kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

「五月雨」は、なぜ「さみだれ」と読むのでしょうか?

 関東「梅雨入り」を迎えました。雨が降り続いたかと思うと、一時の「梅雨の中休み」もあります。この梅雨前線の気まぐれに一喜一憂する日々を過ごされているのではないでしょうか。この梅雨時期の雨のことを、古人は「五月雨」と名付けました。そして、この雨の降り方になぞらえて、とぎれながらも何度か続けて行う様を、「五月雨式に」という表現まで、誕生しています。

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 「五月雨」は、「さみだれ」と読むことは周知の事実。これほどの難読漢字を「ごがつあめ」と読む方が少ないほど、我々日本人に定着している不思議な言葉だと思いませんか。五月雨は梅雨のことを指し示すのですが、5月に梅雨?という違和感を差し置いて、不思議なほどに違和感なく受け入れている面白い言葉です。

 明治時代に旧暦(月の周期)から新暦(太陽の周期)へ移行する際に、1か月ほどもズレの生じる誤差がありながら、六月雨と書き換えずにそのまま残すあたりは、「漢字」そのものよりも「読み」に大切な意味があるからなのか。「五月」を「さつき」読みます。ところが、漢字の語源辞典を紐解いてみても、「五」に「さ」の読みはありません。「さ」の月が、5番目の月だった…はて、「さ」の月とは?

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 古人は、田の神を指し示す言葉を、いや口にする音を「さ」としていたようです。以前にも書きましたが、「すわる場所」のことを「座(くら)」といい、田の神が山より舞い下りる場が、「さ・くら」です。農耕民族である日本人が、桜の開花を待ち望む理由は、古人より連綿と受け継がれてきた「田の神」信仰が、知らず知らずにDNAに刻み込まれているからだと考えています。田の神が舞い降りたことへの感謝の気持ちと、豊穣を祈念する「お祭り」こそ、「花見」のルーツなのだといいます。

 収穫の源でもある、田植えのための稲を「早苗(さ・なえ)」と呼び、田植えを担う女性を「早乙女(さ・おとめ)」と言います。過ぎ去りし五月五日は「端午の節句」でした。今では三月三日の「ひな祭り」と対をなす男の子のお祝いとして定着していますが、かつては女性のための日でした。

 今では、田植え機の登場で、過去とは比べ物にならないほどスピーディーになった「田植え」ですが、かつては手植えであり、途方もない時を要しました。家族はもちろん、親族や、村仲間も含め、一丸となって取り組まねばならなかったはずです。そして、この重労働の主たる担い手が、前述した「早乙女」です。

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 実りをもたらす神聖なる「田」に、田の神の息吹のかかる「早苗(さ・なえ)」を「早乙女(さ・おとめ)」が手植えをしてゆきます。そこで、田植えを前に「穢(けがれ)をおとす」ために、早乙女たちが身を清め「何もしない」日が必要になります。それが、5月5日でした。この日は、村中の田植えの担い手である、女性たち「早乙女」は、家事など一切何もしてはいけない安息日であり、その代わりに、男共があくせく働かなければいけない日なのです。まさに、「女性天下の日」だったのです。そして、翌日から「田植え」が始まります。

 五月は、大いなる実りを得るための大切な「田植えの月」であるということ。「早苗月(さ・なえづき)」ともいわれますが、これほど重大イベントであるからこそ、余計な言葉を省き、「さ」の月と命名した。旧暦の中で5番目が、その「さ」の月に当たったのです。だから五月を「さ・つき」と読みようになったのだと。もちろん、異論諸説があるかと思いますが、自分のように余計な知識が無い分、素直に受け取れるのがこの説でした。

「水田」というほどに、稲作には豊富な水資源を必要とします。古人は、この水資源確保のために、果敢に灌漑に挑戦し続けてきた歴史があります。特に、田植え時には豊富な水を必要とします。山間を流れる清流はもちろん、降り続ける雨もまた、貴重な水資源です。

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 灌漑用水路が整うまでは、田植え時期に降り続ける大量の雨は、まさに恵みの雨であったはず。そこで、「さ」の月の雨を、「さ・みだれ」と命名しました。「さ」は前述の通り、「みだれ」は「水垂れ」と書き記すといいます。「さ・みだれ」は、五月に降る雨なので、「五月雨」である。

 「五月(さ・つき)」も「五月雨(さ・みだれ)」も、かくも美しき響きをもっていることでしょうか。

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 さて、五月(さつき)の話を書きながら、Benoitからのご案内は「6月と7月のお勧め情報」についてです。旧暦と新暦の誤差が生み出した違和感です。ご容赦のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 6月と7月のプリ・フィックスメニューは、一部が変更になるのみで、大きくは変わりません。そこで、皆様にお勧めしたいものをダイジェスト版として、特別プランと共にご紹介させていただきます。全ての料理を語りたいのですが、今回は厳選させていただきました。

kitahira.hatenablog.com

 

 目に見えないウイルスに対し、医療従事者の皆様は身の危険を顧みず最前線で奮闘してくださっております。新薬開発に向け、寝る間も惜しんで研究を重ねている方々がいらっしゃいます。物流を途絶えないように、そして生活必需品を滞りなく取り揃え我々に提供してくださる方々がいらっしゃいます。彼ら皆様を支えてくださっている保育園や学童、役場など、多くの方々がいらっしゃいます。

 今までの日々の生活が、知らない方々の尽力の上で成り立っていることに気付かされます。この場をお借りし、深く深く御礼申し上げます。Benoitは、営業時間延長を決定いたしました。これまでの皆様の努力を胸に刻み、細心の注意をもって、日々最善を尽くすことをお約束いたします。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

6・7月の「特別プラン」と「お勧め料理ダイジェスト版」のご案内です。

 日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、自分よりご案内している長文レポートに目を通していただけている皆様の労に報いるため、≪初夏特別プラン≫を延長させていただくことにいたしました。

 期間は、メールを受け取っていただいた日より、20207月末まで。ご予約は、自分へのメールをご利用ください。土日や急ぎの場合には、以下のBenoitメールアドレスより、もちろん電話でもご予約は快く承ります。

www.benoit-tokyo.com

 

ランチ

前菜+メインディッシュ+デザート

3,800円→3,530円(税サ別)

ランチ

前菜x2+メインディッシュ+デザート

4,800円→4,460円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+デザート

6,100円→5,680円(税サ別)

ディナー

前菜x2+メインディッシュ+デザート

7,100円→6,600円(税サ別)

プリ・フィックスメニューの料理内容は、当日にメニューをご覧いただきながらお選びいただきます。ご希望人数が8名様以上の場合は、ご相談させてください。

 

 さて、6月と7月のプリ・フィックスメニューは、一部が変更になるのみで、大きくは変わりません。そこで、皆様にお勧めしたいものをダイジェスト版として、皆様にご紹介させていただきます。お伝え足りないことは、日を改め詳細を書き記そうかと思います。全てを語りたいのですが、今回は厳選させていただきました。

 

≪何も足さず、何も引かず…Benoit自慢のフォアグラのコンフィ7月末まです!≫

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 鴨のフォアグラ、塩、鴨の脂、この3つの素材を使い、3週間という時の長さを必要とする、アラン・デュカスのスペシャリテでもある至高の逸品です。口の中の温かさでとろけるようなフォアグラの仕上がりと、素材の持つ旨味を十二分に引き出した美味しさは、他のフォアグラのコンフィは味気なく感じてしまうことでしょう。この詳細は、後日にお話させていただきます。

 なぜ、アラン・デュカスが巨匠と称されているのか、垣間見ることができるはずです。

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FOIE GRAS de canard confit, pain de campagne toasté

フォアグラのコンフィ パン・ド・カンパーニュのトースト

(追加料金 ランチ+1,500円 ディナー+1,000円)

※7月末まで、ランチ・ディナーのプリ・フィックスメニュー前菜として、お選びいただけます。

 

≪夏の暑さを払拭してくれる、爽やかな「ギリシャ風」前菜です。≫

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 マダイは、表面を炙るようにすることで、香ばしさを加え旨味を引き出します。しかし、この前菜は、マダイを凌駕する野菜の美味しさが際立っているのです。セロリ、ニンジン、タマネギ、カリフラワー、それにラディッシュ。レモンにコリアンダーの種を使い、絶妙な火加減で調理してゆき冷蔵庫で休ませます。コリアンダーパクチーのことで、苦手の方の多い香草かと思います。しかし、このコリアンダーの種は、うんともすんともいわない味気ない食材。ところが、野菜とともに熱を加えることで、野菜本来の甘さを引き出すのです。

 野菜それぞれの食感がリズミカルに口中に響き、野菜それぞれが甘さ旨さの旋律を奏でます。さらに、グレープフルーツの甘ほろ苦さ、マダイの美味しさが一加わることで、皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)います。Benoitの窓越しから、エーゲ海を望めるかもしれません。

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DORADE marinée, légumes à la grecque

真鯛と野菜のマリネ ギリシャ

※7月末まで、ランチのプリ・フィックスメニュー前菜として、お選びいただけます。

 

プロヴァンス地方の夏を代表する料理「ラタトゥイユ」が登場です、≫

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 夏野菜を代表するナス、ズッキーニ、パプリカをトマトで煮込んでいったプロヴァンス伝統料理です。家でも作りやすい料理だからこそ、Benoitらしい「こだわり」を随所に加えてゆきます。

 ナス、ズッキーニ、パプリカとタマネギは、それぞれを絶妙な食感を残すように焼いてゆき、香ばしさと内包する野菜本来の旨味を引き出します。それらの夏野菜と、完熟まで収穫を待った真っ赤なパンパンのトマトが、大鍋で一堂に会する。くたくたと煮込むことは、それぞれの野菜の甘さ凝縮させることになり、甘みが増します。さらに、冷ますことで、味わいが落ち着き、野菜のコクが際立ちます。松の実を加えることで、カリっと心地良い食感と、夏なのでナッツの香ばしさを。ともに盛り付ける半熟卵の、とろりとくる黄身との相性も抜群です。

 良く知っている料理だからこそ、Benoitのラタトゥイユの美味しさを感じ入っていただけるのではないでしょうか。この美味しさに酔いしれた時、宵(よい)のBenoit窓越しから、月夜に照らされた地中海を望むことができるやもしれません。

 パリの赤ペン先生がフランス語表記を修正してきました。「légumes d’été (夏野菜)」から「légumes du soleil (太陽の野菜)」へと。なかなか粋な表現だと思いませんか?

