kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年1月 Benoit「去りゆく(1月31日までの)晩冬お勧め料理/デザート」のご案内です。

 風が季節を導き、彩りばかりではなく、喜怒哀楽をも表願しているかのような美しい「風景」を我々に見せてくれます。そして、四季折々の風は国内各地方にその地ならではの「風土」を作り出すことになる。その多様な「風土」で育まれた食材は、同じ野菜であっても味わいに些細な違いがあり、それが「風味」となる。太陽の恩恵を十二分に受け、風味豊かに育ったものこそ、旬の食材です。

 コロナウイルス災禍によって、我々の日常が停滞したとしても、季節は巡り去ってゆきます。各季節には、旬を迎える食材があり、我々を待ってくれるという「優しさ」は持ち合わせていません。旬の食材でこしらえた料理の数々は美味しいばかりではなく、いま我々が欲している栄養をも持ち合わせており、見過ごすという選択は、あまりにももったいないものです。

 そこで、「去りゆく(131日までの)晩冬お勧め料理」をご紹介させていただきます。

 

≪寒いからこそ、牡蠣(かき)のグラタン!≫

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 岩手県から届けられるカキ。海から断崖絶壁がそそり立つリアス式海岸は、山のミネラル豊富な清らかな水が海へと流れてゆき、豊富な植物性プランクトンを育みます。そのプランクトンを食(は)むカキが、美味しくないわけがありません。瀬戸内海の穏やかな海流が、牡蠣筏による養殖に適しているように、規模こそ小さいですがリアス式海岸の湾もまた好適地なり。

 カキは殻から剥き、その殻の中に、しんなりと甘さを引き立てるように熱を加えた下仁田葱を盛ります。カキ身をポロ葱の上にのせ、シャンパーニュを降り注ぎ、サバイヨンという卵黄を使ったクリームのソースをかぶせるようにし、オーブンへ。焼き色がつくことで蓋ようになったサバイヨンの下では、シャンパーニュによってふつふつとカキが蒸されてゆくのです。さらに、このサバイヨンの蓋が牡蠣の旨味のスープを逃がしません。

 生ガキも良いですが、フランスの伝統が生み出した「カキのグラタン」こそ、カキの美味しさを最大限に引き出す逸品かもしれません。あ~シャンパーニュや白ワインがよんでいる…テーブルに供された時に「3つもある!」というお言葉をいただきます。しかし、一口お召し上がりいただいた後には…その美味しさから「3つしかない…」と口から漏れ出ます。

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HUÎTRES gratinées au sabayon de Champagne

殻付き牡蠣のグラタン シャンパーニュ

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+1,200円、ディナーでは+1,000円にてお選びいただけます。しかし、入荷に限りがあるため、ご予約の際にご希望の数量をお伝えいただけると幸いです。

 

香川県から、鮮度抜群のブロッコリーが直送されています!≫

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 香川県香南町の薫農園さんから届けられるブロッコリーは、緑美しく、ずっしりと重い。鮮度が良い上に、味わいが素晴らしとシェフは言う。ちょっとばかり調べてみると、良いブロッコリーの見分け方には、「花蕾(からい/頭のこんもりしている花のつぼみ)が密で濃い緑色である」「外葉(茎から伸びている小さな若葉)がしおれていない」「茎が変色しておらず、≪す≫が入っていない」ものが良いといいます。段ボールに入っていた多くのブロッコリー、どれ一つとして当てはまらないものはない。

 鶏のフォンで湯がき、ミキサーにかける。素材が美味しいので、余計なことは何もしない。とろりとしたスープに仕上げるも、この中にクリームもミルクも加えない。だからこそ、ブロッコリーそのものの美味しさを堪能できます。季節は冬にもかかわらず、緑鮮やかな色、口中に広がる香とブロッコリーらしい甘さは、一足先に春の訪れを想わせるかのようです。

Velouté de BROCOLI, fromage frais

香川県河田さんのブロッコリーのスープ リコッタチーズ

 ブロッコリーの実力といえば、毎日でも食卓に並べたいほど。カロテンとビタミンCが豊富であるばかりか、体内の解毒酵素や抗酸化酵素の生成を促進し、体の抗酸化力や解毒力を高める「スルフォラファン」を含んでいます。美味しくいただきながら、身体にも良き栄養を!ランチ・プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢としてお選びいただけます。

 薫農園さんをブログでご紹介しております。お時間のある時に、以下よりご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

