kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2020年10月11月≪秋の特選食材≫のご案内です。

 「景色」とは、四季を感じる自然景観のことだと、語源辞典「漢辞海」が教えてくれます。その中で、釈名(しゃくみょう/古代中国の賢人が書き遺した語源辞典)では、「景」とは「境である。明るく照らす場所に境限(=かぎり)があるから。」という。境限があるからこそ、四季があり一年にメリハリがでるのかもしれません。その時々に境限があり、その時々に姿を見せてくれる自然景観が景色なのです。旬の食材とは、ある意味で景色なのかもしれません。そして、時は進む一方で戻ることはできません。

 秋が我々をそ知らぬ顔で過ぎ去ってゆくのと同じように、秋の食材も我々が楽しむまで待ってくれるという「情け」は持ち合わせていないようです。夏食材も終わりを告げ、深まりゆく秋に合わせ、Benoitにも秋食材が続々と届けられることになっております。そこで、どのような食材が10月に登場するのか?食材ダイジェスト版として、皆様にご案内させていただきます。

「秋はとまらぬ ものにぞありける」

 

飛騨高山の伝統野菜「宿儺かぼちゃ」が届きます!

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 岐阜県の飛騨高山に伝承される鬼神「宿儺(すくな)」の名を冠する伝統野菜。今年もBenoitに届きます。大きなサイズになればなるほど、栽培が難しくなると言われるなかで、この見事なサイズにまで育て上げられるには、どれほど手間暇をかけねばならないことか。高山市で「かぼちゃ名人」と称される若林さん率いる、熟練の栽培者の方々よりBenoitへ送っていただきます。

 薄い表皮を削ると、見事なほどの黄色がかったオレンジ色が姿を見せます。和かぼちゃの多くは、味わいが素朴であるのに対し、この宿儺かぼちゃはそれとは一線を画します。コクのある甘さを持ちながら、後引く旨さに和かぼちゃらしい優しさがあります。洋かぼちゃにはない和かぼちゃの美味しさに舌鼓を打つこと間違いありません。

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 ランチでは、黄金色のスープへ。ディナーではグラタンへ姿を変え、お肉のお供をする予定です。

 

≪フランスの洋栗は、毎年恒例のスープへ!≫

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 この時期になると、必ず問い合わせがくるのが、「栗のスープ」です。ビロードのようなという意味の「ヴルーテ」という名前にてディナーメニューに名を連ねます。

 滑らかでフランスの栗らしい甘さとコクがある。洋栗だけではちろん甘くなる。そこで、味わいを引き締めるために加えるのは、栗の渋皮です。赤ワインのタンニンと同じ「渋味」を加えることで、前菜として立ち位置を獲得したのです。なぜ、毎年秋にBenoitのメニューに登場するのか?あまりにも美味しいからです。お問い合わせをいただく理由をご理解いただけるのではないでしょうか。

※この栗の画像は、恵那川上屋さんの毬栗(いがぐり)です。

 

フランスから「キノコいろいろ」が飛行機に乗って到着します!

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 秋の味覚の代表ともいえる「キノコ」。冬本番を迎えるにまえに、ぜひとも味わっておかねばなりません。今期もフランスから飛行機の乗って、ピエ・ブルー(シメジの仲間)、プルーロット(ヒラタケの仲間)、ジロール(アンズ茸の仲間)とトランペット・ドゥ・ラ・モー(「死のトランペット」という名前ですが毒キノコではありません)の4種類が、届けられるよていです。ひとつひとつの香りこそ地味ですが、ちゃっちゃと熱を加えることで放たれることで芳しい香りをはなつようになり、風味豊かになります。

 さあ、どのような料理へ姿を変えるのでしょうか?

