kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年9月 Benoit特選食材とお勧め料理のご案内です。

 草木の花々は移りゆく季節の機微を捉え、順を追って咲き誇るもいずれは散りゆきます。食材も同じように「旬」という期間は限られたものであり、「待つ」という優しさはありません。そこで、全ての旬食材は無理でも、Benoitの要望に応えてくれた逸材でこしらえた、まさに「旬の味覚」の料理とデザートをご用意いたしました。その旬の食材とお勧め料理/デザートを、皆様にご紹介させていただきます。

 

≪まだまだ暑い時期だからこそ、ヴィシソワーズスープで始めてもいい…≫

 冷たいスープで火照った身体を内側から冷まし、食欲を呼び覚ます。かつてアメリカ合衆国で誕生したという冷製「ヴィシソワーズスープですが、どうも英語っぽくはないネーミングではないですか。それもそのはず、考案者であるシェフはフランスのVichy(ヴィシー)の出身だった。この町は、フランスを悠々と流れるロワール川を遡り、遡りさらに遡り、フランスの中央部辺りにまで達したところにヴィシーの街があります。そこで、子供の頃にお母さんが冷たく供してくれたジャガイモのスープが原点にあるのだといいます。

 お馴染みの食材であるジャガイモ。この素材が持ちうる繊細な旨味を生かすために、クリームを極力減らし、ミルクでのばしてゆきます。これだけでも美味しいのですが、そこへプルンと鶏ブイヨンジュレが加わることで、味わいに深みが増してきます。そして忘れてはいけないものが、バターをたっぷりつかったクルトンです。「後のせサクサク」とすることで、香ばしさと心地よい食感が生まれるのです。

 全てを混ぜるように馴染ませてお召しあがりいただくのも良いですが、敢えて混ぜないのも一興なり。スプーンですくう場所場所によって多彩な表情を見せてくれます。色とりどりに咲きほこるアジサイならぬ、Benoitヴィシソワーズスープの味彩をお楽しみください。このヴィシソワーズスープ、次に魚のスープをお選びいただいても自分は止めません。というよりも、お勧めしたいぐらいです!

VICHYSSOISE rafraîchie, garniture taillée

ジャガイモの冷製スープ “ヴィシソワーズ”

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 

プロヴァンス地方の夏を代表する料理「ラタトゥイユ」が前菜です!

 まだまだ、残暑厳しい時期ではありながら、すでに季節は晩夏から初秋へと移りゆく…それでも、Benoitの「ラタトゥイユ」は、相も変わらず美味しさをはなっている。ズッキーニに、ナスとパプリカをトマトで煮込んでいったこのプロヴァンス伝統料理は、家でも作りやすいこともあり、馴染みの料理でえはないでしょうか。とはいえ、ご家庭と同じでは「プロの調理人」ではないわけで、Benoitのプリ・フィックスメニューに名を連ねるということは、やはり何かが違うということなのです!

 ナス、ズッキーニ、パプリカとタマネギは、それぞれを絶妙な食感を残すように焼いてゆきます。野菜そのものの旨味が、熱が加わることでさらに引き立つかのよう。そして忘れてはいけない食材、、完熟まで収穫を待った真っ赤なパンパンのトマトとともに大鍋で一堂に会するのです。かるく煮込むことは、それぞれの野菜の甘さ凝縮させることになり、甘みが増します。さらに、冷ますことで、味わいが落ち着き、野菜のコクが際立ちます。松の実を加えることで、カリっと心地良い食感と、夏の締めくくりなのでナッツの香ばしさを…さらに、半熟卵のとろりとくる黄身との相性も抜群とくる。

 ズッキーニとトマトは、長野県の高地や東北・北海道へと産地が北上。ナスは、夏よりも味わい深くなる秋ナスへ。徳島県美馬市で藤原さんが露地で育てあげた逸品がBenoitに直送されています。

Ratatouille de légumes du soleil, œuf mollet

夏野菜の冷たいラタトゥイユと半熟卵

※ランチのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 パリの赤ペン先生がフランス語表記を修正してきました。「légumes d’été (夏野菜)」から「légumes du soleil (太陽の野菜)」へと。なかなか粋な表現だと思いませんか?

