kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年4月5月 Benoit特選食材「熊本県の不知火と天草の柑橘いろいろ」のご案内です。

 「柑橘」とは何とも便利な言葉で、食材としても大いに想像がしやすいものです。とはいえ、多種多様な姿に加え、味わいの違いがあるものです。少しばかり学術的な観点から分類してみると、柑橘属(ミカン属)の中に、ミカン類、オレンジ類、グレープフルーツ類などの8つの「類」が区分けされています。

 ちなみに、レモンは香酸柑橘類に組み込まれています。「香酸」とは、なんと分かりやすいことでしょうか。ミカン類とオレンジ類の雑種群の総称がタンゴール類。文旦の仲間のこと、ザボン晩白柚(ばんぺいゆ)などはブンタン類。面白いのが、雑柑類。なんとも「雑」とはあまりな表現ではりますが、類縁関係が不明確で、その系統の種類しかないものなのだと。日本は柑橘王国なのか、この雑柑類が意外に多いのです。

 

 最初にご紹介したいものは、まさに今食べずしていつ食べるという、「不知火(しらぬい/しらぬひ)」です。「清美」と「ポンカン」の交雑種で、大ぶりながら、果皮が薄く甘みが強いのが特徴で、柑橘属タンゴール類に分けられます。画像を見るに、この凸っている姿から、「デコポン」と皆様お思いかもしれませんが、これは「不知火」です。

 不知火とデコポンは、これほどまでに酷似している姿にもかかわらず何が違うのか?実は同じといえば同じもの。「不知火」の品種の中で、JAが定めた糖度と酸度をクリアしたものが「デコポン」です。では「デコポン」が優良品種なのか?そうとも言えますが、そうでないとも言えます。この2つの名称を、数値によって分けることは、我々消費者には分かりやすく、斬新な試みだと思います。だからといって「不知火<デコポン」ではありません。消費者から見れば、デコポンの方が品質に安定感がある。しかし、不知火の中には「デコポンを凌駕する品質のものもある」ということです。

 もともとは、長崎県島原の農業試験場で誕生したものの、見た目の凸などの理由から、栽培には至りません。それが、島原湾を横切るように対岸の宇土半島に苗木がもたらされ、不知火町が栽培に着手したのです。もともと甘夏の産地だったこともあり、見事なまでに美味なる柑橘に育て上げたのです。そして、町の名前から「不知火」と名付けられます。熊本県の不知火(デコポン含む)出荷量は、全国一を誇ります。

 

 熊本市から南西に向かうと、天草へと誘(いざな)うかのように宇土半島が伸びています。この半島のつけねあたりの南側、赤い印にあるのが、「不知火(しらぬい)町」です。八代海(やつしろかい)に面した丘陵な沿岸部は、一年を通して温暖。海に面した山の斜面は、太陽の恩恵を十二分に受けることができるうえに、柑橘のとって快適な水はけをももたらします。さらに、海からの養分たっぷりの汐風、阿蘇の伏流水である熊本の水、澄んだ空気で育まれた果実が美味しくないわけがありません。

 この地で代々にわたり果樹栽培を続けている「のむちゃん農園」は、若き園主である野村和矢さん早苗さんに受け継がれました。彼らは、天の恵みである不知火の地の利に甘んじることなく、飽くなき探求心のもとで、さらなる安心安全・美味しい果実を育て上げるため、農薬に頼ることを可能な限り避け、細心の注意を払いながら手間暇をかけることを惜しみません。柑橘の美味しさを追究するがために、彼らは露地栽培のみに徹しています。

 野村さん有する広大な果樹園には、多種多様な品種が植栽されています。Benoitは昨年9月の極早生みかんから始まり、今は彼らの代表柑橘ともいえる「不知火」です。今期は酸味がのりすぎていたということで、追熟を行っていました。そしてついに、出荷が始まったのです!プリっとした実質に、濃ゆい甘みとコクに控えめな酸味、このバランスが素晴らしい。

 そうそう、Benoit東京史上初の食材、彼らが丹精込めて育て上げたオレンジ類のブラッドオレンジを忘れてはいけません。国産かつ露地栽培、さらには減農薬にノーワックスという、これ以上ない条件が揃っている。シェフの野口が惚れ込むほどの美味しさです。今回はデザートではなく、今のランチの鶏料理とディナーの鴨料理で登場です。

 

 のむちゃん農園から西へ向かうと、大小120の島々からなる天草諸島(以下「天草」と記します)が見えてきます。宇土半島から天草諸島へは、島々を架橋で繋ぐは「パールライン」が走っており、天草五橋からの気色は、風光明媚というに相応しい景色が眼前に広がります。そして、この道路を通ると…島の山々を抜ける際に、両脇に広がる柑橘畑が多いことに気づく…そう、「大矢野島」「天草上島」「天草下島」の大きな3つの島と、大矢野島の南東に位置している「維和(いわ)島」は、県下有数の柑橘産地なのです。

 上記4つの島は、橋で結ばれるも、島だからこその輸送の不便が付きまといました。そこで、それぞれの島の山路(やまじ)を利用した広域農道が整備されたのです。そして、今回の特選食材にちなみ、こう名付けられたのです。

