kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit特選食材「和歌山県桃山町の豊田屋さん≪あらかわの桃≫」のご案内です。

五月雨に ひとり日をふる ながめこそ なかなか伴(とも)の ある心ちすれ  寂然

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 「五月雨」は、「さみだれ」と読みことは周知の事実。これほどの難読漢字を「ごがつあめ」と読む方が少ないほど、我々日本人に定着している不思議な言葉。五月雨は梅雨のことを指し示すのですが、5月に梅雨?という違和感を差し置いて、違和感なく受け入れています。明治時代に旧暦(月の周期)から新暦(太陽の周期)へ移行する際に、1か月ほどもズレの生じる誤差がありながら、六月雨と書き換えずにそのまま残すあたりは、「漢字」そのものよりも「読み」に大切な意味があるからなのです。

 古人は、田の神を指し示す言葉を、いや口にする音を「さ」としていたようです。以前にも書きましたが、「すわる場所」のことを「座(くら)」といいます。田の神が山より舞い下りる場が、「さ・くら」です。農耕民族である日本人が桜の開花に一喜一憂する理由は、DNAに刻み込まれた、古来の「田の神」信仰なのでしょう。花見こそ、田の神が舞い降りたことへの感謝の気持ちを表したお祭りだったはずです。収穫の源でもある田植え用の稲を「早苗(さ・なえ)」や、田植えを担う女性を「早乙女(さ・おとめ)」と。豊富な水資源を必要とする稲作において、雨は必要不可欠なもの。その恵の雨が降り続く月が五月(さ・つき)です。「五」の語源を調べても、「さ」の読みはありません。ということは、漢字の意味ではなく、田の神への感謝の気持ちを込めた呼び名「さ・つき」を、たまたま暦の上で5番目の月の名称へと充てる。五月雨は「さ・みだれ」であり、「みだれ」は「水垂れ」なのだといいます。「さみだれ」とは、かくも美しき響きをもっていることでしょうか。

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 五月雨(長雨)が降り続くので、一人物思いに耽(ふけ)る日々、これがまた従者と共にいるようで一人退屈しないものだ、と。長雨も悪くはないと寂然は詠う。「ふる」は「雨が降る」であり「時が旧(ふ)る、経(へ)る」だと。さらに、「ながめ」は「眺め」であり「長雨」だといいます。しとしとと感慨深く続く梅雨だからこそ、大いに物思いに耽ることができる、だからこそこれほどの「技巧を極めた」美しい歌を仕上げてしまうのでしょう。その寂然の眺める先には、きっと咲いていたであろう控え目な白い小さな花。結実しても食用とはならないにもかかわらず、庭木として重宝している樹です。何の花でしょうか?自分は、もちろん知っているわけもなく、偶然に目にしたときの感動は、まさに出会うべくして出会うのだと感慨深いものでした。

 

 熊野古道高野山世界遺産を2つも有する和歌山県。南北にのびる山々は、清らかな豊かな水を約束しています。風光明媚な上に、これほどまでに食材に恵まれた地が他にあるでしょうか。黒潮の流れが紀伊半島にぶつかることで、太平洋側と瀬戸内海は豊かな漁場へとかわり、カツオやクエ、ハモなどの多種多様の海産物に恵まれています。緑豊かな山々から湧き出(いず)る清らかな水は、美しい川へと姿を変え、そこには鮎が遡上する。その豊富な水資源は、生きとし生けるもの生活圏を育み、多種多様な生態系によって切磋琢磨され、他に類を見ない特産を生み出すことになります。みかんに柿、それに梅。飛び地の北山村の「じゃばら」などはまさに和歌山県のみで産する柑橘です。さらに、発酵食品である味噌や醤油もまた、気候風土が育んだ食品です。そして、彼の地で特産であり、今月のBenoit特選食材「白桃」を忘れてはいけません。

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 和歌山県の北側を紀北地域と呼び、その中で位置しているのが紀の川市桃山町。町の名前に桃が入るほどの伝統のある町です。この桃山町内でさらに選ばれし地であり、農薬や栽培方法などの厳しい審査をクリアした桃のみが、「あら川の桃」というブランドを冠することができるのです。ところが、ここで終わらないのがBenoitの特選食材です。あら川の桃を育てることを生業とし、代々引き継いできた桃農家さん。ブランドの名に甘んじることなく、少しでも高品質のものをという探求心を捨てず、さらに美味しいばかりではなく、体に良いものでなくてはならないという揺るがない信念のもと、辿り着いたのが「無農薬栽培」。しかし、白桃が、日本の気候の中で無農薬を簡単に受け入れることはなく、試行錯誤の日々。この弛まぬ努力の結果、ご本人はまだ納得いっていないようですが「ほぼ無農薬栽培」が実現しています。

 生きとし生けるものにとって、多大なる恩恵をもたらす「自然」。しかし、時として試練を与えてきます。ここ数年、地球温暖化の影響なのでしょうか、台風の進路が本州を横切るようになっていく中で、昨年2018年9月4日台風21号は、25年ぶりともなる「非常に強い」勢力を保ったまま日本に上陸し、近畿地方を中心に甚大なる被害をもたらしました。和歌山県北部も例外ではなく、その猛威は「野分け(のわけ)」の如くに、紀の川市桃山町の桃の樹をへし折りなぎ倒していきました。「桃栗3年、柿8年~」と詠われるように、野菜と違い果樹は結実までに時を要し、実を成す前も後も、相応の手間暇を要求してきます。まして、無農薬を目指しているならばなおのこと。この台風が一日にして奪い去ったのです。「乗り越えられない壁はない」と簡単にいえるものではありませんでした。見るも無残な惨状と化した桃畑を目の当たりにし、豊田屋さんの栽培の陣頭指揮を執っている豊田孝行さんは、「桃栽培を諦めようかな」とfacebookで吐露しています。そこまで、彼は追いつめられていたのです。

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 しかし、現存している樹の手当を施し、新たに植樹を含め、再出発を図ったのです。今思えば、豊田さんが「諦めよう」と気持ちを告白した時、彼の中では桃栽培を継続することを決めていた気がいたします。不可能といわれている白桃の無農薬栽培に挑み続け、幾度となく投げ返されたことでしょう。自然の理を探ることを諦めない「心の強さ」が、桃農家を代々引き継いできたプライドが、「諦める」ことを許しませんでした。

 前述した、寂然も梅雨時期に庭木で見ていたであろう、白い小さな花が咲く樹は、「ナンテン」です。この花は虫媒花(ちゅうばいか)の分類に属し、受粉するのに虫の手助けを必要とします。雨の続く時期に開花しながら、雨は虫の行動を妨げる。さらに、雨によって花粉が流される。この樹にとってはこの時期の開花は試練ともいえるでしょう。日本では、「ナンテン」は「難転」とも書き記します。この「難を転じる」という語呂と、冬に見事なまでに真っ赤な実を成すことから、庭木として植栽することも多く、さらにはお正月飾りには欠かせません。今回、豊田屋さんの桃を紹介するにあたり、ナンテンの花をご紹介させていただきました。難を転じて福を招く、そう信じております。

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 収量は半減しているものの、昨年同様に「豊田屋さん」より、間違いなく美味なる桃がBenoitに届いています。今、Benoitに届いている品種は「白鳳」、まもなく「清水白桃」が引き継ぎ、7月後半には「川中島白桃」を迎えることで、豊田屋さんの桃のシーズンは終わりを迎えます。どの白桃が美味しいのか?もちろん全てが美味しいことはいうまでもありません。その中で、「どうしても、一品種を選ぶならば?」という問いには、「清水白桃」と答えます。豊田屋さんのこれを食せずして8月は迎えられません。では、「いつBenoitに届きますか?」との問いに対する答えはただの一つ。「桃に聞くしかありません」と。

 

 この豊田屋さんの桃をBenoitのパティシエール田中真理が「ピーチ・メルバ」という伝統の逸品に仕上げていきます。ただし、白桃の食感と繊細な風味を損なうような煮込みは一切行いません。湯剥きして種を取り除いた白桃を、ステンレスのバットに所狭しと並べてゆきます。ラズベリーの心地よい酸味と優しい甘さを生かしたジュースを温め、桃の上へと注ぎ、そのまま半日漬けるように。妥協のないバニラビーンズを使った軽やかな生クリームと濃厚なバニラアイスクリーム、アーモンドのパリパリの食感と香ばしさを出したポリニャックを飾り、フサスグリの甘酸っぱいジュースを皆様の前で。どれ一つとして欠かすことのできないパーツであり、それぞれの食感と甘さ・酸味のバランスを意識し組み立てられた逸品デザート。伝統を踏襲しつつも、新たなピーチ・メルバの世界を皆様にご案内いたします。かつて、天才料理人エスコフィエ氏が、オペラ座で奏でたソプラノ歌手のメルバ氏に心打たれたことで誕生したというデザートが、今度は「甘み・酸味・食感」のハーモニーを奏でることで、皆様の心にうったえかけてきます。

 2019年Benoitのピーチ・メルバは、9月末までの予定です。しかし、和歌山県の豊田屋さんの白桃を使ったデザートは、天候次第ではありますが7月末までと予想しております。ランチでもディナーでも通常のプリ・フィックスメニューの選択肢の中で+800円でお選びいただけます。ここ最近の動向の読めない台風の数々、過去に和歌山県を直撃した際に、桃の収穫ができずに終了を迎えたことがございます。なにゆえ自然のことゆえ、ご理解のほどなにとぞよろしくお願いいたします。ご予約の際に、「ピーチ・メルバ希望」とお伝えいただければ、準備できる数が少ない場合には確保させていただきます。このメールへの返信、土日や急ぎの場合には、

benoit-tokyo@benoit.co.jp

よりお願いいたします。もちろん電話でもご予約は快く承ります。桜前線ならぬ、「Benoit桃前線」は、和歌山県から始まり、岐阜県を経由、最後は新潟県へと北上してまいります。

 

 和歌山県の豊田屋さんとの出会いは4年前でした。先祖代々引き継がれてきた栽培ノウハウを踏襲しつつも、飽くなき探求心ゆえにさらなる品質の高みを目指し、日々努力を惜しまない豊田さんご家族。陣頭指揮を執っているのが兄、豊田孝行さんです。画像が豊田さんの「白鳳」の収穫風景。白桃は実が繊細なため、手で収穫した際に握ってしまうと、数日後に指の跡が茶色く色づくといいます。そこで、この炎天下の中、厚手の手袋をして握らないように優しく、極めて優しく。豊田屋さんから送り出すまでは細心の注意を配りながら、少しでも美味しい状態で皆様の下へと届けるために。

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 毎日のように自ら畑に赴き、移りかわる四季の機微を肌で感じ、桃と向き合う。実は豊田さんは現役の医師でもあり、半農半医の激務をこなす強者でもあります。「ご職業は?」という質問には「桃農家です」とさらりと答えるあたりは、患者さんには申し訳ないのですが、桃栽培に重きが置かれている気がいたします。そして、医師だからこそ人々の健康に対する想いが強く、「農薬や化学肥料を使わずに美しく美味しい桃を作る」という、人生をかけた目標を掲げたのです。桃栽培において、無農薬栽培がどれほどリスクを負わなければならないか、どれほど手間暇をかけなければ成し得ないことか。ただ、真摯に桃と向き合い、労を惜しまず、粛々と桃の樹の手入れをしている後姿は、必ず無農薬栽培を成し遂げるという自信を雄弁に物語っているようです。彼のもとには、無謀とも思える試みに共感を覚えた、苦労を厭わない人々が集う、最強の桃栽培チームが存在します。特に、「農家が自立しないでどうする」という兄の思いから、営業を中心に兄を補佐する弟さんご夫妻は、最高のパートナーなのだと、常日頃より感じています。

 豊田屋さんの桃畑です。樹と樹との間隔をとることは、植物には欠かすことのできない陽射しを、樹全体で余すことなく受けることが可能となるばかりか、風通しが良くなるため、病気の予防にもなるのです。さらに、樹形を上へ上へと伸ばす「切り上げ剪定」を行っています。従来の桃農家さんは、作業の効率と安全を考慮し、枝が下へ下へと向かうよう剪定していきます。ところが、豊田さんは、徒長枝(とちょうし)と呼ばれる新梢を残すように選定します。徒長枝は街路樹などでも厳しく剪定した場合に、行き場のなくなった栄養が爆発するかのようにびよーんと間延びした枝のこと。ブドウ栽培の場合、徒長枝はその年に実を成さないため、発梢を抑えるように剪定します。この枝を意図的に生ませ、次の年に生かす。老いた枝を残す従来の方法よりも、若くありあまったパワーの徒長枝を残した方が、樹にとっては自然の形だと豊田さんは言います。

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 しかし、無農薬栽培のためには、収穫までに多岐にわたる作業が樹一本に対して行われることになり、途方もない労を要します。そのため、「切り上げ選定」は、脚立の上り下りの果てしない作業ばかりか、危険も伴うことになります。さらに、普段は問題がなくとも、暴風雨が枝や幹を容赦なく打ちつけることで、折れる裂けるという危険が増大することになるのです。実際に2014年8月に、和歌山県に上陸した台風では、収穫間近の川中島白桃に壊滅的なダメージを与えることになりました。実った実が落ちるばかりか、実の重さの分、上へ伸びている枝を支えきれず折れやすく、そこから幹が裂ける事態に陥りました。それでもなお、豊田屋さんがこの仕立てにこだわる理由は、兄の壮大なる目標を達成するためです。

 さらに、桃の樹の周りは草ぼうぼう。つまり、除草剤不使用は一目瞭然。この一年中生い茂る草の中にこそ、生きとし生けるものにとっての自然界のサイクルが存在しているのです。食し食されまたは共生と。この自然環境を造り上げることは、全ては土作りに起因します。その結果、個々が持っている病虫害への抵抗力を引き出すことになるのです。そのため、農薬使用量が激減します。書くと簡単ですが、下草にさえどれほど気を使いながら手入れをしていることか。この環境は、毎年いろいろな野生動物、アライグマ、イタチやキジなどの巣作りの場ともなっているようです。今年はここに珍客が初登場。母猫が出産前から子猫の巣立ちまで草陰に居を構えたのです。猫好きな豊田さん一家が、なにもイジメているわけではないのですが、子猫を守る母猫にとっては人の気配は一大事。桃のお世話に何度となく近寄る度に「怒られました~」とのこと。近隣の畑や山里から多くの可愛いお客様が毎年やってくることも、豊田屋さんにとってはホッとする楽しいイベントだといいます。

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 2018年の和歌山県紀の川市は、「モモ穿孔(せんこう)細菌病」が蔓延しています。この細菌病は桃栽培者にとって悩みの種、というのも風雨によって感染していくのです。枝に感染し越冬したものは春に枝を枯らし、春の小さな青果に感染したものは、熟していく果実の果皮を穿(うが)つ。果汁が豊かなだけに、表皮の裂け目から果汁をたらし別の病原菌を誘引します。この厄介な細菌病に、豊田屋さんの白桃は農薬の力借りずに果敢に対抗しているのです。そう、こだわり抜いた土作りがあったればこそ、強靭な桃の樹となる。さらに、豊田屋チームが、丹精込めて手間暇惜しまず桃に向き合ってきたからこそ、桃の樹が健全な生育で応える。もちろん、美味しさ面でも応えています。Benoitで11階に上がる際に、パティシエルームをガラス越しに望むことができます。そこに豊田屋さんの白桃が、デザートになるのをまだかまだかと待っている姿を目にするかと思います。その表皮にポツリポツリと赤い斑点があるものを見かけるかもしれませんが、これは消毒を使っていない証です。

