kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021年7月 Benoitお勧め料理「清流美どりのバスケーズ」のご紹介です。

暑中お見舞い申し上げます。

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 連日のように猛暑な日々が続きます。暑いからこそ夏であり、夏が暑いからこそ秋が待ち遠しい…とは思うものの、この暑さは度を越しているでしょうか。外出の際は、木陰での休息も良いものです。心地よい風を感じながら顔を上に向けると、陽射しに照らされた樹々の葉が緑の叢(むら)を成すように生い茂っています。この重なり合う葉を「結び葉」と言うそうです。なんと美しい表現だろうか…

 と思うも、ひとときのこと。暑いものは暑い。皆様、無理は禁物、十分な休息と睡眠、こまめな給水と塩分補給をお心がけください。結び葉の美しさに魅せられたまま、永遠の夢の(意識の遠のいた)世界から抜けだせなくならないように…ゆめゆめ忘るることのなきようお心がけください。

 

 今回は、夏の猛暑だからこそ、味わっていただきたい「バスケーズ」という料理のご紹介です。まずは、この料理の発祥の地をご紹介させていただこうかと思います。

 今では地図上に名前見つけることができない地名「Basque(バスク)」。かつては、今のフランスとスペインにまたがる地域の古称です。地名こそないですが、バスクは、フランスの中でも一地方としいての地位を確立しており、連綿と受け継がれてきた伝統が息づいています。そのためか、バスクの人たちは、「我々はバスク人である」との誇りを持っている。

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 まだ、自分の勉強不足でバスク地方の歴史を紐解いていないため、なぜバスクの人たちは旧名バスクの地に固執するのか説明できません。住み慣れた故郷だからといってしまえば、そうなのかもしれませんが、あまりの彼らの想いの強さは何か理由があるのだろうと勘ぐってしまうもの。ただ、今の自分の知識で思い当たる節が一つだけあります。それは「言語」が違うということ。

 フランス語もスペイン語も違う言語です。しかし、ラテン語系の言語としての共通点が多いものです。かつて、ローマ帝国時代に征服者であるローマ人が、役人として派遣されたり、軍隊が駐屯したりするなどで広がりをみせたのがラテン語でした。しかし、難解な言語であったために、各国でラテン語をもとに進化を遂げていったものが、フランス語でありスペイン語であり、英語の原型にもなっているといいます。

 一方、バスク語と呼ばれる言語は、先住民の人々が使っていた言語。ということは、同じアルファベットを使用していても、ルーツが違うため、文法と発音が異なるというのです。海外の方々からは難解言語として名が挙げられる日本語の場合、ひらがな・漢字・カタカナを、意味ある使い分けをしていることが難解と言わしめる要因ではあると思いますが、やはり文法の言葉の並びが違うことこそが、日本語を学ぶ上でまっさきにぶつかる壁なのではないでしょうか。これは、日本人が英語を学ぶことが苦手だということも同じ理由なのだと思います。

 言語学者が英語の言葉の並び体系化したものを「文型」といい、中学・高校でS(主語)V(動詞)C(補語) SVO(目的語)などと5文型を学んだと思います。日本語の場合、SCVやSOVという並びで、動詞が最後にきます。まさにこれと同じ並びがバスク語です。同じアルファベットを使いながら、この大きな文型の違い。田舎育ちの自分には、同じ方言を耳にすると大いに親近感がわいてくる程度のレベルではありません。

 今では、スペイン側バスクスペイン語、フランス側バスクではフランス語が共用語だといいます。こもままでは消えてゆきかねないバスク語を、彼らの古き良き伝統を守るという意味でも、結束したくなることはいたし方ないことなのでしょう。この結束は、言語や文化のみならず、食に関しても郷土料理を作り上げ継承されてきています。地名がないにもかかわらず、今なお世界に周知されている伝統料理が、バスク料理なのです。なぜか?美味しいからです。

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 フランス全土が農業国という中にありながら、南西に位置しているこのバスク地方は、大西洋に面しているものの、大きなくぼみのようなビスケー湾の最奥に位置していることもあり、荒れ狂う外海とは一線を画しているようです。湿気のある心地良い浜風と温暖な気候は農産物にとっては、理想的な環境がそろっているのです。多々栽培している野菜の中で、彼らの食生活に欠かせないと言われているのがパプリカです。その野菜は、夏に旬を迎えます。

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 その数多(あまた)ある伝統料理の中からBenoitが選んだのが、「鶏肉のバスケーズ(バスク風)」です。地方料理で地名が名前に入るとは、知らない人からは「なんと優しくない」と感じるかもしれませんが、地元の人からすれば地産地消の料理で、これぞバスク料理だ!と皆が知っている逸品です。では、どんな料理なのでしょう?

