kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2020年Benoit12月≪特選食材≫のご案内です。

 風が季節を導き、彩りばかりではなく、喜怒哀楽をも表願しているかのような美しい「風景」を我々に見せてくれます。そして、四季折々の風は国内各地方にその地ならではの「風土」を作り出すことになる。その多様な「風土」で育まれた食材は、同じ野菜であっても味わいに些細な違いがあり、それが「風味」となる。太陽の恩恵を十二分に受け、風味豊かに育ったものこそ、旬の食材であり、美味しいばかりではなく、いま我が欲している栄養をも持ち合わせています。

 2020年冬の特選食材をご紹介させていただきます。

 

≪牡蠣(かき)のグラタン!メニューに再登場です

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 この時を、どれほど待ち焦がれたことか。昨年に好評を博した牡蠣料理が、満を持してメニューに再登場しました。Benoitでは使用できない食材だと認識していた15年間、この勝手な思い込みから解き放たれたのが昨年のことでした。長きにわたり不遇の地位にあった牡蠣の思いに応えるかのようにして誕生したのが、「牡蠣のグラタン」という料理です。

 牡蠣は豊洲市場に届いた鮮度抜群のものを剥きます。そのため、産地は大きく分けて2か所から。牡蠣養殖激戦区である瀬戸内海の沿岸地域と、東北のリアス式海岸が特徴の岩手県です。甲乙つけがたい美味しさを共に誇りますが、比較的多くBenoitに届くのは、岩手県です。

 山が海沿いにまでそそり立つリアス式海岸は、山のミネラル豊富な清らかな水が、海へ流れ込み、豊富な植物性プランクトンを育みます。そのプランクトンを食(は)む食(は)むしている牡蠣が、美味しくないわけがありません。瀬戸内海の穏やかな海流が、牡蠣筏による養殖に適しているように、規模こそ小さいですがリアス式海岸の湾もまた好適地なおです。

 牡蠣は殻から剥き、その殻の中に、しんなりと甘さを引き立てるように熱を加えた下仁田葱を盛ります。生のカキ身をポロ葱の上にのせ、シャンパーニュを降り注ぎ、サバイヨンという卵黄を使ったクリームのソースをかぶせるようにし、オーブンへ。焼き色がつくことで蓋ようになったサバイヨンの下では、シャンパーニュによってふつふつとカキが蒸しあげられてゆくのです。さらに、このサバイヨンの蓋が牡蠣の旨味のスープを逃がしません。

 テーブルに供された時、芳しい香に魅せられ、口にした時には言葉を失うでしょう。生ガキも良いですが、フランスの伝統が生み出した「カキのグラタン」こそ、カキの美味しさを最大限に引き出す逸品かもしれません。あ~シャンパーニュや白ワインがよんでいる…

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HUÎTRES gratinées au sabayon de Champagne

殻付き牡蠣のグラタン シャンパーニュ

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+1,000円、ディナーでは+800円にてお選びいただけます。しかし、入荷に限りがあるため、ご予約の際にご希望の数量をお伝えいただけると幸いです。

 

香川県から、鮮度抜群のブロッコリーが直送されています!≫

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 香川県の県庁所在地・高松市の南部に位置し、「高松空港」がある町として有名な香南町(こうなんちょう)。空港滑走路の南には「さぬきこどもの国」という大型児童館があります。公園や自転車コースを始め、プラネタリウムや大型遊具設備も備えた複合施設で、休日はもちろん平日も子どもの親子連れで賑わっているといいます。

 香川の空の玄関口ともいうべき香南町は、農地面積が町全体の5割近くを占めているのです。讃岐平野の一端を担うだけに稲作はもちろんですが、果樹を多種多様の作物が栽培されています。彼の地に居を構え、広大な農地を有しているのが、「薫る農園」さんです。

 園主である河田薫さんは、現地では農業女子として有名なようで、いかに美味しい農産物に育てたあげるかの研究に暇(いとま)はありません。そのため、彼女が丹精込めて育て上げた農産物には一目を置かれているのです。Benoitは昨年に「彼女の手掛けたアスパラガスに出会いました。あまりの美味しさにシェフ納得の品質であり、今年の春も購入させていただきました。