 春には桃源郷の様相を呈する豊田屋さんの桃畑、生い茂る腰の高さまで伸びた草に囲まれた環境は、まさに生き物の楽園です。その地で育まれた桃が美味しくないわけがありません。豊田さんからメールが届きました。カブトムシやクワガタが美味しそうに桃の実にしがみつき、その果汁を楽しんでいますと。すぐに引きはがして!というのが自分の感想ですが、豊田さんは共存・共生を信条にしているからこそ、「虫たちへの分け前ですよ」と言っています。未だ達していない「桃の無農薬栽培」に、もしかしたら彼らが導いてくれるのかもしれません。

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 終わることの無い病害や避けることのできない暴風雨に、何度となく心折れることがあったことでしょう。しかし、彼は諦めることなく目標に向かい続ける、なぜでしょうか?目の前に、先祖代々引き継がれてきた桃の樹があるから。そして、その先に桃によって口福なひとときを楽しむ皆様の姿があるからなのではないでしょうか。

 

以下は桃の余談です。

 悠久の時の流れを遡り、日本で最初に登場したであろう国家らしき「邪馬台国」。小学校で学ぶ日本の歴史に登場するこの名称を、知らない人はいないのではないでしょうか。いまだ謎のベールに包まれ、いったい日本のどこにあったのかすら、未解決。その有力候補と地として名が挙がるのが、奈良県桜井市で見つかった「纏向(まきむく)遺跡」といいます。難解な漢字を使う名称だけではなく、不可解な点が多いのがこの遺跡なのです。人々が集まる地だからこそ、文化文明が生まれるもの。しかし、この遺跡には人の住んでいた形跡がなく、まさに古墳群によって形成されたかのような場。そこからは貴重な出土品が多くすべてを鑑みると、ここは祭祀の場であっただろうと。そして2010年、3世紀に掘られたであろう土坑という穴から、2,000個にも及ぶ桃の種が見つかったと発表がありました。

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 中国が原産という「桃」の樹は、実を食用としてというよりも、何か不老長寿の薬効を含み、百鬼をも退かせる呪力が宿った仙木だと信じられていたようです。この古代中国の思想とともに日本に持ち込まれたようで、日本の誕生を書き記した「古事記」によると、黄泉国(よみのくに)にいる愛する妻イザナミノミコト(伊邪那美命)に会いに赴いた夫イザナキノミコト(伊邪那岐命)が、約束を破り妻の変わり果てた姿を目にしてしまう。怒り心頭に発したイザナミノミコトは、逃げるイザナキノミコトを見るも恐ろしい醜女(しこめ)に追わせるも失敗。そこで、八種(やくさ)の雷神(いかづちがみ)と、1,500にも及ぶ黄泉の軍勢を差し向けました。命からがら、黄泉国の出入り口である黄泉比良坂(よみひらさか)に達したとき、近くに育っていた桃の樹から得た桃の実3つを追手に投げつけることで事なきを得たというのです。ほぼ同時期に編纂された「日本書紀」にも、多少の違いこそあれ、同じようなことが記載されています。

 纏向遺跡の土坑一か所から2,000個の種が見つかりました。このような大量の種が出てくる事例は他にはありません。かつて、この場で大規模な神事が執り行われた証ではないのか、そのような歴史ロマンに魅せられた人々が、太古の雄大な夢を想い描きながら集う場所でもあるのです。そう、全ては桃に邪鬼を祓う力が宿っていると信じられていたために、その樹や実が、古代祭祀の道具や供物として使われていたからという理由に他なりません。

 今でもこの名残を残しているものが、2月3日に執り行われる「追儺(ついな)」という宮中行事です。我々には「節分の豆まき」の日ですが、このルーツともなる神事だといいます。季節の変わり目が「節分」、新しい季節を迎える前に今の季節の厄「鬼」を祓うため、「桃の樹の弓で、葦(あし)の矢を射る」というのです。五穀や小豆をまくこともあったようで、これが我々馴染みの節分の豆まきとして今に至るのでしょう。鬼(厄)を退治する(祓う)といえば、我々に馴染みも「桃太郎」の昔話。なぜ桃から生まれたのか?もうお気づきかと思います。諸説あるかと思いますが、このお話は納得していただけるのではないでしょうか。

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 「桃」の後に、中国大陸からもたらされたのが「梅」です。今、庭木や公園など其処彼処で目にすることができる「梅」に対して、「桃」はそこまで版図を広げていません。花も美しく香りも芳しい、まるで「桃源郷」を夢想させ、美味しい果実を実らせるにもかかわらず。同じような境遇は日本の春を代表する固有種にもあります。「桜」と「椿」です。万葉の時代で「花」といえば「梅」、平安時代には「花」は「桜」のことを指し示します。大輪で美しく咲き誇る椿は、実からとる椿油は、行燈に使用され夜を照らす。さらに髪のお手入れに利用するのは今も変わりません。なぜ桃と椿は?意外な共通点がありました。

 「椿」という漢字は中国に存在はしていますが、日本のツバキのことではなく、霊木の名を指し示すといいます。日本の古人は漢字を取り入れ、日本風に解釈し「読み」を作り上げました。このような漢字を「国訓」といい、椿はその代表例でしょう。日本書紀の中に、椿の杖で土蜘蛛を退治する話が登場します。古来から霊的な力が宿っていると考えられていたのです。この、なにかしらにこの霊力が宿っていると言われていたからこそ、人々が簡単に扱うことに畏怖の念を抱いていたのでしょう。歴史を紐解くと、桃と椿が馴染み深い樹となるには江戸時代まで待たねばらないようです。

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 桃、桃と話を書いてきましたが、前述した昔話「桃太郎」の絵本を時間のある時に手の取っていただきたいです。見ていただきたいのは「桃の形」。今、巷にあふれる桃とは形が異なり、まんまるというよりも、先のとがった形をしています。形はスモモに近いでしょうか。古来、中国より持ち込まれた桃が、北方系の品種らしく、この果実の形が桃太郎の桃。昔に描かれた桃の画もまた同じです。明治に入り、南方系が日本に届き、偶発実生(意図的ではない自然の交雑から生まれた品種)によって生まれたのが、今の「まん丸の桃」の原型だと言われています。

 「桃の形」、子供の絵本とはいえ歴史考察の上では貴重な資料なのかもしれません。そういえば、纏向遺跡のある奈良県の隣は和歌山県紀の川市は県の北側に位置しています。今でこそ県境の線が引かれていますが、昔はなかったでしょう。もしかしたら、何かしらの繋がりがあったでしょうか。桃が古代の歴史を物語るかもしれません。方言もそうですが、身近なものにこそ歴史を探るヒントがあるのではないでしょうか。

 

 いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。「長々と文字が続くメールを、いったい7月は何が特選食材なのかと思いを馳せながら読み進める、これがまた北平が語りかけてきているようで退屈しないものだ」と感じていただければ幸いです。

 

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特選食材≪宮崎県の完熟マンゴーと沖縄県のパッションフルーツ≫&特別プランのご案内です。

「紅一点(こういってん)」

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 多くの中で異彩を放つもの、むさい多くの男性陣の中の、美しい一人の女性、などという意味合いでよく使われる言葉です。この表現は、緑の葉が生い茂るなかで輝かんばかりに咲く一輪の花という光景から生まれたらしいのです。今では、花が散りかけ少し実が膨らんできている頃でしょうか。いったい何の花か思いあたりますか?

 秋に独特の姿のはじけんばかりの実を結ぶ、「紅」鮮やかなザクロの花です。「緑」美しい時期だからこそ映える美しさ。それゆえに、「紅一点」という表現が生まれたのでしょう。と思いつつ、画像がザクロの花なのですが、何か違和感を覚えませんか?「紅一点」というには、意外にも多くの花を咲かすのです。ここはひとつ、意図的に視野を狭めてご覧ください、まさに紅一点の世界観を望めるのではないでしょうか。はたまた、視野を広げてみると、この時期は思いのほか白い花が多いもので、紅色の花が梅雨の最中に映えるからこそ、「紅一点」なのでしょうか。

 

 日本全国津々浦々、多彩な四季の表情に恵まれている日本に住んでいるからこそ、旬の食材にこだわりたいものです。年間スケジュールを組むも、なかなか思い通りにゆかないもので、栽培者の方々とお話をさせていただきながら、忸怩(じくじ)たる思いで断念せざるを得ない数々。自然の育む美味なる食材を、自分が勝手にカレンダーにあてはめていること自体がおこがましいとは十分に理解しているものの、どうしても前もって計画せねば何も始まらないのも事実。今年は旬の食材の収穫が遅れるは、早まるはの、なかなかに忙しい令和元年です。

 Benoitの7月メニューに明記される特選食材の数々。その中で、今回はデザートを彩る「紅一点」ならぬ「紅三点」ともいえる逸品を、まずは簡単にご紹介させていただきます。残念ながら「ザクロ」はまだ完熟していないので、登場いたしません。

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 「紅」一つ目は、Benoitの7月のデザートの食材といえば、和歌山県紀の川市桃山町の豊田屋さんの「白桃」です。桃山町です、地名に「桃」の字が入っているほどの銘産地であり、彼の地の選ばれし桃は「あら川の桃」のブランドを冠します。今届いている品種は、画像の「日川白鳳(ひかわはくほう)」です。この品種から始まり、「白鳳」へ、そして白桃の王様「清水白桃」を迎え、7月末の「川中島白桃」で豊田屋さんの収穫は終わりを迎えます。皆様がBenoitへお越しいただけるときに、どの品種なのかは、桃にお伺いを立てるしかないでしょう。

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 「紅」 二つ目は、和歌山県と瀬戸内海を挟んでの反対側に位置する、香川県さぬき市の「ひうらの里」からBenoitに届いている飯田桃園さんの「スモモ」です。今の品種は画像の「大石早生」で、まもなく「フランコ」へ。今期は飯田桃園さんお12種類のスモモの品種より選りすぐりのものを送っていただきます。予定では、7月中旬には「ソルダム」、そして「太陽」へと引き継がれることに。

 白桃は「ピーチメルバ」へ、スモモは「クラフティ」へと姿を変えます。ともにフランス料理を代表する伝統デザートでありながら、そこへBenoitパティシエール田中真理のセンスが加味された美味なる逸品となり、メニューに名を連ねております。これらのデザートの詳細は後日とさせていただき、残りの一つをご紹介しなくてはなりません。すでに表題にもなっているので皆様お気づきかと思いますが、「紅」三つ目の特選食材は、宮崎県綾町で育まれた「完熟マンゴー」です。眩(まばゆ)い輝きをはなつ「紅三点」。それぞれの美味しさを皆様に語らねばならない中で、筆頭に上がるのは「完熟マンゴー」です。なぜか?間もなく収穫が終わってしまうからです。今お楽しみいただかなければ、来年まで待たねばなりません。

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 宮崎県の完熟マンゴーは、加温栽培で全国一の生産量を誇ります。その県内で、Benoitがどうしてもこだわりたかったのが「綾町」産でした。この地は宮崎県のほぼ中央に位置し、宮崎市から西へ20km、大淀川支流の本庄川をさかのぼった中山間部。町の約80%が森林で、それも日本一の照葉樹林を形成しています。さらに、この恵まれた環境は、名水百選にも選ばれる水源を生み出しました。自然豊かな環境で育てられた農畜産物の美味しさは県内外に知れ渡り、多くの観光客が彼の地を訪れているそうです。ただ自然豊かだから美味しい?これは主要因ではありますが、他にも一因があるのです。綾町のお話は、以前「トウモロコシ前線のご案内」で書いております。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 マンゴーは亜熱帯の果物なので、宮崎県の気候をもってしても露地栽培は難しく、全てハウス栽培です。だからこそ、徹底した管理のもと美味しさを追求できるのです。地植えとポット栽培を併用し、収穫は人がハサミを使って行うのではなく、マンゴーの樹は果実が熟すと実を落とすという特性を利用した、自然落果した果実を収穫します。太陽の恩恵を十二分に受け、植物のみが成せる光合成によって栄養を果実に蓄える。母なる樹から、子である果実が離れる時が、立派に成長した極み。宮崎県のマンゴーは、その瞬間(とき)を逃がさないよう、ひとつひとつの果実をネットで包み、果実が熟して自然落下するのを待つのです。これゆえに「完熟マンゴー」と命名。マンゴー本来の味わいと香が最大限発揮される「完熟」だからこその逸品へと名を押し上げたのです。さらに、自然の摂理を尊重する自然生態系農業を実践する綾町は、除草剤不使用に加え、土作りも堆肥から。広大な照葉樹林から湧き出でる名水と自然の生態系を生かした良質な土から育まれた「綾町の完熟マンゴー」が、美味しくないわけがありません。

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 Benoitデザートの重責を担うのがパティシエール田中真理です。何度となく名前が挙がるので、すでに周知の方も多いのではないでしょうか。フランスのコンクールでも優勝している実力者。昨年のこと、彼女に問う「マンゴーを購入したらデザートに組み込める?」「グラン・リーブル(アラン・デュカスの料理の粋を結集したレシピ本)に載っている逸品を作るよ」「宮崎県の完熟マンゴーで美味しいデザートになる?」「誰に言っているの?」と自信の笑みがこぼれていました。今期は2回目。自分の中では、昨年のスタイルが美味しく好評だったために、変更しなくとも良いのではと思うのですが、そこは「職人気質」に溢れる彼女です、昨年の自分を越えねばならないというのです。

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 アラン・デュカスの料理哲学は、「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」です。宮崎県綾町の完熟マンゴーがどれほどの食材かを知りえたこともあり、今年はこれでもかというほど贅沢に完熟マンゴーを使用します。画像にある乱切りのマンゴーは、マルムラードとソルベ(シャーベット)へと姿を変えるのです。作業中の光景を目の当たりにした時、宮崎県の完熟マンゴーの価格を知っているだけに、「うわっ」と声が漏れたのを覚えています。フレッシュで仕上げることが、どれほど美味しさを生み出すのかを、一口お召し上がりいただければご理解いただけるのではないでしょうか。

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 ココナッツとアーモンドを加え丁寧に仕上げた生地を、香ばしく焼き上げていき、ここへ盛りつけてゆきます。と、焼きあがったタルトを前にし、田中がなにやら教えている姿が。脇で話を耳にした時、「こんな些細なところにまで」と感服いたしました。いつも、さも自分が仕上げたかのようにぺらぺら話をしているからこそ、なおさらこの想いが募るというもの。何をしているのかわかりますか?すでにこのデザートが始まり10日ほど経っていますが、気づいた方は皆無なのではないでしょうか。これ、焼き上がったタルトの側面のザラザラを削ぎ落しつつ、上部の淵の内側を削り鋭角な角を付けているのです。タルトを家で焼いているかたは、焼き上がりのタルトの淵が丸みのあるボテッとした姿を思い浮かべていただきたいのです。そこを、削るのです。食感と盛り付けた際の美しさを求めるがゆえに。

 アラン・デュカスがデザートに求める要素は「食感・甘さ・温度の違い」。上記のタルトに、完熟マンゴーのマルムラードをのせ、ライムを加えたクリームを絞り込みます。コクのある甘さのマンゴーに、クリームのまろやかさ、ここにライムを加えることで味を引き締めるのです。これだけでも十分に美味しいところへ、これでもかとフレッシュの完熟マンゴーを山のように盛りつけます。沖縄県パッションフルーツの果実をのせ、ライムを削る、添えるのは宮崎県マンゴーと沖縄県パッションフルーツのソルベ。それぞれの「食感と甘さ・酸味」の違いが、飽きることのない味わいのハーモニーを奏でるのです。この美味しさを、どうお伝えすればよいのか?悩みどころは、最後の一口を、「完熟マンゴー」にするか「シャーベット」にするか?いや、サクッと香ばしいサブレという選択肢もある。まさに「口福なデザート」とは、このことかもしれません。