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Ratatouille de légumes du soleil, œuf mollet

夏野菜の冷たいラタトゥイユと半熟卵

※7月末まで、ディナーのプリ・フィックスメニュー前菜として、お選びいただけます。

 

≪イサキが夏の到来を教えてくれます。≫

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 夏の訪れを教えにBenoitにやってきた「イサキ」。このパンパンの体系が、旬の美味しさであることを教えてくれているようです。魚の鮮度は目の澄み具合で推し量るといいますが、イサキ鮮度に関係なく目が白濁するといいます。

 Benoitだけに、お刺身で楽しむわけにはゆきません。丁寧に下ごしらえされた、見るも美しい切り身に、最後の一手間をかけることになります。「焼き」という、簡単そうで奥の深い最後の工程です。食材が持ちうる美味しさが、下ごしらえが、全て水泡に帰するかもしれません。「生」ではないが焼き過ぎない。言うは易く行うは難しとは、このことでしょう。職人としての経験に裏打ちされた「焼の技」が、イサキのさらなる美味しさ引き出すのです。

 ランチでは、夏の魚だけに青々とした夏を代表する野菜を添えたいものです。中でも、イサキの下に広げた、ズッキーニを荒く叩くように仕上げたものは、ズッキーニの甘さと心地よい酸味で仕上げたもの。インゲン豆、スナップエンドウ、スティック・ブロッコリー空心菜がイサキの美味しさを引き立てます。

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ISAKI au plat, légumes verts, sucs de cuisson

イサキのソテー 緑野菜

※7月末まで、ランチのプリ・フィックスメニュー主菜として、お選びいただけます。

 

 ディナーでは、日本のイサキとヨーロッパのアーティチョークが、東京のBenoitで出会います。アーティチョークの独特のほろ苦さを生かしたコンディモンの上に、プリっとイサキが鎮座します。そして、添える野菜の中には、アーティチョークの「うてな」が加わる。食感と、夏の旨みの違いが食欲を誘(いざな)う。ヨーロッパの人にとって、アーティチョークを食せずして夏は終われないのです。

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ISAKI au plat, artichauts en barigoule

イサキのソテー アーティチョークと野菜のバリグール

※7月末まで、ディナーのプリ・フィックスメニュー主菜として、お選びいただけます。

 

≪「Aile de Raie」とは「エイの翼」のこと。Benoitへ飛んできた?≫

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 フランス語で「aile(エル)」とは、翼や羽根のことを意味し、決して「ail(アイユ)」のニンニクではありません。「Aile de Raie」とは「エイの翼」という意味になります。エイの仲間は、海底に佇(たたず)んでいるか、エサを求めて砂地を徘徊していることが多いものです。しかし、たまには羽を伸ばしたくなる時もあるのでしょう、大海原を悠々泳ぐこともあるのです。その姿は、まるで海の中を両翼を広げるように飛んでいるかのよう。なんという的を射たような表現なのか。

 我々には「エイヒレ」という名前の方が分かりやすいかと思います。北海道や青森県のあたりでは、「かすべ」という名で親しまれています。「アカエイ」という種だけに、我々が想像する薄平べったい姿をしているため、焼くというよりも、煮付けにすることが多いようです。乾燥させて焙って食べたりする「エイヒレ」は、酒の肴(さかな)として馴染み深い逸品ではないでしょうか。

 今回は、フランスの北西に位置しているブルターニュ地方から「ガンギエイ」ばがBenoitに届いています。このエイは、アカエイと違い、両翼が短いために肉厚なのが特徴です日本にもいるのですが、海流激しいドーバー海峡で、もまれにもまれたいるからこそ肉厚な逸品です。

 「エイヒレ」は、白身ではあるのですが、弾力のある肉質に加え、少しぷるっとしているのが特徴でしょう。エイに関していえば、長く広いエンガワのようなものであり、ヒレを支える軟骨もコリコリと口中を楽しませてくれます。

 エイヒレを、たっぷりのバターを使って香ばしく焼き上げます。そこへ、レモン、ケッパーとクルトンを加え、心地良い酸味と旨味の加わったバターを、エイへかけ戻しながら仕上げをしてゆきます。ふつふつと泡立つバターと、そこにほのかに香る心地良い酸味は、そばにいるだけで食欲を搔き立てます。エイの姿からは想像もできないほど美味であり、フランスではビストロ料理の定番。そして、この調理方法以外を、自分は知りません。

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Aile de RAIE à la grenobloise, épinards juste tombés

フランス産エイヒレのムニエル グルノーブル風 ほうれん草

(追加料金 ランチ+1,200円 ディナー+800円)

※7月末まで、ランチ・ディナーのプリ・フィックスメニュー主菜として、お選びいただけます。

 

≪松坂牛ならぬ松坂豚がランチに姿を見せてました。≫

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 このキレイに入る脂のサシが、豚肉の美味しさを物語っているでしょう。良く焼けば固くなる、生では食べることができないという、難しい食材でもあります。これを、表面を焼き、温かい小部屋で休ませることで、じっくりと固くならないように中まで焼き上げる。こだわりの焼きを生かすために考えられたこの厚さ、これもまた重要なポイントです。

 程よい食感がありながら、しっとりとした肉質は、この豚肉の美味しさを十分にお楽しみいただけるはず。さらに、荒くカットした黒と緑のオリーブ、ピクルスとクルミが、豚肉の美味しさを引き立てるかのようです。

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Longe de COCHON cuisinée en cocotte, pommes de terre nouvelles, lard et cébettes

豚ロース肉のソテー 新ジャガイモとワケギ

※7月末まで、ランチのプリ・フィックスメニュー主菜として、お選びいただけます。

 

≪仔牛が新たな姿でディナーに再登場です。≫

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 たっぷりのバターが、熱せられたココットの中で溶けてゆく。そして、ふつふつと泡立ち、甘い香りを放つようになる時、バター液面の淵が焼き色を帯びてくる。仔牛の肉は、焼くことで美味しさを引き出すも、どうして逃げてしまうものもあります。その美味しさを含んだバターを、何度も何度も繰り返しかけ戻すようにする。

 Beigeのシェフ小島が、まだBenoitのシェフに就いていた頃、「美味しさを戻してあげる」のだと語っていたのを思い出す。仕上げのタイミングを計りながら、ゆっくりと焼いてゆく。単調な作業ながら、これがいかに重要な工程であるかは、担当スタッフの眼差しの厳しさに表れています。

 この断面の美しい色が美味しさを物語っているでしょう。豚肉もそうでしたが、仔牛のような白っぽいの肉料理には、オリーブの旨味と塩加減がよく合うものです。細かくカットした黒と緑のオリーブが美味しさを引き立てます。

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Longe de VEAU cuisinée en cocotte, pommes de terre nouvelles et cébettes

仔牛ロース肉のオーブン焼き 新ジャガイモとワケギ

※7月末まで、ディナーのプリ・フィックスメニュー主菜として、お選びいただけます。

 

≪7月「桃デザート」中止のお知らせ≫

 毎年のように皆様にお楽しみいただいてきた「桃の季節」の到来です。昨年は、7月和歌山県の豊田屋さんの白桃を使い、「ピーチ・メルバ」というデザートに仕上げておりました。しかし、今期はこのデザートのご用意が適(かな)いません。豊田屋さんの桃の不作ではなく、Benoitの事情によるものです。毎年、不動の地位を確立していたデザートだけに、待望されていた方も多いことと思います。ご期待にお応えできなかったこと、深く深くお詫び申し上げます。

 姿を変えた桃のデザートを模索しておりますが、いまだ明確なことは分かってはおりません。日本の夏を彩る美味なる果実なだけに、今期このまま断念することもできません。なんとしてでも、皆様に「Benoit桃デザート」をご案内できるよう、最善を尽くさせていただきます。

 

酒類のテイクアウトがはじまりました。≫

 政府による飲食店救済の施策として、「期間限定での酒販免許」が公布されました。願ったり叶ったりとはこのことなのでしょう、テイクアウトの品目に、Benoitシェフ・ソムリエ永田が厳選したワインが仲間入りいたしました!中でも、以下の2つのスパークリングワインは、他では購入不可能な逸品です。

NV Champagne Selection alain ducasse 10,000円(税込)

NV Crémant de Bourgogne cuvée Agnès Vitteaut-Alberti 6,800円(税込)

どれほどお勧めのワインであるかは、以下よりブログを参照ください。

kitahira.hatenablog.com

 

 目に見えないウイルスに対し、医療従事者の皆様は身の危険を顧みず最前線で奮闘してくださっております。新薬開発に向け、寝る間も惜しんで研究を重ねている方々がいらっしゃいます。物流を途絶えないように、そして生活必需品を滞りなく取り揃え我々に提供してくださる方々がいらっしゃいます。彼ら皆様を支えてくださっている保育園や学童、役場など、多くの方々がいらっしゃいます。

 今までの日々の生活が、知らない方々の尽力の上で成り立っていることに気付かされます。この場をお借りし、深く深く御礼申し上げます。Benoitは、営業時間延長を決定いたしました。これまでの皆様の努力を胸に刻み、細心の注意をもって、日々最善を尽くすことをお約束いたします。

 

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特選ワインをテイクアウトしませんか?