 残念ながら、新型コロナウイルス災禍に見舞われたために、空白の春を迎えたことは周知の事実です。皆様に薫る農園さんのアスパラガスの美味しさを語ることのできなかった無念さを引きずっている折に、彼女がブロッコリーを栽培していると小耳に挟み、今回白羽の矢が立ったのです。

 Benoitに届いた見事なまでのブロッコリーは、緑美しく、ずっしりと重い。素晴らしい品質だとシェフは言う。ちょっとばかり調べてみると、良いブロッコリーの見分け方には、「花蕾(からい/頭のこんもりしている花のつぼみ)が密で濃い緑色である」「外葉(茎から伸びている小さな若葉)がしおれていない」「茎が変色しておらず、≪す≫が入っていない」ものが良いといいます。段ボールに入っていた多くのブロッコリー、どれ一つとして当てはまらないものはありませんでした。

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 ブロッコリーの実力といえば、毎日でも食卓に並べたいほど。カロテンとビタミンCが豊富であるばかりか、体内の解毒酵素や抗酸化酵素の生成を促進し、体の抗酸化力や解毒力を高める「スルフォラファン」を含んでいます。

 だからでしょうか、収穫したてのブロッコリーはあまりにも勢いが強いため、扱いが難しいといいます。確か、香川県の農協から出荷する際には、クラッシュアイスをたっぷりと詰め込んで出荷している。この出荷方法を考案したのは香川県で、他県が模倣するようになるのです。

 そこで、河田さんは一考してくれました。Benoitへ送り出すブロッコリーは、収穫後すぐに冷蔵庫で休ませ、翌日に発送してくれています。この心遣いが宿るブロッコリーが、美味しくないわけがありません。

 

≪栗のスープを延長いたしました!≫

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 皆様の熱いご要望のお応えし、栗のスープを延長させていただきます。予定では2021年1月末までですが、フランス栗の入荷状況如何で終わりを迎えることも考えられます。

 フランスの栗を、これでもかとたっぷり使い、ビロードのようなという意味の「ヴルーテ」という名を冠したスープに仕上げます。濃く甘くなるからといって、薄くする発想はフランスには無いようです。味わいを足し算するかのように、赤ワインのタンニンと同じ「渋味」の成分を含む栗の渋皮を加えることで、味わい深いスープへ。ディナーのプリ・フィックスメニューに名を連ねております。

 今宵は、栗で始まり栗で終わる。フランス栗で始まり和栗で終わる。デザートにモンブランを組み合わせることで可能となる、今の時期ならではのコース料理をお楽しみいただけます。※ランチでご希望の際には、+800円にてご用意させていただきます。要予約です!

 

≪カリフラワーもまた旬を迎えております。≫

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 ブロッコリーと同じ仲間であるがゆえに、時期がかぶってしまうカリフラワー。同じ時期でなけえば…と思うも、同じ仲間であるからこそ、一番美味しい旬の時期が同じであるともいう。Benoitでは、ブロッコリーに隠れてしまいますが、カリフラワーには、軽やかなコリコリ感のある食感と、優しい甘さに惹かれるものです。もちろん栄養価もブロッコリーに遜色なく素晴らしいものです。今は香川県から届きましたが、地方を巡りながら、その美味しさをお伝えしてゆこうと思います。

 ランチ、ディナーともに、メインディッシュでホタテのお供をいたします。

 

≪知っているようで知らない菊芋がディナーに姿を見せます!≫

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 名前は聞いたことがあっても、食したことのない方が多いのではないでしょうか。この野菜は「菊芋(きくいも)」です。名前から想像するに、昔から日本にあったかのような気になるのですが、原産地は北アメリカで、日本には江戸時代末期に渡来してきたのだといいます。ご覧のように、美味しくいただく部分はジャガイモと同じように塊茎(かいけい)とよばれる箇所です。姿はまるでショウガのようです。参考までに、ショウガは根茎部をいただきます。

 岐阜県中津川市。この地名を聞いてピンとくるかたは、特産の「栗きんとん」が好きな方ではないでしょうか。栗の銘産地であるだけではなく、やはり多くの特産物が眠っていました。そのひとつが、この菊芋です。そういえば、岐阜県には「菊芋のお漬物」が特産としてある…。そこで、中津川から直送していただきました。

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 ダンボール箱いっぱいの菊芋の光景は圧巻なり。里芋のようであり、ゴボウのような独特な食感も持ちあわせている。シェフのイメージする姿に調理された菊芋を食した時、美味しさのあまり感動すら覚え、シェフに聞いてしまった。シェフ曰く「中津川の菊芋は美味しい上に、他産地とは一線を画すほどに甘い」と。余韻に残る大地の味わいは、菊芋だからこそのもので、これまた美味なり。さて、どう調理されているのでしょうか?

