kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2020年晩秋 ≪Benoit特選料理・デザート≫ご案内です。

たづねみる ふもとの里は もみぢ葉に これよりふかき 奥ぞしらるる 藤原俊成

f:id:kitahira:20201108095707j:plain

 日ごとに届く、北からの紅葉のお知らせ。都内ではまだまだと思いきや、ニシキギが鮮やかな紅葉の姿を見せてくれていました。周囲の樹々の葉が色濃い緑な上に低木なので、群を抜いた美しい紅葉がいっそう映えるように思います。「錦木(にしきぎ)」とは、なんと的を射た命名でしょうか。

 紅葉は、山奥の峰から始まり麓(ふもと)に下りてきます。冒頭の一首は、藤原俊成が麓の里で紅葉を目にしたことで、これから山深くに分け入ろうとするその先に、いかほどの色鮮やかな景色が広がっていることだろうという、余りある期待感が詠まれています。紅葉狩りに出かける時には、共感を覚えるのではないでしょうか。

 山の麓にゆかずとも、ニシキギの美しい紅葉を目にすると、山の奥深くや、名立たる紅葉の景勝地ともなれば、どれほど息をのむ景色が広がっていることかと、想像を膨らませてしまうものです。

 

 「景色」とは、四季を感じる自然景観のことだと、語源辞典「漢辞海」が教えてくれます。その中で、釈名(しゃくみょう/古代中国の賢人が書き遺した語源辞典)では、「景」とは「境である。明るく照らす場所に境限(=かぎり)があるから。」という。境限があるからこそ、四季があり一年にメリハリがでるのかもしれません。その時々に境限があり、その時々に姿を見せてくれる自然景観が景色であるという。

 旬の食材とは、ある意味で景色なのかもしれません。そして、時は進む一方で戻ることはできません。秋が我々をそ知らぬ顔で過ぎ去ってゆくのと同じように、秋の食材も我々が楽しむまで待ってくれるという「情け」は持ち合わせていないようです。

「秋はとまらぬものにぞありける」

秋に旬を迎える食材もまた、「とまらぬものにぞありける」と。

 

飛騨高山に鬼神「両面宿儺(りょうめんすくな)」を冠した野菜あり!

 

「六十五年 飛騨國有一人 曰宿儺」 日本書紀より

 65年、飛騨の国にひとりの人がいた。名を「両面宿儺(りょうめんすくな)」という。身の丈は3mはあろうか、それぞれに反対側を向いている顔を持ち、4本の腕を持つという。日本書紀によれば、暴れ鬼として書き記され、大和朝廷に敵対したとして、武振熊(たけふるくま)によって討伐されています。

 しかし、ご当地である美濃・高山・飛騨では、人々を苦しめていた鬼神を退治してくれたこともあり、祀られているのです。数々の仏像を彫ったとされる、飛騨出身の円空の作品が、岐阜県高山市の千光寺(せんこうじ)に現存しています。2つある顔の優し気な表情が表に彫られているため、鬼神という印象はうけません。円空は、両面宿儺は彼の地を救った守り神なのだと喝破する。

 だからこそ、両面宿儺の名を冠する伝統野菜、「宿儺かぼちゃ」が今でも丹精込めて栽培されています。そして、今年もBenoitに届いています。大きなサイズになればなるほど、栽培が難しくなると言われるなかで、この見事なサイズにまで育て上げられるには、どれほど手間暇をかけねばならないことか。

f:id:kitahira:20200930212244j:plain

 表皮は薄く、中は見事なほどの詰まった黄色がかったオレンジ色が姿を見せます。和かぼちゃの多くは、味わいが素朴であるのに対し、この宿儺かぼちゃは一線を画します。優しいカボチャ特有の甘みの中に、ねっとりとしながらも、きれいな旨味の余韻が後を引く。洋かぼちゃにはない和かぼちゃの美味しさに舌鼓を打つこと間違いありません。

f:id:kitahira:20201108100142j:plain

 なぜ、美味しいカボチャなのに、日本全国に出回らないのか。栽培が難しい上に、表皮が薄く日持ちがしないこと。そして、この大きさゆえなのでしょう。ご家庭で1本購入しようものならば、1週間はカボチャ料理が続くことになります。しかし、今なお栽培が続いている理由は、「美味しいから」の一言に尽きるでしょう。

 

「宿儺かぼちゃ」のスープは11月末まで!

