オーブンの扉を開けると、むわっとした熱さに目をそばめるも、優しい甘さに満ちた香りの誘惑がために顔をそむけることもままならない。オーブンの中には、焼き上がったばかりスフレがある…ほわほわのスフレを、スプーンで口へ運ぶ…熱々であることは分かってはいるけれども、徐々にしぼんでくるため待つことはできない。はふはふとしながら口福なひとときを噛みしめる…噛む必要もないほどほわほわだけれども…
スフレは、普通に美しく焼き上げるだけでも職人技を要求してきます。しかし、単調な食感と味わいは飽きがきやすいのも確か。そこで、シェフ・パティシエールの田中が、Benoitのスフレに手を加えるのです。メニューに記載がある「ヘーゼルナッツのスフレ」です、と一言で終わるようなデザートではありませんでした。
耐熱のココットの内側にバターを塗り、砂糖をまんべんなくまぶします。ここで手を抜くと、焼き上がりが美しく盛り上がらないのだという。ヘーゼルナッツをたっぷりと加えたスフレ生地を少し絞り入れ、そこへビスキュイ・ジョコンドというものを沈めます。
このビスキュイ・ジョコンドという聞き慣れない食材は、たっぷりのアーモンドを加えて焼き上げた硬めのスポンジ生地のようなもの。もちろん、今回はアーモンドの代わりにヘーゼルナッツです。このジョコンドだけ食べても美味しい…これをスフレ生地の中に沈めることで、土台となるような食感と香ばしさがスフレに加味される。
少しばかりスフレ生地を足した後に、グレープフルーツのマルムラードを加えます。国産を愛してやまない自分だけに、ここのグレープフルーツで海外の助けを借りることに抵抗がありました。しかし、国産の柑橘は、あまりにも美味しすぎた…これがために今回は使えないのだと田中は教えてくれた。そう、グレープフルーツの果肉と果皮の「苦み」こそが、まったりとしがちなヘーゼルナッツの美味しさを引き立てる!
最後に、こんもりとスフレ生地をのせて、下ごしらえが終わります。冷蔵庫で休憩をとりながらスフレは皆様からのご要望が入るのを待つ…待望のお声がけから10分間、オーブンの中で荒行を遂げ、見事なまでに成長した美しい姿で皆様のお手元へ赴きます。スフレの表面はパリッとしながら、中はほわほわ…グレープフルーツのマルムラードのあたりはとろり…と。
お供をするのは、これまたヘーゼルナッツをたっぷりと加えて仕上げたアイスクリーム。スフレと交互でも、スフレの中の落とし込んでも美味しいです。しかし、中に加えた場合は、ゆっくりと会話を楽しみながらお召し上がりいただくわけにはまいりません。なぜか?アイスクリームがみるみる溶けてゆく…
Souffl é à la noisette
ヘーゼルナッツのスフレ
ランチとディナーのプリ・フィックスメニューのデザートとしてお選びいただけます。スフレ生地をたてねばならないため、一営業内での準備数に限りがございます。ご希望の際は、ご予約時にお伝えください。
立春とは名ばかりで、まだまだ寒い日は続くことでしょう。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。
最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。
「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。
ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