 

≪秋のBenoit料理を彩る日本の魚たちです

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 昨今の地球温暖化を含めた気候変動は、海の中も例外ではありません。いつもであれば、○○漁港からの直送です!とご案内するのですが、あまりにも漁獲量が安定しないため、今秋は魚卸しの老舗「大芳(だいよし)」さんにご協力を仰ぎました。築地から豊洲と移るも、創業75年を誇るだけに、日本全国津々浦々より市場に集まる魚群から、見事な目利きで選ばれた逸品がBenoitに届きます。

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 上の画像は、マサバ。下の画像で鋭い牙を見せているのがタチウオ。画像はないですが、美味なるマツカワカレイが、メニューに名を連ねます。タチウオとカレイに関しては、Benoit初登場です。さあ、Benoitではどのような料理に姿を変えるでしょうか。

 

≪海外から、秋のBenoit料理を彩る魚たちです

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 そして、美味しいものを希求したがために、海外から届けられるのがアトランティックサーモンです。サケ目サケ科には、北太平洋を拠点とするお馴染みの白鮭と、北大西洋のアトランティックサーモン(大西洋鮭)がいます。なぜこの分類の話をするかというと、似たものにサケ目サケ亜科のトラウトサーモンなるものがあるからです。これは鱒(ます)の仲間です。

 魚類は、その筋肉中の血色素のミオグロビンの含有量により「赤身」「白身」に区分されています。赤身の魚はマグロ、カツオ、サバなどの回遊魚に多く、白身の魚は、カレイ、ヒラメ、タイなど。サケは切り身がお馴染みなので、皆様いともたやすく想像できるはずです。では、鮭と鱒は赤身なのか白身なのか、どちらでしょう?

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 このサケ目の仲間(以下、「サケ」と記載)は、「白身魚」です。サケの身色は、赤身魚のように血色素のミオグロビンではなく、「アスタキサンチン」という色素物質によるものです。「トマトのリコピン」や、「ニンジンのβカロテン」などと同じ、カロテノイドと呼ばれる天然色素群のひとつです。さらに、このカロテノイド群は強い抗酸化作用があるのです。リコピンとβカロテンなどは、健康補助食品サプリメントとしても存在しているほどです。

 その、カロテノイドの中で最強とうたわれているのが、「アスタキサンチン」なのです。ウィキペディアによると、抗酸化作用はビタミンCの約6000倍、コエンザイムQ10の約800倍、ビタミンEの約500倍、βカロテンの約40倍とも言われてるのです。ビタミンEは細胞膜の内側で、βカロテンは細胞膜の中心部でというように、効果を発揮する場所が限られているといいます。ところが、アスタキサンチンは細胞膜の内側と外側の両方で活躍するのだというのです。

 このスーパー抗酸化物質「アスタキサンチン」を、サケが自ら作り出すことはできません。生まれた時から常に泳ぎ続け、回遊範囲はまさに大海原、活性酸度がわんさかと体内で発生してゆきます。いうなれば、サケは抗酸化物質を必要としてる側であり、餌として体内に摂りこみ蓄えるようになったといいます。

 「アスタキサンチン」は、藻類の一部や甲殻類の殻に多く含まれています。サケが表層を回遊することを考えると、甲殻類は食すのは難しいでしょう。ではどうやって体内に摂りこむのか?このアスタキサンチンを含み、外洋の表層を遊泳する、エビに酷似した大型プランクトン、オキアミでした。

 サケは、オキアミから得ることのできたアスタキサンチンを体内に蓄え、泳ぎ続けることで生まれる活性酸素を抑え込み続けます。そして、このアスタキサンチンが、サケの身色をサーモンピンクへと変えていたのです。サクラマスがヤマメであれば、身色の違いは一目瞭然です。そして、サケの産卵が近くなると、この色素でもあるアスタキサンチンは、体表に婚姻色として、さらに卵にも表れます。「いくら」の色は、アスタキサンチンによるものだといいます。

 このアスタキサンチンというカロテノイドは、いまだ解明されていないことが多く、人にどれほど有用かは定かではありません。しかし、化学的に作り上げた物質ではなく、自然界に存在するものだからこそ、何かしらの良い影響を信じてもいいのではないでしょうか。美味しく旬のものをいただきながら、体の中から免疫力をあげてゆく。今一度、サケを見直す良い機会ではないでしょうか。

 今回はアトランティックサーモンのブランドでもあるノルウェーサーモンと、同じ仲間でありながら、南半球で養殖されたタスマニアサーモンが届くことになっております。

 

