kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit特選食材「栃久保棚田の笠置ゆず」のご案内です。

 フランスでは、アルプス山脈を源流とするローヌ河の中流域にある、Ardèche(アルデシュ)県が栗の銘産地のひとつ。日本では、中央アルプスを源流とする木曽川の上流域にある、岐阜県の恵那・中津川が栗の銘産地のひとつ。両「アルプス」からの水資源によって育まれた洋栗と和栗と、なにやら不思議なご縁があります。

 フランスのパリにある老舗Benoitの「Mont Blanc」が、フランス栗を使うのであれば、同じ名を冠するBenoit東京の「モンブラン」は和栗をつかいます。フランスでは、モンブランにアクセントとなる酸味を加えるべくカシスやレモンを加えます。これが洋栗とのマリアージュを成すのだといいます。では、Benoit東京では何を加えるのか…

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「柚子(ゆず)」

 

 中央アルプスとは、地図でいう木曽山脈のこと。この地を源流としている木曽川は南へ向かうも、岐阜県中津川市のあたりから西へと向きを変えます。この辺りにくると、峰々に端を発した多くの支流がこの木曽川に注ぎ込むことで、もはや「せせらぎ」とは言い難いほどの、水量と勢いがあり、山間(あまあい)をぬうように流れることで山肌を侵食し、ものの見事な渓谷の景観を我々に見せてくれます。

 この水量と渓谷の地形に着目したのが、後に電力王と称えられた福澤桃介(ももすけ)でした。名古屋電灯を買収し社長に就いたことを機に、この木曽川に国内初となる水力発電用のダムの建設に取り組んだのです。数々の困難を乗り越え、大正13年(1924年)に「大井ダム」が完成するに至ります。

 このダムの完成は、堰堤(えんてい)より上流域にダム湖形成されることになります。ダム以前から日本有数の渓谷美を誇る恵那峡なだけに、このダム湖によって、水面からそそり上がる渓谷美が一層際立つことになったのです。さらに、四季折々の景観を、我々は身近に楽しむことができるようになったのです。

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 この恵那峡が今回の特選食材の地ではありません。ここから木曽川を少し下ったところに、「笠置(かさぎ)」という地があります。恵那市の北西部に、木曽川の北岸に位置しています。遠くに望(のぞ)める「笠置山」の南麓にあり、自然豊かなことはもちろん、笠置峡とも相まって、風光明媚な地域です。

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 この笠置山の標高は1,128m。山頂からは、恵那市内や中央アルプスはもちろん、晴れた日には伊勢湾まで一望できるといいます。そう、天然記念物のニホンカモシカに出会えるかもしれません。。

 

 この笠置町に河合という地があり、渓谷の斜面を利用した見事な棚田が目に飛び込んできます。これぞ、岐阜の棚田21選に選定されているほどの美しさを誇る「栃久保(とちくぼ)棚田」です。ここは、江戸時代に中期の頃に切り拓いたという歴史を持ち、いまなおその役割を全うしています。急峻な地形は、生半可な開拓では成しようもなく、大小さまざまな石によって組まれた頑強な石垣は一見の価値あり。随所にみられる石垣に築かれた石の階段は、先人たちの知恵そのもの。

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 稲作において、もっとも大切なことは灌漑(かんがい)をどうするかということ。水田は、稲の田植えから成長段階に至る期間、多くの水を必要とします。しかし、この生育期間でも途中水を抜く時もあり、さらには稲刈りの前には水を必要としません。水は高き所から低き所へ流れるのは自明の理。山の麓(ふもと)の斜面を利用しようとするのは至極当然のことです。昔々の田は「山田」であり、和歌などにもよく登場します。

 とはいえ、この栃久保棚田のある地は、想像を絶する程の急峻に築かれているのです。昔は、狩猟と畑作であったのかもしれません。しかし、多くの村人を養うには「稲作」が必要でした。そこで、笠置山から湧き出ずる水を利用し、棚田を作ったのでしょう。一朝一夕で成せる事業ではありません。この地で生きるという強い意志を連綿と引き継ぎ、何代にもわたって築いてきたのだと思います。

 この棚田で丹精込めて育て上げられた特選食材がBenoitのメニューに登場しています。棚田ですがお米ではなく…

 

栃久保棚田の笠置ゆず」

 水を引かなければ、斜面ならではのその水はけの良さがあります。そして、渓谷だからこその、吹き抜ける風と川面(かわも)の照り返しは、この地ならではの自然環境を成しています。さらに、山深いからこその寒暖の差は、稲作はもちろんですが、果樹の栽培にも適しているのです。

 かつては、自宅の脇にユズを植栽していたといい、美味しく実ることを知っていました。そこで、彼らは棚田の脇を利用することをお思い立ち、ユズを植栽していったのです。自然の機微を知り、作物の特性を熟知していた先人たちの先見の明というのでしょうか。

 「桃・栗三年、柿八年、柚子の大馬鹿十八年」と言われるほど、ユズが実るまでには時を必要とします。どれほど笠置の人々は待ったのでしょうか。この心労に、見事に実ったユズが応えてくれるのです。「笠置ゆず」と命名され、ひとつのブランドにまでなったのです。ユズ園の入り口には、「ゆずもちゃん」が皆様を出迎えてくれます。

