kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021年12月 Benoit特選ワイン「Dom.Saint-Préfert」のご案内です。

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 過ぎし2021年11月19日、日本では部分月食を眺めることができました。月が地球の影に入ることで起きる現象です。平面図で、太陽・地球・月と直線に並ぶ時におきる現象なため、満月の日ごとに月食がおきるように思うもの。しかし、地球が太陽を中心として公転している面と、月が地球を中心に公転して面は並行ではなく傾きがあるため、満月の度に地球の影に入るのではなく、地球の公転面に月の軌道が触れた時、その時が満月の位置であれば…月が地球の影に入り込む…

 地球の公転は約365.24日。月の公転は約27.3日。地球が常に公転軌道上を動いているため、月に満ち欠けの周期は、少しだけ延びるように約29.5日となります、なるほど!さらに、地球も月も、楕円のような公転軌跡であり、惑星同士が近い時には、動きが早まり、離れるとゆっくりとなるという「ケプラーの法則」なるものがある。そして、前述したように地球の公転面から月の公転面が5.1°ほど傾いているため、空を見上げた時に太陽の軌跡(黄道)と月の軌跡(白道)は一致しない。全ての要素がそろった時に、月食という天体ショーが開催されます。

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 上の図は、国立天文台より拝借いたしました。月の全てが地球の本影に入り込むのを「皆既食(かいきしょく)」、一部入るのが「部分食」です。さらに、本影ではなく半影だけに入るものが「半影食」。この半影食は、弱くはありますが太陽光が当たるのため、よくよく見比べてみると普段よりも暗いかな…ということのようです。

 なんとなく、分かってきたような月食。日食との違いは、同じタイミングであり、どこからでも同じ形の月食であるということ。日食は、太陽の前に月が現れ、太陽光を遮(さえぎ)ることで起きる天体ショーです。そのため、数百kmも離れると、日食の形も状況も変わってきます。対して、月食は月の表面の表情のため、望む地によって変わることはありません。しかし、地球の自転軸(地軸)が傾いているため、月食を見ることのできる場所とそうではない場所がでてしまいます。

 今回は、東北地方以北であれば、月食の始まりから見ることができたのですが、それ以南では月が姿をみせた時にはすでに月食が始まっていました。さらに、部分食であるにもかかわらず、月の約98%が本影に入り込んだ皆既食なみの月食。これほどの部分月食を日本で次に拝めるのは、遠く2086年11月21日のこと。その前に2022年11月8日に皆既月食が訪れます。

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 日本が部分月食を楽しんだ日、日本と同じ北半球にありながらほぼ反対に位置している地でも月を眺めることができたことでしょう。月食が限られた地域と時間しか見ることができないことは前述しました。そのため、約8時間の時差があるために、彼の地では半影食であったという。我々が部分月食を終えた月の姿と同じ姿を望んでいたことになります。

 一面に広がるブドウ畑に夜の帳(とばり)が下りてくる。街灯があるわけではない、ネオンが光っているわけでもない。車の通りすらまばらな闇夜では、満天の星空が広がる。星々の輝きの邪魔をするものは、東の山の端から上りくる満月にほかならない。半影月食とはいえ、その神々しい輝きがくすむということはない。月に照らされたブドウ畑は、白いベールに包まれたかのような美しい姿を見せてくれ、褐色の大地は白砂のようにも見える。そして、樹は地に冴え冴えとした影を落としている。

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 今も昔も月の姿に変わりはありません。月食などの限定された天体ショーがあるものの、同じ緯度であれば西も東も月の姿に変わりはありません。ワイン銘醸地なだけに、多くの人々がワイン片手に、輝かしい満月を楽しんでいたのではないかと思う。人々は月光の下で、家族や友人と語らっていたのかもしれない。はたまた、ひとり物思いに耽るように眺めていたのかもしれない。その中にいた…と思う一人の女性。彼女は毎年のように美味なるワインを醸し続けている…

 