天草オレンジライン

 天草上島ほぼ中央に聳(そび)えたつ、天草最高峰の682mを誇る倉岳(くらたけ)山。その頂(いただきに)に、五穀豊穣と航海の安全を祈願する倉岳神社が祀られています。この鳥居は「天空の鳥居」と呼ばれ、天草の美しい島々を一望できる絶景ポイントです。海から延びる山の端(は)をご覧いただきたい。目を凝らすと、たわわに実るミカンが…見えることはないですが、いかに輸送が困難かを物語っています。「天草オレンジライン」は、この倉岳山を含めた峰々の山間(やまあい)をぬうように進みます。

 

 自分が柑橘探しを始めた頃、Benoitに熊本県出身の仲間がいました。そこで、彼に「今の時期(春)で熊本県特産の柑橘はないかな?」と聞いたところ、「不知火ですかね。特に他には思いつきません」との返答。これほどまでの柑橘王国にも関わらず、それはないだろうと別ルートで探しに探し、出会えたものが、この「パール柑」でした。

 彼に「ほら、届いたよ」と自慢すると、「あ!パール柑じゃないですか」との返事。知ってるのであれば教えてくれよ、と思うものの、彼にとってあまりにも身近な柑橘だけに、特産だとは考えなかったようなのです。そう、「いつもどんな柑橘をこの時期に食べているの?」と聞けば良かった。

 かつて、日本原産の柑橘フルーツのことを、「橘(たちばな)」と総称していました。一年を通して緑美しい丈夫な葉を成すことから、不老長寿の象徴でもあったようです。その中で大きな実を成すことから名付けられたのでしょう、「大橘(オオタチバナ)」です。ミカン属ブンタン類に与(くみ)し、宇城・天草地域の特産で、「天草文旦」とも呼ばれていますが、現地では宇土半島天草諸島を結ぶ天草五橋(パールライン)にちなみ、「パール柑」という名前で親しまれています。

 輝くような黄色のぽちゃっとしたまん丸の可愛い姿をしており、グレープフルーツを想わせるような爽やかさ、甘さと酸味の見事なまでのバランス、特筆すべきは放たれる芳しい香りです。心地よく爽快な黄色い柑橘特有の香りは、手の取った指にまで残るほど。

 残念ながら、パール柑はすでに終わりを迎えてしまし、Benoitにはコンフィやマルムラードに加工したものを残すのみ。この後を引き継ぐかのように登場するのが、まさに今が旬、今期の天草産柑橘の最後を飾る「天草晩柑(あまくさばんかん)」です。ミカン属の雑柑類の属する、謎多きことも魅力の一つでしょうか。1935年に、熊本市で偶然発見され、大矢野島を中心に植栽されています。

 ジューシーオレンジと呼ばれるほど、ほどよい甘さと酸味の果汁をたっぷりと含むうえに、下の画像の左下のひときわ大きな玉が、天草晩柑です。画像右下が不知火なので、その大きさがお分かりいやだけるのではないでしょうか。画像上のパール柑とは違い香こそ地味ですが、グレープフルーツのような姿ですが、独特なほろ苦さはなく、甘みと酸味の得も言われぬ上品な美味しさには、天草の柑橘の最後を飾るにふさわしい。海岸近くの浜風あたり温暖な地で、太陽の恩恵を十二分に受けた晩柑は特に美味といい、熊本県産の約90%が天草で栽培されているといいます。

 

 不知火と天草の地からBenoitへ送り出される、柑橘「不知火」と「天草晩柑」。今期は、さらに3種類の柑橘が加わりました。

 和製オレンジではないかと思うほどにジューシーで、しっかりとした甘みを楽しめるタンゴール類の「せとか」。

 輝かんばかりの黄色の果肉に、爽やかな酸味と甘みが特徴の「黄金柑」。明治時代に鹿児島県で発見され、ゴールデンオレンジとも呼ばれています。そう、これは雑柑類です。

 この柑橘の名前はミカン類の「農6号」…中間母本という、新品種を作るための懸け橋となる品種です。それが、かなり美味しい。濃いオレンジ色の果肉には、濃厚な甘みがあるもののほのかなほろ苦さも感じる。ただ、バランスが良いのか、ついつい食べ進んでしまう。難点を言えば、外皮が硬く厚いため食べるのが難儀であること。

 

 それぞれの特徴を生かし、フレッシュの果肉、果皮のコンフィ、マルムラードそして絞って果汁へと姿を変えます。すでに「せとか」はマルムラードに加工したもののみとなり、「農6号」は残り数kgを残すのみ。天草晩柑は、さすが晩柑と名がつくだけに、まだまだ継続できますが、「不知火」と「黄金柑」は、すぐではないですが、まもなく在庫が底をつくことでしょう。

 季節が過ぎ去ってゆくように、柑橘も順を追って終わりを迎えていきます。熊本県で育まれた柑橘がBenoitで一堂に会するのは、今しかありません!それぞれの柑橘が魅せる晩春を飾るデザートをお楽しみください。

Coupe aux agrumes

熊本県産柑橘類のクープ

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートの選択肢で+800円でお選びいただけます。

 

 Benoitに届く旬の柑橘「天草文旦」。今回は、一般社団法人天草宝島観光協会の助けをお借りし、皆様を少しばかり天草観光へとご案内さていただきます。人が住み良い場所に集落ができ、その人が行き交うことで道ができる。そして、その行く先々に歴史があります。前編は、世界遺産「﨑津集落」です。

kitahira.hatenablog.com

 

 後編は、「島原の乱」に思いを馳せながら天草諸島を抜けてゆきます。

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 過ごしやすい日々ではありますが、まだ「春に三日のはれなし」と表現される時期です。この不安定な天気は、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくもの、油断はなりません。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com