 昨今の新型コロナウイルス災禍は、飲食店の弱さをまざまざと見せつけられました。人生を豊かにするうえでもなくてはならないものですが、平穏無事な状況下でしか成り立たないということ。

 4月に約3週間に及ぶ営業自粛で、Benoitの時は止まりました。この緊急措置は、その名の通り計画的なものではありませんでした。凪(な)いでいる大海原で、急ぎ帆を閉じた帆船のようなもの。しかし、急ぎ帆をたたんでしまったため、再度帆を張ってみたところで、風が吹かない限りどうすることもできません。

 毎夜のように、Benoitから怒れる「真っ赤な都庁」を眺めておりました。今はレインボーカラーになったとはいえ、この災禍の収束にはまだ時間が必要なようです。経済が停滞しているように、追い風はまだまだ先のこと。そこで、Benoitは大海原に錨(いかり)を落とし込み、これを巻き上げる力を利用して、出発の行き足をつけようかとおもいます。

 「失われた時」を取り戻すべく、Benoitとして何かできないものかと模索する中で、「テイクアウト」という新領域に足を踏み入れることにいたしました。しかし、時間が経った中でBenoitの料理を美味しくお召し上がりいただけるのか?という難問が脳裏をよぎります。

 そこで、お弁当というスタイルではなく、パックにして皆様にお持ち帰りいただき、お家で「切り分ける」や「温める」という一手間をかけていただくスタイルにて、「テイクアウト」を始めることにいたしました。既存のプリ・フィックスメニューからの抜粋でしたが、今後はテイクアウトのみの料理が登場いたします。参考までに、近日中に「鴨モモ肉のコンフィ」が姿を現します。今のメニューは以下を参照ください。

http://www.benoit-tokyo.com/pdf/2005_Takeout.pdf

 

 過日、政府による飲食店救済の施策として、「期間限定での酒販免許」が公布されました。願ったり叶ったりとはこのことなのでしょう、多忙を極める国税庁の方々のご尽力のおかげで、ワインの販売の許可をいただきました。そう、テイクアウトの品目に、Benoitシェフ・ソムリエ永田が厳選したワインが仲間入りしたのです。

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 保有する自慢のラインナップから、お勧めのワインを随時ご案内させていただきます。その中でも、自分が一押ししたい2種類のワインを以下にご紹介させていただきます。ともに一般に販売しておらず、Benoitのみでの販売を実現したものでです。

 

シャンパーニュalain ducasse

13,540円(税サ込)→10,000円(税込)テイクアウト価格

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 「プライベートシャンパーニュ」というと、既存のシャンパーニュにエチケットだけオリジナルのものを貼り付けたものが、巷に溢れています。そう、中身はシャンパーニュを醸しているメゾンの既存品です。ところが、このシャンパーニュ「alain ducasse」は違う。記憶が定かでないほど時を遡った頃、このシャンパーニュの話を聞いた時、我が耳を疑ったのを鮮明に覚えています。

アラン・デュカスグループ専用に醸造され、ブレンドされたシャンパーニュである」こと。

 シャンパーニュ造りは、ブドウ品種ごとにワインを醸し、年代(ヴィンテージ)違いも含め、ブレンドして瓶詰めしていきます。これに、ドサージュという甘いシロップを加え2回目の発酵に入ります。この2回目の発酵が、魅惑の泡を生み出し、最低3年瓶の中で熟成させることで、ガスがワインに溶け込むのです。そう、シャンパーニュには、最低でも4年の歳月が必要です。

 各シャンパンメゾンは、自分達の威信にかけてスタンダードのシャンパーニュを醸します。ある醸造責任者のコメントが忘れられません。「ヴィンテージシャンパーニュは、ブドウの出来が良かったときのみ醸せばよい。しかし、スタンダードのラインナップは、どんな年でも最高品質で醸さねばならない。これが一番苦労する。」と。これは、シャンパーニュに限ったことではありません。日本酒でも、本醸造が美味しくなければ、その蔵元の吟醸酒は購入しないでしょう。杜氏が一番気をもみ神経をとがらせるのが、スタンダードの「本醸造」です。お手頃の価格で、その蔵元の威信にかけて美味しさを醸さねばならないのです。

 そのシャンパーニュメゾンに、アラン・デュカスグループが依頼をし、ブレンド・熟成がオリジナルとなる、正真正銘の「プライベートシャンパーニュ」を造り上げたのです。それが、このシャンパーニュ「alain ducasse」なのです。快諾したのかどうかは定かではありませんが、この無理難題を引き受けてくださったのが、大手シャンパーニュメゾンの「LANSON」です。

 プライベートシャンパーニュとはいえ、醸したLANSONの評価に影響がでる危険性もあります。それでも、このシャンパーニュが、フランス国内はもちろん、世界各国のグループレストランに送り出されました。なぜでしょうか?一目瞭然ならぬ一口瞭然、「美味しいから」です。

 一般に販売しておらず、グループレストランのみでしか、お楽しみいただけません。さあ、巨匠アラン・デュカスと、グループを統括しているシェフ・ソムリエであるジェラール・マルジョンが、想い描くシャンパーニュ像とはいかほどのものか、気になりませんか?

 

≪クレマン・ド・ブルゴーニュ キュヴ・アニエス  ヴィトー・アルベルティ≫

8,470円(税サ込)→6,800円(税込)テイクアウト価格

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 前述したプライベートシャンパーニュもさることながら、「日本で飲めるのはBenoitだけ」という、こだわりのスパークリングワインのご紹介です。2020年3月から1年間、Benoitのハウス・スパークリングに採用された逸品です。

 このキュヴェ・アニエスは、スパークリングワインの専門家、ヴィトー・アルベルティが手掛ける最高傑作です。コート・ド・ボーヌとシャロネーズの両地区の葡萄シャルドネ種のみで醸され、瓶内熟成もシャンパーニュに匹敵する3年間。華やかな香りと凛とした酸味のバランスが秀逸、いついかなる時に飲んでも、納得していただける美味しさです。

 日本では発売されておらず、直接交渉をして輸入が実現したBenoitシェフ・ソムリエ永田の思い入れのある1本です。これもまた、気になりませんか?

 

 上記2点は、ストック本数に限りがごじます。ご希望の際には、早めにご予約をいただけると幸いです。自分へのメール、もしくは以下のBenoitメールアドレスよりお願いいたします。もちろん電話でも、ご予約は快く承ります。料理とのセットでも、もちろんワインだけでも快く承ります。

www.benoit-tokyo.com

 その他のテイクアウト用に抜粋したワインは、以下を参照ください。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

http://www.benoit-tokyo.com/pdf/2005_Takeout_Wine_A4.pdf

 

 終息の見えないウイルス災禍です。皆様、油断は禁物です。十分な休息と睡眠、「三密」を極力避けるようにお過ごしください。「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク越しではなく、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。

 皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoitの「6月営業時間」と「特別プラン」のご案内です。

ぬしなくて 荒れにし屋戸の 庭のおもに ひとり菫の 花さきにけり  藤原公重(きんしげ)

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 「菫(すみれ)」は、日本では北海道から沖縄県まで津々浦々で目にすることができ、紫色の小さな花を咲かせます。あまりにも控えめな姿のため、園芸品種として育種されている「パンジー」の方が有名となってしまい、名こそ知るも、実際にどのような花が咲くものなのか、ご存じない方が多いのではないでしょうか。

 しかし、春の花々が咲き荒れた地に、ひっそりと可憐に咲くスミレの美しさを、古人は見逃しませんでした。日本最古の歌集「万葉集」にも、しっかりと名を残しています。しかし、スミレの葉や花は食することができるため、山菜採りのひとつとして人気を博していたのではないかとも。

 そんな邪推を持ちつつも、菫に対する人々の想いは、古今東西を問わず共通のようです。ヨーロッパでは、「誠実」や「謙虚」の象徴とされる花であり、そのまま花言葉にもなっています。

 冒頭の一句は、平安時代後期に活躍した歌人、藤原公重が詠んだものです。自分の住居を言い表す場合は「宿(やど)」ではなく「屋戸(やど)」であるといいます。長きにわたり留守にしていた我が家に辿り着いた時に、手入れのされていない庭に、ひっそりと咲いている薄紫色の小さな花。あ~スミレだけが待っていてくれたのだ、と愛おしく想う。