 高山市で「かぼちゃ名人」と称される若林さん率いる、熟練の栽培者の方々よりBenoitへ送っていただいている品質の高さには脱帽するばかり。しかし、今年は天候不順の影響もあり、収量が3割減といいます。Benoitでは、若林さんにお願いし、なんとか200kgを確保し、10月からメニューに加えさせていただきました。この量は、11月末まで皆様にご提供できるかどうかのギリギリの量ではないかと考えています。

 この伝統野菜をたっぷりと使い、黄金色美しい、なめらかなスープに仕上げました。そそがれた時にはなたれる、かぼちゃの甘い香り、余計なものは何も入らない、かぼちゃそのものの旨味を凝縮したような美味しさをお楽しみください。11月末まで、ランチのプリ・フィックスメニューの前菜としてお選びいただけます。

f:id:kitahira:20201108100216j:plain

Velouté de POTIRON et fromage frais

宿儺かぼちゃ"のスープ リコッタチーズ

※ディナーでご希望の際には、ご予約の際に希望数をお伝えいただけると幸いです。

 

≪栗で始まり栗で終わるためには、栗のスープから!≫

 この時期になると、必ず問い合わせがくるのが、「栗のスープ」です。ビロードのようなという意味の「ヴルーテ」という名前にてディナープリ・フィックスメニューに名を連ねています。

 フランスの栗らしい甘さとコク。これをふんだんに使用して仕上げるのですが、これだけではデザートのように甘くなりすぎてしまうものです。濃く甘くなるからといって、薄くする発想はフランスには無いようです。味わいを足し算するかのように、加えるのが栗の渋皮です。赤ワインのタンニンと同じ「渋味」を加えることで、前菜として立ち位置を獲得したのです。

 皆様に惜しまれつつ、11月末にて終わりを迎えてしまいます。栗で始まり、栗で終わる。このようなメニュー構成にするのも一興ではないでしょうか。。

f:id:kitahira:20201108100203j:plain

Velouté de CHÂTAIGNE, garniture mijotée

フランス産栗のスープ

※ランチでご希望の際には、+800円にてご用意させていただきます。要予約です!

 

フランスから「キノコいろいろ」が飛行機に乗って到着しています!

f:id:kitahira:20201108100500j:plain

 秋の味覚の代表ともいえる「キノコ」が、フランスから飛行機でやってきています。冬本番を迎えるに前に、ぜひとも味わっておかねばなりません。今届いているものは、プルーロット(ヒラタケの仲間)、ジロール(アンズ茸の仲間)とトランペット・ドゥ・ラ・モー(「死のトランペット」という名前ですが毒キノコではありません)、それとマッシュルームの4種類。ひとつひとつの香りこそ地味ですが、ちゃっちゃと熱を加えることで放たれることで芳しい香りをはなつようになり、風味豊かになります。

f:id:kitahira:20201108100313j:plain

 ここまで国産の食材にこだわりを見せながら、どうしてフランス産を購入するのか?シイタケやシメジにように、風味豊かな個性的なキノコが国産にはあります。ことフランス料理との相性となると、どうしてもフランス産に軍配があがるのです。さあ、どのような料理へ姿を変えるのでしょうか?

