kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年4月5月 Benoitお勧めデザート「イチゴ≪紅ほっぺ≫とバジルのヴァシュラン」のご紹介です。

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 Benoitのデザート年間スケジュールの中で、欠かすことのできない食材が3つあります。夏の「桃」に秋の「和栗」、そして春の「イチゴ」です。それぞれの時期になると、その食材の名前が其処此処に掲げられるため、皆様にはさほど驚きはないかと思います。今の時期のデザートには、これでもかとイチゴを使った「イチゴ尽くし」のようなものが数多(あまた)あります。

 確かに、芳醇な旬のイチゴを贅沢に使うことで、美味しいデザートを組み立てることができます。しかし、Benoitを管轄しているアジア圏の統括シェフパティシエであるジュリアン・キンツラーは、そうではない。フランスのデザート職人らしい組み合わせの妙をもって、皆様の五感にうったえてきます。

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Vacherin fraise/basilic

静岡県産イチゴ“紅ほっぺ”とバジルのヴァシュラン

※ランチ・ディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートの選択肢で+800円(税込サ別)でお選びいただけます。

 

 え?緑色…そう、今期のイチゴのデザートはこの姿です。Benoitの公式画像を撮影するのが総支配人である永田なのですが、イチゴを使っているという印象が無いため、苦肉の策として右手にイチゴを飾り、真っ赤なイチゴのソースをあしらったのです。いったいどういうデザートに仕上がっているのか、これから手順を逆にしてご紹介していこうと思います。

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 皆様が一番気になっているのが、この緑色の部分ではないでしょうか。上の画像で小さな葉っぱを飾っていますが、これは「マイクロバジル」という香草で、指と比べてもわかるように、この小ささが特徴。メニューにも岸雅がある通り、姿は小さいですが香り風味はバジルです。

 うねっている緑のクリームのようなもの…ピスタチオですか?と聞かれることが最も多いです。確かに、色から想像するにありえる可能性が高いデザートの食材。しかし、これもバジルを使ったソルベ(シャーベット)です。色粉などは一切使わない、ということはどれほどフレッシュのバジルを使えばいいのか、皆様のご想像にお任せいたします。

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 ソルベを搾り袋に入れて搾る…クリームであればいざ知らず、今までそんなことは考えたことはありませんでした。パティシエールの作業工程を、Benoitではガラス越しに眺めることができますが、誰しもがソルベだとは思っていません。この絶妙な硬さが優しい口溶(くちど)けをなし、イチゴとの見事な調和を生み出すことになろうとは…

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 バジルだけのソルベは青々しい風味だけに、料理であればいいかもしれませんが、美味しいデザートになろうはずがありません。そこで、このソルベにはライムを搾り入れています。ライム特有のはつらつとした酸味と爽やかな香りが、芳醇なイチゴとのマリアージュを生み出す。このデザートは、イチゴそのものに甘みがしっかりと内包されていないと、バジルの風味に負けてしまう。だからこそ、Benoitは静岡県のイチゴ「紅ほっぺ」を選ぶ。それも、いち栽培者の方の逸品を。

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 多くのイチゴ品種が誕生する中で、1980年代には≪東(栃木県)の「女峰」、西(福岡県)の「とよのか」≫」という二つの勢力が台頭します。そして時が過ぎ、2000年前後ともなると、≪東(栃木県)の「とちおとめ」、西(福岡県)の「あまおう」≫へと移りゆく。イチゴは、都道府県ごとにその地ならではの品種があり、お互いに美味しさを追究するように鎬(しのぎ)を削る。まるで戦国時代の群雄割拠の様相を見せるかのようであり、毎年のように新品種が誕生し、その数だけ姿を消す。

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 日本でイチゴ生産量の1位を誇るのが栃木県、追随するのが2位福岡県。この二大勢力に猛追をかけるのが4位静岡県です。≪東の「とちおとめ」、西の「あまおう」≫に割って入るかのように静岡県が育種した品種が「紅ほっぺ」です。甘さでは「あまおう<とちおとめ」、酸味では「あまおう>とちおとめ」。「紅ほっぺ」はどちらも中間に位置しています。甘みと酸味を兼ね揃え、酸味があるからこそ甘みも冴えるのです。

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 静岡県掛川の「赤ずきんちゃんおもしろ農園」の赤堀和博さん率いるプロチームが丹精込めて育て上げた「紅ほっぺ」は、みずみずしくしゃくしゃくの食感であることはもちろん、心地良い酸味がイチゴの優しい甘さを引き立てています。甘いだけではない、イチゴの優劣はこのバランスによって決まると、Benoitシェフ・パティシエールの田中はいう。。

 Benoitに送っていただいているイチゴの品質にはただただ脱帽するのみ。魅惑的な甘い香りをはなちながら、美しい輝かんばかりの赤い色、口中いっぱいに広がる瑞々(みずみず)しい甘さに心地よい酸味、いかに丁寧に育てられた「紅ほっぺ」であることか。自分のみならず、パティシエチーム皆が「美味しい」と口をそろえる美味しさです。

