kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

「熊本県天草の柑橘」今まさに旬なリ。

 ご実家が、農業を生業としている方からメールをいただき、「昨日(4月19日)はお米の種まきでした」と教えていただきました。お父様が苗代(なわしろ/なえしろ)をこしらえて、種籾(たねもみ)を蒔いたようです。きっと、苗の芽吹きを待ちながら、田起こし、畔づくり、さらに田水の引き入れと、お父様は多忙な日々を過ごされているのではないでしょうか。そして、メールの最後には、こう記されていました。

「人間の様子とは別に、自然は季節を着々と進めていますね。」

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 「旬の食材には、今我々が欲している栄養価が満ち満ちています。」とは、自分の口癖のようなもの。春野菜には、ほろ苦さがつきもので、これは冬の間に眠っていた体を目覚めさせるためだと。対して秋野菜は、これから迎える冬ごもりへ向け、栄養価の高いものが多いといいます。旬の食材は美味しいばかりではありません。

 と、いつもであれば、ここで特選食材を使用した料理やデザートをご紹介するのですが、残念ながら今春はそうもいかないようです。ただ、このまま旬の食材を見過ごすこともままならず、Benoitで購入していた、購入予定であった食材をご紹介してゆこうと思います。生活必需品をご購入の際などに、スーパーや八百屋さんで見かけた際の、参考になれば幸いです。

 

 今回ご紹介する産地は、熊本県熊本市の南西に位置している宇土半島。その先にある大小120の島々からなる天草諸島(以下「天草」と記します)です。この天草の「大矢野島」「天草上島」「天草下島」の大きな3つの島と、大矢野島の南東に位置している「維和(いわ)島」が今回の主産地。海沿いからゆるりと広がる山裾(やますそ)に、たわわに実るのが今回の特選食材「柑橘」です。

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 上記4つの島は、橋で結ばれるも、島だからこその輸送の不便が付きまといました。そこで、それぞれの島の山路(やまじ)を利用した広域農道が整備されたのです。そして、今回の特選食材にちなみ、こう名付けられたのです。

「天草オレンジライン」

 天草上島ほぼ中央に聳(そび)えたつ、天草最高峰の682mを誇る倉岳(くらたけ)山。その頂(いただきに)に、五穀豊穣と航海の安全を祈願する倉岳神社が祀られています。この鳥居は「天空の鳥居」と呼ばれ、天草の美しい島々を一望できる絶景ポイントです。

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 海から延びる山の端(は)をご覧いただきたい。目を凝らすと、たわわに実るミカンが…見えることはないですが、いかに輸送が困難かを物語っています。「天草オレンジライン」は、この倉岳山を含めた峰々の山間(やまあい)をぬうように進みます。

 

 ここで柑橘類を少しばかり学術的な観点から分類してみようと思います。柑橘属(ミカン属)の中に、ミカン類、オレンジ類、グレープフルーツ類などの8つの「類」が区分けされています。ちなみに、レモンは香酸柑橘類に組み込まれています。「香酸」とは、なんと分かりやすいことでしょうか。

 今回ご紹介する柑橘は、熊本県を代表する3種。しかし、それぞれがタンゴール類、ブンタン類、雑柑類に分けられているのです。タンゴール類は、ミカン類とオレンジ類の雑種群の総称のこと。ブンタン類は、まさに文旦の仲間のこと、ザボン晩白柚(ばんぺいゆ)などが加わります。雑柑類とは、なんとも「雑」な表現ではりますが、類縁関係が不明確で、その系統の種類しかないもの、日本は柑橘王国なのか、この雑柑類が意外に多いのです。

 

 最初にご紹介したいものは、まさに今食べずしていつ食べるという、「不知火(しらぬい/しらぬひ)」です。「清美」と「ポンカン」の交雑種で、大ぶりながら、果皮が薄く甘みが強いのが特徴で、柑橘属タンゴール類に分けられんます。画像を見るに、この凸っている姿から、「デコポン」と皆様お思いかもしれませんが、これは「不知火」です。

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 不知火とデコポンは、これほどまでに酷似している姿にもかかわらず何が違うのか?実は同じといえば同じもの。「不知火」の品種の中で、JAが定めた糖度と酸度をクリアしたものが「デコポン」です。では「デコポン」が優良品種なのか?そうとも言えますが、そうでないとも言えます。この2つの名称を、数値によって分けることは、我々消費者には分かりやすく、斬新な試みだと思います。だからといって「不知火<デコポン」ではありません。消費者から見れば、デコポンの方が品質に安定感がある。しかし、不知火の中には「デコポンを凌駕する品質のものもある」ということです。

 もともとは、長崎県島原の農業試験場で誕生したものの、見た目の凸などの理由から、栽培には至りません。それが、島原湾を横切るように対岸の宇土半島に苗木がもたらされ、不知火町が栽培に着手したのです。もともと甘夏の産地だったこともあり、見事なまでに美味なる柑橘に育て上げたのです。そして、町の名前から「不知火」と名付けられます。

