kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年4月Benoit 春を代表する野菜は、アスパラガスなり!

 桜前線に一喜一憂する時期も終わり、心穏やかな日々を過ごされている方も多いのではないでしょうか。しかし、アスパラガス前線は、今まさに活況を帯びています!ん?アスパラガス前線…春の陽射しに誘われるかのように芽吹くグリーンアスパラガスの「春芽」は、西日本の早い地では2月から始まり、北海道の6月まで続きます。この動向を「アスパラガス前線」と勝手に自分が命名したもので、どこをどう検索してもどこにもでてきません。

 日本全国で栽培され、春を代表する野菜として確固たる地位を築いているのが「グリーンアスパラガス」。この野菜は、植栽してから地下に根を張り巡らせるように育てあげ、その根に栄養を蓄えたものが春の陽射しに誘われるかのように地面からにょきにょき伸びてくる新芽をいただきます。十分な美味しさと大きさに至るまで、ゆうに3年はかかるというのです。日々の土壌管理を怠ると努力が水泡と帰するため、栽培するには相応の心構えが必須です。露地栽培が少なく、ハウス栽培が主流な理由は、この徹底した土壌管理をしなければいけないためです。

 グリーンアスパラガスは、平均気温が15℃を超えないと姿を見せません。そこで、ハウス栽培では、どのタイミングで加温するのかで収穫時期が変わります。ヒーターで加温することで、北の地方でも早い時期に収穫は可能です。しかし、コストのことを考えると、太陽の陽射しを利用し効率よくハウス内を温めた方が、無理な販売価格にする必要もなくなります。そうなると、北海道が栽培地として有名ですが、初春はやはり西日本からということになるのです。

 鮮度が命とは、どの食材でもいえることかとなのですが、特にアスパラガスは美味しさを左右する一大要素です。そこで、佐賀県有明海に面した杵島(きしま)郡白石町に畑を有する橋本農園さん、瀬戸内海に面した香川県丸亀市の眞鍋さんから、グリーンアスパラをBenoitに直送していただいております。橋本さん、眞鍋さんが丹精込めて育て、そして摘みたてだからこその美味しさは格別です。

※春が去ってゆくように、アスパラガスも「待つ」という優しさをもっていません。ご紹介したお二人の農園も、いずれは夏芽に切り替えるための「立茎」へと移るために、終わりを迎えます。その後、産地は北上し、東北のほうへと向かいます。

 

 旬の味覚であるグリーンアスパラガスは、美味しさばかりではなく、栄養面でも優れものです。抗酸化作用が高く、老化防止、ガン抑制、美容に効果を発揮します。特筆すべきは、野菜の名を冠するアスパラギン酸が豊富に含まれることでしょう。この成分は、体内でのエネルギー生成を促進し、疲労を回復させ、毒性を持つアンモニアを体外へ排出する働きがあります。また、カリウムマグネシウムなどのミネラルを細胞に運び込むというのです。スタミナドリンクの成分に名が挙がることも、このような理由から。確かに、日に5cmほどもぐんぐんと伸ばす新芽の成長を思うと、アスパラギン酸がただものではないことをわかっていただけるのではないでしょうか。

 

 春を迎えると、なんとなく山菜を口にしたくなるのが日本であるならば、ヨーロッパの人々にとって、ホワイトアスパラガスを食せずして春尽きることはないのでしょう。マルシェ(朝市)に山積みにされるこの食材が、人々がいかに待ち望んでいた食材であるかを物語っています。

 アスパラガスをこよなく愛した一人に、フランス国王として全盛を極めた太陽王ルイ14世がいます。彼は、ヴェルサイユ宮殿の庭師に、「一年中収穫できる栽培方法を模索するように」と命じたといわれるほどに。いつの時代もどの国も、権力者はいいたい放題のようです。

 さて、アスパラガスの原産は地中海東部。3000年前のエジプト文明の頃、すでに野生のアスパラガスが食されていたといいます。古代ギリシャ古代ローマ時代にはすでに栽培されていたという。どれほど人々に愛されていた食材だったのか、想像に難くはありません。ヨーロッパがルネッサンスの機運に興隆はなはだしい頃、イタリアからフランスに持ち込まれ、丘陵地での栽培方法が確立したことで、ホワイトアスパラガスが世に姿を見せたのだというのです。

 アスパラガスの栽培には軽い砂地が適しており、フランスではパリ北西に位置しているArgenteuil(アルジャントゥイユ)町から始まりました。今でも栽培されている最古参の品種にその名を遺しています。そして、Val de Loire(ロワール地方)、Aquitaine(アキテーヌ地方)、そしてBassin Méditeranéen(南フランス)へと栽培ノウハウが伝播してゆきます。今回、Benoitに届いているホワイトアスパラガスは、Aquitaine(アキテーヌ)地方のBordeaux(ボルドー)の南に位置しているLandes(ランド)県産です(※輸入状況により産地は変動します)。

 彼の地は、大西洋海流がもたらす温暖な気候…というのは昼間の表情であり、この時期ならではの寒暖の差が大きいことが特徴です。ホワイトアスパラガスは、水はけのよい砂地に植栽されています。作物にとって過酷な気候風土にもかかわらず、古より育種されてきたアスパラガスのたくましさは、これらを甘受したようなのです。彼の地で育まれたホワイトアスパラガスは太く、そして独特のほろ苦さと魅惑的な甘さを内包することになるのです。

 そもそも、なぜホワイトアスパラガスは白いのか?これは、アスパラガスを軟白栽培したものです。この栽培方法は、陽の光に当てないで育てる方法で、柔らかく独特な風味となります。

 東京の特産である「ウド」は、真っ暗な地下室のような場所で栽培されます。ホワイトアスパラガスも暗闇で?ということで、国内の一部の地域では廃坑となった横穴やトンネルに、アスパラガスの根を持って行き発芽を促すところもあります。他にも、遮光フィルムで覆ったりする栽培方法も。しかし、往古より連綿と続いてきた栽培方法は、今も昔も変わらない。このこだわりこそが、彼の地を名産地としているのかもしれません。伝統的な栽培方法とは?日本でお馴染みも長ネギの栽培と、着眼点は同じです。

 長ネギは、成長に合わせて盛り土を施します。上部の土から顔を出した部分は、陽があたることで緑色に変わり、土を盛られた部分は白いまま。盛り土をしなければ、九条ネギや万能ネギなどのように緑の箇所を美味しくいただく野菜であり、馴染みの長ネギは軟白ネギと呼ばれ、白い箇所を美味しくいただきます。

 アスパラガスも、同じように盛り土を施します。いや、Landesが砂地であれば、「盛り砂」というのでしょう。陽に当たったグリーンアスパラに対して、陽に当てないホワイトアスパラガス。新芽を陽射しに当ててしまうと、緑がかってしまうため、まだ暗い夜明け前から、新芽に砂をかぶせるという工程が必須なのです。ご想像通り、これがなかなかに重労働であり、栽培者の弛まぬこの努力こそが、ホワイトアスパラガスを貴重で高級な旬の味覚にしているのでしょう。

 

 我々を急(せ)かすかのように、都内ではサクラ「ソメイヨシノ」の満開を迎え、散ってゆきました。もう少しゆとりをもってくれぬものかと思いあぐねるも、もちろんのように待ってはくれないものであり、時を戻すこともできません。そして、春が我々をそ知らぬ顔で過ぎ去ってゆくのと同じように、春の食材も我々が楽しむまで待ってくれるという「情け」は持ち合わせていないようです。

旬はとまらぬものにぞありける

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

http://www.benoit-tokyo.com