 

≪「ヒラスズキ」というスズキの仲間がディナーに登場。どんな魚?≫

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 スズキ目に分類される魚群は多種多様に及び、スズキはもちろん、サバの仲間であるカツオやマグロ、タイの仲間も忘れてはいけません。さらに、イサキやハゼにまで。馴染みの魚名ばかりではないでしょうか。餌が多く、産卵と子育ての場所として便利な沿岸部をほぼ独占しているようなもの。さらに回遊魚として他の環境下にも進出しているのです。

 今回の特選食材は、スズキ目スズキ科のスズキ。ではなく、同目同科に身を置く「ヒラスズキ」です。見た目には、そっくりなスズキとヒラスズキですが、その生態に大いに違いがありました。スズキは、日本沿岸の其処彼処で出会える魚で、餌となるエビや小魚を追い求めるように、春ほどに内湾に移動し、夏には河口や汽水域に入ります。ヒラスズキは、千葉県沿岸から南にかけての海域にしか生息せず、河口や汽水域には入り込みません。

 この生態の違いこそ、スズキとヒラスズキの美味しさの違いを生み出しているのです。行動範囲が広く、イワシの群れを追うかのように内湾へと入り込むスズキは、夏を代表する食材であり、味わいが濃く旨味に満ちています。汽水に入スズキは、淡水魚のような臭みを感じるため、我々日本人はあまり良いイメージを持っていないのではないでしょうか。しかし、濃厚な味わいは、洋食ではソースとの相性が抜群であり、欠かせない食材です。

 ヒラスズキは、いまだ生態が解明されていない謎多き魚。外洋に面した沿岸部の岩礁海域、いうなれば凪(なぎ)とは無念な海域で耐え忍ぶように生きている。そして、海水が冷たくなることで回遊してくるサバやサンマ、さらに岩礁に棲むエビ・カニ類を餌にしているのでしょう。冬にその美味しさの本領を発揮します。

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 この切り身は、マダイのようですが、ヒラスズキです。捌く手にまとう美しい脂の輝き、うっすらピンクがかる透き通るような身色、そして弾力のある身質。荒波にもまれにもまれているからこその美味しさが、ここに内包されているのです。そこまで美味しいにもかかわらず、なぜ我々に馴染みがないのか。それは生息域が限られていることもあり、漁獲量があまりにも少ないからです。

 

岐阜県の地鶏「奥美濃古地鶏」がディナーに姿を見せました!

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 昔も昔の物語。天照大神を岩戸の中に身を隠し、世は闇の中へ。これは一大事と多くの神々が天照大神を岩戸から引き出すために、試行錯誤した様子が古事記に書き記されています。その時に、肌もあらわに踊った天宇受賣命(あまのうずめりみこと)は、芸能の神様として飛騨市河合町の鈿女(うずめ)神社に祀られています。その鳥居の下には「金の鶏」が埋められた。この鶏は天照大神を自ら「天の岩戸」を開けさせるため、気を引くために鳴かせたという「常世の長鳴鳥」だと。そして、この鶏こそ「岐阜地鶏(天然記念物)」の祖先であるという。岐阜県養鶏試験場が、この「岐阜地鶏」をもとに、「神代の味」の再現しようと研究を重ね、並々ならぬ努力の末に生み出したのが、「奥美濃古地鶏(おくみのこじどり)」です。

 雄大大自然のなかで、のびのびと育てあげられる奥美濃古地鶏。すべての生産者の鶏が、この名を名乗れるわけではありません。岐阜県では奥美濃古地鶏普及推進協議会を発足し、厳しい基準を順守する生産者のみに与えられるもので、定期的に調査を行うことで品質の維持に努めています。この徹底した管理のもとで育てられた鶏肉は、ほんのり赤みを帯びた歯ごたえのある肉質を生み出し、深みのある旨味に満ち満ちています。