 

フランス伝統料理「ヴォローヴァン」は、11月末まで!

f:id:kitahira:20201108100318j:plain

 Benoitのミルフィーユがいかほどのものか、すでにご存じの方も多いのではないでしょうか。この生地はフィユタージュというのですが、フランス産の小麦を練ったものを、たっぷりのバターで包み込み、丁寧に生地を伸ばして休ませる。作製日数は、ゆうに3日を要します。これをくり抜き、2枚重ねるようにくっつけて、さらに休憩させること1日。そしてオーブンへ。

f:id:kitahira:20201108100321j:plain

 焼き上がりの上の画像をご覧いただきたいです。5日間もかけて仕上げた一個を切らせていただきました。どうですか!この見事な断面が、いかにサクサクな食感に仕上がっているかを物語っています。ここまでが、Benoitパティシエチームの仕事です。焼き上がったヴォローヴァンの土台は、料理担当者へと引き継がれます。

 皆様より、ご注文が入ったタイミングで、3種のキノコ、プルーロット、トランペット・ドゥ・ラ・モー、それとマッシュルームをちゃっちゃと炒めることで、キノコの旨味と香りを引き立てます。そこへ、フランスのブルターニュ地方から届いたホロホロ鳥のモモ肉を加え、少しばかりのクリームを加えます。まさにキノコクリームソースに鶏肉という、これだけでも十分に料理として通用する美味しさ。これを、温めたヴォローヴァンをくり抜いた中へ、中へと詰めてゆく…

f:id:kitahira:20201108100325j:plain

 バターの芳しい香りを楽しみつつ、ヴォローヴァンにナイフを入れると、「サクサクッ」と軽快な美味しい音が聞こえる。そして、ナイフを通して、心地良い感触が指先に伝わってきます。生地だけでも香ばしく美味しい。さらに、ホロホロ鳥の旨味が加わったキノコクリームソースを絡めようものならば…もう語る必要はないでしょう。

f:id:kitahira:20201108100316j:plain

VOL-AU-VENT DE PINTADE et champignons

ホロホロ鳥とフランス産キノコのパイ詰めヴォローヴァン

※プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢として、ランチ+1,500円、ディナー+1,200円でお選びいただけます。生地が大量生産できないため、一日にご用意できる数に限りがございます。ご希望の際は、ご予約時にご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 

ジビエのテリーヌが、ディナーに登場です。≫

 京都北部の山林を駆け抜けていた丹波のイノシシを、フランス伝統のテリーヌへと仕立て上げてゆきます。さすが駆け回っているだけに、イノシシだけでは単調な味わいになりがちです。そこで、粗挽きイノシシの句の中へ、豚の背脂とレバーも加えることで、旨味となめらかさを与えるのです。そして、テリーヌ断面の中央には、まるで雲間から顔を覗かす満月のように、鴨のフォアグラが姿を現します。

 全てが合いまった時、そこには深まりゆく秋にあい相応しい美味しさをお楽しみいただけます。赤ワインが呼んでいます。

f:id:kitahira:20201108100335j:plain

Terrine de GIBIER, pain toasté

ジビエのテリーヌ

※ランチでご希望の際には、+800円にてご用意させていただきます。要予約です!

 

ノルウェーサーモンがランチに登場!11月末までです。

 太平洋サーモンを代表するのが白鮭であるならば、大西洋サーモンは間違いなくノルウェーサーモンでしょう。すでに馴染みの食材なので詳細を語ることはいたしません。この食材を美味しくいただくには、焼き加減が要(かなめ)となります。焼きすぎればパサパサなため、ゆっくりとじんわりと、休ませながら熱を加えてゆきます。

 エストラゴンの香草を利かした緑のコンディモン(味わいに必要不可欠な薬味のようなもの)。エシャロットを白ワインを使い甘みを引き出すように煮詰めた茶色のソース。卵黄をほわほわに仕上げたソース。この3つを合わせることで、お好みのベアルネーズソースが姿を現します。

f:id:kitahira:20201108100338j:plain

Pavé de SAUMON, légumes de saison, sauce béarnaise

サーモンのオーブン焼き 季節野菜 ベアルネーズソース

 