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 完熟マンゴーを使用したデザートは、ランチでもディナーでも2,000円の追加料金でお選びいただくことが可能です。しかし、皆様より並々ならぬご愛顧を賜っていることへのお礼と、宮崎県綾町の「完熟マンゴー」があまりにも美味しいので、皆様にどうしてもご賞味いただきたいという思いがあり、特別プライスのコースをご案内させていただきます。ランチ・ディナーともに、プリフィックスコースのデザートは、もちろんここまで長々と力説させていただいた自慢の「宮崎県綾町の完熟マンゴーの逸品」です。前菜とメインディッシュは当日お選びいただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、宮崎県のマンゴーの収穫が終わりを迎えるまでの、平日限定です。ご予約人数が8名様を超える場合は、ご相談させてください。

 

ランチ

前菜+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート

5,800円→5,000円(税サ別)

 

前菜x2+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート

6,800円→5,800円(税サ別)

 

前菜+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート+デザート

5,800円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート

8,100円→6,700円(税サ別)

 

前菜x2+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート

9,100円→7,500円(税サ別)

 

前菜+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート+デザート

7,500円(税サ別)

 

 ご紹介しましたプランは、BenoitのHPなどには記載いたしません。このメールを受け取っていただいている皆様への特別なご案内です。完熟マンゴーの収穫が自然落果を待つため、日照条件によって収量が左右されます。そこで、このプランをご希望の方に優先的にこのデザートを確保させていただきます。ご面倒とは存じますが、ご予約のご連絡をいただけると幸いです宮崎県綾町より7月末を待たずして収穫終了するかもしれませんとの情報を受けております。いつまで、ご用意可能なのか?こればかりは、マンゴーに聞くしかありません。ご不便をおかけいたしますが、自然のことゆえご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

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 今回の完熟マンゴーのデザートにとって、欠かすことができないもう一つの特選食材が、パッションフルーツです。名前こそよく耳にいたしますが、いったいどのような果実で、どのように食べるものなのか?ましてやどのように栽培されているのか?なかなか思い当たらないものです。上に添付した画像は、マンゴー畑ではなく、実はパッションフルーツ畑。この特選食材は、沖縄県本島の最南端から。大部分が海に面している海人(うみんちゅ)の街である糸満市、彼の地の山城農園から、海と太陽が育んだ類まれなる逸品がBenoitへ。

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 園主である山城さんは、農薬を使わずに安心・安全な果物を提供したいと切望し、栽培方法すらままならないパッションフルーツの無農薬・無化学肥料栽培へ挑みました。徹底した管理の下での栽培を要求されるため、ハウス栽培を選択し、土作りから取り組みます。しかし、失敗を重ね、自然の辛酸を舐めること幾度となく。彼の苦悩は計り知れず、我々の想像を超えるものだったはずです。周囲の仲間からは、励ます者もいれば、諦めを促す方もいたでしょう。山城さん自身の心が折れることもあったでしょう。しかし、最高のパッションフルーツを育て上げるという信念はゆるぎのないものでした。そして、ついに無農薬・無化学肥料栽培を実現させたのです。流れし時は、ゆうに7年に及びます。

 南国のフルーツならではの、強い日差しを要求するパッションフルーツ。同時に、無農薬栽培を実現するためには徹底した管理を求められます。ハウス栽培では少なからず陽射しの恩恵を削がれるがために、パッションフルーツの持つ光合成能力を高めねばなりません。そこで、その能力を最大限に引き出すため、山城さんは玄米アミノ酸酵素液を採用しました。そして、乳酸菌と納豆菌に加え酵母菌を培養した「えひめAI」と木酢液を使うことで、生育を促します。さらに、人体に害を及ぼす虫の駆除に一役買っている、インド原産のハーブの一種「ニーム」を加えた、玄米アミノ酸ニーム酵素液を防除に試みたことが功を奏しました。この彼の情熱に応えるかのように、甘さと酸味の抜群バランスの美味しさに満ち満ちた果肉がぎっしりと詰まった、外観も完璧なパッションフルーツに成長したのです。彼はこの逸品を「」パッション・ルビー」と命名しました。

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先日、この糸満市パッションフルーツを、さも自分が苦労して育てたかのように、お客様に自慢していた時のお話です。なんとお客様が糸満市出身の方だったのです。「北平くん、糸満(いとまん)市は、なぜその名称になったのか知っているかい?」と問いかけられました。もちろん「存じません」と答える。「糸満と呼ばれる前の昔の話なのだけどね」と話が始まりました。琉球王国の時代、彼の地の沖合でイギリスの商船が難破したのだといいます。一難去った船乗りたちは陸を目指して泳ぎ始めるも、力尽きるものも数知れず。糸満の海岸に辿り着いた船乗りは僅か8人しかいなかったというのです。そして、お客様が自分に問いかけました、「英語で言ってごらん」と。8(eight)人(man)、「エイトマン」…糸満なのだと。ありそうでもあり、なさそうでもあるこの驚愕のお話は、年配の糸満市の人々は皆知っていることなのだといいます。この話を別のテーブルで披露すると、「複数形だから8(eight)人(men)だね」とご指摘が。そうか、こう切り返さなければいけなったのかと、自分の未熟さを再認識した忘れることのできない貴重な一日となったのです。

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 Benoitに初めて届いた山城さんの育んだパッションフルーツの段ボール。中には「パッションフルーツは収穫後に追熟するフルーツです。ツルツルの表面がしわしわになり、香りが立ってきたときが食べ頃です」というご案内が入っておりました。それを片手に自分の業務へと戻ろうという時、パティシエから声がかかりました。段ボールの側面を見てくださいとのこと。添付画像をご覧ください、ひたむきに栽培に取り組む姿が見えるかのようなコメントではないですか。素晴らしい品質を生み出すには、栽培者の想いや人柄が大いに関係している気がいたします。料理もワインもまたしかり。さて、山城さんの住んでいる糸満市の由来、疑うことなく信じたくなるのは自分だけではないでしょう。

 

以下は「みやざきマンゴー物語」です。

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 宮崎県のマンゴーを調べている中で、宮崎日日新聞の記事が目に留まりました。「みやざきマンゴー物語」です。宮崎県でのマンゴー栽培が順風満帆に進んだのではなく、人々が英知を絞り出し、挑戦し砕かれる。この繰り返しの中で、着実に成果を出しながら、今の宮崎県完熟マンゴー「太陽のたまご」が生まれたようです。何度となく襲い掛かる試練に、心折れそうになるも、宮崎県ブランドを背負える逸品を仕上げたいという強い信念があったればこそ乗り越えられたようです。そんな臥薪嘗胆の心意気を、この記事は如実に物語っています。

 1985年、宮崎市から北西に向かった「西都市」から物語が始まります。この地の農家さんが、ピーマンやキュウリに代わる新しい作物を求め、県総合試験場へ向かったのです。綾町の話でもでてくる、この時代のキーワードは大量生産です。大消費地である都心から距離のある地で、都心近郊と同じことをしていては生き残れないことを、肌身に痛感していたのは、農を生業とする農家さんでした。地方だから、宮崎県の温かい気候風土を生かした「特産」を探し求めよう、そう考えたのが「西都市」、豊かな照葉樹林を生かした自然生態系農業へと舵取りしたのが「綾町」、きっと他の地域でも、いろいろな道を模索していたはずです。

 西都市の農家さんが県総合試験場から勧められたのが「マンゴー」でした。ところが、試験場で栽培されているのみで、栽培歴がない上に身近に無い作物。そこで、沖縄県産マンゴーを取り寄せ実食。その甘い香りと深いコクに感銘を受け「気候の違いは技術で補える。未知のこの果物を西都でつくろう」と誓い合ったといいます。時同じくして、JA西都の技術者だった楯さんは、沖縄県を視察し、すでに「マンゴー」に出会っていたのです。鮮やかな紅色と高級感、甘くてさわやかな味わいは、きっと好評を博すと実感していたといいます。そして、ここで運命の出会いが待っていたのです。前述した農家さんから、マンゴー導入の話を持ち掛けられたのです。

 苗木を取り寄せて、栽培農家さんを募るものの、この栽培歴もない上に見たこともない作物に、果敢にも挑戦する農家は少なく、当初は2戸、その後に少し増えるものの8戸のみ。土作りに土壌管理、温湿度、病虫害対策に摘葉・摘果の成長の管理、全てが未知なること。何度となく沖縄県を訪れ、技術指導をうけることに。8人が集まればマンゴーの話ばかり。試行錯誤の日々で、先の見えない心配と並々ならぬ苦労があったことでしょう。それでも「夢があって、楽しかった」と。そして、ついに1988年に210kgの初出荷にこぎつけたのです。

 当時、輸入されたマンゴーの品質が良くなく、東京で良い印象が持たれておらず、宮崎県産マンゴーを売り込むも失敗に終わります。そこで、県内で地物マンゴーの認知度を上げる地道な活動を余儀なくされました。その最中、画期的な栽培方法が生まれたのです。「大きな実に限って落ちて売り物にならない」と相談を受けたことが始まりでした。完熟では実を落とすマンゴーの特性のため、今までは8~9割の熟度でハサミを使い収穫していました。ところが、「落ちた実」は甘くジューシーだったのです。そこで、楯さんが発案したのがネットで完熟前の実を包み込み、自然落下の完熟果をキャッチすることだったのです。日焼けや圧力で網目が実に残らないよう、ネットを改良に改良を重ね生み出したのです。ここに、宮崎県産最大の魅力でもある「完熟マンゴー」が誕生したのです。さらに、1989年に県がフルーツランド構想を策定、1993年には「宮崎はひとつ」を合言葉に、県果樹振興協議会亜熱帯果樹部会が設立され、「みやざき完熟マンゴー」のブランド化に。そして1998年、厳しい独自基準を設け選別された最高級品「太陽のタマゴ」が誕生しました。

 今でこそ、ブランド名声を確固たるものにしていますが、それまでの苦悩はひとかたならぬものだったはずです。台風の通り道だからこそ、大雨による冠水や暴風によりハウスの倒壊、それに伴い枝が折れるという被害も。病虫害や裂果にも悩まされ続ける。そして、偽ブランドの台頭。何かを乗り越えると、また次の災禍に見舞われる。それでも、己を信じ皆で励ましあいながら辿った道のりに、多くのサクセスストーリーがありました。全ては宮崎県を代表する、他の追随を許さない逸品に仕上げよう、この強い心意気がすべての困難を乗り越えさせ、今の「みやざき完熟マンゴー」が生み出したのではないでしょうか。乗り越えることのできない壁はない、宮崎県のマンゴーを通して、大いに学ばせていただきました。さらなる高みを求め、彼らの挑戦は今も続いています。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit「一夜限りの≪夏食材の饗宴≫」のご案内です。

 2019年6月7日に気象庁が「関東梅雨入り」を発表いたしました。艶やかに咲き誇った春の花々の色は、晩春を迎えるにつれ黄色へ、そして紫へ。そして、初夏の梅雨時期前後は、なにかと白い花が目に入るものです。街路樹で目にする「ヤマボウシ」、地表を飾る梅雨を告げる花「ドクダミ」、そして今まさに咲き誇っているのが「クチナシ」。厚みのある花びらを、濃い緑の葉が生い茂る中でいっぱい広げる大きな花は、まるで和菓子の「ねりきり」のようです。

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 日本の「三大香木」とは、春の「ジンチョウゲ」、夏が「クチナシ」、秋は「キンモクセイ」。「ジンチョウゲ」と「キンモクセイ」は芳しく、ある種の爽やかさを感じる香りのため、芳香剤などでも採用されているのを目にすると思います。「クチナシ」はというと、この花の前に立ち止まった時、その理由がわかっていただけるのではないでしょうか。曇天の中、色濃い緑の葉が生い茂る中に、白さ輝く花びらを大きく開く美しさ。その花のまわりに漂う甘い香りは、バニラビーンズを贅沢に加えて作ったカスタードクリームのような…まだクリームが温かい時のあの香り。湿気の多い時期だからこそ、濃密に感じるのでしょうか。うっとりとする妖艶なこの香りが、部屋中に満ち満ちていることを想像すると、やる気の全てを削いでゆき、リラックスしすぎる、ただただこの香りに溺れてゆく自分の姿が目に浮かびます。

 日本原産のクチナシ。秋には結実するも、果実が裂けないために、「口無し」な実なのだと。これが命名の由来だともいいます(※もちろん諸説あり)。この実を乾燥させたものは、「山梔子(さんしし)」や「梔子(しし)」とよばれ、漢方の生薬として活用され、真っ白な花からは想像もつかない、赤みがかった黄色の「梔子(くちなし)色」の染料へ。さらには、染物ばかりではなく、和菓子やたくあんなどの色付けにも使用されています。

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 残念ながら、花から魅惑の香の成分は抽出できていません。しかし、その果実は漢方薬に、染料に、食品添加物へと、用途は多岐にわたります。さらに、花も果実も樹本体も、まったく使用せず、ただ実を象(かたど)ったものが、将棋盤の足に。「クチナシ」は「口無し」であり、第三者は口出し無用という意味が込められているといいます。

 棋士にとって今後の明暗を分かつことになる真剣勝負に、自由気ままに口出すことの煩(わずわら)わしさ。何も将棋の世界に限らず、何か真剣に取り組んでいるときに、横から茶々を入れられる経験をされている方は多いのではないでしょうか。レベルの違いはありますが、想いは同じです。聞き流せば良いのですが、なかなかそうはいかないものです。なぜか?言葉の持つ力を、我々日本人が信じているから、煩わしさに加えて何かの想いに駆られるのでは?「言霊(ことだま)」という考え方です。

 言葉には霊力が宿ったおり、口に出すことで実現してゆくという、「言霊信仰(ことだましんこう)」というものを、知らず知らずに信じているからなのでしょう。「祝詞(のりと)」や「忌言葉(いみことば)」のような宗教的な雰囲気は薄くなりつつも、今なお我々の生活に根付いているものです。例えば、結婚式などで「別れる」「割れる」、何かの契約の時に「流れる」などの言葉の使用を避けるようにします。宴席の時においても、「終わり」ではなく、これから発展する意味を含む「お開き」と。何の確証もないのですが、口に出すことはもちろん、書面に「書く」場合にも同じような思いを抱いているのです。オリンピック選手やプロスポーツ選手の小学校の時の寄せ書きなどを振り返ると、しっかりと「将来の夢」に、今の姿を書いている。口に出す、書き記すことで、夢が夢ではなくなり、実現してゆくのです。努力を続けチャンスを掴みと本人の実力の賜物ではありますが、何か「言霊」の力を信じたくはなりませんか?