 

 

Benoit東京で確固たる地位を得た食材…マダコ!≫

 往古より「一に来島(くるしま)、二に鳴門(なると)、三と下って馬関瀬戸(ばかんせと=関門海峡)」といわれています。これは、潮流の速さと複雑さで船乗りたちを大いに悩ます海の難所ということ。この日本三大急潮すべてが、瀬戸内海にある。大海原の膨大なるエネルギーが、瀬戸内海という狭い海域にそそがれることが、この海峡を難所としている。

 この潮流は、豊富なプランクトンを太平洋から日本海からと運びこみ、常に生き生きとした水質を維持している。そして、複雑な沿岸から海中へと延びる岩礁は、エビ・カニに棲み良い環境を提供している。それを食餌とするマダコは、間違いなく美味しさを蓄えることとなり、潮流による運動は身が引き締まる。「関門海峡タコ」は味わい深く、噛むほどに旨味が口中にひろがります。

 今回の前菜で、欠かすことができない食材が柑橘です。神奈川県小田原中心部から熱海のほうへと沿岸部を進んだ地にある江之浦の地で育まれた「バレンシアオレンジ」がBenoitに届きました。彼の地で柑橘を栽培し、さらに周辺の果樹栽培を生業とする方々をまとめ上げているのが、江之浦果樹園maruesuさんです。創業者が取り入れたのが〇にSという屋号、それでmaruesuというのです。なかなか、気さくな方だったのでしょう。柑橘の北限ともいえるこの出会いは、マダコの前菜のみならず、Benoitの料理・デザートに大いなる可能性をもたらしたのです!

 丁寧に下ごしらえされ、やわらかく茹でたマダコ。そして、極力甘さを控えて仕上げたバレンシアオレンジのマルムラード。さらに、ギリシャ風と銘打たれた野菜が一堂に会します。この野菜のギリシャ風とは、セロリ、ニンジン、タマネギ、カリフラワー、それにラディッシュ。レモンにコリアンダーの種を使い、絶妙な火加減で調理してゆき冷蔵庫で一晩休ませたもの。コリアンダーパクチーのことで、苦手の方の多い香草かと思います。しかし、このコリアンダーの種は、うんともすんともいわない味気ない食材。ところが、野菜とともに熱を加えることで、野菜本来の甘さを引き出すのです。

 ぬくいマダコが、天草産がどれほどの逸材であるかを教えてくれる。さらに、野菜それぞれの食感がリズミカルに口中に響き、野菜それぞれが甘さ旨さの旋律を奏でます。そして、江之浦バレンシアオレンジの甘ほろ苦さが、全ての食材を引きあわせ、調和をもたらす。この美味しさに酔いしれ、Benoitの窓へと目を移すと…そこにはエーゲ海がひろがっている…かもしれません。

Poulpe marinée, légumes à la grecque

関門海峡タコと野菜のマリネ ギリシャ

※ディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。ランチでご希望の場合は、+800(要予約)でご用意可能です。ご希望の方は事前にご希望数をお伝えください。

 

 

Benoitテリーヌをお忘れなきように!≫

 ビストロというカテゴリーの飲食店において、日本のみならず本場フランスでも欠かすことができない料理が、「テリーヌ」ではないでしょうか。Benoitにおいても、前菜として不動の地位を得ており、メニューから姿を消すことはありません。これほどまでに馴染みの料理でありながら、これといった決まった素材や調理法があるわけではなく、テリーヌ型といわれる陶器の蓋つき容器を使ってじっくり焼き上げたもの。肉に限らず野菜や魚介でも、この型で焼けばテリーヌということになるのです。

 このようにあいまいなカテゴリーなために、シェフによってさまざまなテリーヌが存在することになります。同じ肉主体でありながら、柔らかく仕上げたものもあれば、ゴロゴロと食感が残るようにこしらえたものもあります。違うからこそ、どのようなテリーヌが供されるのかもまた、楽しみの一つなのでしょう。