カレイの美味しさは、マツカワカレイにあり!11月末までです。

f:id:kitahira:20201108100508j:plain

 背びれを上に置き、白い腹目を地につけた時、「左ヒラメに右カレイ」なのだといいます。ヒラメとカレイを見分ける時の決まり文句ですが仲間の中でも例外がいる上に、自然界のか中では稀にひねくれものもいるようです。どちらにせよ、ともに美味しい魚に変わりはありません。と、コメントしていては、飲食業を生業とはできません。

 眼の向きは、やはり美味しさに違いをもたらしますが、エビ・カニ・小魚を捕食することで蓄えられる旨味は甲乙つけがたいもの。しかし、その肉質には大きな違いがあります。カレイ目ヒラメ科の仲間がぷりっと堅めであるならば、カレイ目カレイ科はふわりとして柔らかい。

 今回は、カレイの仲間の中で、美味であることで群を抜いている「マツカワカレイ」が、北海道からBenoitに届いています。見事なまでに美しい背ビレに腹ビレに描かれる帯模様。これぞマツカワカレイなり!ヒラメにも負けないほどの肉厚さながら、やはり肉質は繊細で、優しい旨味に満ち満ちています。

 3枚に捌いてしまうと、美味しくなる前に焼き上がってしまうため、中骨を残すように切り身にしてゆきます。ふつふつと泡立つバターをふりかけながら、ふりかけながらゆっくりと焼き上げるのです。そのまま旨味の加わったバターに、少しばかりのアンチョビを加えたものがソースへと姿を変えます。添えるジャガイモとの相性も抜群とくれば、何も言うことはないでしょう。

f:id:kitahira:20201108100511j:plain

Tronçon de CARRELET à la meunière, pommes de terre écrasées

カレイのムニエル じゃがいものエクラゼ

※調理の都合上、ディナーのみしかご用意できません。

 

仔牛のブランケット単なるクリーム煮込みだと思うことなかれ。

 仔牛のブランケットと聞くと、シチューのようなクリーム煮込みを想い描いてしまうものです。しかし、Benoitがそれでは芸がありません。そこで、シェフ野口は考えたのです。Benoitらしさを表現してみようと。

 仔牛のスネ肉を丁寧にトリミングし、白ワインと香味野菜の中で90分煮込んでゆきます。ほろっと崩れんばかりになったところで、スネ肉を避難し、残りの旨味の煮出たスープを煮詰めてゆき、少しばかりのクリームを加える。これを、スネ肉にまとわせるように仕上げるのです。クリームで煮込まず、煮込み過ぎないことで、肉そのものに美味しさを残すように。さらに、ミルクをふわふわに泡立てたところへ、香辛料であるクローブを加え、香り立たせたものと盛り付けるのです。

 さあ、どれほど美味しく仕上がっているのか、気になりませんか?すっかり画像を撮るのを失念しておりました。このお料理の姿は、出会うまでのお楽しみください。

Blanquette de VEAU, légumes en beaux morceaux

仔牛の煮込みブランケット季節野菜

※調理の都合上、ディナーのみしかご用意できません。

 

スペインから仔豚チョップがBenoitへ!これも11月末までです。

 日本ではなかなかお目にかかれない、仔豚骨付きロース肉です。丁寧にトリミングをして、ゆっくりと焼き上げてゆきます。骨付きだからこそ、時間をかけて熱を通すことができ、そして美味しさも引き出せる。しかし、生では食せない豚肉だからこそ、職人技を求められる。シンプルながら、仔豚そのものが美味なり。

 添えているのは、カボチャの輪切りにカボチャのピューレをのせ、パルメザンチーズをふりかけて焼き上げたもの。これぞ、フランス流グラタン、いやいやグラチネなり。突き刺さっているチップスもカボチャです。何のカボチャなのか?もうお察しいただいたのではないでしょうか。今秋の特選食材の、あのカボチャです。

f:id:kitahira:20201108100845j:plain

Côte de COCHON DE LAIT rôtie, gratin de potiron

スペイン産仔豚のロースト宿儺かぼちゃ"のグラタン

※調理の都合上、ディナーのみしかご用意できません。

 