 

 「言祝ぐ(ことほぐ)」とは、言葉によって祝福の気持ちを伝えること。ここから「寿(ことぶき)」が誕生しています。そこで、四季折々に姿を見せる旬の食材には精霊が宿り、その満ち満ちた栄養によって我々を養ってくれる。栄養ばかりではなく、その美味しさも言うに及ばず。Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、旬の食材を使い、一夜限りの「夏食材の饗宴」を、Benoitで開催することを、クチナシではなく「言霊の力」を借りて皆様に言祝がせていただきます。

 開催といっても、ミュージックディナーのように、何かイベントがあるわけでありません。通常通りのディナー営業です。しかし、この一夜だけは、シェフのセバスチャンが、「今、これを食せずして夏は始まらない」という思いを込めて旬の食材を使い組み立てたコース料理のみご用意いたします。Benoitディナーの営業時間内のご都合の良い時をご指定いただき、ご予約いただけると幸いです。

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Benoit特選メニュー「一夜限りの≪夏食材の饗宴≫」

日時:201971()17:30より(21:00LO)Benoitの営業時間内にお越しください。

コース料金:お一人様 9,800(税サ別)

※ご予約をご希望の際は、自分へメールをお送りいただくか、Benoitへご連絡をいただけると幸いです。何か質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

いったいどのような饗宴となるのか。夏を代表する旬の食材は、日持ちのするものが少なく、食材を厳選し、手に入るかどうかの確認をとるのもなかなか難儀な作業でした。よほど天候不順などの問題がなければですが、食材が決まり、シェフのイメージするコース料理「夏食材の饗宴」メニューをご紹介させていただきます。食材の都合により、直前に変更になる場合もございます。ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

Menu de saison du CHEF “C’est l’ÉTÉ !! ”

≪一口の前菜≫

スウィートコーントマトのスープ

≪前菜≫

(仮称) イタリア産アーティチョークのバリグール

≪魚料理≫

(仮称) Benoit風ブイヤベース オマール海老/カサゴ/シマアジ/ホタテ貝

≪肉料理≫

(仮称) ウサギモモ肉の煮込み マスタード風味 福井県六条大麦

≪デザート≫

(仮称) 宮崎県綾町より完熟マンゴーのタルト

 

※苦手な食材や、アレルギー食材が組み込まれている場合には、お教えいただけると幸いです。アレンジするか、別の料理を提案させていただきます。

 

 今回のメニューを鑑み、シェフソムリエの永田から、「料理とワインのマリアージュ」の提案です。シャンパーニュ、白・ロゼ・赤ワインの計4杯のセットで、お一人様7,000(税サ別)にてペアリングをご用意しようと思います。

NV  Louis Roederer   Brut Premier 

2012  Pessac-Léognan  Cteau Latour Martillac

2015  Côtes de Provence rosé « Garrus »  Château D'Esclans

1995  Charmes-Chambertin grand cru  Charles Noëllat

 最初のシャンパーニュと、殿(しんがり)を担う赤ワインについては、コメントの必要はないでしょう。シャンパーニュの中でも確固たる地位を得ている逸品「ルイ・ロデレール」。そして、ブルゴーニュ地方のChambertin村で、特級を名乗ることのできる「シャルム・シャンベルタン」というだけでも心躍るものですが、今回は24年前にブドウを摘み醸されたもの。もともとが美味なるワインを醸す地に加え、「時」だけが成せる魔法によって、どのような「旨味」に変わってゆくのか?皆様に教えてくれるはずです。

 2つ目のボルドーの白ワイン。ボルドー地方に於いて赤ワイン銘醸地で名を馳す「Médoc」地区。1855年のワインの格付けが行われた中で、Château Haut-Brion以外は全てこの地区から選ばれました。では、前出のワインはどの地域かというと、Médocから少し河を上ったところに「Grave」地区があり、この中でも美味しい赤ワインを醸す地が「Pessac-Léognan」です。ボルドー=赤ワインという図式が我々を占有する中で、赤ワインだけで「商売は成り立つ」でしょう。しかし、白ワインを醸すのはなぜか?美味なるワインに仕上げる自信があるからです。

 世界で醸されているロゼワインの9割以上が「辛口」。その頂点に君臨しているのではないかと思う逸品を醸しているのが、プロヴァンスに居を構えるChâteau D'Esclansです。金持ちが道楽で作っている、名ばかりの商売っ気の無いワインではありません。商売のため、多種多様に及ぶワインを買い付けるのが「バイヤー」であり、彼らの審美眼が価格に反映されます。そのプロがGarrusというロゼワインに、世界最高値をつけました。ネットで調べてみてください、きっと驚かれることでしょう。最高のロゼワインを追い求め、辿り着いた境地ともいうべき逸品です。

 この豪華なラインナップのご用意のため、14名様限定です。ご希望の場合はご予約の際にお伝えいただくと幸いです。当夜にご希望の旨をお伝えいただけることも可能ですが、前回はご希望に添えない方が多くいらっしゃったため、事前にお伝えいただくことをお勧めいたします。

 

 以下に今回のメニューや食材について、どれほどのものか自慢をさせていただきます。参考までに、Benoitシェフのセバスチャンは、生まれはBretagne(ブルターニュ)地方ですが、育った地はProvence-Alpes-Côte d’Azur(以下プロヴァンス)地方。そう、人は、食べたもので成り立つとはよく言ったもので、幼少の頃より口にしてきたものが、そのまま料理のお手本となるのです。これは、セバスチャンに限ったことではありません。巨匠アラン・デュカスも例外ではなく、ランド地方の四季折々の食材豊かな地で、子供のころに食べ馴染んだ母親の手料理が基本になっているのだと、本人も言っているのです。彼の料理哲学である「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」の原点は、幼少時代に育まれていったのでしょう。アラン・デュカスの元で研鑽に励み、食に対するノウハウを叩き込まれるも、根本になるのはセバスチャンの育った地であるプロヴァンス地方です。あらましは以下を参照ください。

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今回は道のりの長いコースを組み立てたため、前菜の前の「小さな一品」としてご用意するのは、「トウモロコシ」のスープです。初夏を代表する食材であり、甘く美味しいトウモロコシの美味しさは、誰しもが知るところ。しかし、収穫後1日経つと、糖度が0.5度も落ちるといいます。そう、鮮度を最も意識しなければなりません。そこで、すでに始まっているトウモロコシは、宮崎県綾町から始まり。香川県観音寺市へ移ろうとしています。桜前線ならぬ「Benoitトウモロコシ前線」の詳細は、以下のURLより「はてなブログ」をご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 ただし、トウモロコシの冷たいスープでは芸がありません。やはり夏ということもあり、旬の食材であるトマトを加えます。スウィートコーンの甘さとコクに、「トマト」特有の心地良い酸味とみずみずしさを加えます、いったいどのようなスープに仕上がっているのか、この美味しさの想像がつきますか。

 

 前菜は、初夏を代表する食材である「アーティチョーク」です。これまた初夏を代表する食材です。ホワイトアスパラガスを食せずして春は終われず、アーティチョークを食せずして夏は迎えられない、まさにヨーロッパの人々にとっての季節を迎えるための旬の食材です。日本でも栽培され始めていますが、まだまだ日本では馴染みの食材ではないため、栽培ノウハウが確立していないといいます。そして、栽培品種もぽてっとまるまるしたものが主流です。

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 今回は、海外の力を借り、南フランスの代表的なÉpineux(エピノー)という品種がイタリアから届きます。前述したぽてっとしたものは、湯がかれ後に、苞片(ほうへん)と呼ばれる花を包む一片一片を歯でしごくように楽しみます。今回の品種は、生のままで苞片はむしり取り、中央の花托(かたく)と呼ばれているところのみを調理していきます。ほくっとしながらそら豆のような風味があり、なんともいえぬ優しいほろ苦さを持ち合わせます。このアーティチョークと他の旬食材とともに鶏のスープで湯がかれ、心地良い酸味とコク、ブドウ特有の甘さをもつバルサミコヴィネガーで風味づけされます。北半球の古今東西を問わず、これから迎える夏を乗り切るために我々が必要としている栄養に満ち満ちた、それでいて野菜それぞれが美味しさを奏でる逸品です。

 

 今回の1つ目のメインディッシュは、南フランスを代表する伝統料理「ブイヤベース」を、Benoit風にアレンジしたものです。簡単に言ってしまうと、濃厚な魚の旨味を煮出したスープに、旨味の抜けきった魚介ではなく、別に用意していたものを旨味を逃がさないように焼き上げたものを具として組み合わせたものです。今回は、「Benoit風」なので、「オマール海老」に登場していただき、シェフ曰く「ブイヤベースの必須条件となるカサゴ」、そしてホタテ貝。今までにBenoitメニュー初登場の「シマアジ」が一堂に会するのです。

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 千葉県鋸南町(きょなんちょう)の勝山漁港は、房総半島の南端から西側に少し入った東京湾外湾に位置し、日本でも数少ない「シマアジ」養殖に成功した港です。この港からBenoitに直送されるシマアジは、鮮度があまりにも良いために、身の締まりと旨味は抜群で、お刺身でおおいにお楽しみいただきたい逸品です。これを、焼いてしまうという贅沢さ。オマール海老にカサゴとホタテ貝と、美味しい魚介として名を馳せた逸品の中で、遜色ない美味しさを放つ、いや勝るかもしれぬシマアジ美味しさを、ぜひBenoit風ブイヤベースの中で見出していただきたいと思います。

 

 メインディッシュ2つ目は、ウサギのモモ肉の煮込みの登場です。野ウサギではなく、もちろん愛玩動物でもありません。我々日本人には、ウサギを食す習慣に対する驚きとともに、敬遠する食材だと思います。ところが、フランスはもちろん、ヨーロッパの中では何も違和感のない食材のひとつなのです。フランス語では、lapin(ウサギ) とlièvre(野ウサギ)、まったく違う単語を使用するということは、日本のように、ただ単に「野」がつくのとはわけが違いうほどの馴染みの現れでしょう。Benoit東京では、過去に一度だけ「ウサギのモモ肉」がメニューに登場しました。時のシェフはダヴィット・ブラン、フランスのPoitou-Chanrentes出身です。

 日本人には、なかなか理解しにくい「ウサギ」という食材は、フランスでは馴染みのものであり、言うなれば「ソウルフード」なのです。ダヴィッドシェフ(現グランドハイアット東京副料理長)も、今のBenoitセバスチャンに話を聞いても、「昔懐かしい家庭的な食材」だといいます。鶏肉よりも脂が無く旨味が多いウサギモモ肉を、ブイヨンで煮込んでいく中で、ディジョンマスタードを少々。今回は、初夏に収穫を迎える旬の食材、福井県の「六条大麦」と共に皆様へ。ほろっと崩れるかのような肉質に、噛むほどに旨味が口中に広がる。さらに、リゾットのように仕上げた六条大麦が、ぷちぷちの食感と麦の香ばしい美味しさ、ソースと合わせた時の相乗効果は抜群です。

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「郷に入っては郷に従え」ということで、この機会のぜひお試しいただきたいと思い、メニューに組み込みました。

 

 デザートは初夏の食材を代表する、それも美味しいことであまりにも有名な、宮崎県綾町の「完熟マンゴー」の登場です。この食材の美味しさは、言うに及ばずでしょう。6月のBenoitでは、沖縄県西表島のピーチパインと組み合わせましたが、今回のイベントを含め7月は、「マンゴーのタルト」と銘打ち、綾町の完熟マンゴーを一人半分使用しようと思います。

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 今、Benoitシェフパティシエールの田中が、フランスと調整しているため、詳細を語ることはできません。しかし、今まで彼女の仕上げたデザートが、あまりにも美味しかったことを考えると、今回は昨年を上回る美味しさを誇る逸品に仕上げてくるのではないでしょうか。知りえる情報の中では、沖縄県糸満市の「パッションフルーツ」も組み合わせるようです。ご期待ください。

 

 梅雨によって目覚めた食材を使い、7月1日の一夜限りの「夏食材の饗宴」をご用意いたします。それぞれが個性的であり、夏の美味しさを内包した逸品食材が、一堂に会するこの一夜は、皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことでしょう。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

次回の開催日は未定ですが、10月に「秋食材の饗宴」を考えております。

 

以下は「言霊」について思うこと、余談です。

 自分が、サービス業を生業と定めて、はや20年ほど経つでしょうか。この職は、調理人のような「クチナシ(口無し)」な職人気質ではまかり通りません。今の時代を鑑みても、「美味しい料理」を調理すれば、店が成り立つ時代ではなくなっている気がいたします。都内星の数ほどもあるレストラン、美味しい料理を提供するお店を探すことには困りません。そう考えると、Benoitが美味しい料理やデザートを準備するも、皆様にお伝えしBenoitにお越しいただく、さらにはメニューの中より勧めの逸品をお選びいただくには、やはり自分のような職業が必要なのでしょう。

 実際に、自分は何も調理することもなく、タマネギの皮をむくような手伝いもしていません。調理人のこだわりや苦労を見聞きし、どのような料理に仕上がっているかを、分かりやすく面白くお伝えすることを目指します。料理とは「理(ことわり)」を「料(し)る」ことだといいます。自分の職業は、ただただ「言霊」の力を借りて、皆様に料理人の「料理への想い」を伝えること。こう考えると、言葉遣いには注意しなくてはなりません。言霊は、話し言葉はもちろん、その延長にある書き言葉にも宿るはず。この長文レポートもまたしかり。

 

しきしまの 大和の国は 言霊(ことだま)の 幸(さき)わう国ぞ ま幸(さき)くありこそ  柿本人麻呂万葉集より~

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 日本という国は、言霊によって幸せになっている国です。これからも幸多きことを願います、と伝えたいのでしょうか。古人は、「美しい心から生まれる言葉は、その言葉通りの良い結果を実現する。しかし、乱れた心から生まれた粗暴な言葉は災いをもたらす。」と信じていました。今回の歌は、スケールが違うようです。柿本人麻呂は「日本国」は言霊によって幸福を得ているというのです。八百万の神々への感謝、四季折々の自然への感謝、その恩恵に授かる山の幸に海の幸に感謝する。この美しい心を持った皆々が、美しい言葉を口にしているという自負があるからこそ、大和(やまと)は「幸わっている国」なのだというのです。※画像は勝山港から望む夕日です。

 時代時代に、新しい言葉が生まれるのはもちろん、多少の文法や言葉遣いが崩れるのも、よほど行き過ぎでなければ理解できるものです。しかし、誹謗中傷がはびこるネットの世界や、やじの飛び交う会合など、およそ「幸わう国」とは乖離したものに感じます。「令和」とは「美しい(令)」「調和(和)」ともとれます。古人の英知を鑑み、美しい言葉を意識して日々過ごしてみてはいかがでしょうか。きっと住み良い環境が、生まれてくる気がいたします。皆で「言祝ぐ」ことも、また一興かと。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoit「トウモロコシ前線」北上中です。

 桜前線に一喜一憂していた時期も遠い記憶となり、今は日々の天気が気になる梅雨の時期。我々が憂鬱に感じる曇天や雨天も、見方を変えると恵みの雨でもあります。生きとし生けるものにとって欠かすことのできない「水」を、動植物にもたらしてくれるのです。春の陽射しに誘引され咲き急いだ花々も、一息つくかのように体に瑞々しさを補う時期。さらには、夏の猛暑に向け、つかの間の休養期間なのかもしれません。「翠雨(すいう)」とは、この時期らしい美しい表現ではないですか。

 

 さて、今回はBenoitのメニューに登場している、この時期らしい前菜、「とうもろこしの冷製スープ 北海道のフレッシュチーズ“フェッセル”」のご案内です。というよりも、このスープに使用している「トウモロコシ」のご紹介としたほうが良いかもしれません。

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 初夏を代表する食材であり、甘く美味しい「トウモロコシ」の美味しさは、誰しもが知るところです。さらに、今旬を迎えているもう一つ、「トマト」を加えます。甘くコクのある冷たいコーンスープに、トマトが心地良い酸味と爽やかさを与えます。そこに、まろやかさを加える北海道のフレッシュチーズ。北海道のフレッシュチーズがどれほど特選食材なのか?以下のブログに思いのたけを記載させていただきました。お時間のある時に訪問いただけると幸いです。

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 今回の特選食材である「トウモロコシ」は、我々にとって馴染み深い食材です。しかし、意外に知られていないことに、収穫後1日経つと糖度が0.5度も落ちるというのです。そう、鮮度を最も意識しなければなりません。さらに、1地域1品種では1週間ほどという収穫期間なのです。そこで、今期のBenoitは「トウモロコシ前線」を作成し、購入させていただいている逸品が届く地を、南から順を追ってご紹介していこうと思います。皆様がBenoitへお越しいただく日には、どこの地域なのか?

 

 今月当初は豊洲の助けを借りましたが、先週から宮崎県の「綾町」のトウモロコシが届いています。この地は宮崎県のほぼ中央に位置し、宮崎市から西へ20km、大淀川支流の本庄川をさかのぼった中山間部。町の約80%が森林で、それも日本一の照葉樹林を形成しています。さらに、この恵まれた環境は、名水百選にも選ばれる水源を生み出しました。自然豊かな環境で育てられた農畜産物の美味しさは県内外に知れ渡り、多くの観光客が彼の地を訪れているそうです。ただ自然豊かだから美味しい?

