余寒お見舞い申し上げます。
「立春」過ぎたのもつかの間、2月4日に関東では「春一番」が吹き込みました。暦通りの温かい春の到来かと思うのですが、古人はこの時期を「三寒四温」であると、我々に注意を促しています。その漢字の如く、3日寒い日の後に、4日暖かい日が続く。春の兆しは感じ取れるも、まだまだ暖かさはゆっくりと訪れるのだという。
中国の北宋山水画家である郭煕(かくき)は、自信が書き記した「臥遊録(がゆうろく)」の中で、「春山淡冶にして笑うが如く」と書き遺しました。これが日本に伝わり、「山笑う」という春の季語が誕生したのです。異国の地である、郭煕の見た景色と、今我々の眼に映るものとでは別のもののはずです。しかし、不思議なことに共感を覚えるものです。そして、日本の先人たちは、花が咲くことを、「笑う」「笑(え)む」と美しい表現を生み出しました。
この陽気に誘われるかのように、「マンサク」が微笑(ほほえ)み始めています。例年よりも早いような気もすると思うことは、勝手気ままに自分が暦に合わせるという自分の浅慮(せんりょ)を省みる機会を与えてくれているようです。自然の機微を捉える能力は、自生する草木には到底及びもしません。早春を彩る美しい花々の中にあり、他に先駆けて笑うことから「まず咲く」に名は由来するともいいます。
花?よく見ると小さな蕾(つぼみ)から、4本の黄色いひょろひょろしたものが。これが、マンサクの花です。まだまだ花は微笑み程ですが、小枝にたわわに花笑う頃は、遠めからでも目を引く美しさを誇ります。
鮮やかな黄色といい、花付きといい、何か縁起が良さそうな気もするということで、「万年豊作」の願いも込めて「万作(まんさく)」なのだともいいます。暦の春ではなく、季節の春の到来を、この花は教えてくれています。
先日、Benoitに紅白に花笑う可愛らしい花が届きました。送り主は、岐阜県高山市の若林農園さんから。若林さんは、2年続けてBenoitが購入させていただいている「宿儺(すくな)かぼちゃ」の栽培者です。しかも、彼の地では「かぼちゃ名人」と称されている人物です。宅急便の宛名シールには、「花もち」と書いてありました。
昔から歳暮(としのくれ)が近づくと、岐阜県飛騨地方の農家では、枝ぶりの良い切り株を探すために、雪深い山に入ります。見つけた木株は、自宅へと持ち帰り、丁寧に整形された後に、この木株の小枝に搗(つ)きたての餅を花のように飾り付けるのです。さらに、紙で作った小判、ガラスで作った金の玉などを枝に吊り下げたりもします。これを座敷天井下の横柱に飾りつけ、鏡餅をお供えし、五穀豊穣を願いながら新年を迎えます。かつては幕府の献上品としても喜ばれ、今は皇室の飾りとしても親しまれています。
自分が新潟出身であることから、雪深い冬の気色や嫌というほどに理解できます。雪で覆われる冬は、身動きがとれない上に、雪かきに終われる日々。さらに雪をうっちゃる場所もないほど、其処彼処が雪の山。空は曇天で、日中でも陽が射すことが少ないので薄暗さがあります。飛騨高山地方は、さらに厳しい寒さが、ここに加わるのです。
春の雪解け待ちわびる中で、先人が考えたのが「飛騨の花もち」でした。新年を迎えるにあたり、雪深いからこそ、まだまだ笑う花などあろうはずもなく、それでも皆が笑顔になれるように明るく飾りつけたいと願う。紅白に笑う花もちが、どれほど勇気と希望をもたらしたことでしょうか。この伝統が、飛騨人の心に生き続けているからこそ、800年もの長きにわたり連綿と受け継がれてきたのでしょう。
若林さんからの直筆の手紙が添えてありました。飛騨の冬に鍛え抜かれた屈強な心の持ち主なのでしょう。言葉の端端に力強さがあるも、行間には優しさが溢れています。新型コロナウイルス災禍が、若林さんにも重くのしかかっているにもかかわらず、感謝の言葉が綴られていました。そして文末に、「今年もおいしいカボチャをお届けできるようにします。」と。
この厳しい冬を乗り越えると、豊富な水資源を育んだ、類稀(たぐいまれ)なる自然環境が住む人々を癒してくれる。風光明媚な景色ばかりではなく、美しい空気に、清らかな水の恩恵は計り知れません。さらに、その風土が育んだ特産物が美味しくないわけがありません。まして、若林さんの手掛けた野菜が美味しくないわけがありません。
まるで白梅・紅梅のように、Benoitで笑っている「飛騨の花もち」に、大いなる希望と勇気をいただきました。若林さんの、そして皆様の、ご期待にお応えできるよう、コロナに屈することなく、日々最善を尽くさせていただくことを、ここにお約束いたします。
≪営業時間変更のお願いです。≫
昨今の日本の状況を鑑み、Benoitでは、考えうるウイルス対策を徹底し、ランチは時間を延長し毎日、ディナーは土日祝日の限定で、時間を短縮して営業させていただきます。誠に勝手ながら「平日ディナー営業自粛」は継続させていただきます。皆様には、多大なご迷惑をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
ランチ: 11時30分から16時00分 (14時30分 ラストオーダー)
平日ディナー: 営業を自粛させていただきます。
週末・祝日ディナー: 17時00分から20時00分 (19時00分 ラストオーダー)
≪余寒特別プランのご案内です。≫
万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出します。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。
そこで、日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、自分よりご案内している長文レポートに目を通していただけている皆様の労に報いるため、「美しい(令)」季節に春食材が「和」する料理をお楽しみいただくことで、無事息災に日々を過ごしていただきたく、「余寒特別プラン」をご案内させていただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、2021年3月7日(日)まで。ご予約は、(kitahira@benoit.co.jp)への返信をご利用ください。お急ぎの場合には、Benoitメール(benoit-tokyo@benoit.co.jp)より、もちろん電話でもご予約は快く承ります。
余寒特別プラン
ランチ (週末・祝日含みます) |
前菜x2+メインディッシュ+デザート |
5,500円→4,200円(税サ別) |
週末・祝日ディナー |
前菜x2+メインディッシュ+デザート |
7,800円→6,200円(税サ別) |
※プリ・フィックスメニューの料理内容は、当日にメニューをご覧いただきながらお選びいただきます。ご希望人数が8名様以上の場合は、ご相談させてください。
≪香川県の薫る農園さんのご紹介です。≫
今回は自然の機微に依り従いながら、丹精込めて野菜を育て上げている一人の女性、香川県香南(こうなん)町「薫る農園」の園主、河田薫さんのご紹介です。今はブロッコリーを直送しており、上記のテイクアウトボックスだけでなく、ランチメニューの中でも2月14日(日)までですが、組み込まれています。いまさら?との声が聞こえてきますが、彼女の力量が大いに発揮されているのは、グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」です。しかし、彼女が丹精込めて育て上げたグリーンアスパラガスは、まだ芽吹きません。
そこで、グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」が芽吹く前に、なぜ彼女の栽培する野菜が美味しいのかを、紹介させていただきます。Benoitの春の「めざめ」は、グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」から!
≪北平のBenoit不在の日≫
私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない2月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
15日(月)
19日(金)
22日(月)
26日(金)
上記日程以外は、Benoitを優雅に駆け回る所存です。自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。
「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。
ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