 

≪知る人ぞ知る「ボーノポークぎふ」という豚肉の美味しさ…≫

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 イタリア語の「ボーノ」という言葉から、なんとも軽々しい印象を受けますが、その実は、岐阜県の中濃ミート事業去同組合の威信にかけて育て上げた銘柄豚です。耳にしたことがないのも当然のこと、飼育数が少ない上に、徹底した管理選別ゆえに流通量が極端に少ないのです。

 「ボーノポークぎふ」は、県内の瑞浪(みずなみ)市、山県市、揖斐(いび)市の3地域で、飼料を含めた徹底した管理のもとで飼育されています。岐阜県独立行政法人農業生物資源研究所と農林水産先端技術産業振興センターと共同開発した、豚肉の霜降り割合を増加させる能力を持つデュロック種豚「ボーノブラウン」と、ランドレース種と大ヨークシャー種から生まれた母豚による、三元豚です。飼料には、県内の日本農産工業株式会社が共同開発した、抗酸化能とオレイン酸を多く含む植物性原料を含み、飼料中のアミノ酸バランスを調整した専用飼料を与えるという徹底ぶり。そのため、霜降り割合が一般的な豚肉の二倍にものぼり、肉自体の旨味を十二分に堪能できる上に、脂の甘味か加味されるのです。さらに、一般に流通している豚肉よりもドリップロスが少なく、肉の旨味が逃げにくいのが特徴といいます。

 飼育した全てが「ボーノポークぎふ」というブランドを冠することはありません。県下の和牛ブランド「飛騨牛」が、霜降り具合を目視によって5等級なのか4等級なのか、はたまた3等級なのかと振り分けるように、この豚もまたロース部位を目視によって判別してゆきます。違う点は、区分けが「ボーノポークぎふ」か「一般的な豚」の2択であるということ。

 丹精込めて育て上げ、徹底した審査の末に名乗ることのできる「ボーノポークぎふ」が、美味しくないわけがありません。しかし、豚肉は生では食すことができません。自分のような素人では、焼き過ぎてしまうために、せっかくの霜降りを焼き落とすことになり、がちがちに焼き上がってしまいます。では、職人が焼くとどうなるのか?

 どれほど美味しいのか、「焼き」の職人技とはいかなるものか、気になりませんか?ディナーのプリ・フィックスに名を連ねております。

 

≪馴染みの「みかん」だからこそ、Benoitはだわりたい!≫

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 広島県、瀬戸内海に浮かぶ離島「大崎上島(おおさきかみじま)」。サンサンと降り注ぐ陽光に温暖な気候という恵まれた環境の中、飽くなき探求心と努力を積み重ね、類まれなる品質の柑橘を育て上げているのが、岩﨑さんご一家です。陽射しばかりでなく、愛情もたっぷり受けて育ったミカンが美味しくないわけがありません。

 Benoitのシェフパティシエールである田中は、静岡県掛川の出身です。彼の地は、美味しいと全国に名を馳せる「三ケ日みかん」の産地。毎年のように比較され、地元で流通している一級品の三ケ日みかんに平伏(ひれふ)しておりました。今年の荒れ狂う気候変動の中で、とうとう一矢を報いることができる時が訪れたのです。職人だからこそ厳しい田中が、「美味しい!」と岩﨑さんのみかんを絶賛したのです。

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 摘んだそのままを届けていただくため、表皮のワックスを取り除く必要もありません。果肉はもちろん、果皮も使用してBenoit自慢のデザートへと姿を変えます。このデザートを口にした時、目を閉じると遠く潮騒(しおさい)が耳に届き、レモン畑から一望できる瀬戸内海に浮かぶ島々の美しさが脳裏に浮かぶ…はずです。

 

≪伝統的な和栗の栗きんとんは美味しい。こだわりの和栗だから美味しい!≫

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 ブナ科クリ属の果実は、日本ではすでに縄文時代から食料として重宝されていたようです。これは日本に限ったことではありません。世界には大きく分けて四つの品種があり、その自生している大陸名が品種名になっています。フランスのマロングラッセでも有名なヨーロッパグリ、天津甘栗の中国グリ、絶滅したのではなかと思うアメリカグリ、そして和栗こと日本グリです。

