kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

宮崎県綾町の「日向夏」のご紹介です。

「旬の食材には、今我々が欲している栄養価が満ち満ちています。」

 とは、自分の口癖のようなもの。春野菜には、ほろ苦さがつきもので、これは冬の間に眠っていた体を目覚めさせるためだと。対して秋野菜は、これから迎える冬ごもりへ向け、栄養価の高いものが多いといいます。旬の食材は美味しいばかりではありません。

 いつもであれば、ここで特選食材を使用した料理やデザートをご紹介するのですが、残念ながら今春はそうもいかないようです。ただ、このまま旬の食材を見過ごすこともままならず、Benoitで購入していた、購入予定であった食材をご紹介してゆこうと思います。生活必需品をご購入の際などに、スーパーや八百屋さんで見かけた際の、参考になれば幸いです。

 

 今回、皆様にご紹介する食材の舞台は、日照時間や快晴日数が国内有数を誇る宮崎県です。数ある特産である中で、この地が発祥の柑橘が「日向夏(ひゅうがなつ)」。ミカン属の雑柑類に分類されています。雑柑類とは、なんとも「雑」な表現ではりますが、類縁関係が不明確で、その系統の種類しかないもののこと。ある意味、正統派の柑橘なのでしょう。今主流となっている品種改良ではなく、自然交配してゆきながら淘汰され、自生した「偶発実生(ぐうはつみしょう)」です。

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 「偶発実生」は、その名の如く、偶然に「実生」から生まれたもの。実生とは、実の中にある種から成長したもの。栽培するためには当たり前のことではないか?とお思いかと思います。しかし、果樹は「挿し木」や「接ぎ木」で増やしてゆくのです。種からの栽培は、他の品種と交配している可能性があり、同品種ではなくなる可能性があるからです。これは、ワイン用のブドウも同じです。通常は、農業試験場などで交配され植栽し、選りすぐりの逸材を探し出し、同じ遺伝子を維持するために挿し木や接ぎ木で株を増やします。

 この工程を、自然界が行っていたのです。自然の中で淘汰されることで、その地に適した柑橘が誕生していたのです。1820年宮崎市赤江の真安太郎邸内にて、蜜柑ともグレープフルーツとも違う、美しい黄金色の果物が、この「日向夏」でした。

 しかし、無名のまま不遇の時を過ごすこと67年、華やかな表舞台に登場するのは、1887年になってからのことです。日向の国に生まれたからか、はたまた夏に向かって暑くなる日を乗り切るための栄養に満ちているからなのか、「日向夏」と名付けられました。

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 柑橘類の中でも、ゆず系統に属し、蜜柑とグレープフルーツを合わせたような、心地良い甘さにほろ苦さが特徴。他の柑橘類にはない爽やかな香り、表皮と実の間の厚くふわりとした白皮、この「白いドレス(ワタ)」が優しい甘さに満ちており、果実の心地よい酸味との相性は抜群なのです。

 宮崎県が原産の「日向夏」は、四国に渡ると「小夏(こなつ)」、さらに東に進むと静岡県では「ニューサマーオレンジ」として、市場に出回ります。しかし、さすが生まれの地だけに、生産量の約60%は宮崎県です。県内、日向夏の栽培が沿海部に集中している中で、Benoitは内陸の生産地を選ばせていただきました。宮崎市(下の地図の右下)から西へ西へと、山の中へ進むこと20kmほど進んだ東諸県郡綾町(下の地図の赤丸)から送っていただいています。

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 太平洋に流れ込む大淀川を上り、中流のあたりで支流の本庄川へ。綾町に入ると綾北川と綾南川へと名前を変える、綾川湧水群として名水百選に選ばれている水源です。町の約80%が森林で、広大な照葉樹林は、2012年に生物圏保護区(ユネスコエコパーク)に認定されています。常緑広葉樹で形成される照葉樹林は、自然淘汰の中で生き抜いてきた動植物たちの宝庫であり、「自然」そのものがそこにある。この綾町は、県内外から農畜産物を求めにやってくる観光客が多いといいます。なぜでなのしょう?