 ここは、Vaucluse(ヴォークリューズ)県です。フランス南東部、地中海沿岸にあるのが、PACA(パカ)と略されるProvence-Alpes-Côte d’Azur(プロヴァンス・アルプ・コートダジュール)地域圏。この地域の内陸に入った東側にこの県があり、県庁所在地はAvignon(アヴィニョン)です。そして、この県内にはChâteauneuf du Pape(以下シャトーヌフ・ド・パープと記載)という街があります。

 「Pape(教皇)」の「Châteauneuf(新しい城)」。14世紀にキリスト教カトリックローマ教皇の座がアヴィニョンに移されていた「アヴィニョン捕囚(ほしゅう)」の時期に、第二の住居として城を築いたのが地名の由来と言います。時の教皇ヨハネス22世。教皇は財源確保のためにワインを醸すことを決め、アヴィニョンの銀行家とCahors(カオール)のワイン業者を招聘(しょうへい)し、ワインの原料となるブドウ栽培の地として選んだのが、このシャトーヌフ・ド・パープでした。

 カオールという街は、フランス南部Occitanie(オクシタニ)地域圏にあるLot(ロット)県の県庁所在地です。ワインの地域分類ではSud-Ouest(南西)地方にあり、カオールというワイン名の方が馴染み深いと思います。教皇が、この地の出身ということもあり、カオールのワイン業者に協力を求めたのでしょう。この英断により、シャトーヌフ・ド・パープというワインが誕生し、フランス国内はもちろん、世界中の人々を魅了してやまない銘醸地となっていったのです。

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 これほどの歴史ある地で、「将来的に伝説になる」と称賛されているワイナリーがあります。将来的に…そう、まだここの歴史は深くない。「Domaine SAINT-PRÉFER(ドメーヌ サン・プレフェール)」は、創業者が今なお現役のワイナリーです。彼女の名は、Isabel FERRANDO(イザベル・フェランド)さん。元銀行員という経歴は、あまりにも畑違いの職業に驚かけれるのではないでしょうか。フランスでも有名な銀行で辣腕を振るう中で、何か違和感を覚えたといいます。そして、ブドウ畑でのお手伝いをした時に、「これだ!」と自分がすべき本当の道を悟ったのです。シャトーヌフ・ド・パープに居を構えたことは、街の誕生にアヴィニョンの銀行家とカオールのワイン業者が貢献したことを思うと、何か縁があったのかと思ってしまいます。

 我々の生活に馴染みとなったワインという飲物は、お洒落な響きを持っていますが、農産物です。原料のブドウ無くしてワインはありません。ブドウを果皮ごと潰して器に入れておくと、発酵が始まりワインに姿を変えます。アルコール発酵は、化学式で表せますが、この発酵の仕組みを知らずとも大昔から酒は醸され続けてきました。

 シャトーヌフ・ド・パープのワインを産する畑は、地表を大きな石が埋め尽くしています。この石が、日中の陽射しを浴びることで熱を帯び、夜半に地表の空気を温めているという。確かに間違いではないと思うのですが、この理屈は後付けのような気がします。春先であれば、霜対策の一役を担うことでしょう。しかし、夏場は火照(ほて)った身体(樹)を冷まし休みたいと思うのは、人もブドウも同じではないかと。

 彼の地の石ころを多く含む地質なのでしょう。耕すことは、地中に埋まっていた石が地表に出てくることになるなるため、穀物や野菜を栽培するには勝手が良くない。そこで、古の賢人は屈強なるブドウを植栽することにした。きっと知っていたのではないか…このような地では、美味しいブドウが実ることを。そして、美味しい酒を仕込むには美味しい原料がなくてはならないことを。

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 かつて修道士たちは、この地を耕し…耕し…ブドウを植栽し、何十年も後には植え替えを行った。どれほど難儀な作業であろうとも、神の名のもとに続けてきた。今では、機械という文明の利器の助けてくれるも、為すことに大差はありません。シャトーヌフ・ド・パープの畑の姿は、この作業が連綿と受け継がれてきた証(あかし)なのです。

 創業して以来、彼女の醸すワインにワイン評論家が高得点を与え続けています。確かに、ワイナリーは新参ですが、彼の地のブドウ畑は大いなる歴史をもっている。

 