 荒れ放題の庭ではあるものの、何かしらの花は咲いていたであろうに、スミレに心奪われるのは、何か奥ゆかしさを、豪華絢爛ではなく可憐さに、感慨深い美しさを見出すのでしょう。ひそやかに咲くスミレの花は、それに気づいた人の心を慰(なぐさ)める。

 

 今回の災禍は、飲食店の弱さをまざまざと見せつけられました。人生を豊かにするうえでもなくてはならないものですが、平穏無事な状況下でしか成り立たないということ。自走できる船とは違い、風を頼りに進む帆船のようです。帆船は、港に停泊するさいに錨をおろし、出発の際にこの碇を巻き上げる力を利用して、行き足をつけます。

 今のBenoitは、このウイルス災禍によって急ぎ帆を閉じ、漂っている帆船のようなもの。経済が停滞しているように、海も凪いでいる。いざ出発しようにも、行き足のつかない帆船では、風が吹かない限りどうすることもできません。約3週間に及ぶ営業自粛で、Benoitの時は止まりました。

 時間をかけて「失われた時」を取り戻すべく、準備を進めるかのように、5月はディナーの営業時間を大幅に短縮し、粛々と営業を再開いたしました。そして今、「緊急事態宣言解除」の報を受け、営業時間の見直しを図らせていただき、6月1日より実行に移させていただきます。

 

≪ランチ≫ 1130分から14時ラストオーダー

≪ディナー≫ 1730分から21時ラストオーダー

 

 日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、この長文レポートに目を通していただけている皆様の労に報いるため、≪初夏特別プラン≫をご案内させていただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、20206月末まで。ご予約は、自分へのメール、もしくは以下のBenoitメールアドレスよりお願いいたします。もちろん電話でも、ご予約は快く承ります。

benoit-tokyo@benoit.co.jp

 

初夏特別プランは6月末日までです!

ランチ

前菜+メインディッシュ+デザート

3,800円→3,530円(税サ別)

ランチ

前菜x2+メインディッシュ+デザート

4,800円→4,460円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+デザート

6,100円→5,680円(税サ別)

ディナー

前菜x2+メインディッシュ+デザート

7,100円→6,600円(税サ別)

プリ・フィックスメニューの料理内容は、当日にメニューをご覧いただきながらお選びいただきます。ご希望人数が8名様以上の場合は、ご相談させてください。

 

 目に見えないウイルスに対し、医療従事者の皆様は身の危険を顧みず最前線で奮闘してくださっております。新薬開発に向け、寝る間も惜しんで研究を重ねている方々がいらっしゃいます。物流を途絶えないように、そして生活必需品を滞りなく取り揃え我々に提供してくださる方々がいらっしゃいます。彼ら皆様を支えてくださっている保育園や学童、役場など、多くの方々がいらっしゃいます。

 今までの日々の生活が、知らない方々の尽力の上で成り立っていることに気付かされます。この場をお借りし、深く深く御礼申し上げます。Benoitは、営業時間延長を決定いたしました。これまでの皆様の努力を胸に刻み、細心の注意をもって、日々最善を尽くすことをお約束いたします。

 

 非常事態宣言が解除されたものの、「収束」こそ、その兆しが見えつつあるものの、「終息」には程遠く、目に見えないウイルスに怯える日々は、まだまだ続きます。閉塞感がはびこる昨今ではありますが、人は人と触れることで、会話を交わすことで安心感を得るのではないでしょうか。画面越しでの会話では限界がるものです。

 我々の身体は、食べたものからできています。さらに、旬の食材には、我々がその時に欲している栄養価に満ちています。旬の食材を、美味しく口にすることは、満足感を得ることに加え、免疫力の向上をももたらします。

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ひそやかに咲くスミレの花は、それに気づいた人の心を慰(なぐさ)める

 粛々と営業をするBenoitは、お越しいただいた皆様にとって、心の虚しさを慰める存在でありたい。食事の時にはマスクはできません。画面越しの電子の声ではない、ましてマスク越しではない、かつての日常であった人と人との会話がそこにあります。そして、旬の食材をふんだんに使用した料理があります。「口福な食時」のひとときを、皆様に過ごしていただけるよう、万全の準備をもってお迎えいたします。

 元号は「令和」です。日本中の「美しい()」旬の食材は、それに気づいた人の心を和(なご)ませる

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 終息の見えないウイルス災禍です。皆様、油断は禁物です。十分な休息と睡眠、「三密」を極力避けるようにお過ごしください。「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。

皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特選食材「サクラマス」のご紹介です。

 「東京から1か月半遅れで、札幌の桜が笑いました」と、メールをいただきました。地理的条件から、多少の前後はあるものの、「桜前線」は南からやってきます。急ぎ足で過ぎ去った「桜の笑顔」を、北海道で見ることができるのです。2020年5月10日に稚内で桜の開花が観測されたという、きっと今頃は「八重桜が大笑い」しているのではないでしょうか。

 桜前線に一喜一憂したのもつかの間のこと。今都内ではすでに、葉桜が美しく、季節は初夏へ入った感があります。言い得て妙、二季草(ふたきぐさ)と呼ばれる藤の花が咲き誇っています。しかし、今いちど「サクラ」を思い出していいただきたく、桜が咲き誇っている地、北海道より届きし食材のご紹介です。

サクラマス

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 清流の川で生まれ、1年半ほど川での生活を過ごした「ヤマメ」が、川を下ってゆく。下ってゆく。そして、大海原(おおうなばら)へと足を踏み込む。足?尾ビレを力強く動かすことで、大海原へ身を投じる。北海道の稚内脇を通って北回りか、はたまた津軽海峡を通過する南回りか、いざ、向かう先はベーリング海峡

 この行動距離を、絶えず泳ぎ続ける。これが、どれほどの運動量となるのか、人間には想像もつかないことでしょう。この運動量が身を筋肉質へと変え、美味しい餌となるエビ・イカ・小魚が滋養強壮となる。この身に蓄えれられた栄養こそ、我々にとっては美味しさということになります。

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 この流線形に鍛え抜かれた美しさには、惚れ惚れとします。養殖されているサクラマスもいます。しかし、Benoitは北海道の天然の逸品を選びました。見た目には変わらないが、身を3枚におろす際に中骨をとりますが、そのときに天然ものは身が崩れない。シェフ野口に声をかけてもらい、養殖と天然を捌きながら説明を受けたのですが、一目瞭然でした。

 運動量の差なのでしょう。大海原でもまれにもまれたサクラマスは、中骨のある周囲が筋肉隆々(りゅうりゅう)としており、身崩れせず、背と腹の場所に、きれいな脂がのっている。捌いているシェフの手がきらきらと輝いている上に、嫌な香りがしない。いいこと尽くしかと思える天然サクラマスですが、魚特有の問題が付きまといます。「アニサキス」という寄生虫です。

 徹底的に管理された養殖であれば、この問題はなく生食が可能です。これが養殖の最大の利点。安定供給も可能であり、シェフのとっては使い勝手の良い食材です。しかし、Benoitの野口は、なに悩むことなく天然の北海道産を選びました。そして、養殖であれば必要のない「一手間」をかけることにしたのです。3枚におろしたフィレを、そのまま冷凍庫へと移し、-20度を超える凍える中で24時間以上おくこと。

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 この冷凍保存によって、アニサキスを退治した安心安全のサクラマスのフィレは、細心の注意を払い解凍されて、切り身へと姿を変えます。見るほどにその美しい色に輝く身質。営業が始まり、当たり前のことですが、皆様からオーダーが入った時から焼き始めます。焼くのであれば、冷凍しなくても良いのではないか?

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 サケとサクラマスとは大きな違いがあります。そのおもたる違いが、サケは孵化して稚魚の段階で大海原へ旅立ちます。サクラマスは、川で1年ほど成長してから。人生ならぬ、魚生の9割以上が海であるサケと、半生が海のサクラマス。これが身質に大きな違いを生み出しています。サケに比べ、サクラマスは優しい味わいであり、脂ののりもおだやかな感があります。

 しっかりと焼き鮭のように火を入れてしまうと、パサパサとした身質になってします。さらに、焼くことで加わる香ばしさが、特有の優しい味わいを陰に隠してしまうのです。かといって、西京漬けやみそ漬けのようにしては、フランス料理を生業としているプライドが許しません。

 そこで、サクラマスだからこその、「焼きの技」を、粛々と毎日のように実践していました。なぜ、冷凍処理を行ったのか。今回の「焼き」に理由があったのです。

 

 Benoitの営業時間内の話です。皆様よりサクラマスのメインディッシュのご要望が入り、サービススタッフが希望料理とコースの流れをキッチンに伝えます。これを合図に、前菜の仕上げが始まります。順番にもよりますが、ひとつ手前の料理がキッチンを旅立ったと同時に、サクラマス料理の準備が始まります。切り身に塩をふって一呼吸。焼の担当のスタッフが、皮目から鉄板をつかって焼きを入れます。

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 びちびちと心地よい音色を奏でながら、熱が入ることで切り身の色が変わってゆく。さあ、ここでひっくり返す、鉄板の外で。反対側は焼かずに、バットに移して、温かい小部屋へ移動します。オーブンではなく、温かい小部屋で一休みです。この段階では、皮目からしか焼いていないので、下の画像の通り2トーンの色彩です。

