kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年8月9月Benoit 「エイヒレのムニエル グルノーブル風…いったいどんな料理?」

 雄大な大海原を、まるで自らの優雅な時を謳歌するかのようにゆったりと羽ばたくかのように泳ぐマンタの姿は、海の中だからという理由以外にも、魅せられた者に得も言われぬ涼しさを与えるものです。このマンタ、正式名称は「オニイトマキエイ」といい、その姿からも想像がつく通りエイの仲間で、エイ目トビエイ科に属します。エイの多くは、羽ばたくように泳ぎはするものの砂地の海底で佇(たたず)んでいたり、ゆらゆらと海の底でエサを探していたりもします。オニイトマキエイは、休憩の時すら水面近くで浮いてるといい、トビエイとは生態を熟知しているからこその的を射た命名ではないでしょうか。

 今回の特選食材は、もちろんトビエイのマンタではありません。海底で佇んでいる方のエイ、「ガンギエイ」です。聞きなれない名前ですが、意外にも身近に生息しています。上の画像は、池袋のサンシャイン水族館の大水槽を優雅に泳ぐガンギエイ。おや?身近ではあるが水族館ではない意味がない…実際に三崎漁港で水揚げがあることは確かです。

 日本の食用エイでは、「アカエイ」が主流です。背と腹で圧し潰されような縦扁(じゅうへん)という平らな姿は、皆様が思い描くエイと合致するのではないでしょうか。体と区別がつきにくい、まるで両翼のような部位が胸ビレで、ここが「エイヒレ」であり、「カスベ」という名前で北海道や青森を中心に流通しているようです。北海道の方言では、エイのこと「カスベ」というらしい。

 アカエイは、高さの低い縦扁の姿なために、このエイヒレが大きくて薄い。そのため、焼くというよりも、煮付けにすることが多いようです。乾燥させたものを焙って食べる「エイヒレ」は、酒の肴(さかな)として周知されている逸品ではないでしょうか。

 日本では、「エイヒレ」といいますが、フランスでは「Aile de Raie (エル・ドレ)※難解なRの発音!」です。「Raie」はエイのことを意味しているので、これは「エイのaile」ということに。では、この「aile」はというと…決して「ail(アイユ)」のニンニクではありません。「aile(エル)」は「ヒレ」ではなく「翼」という意味です。胴体と区別がつきにくい「胸ビレ」よりも、海中を優雅に羽ばたくかのように泳ぐからこそ、「エイの翼」なのだと。確かに、こちらのほうがしっくりくる気がします。

 食材として認知されながら、国内で乾物以外の流通量が少ないのはなぜなのか?見た目の姿などではなく、毒針を持っているからでもない、エイは鮮度が落ちてくると、腐敗ではなくアンモニア臭を発する特徴があるからです。アンモニア臭では、食欲がわくというよりも、人々に嫌厭(けんえん)されてしまう刺激臭ですから…。しかし、このアンモニアの生成がエイを伝統料理として成り立たせた理由でもあるのです。え?どういうこと…詳細は、もう一つのブログ「なぜ山岳都市グルノーブルの伝統料理で、なぜエイなのか?」を参照ください。文末にご案内先を添付いたします。

 

 エイの話はこのあたりの終え、Benoit自慢のエイ料理をご紹介してゆきます。もちろん使うエイは、「アカエイ」ではなく「」ガンギエイ」です。このエイは、両翼がコンパクトなため厚みがある。まして、ブルターニュ地方の北に広がるドーバー海峡の激しい海流にもまれにもまれたいるからこそ、さらに肉厚な「Aile de Raie (エイの翼)」でこしらえてゆきます。

 日本からは地球の地軸に対してほぼ反対に位置しているフランスから届くのですが、前述したように、エイは鮮度が重要。そこで、現地で捌かれた後、間髪入れずCASシステムと呼ばれている瞬間冷凍の技術を利用します。そして、「エイの翼」は飛行機の翼を利用し飛んできたのか、はたまた船に揺られて来日したのか、とにもかくにもBenoitに届いています。余談ですが、船の舵(かじ)も、なんとなく「エイの翼」のように見えなくもない…

 我々には「エイヒレ」という名前の方が分かりやすいので、以下エイヒレという表現で書かせていただきます。「エイヒレ」は、白身ではあるのですが、鰭(ひれ)だけに、カレイやヒラメのエンガワに似ているでしょうか。その鰭を支える軟骨がはさんでいるふるふるっにぷるっという身が、熱が加わることでほろほろっとほぐれるような身質。ただし、硬骨魚類ととは違いちがい、大きくて厚いからこそ食べ応え満点なのです。ぷるっということは、そう、「コラーゲン」がたっぷり。さらに、エイヒレの軟骨も、コリコリと口中を楽しませてくれます。

 Benoitでは、このエイヒレをフランスの伝統料理でありながら、ビストロ料理として確固たる地位を確立している、「グルノーブル」というスタイルに仕上げます。

ココットの中にたっぷりのバターを加え、ゆっくりと溶かしてゆきます。ふつふつと泡立つのと同時に、バター特有の甘い香りが立ちのぼる。そこへ、丁寧に下ごしらえを施したエイヒレを入れる。ジュワジュワッと心地良い音がココットから漏れ出で、香りにも磯の雰囲気が加わったかよう。熱々のバターを、スプーンを使ってエイヒレの上から幾度となくふりかける。ココットにスプーンが当たるカシャカシャという音の後に、ピチピチッとバターの気泡が弾け、かぐわしい香りが周囲にはなたれます。

 エイヒレにしっとりと熱が入った後に、その旨味が加わったバターの中へケッパーとレモン、そしてクルトンを加えます。香ばしいバターの風味に、ケッパーの旨味とレモンの心地よい酸味が加わり、その美味しいソースがカリカリのクルトンに染み入る。これをエイヒレにまとわせるようにして完成。これぞ、グルノーブル料理なり。

Aile de raie à la grenobloise, blettes juste tombés

フランス産エイひれのムニエル グルノーブル 不断草のソテー

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、主菜として+1,500円でお選びいただけます。

 

 「グルノーブル」と耳にして、なにやら聞いたことのある名前だと思った方も多いのではないでしょうか。そう、かつて冬季オリンピックを開催したフランスの山岳都市「グルノーブル」のこと。なぜ、海産物のエイが、山岳都市グルノーブルの伝統料理「エイひれのムニエル グルノーブル」として、人口に膾炙(かいしゃ)しているのか?

 この謎を、少しばかり紐解いてみました。お時間のある時に以下より別ブログをご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もしますが、これでは不十分であることを、すでに皆様はご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 その旬の食材を美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。さあ、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

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 ついに関東梅雨明けです。今後さらに続く猛暑な日々は、思いのほか我々の体力を奪ってゆくもの。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、十分な休息と休養をお心がけください。そして、こまめな休憩と給水をお忘れなきように。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com