 Benoitシェフの野口は、長い調理人経験の中で試行錯誤を繰り返し、彼の求める美味しさを追求してきました。そのため、多くの店が提供しているとは、Benoitはひと味もふた味も違う。テリーヌの素材は、豚肉をメインに鶏レバーの加えて粗挽きでこしらえる。数多(あまた)あるテリーヌもそう変わらない。しかし、野口の肉のブレンド比率とスパイスとハーブの使い方が妙を得ているのでしょう、食感が心地よく旨味あふれる逸品に仕上がってるのです。

Terrine de campagne, pain toasté

テリーヌ・ド・カンパーニュ

※ディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 さらに、鶏の「白レバー」のテリーヌも仲間入りしました。鴨のレバーを太らせたものが「フォアグラ」であれば、ニワトリを太らせると「白レバー」です。これをたっぷりと使うのですが、これではレバーペーストになってしまいます。そこで、粗挽きの豚肉を加え、よく混ぜ合わせ、テリーヌの型で焼き上げます。レバーの比率が高いため、熱が入り過ぎればパサパサとなってしまう。断面がほのかにピンク色となるような職人技ともいえる熱の加え方こそが、このテリーヌの美味しさを決める。まとわりつくような白レバーの旨味をお楽しみいただきたいです。

 

Terrine de foie de volaille, pain toasté

鶏レバーのテリーヌ

※ランチのプリ・フィックスメニューの前菜としてお選びいただけます。

 

 

≪スズキはスズキなのですが、今はマルスズキ!≫

 日本全国津々浦々で水揚げがあるため、お馴染みの魚ではないでしょうか。アグレッシブに小魚を捕食するため、ルアーフィッシングをする方にとっては最高のターゲットでしょう。イワシなどの小魚の群れを追い、港湾深くまで、ときに汽水域にまで姿を見せるといいます。Benoitでは外洋に面した沿岸域に限定、千葉県の外房や宮城県の沿岸を棲み処(か)にするスズキが多いでしょうか。産地は、豊洲の老舗の魚卸「大芳」さんの目利きに頼ります。

 スズキ、スズキといいますが、正式には「マルスズキ」といいます。「丸」があるのであれば、「四角」のスズキがいるのか?もちろん、そのようなスズキはおりません。存在するのは、いまだ生態が謎のヴェールに覆われている「ヒラスズキ」、そう「平」です。同じ「スズキ」と名が付くだけに、そっくりな姿…く比べてみると、目の大きさが、頭の大きさが、体高の高さが、尾びれの付け根の太さが違う。上の画像が「マルスズキ」で、下が「ヒラスズキ」。

 Benoitにとって、この2種類のスズキの大いなる違いは、その姿ではありません。暑い時期に旬を迎える「マルスズキ」であり、寒い時期が「ヒラスズキ」であるということ。夏は、イワシに脂がのり美味しい時期となります。そのイワシをたらふく食(は)んでいるマルスズキが、美味しくないわけがない。今の時期の、旨味がノリにノッた「マルスズキ」の美味しさは別格なのです。

 もう一つの主役は、「秋ナス」です。徳島県美馬市に畑を有する藤原さんが、Benoitに直送してくれます。どうですか!美味しそうなナスを育て上げそうな容姿ではないですか。若さ=経験不足であるとは限りません。経験豊かな諸先輩がたに学ぶ恋とで、その点は補える。それよりも、彼の美味しいナスを育てるための探求心と、若いからこその既成概念にとらわれない考え方、なによりその行動力です。有機肥料だけで土を作り、有機液肥の葉面散布で効率よくナス本体に活力を与えることで、ピカピカのツヤツヤの味わい深いナスに仕上げるのです。

 ふんわりと焼いたマルスズキに、焼いたナスを心地よい酸味のドレッシングに漬けするようにこしらえたもの、さらに焼いたナスの中身をくり抜き、たたくように作ったキャビア・ドーベルジーヌを添える。捌いた魚のガラから焼き煮出すかのように旨味を引き出した「ジュ」に、塩漬けケッパーとタジャスカ種のオリーブを加えることで、旨味引き立つ心地よい酸味のあるソースとなります。

Blanc de bar doré, aubergine confite, condiment câpres/olives noires

スズキのオーブン焼き 茄子のコンフィ ケッパー/オリーブ

※ランチとディナー、ともにプリ・フィックスメニューの魚料理としてお選びいただけます。

 

「秋ナスは嫁に食わすな!?