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 皆様の食事のペースを見計らい、サービススタッフがキッチンへ、サクラマス料理の仕上げを伝えます。付け合わせのアスパラガス担当者から、仕上がりまでの時間がシェフへ伝えられる。傍らで、その時間を耳にした焼き担当者が動き出す。温かい小部屋で休息中のサクラマスを取り出し、皮目から再度鉄板で焼きを入れる。先ほどとは音が違う。パリっとしたところで、ひっくり返し、数秒で鉄板からバットへ移す。これで、焼きの作業が終了です。

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 焼き過ぎない、生ではない。この余熱を使いながらの絶妙な火加減こそ、サクラマスの美味しさを十二分に楽しむことのできる調理方法。パリッとしながら、身はほろっとしつつも、中はしっとりとしている。サケとは違う、優しい旨味を感じ取ることができます。さあ、フランス料理に仕上げてゆきます。

 「桜」を冠するサクラマスだからこそ、初夏ではありますが、やはり春の食材「グリーンアスパラガス」を合わせたいです。塩ゆでにしたものと、生のもの。春の息吹を感じることのできるアスパラガスの新芽には、得も言われぬ旨味があるものです。湯がいただけでも美味しいですが、今回はさらに、スライスした生のアスパラガスを添えます。しゃりしゃりとした食感と、爽やかな生だからこその味わいは、単調になりがちな料理に、心地良い春の風を吹き込ませたかのよう。

 ソースは2種類です。卵黄をホワホワにしたサバイヨンという黄色のソース。もうひとつはエシャロットをバターとともにゆっくりと熱を加え、甘さと旨味を十二分に引き出すように仕上げ、ヴィネガーで心地良い酸味を加味した茶色のソース。それぞれが、サクラマスとの相性は抜群です。さらに、この2つのソースをお皿の上で合わせることで、また違った美味しさをお楽しみいただけることができるのです。あえてシェフが、2種のソースを混ぜ合わせないことには、理由がありました。

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SAKURA-MASU sur la peau, asperges vertes cuites et crues

サクラマスポワレ グリーンアスパラガス

 ランチとディナーのプリ・フィックスメニューに、今月末まで名を連ねております。Benoitは「三密」を避け営業を再開いたしました。もし機会がございましたら、足の赴くままに、Benoitへお立ち寄りいただけると幸いです。普段よりも「言葉少な目」ですが、皆様を万全の準備をもってお迎えいたします。何かご要望などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

 

 生物分類学上では、サケはサケ目サケ科、サクラマスはサケ目サケ亜科です。サケの仲間というわけです。前述いたしましたが、サケもサクラマスも、川で産卵し稚魚へと成長してゆきます。その稚魚全てが大海原へ向かうのがサケ。「ヤマメ」として、1年ほど川で過ごしたのちに、海へおりていったものがサクラマスです。

 同じサケ目という仲間でありながら、この生体の違いを重視したからこそ、科と亜科とに分けたのでしょう。サケのほうが「少しばかり寿命が長いようですが、差は2年あるかないか。「人の体は食べたものでできている」、これは人に限ったことではありません。生きとし生けるものにとって、普遍の原理です。魚生の大半を海で過ごすのがサケと、半生を海で過ごすサクラマスとは、身質にも大きな違いほうがでてきます。だからこそ、サクラマスにはサクラマスに適した調理方法があるのです。

 

 ところで、魚は、その筋肉中の血色素のミオグロビンの含有量により「赤身」「白身」に区分されています。赤身の魚はマグロ、カツオ、サバなどの回遊魚に多く、白身の魚は、カレイ、ヒラメ、タイなど。サケは切り身がお馴染みなので、皆様いともたやすく想像できるはずです。サクラマスも、今まで画像を添付していたので問題ないかと思います。では、サケとサクラマスは赤身なのか白身なのか、どちらでしょう?

 このサケ目の仲間は、「白身魚」です。身色が赤みがかり「サーモンピンク」などとも呼ばれています。さらに回遊しています。赤身魚と思いやすいのですが、白身魚です。フラミンゴが時期によっては根の色が変わるのと同じ仕組みなのですが、これはサケの生態を追いながらお話させていただきます。

 

 勝手な憶測ではありますが、サケとサクラマスが同じような習性を持っていることを考えると、美味しく豊富な餌を獲(と)るには、海流激しく荒波で有名なベーリング海域を目指すはずです。

 サケは川から海へ辿り着くも、まだまだ稚魚であり、大海原を回遊するには体を造り上げねばなりません。そこで、当初は北西太平洋が回遊拠点となるようです。そして、夏にはベーリング海峡で美味しい餌を食む。越冬するためにアラスカ海へ赴き、再度ベーリング海峡へ。そして、3~4年の間、ベーリング海峡とアラスカ海を交互に渡り泳ぎ、母川(ぼせん)に還(かえ)ります。

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 サクラマスは1年ほど。この期間の短さを考えると、サクラマスベーリング海峡でたらふく摂餌(せつじ)した後に、踵(きびす)を返して、いやいや背ビレを使って方向転換し、母川である北海道を目指すというルートが、妥当なのではないかと思います。アラスカ海に行っては1年で還ってくることは難しいでしょう。

 サケの仲間(以下、「サケ」と記載)の身色は、赤身魚のように血色素のミオグロビンではなく、「アスタキサンチン」という色素物質によるものです。「トマトのリコピン」や、「ニンジンのβカロテン」などと同じ、カロテノイドと呼ばれる天然色素群のひとつです。さらに、このカロテノイド群は強い抗酸化作用があるのです。リコピンとβカロテンなどは、健康補助食品サプリメントとしても存在しているほどです。

 その、カロテノイドの中で最強とうたわれているのが、「アスタキサンチン」なのです。ウィキペディアによると、抗酸化作用はビタミンCの約6000倍、コエンザイムQ10の約800倍、ビタミンEの約500倍、βカロテンの約40倍とも言われてるのです。ビタミンEは細胞膜の内側で、βカロテンは細胞膜の中心部でというように、効果を発揮する場所が限られているといいます。ところが、アスタキサンチンは細胞膜の内側と外側の両方で活躍するのだというのです。

 このスーパー抗酸化物質「アスタキサンチン」を、サケが自ら作り出すことはできません。生まれた時から常に泳ぎ続け、回遊範囲はまさに大海原、活性酸度がわんさかと体内で発生してゆきます。いうなれば、サケは抗酸化物質を必要としてる側であり、餌として体内に摂りこみ蓄えるようになったといいます。

 「アスタキサンチン」は、藻類の一部や甲殻類の殻に多く含まれています。サケが表層を回遊することを考えると、甲殻類は食すのは難しいでしょう。ではどうやって体内に摂りこむのか?このアスタキサンチンを含み、外洋の表層を遊泳する、エビに酷似した大型プランクトン、オキアミでした。

 サケは、オキアミから得ることのできたアスタキサンチンを体内に蓄え、泳ぎ続けることで生まれる活性酸素を抑え込み続けます。そして、このアスタキサンチンが、サケの身色をサーモンピンクへと変えていたのです。サクラマスがヤマメであれば、身色の違いは一目瞭然です。そして、サケの産卵が近くなると、この色素でもあるアスタキサンチンは、体表に婚姻色として、さらに卵にも表れます。「いくら」の色は、アスタキサンチンによるものだと。

 このアスタキサンチンというカロテノイドは、いまだ解明されていないことが多く、人にどれほど有用かは定かではありません。しかし、化学的に作り上げた物質ではなく、自然界に存在するものだからこそ、何かしらの良い影響を信じてもいいのではないでしょうか。美味しく旬のものをいただきながら、体の中から免疫力をあげてゆく。今一度、天然のサケを見直す良い機会だと考えています。Benoitでは今月末をもって終わりを迎えますが、皆様の食卓のメイン食材として、今後ご検討いただけると幸いです。

 

≪鮭(さけ)と鱒(ます)の違いとは?≫

知っているようで知らないことではないでしょうか?鱒(ます)という大きな分類の中に、鮭(さけ)があるのかと思っておりました。飲食を生業としながら、この認識の甘さに大いに反省させられることになりました。そこで、皆様を「鮭と鱒」の世界へと誘(いざな)わせていただきます。

kitahira.hatenablog.com

 

≪Benoitテイクアウト始めました!≫

田水が引き入れられ、蛙が目覚めるように、5月1日に「営業自粛」の塞きを外し、「営業を再開」という水を引き入れ、Benoitキッチンが本格的に始動いたしました。日々仕込む料理が無駄になっては元も子もありません。そこで、皆様にもお楽しみいただきたいと考えました、「自宅で」。

もちろん全ての料理ではなく、シェフがお家でも美味しくお召し上がれると判断したものを厳選させていただきました。

kitahira.hatenablog.com

 

 ≪公式ブログの再始動≫

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久しく投稿していなかったBenoit公式「instagram」、これに連動して「facebook」を再始動いたしました。自分も参加するかもしれませんが、やはり他のスタッフからの目線も面白いものです。ぜひ「フォロー」を、よろしくお願いいたします。

https://www.instagram.com/benoitjapan_restaurant/

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

終息の見えないウイルス災禍です。皆様、油断は禁物です。十分な休息と睡眠、「三密」を極力避けるようにお過ごしください。「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。

皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

「サクラマス」と「サケ」に想うこと。

サクラマス

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 知っているようで知らない魚なのではないでしょうか?鱒(ます)という大きな分類の中に、鮭(さけ)があるのかと思っておりました。飲食を生業としながら、この認識の甘さに大いに反省させられることになります。さらに、調べれば調べるほどに、簡潔明快に説明できなくなるという、やっかいな「鮭と鱒の違い」です。

 魚類の分類の中には「サケ目」というものがあります。そして、それに続く「科」は、「サケ科」と、「サケ亜科」というものがあります。1735年に出版された「自然の体系」を出版した「分類学の父」、カール・フォン・リンネから、歴代の賢人たちが「生物を分類する」ことに、今も挑戦し続けています。彼らの英知の結晶である今の動植物の分類では、大きなカテゴリーから「目」「科」「属」と枝分かれしてゆく。

 順調に見えた、この分類も自然界はそう易々と称賛の声を上げることはないようです。身体的特徴や習性の酷似は否めないが、知れば識るほどに微妙な違いがある種がいた。苦悩の末に、彼らが結論付けたのが、「科」と「亜科」という分類方法でした。

 さて、「サケはサケ目サケ科」で、「サクラマスはサケ目サケ亜科」です。さて、この違いはいかに?

