kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年5月Benoit 佐渡ヶ島のヒラメが、お相手に選んだのはホワイトアスパラガスなり!

 この時期にヒラメ?とお思いの方は、太平洋側にお住まいの方でしょう。新潟県では今から旬を迎えるのです。それも今回は佐渡ヶ島から直送という、なんとも贅沢な逸品がBenoitに届いているのです。

 彼の島は、東京二十三区合わせた面積よりも大きい。確かに、日本地図を見ると、見事な大きさで島が描かれている。これほどの大きさを誇りながら、九十九里浜のような広大な浜辺などは皆無で、大粒の砂が輝く狭き浜辺が点在するだけ、多くはごつごつと岩肌むき出しの岩礁地帯に囲まれているような島です。そのため、佐渡ヶ島の海岸域は、我々に見事なまでの景観を楽しませてくれます。

 その海岸域の延長でもある海の中は、海に生きる生物にとってなんとも居心地のいい住環境を提供してくれています。さらに、南からの対馬海流が多くのプランクトンを運ぶことで、豊かな食環境をもたらす。この理想的な「衣」のない「食住」は、海中生物の見事なまでの食物連鎖を形成することになります。プランクトンを食餌とする小魚や甲殻類が育まれ、それらを捕食する大型魚が幅を利かすようになる。人の体は食べたもので作られる、もちろん魚も同じこと。美味しい食餌で育まれた上に、海流にもまれにもまれたヒラメが、まず美味しくないわけがありません。

 佐渡ヶ島のマルヨシ鮮魚店の石原さんによって選ばれたヒラメは、彼の手によって神経〆の後に、丁寧に捌(さば)かれBenoitに直送されます。彼の目利きと仕事の丁寧さを、Benoitシェフの野口は絶賛している。実際に二人は会ってはいないが、ヒラメを仲介することで、それぞれの分野でのプロフェッショナルだからこそ気づくのでしょう。

 佐渡ヶ島近海のヒラメは、ぶりぶりの身質に旨味がのっている。新潟では、やはりお刺身でいただくことが多い。そこで、シェフの野口は考えた、「ショードレという料理は煮込み料理だが、これでは佐渡のヒラメの美味しさを損ねてしまう」と。さっと表面だけを焼く、そう焼ききらないことでヒラメのもちうる美味しさを生かせるのだ。

 このヒラメと一堂に会するのは、ホタテガイとハマグリ、そして忘れてはならないのが、フランスより届いたホワイトアスパラガスです。とホタテガイも、ヒラメ同様に、さっと表面を焼き上げます。ハマグリは、白ワインで蒸し焼きに。ホワイトアスパラガスは、ランド県の砂地で育まれた類まれなえぐさを生かすため、シンプルに茹でたもの。ハマグリを蒸し焼きにした際のスープに、魚のスープを加え、さらにクリームを少々。このスープこそが、この料理の決め手となる!

Chaudrée de turbot et coquillages, asperges blanches

佐渡ヶ島産ヒラメと貝のショードレ フランス産白アスパラガス

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、主菜として+1,500円でお選びいただけます。

 

 ショードレとは、フランスの漁師料理のひとつ。魚を知り尽くしたフランス漁師さんの料理と言えば、南仏の「ブイヤベース」があまりにも有名です。しかし、なにも漁師さんは南だけにいるわけではなく、もちろん北にもいる。彼らの漁師料理の中でも、ロワール地方の伝統料理が「ショードレ」です。

 海での一仕事を終えた漁船が港に着岸すると、すぐに魚の選別が始まり市場へと卸されます。この時に、美味しいけれど雑魚(ざこ)呼ばれる魚や、個体が小さすぎたものは、市場へは向かわず漁師さんの手元に残ります。そこで、彼らは考えたのでしょう…どうやったら美味しく簡単に食べることができるのか、と。

 南仏であれば、特産のトマトやオリーブオイルを使うことは想像に難くはありません。では、北フランスはというと、言わずと知れた酪農の産地です。牛乳やバターにクリーム…そう、現地のショードレは、多種多様な魚をミルクで煮たものです。しかし、そこはBenoitですから、魚文化の日本らしく美味しさを追求した結果、魚介は魚介、スープはスープと別々にこしらえる今のスタイルにいたしました。

 まったくもっと余談ですが、はてなブログのレストラングループに参加してみました。「面白かったよ」と思っていただけたのであれば、ぽちっと下のバナーのクリックをお願いいたします。

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もします。これでは不十分であることは、すでに皆様ご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 「春」とはどのような季節なのでしょうか。薬膳の先生の言葉を借ります。「春は陽気に誘われるかのように、気持ちが上ずってしまう時期です。」確かに、寒い冬が終わり、ぽかぽかともなると、花粉症で苦しむ中でも気持ちが高ぶってくるものです。しかし、この高揚感に、身体がついてゆかず、心と体のバランスが崩れることで体調不良を引き起こしてしまうのだというのです。

 そこで、気持ちの高ぶりを落ち着かせるために、薬膳では春には「香りの良いもの」を取り入れる。往古、この時期の日本では山菜を楽しむ習慣があります。この春を代表する山の幸の「やさしいほろ苦さ」も同じ効用だといいます。そして、「シェフは薬膳を知らないと思うけれど、旬の食材で組み立てる料理こそが薬膳の考え方そのもの」なのだと。

 季節が過ぎ去ってゆくように、柑橘も品種を変えながら、産地も西から東へと、順を追って終わりを迎えていきます。さあ皆様、香り高く心地よい酸味の利いた柑橘を、食生活の中に取り入れませんか。美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。疲労困憊の時には、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

 過ごしやすい日々ではありますが、まだ「春に三日のはれなし」と表現される時期です。この不安定な天気は、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくもの、油断はなりません。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com