心と努力を積み重ね、類まれなる品質のレモンを育て上げているのが、岩﨑さんご一家です。陽射しばかりでなく、愛情もたっぷり受けて育ったレモンは、まろやかな酸味が特徴で、そのまま食すると皮のほろ苦さと相まって、なんと美味しいことか。すっぱさに顔をしかめる必要はありません。さらに、摘んだそのままを届けていただくため、表皮のワックスを取り除く必要もありません。まだ時期が早いために少々緑色ですが、これからゆっくりと美しい輝かんばかりの黄色に変わっていきます。レモン同士をこすった時に、透きとおった爽やかな香りが放たれる。そのまま目を閉じると、遠く潮騒(しおさい)が耳に届き、レモン畑から一望できる瀬戸内海に浮かぶ島々の美しさが脳裏に浮かぶ。

 さて、自分がBenoitで仕事を始めてこのかた、実は一度として「スフレ」を皆様にお勧めしたことがありません。理由は簡単なもので、一口二口は美味しいと思うも、食感変わらず味わいの変化もなく、飽きてしまうからです。「スフレ」という魅惑的な名前も、毎度の如く色褪せてゆくのです。しかし、今期は違いました。自分の中でお勧めすべきでデザートへとBenoitシェフパティシエールの田中が仕上げてきたのです。その大きな要因が、今回の特選食材「瀬戸内レモン」だったのです。

 ビスキュイ・ジョコンドという、通常はたっぷりのアーモンドを使うビスキュイ生地を、今回はたっぷりのヘーゼルナッツで焼き上げます。このしっとりと香ばしいビスキュイを器の底におき、瀬戸内レモンもマルムラード、その上にはヘーゼルナッツを加えたスフレ生地。そして、オーブンへ。これほどまで、ヘーゼルナッツを加えることは、風味が濃くなり飽きやすくなる。しかし、ジョコンドとレモンのマルムラードの食感の違いに加え、心地良いレモンの酸味とほろ苦さが、一口一口に違いをもたらし、この絶妙なバランスは飽きがくることなく、ぺろりと一つを完食してしまう。

 「寒くなってきたから、熱々のスフレ。」ではない、「岩﨑さんの瀬戸内レモンを待っていたから、お勧めのスフレ。」なのです。

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Soufflé aux NOISETTES

ヘーゼルナッツのスフレ

プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+500円にてお選びいただけます。

 

岐阜県関市の「上之保ゆず」」が届きました。

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 岐阜県関市の上之保(かみのほ)。ここは長良川の支流、津保川の最上流部に位置し、総面積の実に89%が山林で占められた自然豊かな地です。この類稀なる環境は、柑橘栽培に適しており、昔からゆずが庭先に植えられていたようで、今でも県下一のゆず生産量を誇ります。この地で、ゆずを特産にしようと栽培に取り組んでいる一人の男性と、ひょんな機会に出会いました。上之保ゆず㈱の波多野政廣さんです。

 上之保という恵まれた自然環境を活かした、無農薬栽培を頑なに守り続け、もちろん仕上げの表皮へのワックスなどは皆無。お会いした当初は、ゆずはBenoitで購入するのは難しいかな、との思いでした。数か月も経たないうちに、Benoitパティシエから、「ゆずを探してほしい」と伝えられたのです。運命なのでしょう、出会うべくして出会ったのです。すぐに連絡すると二つ返事で「お送りします」と。

 見事なまでの美しく、芳しい香りを放つ上之保のゆず。もちろん、ゆず特有の酸味はあるものの、他地域よりも柑橘の甘みがある気がします。これほどの逸品を手にし、Benoitパティシエチームが「Non」というわけがありません。購入を即決した上に、すぐに試作に取り掛かったのです。12月9日からメニューに名を連ねました。

Coupe AGRUMES, granitéCampari

柑橘のクープ カンパリのグラニ

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 表記のどこにも「ゆず」が入らない、その理由は「上之保ゆず」だけで仕上げたソルベの試作を待っていたために、メニュー表記が間に合わなかったのです。柑橘特有の果汁の美味しさ、心地良い酸味を生かした、今回のソルベの美味しさは筆舌に尽くしがたく、ぜひ皆様にお楽しみいただきたいもの。この圧倒的な存在感を放つ「ゆず」に、旬を追いかけるかのように、西日本から柑橘がBenoitの続々届くことになっています。ライバルは何か?随時Facebookinstagramを通してご案内させていただきます。

 プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+800円にてお選びいただけます。余談ですが、今回の「上之保ゆず」が、あまりにも美味しかったために、「クリスマスの特別チョコレートデザート」に採用されようとしています!一足先に美味しくいただいてしまいました。後はフランスからの返事待ちという今日この頃、待ち遠しや…

 

 

 雑木林を形成する重要な樹々である、コナラとクヌギ、さらにはミズナラを総称して、古人は「柞(ははそ)」と総称しています。この3種はブナ科に属し、その果実は「ドングリ」です。ドングリが、小動物の糧となり、それを捕食する自然の生態系の根幹をなす。生い茂っていた緑濃かった葉は、黄葉へと姿を変える。雨の一入が葉一枚一枚の緑色を落とすかのように。そして、役割を終え落葉する。堆積した大量の葉は、微生物にとっての快適な生活環境となり、肥沃な大地へと姿を変えてゆきます。

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 川が増水することで、種であるドングリが下流へと流されていったことでしょう。そして、そのドングリが芽を出すことで、下流域に新たな柞林が形成されてゆくことになります。今でこそ馴染み深い「柞」ですが、古人とってはこの「柞」の色の移ろいこそ黄葉だったのでしょう。晩秋から初冬にかけて、「あわれなり」と歌人たちの心を魅了して止まなかったようです。

散らすなよ 老木(おいき)の柞(ははそ) いまひとめ あひ見むまでの露の秋風  正徹(しょうてつ)

この秀歌は、自分に反省を施し、大切なことを教えてくれました。詳細は「はてなブログ」に書いております。お時間のある時に、ご訪問いただけると幸いです。

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 冬は時雨から始まる。少々暖かい気がいたしますが、冬の様相を見せ始めたようです。皆様、無理は禁物、十分な休息と睡眠をお心がけください。インフルエンザ予防接種もお忘れなきように。いつもながらの長文、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸をお祈りいたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com