 夏野菜であるナスは、水分が多い上にカリウムが豊富です。カリウムには利尿作用があり、余分な水分を体外に排出する際に体温を奪ってしまう。さらに、ナスのアクも体温を下げるのだといいます。夏であれば良いことも、肌寒くなると困りもの…体が冷えて流産してはいけないとお嫁さんの体を労(いたわ)った言葉です。決して、秋ナスは格別に美味しいから、嫁には食べさせん!という意地悪な言葉ではありません。

 

 

≪剣先イカ、シロイカ、アカイカ、皆様いかが?≫

 関門海峡を横切るように架かる瀬戸大橋。その山口県側の下関沿岸、橋のたもとから少し西側へ向かった先に、唐戸市場が開けています。そこでは、毎日のように近海で水揚げされた旬の魚介類が競り落とされ、地方に送られるばかりではなく、その場でも購入することができ、さらには美味しくいただくこともできます。

 彼の地で、鮮魚店を営んでいる道中さんが、まさに旬を迎えている剣先イカをBenoitに送り出してくれます。剣先イカ山口県では「シロイカ」と呼び、島根県では「アカイカ」といいます。その地その地で愛称があるということは、旬の食材として愛着があることの証ではないでしょうか。それでも「白」と「赤」では、違い過ぎるのでは…そう思うも、鮮度の良い剣先イカの姿を見ると、なるほど!と思ってしまう自分がいます。

 

 「味のアオリイカ、食感の剣先イカ」と評される2種のイカアオリイカのほうが美味しいの?ということではなく、ともに美味しさ際立つイカであり、甲乙つけがたい。そこで、あえて違いを表現すると…こうなるのです。しかし、それぞれのイカは旬が異なるため、自分の中では「夏の剣先イカ、冬のアオリイカ」となる。そう、今の時期はアオリイカではなく剣先イカなのです!

 この剣先イカの食感を生かすように、Benoitシェフの野口は「焼き」にこだわりを見せる。焼き切ってしまえば、ただの焼きイカ。そこで、表面をちゃっちゃと軽く焼き、イカがくるっと反るようになった段階で、火から上げてしまうのです。この「mi-cuit(ミ・キュイ)」という焼きこそが、剣先イカが剣先イカたらしめる、その美味しさを発揮できるのです。

 バスク風のピペラードとは、パプリカと玉ねぎをしんなりと炒めることで野菜そのものの甘さを引き出し、完熟トマトでコクと心地良い酸味を加え、さらに生ハムで旨味を足したもの。これだけでも美味しい!これを剣先イカとともにお皿にも盛り付け、ニンニクで香りづけしたほわほわミルクをかぶせ、忘れてはいけないイカ墨のソース。さらに、バスク地方の特産である「Piment d’Espelette(ピモン・デスプレット)」をハラハラと。ん?ピモン・デスプレット?

 

 スペインと国境に近い海沿いに、Saint-Jean-de-Luz(サン・ジャン・ド・リュズ)という港町があります。美しい建物が並ぶ港町であり、美食の街とも呼ばれています。この町から東へ山の中を進むこと20kmほどでしょうか、Esprette(エスプレット)とう村に到着します。そう、この村の名を冠したものが、前述したPiment d’Esprette(エスプレット村の唐辛子)で、AOPの認証を受けている逸材です。

