kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年2月3月 Benoitお勧めデザート「瀬戸内レモンのタルト」のご紹介です!

 広島県大崎上島(おおさきかみじま)の風土は、瀬戸内海ならではの温暖な気候に加え、北の中国山地、南の四国山地が強風を妨げています。さらに、島ならではの穏やかな浜風や海面の照り返し。この風土で健やかに育まれた農産物は、間違いなく美味しいでしょう。特に柑橘は、島の中央に聳(そび)える神峰山(かんのみねやま)の周囲を柑橘畑が占めていることからも分かるように、大崎上島の特産になっています。なかでも、この柑橘は、他の地域の追随を許さないようです。

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「瀬戸内レモン」

 すでにブランド化してるため、皆様ご存知かと思います。太陽をさんさんと浴びて育った瀬戸内レモンは、まろやかな酸味の中にほのかに甘ささえ感じる果肉と、心地良いほろ苦さのある果皮、このバランスが素晴らしい。特に露地栽培のものは果皮が薄く風味豊か。大崎上島の岩﨑農園さんが手塩に掛けた逸品がBenoitに届いています。

 レモンは誰もが知っている柑橘でありながら、カクテルや料理で主役をはることがほとんどないため、思いのほか収穫される時期があいまいなもの。確かに、用途万能なため、ハウス栽培や海外産を含め、一年中八百屋さんやスーパーでお目にかかれてしまうため、いたしかたないとは思いますが…国産のレモンの収穫期間は、他の柑橘と同じように、晩秋から初春まで、そう今なのです。

 

 今回は、岩﨑さんレモンが主役のデザート、「瀬戸内レモンのタルト」のご紹介です。

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 一昨年に、Benoitのメニューに夏に「レモンタルト」として姿をみせました。美しいレモンイエローに爽やかな香りに酸味のある果汁は、確かに夏のイメージがつきものです。これだけ旬と国産食材にこだわっていながら…海外産のレモンを使って…と思いながら試食した時、悔しいほどに美味しかった…そして我思う、これは旬の瀬戸内レモンで作ったら、さぞや美味しいだろうに…と。

 この思いは、Benoitシェフ・パティシエールの田中も同じでした。自分が岩﨑さんのレモンに出会ったころからすでに、彼女はその品質の高さを知っている。昨秋のこと、田中と12月からのデザートの構想を練るとき、お互いにいの一番に口から漏れでたのが「瀬戸内レモン」だったのです。こうなると話は早いもの。露地栽培レモンの収穫開始時期を聞くために、岩﨑さんに連絡を入れる…即決でした。そして、満を持して昨年12月からBenoitプリ・フィックスメニューのデザートに、その名を連ねたのです。

 すでにリピートされているお客様がいらっしゃるほどの美味しさを誇りながら、「瀬戸内レモンのタルト」とはなんとも簡素な名称ではないかと思う。デザートの名前なので致し方ないとは思うのですが、この表記ではお伝えしきれないBenoitパティシエールチームの技が組み込まれているのです。そう、美味しいには理由がある!

 

 アーモンドを加え、ほのかにバニラが香るBenoitのタルトは、思いのほか繊細で軽やかなもの。やわらかくサクッと崩れんばかりに焼き上げます。ここへ瀬戸内レモンのマルムラードを加えていく。果物の果肉で作るのがコンフィチュール(ジャム)であれば、マルムラードとは柑橘の果実と果皮を使ったコンフィチュール。ワックスを塗っていない瀬戸内レモンだからこそ、ワックスを除く必要がない。さらに、この一手間が無い分、レモンそのものの香りを逃さない。

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 瀬戸内レモンの果皮と果肉をたっぷり使い、甘さを極力控えて仕上げたBenoitのマルムラード。口へ運んだ時のまろやかな酸味とレモン特有甘さの後に、果皮を咀嚼(そしゃく)するほどに心地よいほろ苦さが口中に広がる。お客様からは、このレモンのマルムラードを譲ってほしいとの声を多数いただきます。それほどに美味しい!

