kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年6月 時候を表現する「乃東枯(なつかれくさかるる)」。乃東?枯れる?

 夏至の初候(6月21日~6月25日頃)の七十二候は「乃東枯(なつかれくさかるる)」です。

 古代中国の賢人が、四季の移ろいを暦に当てはめるように創ったのが「二十四節気(にじゅうしせっき)」という。1年を24に分けることで「立春」や「夏至」などの馴染みの言葉で組まれています。古代中国が都と位置付けた内陸部と日本では、季節に違いはありますが、24分割という大きな割りふりでは、そこまで違和感がないため、日本にそのまま導入されました。さらにこの1節気を3等分に分け、気象の動きや動植物の変化を知らせる短文にしたためたものが、「七十二候(しちじゅうにこう)」です。ここまで細分化すると、古代中国では馴染みでも、日本では違和感がでてきます。そのため、各時代に改訂が行われ、明治時代のものが今に至るといいます。

 この七十二候は、1年をたった72分割しているもので、決して多いとはいえません。季節の移ろいを表現するために厳選に厳選を重ねて選んだ短文が記載されているのです。どのようなものかは、話が長くなるので、ここでは割愛させていただきます。なかなか面白いので、皆様ご自身で検索してみてください。

 さて、なぜこのような七十二候の話を書いているかというと、このたった72しかない季節の枠の中に、2度も登場する植物があるのです。冬至の初候(12月22日~12月26日頃)の「乃東生(なつかれくさしょうず)」と、冒頭でご紹介した夏至の初候(6月21日~6月25日頃)の「乃東枯(なつかれくさかるる)」。この「乃東(だいとう)」とは、桜ではなく梅でもない、「夏枯草(なつかれくさ/かこそう)」という植物のことで、「靭草(ウツボグサ)」の異名です。

 ウツボグサは、花穂の形が弓矢を束ねて入れる漆塗りの「靭(うつぼ)」に似ていることから、このような名前が付いたといいます。シソ科の多年草で、北半球の温帯に広く分布し、日本でも山野の草地で見ることができるといいますが、夏草が生い茂るために、意識して探さないと気づかないほどに背丈は低い。花穂の下から順を追ってかわいい紫色の花が咲いてゆき、やがて枯れて茶色くなると、これは漢方薬として利尿や消炎、水腫などに効果を発揮したようです。中国の最古の医学書『神農本草経』(250〜280年頃)にも「夏枯草」の名で収載されていることを鑑みると、往古より慣れ親しんできた生薬ということに。花言葉が「優しく癒す」というのも合点がいきます。

 前述したように、冬至の初候「乃東生(なつかれくさしょうず)」、さらに夏至の初候「乃東枯(なつかれくさかるる)」と二度にもわたり72の狭き枠の中で登場するということは、それほどまでに生薬としての効能が周知されている証なのか。はたまた、往古は其処彼処(そこかしこ)で目にすることのできるほどお馴染みの花だったのか。あれこれと思案してみるものの、もちろん自分などでは結論が出ようはずもありません。ただ…

 最初の画像は、何年か前の6月20日に撮影したものです。夏至の初候が、6月21日~6月25日頃であるならば、まさに撮影の時期に花が咲いています。旧暦と新暦の偏差が40日ほどあったとしても、新暦に移行したのが明治の時代なので、同時代に改定されている七十二候は違和感がないはずです。

 3枚目の画像は、枯れて茶色となったウツボグサ。撮影は7月8日です。花穂の先端から下へと小さな花が順を追って咲いてゆき、下の花がまだ数輪残っていても、先端は茶褐色へと変わっていきます。カレンダーに縛られている人類とは違い、自然の機微を捉えて生きているものとは、年ごとに誤差がでることはもちろんのこと。1週間ほどの差であれば、違和感はないのかとも思うのです。

 とはいえ、昨今の温暖化している日本の気候では、花咲く時期が早くなってもいいようなものです。文明開化とはいえ、まだ医療知識がままならない明治時代にあって、やはり身近で手に入るウツボグサは、無事息災に1年を過ごすうえでも大切な常備薬として貴重なものだったのでしょう。そこで、花咲きすぐに枯れてゆくことを熟知していた古人は我々にこうメッセージを遺したのではないか…

乃東枯(なつかれくさかるる)」と

 皆様はどう思いますか?

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もしますが、これでは不十分であることを、すでに皆様はご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 その旬の食材を美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。さあ、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

 関東はまだまだ梅雨の最中です。この寒暖乾湿の差は、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくもの。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、十分な休息と休養をお心がけください。そして、こまめな休憩と給水をお忘れなきように。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com