 日本では、風がその土地の環境を整え、その地で育まれた産物へ美味しさをもたらすと考えます。旅行先の地方料理を楽しむのは、風土の違いが風味を導くことを知っているからでしょう。農産物は工業製品ではないため、均一した品質のものが収穫できることはありません。その土地の個性であったり、その年の天候であったりと、多くの要因が絡んで育まれた産物には、「違い」があることは当たり前のことなのです。だからこそ、ワインでは風土の個性である「原産地」と、風味の違いを表すブドウ収穫年である4桁の数字「ヴィンテージ」を重視します。

 フランスは、ことさらこの違いというものを大切にする。選定や摘葉・摘果などのブドウに加える農作業は栽培者お判断に委ねられるものの、施肥などのように土地に人の手を加えることは厳しく制限されています。排水を促す設備はもちろん灌漑も一切禁止されています。どんなに旱魃(かんばつ)のような天候であっても、散水できないのです。だからこそ、毎年のようにブドウの品質に違いが生まれることになります。

 その年の天候に大きく左右されるブドウ栽培ですが、ただ手をこまねいているだけでは美味しいブドウは育ちません。ブドウ樹に手を加えることで、健康で質の高い果実を得ることもできれば、天候被害を最小限に食い止めることもできる。各畑の熟度を見極め、醸造所の稼働状況を把握しながら収穫のタイミングを計る。ひとつでも歯車がずれると、ブドウは腐り美味しいワインは醸(かも)せない。

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 イザベル・フェランドさんは、ドメーヌ サン・プレフェールのオーナーとして美味しいワインを醸し、至高の逸品へと仕上げるという重責を担います。年に一度しか醸せないのがワインであり、道半ばで劣化させるわけにはいかない。醸造所でワインの声を聴きながら、どうすべきなのか大いに思い悩むのでしょう。科学的な数値を証左としながらも、経験に裏打ちされたプロの勘を忘れない。

 どんなに多忙であろうとも、彼女は足繫くブドウ畑に赴き、仲間と共に農作業に勤しむことを忘れない。人智の及ばない天候は致し方ない。しかし、人が畑でなすべきことはある。丹精込めて世話をしたブドウ樹は、必ず応えてくれる。美味しいブドウが収穫できずして、美味しいワインは醸せない。そういえば、アラン・デュカスの料理哲学は、素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること。その道を究めんとする人は、同じような哲学をもっている。

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 実は、イザベルさんが初来日をした際に、ワインディナーを行ったのがBenoit東京でした。語られた一言一言に重みがあり、彼女の人柄やワインへの想いに大いに感銘を受けたものです。これは自分だけではありません。そのワインディナーを導き実現させたBenoit東京のシェフソムリエ永田にあっては一入(ひとしお)のこと。ひっそりと惚れ込んだワインをセラーの奥底に隠し持っていたのです。

 今回は、その秘蔵のワインを皆様にご案内させていただきます。世界中のワインラバーにとって、垂涎(すいぜん)の的ともいうべきワインです。永田のコメントとともに、ブルゴーニュボルドーだけではない、ローヌ地方の最高峰のワインをご紹介させていただきます。

 2022年1月末までの特別価格です!本数に限りがあるため、Benoitでのご予約日を決める前に、ご希望の方はすぐに自分へメール(kitahira@benoit.co.jp)をお送りください。公平を期すために受信の早い順とさせていただきます。※すでに特別価格でのご案内のため、Benoitのワイン割引はご利用いただけません。

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≪赤ワイン≫

2016  Châteauneuf du Pape Collection Charles Giraud

19,800(税込・サービス料別)

 ドメーヌ サン・プレフェールの最上級キュヴェ。樹齢60年~100年の葡萄から造られるその圧倒的なボリューム感。イチジクのジャム、ブラックベリーリコリス、ほろ苦いチョコレートなどの香りが満ち溢れ、熟したタンニンを偉大な酸がしっかりと支える。複雑で濃密でありながらも、エレガンスの極みといえる最上のシャトーヌフです。