≪フランスから飛行機に乗ってマッシュルーム到来!≫

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 「マッシュルーム」は、すでに日本でもお馴染みのキノコです。キノコが好きな日本人なだけに、シイタケ、シメジやマイタケなどの美味なるキノコが一年中店頭に並ぶ上に、地方に赴くとあるわあるわ多種多様なキノコたち。この風味豊かな強豪ひしめく中に割って入るかのように渡来してきたのが、マッシュルーム。可愛い姿で優しい味わいのキノコという印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 この概念が覆(くつがえ)ります。なぜ、Benoitは国産ではなくフランス産を購入するのか?生鮮食材は鮮度が要(かなめ)です。しかし、この鮮度を犠牲にしてでも飛行機に乗せてフランスから届いたマッシュルームは、国産とは別のキノコではないかと思えるほどに違いがあります。

 Benoitでは、フランスのマッシュルームの美味しさを十二分にご堪能いただきたく、ヴルーテと表現されるなめらかなスープに仕上げます。こにれでもかとたっぷりとフランスのマッシュルームを使用します。色こそ地味ながら、スープボールに注がれた時の芳しい香りに魅せられ、コクのある味わいに驚かれることでしょう。ディナー・プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢としてお選びいただけます。

Velouté de CHAMPIGNONS DE PARIS

フランス産マッシュルームのスープ

 

≪「ヒラスズキ」というスズキの仲間がディナーに登場。どんな魚?≫

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 スズキ目に分類される魚群は多種多様に及び、スズキはもちろん、サバの仲間であるカツオやマグロ、タイの仲間も忘れてはいけません。さらに、イサキやハゼにまで。馴染みの魚名ばかりではないでしょうか。餌が多く、産卵と子育ての場所として便利な沿岸部をほぼ独占しているようなもの。さらに回遊魚として他の環境下にも進出しているのです。

 今回の特選食材は、スズキ目スズキ科のスズキ。ではなく、同目同科に身を置く「ヒラスズキ」です。見た目には、そっくりなスズキとヒラスズキですが、その生態に大いに違いがありました。スズキは、日本沿岸の其処彼処で出会える魚で、餌となるエビや小魚を追い求めるように、春ほどに内湾に移動し、夏には河口や汽水域に入ります。ヒラスズキは、千葉県沿岸から南にかけての海域にしか生息せず、河口や汽水域には入り込みません。

 この生態の違いこそ、スズキとヒラスズキの美味しさの違いを生み出しているのです。行動範囲が広く、イワシの群れを追うかのように内湾へと入り込むスズキは、夏を代表する食材であり、味わいが濃く旨味に満ちています。汽水に入スズキは、淡水魚のような臭みを感じるため、我々日本人はあまり良いイメージを持っていないのではないでしょうか。しかし、濃厚な味わいは、洋食ではソースとの相性が抜群であり、欠かせない食材です。

 ヒラスズキは、いまだ生態が解明されていない謎多き魚。外洋に面した沿岸部の岩礁海域、いうなれば凪(なぎ)とは無念な海域で耐え忍ぶように生きている。そして、海水が冷たくなることで回遊してくるサバやサンマ、さらに岩礁に棲むエビ・カニ類を餌にしているのでしょう。冬にその美味しさの本領を発揮します。なぜ我々に馴染みがないのか。それは生息域が限られていることもあり、漁獲量があまりにも少ないからです。

 

≪「ヒラスズキ」のブイヤベース風味とは?≫

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 この切り身は、マダイのようですが、ヒラスズキです。捌く手にまとう美しい脂の輝き、うっすらピンクがかる透き通るような身色、そして弾力のある身質。荒波にもまれにもまれているからこその美味しさが、ここに内包されているのです。

 鉄板で焼き色を付けた後に、オーブンを使いふんわりと焼き上げます。捌いた後の魚から、香味野菜で磯臭さを抑えながら魚の旨味を煮出すようにスープをとります。ここに、トマトとサフランが加わることでブイヤベースのように仕上がるのです。このスープを煮詰めとろみがでたものを、焼き上げたヒラスズキにまとわせてお皿に盛り付けます。相性抜群の野菜「ウイキョウ」との相性もお楽しみください。

HIRASUZUKI, fenouil au fumet de bouillabaisse

ヒラスズキのオーブン焼き ウイキョウとジャガイモ ブイヤベース風味

 ディナー・プリ・フィックスメニューの主菜の選択肢としてお選びいただけます。ランチは北海道産のマダラです。一晩塩で身を締め塩抜きして焼き上げることで、ぷりっとした食感と旬のタラ本来の美味しさをお楽しみいただけます。

 

≪寅年だからこそ、肉食なり!≫

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 どうですか!この見事な食べっぷり。上野動物園にお住いのスマトラトラです。美しい毛並みに魅かれるのですが、お肉を嗜んでいる姿を間近で見ると、筋肉隆々とした体つきに恐怖すら覚えてしまいます。確かに大きな猫だといえなくもないですが、獲物を押さえる前足の先から肩までのなんとたくましいことか…肉を食らい、骨のまわりの肉を舐め削ぐ。最後は、ガリガリ、ボリボリと骨を喰らう。本能が食材を無駄にしてはいけないと訴えているのかもしれない。