 パプリカとタマネギをしんなりとするまで火にかけてゆくことで、これらの野菜の甘味と旨味を引き出します。そこへ、完熟トマトを加えることで、トマト特有の心地良い酸味とコクを与える。バスク地方といえばビゴール種の豚が有名で、その生ハムが美味しい。現地ではこの生ハムを加えというが、さすがにBenoitでは希少すぎてそれは不可。別地方産ですが、生ハムが加えて旨味を足します。そして、欠かすことのできない香辛料Piment d’Esprette(ピモン・デスプレット)ぱらぱらと。

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 スペインと国境に近い海沿いに、Saint-Jean-de-Luz(サン・ジャン・ド・リュズ)という港町があります。美しい建物が並ぶ港町であり、美食の街とも呼ばれています。この町から東へ山の中を進むこと20kmほどでしょうか、Esprette(エスプレット)とう村に到着します。そう、この村の名を冠したものが、前述したPiment d’Esprette(エスプレット村の唐辛子)で、A.O.P.の認証を受けている逸材です。ワインは、原産地を名乗るためにクリアしなければならない厳しい規定があることはご存知かと思います。A.O.P.とは、原産地を守り、品質を維持するため、フランス政府が保証した食材のこと。チーズもこの部類に入ります。

 このピモン・デスプレットははエスプレット唐辛子などと表現されるのですが、辛いだけではありません。日本の唐辛子よりも一回りも二回りも大きく、パプリカのように肉厚なので、野菜特有の甘味をも兼ねそろえているのです。夏に収穫したものを軒下に、まるで干し柿のように吊るして乾燥させる光景は、この村の風物詩です。窓枠と比較してみると、いかにこのピモン・デスプレットが大きいかお分かりいただけるのではないでしょうか。

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 パプリカ、タマネギ、トマトの夏野菜の凝縮した甘味、さらに生ハムの旨味。そこに、ピモン・デスプレットの軽やかな辛みと旨味が加わることで、味を引き締めると同時に美味しさを際立たせることになる。これを、鶏肉にまとわせるように仕上げます。鶏も地鶏のような食感と味わいが強いものであると、美味しいけれども相乗効果をうまない、そうBenoitシェフの野口は教えてくれた。もちろん、ふつう見かける鶏肉でも同じことです。

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 そこで、Benoitがバスケーズの相棒に選んだ鶏肉は、岐阜県の特別飼育鶏「清流美どり」です。地鶏のような肉肉しい硬さはなく、やわらかい。淡白な味わいかと思いきや、旨味が後を引く美味しさがあります。試食の際に、ついつい自分の口から洩れたのが「美味しい」という一言でした。

 Benoit鶏料理の定番でもある、低温調理を施します。骨付きの、胸肉ともも肉を、肉が硬くならない59℃という低温でじっくり熱を加えてゆきます。骨付きだからこそ、髄から旨味を引き出し、ぱさっとしない絶妙な焼き加減が可能です。鉄板で表面を焼き上げ、夏野菜の旨味満載のバスケーズを絡めて完成です。

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VOLAILLE DE GIFU en fricassée, garniture d'une basquaise

“清流美どり"のフリカッセ バスク

 

 この鶏料理は、ランチのプリ・フィックスメニュー、メインディッシュの選択肢に加わっております。ここまでご案内しながら、7月末までしかご用意できません。誠に申し訳ありません、めまぐるしく変わるBenoitの営業形態の告知を優先させていただいたために、ご案内がこれほどまでに遅くなりました。これほどまでに美味しい料理にもかかわらず…まだ日数はございます。夏の特別プランをご利用いただき、「清流美どりのバスケーズ」をお楽しみください。プランのご案内は以下よりブログをご訪問ください。

kitahira.hatenablog.com

 

 さて、「清流美どり」とはどのような鶏なのか。今回、Benoitが初めて出会った特選食材です。どのような地で育まれ、どのようなこだわりがあるのかを、ブログに書き綴ってみました。お時間のある時にご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

  最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com