 ワインはAOCという表記で、原産地を名乗るためにクリアしなければならない厳しい規定があることはご存知かと思います。その食材版であり、EUという広範囲で規定したものが、このAOP(Appellation d'origine protégée / 原産地呼称保護)です。今ではワインのAOCルールも、このAOPに組み込まれており、AOCのルールがより厳格なため、ワインの表記はどちらを記載しても良いことになっています。ということで、AOPは、原産地を守り、品質を維持するため、フランス政府のみならずEU加盟国が保証した食材のこと。チーズもこの部類に入ります。

 このピモン・デスプレットははエスプレット唐辛子などと表現されるのですが、辛いだけではありません。日本の唐辛子よりも一回りも二回りも大きく、パプリカのように肉厚なので、野菜特有の甘味をも兼ねそろえているのです。夏に収穫したものを軒下に、まるで干し柿のように吊るして乾燥させる光景は、この村の風物詩です。窓枠と比較してみると、いかにこのピモン・デスプレットが大きいかお分かりいただけるのではないでしょうか。

 

 剣先イカの旬の旨さを際立たせるかのような夏野菜。香り良いミルクのまろやかさ。イカ墨のソースで、さらなる旨味を加ええる。さらに、はらはらと振りかかるフランスの旧バスクの地、エスプレット村の特産唐辛子が、ピリりと全体を引き締める。全てが一堂に会する時、そこには旬そのものお楽しみいただける一皿が姿をみせます。

 「夏の剣先イカ、冬のアオリイカ」…今季も以下の季節が始まりました。秋に姿を見せる「アオリイカ」とは違う美味しさをお楽しみください。

Poêlée de calamars au piment d’Espelette, garniture d’une basquaise

下関産剣先イカポワレ パプリカのピペラード バスク

※ランチとディナー、ともにプリ・フィックスメニューの魚料理としてお選びいただけます。

 

 

≪エイヒレのムニエル グルノーブル風…いったいどんな料理?≫

 エイヒレとはその名の通り「エイの鰭(ひれ)」です。北日本で「かすべ」として親しまれている食材ながら、まだまだ周知されるにいたっておりません。しかし、フランスではエイヒレは馴染みの食材であり、「グルノーブル風」という伝統料理として確固たる地位を確立しています。では、その「グルノーブル」というスタイルとは、いったいどのような料理なのでしょうか?

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≪豚ホホ肉を知ると、もう牛ホホ肉には戻れない…≫

 豚ホホ肉…あまりにも豚肉が身近な食材なだけに、言われてみれば、特段珍しいものでもないはずなのに、見かけることは皆無でないでしょうか。なぜだろうかと考えてみました。思うに、名だたるレストランが牛ホホ肉の料理を提供しているために、豚ホホ肉の価値が見いだせていないのではないかと。お肉屋さんも、販売できない部位ではなく、販売しても売れない部位だから取り扱わない。だから、我々には馴染みがない食材なのでしょう…これほどまでに美味しいのに…

 牛ホホ肉の煮込みでは、赤ワインを使用します。しかし、豚ホホ肉は繊細な旨味があるため、白ワインを使います。香味野菜とともに煮こむこと1時間ほど、ほろりと崩れるようになる。ここでホホ肉を避難し、鍋に残った旨味のスープを煮詰め、フォン・ド・ヴォーを加え煮詰めたてゆく。この旨味そのものであるとろみのあるソースを、避難させていたホホ肉に絡め、ズッキーニとともに盛り付けます。パスタは別添えで。ナイフが必要ないほどに、ほろっと崩れるようにやわらかい豚ホホ肉、Benoitのランチでお楽しみください。

 どうして食材として名が挙がらないのか?と不思議になるほどの美味しさがあります。そう、豚ホホ肉を知ってしまうと、もう牛には戻れなくなる…

Joues de cochon cuisinées longuement, courgettes et pâtes fraîches

豚ホホ肉の煮込み ズッキーニとフレッシュパスタ

※ランチのプリ・フィックスメニュー、主菜としてお選びいただけます。

 

 