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 「自然生態系を生かし、育てる街にしよう」、これは綾町憲章です。この基本理念を実践すべく、なんと30年以上も前から町全体で有機栽培に取り組んでいる地なのです。見た目に美しく効率よく大量生産をめざす飽食の時代に、まさに逆行するかのような行動に出たのが、当時の綾町の町長でした。1988年(昭和63年)、「綾町自然生態系農業の推進に関する条例」が制定されました。「わが綾町は~中略~先人の尊い遺産である照葉樹林の自然生態系に恵まれ限りない恵を享受してきた。~中略~今日の経済社会の諸情勢は、我が国の農林業を厳しい環境に落とし入れようとしている一方、食の安全と健康を求める消費者のニーズは、日本農業に大きな期待と渇望のうねりが生じつつある。~中略~消費者に信頼され愛される綾町農業を確立し、本町農業の安定的発展を期するため、本条例を制定する。」(詳細は綾町役場のHPを参照ください)。

 「有機栽培」、いまではこの言葉が独り歩きをしてしまい、ありがたい文言として其処彼処で見かけることができます。なぜ、この言葉の響きに魅力があるのか、今の自然生態系を鑑みず、近代化・合理化の名のもとに、利便性と効率を追求しています。全ての企業が求めていることで、決して否定することは致しません。しかし、これがために、自然生態系が壊れることになりました。安心安全を求めているようで、かえって自然自体が持っている浄化能力を阻害し、生きとし生けるもの自らが持ち得る抵抗力をも低下させることに。結果、さらなる薬剤が必要になり、それが我々に還ってきます。だから、今は自然の生態系に習い、農薬を減らした「有機農法」を実践しています。いうなれば、現代のノウハウを生かしながら、古人の農法に戻ろうということなのです。

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 綾町に畑を有する福重正直さんご一家の手掛ける「福じいさん」ブランドのトウモロコシ。ひたに有機栽培を実践することで、すでに畑は生物の楽園と化していることでしょう。代々引き継がれてきた農のノウハウを、正直さんからご子息の龍さんへ太陽さんへと。どれほどの自信をもってBenoitに送り出してくれたことか。後日送っていただいた彼らの輝かしい笑顔が、その証ともいえるのではないでしょうか。除草剤不使用に加え、土作りも堆肥から。広大な照葉樹林から湧き出でる名水と自然の生態系を生かした良質な土から育まれた、まさに自然の摂理を尊重する自然生態系農業を実践する「福じいさん」のトウモロコシが、美味しくないわけがありません。

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 トウモロコシ前線の北上は、「時」を待ちません。宮崎県綾町から香川県観音寺(かんおんじ)市に移動します。愛媛県との県境に位置しているこの地は、北は中国山地、南は四国山地讃岐山脈と、自然の要害により暴風に守られるばかりか、瀬戸内海に面していることで、比較的穏やかな気候が特徴です。そこで、Benoitでは彼の地に畑を有する三豊セゾン(みとよせぞん)さんからトウモロコシを送っていただいていております。

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 この三豊セゾンさんは、地域高齢化や後継ぎ問題など、地元の大切な農地を耕作せずにいる遊休農地を生かしていこうと考え、さらに農家も安定収入を得ることができるよう、平成5年に法人を設立しました。矢野匡則さんを代表とし、「農業を通して、心を豊かに、暮らしを豊かに、大地を豊かに」を目指します。四季折々(saison仏:季節)の恩恵に授かりながら、3つの豊かさの実現へ。矢野さんが社名に託した意味を、もうご理解いただけたのではないでしょうか。

 農地は1年耕作を止めてしまうと、復活に10年かかると言われていります。この大切な地を守りたい一心に、遊休農地を借り受けることで規模を拡大し、今では9haの水田をはじめ、26haにおよぶ野菜畑を手掛けています。さらに、農作業の受託の地は20haほど。そして、学校給食へ食材の納入に加え、効率の良い販売経路の模索に取り組んでいます。この野菜畑の中に、今回の特選食材「トウモロコシ」が入っています。

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 画像の男性こそ、この法人の代表を務める矢野さんご本人です。自ら動き畑にて自然と対峙する姿に共感を覚え、同志が集う。彼の采配のもとで、次なる高みへの挑戦が始まるのです。「三豊セゾンは、自然の恵みに人間の知恵をプラスして、できる限り薬に頼らない野菜作りをしている香川県農業法人です。地域の環境や人間にやさしい、安全で美味しい農産物を生産することにこだわりながら、新しいスタイルのアグリビジネスを目指しています。」と、コメントをいただきました。

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次なる地は、少しだけ北上し香川県高松市香南町へ。ここはグリーンアスパラガスの「さぬきのめざめ」でお世話になった、「薫る農園」の河田薫さんから、まもなくトウモロコシの「ゴールドラッシュ・ネオ」という品種が届こうとしています。まだトウモロコシに対する彼女の心意気は伺ってはおりませんが、アスパラガスへの想いがどれほどのものか?以前に「はてなブログ」に記載しております。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。アスパラガスに対しても、トウモロコシに対しても、彼女は全く変わらないものと考えております。

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 トウモロコシ前線は、自分が思った以上に、急ぎ足で北上していくようです。トウモロコシの1品種が、おおよそ1週間で収穫を終えることを考えると、致し方ないのかもしれません。今後の予定では、岐阜県を経由して、神奈川県へ。さらに岩手県へと向かい、最後は青森県へと向かう予定です。今、Benoitに届いているトウモロコシが、どの産地なのか?こればかりは、Benoitへお越しいただくときのお楽しみです。いずれの地にしても、こだわりのある栽培者が、丹精込めて育て上げた逸品であることに間違いはありません。料理には料理人の想いが込められ美味しさを増します。食材は栽培者の想

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いがあればこそ、美味しく元気に育ってゆきます。産地が重なり合いながら、北上を続けるBenoit「トウモロコシ前線」の取り組みは、まだまだ始まったばかり。どの地の生まれであっても、Benoitは皆様に最高のトウモロコシを、大いなる自信をもってご案内いたします。

 

 暦の上でも「入梅」を迎え、何かと不安定な天気が続く日々です。日差しが照り付ける中でも、暴風雨の中でも、収穫の時は待ってはくれません。どれほど、過酷で危険を伴う収穫作業になることか。Benoitに食材を送ってくださる皆様の想いを無駄にしないよう、最高の品質を損なわないよう最善を尽くします。そして、感謝の想いを込め、ありがたくいただかせていただきます。

「いただきます。」

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoitミュージックディナー「三味線プレイヤー≪史佳Fumiyoshi≫」の再案内です。

 日本に根付く歳時記の世界は、農作業の暦であり、古人の英知の結晶ともいえます。カレンダーという便利な代物に頼ってしまったがために、ついつい見過ごしてしまいがちな変わりゆく自然の機微を、昔の人々は読み取り、農作業の目安にしていました。我々日本人が、桜の開花を待ち望み、桜前線に一喜一憂するのはなぜなのでしょうか。理由は多々あるかと思いますが、「日本人が農耕民族である」ことが大いに関係している気がいたします。

 「農耕の神」を指し示す言葉は「さ」なのだといいます。その神が山より里へやってくることで、無事息災に稲が育つ。実りの時期を迎えた後に、神は山へと帰ってゆくのだと考えていたようです。春、山よりいでし「農耕の神(さ)」が、宿る場所が、「座」を意味する「くら」なのだといいます。桜は「さ・くら」であり、神が降り立つ場所が「桜」だと。花咲く頃に神が宿り、豊穣を祈りお祝いをすること、これが花見のルーツなのだといいます。桜の開花に心躍る心地がするのは、古人の想いが、今なおDNAに刻み込まれているからなのでしょう。この桜の開花を目安に、「耕(たがえし)」「田打ち」とよばれる、田の土を起こす作業が始まります。北の地では桜の開花が遅いため、コブシが桜の代わりでした。そのため、コブシを「田打ち桜」と呼ぶのは、このような理由からなのです。

 稲作の農耕民族であるがゆえに、桜の開花が仕事始めのタイミングです。その名の如く、「田を起こし」た後に「畔塗(あぜぬり)」、別で「苗代(なえしろ)」をこしらえると同じく、「種浸し」そして「種蒔(たねまき)」と。田植えの準備が整うことで、田に水を引き込む作業が始まります。今でこそ、機械化が進み、耕運機や田植え機が活躍することで、時間短縮を図ることが可能となりました。しかし、稲を育むのは太陽であり大地であるため、栽培手順の流れは今も昔も変わりません。今は、隅々まで代掻きが行われた田に水を引き込み、再び耕す「代掻き(しろかき)」へ。ビニールハウスのない時代にあっては、発芽に必要な温度を見極めながら苗代を作り上げる作業を並行しながらの、なかなかの重労働だったことでしょう。

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ますげ生(お)ふる 荒田に水を まかすれば うれしがほにも 鳴くかはづかな  西行

 真菅(ますげ)とは、今は懐かしい菅笠(すげがさ)や蓑(みの)の原料となる、スゲ属の草本(そうほん)で種類は豊富。まだまだ手が回らず、真菅が生えている荒田。この田に水を引き入れると、必ず嬉しそうに蛙が鳴き始めることだなあ。この情景は、間違いなく今も変わりません。

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 日本有数の米どころである新潟県。広大な越後平野を有し、豪雪地域ならではの水資源の豊かさが、この名声をもたらしたのでしょう。先日、鹿児島県のある農家さんが、田んぼの休眠期である晩秋から、特産でもある「そらまめ」を植えることで二毛作を行っている話を耳にいたしました。なるほど、マメ科の植えることで、田にも良い影響がでるのだと。ところが、新潟県で「二毛作」は、雪に覆われる地ゆえにまったく不可能なこと。春を告げる「梅」が花開く時期も遅ければ、「桜」もまたしかり。

 冬の間、日本海から湿気のある風が越後山脈にぶつかることでもたらされる大雪は、豊富な雪解け水を確保する利点はあるものの、人々は長く厳しい冬の期間を過ごすことになります。寒冷な期間が晩春まで続くのかと思いきや、新潟県では春が急ぎ足で訪れます。南から吹き荒れる春の風が、越後山脈を乗り越える際に「フェーン現象」を引き起こし、いっきに気温が上がってくるのです。関東では、梅が咲いた後に、桜の開花が待ち遠しくなる「間」がありますが、新潟県では意外に短いものです。そして、米どころだからこその多忙を極める日々が到来いたします。

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 今か今かと待ちわびる春告げる「鶯(うすいす)」の初音(はつね)で、仕事始めに対する心の準備を整え、蛙の鳴き声を耳にすることで、いざ向かう「田植え」という一大作業へ向かう心を決めるのでしょうか。関東ではGW前に田植えが始まりますが、新潟ではその後です。順に、田に水を引き込み、代掻きを行う。陽が暮れ始める頃には家路につきます。人々で賑わいのあった田も、夕刻には静まり返り、耳にするのは嬉しそうに合唱する蛙の初音。目覚めさせてくれたお礼なのか、まだまだ続く農作業への励ましなのか?「蛙の初音」は、今も昔も変わることのない新潟の春の風物詩です。

 

際会(さいかい)

~ 出会うこと。優れた人物などにめぐり合うこと。~

 

 今回、皆様に「際会」していただきたいイベントは、Benoitの「初音」です。4月にもご案内をしましたとおり、2019年は三味線の音色から始まります。三味線といえば青森県の「津軽三味線」を皆様は想い描くことでしょう。三味線を芸能音楽として大成した地であり、「叩き三味線」という奏法も生み出しました。さらに、彼の地に異彩を放った一人の天才が誕生することで、津軽三味線がさらに名声を博すことになります。彼こそ、音を聞き、奏者の想いを込めた音で応える「弾き三味線」を確立した、高橋竹山師です。そして、この竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと誕生したのが、「新潟高橋竹山会」。新潟県?そう津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。なぜ?新潟県に。自分なりに解釈した理由を書いてみました。お時間のあるときに以下よりご訪問いただけると幸いです。

 

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 新潟県高橋竹山会は、二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤーが、2019年Benoitの初音を担っていただく「史佳 Fumiyoshi」さんです。昨年4月のBenoit初開催は、大好評の下に終わり、ご参加の皆様より再演を求められておりました。しかし、彼の演奏を待ち焦がれるのはBenoitだけではなく、とうとう海外からも。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まりました。準備に余念がない中で、ついにBenoitで奏でることが決まったのです。

 

以下は史佳さんからのメッセージです。

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 「昨年、ブノアさん初の和楽ライブとして大勢の皆様に聴いていただきありがとうございました。大好評のお声とともに次の出演へのお問い合わせが多く、皆さまには大変お待たせいたしましたこと、お詫び申し上げます。Benoitで2回目となる史佳ライブ!皆様には極上のお食事との最強コラボレーションをお楽しみください。

この秋10月5日には、ニューヨークカーネギーホールでの演奏会も決まり、熱く燃えております。2019年、平成から令和へと新時代の幕開け。麗しき元号のスタートにあたり、三味線の新たな可能性にもチャレンジする今回のBenoitライブ。豪華なトップミュージシャンを率いて、最高のパフォーマンスをご披露いたします。

皆様とお会いできることを楽しみにしております。」 三味線player 史佳

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Benoitミュージックディナー 「~際会(さいかい) 三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 

≪演奏曲のご案内≫

津軽よされ節

ふるさと〜津軽あいや節

秋田荷方節

門付け三味線

津軽じょんから節

越中おはら節〜こきりこ節

十三の砂山

弥三郎節

タイトロープ

ROOTS

即興曲津軽よされ節

※曲目・曲順は変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。

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 絹糸が紡がれ「弦」となり、それが弾かれ音を成す。それが、弾かれることで旋律を奏でる時、音に色を帯び人々を魅了します。この音色というのは形を成さないため、はかなく消えゆく音色なれど、まやかしや幻想ではなく、しっかりと我々の心に響いてきます。文字ではなく、音色に込める奏者の想いに共感を覚え、人世になぞり、笑みをこぼすか涙するか、受け取る人の感じ様は十人十色。音色はデータ化することで色彩を失い、単色へ。なぜ、コンサート会場へ足を運ぶのか?データ化できない、生き生きとした色彩の深さや移ろいの「音色」を感じ取りにゆくのでしょう。

 カーネギーホールでの演奏の前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。今回のメンバーをご覧いただければ納得いただけるのではないでしょうか。

 

三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi

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 ふるさと新潟に拠点を置き、三味線プレイヤーとして国内外で演奏活動・講演活動を行っている。音の響きを大切にする“弾き三味線”奏法を得意とし、津軽三味線のスタンダード曲はもちろんのこと、近年は作曲家/アレンジャーの長岡成貢氏とともに新しい三味線の楽曲作りにも取組んでおり、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しいニッポンの音楽を目指して活動している。

 1974年新潟市生まれ。9歳より津軽三味線の師匠であり母でもある高橋竹育より三味線を習い始める。 2000年よりプロ活動をスタートし、新潟を拠点に国内外で演奏活動を行っている。ホールコンサートの他、国指定重要文化財等の日本建築等でも演奏会活動を行っており、2011年にはルーブル美術館にて日本人として初めて演奏を披露。 2001年に1stアルバム「新風」を高橋竹秀の名で、2003年には本名である小林史佳としてオリジナル曲を含む2ndアルバム「ROOTS TABIBITO」をリリース。 2006年リリースの3rdアルバム「Ballade」では弦楽四重奏との融合にも取り組み、三味線の楽器としての新たな可能性も追求している。 2010年には津軽三味線の名人・初代高橋竹山とかつて共に全国を廻った、民謡の生きる伝説・初代須藤雲栄師とのライブを収録した4thアルバム「風の風伝」(かぜのことづて)、2012年にはそれに続く5thアルバム「続 風の風伝」を“fontec” レーベルよりリリース。同年よりアーティストネームを“史佳Fumiyoshi”と改め、故郷新潟をテーマにしたオリジナル曲「桃花鳥-toki-」を発表。 2013年には自主レーベル“penetrate”を立ち上げ、全曲オリジナル楽曲のアルバム「宇宙と大地の詩」をリリース。2015年2月には、通算7枚目となるニューアルバム「糸際 ITOGIWA」を“fontec” レーベルよりリリース。初代高橋竹山津軽三味線の継承者として挑んだ、奥深いアルバムとなっている。