ジビエを代表する食材「蝦夷鹿」もまた、11月末までです!

f:id:kitahira:20201108100959j:plain

 Benoitのプリ・フィックスメニューには、通年を通して牛肉のランプステーキが鎮座しています。それに、対抗するかのように、日本のジビエ料理の代表格ともいえるエゾシカが、名を連ねました。のんびり歩いている牛とは違い、北海道を駆け回っているからエゾシカ。この行動パターンの違いは、赤身の肉質とはいえ、まったくの別物です。

 丁寧にトリミングした、エゾシカのモモ肉を、多目に黒こしょうをまぶして焼いてゆきます。表面に焼き色がついた時点で、肉が休憩するための、Benoit秘密の温かい小部屋へ。ゆっくりとゆっくりと、内包している旨味を逃がさないように。このトリミングの焼きという職人技が、固くなりがちなモモ肉を、やわらかく美味しく仕上げることになるのです。

 ジビエだからこそ、ビーツのように大地を思わせる甘みのある野菜であり、柿やリンゴ、さらには栗を添えて皆様の元へお持ちいたします。Benoitで楽しむジビエ料理の締めは、これを食せずして秋を終えることはできません。さあ、我々をそ知らぬ顔で駆け抜けてゆく秋に追いつきましょう!

f:id:kitahira:20201108100956j:plain

Noisettes de CHEVREUIL rôties, garniture d’automne, sauce poivrade

蝦夷鹿のロースト 秋野菜と果実 ソースポワヴラード

※プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢として、ランチ+1,500円、ディナー+1,200円でお選びいただけます。一日にご用意できる数に限りがございます。ご希望の際は、ご予約時にご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 

山形県の遠藤農園さんからりんご「紅玉」」が届いています!

 山形県の西に聳(そび)える山々は、新潟県との県境をなしています。その山より湧き出でる清らかな水は、落合い落合いせせらぎとなり、さらに川幅を大きくし、山間(やまあい)の沿うように蛇行しながら海を目指す最上川となる。その上流域に朝日町があり、大谷(おおや)という地に遠藤農園さんがリンゴ畑を拓(ひら)いているのです。「今はシナノゴールドの収穫に追われています!」というコメントともに、美しいリンゴ畑の画像が送られてきました。

f:id:kitahira:20201108101056j:plain

 馴染み深いフルーツのリンゴは、いともやたやすく購入することができます。しかし、「紅玉」という品種となると、栽培している方が少ない上に、植栽本数も激減するのです。生食にて、しゃくっとした心地良い食感と甘みに満ちた新品種が続々と登場し、昔ながらの硬く酸っぱいりんごである「紅玉」は敬遠されてしまうのでしょう。しかし、ことデザートとしてリンゴを選ぶ場合、生食にて美味なる日本のリンゴでは、加熱した際に甘すぎて酸味がないため適しません。ことデザートにおいて、紅玉を勝るものは、まだありません。

 昨年、遠藤農園さんのリンゴ「紅玉」と出会うことができました。彼のリンゴを試食したBenoitシェフパティシエール田中は、「見事なバランスで素晴らしい!」と太鼓判を押したのです。自分が、今まで紅玉探しに苦労していたため、この出会いに感謝し、安堵したのもつかの間でした。希望数の確保を失念していたのです。案の定、2019年は一か月をもって終わりを迎えました。

f:id:kitahira:20201108101047j:plain

 2020年は、この大失敗を繰り返さないよう、10月7日の収穫開始早々に、希望数確保を打診します。その量は200kgなり。ただでさえ収穫を迎えて多忙極まりない時期にもかかわらず、遠藤さんは畑の実付きの状況把握に数日かけた後に、快諾してくれたのです。

