kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021年12月 Benoit「クリスマステイクアウト」のご案内です。

 今から12年のさかのぼった2009年頃のこと。フランスで「Best of Chef」シリーズのレシピブックが刊行されました。10€という価格ながら、詳細な解説に幾枚もの写真が、素人の自分でも作れるのではないかという錯覚へと陥れる。1刊目は、BOCUSEさん。3刊目はROBUCHONさん。ともに夭亡しているが、カリスマシェフとして、今なおその名声は衰えを知らない。では、この二人の間に割って入る刊目は誰だったのか…

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 アラン・デュカスです。Benoitに10年近くも在籍することで、幾度となく話す機会に恵まれました。優しいのだが、ひとたび試食となると、得も言われぬオーラを発する。エグゼクティブシェフが、「もっと気軽に話しなさい!」といわれても…。

 超一流の料理人であることは間違いありません。Benoitの若いキッチンスタッフが、挨拶の握手をするのに手が震えていたことが、いかに憧れの存在であるかを物語っています。しかし、後世にまで語り継がれるであろう彼の偉業は、煩雑であったフランス料理を体系づけて、まとめ上げたことではないでしょうか。そして、持ちうる料理のノウハウを包み隠さず公開もしています。

 そのひとつが、このレシピ本。この本の刊行にあたり、アラン・デュカスが一番先にもってきた料理、それが「鴨のフォアグラのコンフィ」です。

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 初めてこのフォアグラの料理を口にした時、あまりの美味しさに、当時Benoitのシェフだった小島景から事細かに作り方を聞いたものです。なんと手間暇のかかる逸品なのかと感じ入ったことを今でも鮮明に覚えています。それが、このレシピ本では、家でも作れるのではないかとも思うほど詳細に、作り方が記載されていたのです。

 鴨のフォアグラは、塩・コショウをふって冷蔵庫で休ませます。そして、カットすることもなく、そのまま鴨のぬるめの脂の中へ。ゆっくりゆっくりと脂の温度を上げてゆく。揚げるわけではないので≪ぐつぐつ≫ではなく、鍋を覗き込むと、熱で脂が対流しているかのよう。何時間を要するだろうか…

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 湯に、いや油に浸かるフォアグラの中心温度が70℃に達した時点で、温度を維持するのではなく、そのまま脂から取り出し、粗熱をとります。この状態でも美味しそうなのですが、アラン・デュカスが求めるフォアグラのコンフィは、気の遠くなるほどの時を要求してくるのです。

 「コンフィ」とは、今では生活に欠かすことのできない冷蔵庫が無かった時代、先人たちが考えた食材の保存方法でした。水ではなく油で煮ることで、低温でじっくり熱が入り、素材の美味しさを逃がしません。そして、油に浸かったままにしておくことで、空気に触れいないため酸化せず、あらに悪玉菌が増殖することもなく保存が可能となるのです。ちなみに「フルーツのコンフィ」は、油ではなく砂糖漬けです。ばい菌が活動できないほど甘く仕上げるのです。この先人の知恵は、保存性ばかりではなく、あらたな旨味をひきだすとして、調理方法へと発展してゆきました。

 先述したフォアグラは、粗熱を取った後に、冷ました鴨の脂とともにパックし、そのまま冷蔵庫で眠りにつきます。何もしない…こと3週間。フォアグラは、そのまま調理してゆくため、1週間ではまだまだフォアグラのもつ内臓の荒々しさが残っています。それが、3週間という時が経過することで、口中でとろけてゆくような滑らかさのある、さらに旨味に満ちた逸品に仕上がるのです。

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 まさに「時がなせる美味しさ」とでも表現しましょうか。ここに「Benoit自慢のフォアグラのコンフィ」が完成するのです。今まで何人をも魅了し、問い合わせを受けている前菜です。もちろん、Benoitのプリ・フィックスメニューにも名を連ねることもしばしば。しかし、この12月だけは、クリスマステイクアウトのみで仕込ませていただきます。3週間前に。

 

 テイクアウトを考えた時、大いに悩んだのがメインディッシュでした。温かいお料理は、いつもBenoitのプリ・フィックスメニューで提供しております。しかし、時間が経っても美味しく、さらにお家で簡単にお召し上がりいただけるものとなると、なかなか難題なものです。