鴨がネギをしょってくる?いやいやBenoitでは柑橘です。

 フランス料理で肉食材といえば、まっさきに思い浮かぶものは鴨ではないでしょうか。今回は、ヨーロッパから届く鴨胸肉の皮目に隠し包丁を入れ、余計な脂を落とすように焼き、その後は低温でじっくりと、表面がロゼ色になるようにこしらえます。「鴨がネギをしょってくる」とは言いますが、Benoitはフランス料理店なので、ここはオレンジをしょってきてほしいものです。しかし、ここで海外のオレンジを選ぶようでは、これほどまで食材にこだわるBenoitの名折れというもの。そこで、登場するのが、タコの料理でご紹介した神奈川県の江之浦果樹園maruesuさんの「バレンシアオレンジ」です。

 この時期に、これほどまでの品質のバレンシアオレンジに出会えるとは。それも露地栽培だからこその濃ゆく甘さに心地よい酸味に果皮の深みのある苦みがあり、ノーワックスとくる。Benoitにとって果肉はもちろん、果皮も重要な食材なのです。このバレンシアオレンジを惜しげもなくまるまると、軽くシロップで加熱したコンフィに、さらに細かくたたくように仕上げたコンディモンへと仕上げてゆきます。コンディモンとは、日本でいう薬味のようですが、味の重大要素を構成するためのアイテムです。

 江之浦の「バレンシアオレンジ」が、ほぼ無農薬にノーワックスだからこそ、果実はもちろん果皮をも使って表現することのできるBenoit鴨料理です。柑橘のもつ爽やかな香りに、ほど良い酸味と果皮の優しいほろ苦さが生かされたコンフィとコンディモン。このマリアージュを思う存分ご堪能下さい。

Canard à l’orange, fenouils cuits et crus

鴨胸肉のローストとウイキョウ オレンジ風味

※ランチのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

 

 

≪ボーノ(美味しい)という名を冠したボーノポーク?!

 「ボーノポーク」は、イタリア語で美味しいという意味の「ボーノ」という言葉を冠し、なんとも軽々しい印象を受けますが、その実は、岐阜県の中濃ミート事業協同組合の威信にかけて育て上げた銘柄豚です。飼育地は、県内の瑞浪(みずなみ)市、山県市、揖斐(いび)市の3地域。3つの種の掛け合わせで誕生した三元豚で、そのひとつが霜降り割合を増加させる能力を持つ、岐阜県が開発育種した「ボーノブラウン」という種豚です。

 抗酸化能とオレイン酸を多く含む植物性原料を含み、飼料中のアミノ酸バランスを調整した専用に開発された飼料を与えています。この飼料を含め、徹底した管理のもとで飼育されることで、霜降り割合が一般的な豚肉の二倍にものぼり、肉自体の旨味を十二分に堪能できる上に、脂の甘味か加味されるのです。さらに、一般に流通している豚肉よりもドリップロスが少なく、肉の旨味が逃げにくいのが特徴といいます。

 飼育した全てが「ボーノポーク」というブランドを冠することはありません。県下の和牛ブランド「飛騨牛」が、霜降り具合を目視によって5等級なのか4等級なのか、はたまた3等級なのかと振り分けるように、この豚もまたロース部位を目視によって判別してゆきます。違う点は、区分けが「ボーノポーク」か「一般的な豚」の2択であるということ。

 皆様が、「ボーノポーク」という豚の名前を耳にしたことがないのも当然、徹底した管理のために多くを飼育できない上に、厳しい選別ゆえに流通量が極端に少ないのです。その、貴重な豚肉がBenoitに届いています!どれほど美味しいのか?それは、Benoitが4年間にもわたり他の豚へ浮気しないことがなによりの証(あかし)です。

 どれほどのブランド肉でも、豚肉は生では食せず、良く焼くと硬くなります。そこで、ロースの部位を厚めにカットするのですが、休ませながら断面がうっすらとピンク色になるように丁寧に焼き上げることで、しっとりとした食感とボーノポークの旨味を十二分に堪能できるのです。さらに、ディジョンマスターにエシャロットの甘みを加えたものを下に、オリーブ2種とクルミを細かくカットしたものを上に。ボーノポークと会いまった時、その美味しさが際立つかのよう。この味わいのバランスこそが、この料理の神髄です。