 2016年1月1日に、三味線ユニット「Three Line Beat(スリーラインビート)」を結成。幅広い年齢層からファンを獲得しており、そのライブパフォーマンスで観客を魅了する。

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津軽三味線瞬間芸術という領域に昇華させる独自の世界観を持つ、初代高橋竹山津軽三味線正統継承者。2011年フランスパリのルーヴル美術館にて、日本人として初めて演奏を披露し、現地の聴衆から「ブラボー」の大歓声が上がったといいます。さらに、2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決定しており、世界を席巻するであろう、新進気鋭の三味線プレイヤーです。

 

和田啓 ~レク~

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 幼少の頃から学んだ江戸里神楽をもとに独自の世界を表現するアジア系ハンドドラム奏者であり、作曲家、演出家。タンバリンの原型とも言われるアラブの打楽器「レク」をエジプト・カイロにてハニー・ベダール氏に師事。海外での演奏活動も多く、主なものには、95年能楽と民族楽器とによるヨーロッパ5カ国公演、96年奄美島唄とのジョイントグループ「天海」でのキューバ公演、2002年大津純子(バイオリン)オセアニアツアーに参加、佐藤允彦氏(ピアノ)と共にベトナム、オーストラリアなどで公演を行う。2005年ルーマニアポルトガルより招聘を受け国際交流基金助成事業としてRabiSari欧州コンサートツアー、2006年国際交流基金派遣事業として常味裕司氏と共にエジプト・アラブ音楽院でのエジプト音楽家との共演による古典音楽コンサートをともに成功させた。2009年ノース・シー・ジャズフェスティバルに佐藤允彦氏率いる「Saifa(サイファ)」のメンバーとして出演。2010年レバノンベイルートUNESCOホールにて常味裕司氏と演奏。

 1997年に、バリ仮面舞踊家たる小谷野哲郎とともに仮面舞踊劇団「ポタラカ」を結成、作演出を手掛ける。毎月一本の新作を書き下ろし、ライブハウスで約2年間上演していた。1999年江戸東京博物館にて「冥途の飛脚」(近松門左衛門作}の上演をきっかっけに「南洋神楽プロジェクト」として再編成し、中野シアターポケットなどで定期公演を重ねる。2001年にはジャワ島・バリ島のアーティストらと日本人による「真夏の夜の夢」をバリアートフェスティバルにて上演、好評を博す。

 作曲家としても数多くの演劇・映画音楽を手掛けており、2015年以降の主な作品は,、2015年「新・復活」(劇団キンダースペース、原作/トルストイ、脚本演出/原田一樹)、16年「静寂の響き」(船橋文化創造館きらら主催事業)。さらに演出作品が多数あるほか、2009年度より船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザーも務めている。

 

吉野弘 コントラバス

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 1975年に東京藝術大学音楽学部器楽科(コントラバス専攻)に入学、江口朝彦氏に師事。1980年、坂田明(sax)トリオに参加、以後、富樫雅彦加古隆山下洋輔板橋文夫塩谷哲など数多くのグループに参加する。 また現代音楽の分野での活動も活発で、故・武満徹プロデュースの" MUSIC TODAY "や「八ヶ岳高原音楽祭」に参加、2006年の東京オペラシティでの"SOUL TAKEMITSU"にも出演した。また2009年には間宮芳生書き下ろしの新作オペラ「ポポイ」、2011年には「間宮芳生の仕事」コンサートにも出演する。

 現在は、ベース・ソロと『彼岸の此岸』(太田恵資violin,鬼怒無月guitar,吉見征樹tabla)、『環太平洋トリオNEO』(津嘉山梢piano, 大村 亘drums &tabla)を活動の中心にしながら、大ベテランの中牟礼貞則guitarや渋谷毅pianoとのデュオも行なっている。 また下北沢レディージェーンでの作家の山田詠美奥泉光との " 朗読と音楽 "のセッション(太田恵資violin,小山彰太drums)は、毎回熱心なファンの待望するところとなっている。リーダー作品に「泣いたら湖/吉野弘志・モンゴロイダーズ」(2002年/ohrai)と、ベース・ソロアルバム「on Bass」(2004年/ rinsen music)、「吉野弘志 彼岸の此岸/Feeling the Other Side」(2013年/AKETAS DISK)が有る。

 

≪Rica ~パーカッション~≫

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 津軽三味線の古典曲には、カホンを使用し、小柄ながらにも叩き出すビートは力強く、三味線の音色に独自の感性をからめていく。ドラマーでありながら、様々なスタイルの音楽に体当たりで飛び込み、どん欲に自分自身の糧にしている。史佳Fumiyoshiの音楽性を鮮明に浮き彫りにし、色彩豊かに後押しするセンスは抜群である。

 

庄司愛 ~バイオリン~≫

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 桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業。演奏活動を行うほか、新潟市ジュニアオーケストラ教室、桐朋学園大学附属「子どものための音楽教室」、新潟中央高校等で後進の育成にも力を注いでいる。これまでに山宮あや子、奥村和雄、辰巳明子の各氏に師事。「トリオ・ベルガルモ」メンバー。

 

 史佳さんが、2018年にリリースした9枚目となるCDには「守破離(しゅはり)の絲(いと)」と銘打ってあります。以下は史佳さんのメッセージです。

 「守破離とは、伝統芸の世界で使われている言葉です。芸事は、まず型とうものが大切で、これを≪守≫ることから始まります。次にその型を≪破≫り、自分の型を模索して自己のスタイルを確立していきます。そして、最終的にはその自分のスタイルをも超越する、≪離≫れた境地に到達します。その境地は、まさに自由自在という領域であり、宇宙にも通じる無限の広がりなのです。私の演奏においては、そのような宇宙的な広がりのある、無限の響きの世界をつくりたいと思っています。」

 よく耳にする「稽古(けいこ)」という言葉。「稽」の漢字を調べてみました。「稽(かんが)える」、考証する、比較して調べる。「稽(と)う」、問い尋ねる。「稽(くら)べる」、比べて論争する。「稽(あ)う」、合致する。「稽(とど)まる」、遅延する。稽古とは、古人の英知の結晶でもある「型」を、体験することで今の自分との違いを稽(かんが)え、型に込められた古人の想いを稽(と)い、同志とともに現世との違いを稽(と)う。納得のゆく答えを見出すことは、型と稽(あ)うこととなり、これを会得するために稽(とど)まる。この無駄とも思える稽(とど)まる期間こそ、己をよくよく考察するに大切なこと。そして、この稽古の繰り返しが、時間はかかるものの、着実に自らをさらなる高みへと導くことになると伝えているのです。

 小さき頃より身近であった三味線を手にし、師である母に指導を仰ぐ。芸事の世界は、まさに「稽古」の積み重ねでしか会得できない「型」がある。綿々と成長を遂げながら受け継がれてきた先人達の英知の結晶でもある「型」を稽古によって身につける。まさに「守」以外に、輝かしい成長は望めません。型を疎(おろそ)かにし、「破」へ向かうことを「型なし」というようです。しっかりと型を「守」ることを続け、「破」ることで新たな高みへと誘(いざな)われるという。そして、型の延長線上で自分らしさが加わることで確立されたスタイルから、「離」れることで無限に広がる可能性の境地へと導かれるのだと。

 これは決して芸事だけの教えではなく、今自分が置かれている状況を稽えると、全てにおいて「守破離」の大切さを考えさせられます。「型なし」にならぬよう、稽古によって「守」すること大切さ。しかし、この辛抱強く「守」する過酷さを、史佳さんは語ろうとはしません。しかし、長きにわたる「守」の期間で会得した「型」無くして、今の史佳さんはなかったことでしょう。

 

糸際(いとぎわ)

 史佳Fumiyoshiさん自身が造った言葉です。三味線は、撥(ばち)を扱う右手と弦をはじく左手のコンビネーションで音を奏でていく楽器だと、彼はいいます。右手の弦への撥のあて方、左手の弦のはじき方、この微妙な差が音色を左右する。フレットレスな三味線の奏でる至高の音への追求は、1mm単位での調整を瞬時に行うことを求められます。弦と撥、弦と指との際(きわ)を見極め奏でる瞬間芸術が三味線だと。糸際が奏でる三味線の音色は、古典曲によって我々の魂に問いかけてきます。

 指揮者のいない演奏会では、各々が魅惑の音色を奏で、奏者それぞれがメンバーの音色を聞きながら音やリズムをあわせ、ひとつの曲を紡いでいきます。まさに譜面のない音楽会。即興で曲を奏でる三味線史佳さんの腕の見せどころです。さらに、相手をさらなる高みへと導くかのようなそれぞれの楽器。「守破離」によって会得した、今までに体感したことの無い世界観を我々に見せてくれるはずです。三味線という楽器の常識が変わる無限響の世界へ、皆様をご案内いたします。

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 新潟の初夏は、夕刻に優しく響く楽し気な「蛙の初音」から始まります。Benoitの2019年の初音は、「三味線プレイヤー史佳Fumiyoshi」で始まります。奏でられる旋律の先に、新潟の田園風景が、そして羽ばたくトキの姿を目にすることでしょう。※画像はシロサギです。

皆様にはBenoitで「際会(さ・いかい)」していただこうと思います。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康と

ご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoit特選食材「グリーンアスパラガス≪さぬきのめざめ≫」の食べ納めのご案内です。

ぬしなくて 荒れにし屋戸の 庭のおもに ひとり菫の 花さきにけり  藤原公重(きんしげ)

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 「菫(すみれ)」は、日本では北海道から沖縄県まで津々浦々で目にすることのでき、紫色の小さな花を咲かせます。あまりにも控えめな姿のため、園芸品種として育種されている「パンジー」の方が有名となってしまい、名こそ知るも、実際にどのような花が咲くものなのか、ご存じない方が多いのではないでしょうか。しかし、春の花々が咲き荒れた地に、ひっそりと可憐に咲くスミレの美しさを、古人は見逃しませんでした。日本最古の歌集「万葉集」にも、しっかりと名を残しています。しかし、スミレの葉や花は食することができるため、山菜採りのひとつとして人気を博していたのではないかとも。そんな邪推を持ちつつも、菫に対する人々の想いは、古今東西を問わず共通のようです。ヨーロッパでは、「誠実」や「謙虚」の象徴とされる花であり、そのまま花言葉にもなっています。

 冒頭の一句は、平安時代後期に活躍した歌人、藤原公重が詠んだものです。自分の住居を言い表す場合は「宿(やど)」ではなく「屋戸(やど)」であるといいます。長きにわたり留守にしていた我が家に辿り着いた時に、手入れのされていない庭に、ひっそりと咲いている薄紫色の小さな花。あ~スミレだけが待っていてくれたのだ、と愛おしく想う。

 荒れ放題の庭ではあるものの、何かしらの花は咲いていたであろうに、スミレに心奪われるのは、何か奥ゆかしさを、豪華絢爛ではなく可憐さに、感慨深い美しさを見出すのでしょう。ひそやかに咲くスミレの花は、それに気づいた人の心を慰(なぐさ)める。

 

 抱く想いは惜春(せきしゅん)であるも、食の世界ではまだ晩春です。春を代表する食材が、料理一皿一皿に彩りを与えることで、我々の目でも愉しませてくれる。旬の食材は、我々が必要としている栄養に満ちているといいます。春食材は、脂ののった濃い味わいという食材とは一線を画し、優しい美味しさとほろ苦さを兼ね揃えている気がいたします。見た目にも味わいにも、ある種の青々しさがあるような。

 これほどまでに、春食材が豊富に姿を見せる中で、ついつい身近にありすぎて見落としてしまいがちな「グリーンアスパラガス」。メインの食材として一料理を成しえる唯一の野菜ではないでしょうか。3月に始まったアスパラガスに心躍るも、月日が流れることで他の春野菜に目を奪われてしまいます。しかし、この野菜の美味しさはまだまだ継続しているのです。八百屋さんで片隅に並ぶ国産のアスパラガス、それに気づいた人の心を和(なご)ませる。

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 飲食を提供する場に身を置くことを心に決め、皆様には「安心・安全で美味しい」お料理をお持ちしたい。そう考えるものの、自分が何か「創り出す」ことができるわけではない。そこで考えたのが、食材へのこだわりを皆様にお伝えしていこうと。食材探しにおいて、シェフにはない自分の強みとはなんだとう?築地(当時、今は豊洲)は素晴らしいシステムであり、プロのバイヤーが集結しています。シェフは彼らの協力のもとで、食材を選んでいる。では、自分は皆様と直に接しているのだから、皆様に地元の、旅行先での貴重な情報をいただき、調べていこう。さらに、各都道府県に聞いてみよう。こうして自分食材探しが始まったのが5年前です。

 食材探しを始めて思うことは、日本には多種多様な美味しい食材がごまんと存在しているということ。表面上の食材の知識しかしらない自分は、皆様から、さらに地元の方々から、多くのことをご教示いただけました。そこで、Benoitで購入させていただいている特選食材を、皆様に随時ご紹介していこうと思います。

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 今回は、3月から今に至るまで何度となく自分からのご案内に登場している特選食材、香川県の「グリーンアスパラガス≪さぬきのめざめ≫」です。香川県農業試験場で試験栽培を重ねた末、2005(平成17)年にオリジナル品種として誕生したのが「さぬきのめざめ」です。アスパラガスは、種をまいて数ヶ月で収穫できる野菜ではなく、植えてから収穫までに3年間を要します。アスパラガスはわさわさとした葉を成し、香川県のありあまる陽射しを十二分に受け、根(地下茎)に栄養を蓄えていき枯れてゆく。これを毎年繰り返すことで、大地に根を広げてゆくのです。2005年から3年、まだ産声を上げたばかりの香川県特選食材なのです。

 地下茎を広げ新芽を出す姿は、竹に似ています。新芽を美味しくいただくことも似ています。筍は竹であり山菜のように収穫期は短いもの。しかし、アスパラガスは野菜であり、可能な限り長期にわたり美味しいアスパラガスを皆様の食卓へ届けたいという栽培者願いのもと、彼らの弛まぬ努力と知恵が「立茎栽培」という独特の栽培方法を生み出しました。初春、緑色が皆無のまっさらな大地より顔をのぞかせるのが新芽(アスパラガス)です。ある一定の長さで収穫するも、次々と地下茎に蓄えられた栄養を使い、次々と新芽が成長していきます。そして、栽培者が天候とアスパラガスの体力を見極め、収穫を止め数本の新芽を成長させるのです。新芽は葉を開き、わさわさと成長してゆく(立茎)、そして太陽の力によって光合成を成し、栄養を地下茎に送るようになります。そして、再度収穫期が訪れるのです。この立茎を境に、前期が「春芽」、後期が「夏芽」と表現し、収量は春芽>夏芽です。もちろん、香川県「さぬきのめざめ」も例外ではなく、この立茎栽培による、つかの間の「昼寝の期間」があるのです。

 Benoitでは、3月に香川県まんのう町、丸亀市のアスパラガス栽培者から購入していました。3か月間の長期にわたり収量を確保できるアスパラガス栽培者はおりません。前半を担ってくださった方から、次の方々へとバトンが受け渡され、今は殿(しんがり)となる一人の栽培者の方から購入させていただいております。今回はお礼も兼ねて彼女のご紹介。彼女?香川の農業女子として活躍中、「薫る農園」の園主である河田薫(かわだかおる)さんです。