 ≪焼く≫というお料理は、ただ焼くのではなく、素材の本質を見極め、絶妙なる焼き加減でこそ、美味しさの本領を発揮します。これぞ、経験が成し得る職人技というもの。一度焼いたものを、時間が過ぎた中で、再度焼くことは、焼きすぎとなります。半生でお渡し、焼き加減を皆様にお任せするわけにもいきません。まして、電子レンジでは中から熱が入ってしまします。

 そこで、シェフ野口は≪茹でる≫≪煮込む≫という調理方法であれば、温かいメインディッシュを皆様のお家でお楽しみいただけると考えました。さらに、12月ならではの、贅沢な食材を使いながら…

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 フランス料理の中で、エビといえば間違いなく「オマールエビ」でしょう。海のギャングと称される巨大な姿とは裏腹に、美味しさも群を抜いています。プリっとした身質は、茹で上げることでその本領を発揮します。そこへ、オマールエビの頭や殻からじっくりと煮だした濃厚な、まるでオマールエビの旨味を凝縮したかのようなソースがまた格別なり。ともに同じ食材だけに、相性が悪いわけがありません。

 ショートパスタを少しだけ茹るという、お家で一手間をかけても良いかと思いますで、オリーブオイルを絡めたものを添えるアレンジをしても良いと思います。

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 お肉は煮込みます。「牛のホホ肉のドーブ」という、南フランスの伝統的な煮込み料理をご用意いたします。丁寧にトリミングされた牛ホホ肉を、赤ワインと香味野菜でコトコトと煮込んでゆきます。しかし、これでは赤ワイン煮込みでしかありません。ドーブという伝統料理では、煮込む際にオレンジとトマトが入るのです。トマトのコクと酸味、オレンジの柑橘の甘さとほろ苦さ、香味野菜が肉の旨味を引き出すかのように、じっくりじっくりと煮込んでゆきます。

 ホホ肉が崩れんばかりにやわらかくなった時、肉を避難し、その旨味の溶け込んだスープを少しばかり煮詰めてゆきます。そして、ホホ肉にまとわせるかのように絡めるのです。全てが相まったとき、そこにドーブという美味なる逸品が完成します。なぜ、伝統が今なお健在なのか。理油は美味しいからに他なりません。

 添えるのは、乾燥冴えてトウモロコシの粉末を、湯で練りシーズを加えたポレンタです。滑らかながら、ざらっとした粗挽きのポレンタ粉だからこその食感と、トウモロコシの香ばしさ、チーズのコク。ドーブとの相性は抜群です。一手間を加えるのであれば、青もの野菜や根菜を湯で、塩コショウをふりオリーブオイルを絡めたものをご用意すると、色合い地味な今回の料理に彩りをあたえることになり、さらに美味しさが引き立つことでしょう。

 

 地図で熊本県を眺めてみると、熊本市から南西に向かうと、天草へと導かれるかのように宇土半島が伸びています。この半島のつけねあたりの南側にあるのが、「不知火(しらぬい)地区」。この地名からして、我々を魅了して止まない柑橘を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。柑橘「不知火」の中で、一定基準を満たしたものが「デコポン」です。農業試験場で育種されたものの、栽培が難しいがために皆が二の足を踏む中で、果敢に挑戦し成功を収めたのが、不知火の人々でした。そして、その柑橘を「不知火」と名付けたのです。

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 八代海(やつしろかい)に面した丘陵な沿岸部は、一年を通して温暖。海に面した山の斜面は、太陽の恩恵を十二分に受けることができるうえに、柑橘のとって快適な水はけをももたらします。さらに、海からの養分たっぷりの汐風、阿蘇の伏流水である熊本の水、澄んだ空気で育まれた果実は、旨味たっぷりでジューシーで味わい深いものへ。

 この地で代々にわたり果樹栽培を続けている「のむちゃん農園」は、若き園主である野村和矢さん早苗さんに受け継がれました。彼らは、天の恵みである不知火の地の利に甘んじることなく、飽くなき探求心のもとで、さらなる安心安全・美味しい果実を育て上げるため、農薬に頼ることを可能な限り避け、細心の注意を払いながら手間暇をかけることを惜しみません。

