kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021年8月 Benoit「六条大麦」を使ったお勧め料理のお案内です。

残暑お見舞い申し上げます。

  「立秋」を迎えたからこそ、なにかと「秋」を探してしまうもの。しかし、まだまだ暑い日々が続く中で、なかなか秋の風情には出会えないものです。「秋は名ばかりか…」と思いつつ、けたたましく耳に響く蝉時雨(せみしぐれ)に導かれるように空を仰ぐ。澄んだ青空に眩(まばゆ)いばかりの太陽、これらを際立たせるように雲が浮いている…

 今ほどの時期になると、入道雲がもくもくしている空模様と、イワシ雲やウロコ雲といったうっすらとした雲が空を覆う雲模様とを、日を変え時を変え交互するかのように望むことができます。入道雲が夏であれば、イワシ雲やウロコ雲は秋の雲。雲は空気中の水分であるならば、雲の違いは空気の違いなのでしょう。

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 このように考えると、空高くでは目には見えない夏の空気と秋の空気とが、混ざり合うことなく押し合い圧(へ)し合い鎬(しのぎ)を削っているのか…いや、きっと語り合っているのでしょう。古人は、出会うという意味の「行(ゆ)き合(あ)ふ」を使い、このような今時期の空を、こう表現したのです。

(/)き合いの空

 地表はまだまだ夏真っ盛りですが、空ではゆっくりと季節のバトンが引き渡される準備をしています。夏と秋という季節が出会い、そして夏は過ぎ去りまた巡ってくる。季節はそれぞれが「行き合ひ」、そして「行き交(か)ふ」もの。雲一つない青空であっても、このような季節の引継ぎを感じとりたいものです。

 

麦秋(ばくしゅう)

 「秋」という漢字は、四季の一役を担う「季節の秋」という以外に、「収穫」や「実り」という意味があります。「実りの秋」というほどなので、あまり驚きはないのではないでしょうか。「麦秋」とは、麦の実りのことを意味し、季節は秋ではなく初夏を指します。余談ですが、「竹の秋」というと…皆様お察しの通り、旬の味覚である筍の収穫期であるため季節は春。「竹の春」というと、これは秋の季節を意味します。参考までに、「竹の黄葉」は春。筍に栄養を持っていかれるので、黄葉し落葉します。

 今回の特選食材は、6月初旬に麦秋を迎えた「六条大麦」のご紹介です。国内シェアの約3割を有し、堂々たる全国1位の生産量を誇るのが福井県。しかし、県内に加工設備がありませんでした。収穫された大麦は他県に渡され、加工されたものが福井県を含め全国へと送り出されていました。

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 県下に数多(あまた)ある特産のひとつでありながら、あまりにも認知度が低いがために、これほどまでに栄養価に恵まれたスーパーフードでありながら、なぜ加工と販売を他県に頼らねばならないのか。地産地消こそが、産地の活況を呈するはず。そして、商品として全国へ販売することで、福井県の特産「六条大麦」を周知してもらえるはず。

 自然の気まぐれに翻弄されながらも、培ってきた経験をもとに麦畑と真摯に向き合う栽培者の苦労は、並々ならぬものがある。丹精込めて育てあげたからこそ、福井の六条大麦の美味しさが際立つ。彼らの努力に報いるためにも行動に移さなければならないのではないか。そう思い悩んでいた一人の女性がいました。重久弘美さんです。

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 彼女は、ご主人様の後押しもあり、ついに動き出したのです。そして、2010年(平成22年) 1月に「株式会社大麦俱楽部」を立ち上げました。ただ買い付けて販売するのではなく、栽培者の皆さんと畑に向き合い、大麦を識(し)ることから始まります。そして、重久さんは「皮麦・六条大麦」を選び、福井県でも北に位置している福井市と、そのお隣の坂井市で栽培しています。栽培品種は、うるち麦は「ファイバースノウ」、もち麦は「はねうまもち」です。

 同じイネ科の二条大麦が、ビールや焼酎の原料になるのに対し、六条大麦は麦茶やご飯に入れて食べる雑穀に適しています。むちむちっとした心地良い食感と、並外れた有用な栄養価は目を見張るものがあります。不溶性/水溶性の食物繊維がバランスよく内包している上に、水溶性の食物繊維の含有量は群を抜いています。