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 しかし、急峻という立地は、耕作面積をたやすく増やせるというものではなく、収量には限りがありました。どれほど名声を得たとしても、生産量の少なさを補うことはできません。県外や他の地域が、植栽面積をぐんぐん広げるなかで、一歩も二歩も遅れをとることになり、全国で名を馳せることが難しくなってゆきます。

 それでも、地元の人々はユズの栽培を辞めることはありませんでした。手間暇かけて育て上げた「笠置ゆず」は、他地域にも負けないユズに育つということを知っているからです。渓谷の斜面は、ユズにとっては好立地ですが、栽培者にとっては難儀なもの。そのような苦労など、百も承知といわんばかりに、彼らは無農薬栽培をも徹底しているのです。

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 太陽をさんさんと浴びることで、生い茂る葉は光合成をし、美味しさをなす栄養を果実に送り続けます。果実は、暴風雨にあたるために傷がつきやすい。しかし、この自然に鍛え抜かれることで、農薬に頼ることなく自らが持ちうる病原菌への抵抗力を生かしながら熟してゆきます。

 最後に、Benoitのために、畑を回りながらユズの生育具合を教えれてくださり、収穫されたユズを厳選しBenoitへ送ってくださった、かさぎゆず組合理事遠藤さん。この場をお借りして、深く深く御礼申し上げます。遠藤さんのご尽力無くして、Benoitにこれほどまでに美味なる「笠置ゆず」はありませんでした。マスク姿での作業風景の中で、自分はマスク無しで撮っていただいたこの一枚を掲載させていただきます。

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 2020年より続いているBenoitの冬メニュー。どこを探してもメニューに「ユズ」の記載はありません。しかし、しっかりとデザートで美味しさを我々に教えてくれています。2021年2月14日までは、「モンブラン」、それ以降は「パリブレスト」に。なぜ、これほどの特選食材にもかかわらず、メニューに記載しないのでしょうか?実はBenoitの問題でいろいろあるのです。気になる方は、ぜひBenoitで自分にお声をおかけください。「なるほど」という回答を用意してお待ちしております。

 

 毎年のように、秋冬にかけてBenoitのメニューに堂々と名を連ねるデザート「モンブラン」。なんと美しく心に響く音色でしょうか。西ヨーロッパアルプス最高峰のMont-Blancが、このデザートの名前の由来といいます。これほどに壮大なネーミングなだけに、Benoitではシェフパティシエールの田中が毎年苦悩しながら組み立ててゆきます。今期のBenoitのモンブランはいかようなものか、ご紹介させていただきます。

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 西ヨーロッパの中央に、7か国にまたがる壮大な峰々がアルプス山脈です。交通の難所でありながら、この山脈に端を発しいる大河川は、ヨーロッパの人々に貴重な水資源を提供しています。そして、その山の端の中で、際立つように聳(そび)えているのが、名にし負うモンブラン」です。

 この山脈を源流とし、フランスを悠々と流れるのが「ローヌ河」。食の都「リヨン」の脇を流れるように南下してゆき、地中海に注ぎます。この河の中流域、ちょうどフランスの中央高地の南東部に、Ardèche(アルデシュ)県があります。Auvergne-Rhône-Alpes(オーベルニュ-ローヌ-アルプ)地域圏に属しており、その名の如く、アルプス山脈の麓(ふもと)に位置しています。この「アルデシュ」と聞いて、ピンときた方はかなりの栗好きの方ではないでしょうか。フランス国内でも栗の産地として有名で、ワインと同じように原産地を名乗ることのできる政府保証付きの銘産地なのです。

 そういえば、日本にも日本アルプスと呼ばれる峰々が本州中央に鎮座しています。これは、北アルプス飛騨山脈中央アルプス木曽山脈、そして南アルプス赤石山脈という3つの山塊で構成され、それぞれを源流とする河川が大地を潤しています。特に、前者2つは豊穣な濃尾平野を形成しているのです。さらに、中央アルプスを源流とする木曽川が、濃尾平野に流れ込む手前、ここは日本でも有数の栗の銘産地です。

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 山間を流れていた木曽川は、美濃加茂(みのかも)市の南東、可児(かに)市の北部のあたりで、が濃尾平野に流れ着きます。そして、この地で北アルプスこと飛騨山脈に端を発した飛騨川が落合います。急流から悠々と流れる「大河」へと姿を変え西へ西へと流れゆき、岐阜城を北に眺めながら、ほどなくして南に向きを変え、伊勢湾に注ぎ込みます。

 「大河」、そういえばNHKさんの大河ドラマ明智光秀を主人公に据えた「麒麟(きりん)がくる」です。「歴史は勝者が作る」というだけあって謎が多く、なんと魅力に満ちた武将でしょうか。木曽川の「大河」の話をしてきたので、少しばかり明智光秀の出生の地をご紹介させていただきます。

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 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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  「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com