kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年7月8月 Benoit特選デザート「ピーチ・メルバ」のご紹介です!

 平安時代の美的理念を表現する言葉に、風情がある、趣きがある、美しい、というような意味の「をかし」というものがあります。清少納言は、随筆「枕草子」の中でこの「をかし」をランク付けするように紹介していいます。その中で、「草の花は撫子(なでしこ)」と彼女は書き遺しました。

 

絵にかきて おとるのみかは 言の葉も あはれおよばぬ やまとなでしこ  松永貞徳

 絵で花の美しさ表現することに加え、言葉でもまったく実物には遠く及ばない…おっしゃる通りでございます。料理もまた、その美味しさを「言の葉」で書いたところで、言葉巧みに過剰表現をしてしまうと、それは詐欺師ということ。幸いに、自分はそこまでの国語表現力をもっていいないので、この点は安心です。

 どんなにきれいな写真を撮ろうとも、どんな美味しさなのかを言葉巧み表現したところで、実際に「ピーチ・メルバ2022」をお召し上がりいただいた時の感動には、「あはれおよばぬ」ものです。本当に美味しいと感じるものを口にした時、人は心の奥底から湧き出でる「美味しい」という言葉しか発することができません。どんなに美辞麗句を並べようとも、この一言に勝ることはできないでしょう。

 どれほど美味しいのかお伝えることはできません。しかし、どうしても皆様に2022年版ピーチ・メルバをお勧めしたく、自分の持ちうる言の葉を使い、それぞれのどのような「葉(パーツ)」であるのかを説明させていだきました。皆様には、それぞれの「葉(パーツ)」を知っていただき、どのような「樹(デザート)」であるかをご想像いただきたいです。新樹の時期にこそあい相応しい、コース料理の殿の大役を担うデザートです。

 2022年Benoitのピーチ・メルバは8月末まで!

 

PÊCHE MELBA

ピーチ・メルバ

※ランチとディナーともに、プリ・フィックスメニューのデザートとして+1,000円でお選びいただけます。

 

 選ばれし桃は、風味を損なわないように湯にくぐらせ、氷水へ。丹精込めて育て上げ桃の果皮を、至極丁寧に剥いてゆくのです。果実は果皮の内側と種のまわりに美味しさが集まっているもの。さすがに種は食べませんが、果皮は大切な素材なので、捨てることはいたしません。

 湯剥きして半実に割った桃は、種を取り除き、ステンレスのバットに並べ、熱々のラズベリージュースを注ぎます。まる一日、旅疲れを癒すように浸かっていただきます。煮込むわけではなく、余熱を利用することによって桃の持つ風味を損なわず、ほのかな甘酸っぱさを与えていくのです。毎日のように繰り替えされるこの作業によって、桃シーズン終わる頃ともなるとのBenoitパティシエールは皆、皮剥き種取り名人となるのです!

 一日経った桃は、これだけでも十分に美味しい。しかし、これではピーチ・メルバではありません。半実をBenoit自慢の器に盛り付けた桃の半実。種のあったくぼみに何やら得体の知れないものが見えます。昨年は、フランスから届いたペッシュ・ド・ヴィーニュのマルムラードを使いました。しかし、今期は不作のためフランスから届かない…これ幸いに、日本の桃で作ります。くし型に切ったものを4時間オーブンで焼き、セミドライへと仕上げた、なんともペタッとムニュっとした食感は病みつきになるマルムラード。そして種らしきものを砕いたものが上に…決して桃の種ではありません。香ばしいアーモンドなり!

 Benoitでは、バニラエッセンスの使用が禁止されています。理由は、美味しいから、とこの一言に尽きる。美味しさを追究するに、料理もデザートも「妥協をするな」と徹底されているのです。そのため、マダガスカル産のバニラビーンズをたっぷり加えてこしらえたアイスクリームは、バニラが香り濃密でかなり美味しい、もう一度言います、かなり美味しい。ピーチ・メルバでは、あくまでも脇役ですが、このバニラアイスクリームがあるからこそ、桃が冴える!

 甘さを減らし、極限まで軽やかにホイップした生クリームを、アイスクリームを包み込むように絞ってゆきます。どんなに熟練したパティシエでも、この段階で息を整える。あまりにも柔らかく繊細なクリームだからこそ、力加減に細心の注意を払わなければなりません。両の手で何度も感触を確認しながら、自らでタイミングを計っているかのよう。心の準備ができた後、息を止めながら全身全霊をもって絞り始める…失敗は許されない!

 Benoitのパティシエ-ルチームは、さらっとこなしていますが、今回のピーチ・メルバはなかなかに職人我を要求してきます。隙間なくアイスクリームが包み込まれた姿は、まるで桃が毛糸の帽子をかぶったようででもあり、感動すら覚えます。しかし、まだ終わりません。

 最後の仕上げに、クリームの上にハラハラッと茶色とピンク色の2種類を振りかけます。カツオと梅のふりかけ!…ではありません。茶色はアーモンドを細かくカットしたもの。そしてピンク色は、まるでヤマトナデシコの花びらのようですが、これは、桃の果皮をチップスに仕上げたものです。

 前述した通り、果実は、種のまわりと果皮の内側に美味しさがかたまります。さすがに種は食べれませんが、果皮を捨ててしまうことは、美味しさを減らしてしまうことに等しい。そこで、湯剥きした果皮は、桃を漬けていたラズベリージュースに潜(くぐ)らせて、オーブンでパリッと乾燥させてチップスにします。そう、これは飾りではなく、しっかりと美味しさの一要素です!

 

 どれほど自分が言の葉をならべようとも、どれほど美しい写真を撮ろうとも、このデザートの美味しさをお伝えすることはできません。「百聞は一見に如かず」とはよく言いますが、こと食べものについては「百見聞は一食に如かず」なり!2022年8月31日(水)までのご用意です。巷では「冷やし中華始めました!」ですが、Benoitでは「ピーチ・メルバ始めました!」です。このデザートを楽しまずして、今夏を終えることはできません。

PÊCHE MELBA

ピーチ・メルバ

※ランチとディナーともに、プリ・フィックスメニューのデザートとして+1,000円でお選びいただけます。

 

 いかに優れた調理技術を持ち得ようが、魔法使いや錬金術師でもない限り、素材そのものの持つ美味しさを超えることはできません。そして、粗悪な調理技術は、いとも簡単に素材の美味しさを失せさせます。なるほど!調理技術の研鑽を積むことは大いに大切なことあり、至高の逸品にはさらに美味しい食材が欠かせません。

 桃には多くの品種があり、それぞれに違った美味しさをもっています。いち品種の収穫期は約1週間。栽培農家さんは、単一品種では、管理・収穫に手が回らないため、多品種を植栽することで手間暇の分散と収穫期を延ばすようにしています。そのため、Benoitでは複数地域から随時購入します。

 Benoitでの桃との出会いは、一期一会ともいうべきものでしょうか。今日に楽しんだ桃が、明日には違う品種であり、違う産地になっています。しかし、それぞれがこだわりの栽培者が丹精込めて育てあげた桃だからこそ、美味しい桃であることに変わりはありません。ピーチ・メルバに仕上げた際に、濃厚なバニラアイスクリームや生クリームと一堂に会しても、桃の存在が失われるどころか、かえって冴えてくるのです。

 Benoitは、どの地から、どのような栽培者の方から桃を送っていただいているのか?皆様、気になりませんか?

~只今執筆中です!今しばらくお待ちください。~

 

 猛暑な日々が続いています。うだるような暑さは、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくものです。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、十分な休息と休養をお心がけください。そして、こまめな休憩と給水をお忘れなきように。

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com