kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021年9月 Benoit「ピーチ・メルバ2021」の全貌を公開!

 「昭和白桃」も「さくら白桃」も追熟させるため、仕込む時にBenoitのパティシエルームでは、面白い光景が広がります。作業台の上をまっさらにし、届いた桃の箱を全て並べるのです。何をするのか?同じ品種に同じ日に収穫した桃とはいえ、個体差があります。この作業は、追熟度合いを測り、今が好機と判断した桃を選ぶための大事な工程なのです。

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 選ばれし桃は、風味を損なわないように湯にくぐらせ、氷水へ。丹精込めて育て上げ桃の果皮を、至極丁寧に剥いてゆくのです。果実は果皮の内側と種のまわりに美味しさが集まっているもの。さすがに種は食べませんが、果皮は大切な素材なので、捨てることはいたしません。

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 湯剥きして半実に割った桃は、種を取り除き、ステンレスのバットに並べてゆきます。そこへ、熱々のラズベリージュースを注ぎ一日旅疲れを癒すように浸かっていただきます。ここで、煮込むわけではなく、余熱を利用することによって桃の持つ風味を損なわず、ほのかな甘酸っぱさを与えていくのです。毎日のように繰り替えされるこの作業によって、Benoitのパリシエールは、シーズン終わる頃には、桃の皮剥き種取り名人となるのです!

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 一日経った桃は、これだけでも十分に美味しいのですが、これをピーチ・メルバへと昇華させてゆきます。半実をBenoit自慢の器に盛り付けた桃の半実。種のあったくぼみに何やら得体の知れないものが見えます。これは、フランスから届いたペッシュ・ド・ヴィーニュという、硬めで心地良い酸味で硬い小ぶりの桃です。甘さを控えるようにマルムラードと、くし型に切ったものを4時間オーブンで焼くセミドライへと仕上げ、混ぜ合わせたもの。このなんともペタッとムニュっとした食感は病みつきになる。そして種らしきものを砕いたものが上に…決して桃の種ではありません。香ばしいアーモンドなり!

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 Benoitでは、バニラエッセンスの使用が禁止されています。理由は、美味しいから、とこの一言に尽きるのです。その美味しさを追究するに当たり、料理もデザートも「妥協をするな」と徹底されているのです。そのため、マダガスカル産のバニラビーンズで仕上げたアイスクリームは、アラン・デュカスグループ共通の仕込みだけに、バニラが香り濃密でかなり美味しい、もう一度言います、かなり美味しい。ピーチ・メルバでは、あくまでも脇役ですが、このバニラアイスクリームがあるからこそ、桃が冴える!

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 甘さを減らし、極限まで軽やかに、そしてここにもバニラビーンズを加えた生クリームをこしらえます。これを桃の周りから包み込むように絞ってゆきます。どんなに熟練したパティシエでも、この段階で息を整える。あまりにも柔らかく繊細なクリームだからこそ、力加減に細心の注意を払わなければなりません。両の手で何度も感触を確認しながら、自らでタイミングを計っているかのよう。心の準備ができた後、息を止めながら全身全霊をもって絞り始める…失敗は許されない!

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 Benoitのパティシエ-ルチームは、さらっとこなしていますが、今回のピーチ・メルバはなかなかに職人我を要求してきます。隙間なくアイスクリームが包み込まれた姿は、まるで桃が毛糸の帽子をかぶったようででもあり、感動すら覚えます。しかし、まだ終わりません。

 最後の仕上げに、クリームの上にハラハラッと茶色とピンク色の2種類を振りかけます。ツオと梅のふりかけのようですが、もちろん違います。茶色はアーモンドを細かくカットしたもの。そしてピンク色は、まるでヤマトナデシコの花びらのようですが、これは、桃の果皮をチップスに仕上げたものです。

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 前述した通り、果実は、種のまわりと果皮の内側に美味しさがかたまります。さすがに種は食べれませんが、果皮を捨ててしまうことは、美味しさを減らしてしまうことに等しい。そこで、湯剥きした果皮は、桃を漬けていたラズベリージュースに潜(くぐ)らせて、オーブンでパリッと乾燥させてチップスにします。そう、これは飾りではなく、しっかりと美味しさの一要素です!