 和栗は世界に誇る栗の品種です。ヨーロッパの洋栗や天津甘栗で有名な中国栗とは一味違った優しい甘さだからこそ栗の風味を十分に感じ取れ、瑞々(みずみず)しさが特徴。栗おこわのように、お米との相性は抜群なのはもちろん、栗きんとんも忘れてはいけません。栗そのものの美味しさを生かす和の技法は、すでに何百年も前から伝統として確立しているのです。

 岐阜県東南部の恵那市中山道の宿場町として旅人で賑わいを見せている時代、山栗を使った料理やお菓子が評判となり、「栗菓子の里」として歴史に名を残すことになります。彼の地にて、創業以来、「美味しい栗無くして美味しい栗菓子はなし」という信念のもと、恵那山の麓(ふもと)の広大な地に、栗の木を植栽し続けています。伝統にあぐらをかくことなく、栽培を担う人がより良い栗を育めるよう環境づくりを整え、その栗の美味しさをいかんなく発揮できる栗菓子を追求する、スタッフ皆が自らの担当する分野において日々研鑽に励み続けている老舗。栗きんとんの発祥の地である岐阜県の中津川、恵那峡に居を構える、「恵那川上屋(えなかわかみや)」さんです。

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「地元に栗を呼び戻そう」

 老舗である恵那川上屋さんの軌跡は、順風満帆だったわけではありませんでした。これほどの伝統と、栗の名産地としての名声を得ながら、人々の「農業離れ」には逆らうことができず、生産量が最盛期の10分の1にまで激減した時代がありました。栗無くして栗菓子はできず、まして素材以上の美味しさなどありえません。素材の確保と品質追求という難題が老舗を苦しめていたといいます。思い倦(あぐ)ねるままで、これといって解決の糸口が見つからない中、鎌田真悟さんが老舗の代表に就いた1998年を機に、「老舗の時」が動き始めます。

 JA東美濃が、特選栗評議会のメンバーの中から優れた栗生産者を認定し「超特選栗部会」という精鋭チームを発足いたしました。これは、栗栽培名人である塚本實(つかもとみのる)先生の「低樹高栽培」を学び、自らも指導者としてこの栽培ノウハウを仲間に教え伝えていくプロ集団です。「地元に栗を呼び戻そう」のメッセージのもと、「栗の名産地」復権をめざし、地元一丸となり労を惜しまない日々。この取り組みが功を奏し、栗の生産量も回復を見ることになりました。

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 Benoitには、2種類の和栗ペーストを送っていただいております。サトウキビから仕上げた黒糖を加えることで、香ばしいながらもほのぼのとする甘さが、栗の風味を引き立てる、まさに栗菓子の完成品、恵那川上屋さん自慢の「栗きんとん」そのものの(画像右側)。それと、まったく加糖せずに栗を炊きほぐしただけのもの(画像左側)の右側は、栗色が美しく、団粒のようにほろほろと、和栗のホクホクとした優しさと和栗らしい甘さが口中いっぱいに広がります。

 ひとつひとつでも十分に美味しい食材を、半々の比率でブレンドしたものを、今回のデザートで惜しげもなく使用します。皆様には、Benoitで何に姿を変えたかは、もう脳裏に浮かんだのではないでしょうか。

 

≪栃久保棚田の笠置(かさぎ)ゆず?≫

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 岐阜県を流れる木曽川を上流へとの上ってゆくと、渓谷の斜面を利用した、見事な棚田に出会うことができます。江戸時代に中期の頃に切り拓いたという歴史を持ち、いまなおその棚田の役割を全うしているのです。急峻な地形は、生半可な開拓では成しようもなく、大小さまざまな石によって組まれた頑強な石垣は一見の価値あり。随所にみられる石垣に気付かれた石の階段は、先人たちの知恵そのもの。ここは「栃久保(とちくぼ)棚田」と名付けられ、岐阜県恵那市笠置町で我々を迎えてくれます。

 この地は、斜面ならではのその水はけの良さ、渓谷だからこその川面の照り返し、そして山ならではの寒暖の差があるため、稲作はもちろんですが、果樹の栽培にも適しているのです。そこで、彼らは棚田を利用してユズを植栽していったのです。先人たちの先見の明は、さすがとしか言いようがありません。見事なまでのユズが実ったのです。人々からは「笠置ゆず」と呼ばれ、ひとつのブランドを造り上げたのです。

