kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

「稽古」と「ワイン造り」?

「稽古(けいこ)」

 お客様のご厚意により、茶の湯表千家」のニュースレターを拝読しております。もちろん「茶の湯」を志しているのではないのですが、日本を知る上でも必要不可欠なものだと考えてのことです。難しいことも多い中で、ハッと気づかされることも。冒頭の「稽古」は、千利休によって大成され、約400年もの長きにわたり、表千家不審庵に受け継がれているといいます。「心身の鍛錬こそ稽古だ」といえばそうなのでしょうが、何気兼ねなく使ってしまう「稽古」という言葉の意味を考える機会をいただきました。

  稽古は、「古(いにしえ)を稽(かんが)う」という字のとおり、古人を思いおこし、その経験に習うことといえます。茶道の教授が、学校の授業のような講義形式をとらず、稽古のかたちでなされることには、深い意味があります。≪茶道には茶を点(た)てる点前やその茶をいただくうえでの約束事が伝えられています。これを「型」といいます。この型を理屈として頭で知るだけではなく、からだで覚える。からだで古来のふるまい方を身につけ、主と客が型を交わしあう。その型にこめられた心を通わせあい、人に礼をつくし、大切なものをあつかう心身を養う。それが茶の稽古といえるのでしょう。型というふるまい方をかけ橋として、心のはたらきを呼びさまし、人と人の心を結ぶのです。(表千家ニュースレターより抜粋)≫

 

 「稽」の漢字を調べてみました。「稽(かんが)える」、考証する、比較して調べる。「稽(と)う」、問い尋ねる。「稽(くら)べる」、比べて論争する。「稽(あ)う」、合致する。「稽(とど)まる」、遅延する。稽古とは、古人の英知の結晶でもある「型」を、体験することで今の自分との違いを稽(かんが)え、型に込められた古人の想いを稽(と)い、同志とともに現世との違いを稽(と)う。納得のゆく答えを見出すことは、型と稽(あ)うこととなり、これを会得するために稽(とど)まる。この無駄とも思える稽(とど)まる期間こそ、己をよくよく考察するに大切なこと。そして、この稽古の繰り返しが、時間はかかるものの、着実に自らをさらなる高みへと導くことになるのでしょう。

 

 文化として大成している「茶の湯」の稽古と他を、同じように論じてはいけないことは十分に理解しています。その上で、あえて書かせていただければ、大小の差こそあれ、人として生きていくためには全て「稽古」によって学んでゆくはずです。人が人と接し、社会生活を滞りなく過ごすために、古人は「礼節」のノウハウを遺し、マナーとして躾(しつけ)として伝承していきます。しかし、先人の英知の結晶を賢人が稽(かんが)え、時代時代に稽(あ)うものへ昇華させていく。スポーツの世界では、基本と呼ばれるものを繰り返し、会得していく。その中で稽(とど)まる時に、茶の湯でいうところの「人に礼をつくし、大切なものをあつかう心身を養う」と稽(あ)わなかった結果が、今のスポーツ界の不祥事を生み出しているのではないでしょうか。

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 農業の世界においても、同じことが言えるのではないでしょうか。土地土地にあった作物や栽培方法を踏襲しつつも、時代に適応するように変化していきます。かつて、稽(とど)まる時期に稽(あ)わなかった結果、大量生産の潮流に呑まれ、化学肥料や農薬を大量にしようことになりました。しかし、賢人は稽(かんが)え、品質を重視する方向へと導きます。有機栽培や無農薬栽培などは、昔への回帰に他なりません。そして農産物でもあるワインも同じです。品質を追求する手を弛めず、栽培技術や醸造後術が飛躍的に発展する中で、しっかりと稽(かんが)え稽(と)うた結果、日本も含めた世界各国で、美味しいワインが醸されていることが如実に物語っています。

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 古の賢人たちの並々ならぬ努力と苦労、自然と共生するための知恵が、実を結んだものが原料のブドウあり、このブドウの良し悪しが醸されたワインの味わいを決定づけます。日進月歩の醸造技術を過信せず、ブドウの持っているポテンシャルを最大限に生かすことを追求する。先人たちの生み出した、ブドウ栽培、ワイン醸造の型を踏襲しつつも、多くは淘汰され、秀逸なものが後世に残される。しかし、全てが同じ型かというと、大きな流れは同じでも、道のりは千差万別です。人々を魅了するワインを醸すという同じ目的をもちながら、それぞれの土地に適したものが、天候のいたずらに翻弄されたときのものが、と多様に存在しています。親から子へ、師匠から弟子へ、自然の機微を捉え、最善の道のりを模索するノウハウは、紙面では伝えることはできないでしょう。年に一度しかないチャンスを無駄にしないよう、稽古のごとく会得するしかありません。その年その年の成果と違いを、時というエッセンスが加味された美味なるものとして今も感じることができることは、ワインを楽しむ上での大切な一要素なのではないでしょうか。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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