kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2020年Benoit「歳暮(としのくれ)のご挨拶」

春秋の あかぬわかれも ありしかど 年の暮れこそ なほまさりけり  藤原兼実(かねざね)

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 春ごと秋ごとに、過ぎ去る季節に満ち足りないものを感じていましたが、歳暮(としのくれ)ともなると名残惜しさが尽きません。季節というよりも1年間を振り返っての本年との別れとなることは、得も言われぬほどに感慨深いものです。太陽が昇り沈みゆく、ただこの繰り返し、約365日をかけて地球が太陽の周りを1周する。ただただ日一日と過ぎ去ってゆくなかで、いったい誰がこの日を歳暮と決めたのでしょうか。

 地球が太陽の周りを1周する公道、その区切りとして定められた1年の終わりの日が、12月31日です。陽が西の稜線に姿を消し、静まり返る闇夜に迎える1月1日午前零時に新年を迎えるも、やはり、陽が顔をのぞかせた時に「新年を迎えた」という実感がわくものです。

 生きとし生けるものに欠かせない「陽の光」、もちろん我々にとっても。皮膚に太陽が当たらないとビタミンDが形成されないなどと言われますが、それ以上に「心に与える影響」が大きいのではないでしょうか。世界各国に太陽信仰が存在するということが如実に物語っています。

 誰がこの日を「一年の節目」と決めたのでしょうか。「冬至」でも良かった気がいたします。しかし、古人は何かしらの理由をもって、去年今年(こぞことし)という区切りを作りました。旧年を省みることで、新年を新たな気持ちで迎えることができる。世相に翻弄されることなく、人生の芯となる心構えを再構築することができると考えたのではないでしょうか。

 

 今年は、新型コロナウイルス災禍に翻弄され続けた一年であり、今なおこの災禍は猛威を振るっております。何が正しく、何が間違ってるのか手探りの中で、安心安全に過ごすことのみに費やした日々ではなかったでしょうか。皆様の、ご家族や仲間、すれ違う見知らぬ人々を想うからこその行動が、世界の国々とは違う、今の日本の現状を導いてきているのかと思います。どれほどのご心労であったことか、心中お察しいたします。

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 今春には、「営業していることへの罪悪感」すら感じることもありました。絶望の淵に立たされていた時、我々を励ましてくれたのが皆様からのお言葉でした。どれほど心に染み入り、励まされたことでしょうか。そして、この未曾有の災禍の中で、能天気とも思える自分からお送りしているBenoitのご案内を、拒否せず受け取っていただけること。さらに、突然の営業自粛などにより、これほどまでに食材でお世話になっていながら購入中止となった生産者の方々の温かいお言葉。目頭が熱くなる思いでおります。深く深く御礼申し上げます。

 新年を迎えるにあたり、皆様より賜りましたご温情は徒(あだ)や疎(おろそ)かにいたしません。そして、自分の本年の至らぬ行動を省み、倦(う)まず弛(たゆ)まず努力を続け、少しでも皆様のご期待のお応えできるよう最善を尽くすことをお約束いたします。皆様におかれましては、Benoitへの変わらぬご愛顧のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出します。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に冬食材が「和」する逸品に出会い、食することで無事息災に日々を過ごしていただきたい。この想いを込め、今後もBenoitのご案内をお送りさせていただきます。

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 古人は、冬に陽射しが降り注ぐ日を、恋しいからでしょう「愛日(あいじつ)」と呼んでいます。春秋左氏伝の「冬の日は愛すべし」からできた言葉のようです。冬は太陽が天高くまで昇らず、陽射しが低い角度で部屋の奥まで差し込むため、寒々しい中に暖かい「陽だまり」ができています。屋外でも、日当たりの良いところでは陽だまりが。

 まだまだ、今年にやり残したことがあるかと思いますが、ここはひとつ節目をつけ、「日向ぼっこ」で太陽の恩恵を十二分に享受いたしませんか。陽だまりでほっこりと温まるひとときは、何か心まで満たされる気になってしまいます。今年一年の自らを省みる時、暗闇よりも「陽だまり」のほうが、間違いなく明るい未来を見出すことができるはずです。さらに、愛日には「時を惜しむ」や「親に孝行する日々」という意味もあるようです。「陽だまり」が導く「家族の絆」が心の拠り所となり、この乱世の波を乗り切る活力となることと信じております。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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