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 しかし、棚田という立地は、耕作面積をたやすく増やせるというものではなく、収量には限りがありました。どれほど名声を得たとしても、生産量の少なさを補うことはできません。県外や他の地域が、植栽面積をぐんぐん広げるなかで、一歩も二歩も遅れをとることになり、全国で名を馳せることが難しくなってゆきます。

 それでも、地元の人々はユズの栽培を辞めることはありませんでした。手間暇かけて育て上げた「笠置ゆず」は、他地域にも負けないユズに育つということを知っているからです。棚田は、ユズにとっては好立地ですが、栽培者にとっては難儀なもの。そのような苦労など、百も承知といわんばかりに、彼らは無農薬栽培を徹底しているのです。

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 笠置の人々が丹精込めて育て上げた、ユズがBenoitに届いています。太陽をさんさんと浴びることで、生い茂る葉は光合成をすることで、美味しさをなす栄養を果実に送り続けます。果実は、暴風雨にあたるために傷がつきやすい。しかし、この自然に鍛え抜かれることで、農薬に頼ることなく自らが持ちうる病原菌への抵抗力を生かしながら熟してゆきます。

 2020年のBenoitクリスマスメニューテイクアウトのデザートに使用するのですが、実はいつものプリ・フィックスメニューでも、たっぷりと使用しています。おや?どこを探してもメニューに「ゆす」の記載はありません。いったいどのようなデザートになっているのしょうか?

 

≪しぼったままのブドウジュースが、アルザス地方から!≫

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 濃縮還元ジュースを否定するつもりはりません。これほどまでに保存性を高め、いつなんどきでも果実味溢れる果汁100%ジュースを楽しめることになったのです。しかし、この利便性とは裏腹に、やはり失うものもあるのです。搾った果汁を濃縮して、水で還元するように戻して同じ味わいになるのかというと、ともに美味しいのですが別ものになります。

 フランスのアルザス地方に居を構えるOTTONEL。数々美味しいワインを醸すワイナリーでありながら、こともあろうか収穫したブドウ果汁を発酵させずに瓶詰めしたのです。ブドウは「ミュスカ」という品種のみで、フィルターも通していないため、瓶によっては種まで混入しているのです。

 巷には辛口のワインが大多数を占めており、「ワイン用のブドウより食用のブドウの方が甘い」と皆様のお思いではないですか?これがまったくの逆で、ワイン用の方が格段に甘いのです。例えば、糖度15度の果実があるとします。この度数は相当に甘さを感じるフルーツです。これを絞って発酵させると、約7%のアルコール飲料になるのです。ワインの度数は12~15%であることを考えると、どれほどの糖度が必要であることか。

 このアルザスのブドウジュースは、確かに甘いです。しかし、ワイン用だからこその心地良くも芯のある酸味をもっているのです。これが後引く美味しさとなっているようです。正直に、この果樹糖度でもワインにした場合に足りない感があります。それでも、ワイン用の果汁がどれほど甘さであるのか?さらには酸味が必要なのか?美味しさを楽しみながら学ぶことのできるジュースなのです。

 気になりませんか?

 

 降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出すのです。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に冬食材が「和」する逸品に出会い、食することで無事息災に年末を迎えていただきたい。この想いを込め、Benoit12月のお勧め情報をお送りさせていただきました。

 

≪季節のお話「柞に想うこと」のご案内です。≫

 其処彼処で目にする雑木林の黄葉に紅葉。「八入の雨」が一入一入と木の葉を色付かせてゆきます。そして、一足先に黄葉が見事な姿を我々に披露してくれています。「柞(ははそ)」とは、今では馴染みのない言葉ですが、なかなかに奥深いものでした。さあ、皆様を柞原へとご案内させていただきます。

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≪「歳暮(としのくれ)特別プラン」他、12月のご案内です。≫

 「美しい(令)」季節の冬食材が「和」する料理の数々。これを美味しく食べることで、人は笑顔になり、体の内側から湧き出でる力となる。そして、我々をウイルス災禍から守ってくれることでしょう。「口福な食時」のひとときこそ、我々の心身を活力ある本来の姿へと導いてくれるのです。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com