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 さらに、Benoitは赤堀さんに我がままなお願いをしています。完熟まで待って収穫してもらうイチゴと、食味いい段階で収穫したものと2種類を送っていただきます。よく見かけるイチゴは、後者の方です。完熟まで待ってしまうと、香りと甘さは抜群ですが、輸送に耐えることができないほど果肉が柔らかくなるため、「あたって」しまうのです。

 Benoitは、この完熟まで収穫を待った、コクのある「紅ほっぺ」の風味と芳醇な香りを生かし、ほとんど甘さを加えないマルムラードをこしらえます仕上げます。イチゴ本来の持つ美味しさを、ぎゅっと凝縮したかのような濃厚な味わいを作り出すのです。それをフレッシュのイチゴにまとわせるようにし、メレンゲの上に山のように盛り付けます。

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 「紅ほっぺ」でありながら、2種類の実質の購入は、柑橘と違って保存の利かないイチゴでは無理難題というものです。イチゴは農産物であり、Benoitの都合の良いように実るわけではありません。過去、一農家さんから購入を試みるも、ことごとく途中で、必要数がまかなえなくなっていました。それを、いともたやすく応えてくれるのが、ここ「赤ずきんちゃんおもしろ農園」です。

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 この農園は、静岡県掛川市に広大な農園を構えています。看板に偽り無し、まさに日本最大級のイチゴ畑を有しているからこそ、一度も滞ることなく、Benoitへ「紅ほっぺ」をさらっと送り続けてくれるのです。熟度の違いや購入量も、担当してくださった方の「大丈夫です」という一言に、どれほど安堵したことか。そして、何よりも彼らのイチゴの美味しさは、Benoitが毎年のように購入していることが何よりの証ではないでしょうか。甘く豊かな香りをはなちながら、美しい輝かんばかりの赤い色、口中いっぱいに広がる味わい、甘さと酸味のバランスが素晴らしい。

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 今年の彼らのイチゴの完成度は、1月末にBenoitに届いた「紅ほっぺ」の箱を開けた時の香りが物語っていた。まだ、1月末にもかかわらず、やわらかな甘い香りがパティシエルームに満ち満ちたのです。これほどのイチゴであるならば…そう、今回のバジルのマリアージュが決まった時でした。

 メレンゲの軽やかにパリっと溶けてゆくかのような食感に、優しい甘さ。その上には、赤ずきんちゃんおもしろ農園の美味なる「紅ほっぺ」をたっぷりと。それも、完熟「紅ほっぺ」から仕上げた濃密なマルムラードをまとわせる。そこへ、バジル香るソルベで包み込みこみ、バジルを飾って完成を見る。バジルだけではイチゴと反目するどころか、全てがバジル風味になりかねない。このイチゴとバジルのマリアージュを仲介している、まるで仲人さんのような存在がライムだ!

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 アジア圏の統括シェフパティシエであるジュリアン・キンツラー。このマリアージュの妙は、フランス人ならではの発想なのか、はたまた、彼自身の経験がなせるものなのか。イチゴ尽くしのデザートも良いですが、今期のBenoit、イチゴデザートは、一味も二味も違う。間違いなく他の店舗ではお目見えすることはないでしょう。奇抜!と思うも、イチゴとバジルのマリアージュは思いのほか美味しい…ついつい癖になってしまうほどに…

 最後に皆様に伝えなければならないことがあります。バジルという個性豊かな食材を使うため、イチゴの味わいが力強くなくてはなりません。そう、どのイチゴでもいいというわけではないのです。Benoitが毎年のようにお世話になっている「赤ずきんちゃんおもしろ農園」さんは、名前こそ可愛いですが、彼らの育んだイチゴの品質は群を抜いています。Benoitが毎年のように購入させていただいている理由はここにある。

 赤堀さんは、毎年のように美味しい「紅ほっぺ」をBenoitに送ってくれます。しかし、いかに「「紅ほっぺ」というブランドを冠していても、イチゴは農産物であり、生育過程の気候によって毎年のように風味が変わります。日本人は、この違いを少なくしようと努力する。フランス人は、この違いがあることを楽しんでいるかのよう。ワインも農産物であり、同じ畑の同じ造り手でも毎年のように味わいが変わってくることを知っている。そのため、ワインのエチケットにはヴィンテージがはっきりと記載されている。日本酒は、瓶詰めの年月がエチケットの端に小さく印字されている…

 工場製品ではなく、農産物だからこそ、毎年のように違いがあっていい。「赤ずきんちゃんおもしろ農園」のイチゴは美味しいことは分かっている。Benoitが購入した第一便は、今年1月末のことでした。すでにこの時期にあり、赤堀さんのイチゴは香り高くコクのある美味しさを兼ね揃えていました。バジルとのマリアージュの着想は、今期の「紅ほっぺ」と出会ったからなのかもしれません。

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Vacherin fraise/basilic

静岡県産イチゴ“紅ほっぺ”とバジルのヴァシュラン

※ランチ・ディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートの選択肢で+800円(税込サ別)でお選びいただけます。

 

 過ごしやすい日々ではありますが、まだ「三寒四温」と表現される時期です。寒暖の差は、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくもの、油断はなりません。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com