 「鮭(さけ)と鱒(ます)の違いとは?」知っているようで知らないことではないでしょうか?鱒(ます)という大きな分類の中に、鮭(さけ)があるのかと思っておりました。飲食を生業としながら、この認識の甘さに大いに反省させられることになりました。そこで、皆様を「鮭と鱒」の世界へと誘(いざな)わせていただきます。

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岐阜県恵那の老舗和菓子処から“和栗”がBenoitへ!そして、2020年版モン・ブランに姿を変えます。

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 昨年に引き続き、岐阜県恵那市の「恵那川上屋」さんより、和栗を炊きほぐしていただいた栗のペーストを送っていただきます。56年間もの間、栗に向き合ってきた彼らの慧眼は本物です。岐阜県恵那の地は昔から中山道の宿場町として栄えていました。旅人が秋に立ち寄る理由は、美味しい栗料理に栗菓子を提供していたからです。

 この連綿と受け継がれてきた「和の技法」をもって仕上げらえた栗のペースト2種類がBenoitに届きます。恵那川上屋さんの代名詞的な「栗きんとん」そのもの。それと、Benoit用に和栗を炊き上げ、加糖せずに仕上げたもの。この風味の異なる2つ和栗ペーストが、Benoitでフランスの栗と出会い、2020年のモン・ブランへと姿を変えるのです。

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 丹精込めて育ててくれる栽培家、栗を知り尽くした熟練した技術工房スタッフ、そして栗を愛するお客様。恵那川上屋さんは、栗を愛する皆様を「栗人(くりうど)」と名付けました。栗を通して大きな喜びの和となることを目指しています。その和に、快くBenoitを加えていただけたのです。我々が栗の栽培ができないのはもちろん、栗の選別や下ごしらえなどは、経験に裏打ちされている経験がものをいい、さらに途方もない手間暇がかかります。その貴重な栗のペーストを、Benoitへ送っていただくのです。

 皆様、Benoitの栗のデザートを通し、「栗人の和」への仲間入りをいたしませんか?

 

山形県朝日町大谷の遠藤農園さんからりんご「紅玉」」が届く予定です。

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 リンゴはいともやたやすく購入できますが、「紅玉」という品種となると、栽培している方は、軒並み減少します。生食にて、しゃくっとした心地良い食感と甘みに満ちた新品種が続々と登場し、昔ながらの硬く酸っぱいりんごである「紅玉」は敬遠されているようです。しかし、ことデザートとしてリンゴを選ぶ場合、生食にて美味なる日本のリンゴでは、加熱した際に甘すぎて酸味がないため適しません。やはり、紅玉をおいて他にはありません。

 昨年に出会うことができた、山形県朝日町大谷(おおや)の遠藤農園さん。彼の紅玉を試食したBenoitシェフパティシエール田中は、「見事なバランスで素晴らしい!」と太鼓判を押したのです。今期も直送していただこうと思います。しかし、昨今の悪天候から収穫開始日は未定です。

 可愛い小柄な紅玉は、1人1玉半ほど使用して、デザートに仕上げます。皮を剥き、スライスしたものを、ロメルトフというリンゴの形に模した素焼きの器にキレイに盛り込みます。今までは、リンゴ以外に加えるものはブラウンシュガーのみでした。今期は、さらなる美味しさを追究することで、スパイスが加えられることになりました。なぜスパイスを加えたのか、どれほど美味しくなったのか、気になりませんか?

 

 降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出すのです。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に秋食材が「和」する逸品に出会い、食することで無事息災に秋をお過ごしください。

 

 「涼風(すずかぜ/りょうふう)」というと、夏の季語。秋に感じる涼しさは「新涼(しんりょう)」や「初涼(しょりょう)」というそうです。秋分を迎え、暦の上では秋の最中。もう涼しさを感じていらっしゃることと思います。秋らしい寒暖の差は、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくもの、十分な休息と睡眠をお心がけください。

 そういえば、「女心と秋の空」とはよく耳にいします。しかし、江戸時代には「男心と秋の空」といったそうです。移ろいやすい心の持ち主は、いったいどちらなのでしょうか。

 

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com