 確保したリンゴも、残り半数となりました。予想では、12月早々に山形県朝日町大谷の紅玉は尽きてしまうことでしょう。その後は、豊洲市場を経由した別産地へと引き継がれ、来年1月末まで継続いたします。しかし、Benoitパティシエチームを唸らせた「遠藤農園さんの紅玉」を、ぜひお楽しみいただきたく、ここにご紹介させていただきました。

 

≪リンゴのオーブン焼きとは、ただ焼いただけではありません!≫

f:id:kitahira:20201108095240j:plain

 この遠藤農園さんの美味しそうなリンゴ!この可愛い小柄な紅玉を、1人2玉ほど使用して、デザートに仕上げます。果物は、果皮の内側に美味しさが集結します。そのため、一玉一玉丁寧に皮を剥(む)き、スライスしてゆきます。

f:id:kitahira:20201108100530j:plain

 このデザートで欠かすことができないものが2つあります。一つは、美味しい紅玉。素材以上の美味しさは、いかに腕の立つ調理人であろうとも、錬金術師でもない限り不可能です。もう一つが、素焼きのこの器です。Benoitでは、Romertöph(ロメルトフ)という、ドイツ生まれの可愛い器を使用します。2~3時間、しっかりと水に浸けておき、水分を十分に含ませておいた器の中へ、遠藤さんの紅玉を一枚一枚と丁寧に盛りつけてゆきます。

f:id:kitahira:20201108100533j:plain

 リンゴの盛り付けの最中(さなか)、数度にわたりサトウキビ由来のカソナードと呼ばれるブラウンシュガーと、香辛料をふりかけながら。香辛料?ここが昨年と大きく変わったところです。シナモンではありません。カルダモンとアニス、さらに白コショウ・ナツメグクローブ・ショウガの絶妙なるブレンドでフランスでは定番のキャトル・エピスを少々と。

f:id:kitahira:20201108100536j:plain

 水分を含んだ蓋をし、180℃のオーブンの中でゆっくりと焼き上げること約60分。ロメルトフ自体に水分を含んでいるため、当初は、この水分が蒸発することで、器の中はじわじわと温度が上がります。蒸発しきった時点から、温度がぐんぐんと高くなるという、勝手に温度調節をしてくれる優れものが、このロメルトフという器なのです。

 60分間、オーブンに入れっぱなしでじっくりと焼いてゆくのかと思いきや、パティシエはオーブンから離れるわけには行きません。15分おきに、カソナードを振りかけねばならないのです。この作業によって、この長い焼時にもかかわらず、リンゴが焦げることはありません。

f:id:kitahira:20201108100457j:plain

 焼き上がったリンゴは、ロメルトフに入れたまま、冷ますように休ませます。この休憩時間は、味わいを落ち着かせると同時に、美味しさを引き出すことにつながるのです。そして、皆様からのご注文があった際に、温め直してお持ちいたします。

f:id:kitahira:20201108100527j:plain

 このロメルトフという器無くして作ることができず、遠藤農園さんの美味なる紅玉だからこそ、今の美味しいデザートに仕上がっているのです。蓋を開けた時の姿に驚き、爽やかな甘酸っぱい香りに魅せられることに。この長い工程があればこその、美味しさがロメルトフの中に詰まっている、これがBenoitの「リンゴのオーブン焼き」です。

f:id:kitahira:20201108100524j:plain

POMME au four, crème fraiche

リンゴのオーブン焼き

※プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢として、ランチ・ディナーともに+800円でお選びいただけます。一日にご用意できる数に限りがございます。ご希望の際は、ご予約時にご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 

岐阜県恵那の老舗和菓子処から“和栗”がBenoitへ!そして、2020年版モン・ブラン登場です!

