kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年3月 Benoitミュージックディナー「フレンチでタンゴ」のご案内 ~前編~

 人間の歴史を紐解いてみても、言葉という意思疎通のできるツールが無くとも、リズムを奏で、踊ることで神々と語り、感謝の気持ちを伝え、未来を占ってもらおう、もしくは導いてもらおうとしていることがわかります。力強くもリズミカルな太鼓の音に高ぶる気持ち、激しい舞を躍ることで神と一体化する儀式。神々への畏怖・畏敬の念から、愛情表現へと変わってゆくことは自然の流れであったはずです。そして、人々が切磋琢磨することで、至上の高みへ達した時、我々を魅了して止まない芸術となる。その一つが、「アルゼンチンタンゴ」なのでしょう。

フレンチでタンゴ

 こう銘打って始めたBenoitのタンゴイベントが、当初は「なぜ?」と疑問が多かったことは事実です。しかし、コロナ禍によって空白の3年間を挟みながら、今10回目を皆様にご案内できるということは、フランス本部の承認を得ることができたということです。どうして?この疑問はこのご案内の末尾に綴ってみました。それよりも、こうも継続して開催できたということは、皆様のご期待にお応えできるパフォーマンスを実現できたことを物語っています。そう、皆様には音楽と舞の共演を、お食事も含め、五感を通してBenoitでお楽しみいただこうと思います。

 今宵、皆様をアルゼンチンタンゴの世界へと誘(いざな)います…

Benoitミュージックディナー アルゼンチンタンゴ

日時:202337()8() 18:00より受付開始 18:30開演

料金:ダンススペース周辺のお席をS席、少し離れたA席をご用意させていただきます。

S席24,000

A席19,000

ともに、表示価格はパフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料/税込です。

 

ダンサー:クリスティアン&ナオ

ピアノ:サッコ香織

バンドネオン川波幸恵

ヴァイオリン:専光秀紀

※昨今の不安定な環境下のため、開催日や出演者が変更になる可能性がございます。

 

 当夜は18:30より、食前酒を楽しみながら第1部(約30分)ほどお楽しみいただきます。そして、その余韻に浸りながらBenoitのお食事がスタート。デザートまで提供終了後に、第2部(約40分)を始めます。パフォーマンスとお食事をきっちり分けることで、どちらも十分にお楽しみいただけます。

 質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。席数に限りがございます。ご予約はこのメールへの返信、もしくはBenoit(03-6419-4181)にご連絡いただけると幸いです。

 

 今回のダンスペアは、堤崎尚子さんとCristian Andrés Lópezさんです。2008年よりクリスティアン&ナオとして本格的に活動を開始し、翌年には世界選手権サロン・ステージ両部門でのファイナリストにまで上り詰める。さらにここから2012年まで4年連続、両部門ファイナリストという快挙を成し遂げるのです。

 情熱的・官能的でアクロバティックな踊りがタンゴダンスを思ってしまうのですが、彼らの舞を目の当たりにすることで、このようなタンゴのイメージが瓦解するのは必須。タンゴダンスの原点は「abrazo(抱擁)の舞」、彼らは我々に「パートナーと共に歩む」ことの大切さを伝えようとしている。

 しなやかながら機敏に流れ、一糸乱れぬ見事なステップの織りなす彼らの華麗なるダンス…感情のぶつけ合いや、挑戦的な行為を全て削ぎ、パートナーの優しさを感じることで、共鳴する感情を表現する。水の流れのように…清流のごとく美しくも繊細にしなやかに。さらに、緩急を織り交ぜながら…そうかと思えば、時の流れとともに大きな川へと変わり、緩やかながらも随所に見せる力強さ。そして母なる海へと導かれ、全てがまとめあげられ、見るものに感動と安堵感を与える。これが彼らの表現する舞です。

 飛ぶ跳ねる投げるなどのアクロバティックなものは、華やかに感動を思えるものですが、一見で十分です。彼らのダンスは「魅せる」ものであり、見とれるほどに美しい。登場の度に雰囲気を変え、飽きさせることはありません。だからこそ、アルゼンチン、ブエノスアイレスの有名なタンゲリア「Rojo Tango」のレギュラーダンサーとして活躍できていたのでしょう。

 本場の素晴らしさを体感していただきたく、タンゴの音を担っていただくのは、アルゼンチンタンゴバンド。Benoit開催の初回から、毎回趣向をこらした内容で皆様にタンゴミュージックを披露してくれるバンドを率いるのが、Sacco香織さんです。アルゼンチンでの経験はもちろん、日本で活躍するものの、さらなる高みを目指し、活動拠点をイタリアに移しました。そう、今回は彼女の来日を調整していただき、実現できたことなのです。