 

 サケ目の魚は、北半球の淡水と海の表層に約70種類、日本には16種類が生息しています。凛々しい姿の真鯛の背びれは、とげとげしく、捌く時に注意しないと手に突き刺さるほど、これが「棘条(きょくじょう)のヒレ」です。サケ目の特徴としては、「棘条(きょくじょう)」ではなく、軟条というしなやかな背ビレ。そして、「脂ビレ」があります。卵生で、淡水に産卵する。淡水魚なのか?というと、そうでもない。それよりも気になる「脂ビレ」とは?下の画像は、「サケ目サケ亜科」のヤマメです。どれが脂ビレでしょうか?

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 下の画像で、矢印の指し示した、背ビレと尾ビレの間に、ちょこんとしたものが「脂ビレ」です。ご先祖が活用していたヒレが、今に遺ったのか。いまだに謎が多い脂ビレで、流れの早い河川に生息する魚に、このヒレを見て取れます。やはり、生物学者の方々が研究をしているようで、このヒレを切り取ってしまうと、切らない魚よりも尾ビレの運動回数が多くなるという結果がでたといいます。瞬発力を生かして獲物をとる魚と違い、流されないように泳ぎ続ける魚にとっては、体力温存という役割を担う重要なヒレのようです。

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 上の画像は「ヤマメ」と紹介いたしました。なぜ、この魚が登場したのか?それは、「ヤマメ」と「サクラマス」は同じ魚だからです。サケ目の仲間は、淡水で産卵します。孵化(ふか)して河川にとどまっているものが「ヤマメ」。「ヤマメ」が海へ下っていったものが「サクラマス」です。河川で生活するときには、体にパーマークと呼ばれる暗色の大きな模様があり、海洋生活に入ると、体色は銀色となり、成長が早くなるため大型の魚体へと変貌します。

 「ヤマメ」が、河川に居残ったもの、「河川残留型がヤマメ」。海に下り、大きく成長して川に遡上(そじょう)する「降海型サクラマス」です。その、遡上の時期が「桜が笑う」頃なので、名付けられたといいます。いつも自分が間違う「ヤマメ」と「イワナ」。イワナはサケ目サケ亜目と、ヤマメと同じ分類です。しかし、進化の過程で海に下りてゆかなくなり、このタイプを「陸封型」と名付けました。サケとは身体的特徴が同じにもかかわらず、陸封型なのでサケ亜科である。これはおおいに納得です。では、降海型の「サクラマス」はサケ目サケ科に属しても良いのではないか?

 前述した通り、ヤマメとサクラマスは、もともとは同じです。一部が河川残留型であり、他方が降海型である。ここがポイントでした。サケは、すべて降海型。さらに、サケは孵化してから川底にたたずみ、母親から譲り受けたお腹にある栄養袋を活用し、数cmまで成長した後に、海へと旅立ちます。そう、孵化した稚魚がすぐに降海するのがサケです。サクラマスは、1年半ほども河川で「ヤマメ」として、成長した後に、海へ旅立ちます。「サケ科」には分類できない違いが、ここにありました。

 

 サクラマスは、1年もの間、大海原海での回遊の後、翌春に母川(ぼせん)に遡上します。秋に産卵活動をするまでの間はエネルギーの消費を抑えるため、淵などに潜みほとんど動かないとされています。一説には河川に戻ってからは餌を食べないそうです。遡上してくる時期とは、海で美味しものをたらふく食べて蓄えてきたということ。まさに旬の時期であり、この時期が一番美味なのでしょう。

 「ヤマメ」と「サクラマス」の関係は、他にも見ることができます。太平洋側では神奈川県以北、日本海側では島根県以北の川を生息域にしているのが「ヤマメ」であれば、それ以南の川には「アマゴ」がいます。この「アマゴの降海型はサツキマス」です。琵琶湖に生息する「ヤマメ」の降海型は、琵琶湖固有種「ビワマス」です。

 

 ここから、皆様を混乱の渦中へと誘(いざな)おうかと思います。

 食卓にのぼる「紅鮭(べにざけ)」。品種名は「ベニザケ」です。皆様、名前に「鮭」「ザケ」とある通り、サケ目サケ科とお思いでしょう。サケ目なので、淡水での産卵ですが、サクラマスが河川を生息域としているのに対し、ベニザケは湖沼です。湖沼滞在型は「ヒメマス」。というわけで、ベニザケはサケ目サケ亜科。いうなれば「鱒」ということ。

 釣り堀などでも名を聞く、北アメリカ大陸原産の「ニジマス」。日本では馴染みはないのですが、降海型は「スティールヘッド (Steelhead)」と呼ばれています。このニジマスを、海で養殖したものが「トラウトサーモン」です。このトラウトサーモンは、品種名ではなく、商品名。「トラウト(鱒)」と「サーモン(鮭)」という、このような話を書いているために、「どっちなんだ!」と言いたくなります。もちろん、ニジマスはお察しの通り、サケ目サケ亜科です。

 

 「鮭」と「鱒」の関係性を、少しばかりご理解いただけたのではないでしょうか。稚魚全てが海に下りてゆくのが「サケ目サケ科」が「サケ」河川や湖沼を生息域にしながら、一部が海へ下りてゆく「サケ目サケ亜目」が「マス」。例外はあるかと思いますが、誰かに聞かれた時の、参考にしていただければ幸いです。

 「鮭」と「鱒」の関係は、鮭の中に鱒が含まれるようです。個人的には、「鱒」の中に「鮭」が分類されるほうが良い気のするのですが、そのあたりは素人の自分が云々というべきことではないでしょう。分類を行う上での慣習であったり、当時に名の知れ渡っているものを、上位に名付けたのではないか、そう思う今日この頃です。あくまでも私見ですが…

 

 前述した「脂ビレ」を持つ仲間に、「アユ」と「ワカサギ」がいます。前述のサケ目とは別の「キュウリウオ目」です。なぜこの話をしたかというと、キュウリウオの仲間は、沿岸で成長し、産卵のために河川や湖沼に遡上(そじょう)します。ところが、サケ目とキュウリウオ目では、大きな違いがあるのです。

鮎は清流を探し遡上します。鮭()は生まれた川である母川に遡上します。

 

 ここに着目して、世界初の鮭の自然繁殖法である「種川(たねがわ)の制」を確立した人物がいます。新潟県村上市を流れる「三面(みおもて)川」は、サケが遡上する日本有数の川の一つです。彼の地に登場するのが、青砥武平治(あおとぶへいじ)という人物です。

 時は江戸時代中期の頃、天候不順によりコメの不作が続くことになり、越後村上藩の財政はひっ迫し、鮭漁に頼らざるをえなくなります。何かしらの海に事情があったかもしれませんが、この乱獲に漁獲量を激減させたことは間違いないでしょう。他の魚と違い、鮭は母川に還(かえ)ってくるのです。大海原に旅立つ稚魚がいなければ、還ってくるわけがありません。

 このサケの「母川回帰」に気付いた村上藩士である青砥は、得意とする土木技術を駆使し、三面川本流に中州を造るようする。本流から分岐し、本流の脇を平行に流れ、また合流する支流を造り上げたのです。この支流では、川の流れを阻害しないように蔦(つた)や柴で柵を設置し、遡上してきた鮭を囲い込むようにします。砂利の川底をこしらえることで、鮭の自然産卵を促したのです。

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 この支流は「種川」と呼ばれ、鮭の自然孵化(ふか)を見事に実現させました。さらに、乱獲を防ぐのはもちろん、鮭の稚魚が海に降り立つ時期に、川の漁を一切禁止することも忘れません。鮭の特性を識り、環境を整えることで鮭に寄り添う。そして、稚魚が三面川の流れの身をゆだね、大海原へ旅立つことを見守る。自然の理(ことわり)に習い、従うことで実現した、太平洋という生簀(いけす)を利用した、壮大な規模での養殖事業。これが、「種川の制」です。

 これを、越後村上藩の下級藩士であった青砥武平治が、やってのけたのです。この功績は、もちろん青砥の功績ではあるのですが、村上藩の人々の並々ならぬ努力と忍耐を要したはずです。結果として現れるのは3~5年後のこと、不作により生活の困窮を、青砥を信じ耐え抜いたのです。この鮭への想いは、今の新潟県村上市の鮭文化として連綿と受け継がれているのです。