 

Longe de cochon de Gifu en cocotte, pommes de terre farcies

岐阜県ボーノポークロース肉のココット焼き ジャガイモのファルシ

※ディナーのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

※料理画像は新ジャガイモですが、今はジャガイモをくり抜いて、白ワインで煮込んでほぐしたボーノポークを詰めたものに変更しています。

 

 

≪好評につき、仔羊を継続しました!≫

 フランス料理の肉料理のカテゴリーの中で、確固たる地位を得ているのが「仔羊」です。我々にとっては馴染みが少ない食材ですが、フランス料理界の中では、牛肉よりも仔羊肉を重要視するようです。高級レストランでの主菜に、仔羊が頻繁に姿を見せることが、何よりの証ではないでしょうか。

 Benoitはビストロということもあり、6月7月限定でメニューに載ることが常でした。実際に仔羊料理を皆様に提供しながら思うことは、Benoitのプリ・フィックスメニューの選択肢として、しばらく存在してもいいのではないかと。しかし、フランス産の仔羊では、入荷が不安定という問題もある…そこで、オーストラリア産仔羊の助けを借りて継続することにいたしました。

 仔羊は丁寧にトリミングを施し、背肉を表面に焼き色を付け、ふつふつとしたバターをふりかけながら、ゆっくりゆっくり熱を加えてゆく。この魅惑的な香りをどう表現したものか。表面には美味しそうな焼目がつくが、中はまだ生のままです。肉が内包している温まった肉汁を利用し、中からじっくり熱がゆきわたるように、温かい肉部屋で休ませロゼ色に焼きあげます。この美しい焼色なくして、仔羊の美味しさを味わえないでしょう。

 その時々の緑色の野菜、インゲン豆やスナップエンドウなどにハナニラ、さらにそこへ3種に調理したヒヨコ豆も加わったものを添えます。目の前に運ばれてきた時、仔羊の焼き色と夏野菜のグラチネの色のコントラストが目を引き、甘い野菜と焼いたパルメザンチーズの香りが漂います。そこへ、仔羊の旨味の凝縮したソースを、そっとお肉へかけてゆく。全てが一堂に会する時、なぜシェフが継続を決めたかが、お分かりいただけるはずです。

 

Côtes d’agneau au sautoir, légumes verts et pois chiches

仔羊背肉のソテー ひよこ豆と緑野菜

※ディナーのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

※料理画像はパプリカとズッキーニですが、今は緑野菜とヒヨコ豆に変更しています。

 

 

≪フランスの伝統デザート「クラフティ」と!?≫

 フランスの伝統的なお菓子に「クラフティ」というものがあります。タルト生地の上に、卵やミルクを使ったアパレイユをのせ、、サクランボなどを加えて焼き上げたもの。自分のような素人の見立てでは、サクサクのタルトを枠として、そこへなめらかなフルーツ入りの焼きプリンのようなものが、たっぷりとのっかっているようなお菓子です。

 しかし、Benoitがすんなりと伝統のクラフティをご用意するわけがありません。上の画像をご覧いただきたいです。タルトの生地は使わずに、Cookpotという(※Cookpadではないですよ!)、アラン・デュカスがデザインした耐熱の器に、クラスティのアパレイユを絞り込みます。そこへ、ブドウ「巨峰」と「シャインマスカット」を加えて15分ほどオーブンへ。粗熱をとったら、再度「巨峰」とシャインマスカット」をのせてゆきます。ここで、2種のブドウは、それぞれ熱の入ったものと生のものと、2パターンの食感と味わいとなるのです。

 と、ここまでであれば、タルト生地を使わない「ブドウのクラフティ」として、味わいも想像に難くないと思うのです。しかし、この段階では、まだまだ道半ば。上の画像をよくよく見ていただくと、なにやら緑色の金魚草のような細い葉が飾られています。これは「フェンネル(ういきょう)」の葉。