 そして、タンゴ独特の音色を奏でるバンドネオンは、2015年アメリカで行われたバンドネオン奏者世界一の栄誉に輝いた川波幸恵さん。悪魔の楽器と評されているバンドネオンを操り奏でる、世界が認めた彼女の音色は必聴です。そして、華やかなふくらみを与えるヴァイオリンは、専光秀紀さん。馴染みの楽器でありながら、タンゴ独特の奏法により音色は、ところどころで深い味わいを残します。

 今回のタンゴトリオについては、「≪フレンチでタンゴ≫のご案内~後編~」でご紹介させていただきます。こちらへのご案内は、以下の余談の後にご案内させていただきます。なぜ?アルゼンチンタンゴをフレンチのBenoitで開催できたのか。意外に知られていない歴史がそこにはありました…

 

余談ながら、Benoitのタンゴイベントは、同スタッフ河野のこの一言から始まりました。

アルゼンチンタンゴに興味はありませんか?」

 「人前で歌うな」という家訓があるほど、タンゴに限らず音楽に関して、自分はまったくといっていいほどに無知であるといってもいい。しかし、彼女の熱意と自分がイベント好きの性分だからなのか、Benoitでの開催に挑みます。しかし…

 Benoitの華やかな内装の中で、タンゴのメロディーが奏でられダンサーが舞うことを想うと、皆様の感動を得ることには確信がある。しかし、Benoitという名前を冠しているだけに、料理はもちろん、何かイベントごともフランス本部の許可が必要です。タンゴはアルゼンチンを代表する音楽文化だけに、フランスからの承認を得ることができるのか?という不安が拭えませんでした。そう、皆様もフランス料理店でアルゼンチンタンゴ?という疑問を抱いたかと思います。

 そのような悩みを、営業中に笑いながら吐露していた日々が続く中で、一筋の光明が差すことになるのです。Benoitでお会いすることができて、ゆうに12年は経つでしょうか、そのフランス人紳士が自分に教えてくれたのです。「違う違う!フランスとアルゼンチンタンゴは関係深いのだよ!」と。

 かつて、アルゼンチンが軍事政権であった時代、多くの芸能者が迫害から逃れるかのように国を追われます。その彼らが向かう先のひとつが、フランスのパリでした。フランスは、自国の文化に大いなる自信がるからこそ、寛容なのでしょう。パリの人々は、彼らを受け入れ、彼らの才を楽しむように活動を支援してゆくのです。

 そして、アルゼンチンの軍事政権が倒れることで母国へ戻ることができるようになります。彼らの芸能は、フランスで継続していたからこそ、その才が錆びることなく、さらに磨きがかかったかのような輝きをはなっていた。軍事政権で疲弊していた人々に希望と夢を与えることができ、アルゼンチンタンゴの隆興を迎えることになります。

 バンドネオン奏者であり、名作曲家とし名声を博している、アストル・ピアソラも、フランスで開眼したひとりです。彼はアルゼンチン生まれですが、両親の仕事の関係でニューヨークで幼少期を過ごします。父親がタンゴ好きということが功を奏して、馴染みにある音楽がタンゴ。そして7歳の誕生日にバンドネオンをプレゼントされます。母国アルゼンチンに戻った彼は色々なオーケストラでバンドネオン奏者として頭角を現します。

 しかし、彼は古いスタイルのアルゼンチンタンゴに馴染めず、独自のスタイルを追求すべくフランスへ。クラシックの作曲を勉強したく渡仏したピアソラですが、どうもしっくりこない。ナディア・ブーランジェ先生から、「本来の自分の演奏してみなさい」と言われ、タンゴを披露した所…「これがあなたの音楽よ」と喝破されるのです。それから彼は彼独特のタンゴをどんどん作曲していくことになります。

 当時、ピアソラの楽曲はアルゼンチンには受け入れられず、「タンゴの異端者」とまで酷評されます。しかし、時代とともに評価が変わり、いまでは偉大なタンゴの作曲家に名を連ねています。この彼の才能を見出し、後押ししたのが、そうフランスだったのです。

 

 アルゼンチンタンゴをフランス料理店のBenoitで開催できた理由が、少しばかりお分かりいただけたのではないでしょうか。後付けのような話ですが、この事実を知ることで胸を張ってフランス本部へ提案し、二言返事で承認を得ることができたのです。そして、「フレンチカンカンは?」と提案されたのですが…「Mmmm~」さすがにBenoitではないですかね。

 さあ、「フレンチでタンゴ~後編~」では、アルゼンチンタンゴの真髄ともいえる「音」を担うタンゴバンドをご紹介させていただきます。各々のプロフィールも綴っております。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com