kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

令和元年「年末のご挨拶」 Benoit北平

 令和元年、皆様より並々ならご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。本年「己亥(つちのとい)」は、時世の勢いが人世を後押しする力強い年だったような気がいたします。人世もまた成熟の極みに達したことで、時世の波をとらえた皆様は、今までの努力が人世の成果として現れたのではないでしょうか。こと自分に至っては、皆様のご期待にお応えすることも、ままならず。時世に荒波の中に何の準備もせずに飛び込み、溺れはしなかったものの、もがき苦しみ右往左往とした不甲斐なさ。至らぬことばかり、おおいに反省しております。

 令和二年では、心機一転、皆様から大切なひと時をお預かりしているという気持ちを心に刻み、さらに皆様がBenoitで「口福な食事」を過ごすことができるよう、そして皆様のご期待に応えることのできるよう、日々研鑽に励みます。変わらぬご愛顧のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 Benoitは、新年1月1日から3日までお休みさせていただき、万全の準備を持って4日より皆様をお迎えいたします。変則的な営業時間となるため、詳細は以下に記載させていただきます。4日と5日の両日は、フランスでの新年恒例の焼き菓子「ガレット・デ・ロワ」がデザートの選択肢に登場する予定です。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなく返信ください。

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2020年

ランチ

ディナー

1月4日

12:00~16:00 (15:00ラストオーダー)

17:00~22:00 (20:00ラストオーダー)

1月5日

12:00~17:00 (16:00ラストオーダー)

営業いたしません。

6日以降

通常通りの営業

通常通りの営業

※市場がまだ動きださないため、4日と5日は限定した料理の選択肢であることをご了承ください。6日から、いつものプリ・フィックスメニューをご用意させていただきます。

 

晴れくもる しぐれを冬と かくばかり 定めなき世に たれ定めけん  正徹(しょうてつ)

 詠者は室町時代中期に活躍した歌僧です。室町時代には北山文化から東山文化へと続き、素晴らしい文化芸能が花開いたようです。狩野派による室町水墨画観阿弥世阿弥によって能が大成された時代でもあります。しかし、この華やかさの反面、政治は混乱を極めていました。室町将軍の権威失墜が大きく、1438年(永享10年)に関東で勃発した永享(えいきょう)の乱を皮切りに、落ち着いたかと思った関東で再び内乱が。1454年(享徳3年)から約30年もの長きにわたり「享徳(きょうとく)の乱」が。さらに近畿地方を含む西日本では、将軍の後継者争いをきっかけに、1476年(応仁元年)に「応仁(おうにん)の乱」が勃発しました。この政治の不安定さが下克上を生み出し、世は群雄割拠の戦国時代へと導かれることになるのです。

 正徹は、永享・享徳の乱を耳目に触れ、室町幕府の凋落(ちょうらく)を目の当たりにしたことで、「晴れくもる」不安定な憂世(うきよ)に憂悶(ゆうもん)していたのでしょうか。

 乱世とは、何が正しく何が間違いなのかが分からなくなる混沌なる様、まさに「定めなき世」となる。刻々と過ぎ去ると時の流れの中で、陽が昇り陽が沈む。綿々と繰り返してきたこの流れは変わらないものの、陽の昇る高さが変わることで、気温に違いが生まれ、多様な気象条件を生み出しました。そして、これに呼応するかのように、樹々の移ろいや鳥たちのさえずりなど、生きとし生けるものが動き出す。

 古人は、「季節」という感覚が生まれたのでしょう。これを4つに区分するも、天体の動きが解明されていない時代にあっては、「冬は時雨(しぐれ)から始まる」と、誰かが決めていてくれたおかげで、ただ「寒い日」ではない、冬の到来を感じ取れる。「ありがとう、これで冬(乱世)を乗り切る心構えをもつことができましたよ。」そう正徹は詠ったのでしょう。

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 師走も終わりを迎えようとしております。地球が太陽の周りを1周する、その区切りとして定められた1年の終わりの日が、12月31日。陽が西の稜線に姿を消し、静まり返る闇夜に迎える1月1日午前零時に新年を迎えるも、やはり、陽が顔をのぞかせた時に「新年を迎えた」という実感がわくものです。生きとし生けるものに欠かせない「陽の光」、もちろん我々にとっても。皮膚に太陽が当たらないとビタミンDが形成されないなどと言われますが、それ以上に「心に与える影響」が大きいのではないでしょうか。世界各国に太陽信仰が存在するということが如実に物語っています。

 誰がこの日を「1年の節目」と決めたのでしょうか。「冬至」でも良かった気がいたします。しかし、古人は何かしらの理由をもって、去年今年(こぞことし)という区切りを作りました。1年を振り返ってみると、良きことも悪しきこともあったかと思います。今年1年の反省をもとに、新年を新たな気持ちで迎えることができる。更なる高みへと自分を導く階段の一段なのでしょう。誰が決めたのか分かりませんが、1年の節目があることで、世相に翻弄されることなく、人生の芯となる心構えを再構築することができる。定めなき時世の波を乗り切るためには、挫けない心の強さが必要不可欠であることを、正徹は教えてくれている。

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 古人は、冬に陽射しが降り注ぐ日を、恋しいからでしょう「愛日(あいじつ)」と呼んでいます。春秋左氏伝の「冬の日は愛すべし」からできた言葉のようです。冬は太陽が天高くまで昇らず、陽射しが低い角度で部屋の奥まで差し込むため、寒々しい中に暖かい「陽だまり」ができています。屋外でも、日当たりの良いところでは陽だまりが。まだまだ、今年にやり残したことがあるかと思いますが、ここはひとつ節目をつけ、「日向ぼっこ」で太陽の恩恵を十二分に享受いたしませんか。陽だまりでほっこりと温まるひとときは、何か心まで満たされる気になってしまいます。今年一年の自らを省みる時、暗闇よりも「陽だまり」のほうが、何か明るい未来を見出すことができる。さらに、愛日には「時を惜しむ」や「親に孝行する日々」という意味もあるようです。「陽だまり」の代わりに、「家族の絆」が心の拠り所となり、時世の波を乗り切る活力となるのでしょう。

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 「冬日(ふゆび)」は一日の最低気温が0℃未満の日。「真冬日」は最高気温が0℃未満の日のこと。天気予報での言葉の変化に注意し、日々お過ごしください。まもなく「庚子(かのえね)」の年が幕開けいたします。「難を転じる」、ナンテンの実をもって、今年最後のご挨拶とさせていただきます。

皆様が無事息災に新年を迎えることができるよう、お祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com