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絵にかきて おとるのみかは 言の葉も あはれおよばぬ やまとなでしこ  松永貞徳

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 絵で花の美しさ表現することに加え、言葉でもまったく実物には遠く及ばない…おっしゃる通りでございます。料理もまた、その美味しさを「言の葉」で書いたところで、言葉巧みに過剰表現をしてしまうと、それは詐欺師ということ。幸いに、自分はそこまでの国語表現力をもっていいないので、この点は安心です。

 どんなにきれいな写真を撮ろうとも、どんな美味しさなのかを言葉巧み表現したところで、実際に「ピーチ・メルバ2021」をお召し上がりいただいた時の感動には、「あはれおよばぬ」ものです。あまりの感動があった時には、言葉を失う。本当に美味しいと感じるものを口にした時、人は心の奥底から湧き出でる「美味しい」という言葉しか発することがでず、筆舌に尽くし難(がた)いものです。

 どれほど美味しいのかお伝えることはできませんが、どうしても皆様に2021年版ピーチ・メルバをお勧めしたく、自分の持ちうる言の葉を使い、それぞれのどのような「葉(パーツ)」であるのかを説明させていだきました。皆様には、それぞれの「葉(パーツ)」を知っていただき、どのような「樹(デザート)」であるかをご想像いただきたいです。

 2021年Benoitのピーチ・メルバは9月末までを予定しております。しかし、山形県の滝口果樹園さんが丹精込めて育て上げた「さくら白桃」をもって、今期の終わりを迎えさせていただきます。月末ではご希望にそえないかもしれません。何分、自然の賜物ゆえ、ご理解のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

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PÊCHE MELBA

ペッシュ・メルバ (ピーチ・メルバ)

※ランチとディナーともに、プリ・フィックスメニューのデザートとして+800円でお選びいただけます。

 

≪季節のお話 「言の葉はあはれおよばぬ撫子の花」≫

 平安時代の美的理念を表現する言葉に、風情がある、趣きがある、美しい、というような意味の「をかし」というものがあります。清少納言は、随筆「枕草子」の中でこの「をかし」をランク付けするように紹介していいます。その中で、「草の花は撫子(なでしこ)」と彼女は書き遺しました。

自分の「言の葉もあはれおよばぬ」ものですが、知っているようで知らないナデシコの花をご紹介させていただきます。

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≪晩生のピーチ・メルバを楽しまずして、9月は終われません!≫

 晩生(おくて)の桃を使ったデザート「ペッシュ・メルバ(ピーチ・メルバ)2021」をご案内せずして、自分は10月を迎えることはできません。そうなのです、皆様!このデザートの美味しさを楽しまずして、9月を終えることはできません。

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岐阜県の飛騨もも「亀山果樹園」のご紹介です。≫

 今回の訪問先は、高山市の南に位置している久々野町に居を構える「亀山果樹園」さんです。標高750mの高冷地の大自然の中に2.5haの園地を有し、今は二代目園主の亀山忠志さんが陣頭指揮を執っています。甘く香り高い高品質の果実を皆様へお届けすべく、研鑽に励む日々。どのような果樹園なのか、少しばかり岐阜県を観光するようにご紹介させていただきます。

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9月お勧め料理「エイヒレのムニエル」≫

 エイヒレとはその名の通り「エイの鰭(ひれ)」です。北日本で「かすべ」として親しまれている食材ながら、まだまだ周知されるにいたっておりません。しかし、フランスではエイヒレは馴染みの食材であり、ビストロでは欠かすことができません。。伝統料理として確固たる地位を確立している、「グルノーブル」というスタイルとは、いったいどのような料理なのでしょうか?

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≪エイヒレグルノーブルの出会いについて考えてみました…≫

 フランスのビストロ料理として欠かせない「エイヒレのムニエル」。我々日本人には馴染みのない食材である「エイ」、それがグルノーブルという調理スタイルで仕上げた逸品は、美味しいからなのでしょう、今なお多くの人々に愛され続けられている料理です。そもそも、グルノーブルとは何を意味しているのでしょう。そして、どうしてエイなのでしょう。皆様、気になりませんか?

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≪特選食材「六条大麦」を使ったお勧め料理のご紹介です!≫

 六条大麦の国内シェア約3割を有し、堂々たる全国1位の生産量を誇るのが福井県。6月初旬に麦秋を迎えた「六条大麦」がBenoitに届いています!さあ、この栄養価満点に旬の食材を、Benoitではどのような料理に姿を変えるのでしょうか?

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≪初秋特別プランのご案内です。≫

 気がつけば、蝉の諸声(もろごえ)が止んでいる…

 コロナウイルス災禍が猛威を振るう中でも、季節は巡り去ってゆく。蝉は我々に秋の到来を教えてくれた気がします。そして、季節と同じように、旬と呼ばれる季節の食材も巡り去ってゆきます。彼らに「待つ」という優しはありません。そこで、この機を逃してはならないとの思いから、「初秋」と銘打った特別プランと、個室貸切プランをご案内させていただきます。

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北平のBenoit不在の日

 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない9月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。緊急事態宣言如何によって変更の可能がございます。ご不便をおかけいたしますが、ご容赦のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com