kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

季節のお話「萩と野分」のご紹介です。

萩の葉に かはりし風の 秋の声 やがて野分の 露くだくなり  藤原定家

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 2020年9月22日に「秋分」を迎え、朝晩の涼しさが増してきたように思います。今年の中秋の名月(旧暦8月15日)は、10月1日にあたるそうです。そう考えると、今は旧暦8月の最中(さなか)ということになります。8月は、美しく生い茂るから葉月(はづき)とも呼ばれています。

 この頃に、涼しさをもたらす北風が吹き、秋深くなってゆくのだと古人はいう。陽炎(かげろう)が立ち上りそうな大気だったものは、すっかりと澄み渡り、空や海の青さが際立つような気がいたします。そのため、この北風は「青北風(あおきたかぜ)」と名付けられました。この青北風は、今ではなかなか目にすることが難しくなった渡り鳥である雁(かり)の渡来を助けるのだと信じ、「雁渡(かりわた)し」とも呼ばれています。この風に呼応するように咲き誇っているのが、秋の七草の「萩(はぎ)」です。

 万葉の時代から秋の代名詞的な花だった「萩」は、草冠に秋と書くだけあって、日本人が考え出した「国字」と思っていました。しかし、「国訓」だったのです。国字とは日本人が作り出した漢字で、国訓は既に存在する漢字に日本人が新たな読みを加えたもの。中国には、キク科の多年草であるヨモギの類のことを指し示す「萩(しゅう)」という漢字がすでに存在していました。日本のハギはマメ科多年草であり別品種です。古人は中国から伝来してきた「萩」の漢字に、日本のハギの美しさを見出したのでしょう。「萩(しゅう)」に「はぎ」という読みを当てたのです。「中国の萩」と「日本の萩」は別物なのです。

 昨今の朝晩の冷え込みによって、夜半に空気中の水蒸気が冷やされ、水滴となり葉や枝に現れたものが「露」です。陽が昇り、その朝露が眩いばかりにきらきらと輝くさまに、ついつい足を止めて見入ってしまうものです。平安時代歌人は、枝垂れるように伸びた先に花咲く萩の花や、その葉に宿る露に得も言われぬ美を見出しました。

萩の下露

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 涼をもたらす、心地良い風の音に秋の訪れを感じ、萩の下露で秋を実感する。そのような風情に浸っているなかで、なにやら不穏な風の音が聞こえてくるではないか。やがて野分(のわけ)が襲来するのだろう。野分はその字の如く、野を分けるような暴風のことで、今で言う台風のこと。その暴風が野だけではなく、萩の花や下露までをも砕き払ってしまうのだろう。

 旧暦の8月は、今頃にあたり、葉が美しく生い茂るから「葉月」であると前述いたしました。この時期は、野分の到来の多いもの。冬とは違い、樹々の葉は元気いっぱいであり、野分には負けじと踏ん張る姿が目に浮かびます。この健気な姿から葉月と名付けたのではないか?はたまた、野分で咲き誇る花々が散りゆき、葉だけ残るために葉月なのではないか?なかなか感慨深いものです。

 その野分の無慈悲に、嘆き悲しむ藤原定家の姿が自分には見えてきません。歌聖や歌仙とも違う、歌帝と評された後鳥羽院をも魅了した和歌の天才だけに、どのような思いをこの歌に込めたのでしょうか?聞き慣れない大きな音は、不気味な上に恐怖心を煽るものです。野分の猛威には今ほどに情報のないために、万全を期すことができません。遠方の友の安否を、心砕くほどの心配を詠んだのかもしれません。

 今年の野分は、想定外の動きと猛威を持っているようです、備えあれば憂(うれ)いなし、万全の準備をもってお過ごしください。そして、昨今の新型コロナウイルス災禍は、人に移動を制限し、人と人が会う機会を失わせることになりました。いまだお会いしていない方が多い中で、このメールを受け取っていただけるということは、無事息災であると信じております。いまだ収束の見えないウイルス災禍です。無理は禁物、十分な休息と睡眠をお心がけください。

 

 旬の食材には、いま我々が欲している栄養に満ち満ちています。その食材を美味しく食べることで、人は笑顔になり「口福な食事」のひとときとなります。そして、その笑顔は体の内側から湧き出でる力となり、我々をウイルス災禍から守ってくれることでしょう。

 そこで、Benoitでは、「九月尽」と銘打った特別プランをご用意させていただきいました。詳細は、以下より次のブログをご訪問いただけると幸いです。お勧めの料理もご紹介しております。

kitahira.hatenablog.com

 

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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