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 香川県高松市香南町。薫る農園は、香川県の県庁所在地・高松市の南部に位置する香南町(こうなんちょう)にあります。この町は、もとは香川県香川郡にあった町で、2006年1月10日に高松市編入合併されました。香南町と聞くと、香川県の人々が想い描くのは、「高松空港」がある町であるといいます。地図では香川県のちょうど真ん中に位置しています。そして、この空港滑走路の南には「さぬきこどもの国」という大型児童館が隣接しています。公園や自転車コースを始め、プラネタリウムや大型遊具設備も備えた複合施設で、休日はもちろん平日も子どもの親子連れで賑わっています。他方、農地面積が町全体の5割近くを占め、米作のほか富有柿などの果樹栽培が盛んに行われています。豊かな田園景観の中に空港を有する香川の空の玄関口というイメージ。

 この香南町に畑を有する「薫る農園」さん。「さぬきのめざめ」を栽培するにあたり、多くのこだわりを伺いうことができました。学ばせていただいたポイントは大きく3つ。「高畝」と「畝間」、そして「灌漑と温度」です。

 この品種は、日本全国で栽培されている品種(ウェルカム種)に比べて表皮が薄く柔らかいため、病気に弱く、ハウスで栽培しなくてはなりません。さらに、香川県独自の高畝栽培です。通常、県外での栽培方法は、地面からにょきにょきとアスパラガスが姿を見せる「平畝(ひらうね)」での栽培。しかし、香川県では、「高畝(たかうね)」にして栽培しています。地面から60cmの高さまで土を盛り、そこにアスパラガスの苗を植えて栽培します。高畝にすることによって、アスパラガスはのびのびと根を張ることができ、地下茎が広範囲に広がり、地中の栄養分をより多く蓄えることを可能とします。

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 いただいた畑の画像、見事なアスパラガスに目を奪われてしまいますが、畑の様子をご覧いただきたいです。高畝の様子に加え、この広々とした空間ですよ。効率を重視するのであれば、畝(うね)と畝の間隔を狭くすることで、苗をより多く植栽し、葉を剪定するように育てていきます。しかし、彼女は畝の間を広げる方法を選んでいます。通気性を重視し、さらには、余計な剪定はせずアスパラガス本体がのびのび元気に育つ。それにより、自然に持ちうる病虫害への抵抗力が増すことになる。さらに、通気性の良さは害虫がつきにくいという利点もあるようです。

 畝を高く畝間を大きくとることで、アスパラガスはのびのびと地下茎を拡げることができる上に、成長したアスパラガスは剪定する必要が無いため、心置きなくわさわさと茂ることを許されます。だからこそ、ぐんぐんと育ち、より美味しくジューシーなアスパラガスが育つのだといいます。そして、もう一つ重要なことが「灌漑と温度」です。品種改良の末に生み出された「さぬきのめざめ」ではあっても、もとは地中海東部が原産の野菜です。特に夏場は、少量をこまめに灌漑を実施する必要があり、気を抜けないといいます。さらに、ハウス栽培だからこその夏場の温度管理も忘れてはいけません。

薫る農園の園主、河田薫さんからのコメントをいただきました。

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 「今年はアスパラを起こすタイミングが他の作物の都合で遅れたため、ゆっくりとスタートする作戦にしました。昨年は、2週間ごとに起こしていきましたが、今年はペースが早くなっているので、管理方法を変えました。年ごとに、天候や作業状況に応じて臨機応変に対応しています。なるべくみなさんに春芽の旬を楽しんでいただきたいので、ハウスの換気を重視して温度差の少ない低温管理に努めます。」

 この言葉通り、Benoitのアスパラガス料理の最後を飾る5月をメインに担ってくれたのは、「薫る農園さんのアスパラガス」でした。一度も滞ることなく、見事なサイズで届くアスパラガスに、シェフ・セバスチャンは感嘆の声を上げたものです。収穫されたばかりの鮮度抜群のアスパラガスのみを、河田さんご本人が選別し、その日のうちにBenoitへ送り出された逸品、美味しくないわけがありません。アスパラガスの芽吹きを促すことを、「起こす」というのですね。この野菜は平均気温が15℃を越えないと、新芽が動き出さないといいます。叱咤激励の下でたたき起こすのではなく、外気を取り入れながらハウスの温度を調節し、その年の天候を見極めながら、ハウスごとに優しく春芽を「起こす」ようです。

 

 薫る農園さんから購入するアスパラガスも夏芽へと移りました。収量が減り、全体的に細くなるという話でしたが、いやいや見事なまでの逸品が届いています。どれほど徹底した管理の下で栽培し、最後に厳しい選別を行っていることか、その美味しさが物語っています。Benoitのアスパラガス料理は今月末まで。5月29日に届く便が今期最後です。ご希望の際には急ぎご予定の調整をお願いいたします。Benoitでは今期最後を迎えるアスパラガスですが、香川県の「さぬきのめざめ」は、9月あたりまで出荷が続くようです。夏芽は収量が少なくなるため、なかなか目にする機会はないか思いますが、見つけた際にはぜひご購入をご検討いただけると幸いです。

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 Benoitで薫る農園さんの逸品をご用意できるのも、残り数日しかございません。皆様へのご案内がこれほどまで遅くなりましたこと、深くお詫び申し上げます。それでも、皆様にご案内お送りしました理由は、薫る農園さんのこだわりをお伝えせずに今期を終えることができないという使命感と、次に彼女が丹精込めて育て上げた逸品を購入させて いただこうかと考えているからです。薫る農園さんは、アスパラガス「さぬきのめざめ」の他にも、ブロッコリーやスイートコーンを栽培しているのです。そう、来月からプリ・フィックスメニューにランチ・ディナーともに登場する料理にトウモロコシを使用するのです。

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 旬を迎えるトウモロコシをたっぷりと使い、黄色のトマトと共に仕上げる冷たいスープ。コクのある甘さのトウモロコシに、心地良い酸味とみずみずしさのトマトが加わる。まだ、自分が口にしていないためこれ以上のコメントは控えさせていただきますが、シェフ・セバスチャンが語る口調に自信のほどを窺い知ることができます。

薫る農園さんは、今期「スウィートコーン≪ゴールドラッシュ・ネオ≫」を植栽しています。収穫予定は6月後半です。乞うご期待ください。

 

 春の新芽から夏の新芽に姿を変えながら、長きにわたりBenoitの料理に旬を届けてくれました。穂先がきゅっと締まった美しい姿、根元までやわらかいが歯ごたえはシャクシャク。鮮度が良いので、みずみずしいのはもちろん、にじみ出でるアスパラガスのジュースには野菜特有の甘さを楽しむこともできました。香川県の自然と、栽培にあたる人々の弛まぬ努力が育んだ、まさに「春一番の美味しいめざめ」です。Benoitの春は「讃岐から目覚め」、「讃岐で眠りに就きます」。まだ目覚めているうちに、皆様のお越しをお待ちしております。

 

 香川県まんのう町のアスパラガス栽培の方々と繋いでいただいた「さぬきこだわり市」の臼杵さん。今回タイミングを逃し、ご紹介できなかった丸亀市の「坂田農園」の坂田透さんと「藤井農園」の藤井義博さん。そして、今回紹介させていただいた「薫る農園」の河田薫さん。彼らとBenoitを結びつけていただいた「讃岐を食べるネット」の森田直子さん。「讃岐」を教えていただいた香川県東京事務所の柴田和彦さん。皆様、誠にありがとうございます。このご縁は、大切にさせていただきます。そして、アスパラガスは終了するも、まだまだ讃岐にある自慢の食材は、Benoitの料理に紫陽花(あじさい)ならぬ「味彩」を与えくれることでしょう。

 

 日本中の「美しい(令)」旬の食材が所狭しと並ぶ中、ひっそりと翠輝かせるアスパラガス「さぬきのめざめ」、それに気づいた人は、その美味しさに心を和(なご)ませる。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoit特別プラン「五月尽」と「5月ダイジェスト版」のご案内です。

 立夏を迎え、暦の上では夏が始まりました。少し時期がずれるのですが、今回のテーマは晩春の季語になっている「竹の秋」です。「春」の季語なのに「秋」?

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 「竹」とは謎多き植物です。あまりにも身近な植物なため、あまり珍しさを感じないものなのですが、学術的には「木」でもなく「草」でもないといいます。イネ科に属する理由の一つとして挙げられるのが、イネ科の特徴でもある茎が空洞を成す「稈(かん)」を持つということ。竹の場合、その「稈」が硬く木質化する「木の特徴」を示すも、そのまま肥大化しないため年輪ができないという「草の特徴」も持ち合わせます。ということは、竹は竹以外のなにものでもなく、草木に分類してはいけないようです。しかし、植物ゆえに花を咲かせ実を付けます。「竹の花」?皆様が疑問に思うのも無理はありません。花の周期は1年ではなく、孟宗竹で60年、真竹で120年というのです。花の後には実を成すも、その後には、竹は枯死するのだというのです。この開花の周期では、一生見かけることがないのも無理はありません。

 「竹の花」が稀では、種から竹が増えてゆくことなく、「竹の子」によって竹林が拡がりを見せることになります。竹林は一本の竹が地下茎を広げ、「竹の子」という新芽が竹林を作り上げます。大きな竹林も地下茎でつながっているため、1本でも病原菌に感染すると、竹林が全滅するというのも、ここに理由があります。この竹の子が地面より顔を出すのが晩春です。和食では欠かすことのできない、この時期の旬の味覚の代名詞的な食材でもあります。「竹偏(へん)」に「旬」と書くと「筍(たけのこ)」とは、なんと的を射た漢字をしつらえることか。そして、4月の末から今に至る期間が、まさに筍の旬。

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 今、竹林を赴くと、周りの樹々が新緑美しく青々としているのに対し、黄葉している姿を目にします。竹の地下茎の無数に芽吹いた「筍」に養分を奪われているからです。さらに、収穫や実りを意味するのが「秋」。そのため、冒頭に紹介した「竹の秋」は、晩春の季語になるのです。これに対して、竹の葉が生い茂り翠輝かんばかりの姿を「竹の春」といい、秋の季語。春が秋となり、秋が春となる。この一見ちぐはぐに思える表現に、機知を含ませながら、人々に問う。この自然の機微の捉え方、言い表しの妙は、今でも十分に共感を得るものではないでしょうか。「麦秋」とは夏の季語、もう理由はお分かりかと思います。

 

 初夏を迎えながらも、食材においては、竹の話だっただけに、まだまだ「春たけなわ」です。アラン・デュカスの料理哲学である、「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を、Benoitシェフであるセバスチャン・ルソーとパティシエール田中真理が、この彼の料理哲学を実践し、5月のプリ・フィックスメニューの選択肢に加えております。残念ながら、「筍」は登場しませんが、春を代表する食材で仕上げられた一皿一皿に、惜春(せきしゅん)の想いを感じ取っていただきたいと思います。

 そこで、皆様には、特別プライスの「五月尽(ごがつじん)特別プラン」をご案内させていただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、531日までの平日限定です。各コース料理の内容は、プリ・フィックスメニューからお選びいただけます。ご予約人数が8名様を超える場合は、ご相談させてください。

 

≪五月尽特別プラン≫

ディナー

前菜x2+メインディッシュ+デザート

7,100円→6,100円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+デザートx2

夢のダブルデザート→6,100円(税サ別)

※ご予約は、電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 

 5月は、自分の怠慢から、「ダイジェスト版」を作成することをいたしませんでした。誠に申し訳ありません。そこで、今回の「五月尽特別プラン」のご案内と合わせ、今更ではありますがご紹介させていただきたいと思います。今月で終わりを迎えるものもございます。「美しい(令)」季節に春食材が「和」する逸品は、令和元年にこそふさわしい。そこで、皆様に旬の食材に出会い、食することで無事息災に夏を迎えていただきたい。旬を迎える食材を旬の食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べのものでできています。この想いを込め、皆様にご紹介したい内容は、以下の13件です。

「特選食材」のご案内 6件

「料理/デザート」のご案内 4件

「イベント」のご案内 3件

 

香川県香南町からグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」が届いています。≫

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 香川県農業試験場で試験栽培を重ねた末、2005(平成17)年にオリジナル品種として誕生したのが「さぬきのめざめ」です。アスパラガスは、種をまいて数ヶ月で収穫できる野菜ではなく、植えてから収穫までに3年間を要します。この期間、アスパラガスはわさわさとした葉を成し、香川県ならではの陽射しを十二分に受けることで、根に栄養を蓄えていき枯れてゆく。これを毎年繰り返すことで、大地に根を広げてゆかねばなりません。そう、まだ産声を上げたばかりの特選食材なのです。

 今回Benoitに送っていただいているアスパラガスは、県庁所在地のある高松市の南に位置している香南町から。この地の畑を展開している、「薫る農園」さんからです。栽培者は、香川の農業女子として活躍中の河田薫さん。Benoitに届けられる、彼女の手掛けた「さぬきのめざめ」は、穂先がきゅっと締まった美しい姿、根元までやわらかいが歯ごたえはシャクシャク。鮮度が良いので、みずみずしいのはもちろん、にじみ出でるアスパラガスのジュースには野菜特有の甘さを感じまみれす。香川県の自然と、栽培にあたる人々の弛まぬ努力が育んだ、まさに「春一番の美味しいめざめ」です。

 地下茎を広げ新芽を出す姿は、竹に似ています。新芽を美味しくいただくことも似ています。筍は竹であり山菜のように収穫期は短いもの。しかし、アスパラガスは野菜であり、栽培者の弛まぬ努力と知恵が生み出した「立茎」という独特の栽培方法により、春の新芽から夏の新芽に姿を変えながら、長きにわたり我々の食卓に旬を届けてくれます。この立茎栽培には、芽の切り替えにともなう、つかの間の「昼寝の期間」があるのです。Benoitの春は「讃岐から目覚め」、「讃岐で眠りに就きます」。まだ目覚めているうちに、皆様のお越しをお待ちしております。

 

≪春に旬を迎える珍しいキノコ「モリーユ茸」が惜春を告げています。≫

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 多くのキノコが秋に旬を迎えるのに対し、このモリーユ茸は春に旬を迎える珍しいキノコです。ご覧のように、キノコの傘の部分が網のような姿のため、日本では「あみがさ茸」という名で自生しているのです。都内でも見ることができるのですが、素人がキノコに手を出すことは、あまりにも危険極まりないこと。それらしい姿のキノコを見かけても、鑑賞するにとどめてください。なぜ、国産が流通しないのか?和食では美味しさを見出せなかったのでしょう。

 対するヨーロッパでは、春を代表する高級食材の位置付けにあり、モリーユ茸食せずして春は終われません。これほどの食材のため、多くの人が「栽培」に取り組むも、いまだ成功例はなく、大自然が育んだ天然のものしかありません。そのため、天候に左右されることはもちろんですが、天気にも大きな影響を受けるのです。適度な雨は大地よりモリーユ茸が顔を出すことを促すも、キノコゆえに雨が降り続くことで、子供の手ほどにいっきに成長してしまうのです。大人の親指の指先ほどの大きさが、食感はもちろん味わい深く美味しいサイズ。大きくなると大味になってしまうのです。この気難しさもまた、この茸の価格を上げてしまう要因のひとつのようです。

 なぜ、日本では見向きもされないキノコが、ヨーロッパではこれほどまでに珍重されるのか。やはり、相性の良い調理法になるのです。生の時にはうんともすんとも美味しさの「お」の字も香らないモリーユ茸が、バターやクリームによって熱を加えられることで、豹変するのです。この驚嘆すべき芳しさと美味しさだからこそ、春を代表する食材の地位を確固たるものにしているのです。

 