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≪希少な白ワイン≫

20142015 Châteauneuf du Pape Blanc Vieilles Clairettes

55,000(税込・サービス料別) 1.5ℓのマグナムボトル

 イザベルさんがクレレット種の品質に惚れ込み、マグナムボトルのみの生産と決めた最高傑作。Benoitでも毎年2本しか購入できない希少なワインです。今回は2014・2015を1本ずつのご案内です。80-100年のクレレットの古樹から造られるスペシャル・キュヴェ。ブリオッシュやナッツの香ばしさに続き、南国系果実、洋ナシ、アップルクリーム、砂糖がけの桃の芳しい香りが現れる。非常にふくよかな熟した果実を引き立てるバターのヒント。豊満だが生き生きとしたキャラクターとしなやかさを備えており、柑橘系のほろ苦さが光るフィニッシュは非常に長い。

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2018 Châteauneuf du Pape Blanc

12,000(税込・サービス料別)

 ドメーヌ サン・プレフェールのスタンダードの白ワインながらその素晴らしさに驚かされるワインです。樹齢60年の低収量のブドウから生まれるアペラシオンの特性を見事なまでに表現した1本。熟した洋ナシ、白桃、アカシアの香りがグラスから溢れ、口に含むとその香り高さと凝縮感にうっとりさせられる。リッチで長い余韻を持つフルボディで、フレッシュさと繊細さ、そしてエレガンスのバランスが素晴らしい。果実とテロワールの魅力をダイレクトに感じることができる美しいワイン。

 

 2022年1月末までの特別価格です!本数に限りがあるため、Benoitでのご予約日を決める前に、ご希望の方はすぐに自分へメール(kitahira@benoit.co.jp)をお送りください。※すでに特別価格でのご案内のため、Benoitのワイン割引はご利用いただけません。

 

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« Dear Japanese Friends and Wine Lovers,

Thank you for your tasting my wines with Takashi KITAHIRA

 

I have extraordinary memories of my visit in Japan, and the delicacy of Japanese culture, in particular with gastronomy.

Harvest in Chateauneuf du Pape have ended in October the 1st in joy. Today the leaves are turning yellow and are reminding me of the colorful beauty of Japanese gardens.

 

I hope those wines will testify my Provençal sensitivity!  I hope to see you very soon in Tokyo, I will be there in 2022.

 

Isabel FERRANDO » 

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 皆様へのメッセージをイザベルさんにお願いしたところ、多忙を極める時期にもかかわらず快諾してくれました。今まで何度か他の造り手さんにもお願いしたこともあるのですが、返事が来ることはありませんでした。世界中を相手にしている方々なため、致し方ないもの。しかし、彼女からは丁寧なメールが届いたのです。この心遣いこそが、ドメーヌ サン・プレフェールのワインを生み出し、ワイン評論家からの高評価を博してる理由なのかもしれません。

 丹精込めて仕上げられたワインが、Benoitの秘蔵セラーから皆様のテーブルへ。コルクが引き抜かれた時に、イザベルさんの想いの詰まったワインが目を覚まします。どれほどの美味しさなのか?それは、ワインが皆様に語りかけてくれるはずです。この機会に、ぜひ彼女のワインをBenoitでお楽しみください。

 そうそう、ご指名に預かりましたので、Benoitの自慢の料理は自分が語りに伺わせていただきます。

 

 余談ですが、日本では「均一」を求めがちです。毎年同じような品質に仕上げないと…農家さんからは「今年は天候不順で品質が良くないので破棄しました」とよく聞きます。農産物は天候に左右されることはもちろんで、ワインと同じように天候に恵まれた年と不運な年との違いがあって然(しか)るべきもの。

 我々が意識を変えることで、この破棄がなくなるのではないかと思うのです。腐ってしまったものは致し方なし。しかし、丹精込めて育て上げた産物は、毎年違った味わいでいいのです。甘みがのらないので…それはそれで今年の風味である。フランスを見習い、「ヴィンテージの違い」を楽しみませんか。美味しくないようにと栽培する農家さんは、自分の知る限り、日本にはおりません。

 

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最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が終わりを迎えようとしています。その「辛」の字の如く優しい年ではありませんでした。しかし、時世は我々に新地(さらち)を用意してくれていた気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com