kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年3月Benoit 「北海道のサクラマスと佐賀県のグリーンアスパラガスがBenoitで出会う!」

 北海道の雄大な河川で生まれた稚魚が、1年ほど母なる川で育まれた後に、川を下り大海原へと泳ぎ進みます。この時、川に居残る河川滞在型と海に向かう降海型に分かれるのです。サクラマスは降海型であれば、この種の滞在型はヤマメと呼ばれます。どうゆう理由で2つの型に分かれるのか?いまだ謎のまま…これがサケ目サケ亜科に分類される「鱒(マス)」の面白いところ。仲間にイワナがいるのですが、これは一生を川で過ごすため陸封型などだといいます。

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 鮭はサケ目サケ科であり、鱒のサケ亜科との違いは何なのか?簡潔に言ってしまうと、川で孵化した稚魚が、稚魚のままもれなく全てが海に下るものが鮭で、稚魚が川に居残り成長してゆくのが鱒。前述したように、鱒の一部は海に降り立ちますが、鮭が3年を要して戻ってくるのに対し、鱒は1年であること。共通しているのは、頑(かたく)なな母川回帰であること。鮎はきれいな川を選んで遡上するのに対し、鮭の仲間はどんな困難が待ち受けようとも生まれ故郷(母川)に帰ってくるのです。

 海に降り立ったサクラマスの向かう先は、ベーリング海峡です。荒れ狂う海でありながら、餌となるオキアミが豊富であることで、多くの魚を呼び込むようです。このオキアミや小魚をパクパクと食し、河川滞在型とは雲泥の差ほどの体格へと大きく成長し、1年後に戻ってくるのです。この行動は範囲と、食してるものの違いこそが、天然と養殖との差を生み出します。

 

 皆様よりサクラマスのメインディッシュのご要望が入り、サービススタッフが希望料理とコースの流れをキッチンに伝えます。これを合図に、前菜の仕上げが始まります。順番にもよりますが、ひとつ手前の料理がキッチンを旅立ったと同時に、サクラマス料理の準備が始まります。

 切り身に塩をふって一呼吸。焼の担当のスタッフが、皮目から鉄板をつかって焼きを入れます。びちびちと心地よい音色を奏でながら、熱が入ることで切り身の色が変わってゆく。さあ、ここでひっくり返す、鉄板の外で。反対側は焼かずに、バットに移して、温かい小部屋へ移動します。オーブンではなく、温かい小部屋で一休みです。この段階では、皮目からしか焼いていないので、下の画像の通り2トーンの色彩です。

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 食事のペースを見計らい、サービススタッフがキッチンへ、サクラマス料理の仕上げを伝えます。付け合わせのアスパラガス担当者から、仕上がりまでの時間がシェフへ伝えられる。傍らで、その時間を耳にした焼き担当者が動き出す。温かい小部屋で休息中のサクラマスを取り出し、皮目から再度鉄板で焼きを入れる。先ほどとは音が違う。パリっとしたところで、ひっくり返し、数秒で鉄板からバットへ移す。これで、焼きの作業が終了です。

 サクラマスは、皮目パリッと中はしっとり、ほろっと軽やかにほぐれるように仕上げます。焼き過ぎず、そして生ではない。この「mi-cuit (ミ・キュイ)」という調理法が、サケとは違う優しい旨味のサクラマスを堪能できるとシェフは言う。

 

 「サクラ」を冠するサクラマスだからこそ、旬の食材グリーンアスパラガスを合わせたいものです。塩ゆでにしたものと、生のもの。春の息吹を感じることのできるアスパラガスの新芽は、東西を問わず春を代表する野菜であり、野菜そのものが主役をはることのできる逸材なり。なぜか?美味しいからに他なりません。

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 鮮度が命とは、どの食材でもいえることかとなのですが、特にアスパラガスは美味しさを左右する一大要素です。そこで、今期は、佐賀県の杵島(きしま)郡白石町でアスパラガスをてがける橋本農園の協力を得て、橋本さんが丹精込めて育て上げた摘みたてグリーンアスパラガスを送っていただいています。

 直送だからこその鮮度の良さは、茹でたての美味しさはもちろん、スライスした生のアスパラガスも格別。しゃりしゃりとした食感と、爽やかな生だからこその優しい甘さを感じるその味わいは、単調になりがちな料理に心地良い春の風を吹き込ませるかのよう。まさに佐賀の風土が育んだ春の風味!

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 ソースは2種類です。卵黄をホワホワにしたサバイヨンという黄色のソース。もうひとつはエシャロットをバターとともにゆっくりと熱を加え、甘さと旨味を十二分に引き出すように仕上げ、ヴィネガーで心地良い酸味を加味した茶色のソース。それぞれが、サクラマスとの相性は抜群です。さらに、この2つのソースをお皿の上で合わせることで、また違った美味しさをお楽しみいただけることができるのです。あえてシェフが、2種のソースを混ぜ合わせないことには、理由がありました。

 季節は風によって運ばれ、その風がその土地土地の風土を築き上げる。その風土は、食材を育みその土地ならではの風味をなす。南北を代表する食材、北海道のサクラマス佐賀県は橋本農園のグリーンアスパラガスが東京のBenoitで出会います。あ~白ワインが呼んでいる…

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SAKURAMASU sur la peau, asperges vertes cuites et crues

サクラマスポワレ グリーンアスパラガス

※3月末までのご用意です。ランチとディナーともに、プリ・フィックスメニューの主菜としてお選びいただけます。

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com