≪日欧の春を代表する食材が一堂に会する「アスパラガスとモリーユ茸のフリカッセ」が前菜に。≫

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前菜ではありますが、今回の主役たりうる一皿であり、自分が心待ちにしていた料理が、「モリーユ茸とグリーンアスパラガスのフリカッセ」です。2019年の春は「讃岐で目覚め」た「さぬきのめざめ」が、ヨーロッパの山々で目覚めた「モリーユ茸」と、東京Benoitで出会います。日欧の春を代表する食材が一堂に会するのです。

香川県の生み出した至高のグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」は、瀬戸内海を想わせる塩分の湯の中で、職人ならではのしゃくっという心地よい食感を残すように湯でられます。さらに、モリーユ茸はもちろんフレッシュが届きます。生の時にはパッとしない香りが、熱を加えることで豹変するのです。芳しい香りを放つこの茸に、相性の良いクリームを加え、旨味を十二分に引き出した中に、フランスのSavoie(サヴォア)県の特産でもあるVin Jaune(ヴァン・ジョーンヌ)と呼ばれる黄色いワインを香りづけに使用。なかなか独特な風味のワインですが、モリーユ茸とクリーム、さらにグリーンアスパラガスとを全て調和させる力を持っている山のワインです。

プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+2,000円、ディナーでは+1,500円にてお選びいただけます。天気・天候に左右されやすいこの2つの春食材のため、ご希望の場合は、ご予約の際に「アスパラガスとモリーユ茸希望」とお伝えいただけると幸いです。

 

Cookpot(クックポット)とは?≫

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 アラン・デュカスが、その土地土地で育まれた旬の野菜を、いかに美味しく皆様に供するべきかと思案した結果、考案された器のことで、2010年の春に、世界に点在するアラン・デュカスグループのレストランで使われるようになりました。「このCookpad(クックパッド)とは何ですか?」とよく聞かれますが、レシピ集ではありません。

 1987年に、アラン・デュカスがモナコの「ルイ・キャーンズ」で取り組んだコースメニューが、野菜への敬意を込めた「ジャルダン・ドゥ・プロヴァンス(プロヴァンスの庭)」です。デュカス自らが、プロヴァンスを巡って見つけ出した至高の野菜をお楽しみいただくコース料理。Cookpotは同じエスプリに基づいて誕生したのです。いうなれば、彼の料理原点と哲学を象徴した逸品を仕上げるためのツールというのでしょう。世界各地にある、デュカスグループのレストランで、テロワール(土地特有の気候風土)の恵みと季節感のある料理に仕上げるための「器」であり、「料理名」でもあります。

 

≪惜春のCookpot(クックポット)は春野菜が揃います。≫

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 筍の美味しい時期であり、これほど話題にしておきながら、 Cookpotには加わりません。春野菜の総集編ともいうべき、そうそうたる野菜が名を連ねるも、Benoitシェフのセバスチャンが美味しいと判断した野菜が採用されるため、日によっては内容が多少変わります。ほぼ毎日のように三浦の農家さんより届けられるもの、津々浦々の産地より直送されるもの、はたまた海外から。

 添付しました画像をご覧の通り、アスパラガス「さぬきのめざめ」はもちろん、フランスのランド産ホワイトアスパラガス、そら豆にスナップエンドウ、春ニンジン、カブ、新じゃがいも、さらにはウイキョウと。忘れていけないものがマッシュルームです。細かく刻み、バターと鶏の旨味のスープで煮炒めるようにデュクセルを仕上げる、これが野菜だけの味わいにコクを与えることになります。全てをCookpotの中に詰めるようにし、オーブンで焼き上げ、仕上げにパルメザンチーズをぱんぱんと振り、再度オーブンへ。まさに惜春を想いながらの食べ納めともいうべき、野菜のみの逸品が完成いたします。

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+1,000円、ディナーでは+800円にてお選びいただけます。天気・天候に左右されやすいこの春食材のため、野菜の内容が変わること、ご理解のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

 

青森県の「ウスメバル」は今月末までです。≫

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 磯釣りでも人気を博すメバル。赤・白・黒メバルと見た目にはなかなか区別のつきにくい魚です。今回は、これらのメバルよりも、深場に生息している美味なる魚「ウスメバル」が青森県より届いています。津軽海峡の早い潮の流れの中で育ったウスメバルは、クセの無い淡白な白身で、カサゴの仲間らしいぷりぷりの肉質。今旬を迎えている魚で、あまりにも美味なため、和食でも煮付けで供されることが多いでしょうか。

 この美しく輝くオレンジ色と黒の模様が特徴であり、これが鮮度の目安ともなり、時が経つと色がくすんでくるといいます。ウスメバルの美味しい時期が、ちょうど筍の美味しい時期と重なるため、「筍メバル」との相性がつているのです。決してウスメバルが筍を食しているわけではなく、魚の知識に長けた日本人ならではの、旬を迎えた美味しい時期につけてしまう「魚の愛称」なのです。

 

青森県の「筍メバル」をブーリッドスタイルで。≫

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 青森県ウスメバルをオリーブオイルと使って表面をパリっと焼き上げ、その後にオーブンを使ってしっとりとぷりぷりとなるように焼き上げます。これだけでも十分に美味なることは、この食材が旬そのものの美味しさを持ち合わせているからでしょう。「筍メバル」の愛称は酔狂で名付けられたものではありません。

 さらに、「Benoitでは「Bourride(ブーリッド)」のスタイルで仕上げたソースを合わせます。南フランスの旧名Provence(プロヴァンス)地方の伝統的な魚料理で一番有名なのがBouillabasse(ブイヤベース)であるならば、同じ地中海に面する隣のLanguedoc(ラングドック)地方がBourrideです。地中海の海の幸である、魚をふんだんに使う漁師さん煮込み料理とでもいうのでしょう。同じ海岸線の隣に位置しているだけに、ほぼ同じような作り方です。魚の旨味が煮出したスープを、とろみが出るまで煮詰めたものをソースとして、今回の旬の筍メバルともに。

 ディナーのプリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、お選びいただけます。ランチでご希望の際には、何気兼ねなくお問い合わせください。

 

≪フランスのランド地方から「ホワイトアスパラガス」がBenoitに届いています。≫

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 春を迎えると、なんとなく山菜を口にしたくなるのが 日本でるならば、ヨーロッパの人々にとって、ホワイトアスパラガスを食せずして春尽きることはないのでしょう。マルシェ(朝市)に山積みにされるこの食材が、人々がいかに待ち望んでいた食材であるかを物語っています。

 アスパラガスの原産は地中海東部。3000年前のエジプト文明の時すでに野生のアスパラガスが食されていたといいます。古代ギリシャ古代ローマ時代には栽培が始まり、フランスがルネッサンスを迎えると同時に、イタリアから持ち込まれたのだといいます。この時代に、丘陵地での栽培方法が確立したことで、ホワイトアスパラガスが世に登場したのだとか。

 アスパラガスの栽培には軽い砂地が適しており、フランスではパリ北西に位置しているArgenteuil(アルジャントゥイユ)町から始まりました。今でも栽培されている最古参の品種にその名を遺しています。そして、Val de Loire(ロワール地方)、Aquitaine(アキテーヌ地方)、そしてBassin Méditeranéen(南フランス)へと栽培ノウハウが伝わっていきます。

 今回、Benoitに送っていただく地は、Aquitaine(アキテーヌ)地方のBordeaux(ボルドー)の南に位置しているLandes(ランド)県です。この地のホワイトアスパラガスは、水はけのよい砂地で育て上げます。作物にとっては過酷な土壌なのでしょう。だからこそ、力強く成長することで、太く、そして独特のほろ苦さを特徴とする新芽へ。さらに、大西洋海流がもたらす温暖な気候、しかしそれは昼間の表情であり、この時期ならではの寒暖の差が、作物を魅惑的な甘さをもたらします。この環境下に、栽培者の弛まぬ努力が加わるのです。新芽を陽射しに当ててしまうと、光合成をおこなうことで緑色になってします。まだ暗い夜明け前、新芽に砂をかぶせるという重労働から始まります。

 フランス国王として全盛を極めた太陽王ルイ14世は、ヴェルサイユ宮殿の庭師に、「一年中収穫できる栽培方法を模索するように」と命じたという。それほどまでに愛してやまないアスパラガス。いつの時代もどの国も、権力者はいいたい放題です。旬があるからこそ美味しいのであり、収穫が待ち遠しい。時期が決まっているからこそ、失う前に楽しもうと思うのでしょう。

 

≪北海道より届いた「エイヒレ」のグルノーブル風とランド産ホワイトアスパラガス≫

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 馴染みのエイヒレは、乾物で焙って美味しくいただくものです。しかし、東北や北海道では「かすべ」という名前で販売されており、煮付けにして楽しんでいるといいます。フランスのビストロでは、欠かすことのできない食材でありながら、日本ではほぼどの海域でも水揚げがあるものの、食材として流通しない理由とは何なのか?食材としての認知度が低いことに加え、鮮度を維持することの難しさがあります。時が経ることで、独特なアンモニア臭を放つのです。そのため、神奈川なので水揚げがあった際にも、新鮮なうちに「かまぼこ」の原料へとまわされてしまうのです。今回は鮮度抜群の大ぶりの「エイヒレ」が、北海道よりBenoitに届いています。

 エイヒレの表面に小麦粉をまぶすように焼くムニエルのスタイルに。白身でありながら、ヒラメでいうエンガワの部位。プリっとしながらふるふるな食感でもあります。さらに、軟骨のパリパリ間もアクセントとなり、かなり美味です。たっぷりのバターを使いながら、焼き上げた後、その旨味の加わった溶けたバターへ、レモンの心地良い酸味とケッパーの旨味を加えます。ホワイトアスパラガスとエイヒレ、これ以外の調理方法が見当たらないほどの相性抜群のグルノーブルスタイル。日仏を代表する2つの特選食材が、仏伝統的な調理方法で仕上げられBenoitで一堂に会する。お皿の上でどのようなハーモニーを奏でるのでしょうか。

 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+1,500円、ディナーでは+1,200円にてお選びいただけます。ご希望の際は、ご予約の際に「エイヒレ希望」とお伝えいただけると幸いです。

 

沖縄県西表島石垣島より「ピーチ種のパインアップル」がBenoitへ≫

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 沖縄本島 からさらに西へ進むこと400kmほどで石垣島に辿り着きます。さらに西に位置している大きな西表島。強酸性土壌にしか生育せず、台風や干ばつの耐性のあるフルーツだからこそ、この2島が選ばれたのかもしれません。パインアップル冠芽を植え付けてから、収穫までは2年を要します。その間、溢れんばかりに降りそそぐ、沖縄の陽射しを十二分に受け、完熟を待ってから収穫された逸品が美味しくないわけがありません。

 池村英勝さんを代表とする西表島グループと、平安名貞市さんを代表とする石垣島グループの協力のもと、16玉入の段ボールでBenoitへ送っていただいています。届いた段ボる箱の脇にある、運ぶために指を入れる小窓から、なんと魅惑な甘い香りが漂うことか。完熟を待ち、朝一で収穫した後に沖縄を旅立つ。完熟を待つがために日持ちがしない時間との勝負。しかし、この美味しさを知ってしまうと、もう海外産には戻れない。パインアップルは追熟しないため、保管していても劣化するだけ。海外産は輸送に時間を必要とするため完熟前に収穫するのです。そう、収穫の時点でパインアップルの品質が決まるのです。

 この西表島石垣島の「パインアップル」と、沖縄本島の南側に位置する糸満市から届いた「パッションフルーツ」。今の沖縄県の特産で組み立てた逸品が、デザートメニューに加わっています。6月も、この2つの特選食材は残しますが、パインアップルの美味しさを堪能するのであれば、今月のほうがお勧めです。パッションフルーツの甘酸っぱさとプチプチの種の食感との相性も抜群です。

 プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+800円にてお選びいただけます。

 

シャンパーニュメーカーズディナー「THIÉNOT(ティエノー)のご案内です。≫

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 シャンパーニュ地方・ランスに1985年に誕生したシャンパーニュメゾン「ティエノー」。そのシャンパーニュは保守的ではなく、常に新しい独創性を求める現代的スタイルです。創業者・アラン・ティエノ、長男スタニスラス、長女ガランスの3名による家族経営のシャンパーニュメゾンで、それぞれの名を冠したシャンパーニュがあるのも特徴のひとつです。また、アーティスト「スピーディー・グラフィット」とコラボレーションしたマグナムボトルはそのデザイン性から多くの反響を生みました。今回が初来日のガランス女史をお迎えし、豪華シャンパーニュディナーを行います。ラインナップはデザインの異なる1stと2ndの「スピーディーグラフィット」。また、それぞれの名前を冠したファミリーシャンパーニュをお楽しみいただきます。

 

Benoitシャンパーニュメーカーズディナー「THIÉNOT(ティエノー)

日時:2019530()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

<ラインナップ>

NV  SPEEDY 1st Edition Magnum

NV  SPEEDY 2nd Edition Magnum

2008  Millesimé

2007  Cuvée Stanislas, Blanc de Blancs

2008  Cuvée Garance, Blanc de Noirs

2007  Cuvée Alain Thiénot

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≪ミュージックディナー「三味線プレイヤー 史佳」のご案内です。≫

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 津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。それがためなのか、初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生し、今は二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー「史佳 Fimiyoshi」さん。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まっています。その前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。

 

Benoitミュージックディナー 「三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi ≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

kitahira.hatenablog.com

 

≪一夜限りに特選メニュー「夏食材の饗宴」のご案内です。≫

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 Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、梅雨によって目覚めた食材を使い。一夜限りの「夏食材の饗宴」を、Benoitで開催することにいたしました。開催といっても、ミュージックディナーのように、何かイベントがあるわけでありません。通常通りのディナー営業です。しかし、この一夜だけは、シェフのセバスチャンが、「今、これを食せずして夏は始まらない」という旬の食材をつかって組み立てたコース料理のみご用意いたします。Benoitディナーの営業時間内のご都合の良い時をご指定いただき、ご予約いただけると幸いです。

 

Benoit特選メニュー「一夜限りの≪春食材の饗宴≫」

日時:201971()17:30より(21:00LO)Benoitの営業時間内にお越しください。

コース料金:お一人様9,800(税サ別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。何か質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

 

 

 「筍」を少し調べてみました。「たけのこ」という読みの他に「しゅん(じゅん)」とも。名詞とは別に形容詞としても使うようで、「筍鶏(じゅんけい)」とは、若い鶏のことだといいます。使用頻度は皆無ですが、なかなかに言いえて妙だと思いませんか。漢字の発祥は古代中国であり、その漢字の成り立ちを編纂したのが「説文解字」、時は紀元後100年頃、漢字辞典の誕生です。それによると、「意符の≪竹≫から構成され、音符の≪旬≫で組み立てられた形声文字」なのだと。

 六書(りくしょ)の区分に基づき、「象形」「指事(指示ではないです)」「会意」「形声」に大別され、さらに偏旁冠脚(へんぼうかんきゃく)によって分類されています。「指事文字」とは、絵としては描きにくい物事や状態を点や線の組み合わせで表した文字をいい、「上」や「下」が分かりやすいと思います。十干の「己」は指事文字です。そして、「会意文字」は、既成の象形文字指事文字を組み合わせたもの。例えば「休」は、「人」と「木」によって構成され、人が木に寄りかかって休むことから。そして、6割がたの漢字が分類されているのが「形声文字」です。「江」は≪シ(さんずい)≫の意符と、≪エ≫の音符で構成されたもの。

 「晴」もまた、形声文字。≪日≫天文事象を意符とし、≪青≫は音符であり、意味がないのだといいます。確かに正確に分類するとそうなのかもしれませんが、「日(太陽)」が光り輝き空「青い」状況が、「晴れ」と考えたいです。こう考えると、「筍」は「竹」が美味しい「旬」を迎えたものであると。専門家の皆様、誠に申し訳ありません。勝手気ままな自分の願望です。「竹の秋」で始まった五月尽のご案内は、「筍」で終わりを迎えさせていただきます。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com