 宇土半島の付け根南側、八代(やつしろ)海の最北端に位置している不知火町。この地が生まれた柑橘「不知火」が、柑橘に恵まれた環境下にある天草へ伝播してゆくのに時間はかかりませんでした。そして、日本を代表する銘産地へ成功してゆくのです。熊本県の不知火(デコポン含む)出荷量は、全国一を誇ります。

 熊本県は、「不知火」発祥の地。彼らには不知火を世に生み出したプライドがある。だからこそ、中途半端な不知火は出荷いたしません。天草の柑橘を購入し始めたのは4年前のこと。毎年のように繰り返される暖秋暖冬の影響下で、「天草の不知火」の美味しさの安定感には、ただただ驚くばかりです。

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 熊本県産「デコポン」も市場にあります。ここで、ひねくれものの自分がふと思う。「不知火」発祥の地でもある熊本県天草で、「デコポン」を名乗る理由が見つからない。言い換えると、熊本県産で「デコポン」名乗るには、何か理由がある。不知火として勝負する自信がないためにデコポンの名を利用するのか?何はともあれ、天草の不知火は美味であることに間違いはありません。

 

 自分が「フルーツ」探しを本格的に始めた頃、Benoitに熊本県出身の仲間がいました。そこで、彼に「今の時期(春)で熊本県特産の柑橘はないかな?」と聞いたところ、「不知火ですかね。特に他には思いつきません」との返答。これほどまでの柑橘王国にも関わらず、それはないだろうと別ルートで探しに探し、出会えたものが、2つ目の柑橘、「パール柑」です。

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 彼に「ほら、届いたよ」と自慢すると、「あ!パール柑じゃないですか」との返事。知ってるのであれば教えてくれよ、と思うものの、彼にとってあまりにも身近な柑橘だけに、特産だとは考えなかったようなのです。そう、自分の聞き方が間違っていました。「いつもどんな柑橘をこの時期に食べているの?」

 かつて、日本原産の柑橘フルーツのことを、「橘(たちばな)」と総称していました。一年を通して緑美しい丈夫な葉を成すことから、不老長寿の象徴でもあったようです。その中で大きな実を成すことから名付けられたのでしょう、「大橘(オオタチバナ)」です。ミカン属ブンタン類に与(くみ)し、宇城・天草地域の特産で、「天草文旦」とも呼ばれていますが、現地では宇土半島天草諸島を結ぶ天草五橋(パールライン)にちなみ、「パール柑」という名前で親しまれています。

 輝くような黄色のぽちゃっとしたまん丸の可愛い姿をしており、グレープフルーツを想わせるような爽やかさ、甘さと酸味の見事なまでのバランス、特筆すべきは放たれる芳しい香りです。心地よく爽快な黄色い柑橘特有の香りは、手の取った指にまで残るほど。これまた、今まさに旬を迎えている熊本県を代表する逸品です。

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 食後の果皮は、砂糖漬けも良いですが、お風呂に入れることで、夢心地なひとときを過ごすことができます。目を閉じれば、潮騒が聞こえるやもしれません。

 

 さらにもう1種類、これから旬の盛りとなる、今期の天草産柑橘の最後を飾る「天草晩柑(あまくさばんかん)」です。ミカン属の雑柑類の属する、謎多きことも魅力の一つでしょうか。1935年に、熊本市で偶然発見され、大矢野島を中心に植栽されています。

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 ジューシーオレンジと呼ばれるほど、ほどよい甘さと酸味の果汁をたっぷりと含むうえに、下の画像の左下のひときわ大きな玉が、天草晩柑です。画像右下が不知火なので、その大きさがお分かりいやだけるのではないでしょうか。画像上のパール柑とは違い香こそ地味ですが、グレープフルーツのような姿ですが、独特なほろ苦さはなく、甘みと酸味の得も言われぬ上品な美味しさには、天草の柑橘の最後を飾るにふさわしい。海岸近くの浜風あたり温暖な地で、太陽の恩恵を十二分に受けた晩柑は特に美味といい、熊本県産の約90%が天草で栽培されているといいます。

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 ここまで天草の特産をご案内しながら、彼の地をこのまま去るわけにはいきません。しかし、いまだ終息の見えないウイルス災禍に対し、今我々にできることは家にいること。そこで、一般社団法人天草宝島観光協会の助けをお借りし、皆様を少しばかり天草観光へ旅心地へご案内させていただこうと思います。

kitahira.hatenablog.com

 

 いまだ終息の見えないウイルス災禍です。皆様、無理は禁物、十分な休息と睡眠をお心がけください。旬の食材には、今我々が必要としている栄養に満ち満ちています。免疫力を高める意味でも、旬の食材を食し、この危機を乗り越えてゆきましょう。我々ひとりひとりの行動が、この未曾有のウイルス災禍を「収束」へ向かわせ、必ず「終息」するものと信じております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com