 ここに、Benoitが露地栽培にこだわる理由があります。ハウス栽培では、早い時期にレモンを手に入れることができ、美しい姿のレモンが収穫できます。しかし、果皮とその内側の白皮に厚みがあり、果皮の苦みが強くでる。露地栽培では、暴風雨に晒されるため、確かに傷がつきやすいもの。しかし、この自然の試練と降り注ぐ直射日光が、程よい厚みとなる果皮のまろやかなほろ苦さ、心地良い酸味の果肉を育むのでしょう。

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 タルトにレモンのマルムラード…さらにその上に、アーモンドとヘーゼルナッツを加えたフイヤンティーニュ(クレープのような生地を焼き砕いたもの)をのせます。色が焦げているかのようですが、これは日本橋に工房のあるアラン・デュカスの75%カカオ含有のチョコレートをたっぷりと加わっているからです。さらに、カカオニブ(カカオ豆の胚乳部分を砕いたもの)を加えることで、サクサクにガリッとした食感とカカオらしいほろ苦さが加味されるのです。

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 さあ、目にも美しいレモンクリームをのせてゆきます。もちろん、ここにも瀬戸内レモンを搾ったジュースと、果皮を削り入れたもの。低温とはいえ3時間ほど熱を加えて仕上げたマルムラードとは違い、フレッシュのレモンがもつ美味しさと香りが、ここに生かされている。

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 岩﨑さんが手塩にかけて育て上げた瀬戸内レモン。この思いに応えるため、Benoitパティシエールチームに「妥協」という文字はない。レモンのタルトを形作るパーツの一つ一つを、丁寧に手際よく仕上げ組み立ててゆく。簡単そうに見える工程でも、温度であり、加えるタイミングであり、混ぜ加減など、多くの職人技を要求してくるのです。

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 最後に、軽やかなメレンゲを絞り込みバーナーで表面に焼き色を付ける。このメレンゲは、表面が軽やかなパリっとした食感、優しい甘さがふわっと消えてゆきような美味しさを、レモンタルトに与えてきます。この工程をもって、やっと完成を迎えるのです。皆様のテーブルには、レモンジュースを搾った中にショウガを加えたグラニテ(大粒のかき氷のようなもの)とともに、この瀬戸内レモンのタルトをお持ちいたします。

 

 アラン・デュカスの料理哲学は、「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること。」です。さらに、さらに、彼はデザートに「食感・甘さ・温度の違い」を求めてくる。岩﨑さんの瀬戸内レモンがなければ、今回ご紹介したレモンタルトはありません。そして、Benoitパティシエールチームの職人技がなければ、やはりこのレモンタルトの美味しさはありません。

 外見とは裏腹に、層をなすかのように組み立てることで、食感と甘さ/ほろ苦さの違いを生み出す。爽やかなレモンの香りが我々を瀬戸内海に浮かぶ島々に誘(いざな)うかのよう。一口お召し上がりいただければ…瀬戸内の心地良い浜風が吹き抜け、遠く潮騒(しおさい)が聞こえる…かもしれない…

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Tarte au citron

広島県岩崎さんの瀬戸内レモンのタルト

 ランチ/ディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートの選択肢として追加料金500円でお選びいただけます。一営業でご用意できる数に限りがあるため、ご予約時にご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 

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 岩﨑さんが手がける露地栽培レモンは、昨年11月後半から収穫が始まりました。旬お走りのレモンは緑色の果皮のグリーンレモン。完熟に向かうにつれてイエローレモンへと姿を変えてゆきます。グリーンレモンは、はつらつとした香りと酸味がある。それがイエローレモンとなると、爽やかな香りとまろやかな酸味へ。

 季節は巡り、そして去ってゆきます。旬の食材もまた同じであり、我々を「待ってくれる」という優しさはありません。Benoitのように、一栽培者の方より食材を購入していると、時が経(た)つことで美味しさもまた変ってゆくことを知ることができます。すでにお楽しみいただいた方も、今のレモンタルトをお試しいただきたいです。

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 今回の特選食材である「瀬戸内レモン」。Benoitとの出会いも含め、皆様に岩﨑農園さんをご紹介させていただきます。

kitahira.hatenablog.com

 

 立春とは名ばかりで、まだまだ寒い日は続くことでしょう。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com