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 沿岸部だからこその吹き上げる浜風は、病気を防ぐことに加え、八代海の恵みを運んでくれる。さらに、野村さんは果樹園にミネラルたっぷりの海水を散布することまでもする。黒毛和牛の堆肥に海藻を加えた肥料だけではなく、サンゴを含んだ魚介の肥料をも年に2回施肥することで、養分が満ち満ちた土壌の育成に取り組んでいます。

 露地栽培の果実は、暴風雨の晒(さら)されるため、傷がつきやすい。しかし、直射日光をさんさんと浴びることで、生い茂る葉は光合成をすることで、美味しさをなす栄養を果実に送り続けます。果実は、暴風雨にあたるために傷がつきやすい。しかし、この自然に鍛え抜かれることで、農薬に頼ることなく自らが持ちうる病原菌への抵抗力を生かしながら熟してゆきます。そこには、ハウス栽培では到底及ばない美味しさを内包します。これこそが、「旬の美味しさ」であり、風土が育んだ風味なり。

 「不知火海岸沿いの段々畑で潮風と海の恵(魚、サンゴ、カニ、カイ、にがり)をたくさんうけて育った汐風みかんです。皆様、お楽しみください!」とは野村さんから。不知火の自然の恵みと、彼らの愛情をたっぷりと受けて育ったミカン、「汐風みかん」がBenoitに届いています。

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 この「汐風みかん」は、前述した牛ホホ肉のドーブのオレンジの代わりではありません。Benoitで「ル・ショコラ・アラン・デュカス 東京工房」より直送されるショコラと出会うのです。これが、今年の2021年Benoitの「ビュッシュ・ド・ノエル」です。

 「ル・ショコラ・アラン・デュカス 東京工房」のショコラの美味しさをすでにご存じの方も多いのではないでしょうか。アラン・デュカスが、最高のショコラを作るために、原料であるカカオ豆の産地まで赴き探し当てた逸品です。美味しくないわけがありません。ただ甘いだけではなく、ほろ苦い中に心地よい酸味が後を引きます。

 このチョコレートで生地を作り、クリームを作り、丸めてゆく中に、プラリネと「汐風みかん」のマルムラードが加わります。たっぷりのショコラで包み込まれた中に、アーモンドの香ばしさが加わっている。生半可なミカンでは、その存在すら感じ取れないことでしょう。しかし、太陽の恩恵を十二分に受け、野村さんご一家によって丹精込めて育て上げられたミカンだからこそ、ショコラに包まれても、ミカンの持つ美味しさを見失いことはありません。

 ショコラとミカン、どちらも特選食材でありながら、どちらが突出しても美味しくはなりまん。ここはBenoitパティシエチームだからこその、絶妙なるバランスで組みあげることで、お互いの美味しさ引き立て合う、さらに食感の違いも生み出すことになる。2021年のBenoit「ビュッシュ・ド・ノエル」、気になりませんか?

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 ご自宅で、ご家族や大切な方と素敵なクリスマスをお過ごしいただきたく、このような内容でクリスマス限定テイクアウトメニューをご用意いたします。前述した自慢の料理とデザートを全てセットにしたクリスマスを彩る華やかなメニューです。Benoit自慢の本格的なビストロ料理をお楽しみください。

 

提供期間 : 2021年12月23日(木)~26日(日)

価格:2名様セット 25,920円(税込) ※1名様や3名様のご用意も可能です。

申込方法 : メール(kitahira@benoit.co.jp)への返信もしくは、電話(03-6419-4181)でご予約ください。

最終受付 : 2021年12月15日(水)

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Menu

・フォアグラのコンフィ 柑橘のコンディマン

オマールエビ カブ 甲殻類ソース

・牛ホホ肉の赤ワイン煮込み “ドーブ” クリーミーなポレンタ

・ビュッシュ・ド・ノエル ブノワ風

・パン・ド・カンパーニュ

 

 降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出すのです。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできている。「美しい(令)」季節に冬食材が「和」する逸品に出会い、食することで無事息災に年末を迎えていただきたい。この想いを込め、2021年Benoitのテイクアウト・クリスマスメニューをご紹介させていただきました。

 

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kitahira.hatenablog.com

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が終わりを迎えようとしています。その「辛」の字の如く優しい年ではありませんでした。しかし、時世は我々に新地(さらち)を用意してくれていた気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com