kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年4月5月 Benoitお勧め料理「エイヒレのムニエル」のご紹介です。

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 雄大な大海原を、まるで自らの優雅な時を謳歌するかのようにゆったりと羽ばたくかのように泳ぐマンタの姿は、海の中だからという理由以外にも、魅せられた者に得も言われぬ涼しさを与えるものです。このマンタ、正式名称は「オニイトマキエイ」といい、その姿からも想像がつく通りエイの仲間で、エイ目トビエイ科に属します。エイの多くは、羽ばたくように泳ぎはするものの砂地の海底で佇(たたず)んでいたり、ゆらゆらと海の底でエサを探していたりもします。オニイトマキエイは、休憩の時すら水面近くで浮いてるといい、トビエイとは生態を熟知しているからこその的を射た表現ではないでしょうか。

 今回の特選食材は、もちろんトビエイのマンタではありません。海底で佇んでいる方のエイ、「ガンギエイ」です。日本を含めた温帯域の海を棲みかとしており、「アカエイ」とともに、日本でも「カスベ」という名前で北海道や青森を中心に流通しています。そもそも、この「カスベ」といのは、北海道の方言でエイのことをいうようです。

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 エイの特徴といえば、背と腹で圧し潰されような縦扁(じゅうへん)という平らな姿をし、体とは区別がつきにくい大きな胸ビレではないでしょうか。この胸ビレを、鳥が飛ぶ時の翼のように波打つようにし動かして泳いでいます。日本ではエイヒレといいますが、フランスでは「Aile de Raie (エル・ドレ)※難解なRの発音!」です。「Raie」はエイのことを意味しているので、これは「エイのaile」ということに。では、この「aile」はというと…決して「ail(アイユ)」のニンニクではありません。「aile(エル)」は「ヒレ」ではなく「翼」という意味です。

 

 日本の食用エイでは、「アカエイ」が主流です。皆様が想像しやすいエイの姿をしており、高さの低い縦扁の姿なために、両翼が大きく薄いことが特徴です。そのため、焼くというよりも、煮付けにすることが多いようです。乾燥させて焙って食べたりする「エイヒレ」は、酒の肴(さかな)として馴染み深い逸品ではないでしょうか。

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 今回の「ガンギエイ」は、この両翼がコンパクトなため厚みがある。まして、ブルターニュ地方の北に広がるドーバー海峡の激しい海流にもまれにもまれたいるからこそ、さらに肉厚な「Aile de Raie (エイの翼)」なのです。日本からは地球の地軸に対してほぼ反対に位置しているフランスから。鮮度が重要な食材だけに、現地で捌かれた後、間髪入れずCASシステムと呼ばれている瞬間冷凍の技術を利用します。そして、「エイの翼」は飛行機の翼を利用し飛んできたのか、はたまた船に揺られて来日したのか、とにもかくにもBenoitに届いています。船の舵(かじ)も、なんとなく「エイの翼」のように見えなくもない…

 

 我々には「エイヒレ」という名前の方が分かりやすいので、以下エイヒレという表現で書かせていただきます。「エイヒレ」は、白身ではあるのですが、ふるふるっという身質に加え、少しぷるっとしているのが特徴でしょう。カレイやヒラメでいうエンガワのようなものであり、それが大きく肉厚である。そして、ヒレを支える軟骨も、コリコリと口中を楽しませてくれます。ぷるっということは、そう、「コラーゲン」がたっぷりです。

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 このエイヒレを、フランスの伝統料理でありながら、ビストロ料理として確固たる地位を確立している、「グルノーブル」というスタイルに仕上げます。ココットの中にたっぷりのバターを加え、ゆっくりと溶かしてゆきます。ふつふつと泡立つのと同時に、バター特有の甘い香りが立ちのぼる。そこへ、丁寧に下ごしらえを施したエイヒレを入れる。ジュワジュワッと心地良い音がココットから漏れ出で、香りにも磯の雰囲気が加わったようだ。熱々のバターを、スプーンを使ってエイヒレの上から幾度となくふりかける。ココットにスプーンが当たるカシャカシャという音の後に、ピチピチッとバターの気泡が弾け、香ばしい香りが周囲に漂い始めます。

 

 エイヒレにしっとりと熱が入った後に、その旨味が加わったバターの中へケッパーとレモン、そしてクルトンを加えます。香ばしいバターの風味に、ケッパーの旨味とレモンの心地よい酸味が加わり、その美味しいソースがカリカリのクルトンに染み入る。こ

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れをエイヒレにまとわせるようにして完成。これぞ、グルノーブル料理なり。

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Aile de RAIE à la grenobloise, épinards juste tombés

フランス産エイヒレのムニエル グルノーブル ほうれん草

※プリ・フィックスメニューの主菜として、ランチ+1,500円/ディナー+1,000円でお選びいただけます。

 

 過ごしやすい日々ではありますが、まだ「三寒四温」と表現される時期です。寒暖の差は、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくもの、油断はなりません。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com