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 上の画像は、村上市の風物詩ともいえる、伝統の「塩引き鮭(しびきさけ)」作成中の一コマです。しっかりと「脂ビレ」が見て取れます。日本の鮭と言えば、この「シロザケ」のこと。ここ村上では「いよぼや」と、北海道では「あきあじ」などと呼ばれています。正真正銘の「サケ目サケ科」です。

 鮮度抜群の鮭は、丁寧に水洗いされ、ワタを抜き、たっぷりの塩でもまれます。数日後に、清らかな水で洗い流し、軒下に吊るされ、そのまま時を過ごします。腐らないのか?しっかりともみこんだ塩と、村上市の独特の気候が、鮭を腐らせないのです。さらに、日本海から吹きすさぶ冬の暴風と、まわりに降り積もる大雪が、湿度と天然の冷蔵庫のような冷気をもたらし、彼の地特有の熟成を生み出すのです。

 熟成途中で食べても美味なり。時がたつことで、身から水分が抜けると同時に旨味を有していきます。これも美味なり。さらに、夏を迎える頃には、黒々しく光沢があるほどの身が締まり硬くなります。これは「鮭の酒浸し(さかびたし)」と呼ばれる珍味です。そのまま、スライスしても食べても良し。名前の通りに地酒をふりかけても良し。ちなみに、村上市の地酒は「〆張鶴」と「大洋盛」です。

 ご紹介した、塩引き鮭の画像は、専門店で撮影したものではなく、一般家庭で撮らせていただいたものです。見る人が見るとすぐに気づく違いがある。画像では、がっぱり腹が開かれ、乾燥しやすいように木の棒で開かれています。もとは村上城を中心に拓かれた城下町です。武士にとって、がっぱり腹を掻っ切ることは、なにか縁起が良くない。

 そこで、この切腹を思わせるような行為を、控え目にしようと考えたのです。がっぱりではなく、腹の真ん中の部分をつなげたまま、前後2か所を切り開くのです。これが、村上藩の伝統の捌き方といいます。お家では面倒な上に、作業の効率から、がっぱりいきますが、今でも市内の専門店では、この捌き方を貫いています。

 これほどの歴史的な伝統があるからこそ、鮭への愛情も一入(ひとしお)ならぬ、八入(やしお)といいたいほどです。頭の先から尾ビレまで、残すところがないのではと思うほど、全ての部位に伝統料理が今なお健在です。鮭の「かぶと煮」になどは序の口で、額の辺りは「氷頭(ひず)なます」、えらは「かげなます」、中骨は「どんがら煮」、皮は「皮せんべい」、腎臓の塩辛「めふん」、「どんびこ(心臓)の塩焼き」、胃袋や肝臓などは「わた汁」などなど。

 

最後に、村上市三面川を、冬に撮影した1枚です。何の目的でこの画を撮ったのかお分かりですか?かなりの難問です。

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 案内していただいたのは、鮭獲りのプロの方。指さす方を見るも、何が何だかさっぱりわかりませんでした。ヒントは赤丸の場所です。

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 自分が素人のカメラ愛好家であることお許しいただきたい。「偏向グラス」を通すと見えてくる、川底に白く浮かび上がる場所があるのです。画像からでも、赤丸の箇所は、他とは違って白っぽく見えませんか?3年前に、いや5年前かもしれない、旅立った鮭が、母川に還ってきた証です。

 メスが必死の想いで、その名の如く、必死の思いで、川底を産卵に見合うように、砂利を掘り起こした場所なのです。そして、この地で息絶えた両親の面影を追うかのように、春には稚魚が大海原へと旅立ってゆくのです。

 

 明治の時代を迎え、鮭の研究が進むことで、人工孵化が成功しました。今では村上市の鮭の保全事業は、この人工孵化にとって代わっています。しかし、人工孵化の技は、上述した「種川の制」から、ゆうに100年の時を要したことを忘れてはいけません。村上藩の一藩士である青砥が、施行したこの自然孵化増殖が、どれほど重要なことであったことか。今なお引き継がれる村上市の伝統に垣間見ることができます。そして、村上市三面川沿いには「イヨボヤ会館」が設置され、青砥の偉業を我々に教えてくれています。

 今回の「新型コロナウイルス災禍」が終息を迎えた際には、ぜひ足の赴くままに、新潟県村上市へ「鮭の伝統」を見聞するのも一興ではないでしょうか。もちろん、他にもお勧めしたい場所は多々あります。美味しい料理や地酒も。旅行の際に、「鮭」を「しゃけ」と読むことなかれ。本場の村上では、「鮭」は「さけ」と読み、我々がつい声に出してしまう「しゃけ」は、彼らからすると方言です。

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

終息の見えないウイルス災禍です。皆様、油断は禁物です。十分な休息と睡眠、「三密」を極力避けるようにお過ごしください。「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。

皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoitの料理をお家で楽しみませんか?

小山田(をやまだ)の 水のながれを しるべにて せき入るるなへに 鳴くかはづかな  藤原定家

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 山あいの小さな田んぼ、棚田のような光景なのでしょうか。田起こしをし、苗代の早苗(さなえ)の成長を見届けながら、田へ水を引き込む。小川から流れを止めているのは、石なのか土なのか。塞(せ)き外すことで、田へ流れ込む清らかな水。これを合図とするように、蛙が鳴き始める。

 いまでは灌漑用の水路が張り巡らされ、川の近辺でなくとも、田を広げることができるようになりました。昔とは比にならないほどの耕作地と収量を誇ります。しかし、水を田に引き入れると、其処彼処で鳴き始める蛙の声。長い冬の眠りを邪魔された嘆きの声なのか?それとも、待ちわびた春の到来を、清流が教えてくれたことへの感謝の声なのか?

 夕刻ともなり、周りが静まり返ることで響き渡る蛙の声は、田の「蛙の初音(はつね)」は、よほど薬漬けで田が死んでいなければ、今も昔も変わりません。夏の盛りの鳴き声とは少しばかり違った声色が、耳にした人を郷愁の念へと誘(いざな)います。

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 司馬遼太郎氏の「手堀り日本史」の中でのこと。日本人は「練度というもので道具の不備や不便をカバーしていく。ところが、西洋人は、すぐに便利な道具を考えてしまう。それが、ヨーロッパ文明を興したわけだし、日本文化が明治まで停滞したのは、道具をさほど重んじなかったからでしょう。」と書き記しています。

 宮大工さんのような職人とよばれる人々は、先人より連綿と受け継がれてきた技術を習得し、日々研鑽に励み、後世に伝承する。「義務」ではないが、先人の技を絶やさぬという、何か使命感のようなものがあるのでしょう。効率が良いかと言えば、嘘になる。しかし、その仕上がりに美しさには、畏敬の念を覚えずにはいられないものです。

 確かに、近代文明という眼鏡を通すと、効率が悪く、安全基準も定まっていない。近代文明は、我々の生活を豊かにし、安全・快適に日々を送ることをもたらしました。しかし、昨今の異常気象や自然災害、ウイルス災禍を導いた要因かもしれません。何が良いのかということは、自分には分かりません。

 こと、料理の世界になると、冷蔵庫・冷凍庫から始まり、電子レンジなどの調理器具の発達は、飛躍的に料理の美味しさと手軽さを実現しました正確な情報は、食中毒を激減に減らし、インスタント食品や冷凍食品も、この手軽さを考えると馬鹿にはできなない品質です。

 しかし、料理には「職人」が必要である。世界から職人がいなくなることはありません。どれほど技術が発達しようが、レシピがあろうが、職人の腕によるところが大きいのです。食材に触れた時に、どうした調理方法が最適で、美味しく楽しめるのか。この料理が、食材が、食事の中でどのような役割を担うのか。最後の仕上げに何が足りないか?

 自然の産物である「食材」は、どれ一つとして同じものはありません。我々人間が、皆違うのと同じように、同じであろうはずがありません。時期によっても違いがある、だからこそ「旬」という発想がうまれるのです。その十人十色の食材を、触れ味わい、どうすべきなのか悟らねばならないのが、「調理の職人」です。そして、この職人は、一朝一夕ではできず、学ぶこと、経験することで「練度を高める」しかありません。

 

 田水が引き入れられ、蛙が目覚めたように、5月1日に「営業自粛」の塞きを外し、「営業を再開」という水を引き入れました。皆様の努力が水泡と化さないよう、「新型コロナウイルス災禍」への細心の注意を払わなければなりません。そのため、まだちょろちょろとした流れです。しかし、この流れでも蛙を目覚めさせるには十分だったようです。

 Benoitキッチンが本格的に始動いたしました。食材廃棄を避けねばならないため、メニューを絞っての営業です。手を抜くことは「練度を下げる」こと。彼らに妥協はなく、もちろんきっちりと仕事をこなし、美味しいものを仕上げています。しかし、メニューに選択肢がある以上、日々きっちり用意した料理が終わることはありません。まして、この状況下なので、無駄になる確率が高いものです。

 せっかく職人が仕上げた美味なるものを、皆様にもお楽しみいただきたいと考えたのです、「自宅で」。そう、「テイクアウト」を始めました。もちろん全ての料理ではなく、シェフがお家でも美味しくお召し上がれると判断したものを厳選させていただきました。