 Benoitでは、さすがに骨を食べることはありません。フランスから届いた鴨胸肉は、皮目に隠し包丁をいれることで、余計な脂を落としながらゆっくりと焼き上げます。焼きすぎも焼かなすぎも硬くなる身質だけに、このロゼ色の焼色こそが鴨胸肉を美味しくお召し上がりいただくための秘訣です。

 日本では「鴨が葱を背負って来る」と言いますが、フランス料理では「鴨がオレンジを背負ってくる」と、言いませんが抜群の相性をみせます。しかし、海外産では防腐剤が果皮に塗られているため、これを取り除かなければ果皮は使用できません。そこで、多種多様の柑橘を誇る日本だからこそ、安心安全な路地ものを選びたいもの。白羽の矢が立ったのが熊本県不知火の「のむちゃん農園」でした。彼らが丹精込めて育て上げたスウィートスプリングが届いています。

 野菜「アンディーブ」は、陽射しに当てず、東京のウドのように軟白化させるように育てた葉野菜で、シャリッという食感と軟白化特有のほろ苦さが特徴です。スウィートスプリングの果肉の優しい甘さに果皮の苦みを生かしたマルムラードとコンフィ、さらに鴨胸肉・・・一堂に会する時、そこに口福な一皿が姿を見せます。ディナー・プリ・フィックスメニューの主菜の選択肢としてお選びいただけます。

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CANARD à l'orange, endives fondants

鴨胸肉のロースト 熊本県産柑橘とアンディーブ

 

≪今期のBenoitモンブランは、和栗とミカン!?

 毎年のように秋から冬にかけてBenoitのメニューに登場する人気デザートが「Mont Blanc à notre façon

モンブラン ブノワ風」です。

 Benoitでは、料理もデザートも、我々の一存で決めることができません。試作をし、レシピを起こし、フランス本部のエグゼクティブシェフチームに送り調整を図ります。栗の時期になると、モンブランがデザート候補の意の一番に名が挙がるのですが、フランスへのレシピ提案を怠ると、栗とカシスのモンブランに確定してしまいます。

 フランスでは、栗とカシスが最高の相性をみせると言われています。しかし、これを鵜呑みにし和栗と組み合わせてしまうと、カシスが強い風味のために栗感が姿を消した見るも無残なデザートになってしまうのです。これを阻止するために、Benoitでは柑橘との組み合わせを、毎年のようにフランスへ提案しています。そのため、字面は同じでも、中身が毎年のように変わるのです。一昨年が「レモン」で、昨年は「ユズ」。今年は…「ミカン」です。

 この意外とも思える組み合わせですが、フランスにミカンに似た柑橘「クレモンティーヌ」というものがあり、これと栗の組み合わせのモンブランが存在していました。これを和栗とミカンで組み立てようというのが、今期のBenoitモンブランです。しかし、難題が待ち構えていたのです。

 9月中旬の和栗の収穫を待ち、いざ10月から新モンブラン!と計画を立てた矢先に、ハウス栽培のミカンでは、果皮が厚く苦すぎるので露地栽培のミカンを使わなければならない、とシェフ・パティシエールの田中から告げられたのです。10月と言えば、極早生ミカンのハウス栽培が出始める時期です。露地もの?これは難しいと探しあぐねている自分がおりました。

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 今回は運命を感じました。熊本県不知火で果樹園を営んでいる野村さんと出会えたのです。野村さんのご紹介は次回に!この出会いによって、Benoitは露地栽培のミカン「汐風みかん」を得ることができたのです。

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 陽射しをサンサンと浴びて育ったミカンは、果皮果肉をそのまま使用し、マルムラードに仕上げます。オレンジではないミカンだからこその優しい甘さにみずみずしさ。露地栽培だからこその果皮の薄さがあり、これがほどよいほろ苦さを生み出します。器上の焼き上げたメレンゲの中に、栗のコンフィと栗ペーストを盛りつけ、このミカンのマルムラードをたっぷりと絞り込みます。

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 このマルムラードを覆い隠すかのように、軽やかな生クリームを。その上から、かぶせるように栗のペーストを絞ります。和栗と洋栗のブレンド比率は毎年のように変わるのはもちろん、Benoitに届く和栗の品質によっても微調整がなされるという。今期は、おおよそ和栗:洋栗=7:3です。

 まったりと甘い栗と、ミカンの優しい甘みと酸味のマリアージュ。テーブルのお持ちした時、爽やかなミカンの香りの演出も忘れてはいけません。和栗とミカンのモンブラン…「百聞は一食に如(し)かず」ですよ、皆様!まもなく終わりを迎えてしまいます。この機会をお見逃し無きように!

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Mont Blanc à notre façon

モンブラン ブノワ風

 ランチ・ディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートの選択肢として+1,000円でお選びいただけます。

 

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com