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 「福井の麦秋は過ぎ、おかげさまで刈取りも6月頭に終わりました。」と、重久さんのメッセージとともに今期の六条大麦がBenoit届きました。立秋を迎えたものの、秋(季節)はいまだ感じませんが、麦の秋(実り)はすでに収穫を終えており、いうなれば「新麦」というのでしょう。そこで、この秋(実り)そのものをお楽しみいただきたく、Benoitの料理として皆様にご案内させていただきます。

 

 Benoitシェフの野口は、「六条大麦の食感と甘さを生かしたい」と考えたようです。六条大麦丸粒は、まずは炒(い)ることで弾けるような食感を引き出し、香ばしさを加えます。その後、フォン・ブランを注ぎ入れ、優しい鶏と香味野菜の旨味を大麦に含ませるように。最後にチーズを振りかけ、全体が馴染むまで軽く混ぜ合わせる。ベタベタというよりも、パラパラというような一粒一粒が、チーズのコクをまとい、粒同士がまとまりをみてくる、その時に六条大麦リゾットが完成します。

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 今回六条大麦のリゾットとペアを組むのは、ホタテです。ホタテの貝柱は、生でもないし焼き過ぎてもいけない。旨味を逃がさないよう、表面を強く焼かなければなりません。Benoitのキッチン内に、プランチャと呼ばれる鉄板焼のような場所があります。調理器具がオール電化でありながら、なかなかな火力をもつ場です。

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 ここにオリーブオイルを引き、艶やかなホタテ貝柱を焼いていきます。ジュワ~と心地よく響く後に、貝柱から染み出る旨味のジュースが鉄板に触れるからなのでしょう、ビチビチビチッと弾ける音が続く。焼き面の香ばしさに加え、この旨味のジュースが鉄板に触れた時にはなたれる、貝柱特有の甘みのある香りが食欲をそそる。

 この焼の音色も芳しい香りも束の間のこと、貝柱の表面は焼かれることで壁をこしらえ、旨味を逃がさないように閉じ込めているかのよう。ほんの数十秒の時の流れで、ホタテの焼きは終わりを迎えます。そして、その焼き立てを盛りつけてゆく…

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 さあ、一堂に会します。六条大麦のリゾットを盛り、温かい小部屋から姿を見せたホタテ貝柱をのせます。色とりどりの野菜は、その時々の入荷状況によって変わりますが、旬を迎えている葉物と根菜をバランスよく選ばせていただき、茹でる炒めるなどの下ごしらえをしたものを飾るように盛り付ける。仕上げには、ホタテのヒモから旨味を引き出したソースを回しかけるようにして完成です。

 

 ホタテ貝柱のしっとり、それぞれの野菜のホクホク、六条大麦の口中で転がるようなプチプチ感。ホタテの貝柱ならではの旨味、野菜だからこその特有の青っぽい甘さ、六条大麦穀物らしいまろやかな甘さ。それぞれが食材が奏(かな)でる美味しさが、共鳴するかのようにお互いを引き立て合い、ひとつの料理へと仕上がります。

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Noix de SAINT-JACQUES en cocotte, orge et primeurs

ホタテ貝のポワレ 六条大麦のリゾットと野菜

※ランチ・ディナーともに、プリ・フィックスメニューの魚介料理としてお選びいただけます。

 

福井県特産の六条大麦!その六条とは何?≫

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 ビールの原料となるのは二条大麦。麦茶や麦飯などには六条大麦。はて?何が「二条」で「六条」なのでしょうか?そもそも、小麦と大麦は、粒の大きさの違いなのでしょうか?今回は、福井県の大麦俱楽部さんをご紹介しながら、これらの疑問にお答えしてゆこうと思います。きっと皆様もご家庭で使ってみたい食材になること間違いありません!

 重久さんより、ご購入を決めていただいた方には素敵なプレゼントのご用意もございます。この機会をお見逃しなく!

kitahira.hatenablog.com

 

≪夏熱れ、乗り切れBenoitで!≫

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「草熱(いき)れ」

 過ごしやすい夏などありようもなく、それが夏であり、ありのままを受け入れなさいと、夏草は教えてくれているのでしょうか。どれほど美しい言葉で表現されようとも、暑いものは暑く、知らず知らずのうちに体力を奪われていってしまうものです。そこで、皆様にはBenoitでは旬の食材を美味しくお召し上がりいただくことで、今夏の「熱(いき)れ」を乗り越えていただこうと思います。さあ、特別プランのご案内です。

kitahira.hatenablog.com

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com