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受付時間: 1030分から1900分まで

お受渡し時間: 1130分から2000分まで

電話(03-6419-4181)にてご希望の商品と数量、お渡し時間をお伝えください。メールの場合には、前日までに送りいただけると幸いです。

www.benoit-tokyo.com

 メニューはこちらから (表示価格は税込みです。)

http://www.benoit-tokyo.com/pdf/2005_Takeout.pdf

 ※数量限定の商品がございます。ご購入日に、ご希に添えない場合がございます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

テイクアウトメニューから、お勧めしたいものを抜粋させていただきます。

 

TERRINE DE CAMPAGNE テリーヌ・ドゥ・カンパーニュ 200g (2名様分) ¥1,850(税込)≫

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 豚の肩肉をメインに、豚の背油と鶏の砂肝をメインに仕込むテリーヌは、仕上げるのに2週間を要します。なぜ2週間もの時間を要するのか?ばらばらだった味わいが馴染み塩っ気が落ち着くのに必要なのが、この期間です。肉肉しい食感を生かしながら仕上げた、Benoit自慢のテリーヌです。

 

FOIE GRAS de canard confit フォアグラのコンフィとキンカン 100g (2名様分) ¥2,600(税込)≫

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 仕上げるのに3週間を要する、アラン・デュカスのスペシャリテです。仕上げるのにこの期間を要するため、「自粛休業」前に仕込んだ逸品です。この詳細は後日にお話いたします。口の中の温かさでとろけるようなフォアグラの仕上がりと、旨味満載の美味しさは、後日に詳細させていただきます。一言だけ、このフォアグラのコンフィを知ってしまうと、他のフォアグラのコンフィは味気なくなることでしょう。なぜ、アラン・デュカスが巨匠と称されているのか、垣間見ることができる逸品です。

 

Délicat velouté de PETITS POIS グリーンピースのスープ 300g (2名様分) ¥1,650(税込)≫

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 Benoitのスープは四季折々を反映しています。フランスから届くグリーンピースは、国産とは似て非なるもの。別品種ではないかと思うほどの違いがあります。我々の惜春の想いは、このスープに表れている気がいたします。滑らかながら、とろりとする濃厚なスープは、「グリーンピースが嫌い」な方にこそお試しいただきたいです。冷凍のシュウマイにのっかっているものとは、一線を画します。

 

Brandade de MORUE タラとジャガイモのブランダード 200g (2名様分) ¥1,550≫

 フランスの伝統の逸品は、以前にご案内させていただきました。家でも作ることは可能ですが、Benoitのブランダードは、一味も二味も違います。この機会に、ぜひお試しいただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

Pain de campagne パン・ドゥ・カンパーニュ 1個¥2,600 1/2 ¥1,300 1/4 ¥650(税込)≫

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 以前の「パン・ドゥ・カンパーニュ」も美味でした。しかし、この「パン・オウ・ルヴァン・ドゥ・カンパーニュ」は、別格です。なぜ、前よりも手間暇かけて仕込むのか?「美味しいものを作り上げるため」、ただそれだけの理由です。このパンの詳細は、後日に書かせていただきます。

 

≪グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」5本 ¥1,620(税込)

※誠に申し訳ありません。今期「さぬきのめざめ」の販売は終了いたしました。

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 Benoitの春は「讃岐から目覚める」!香川県の至高の産物、アスパラガス「さぬきのめざめ」がBenoitに届いています。どれほどの特選食材かは、以下のブログを参照ください。kitahira.hatenablog.com

 このテイクアウトは、このメールを受け取っている皆様だけのご案内です。Benoitシェフ野口と話した結果、「美味しくお家でアスパラガスを楽しむためには、茹でたてが一番」という結論に達しました。そこで、河田さんのグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」を、30cmほどの収穫したままの長さのまま、皆様にお渡ししようと思います。もちろん、下ごしらえは済んでいるので、お家では「茹でるだけ」です。切らないで茹でたいですが、長いため、皆様のお家のお鍋しだいでしょうか。たっぷり熱湯に、海水ぐらいの塩分濃度で、3~5分茹でます。この時間の誤差は、お湯の量によります。

 「茹でる」とぃう一手間はかかりますが、お家で茹でたての美味しさをご堪能いただきたいと思います。「口福な食事」なひとときを、惜春を感じながらお楽しみいただければ幸いです。

 5月17日からの販売です。グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」の入荷状況によりご期待にお応えできないこともございます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

 

Benoitで「酒販免許」を申請中です。≫

Benoitが所蔵するワインを、お家でもお楽しみいただこうと、期間限定「酒販免許」を申請しております。販売が可能となりしだい、再度ご案内させていただきます。Benoitのテリーヌやフォアグラと、香ばしいパン・オウ・ルヴァン。アラン・デュカスオリジナルシャンパンとのマリアージュが、お家で実現する日も、そう遠くないことでしょう。

 

 皆様がBenoitでお食事をされた際に、お持ち帰りいただいても。ご希望のお時間に、Benoitへ受け取りにいただいても。さらには、お車でお越しの際には、ドライブスルーのように1階の青山通りまで届けに伺います。何気兼ねなくご連絡ください。

 

 日本に根付く歳時記の世界は、農作業の暦であり、古人の英知の結晶ともいえます。カレンダーという便利な代物に頼ってしまったがために、ついつい見過ごしてしまいがちな変わりゆく自然の機微を、昔の人々は読み取り、農作業の目安にしていました。我々日本人が、桜の開花を待ち望み、桜前線に一喜一憂するのはなぜなのでしょうか。理由は多々あるかと思いますが、「日本人が農耕民族である」ことが大いに関係している気がいたします。

 「農耕の神」を指し示す言葉は「さ」なのだといいます。その神が山より里へやってくることで、無事息災に稲が育つ。実りの時期を迎えた後に、神は山へと帰ってゆくのだと考えていたようです。春、山よりいでし「農耕の神(さ)」が、宿る場所が、「座」を意味する「くら」なのだといいます。桜は「さ・くら」であり、神が降り立つ場所が「桜」だと。

 花咲く頃に神が宿り、豊穣を祈りお祝いをすること、これが花見のルーツなのだといいます。桜の開花に心躍る心地がするのは、古人の想いが、今なおDNAに刻み込まれているからなのでしょう。この桜の開花を目安に、「耕(たがえし)」「田打ち」とよばれる、田の土を起こす作業が始まります。北の地では桜の開花が遅いため、コブシが桜の代わりでした。そのため、コブシを「田打ち桜」と呼ぶのは、このような理由からなのです。

 稲作の農耕民族であるがゆえに、桜の開花が仕事始めのタイミングです。その名の如く、「田を起こし」た後に「畔塗(あぜぬり)」、別で「苗代(なえしろ)」をこしらえると同じく、「種浸し」そして「種蒔(たねまき)」と。田植えの準備が整うことで、田に水を引き込む作業が始まります。

 今でこそ、機械化が進み、耕運機や田植え機が活躍することで、時間短縮を図ることが可能となりました。しかし、稲を育むのは太陽であり大地であるため、栽培手順の流れは今も昔も変わりません。今は、隅々まで耕された田に水を引き込み、再び耕す「代掻き(しろかき)」へ。ビニールハウスのない時代にあっては、発芽に必要な温度を見極めながら苗代を作り上げる作業を並行しながらの、なかなかの重労働だったことでしょう。

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 日本有数の米どころである新潟県。広大な越後平野を有し、豪雪地域ならではの水資源の豊かさが、この名声をもたらしたのでしょう。先日、鹿児島県のある農家さんが、田んぼの休眠期である晩秋から、特産でもある「そらまめ」を植えることで二毛作を行っている話を耳にいたしました。なるほど、マメ科の植えることで、田にも良い影響がでるのだと。ところが、新潟県で「二毛作」は、雪に覆われる地ゆえにまったく不可能なこと。春を告げる「梅」が花開く時期も遅ければ、「桜」もまたしかり。

 冬の間、日本海から湿気のある風が越後山脈にぶつかることでもたらされる大雪は、豊富な雪解け水を確保する利点はあるものの、人々は長く厳しい冬の期間を過ごすことになります。寒冷な期間が晩春まで続くのかと思いきや、新潟県では春が急ぎ足で訪れます。

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 南から吹き荒れる春の風が、越後山脈を乗り越える際に「フェーン現象」を引き起こし、いっきに気温が上がってくるのです。関東では、梅が咲いた後に、桜の開花が待ち遠しくなる「間」がありますが、新潟県では意外に短いものです。そして、米どころだからこその多忙を極める日々が到来いたします。

 今か今かと待ちわびる春告げる「鶯(うすいす)」の初音(はつね)で、仕事始めに対する心の準備を整え、蛙の鳴き声を耳にすることで、「田植え」という一大作業へ向かう心を決めるのでしょう。関東ではGW前に田植えが始まりますが、新潟ではその後です。

 田に水を引き込み、代掻きを行う。陽が暮れ始める頃には家路につきます。人々で賑わいのあった田も、夕刻には静まり返り、耳にするのは嬉しそうに合唱する蛙の初音。目覚めさせてくれたお礼なのか、まだまだ続く農作業への励ましなのか?「蛙の初音」は、今も昔も変わることのない新潟の春の風物詩です。

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最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

終息の見えないウイルス災禍です。皆様、油断は禁物です。十分な休息と睡眠、「三密」を極力避けるようにお過ごしください。「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。

皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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