 さらに、ブドウの脇に緑色のぽてっとしたものが。これは、フェンネルの葉にアーモンドと栗の蜂蜜、さらにシードルヴィネガーを加えてこしらえたペースト状のもので、Benoitパティシエチームではピストゥと呼んでいた。Cookpotの器の脇に写っているものは、パスティスというアニス香る南仏のリキュールを煮詰め、レモンジュースを少しばかり加えたもの。これを皆様の目の前でそそぐようにして、このデザートが完成するのです。いや、ひとつ忘れていました。先の画像には足りないものがあります。仕上げに盛り付けるのが、ミルクアイスクリーム、それもオリーブオイルを加えてさっぱりと仕上げたものです。

 この新作デザートの解説の後半部分だけを聞くと、デザートではなく、前菜なのではないかと思えるものばかり。フェンネルが香り、さわやかな風味で、オリーブオイルがピリリとする。いったいブドウのクラフティと相まって、どのようなデザートになるのか?すでに、8月から始まっているデザートにもかかわらず、どのように皆様に説明したものか思いあぐねている自分がいます。美味しいのだけれども…あるお客様がこのデザートをこう評しています。

 「このデザートはエロいな…」と。そして、すでに2回も楽しまれている。

Clafoutis aux kyohos, glace huile d’olive

巨峰のクラフティー オリーブオイルのソルベ

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートとして+800円でお選びいただけます。

 

 

≪初秋の果実、リンゴ「紅玉」が新たなフルーツとペアを組む?!

 Benoitの初秋のデザートの先陣を切る食材は、リンゴ「紅玉」です。山形県朝日町の遠藤さんの「紅玉」を待つように、10月からデザートの選択肢に名を連ねます。昨年までは、一人2玉分のリンゴを、オーブンでじっくりと焼いたものでしたが、今季は全く別の姿となるようです。前述した「ブドウのクラフティ」のように、デザート名からは想像もできないような美味しさを我々に教えてくれるのでしょう。

 まったく予想ができないリンゴのデザートななおですが、「Benoitのフルーツおじさん」という異名を持つ自分に、探してほしい食材の打診がきたのです。自分は聞いたことも見たこともない、そのフルーツを日本で栽培している人がいるのかどうかすらわからない。しかし、出会うべくして出会うものなのです。

フィンガーライム

 オーストラリアが原産で、先住民の人々はすでに食していたという果実です。偶然の偶然が重なり、なんの支障もなく、このフィンガーライムを専門に栽培している、高知県宿毛のAKALA FRUITSの町田さんと出会うことができたのです。このいきさつは、折をみて綴ってみようと思います。

 このフィンガーライムという柑橘は、人差し指ほどの大きさの円筒形をしています。これを、半分にパキッと割ると…粒粒の果肉がきっしりと詰まっているのです。指で果皮を押してみると、出るわ出るわ、キレイな小粒の果肉がポロポロと。この見た目から「キャビアライム」と呼ばれているようですが、大いに納得です。果実・果肉ともに色味が複数あり、品種ごとに独特なフレーバーが加味されているかのよう。プチプチとした見た目通りの食感が心地よく、ライムと名が付くだけにキレイな酸味が後を引きます。

 山形県遠藤さんのリンゴ「紅玉」と、高知県町田さんの「フィンガーライム」が、Benoitで出会います。今年アジア圏のエグゼクティブ・シェフパティシエに就任したアリテア・ロシニョールによって、いったいどのようなデザートに姿を変えるのでしょうか。こうご期待ください!

 

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もしますが、これでは不十分であることを、すでに皆様はご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 その旬の食材を美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。さあ、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

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 猛暑な日々も影を潜めてきたようです。これと入れ替わるかのように季節性インフルエンザやコロナウイルスが猛威を振るっているようです。過ごしやすい日々が訪れますが、ここで気を緩めると猛暑疲れがドッと押し寄せてくるでしょう。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、無理は禁物、十分な休息と休養をお心がけください。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com