 

 世界中を席巻している「大量生産」をなしうる農法は、自然生態系を鑑みず、近代化・合理化の名のもとに、利便性と効率を追求しています。農業に限らず、全ての企業が求めていることで、決して否定することはできません。しかし、これがために自然生態系が壊れることになりました。安心安全を求めているようで、かえって自然自体が持っている浄化能力を阻害し、生きとし生けるもの自らが持ち得る抵抗力を、低下させることになたのです。結果、さらなる薬剤が必要になり、それが我々に還ってきます。アレルギーなどの様々な症状を生み出すことになった原因のひとつでないでしょうか。

 この状況を重篤と感じた生産者は、自然の生態系に習い、「無農薬の有機農法」へと舵を切ります。「食の安全」はもちろん、「自然回帰・共存」を目的とし、現代のノウハウを生かしながら、古人の農法に戻ろうとする。苦さエグさも、また野菜の個性なのだと。

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 宮崎県の綾町は、なんと30年以上も前から町全体で有機栽培に取り組んでいる地なのです。見た目に美しく効率よく大量生産をめざす飽食の時代に、まさに逆行するかのような行動に出たのが、当時の綾町の町長でした。1988年(昭和63年)、「綾町自然生態系農業の推進に関する条例」が制定したのです。

 「わが綾町は~中略~先人の尊い遺産である照葉樹林の自然生態系に恵まれ限りない恵を享受してきた。~中略~今日の経済社会の諸情勢は、我が国の農林業を厳しい環境に落とし入れようとしている一方、食の安全と健康を求める消費者のニーズは、日本農業に大きな期待と渇望のうねりが生じつつある。~中略~消費者に信頼され愛される綾町農業を確立し、本町農業の安定的発展を期するため、本条例を制定する。」(詳細は綾町役場のHPを参照ください)。

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 今回の日向夏も、除草剤不使用に加え、土作りも堆肥から。4月半ばに花開き、実を成す8月には傷がつかないよう、一つ一つの実に袋をかぶせ、太陽の恩恵を十二分に受けて育った露地ものです。これが、美味しくないわけがありません。2018年から購入させていただている特選食材です。

 

 当時、綾町へのお礼をお伝えしたところ、当時の前田穣町長よりお礼のお手紙をいただきました。その中にしたためられていた、皆様へのメッセージを抜粋させていただき、以下にご紹介させていただきます。

「心のふるさと綾町から皆様へ

いつも青山のビストロBenoitをご利用の皆様、九州は宮崎県、綾町の前田でございます。この度、綾町の特産品「日向夏みかん」を自慢の料理に添えていただいているご縁をいただき、一言お礼を申し上げます。

綾町は県庁所在地の宮崎市から西に20km、車で30分の近隣にありながら、歴史伝統文化を継承し、自然との共生の町づくりを推進し森林に囲まれた町で、平成24年7月ユネスコエコパークに登録されました。その中で環境保全型農業として有機農業のまちづくりを展開いたしております。

一口に有機農業と言いましても、田畑で除草剤を使わずに雑草を取り除いたり、国の基準に沿って基本的に無農薬で生産、出荷するまでに育て上げることは生産者にとってはとても地道で、現代では非効率な農業とも言えます。しかし、消費者の皆様に安心、安全をお届けしたい一心に、「安全でおいしい」の一言を聞きたいがためにその伝統を継承し、守り続けております。

その中でも、日向夏みかんは綾町特産品の代表格とも言えるもので、黄金色に輝く皮の下には甘い白皮が分厚い層を作り、さらにその内側に柑橘特有のほどよい酸味を持った果肉がいまにもはじけそうに密に広がっています。ですから、他のみかんのように皮を剥くのではなく、白皮はできるだけ厚く残し、酸味のきいた果肉とともに召し上がるのが最高の楽しみ方です。

Benoitとのご縁を心からありがたく存じますとともに、Benoitをご愛用の皆様に深く感謝申し上げ、ぜひ綾町にも足を運んでいただけますと幸いに存じます。

最高の旬の素材とともにお待ちいたしております。」

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 今では、「有機栽培」や「有機農法」という言葉を其処彼処で目にすることができるます。何か新しいおまじないのような言葉ではありますが、自然の生態系に習い、農薬を減らした「有機農法」を実践していますということ。しかし、「言うは易く行うは難(かた)し」とはまさにこのことではないでしょうか。栽培者には並々ならぬ労力を課すことになります。それでも有機農法に回帰するのはなぜなのでしょうか?

安心安全で、自然本来の美味しい作物を、皆様にお楽しみいただきたいから。

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com