f:id:kitahira:20200930212256j:plain

 昨年に引き続き、岐阜県恵那市の「恵那川上屋」さんより、和栗を炊きほぐしていただいた栗のペーストを送っていただきます。60年近くもの間、栗に向き合ってきた彼らの慧眼は本物です。岐阜県恵那の地は昔から中山道の宿場町として栄えていました。旅人が秋に立ち寄る理由は、美味しい栗料理に栗菓子を提供していたからです。

 この連綿と受け継がれてきた「和の技法」をもって仕上げらえた栗のペースト2種類がBenoitに届きます。恵那川上屋さんの代名詞的な「栗きんとん」そのもの。それと、Benoit用に和栗を炊き上げ、加糖せずに仕上げたもの。この風味の異なる2つ和栗ペーストが、Benoitでフランスの栗と出会い、2020年のモン・ブランへと姿を変えるのです。

f:id:kitahira:20201108100518j:plain

 今期のブレンド比率は、恵那川上屋さんの栗きんとんと無糖の栗ペースト半々の和栗ブレンドが7割、フランス産が3割です。ヒヤムギほどの細さの金口でたっぷりと絞り込みます。中には軽やかな生クリームと、心地良い食感と甘さのメレンゲがあり、ひっそりと教えてくれる柚子の風味。

f:id:kitahira:20201108100521j:plain

 丹精込めて育ててくれる栽培家、栗を知り尽くした熟練した技術工房スタッフ、そして栗を愛するお客様。恵那川上屋さんは、栗を愛する皆様を「栗人(くりうど)」と名付けました。栗を通して大きな喜びの和となることを目指しています。その和に、快くBenoitを加えていただけたのです。

 我々が栗の栽培ができないのはもちろん、栗の選別や下ごしらえなどは、経験に裏打ちされている経験がものをいい、さらに途方もない手間暇がかかります。その貴重な栗のペーストを、Benoitへ送っていただくのです。皆様、Benoitの栗のデザートを通し、「栗人の和」への仲間入りをいたしませんか?

f:id:kitahira:20201108100514j:plain

MONT BLANC à notre façon

モンブラン ブノワ風

※プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢として、ランチ・ディナーともに+1,000円でお選びいただけます。

 

≪北平のBenoit不在の日≫

f:id:kitahira:20201108100504j:plain

 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない11月の日程を書き記させていただきます。10月は滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

9日(月)

12日(木)

15日(日)

19日(木)

22日(日)・23日(月)

28日(土)

 上記日程以外は、Benoitを優雅に駆け回る所存です。自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。

 皆様にお会いする機会を賜りながら、自ら放棄する無礼、ご容赦のほどよろしくお願いいたします。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

 

≪秋風の色は何色?≫

 黄葉・紅葉で彩られる「秋の色」は、深まりゆく秋を我々に教えてくれます。寒暖差が大きいほど美しく色づくのだといいます。この寒暖差は、秋という季節がもたらすもの。そして、秋は風が導いてくる。では、「秋風の色」は何色なのでしょう?季節のお話として、ブログに書き記しております。お時間のある時に以下よりご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

≪惜秋特別プランのご案内です。≫

 「秋の野」にゆかずとも、其処彼処(そこかしこ)で響き渡る「虫時雨」。マツムシは「待つ・虫」であると、古人はなかなか粋なことをいう。マツムシは、我々の訪れを待っていたのでしょうか?きっと違う。マツムシは美しい音色に、ついつい我々が忘れがちな「時は過ぎてゆく」というメッセージを込めているのではないかと思う。

 虫時雨に気付くことで、秋過ぎてゆくことを察する。うかうかしてはなりません、「秋はとまらぬものにぞありける」と教えてくれているのです。向かう先は秋の野ではありません。いざ、Benoitへ訪(ろぶら)はむ!

kitahira.hatenablog.com

 

 降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出すのです。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に秋食材が「和」する逸品に出会い、食することで無事息災に秋をお過ごしください。

 

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com