kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年夏 Benoitの特選食材≪桃≫ 「山形県の滝口果樹園(タキグチフルーツガーデン)さん」のご紹介です。

 桜前線と同じように、桃前線も北上してゆきます。Benoitが桃を購入させていただいている北限は山形県です。仙台市から国道48号を西へ西へと向かい、山形盆地に入ったところに将棋の駒で有名な天童市があります。標高はゆうに240mを超えるこの地で、滝口亮輔さんが果樹園「タキグチフルーツガーデン」を切り盛りしています。

 桃の栽培は堆肥など有機物を多く使うこだわりよう。収穫は一気にしてしまわずに、一つの木でも4回くらいに分けて味がのったものだけを選びながら収穫してゆきます。そのため、常に出荷できるわけではなく、収穫のタイミングでそのときいいものだけを選ぶので出荷数が限られたりすることもしばしば。しかし、誰一人として文句を言わないのは、彼の育て上げた桃があまりにも美味しい上に、味にバラツキが少ないから。きっと滝口さんは、常に果樹園と真摯に向き合い、土地の土質やバランスを見極めているからなのでしょう。

 今年は、皆様ご存知のように8月の北日本の大雨は、滝口果樹園に対しても例外ではありませんでした。早生の品種である白鳳の出荷見送りという連絡が入ったのです。おそらく、多少は収穫があったと思うのですが、彼はBenoitへ送るに見合う品質ではないという苦渋の決断を下しましたのです。いつもであれば、9月末までBenoitではピーチ・メルバを皆様に提供しておりました。しかし、今期は8月末でこのデザートを終えようと考えた理由がこれだったのです。

 その後の天候の回復と、滝口さんの桃畑への迅速な対応により、晩生の川中島白桃が収穫できそうだとの報が届きます。毎年のように桃を購入させていただきながら、今期は「なし」なのかと危惧していただけに、この報をどれほど待ち望んでいたことか。そして、収穫が始まった!

 2022年は皆様に8月末までと公言していたこともあり、9月末までとはいきませんでしたが、滝口さんの川中島白桃を購入できた分のみ、ピーチ・メルバの提供を継続いたしました。いつもであれば、最後の追熟タイプの「さくら白桃」まで続けるのですが、今期は9月半ばでBenoitの桃デザートは終わりを迎えました。

 本来であれば、他の桃農家さんのようにご紹介をしなければいけないにもかかわらず、自分の怠慢から書き上げることができませんでした。来年に、滝口さんより多くのお話を伺い、皆様にご案内をさせていただきます。自分の怠慢によるもので、決して書くに足らない栽培者というわけではありません。この場をおかりし、深く深くお詫び申し上げます。

 

 遅きに失した感は否めませんが、6月半ばからBenoitへご尽力いただいた桃栽培者の方々を、ご紹介させていただきます。南は熊本県から、北は山形県まで。桜前線ならぬ桃前線の北上を追うようにBenoitに届く桃は、どれもが素晴らしい逸品でした。悪天候のため品質ままならず、栽培者の「Benoitへ送る品質ではない」との判断から、出荷断念と涙を呑むこともありました。

 それぞれの桃栽培者の方は、「美味しい桃を育て上げる」という志は同じでも、そこに辿り着く道のりが違うため、桃畑の姿が違います。旅行をするようにお楽しみいただけると幸いです。

 

 和歌山県紀の川市桃山町。自分が初めて桃の産地直送に踏み切ったのが、豊田屋さんとの出会いでした。半農半医という栽培を担う豊田さんには、多くを学ばせていただきました。無謀とも思える「無農薬栽培」に果敢に取り組む姿には感銘を覚えます。彼よりいただいたメッセージが心に響く…

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 桃探しも南へ南へと向かい、辿りつた先が熊本県の西川農園でした。お父様の代までは主力産物はメロンでした。しかし、現園長である西川さんが引き継ぐと同時に一念発起し、桃栽培が始まります。「園長?」、そうここに西川さんの桃栽培に対する思いが詰まっています。

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 香川県の大西さんは、桃名人の名声を得ながら、「桃が美味しくなるのを手伝っているだけです」とさらり語る。そんなわけはない!彼の桃に対する愛情は並々ならぬものがあり、夜中でも桃畑のお世話のために山に入る。齢80歳、とうとう今期をもって桃栽培は引退するという…

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 岐阜県飛騨高山で果樹園を営む亀山さん。桃名人とうたわれる父からバトンを受け、見事に果樹園を盛りたてています。交錯するご家族それぞれの想い、葛藤があった中で、彼は引き継ぐ決意をします。父の背を見ながら、彼ならではの新たな道を模索する。彼が名人と呼ばれる日も、そう遠くはないでしょう。

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 秋になり、初めて感じる涼しさを「新涼(しんりょう)」や「初涼(しょりょう)」というようです。温度計という便利なものがあるために、数字というものに縛られてしまい、体感できる涼しさを忘れてはいないでしょうか。ヒグラシの声はもちろん、夜な夜な奏でるスズムシやコオロギの音色もまた忘れてはいけません。そして、秋の風は、秋の薫りも運んできます。ここはひとつ、文明の利器を遠慮し、五感を利かせて秋を探してみるのも一興ではないでしょうか。そして、秋の味覚が恋しくなった際には、足の赴くままにBenoitへお越しください。深まり行く秋と歩調を合わせるように、旬の食材がメニューをもって皆様をお迎えいたします。

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com