kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年7月 Benoit特選食材とお勧め料理のご案内です。

 草木の花々は移りゆく季節の機微を捉え、順を追って咲き誇るもいずれは散りゆきます。食材も同じように「旬」という期間は限られたものであり、「待つ」という優しさはありません。そこで、全ての旬食材は無理でも、Benoitの要望に応えてくれた逸材でこしらえた、まさに「旬の味覚」の料理とデザートをご用意いたしました。その旬の食材とお勧め料理/デザートを、皆様にご紹介させていただきます。

 

≪暑い時期だからこそ、ヴィシソワーズスープで始めてもいい…≫

 冷たいスープで火照った身体を内側から冷まし、食欲を呼び覚ます。かつてアメリカ合衆国で誕生したという冷製「ヴィシソワーズスープですが、どうも英語っぽくはないネーミングではないですか。それもそのはず、考案者であるシェフはフランスのVichy(ヴィシー)の出身だった。この町は、フランスを悠々と流れるロワール川を遡り、遡りさらに遡り、フランスの中央部辺りにまで達したところにヴィシーの街があります。そこで、子供の頃にお母さんが冷たく供してくれたジャガイモのスープが原点にあるのだといいます。

 お馴染みの食材であるジャガイモ。この素材が持ちうる繊細な旨味を生かすために、クリームを極力減らし、ミルクでのばしてゆきます。これだけでも美味しいのですが、そこへプルンと鶏ブイヨンジュレが加わることで、味わいに深みが増してきます。そして忘れてはいけないものが、バターをたっぷりつかったクルトンです。「後のせサクサク」とすることで、香ばしさと心地よい食感が生まれるのです。

 全てを混ぜるように馴染ませてお召しあがりいただくのも良いですが、敢えて混ぜないのも一興なり。スプーンですくう場所場所によって多彩な表情を見せてくれます。色とりどりに咲きほこるアジサイならぬ、Benoitヴィシソワーズスープの味彩をお楽しみください。このヴィシソワーズスープ、次に魚のスープをお選びいただいても自分は止めません。というよりも、お勧めしたいぐらいです!

VICHYSSOISE rafraîchie, garniture taillée

ジャガイモの冷製スープ “ヴィシソワーズ”

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 

≪南仏の港町マルセイユといえば、フランスの漁師料理「魚のスープ」なり!≫

 Soupe de POISSON(魚のスープ)といえば、南フランスの港町マルセイユの伝統的な漁師料理です。ブイヤベースとは違い、煮込んだ魚を食することをせずに、旨味をスープに出しきったもの。Benoitでは、魚そのものの美味しさをお楽しみいただきたく、エビ・カニ・貝類を一切加えず、ワインも使わず、じっくりと時間をかけてこしらえてゆきます。

 このスープを仕込む魚は、「POISSON de roche」という表現でまとめられます。「roche(岩)」だけに「岩魚」やら「磯魚」との訳をあてています。確かに、荒波の磯でもまれにもまれた魚種は美味しいものが多い。しかし、旨味の多い魚が磯ばかりではないことを、深い魚文化の日本人は知っている。

 とはいえ、Benoitのネットワークをもってしても、日本全国から選りすぐりの旬の魚を、数種にもわたり鮮度良く仕入れることは不可能です。そこで、築地から始まり今は豊洲へ、ゆうに80年を超える歴史を持つ老舗魚卸「大芳」の宇田川さんの目利きに頼ります。

 今は、北九州や四国を水揚げ地とする、マゴチにホウボウ、オニカサゴ。さらに、小鯛にイトヨリダイ。7月も後半になると、北日本青森県や北海道からオニカジカも仲間入りすることでしょう。小鯛やイトヨリダイ以外の4種の魚は、似ても似つかぬ容姿ですが、分類上では「カサゴ目」です。ごつごつだったり、とげがあったり、ぬるぬるしていたりと、自分のような素人が捌くには難儀な魚たちで、思いのほか可食部が少ないもの。しかし、見た目からでは想像もつかないほど繊細で美味なる身質なのです。さらに、そのごつい頭や骨からは、得も言われぬ上質な旨味をとることができる。

 どう調べても確証は得られませんでしたが、「roche」とは、そういう「ごつごつの魚」を総称して名付けたのではないとも思うのです。しかし、オニカサゴにオニカジカ…「オニ」「オニ」と、見たこともないのに、鬼にも魚にも失礼千万な話…

皆様の目の前で、スープがそそがれた直後から、磯の香りに包まれます。濃厚な茶色を帯びた深みのあるオレンジ色の液体は、透明感こそないですが輝きがある。濃厚ながら、甲殻類のような濃さではなく、さらりとした感さえあるものの、余韻に感じる魚の美味しさに酔いしれ、猛暑に疲れた体を癒してくれるはずです。一口お召し上がりいただき、目を閉じれば潮騒(しおさい)が耳に届き、目を開ければBenoitの窓越しに地中海が望める…かもしれません。

Soupe de POISSON de roche, rouille et croûtons aillés

魚のスープ ルイユとクルトン

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜として+1,000円でお選びいただけます。

 

 

プロヴァンス地方の夏を代表する料理「ラタトゥイユ」が前菜です!

 夏野菜を代表するナス、ズッキーニ、パプリカをトマトで煮込んでいったプロヴァンス伝統料理です。家でも作りやすいこともあり、馴染みの料理でえはないでしょうか。とはいえ、ご家庭と同じでは「プロの調理人」ではないわけで、Benoitのプリ・フィックスメニューに名を連ねるということは、やはり美味しいということなのです。

 ナス、ズッキーニ、パプリカとタマネギは、それぞれを絶妙な食感を残すように焼いてゆきます。野菜そのものの旨味が、熱が加わることでさらに引き立つかのよう。そして忘れてはいけない食材、、完熟まで収穫を待った真っ赤なパンパンのトマトとともに大鍋で一堂に会するのです。かるく煮込むことは、それぞれの野菜の甘さ凝縮させることになり、甘みが増します。さらに、冷ますことで、味わいが落ち着き、野菜のコクが際立ちます。松の実を加えることで、カリっと心地良い食感と、夏なのでナッツの香ばしさを…さらに、半熟卵のとろりとくる黄身との相性も抜群とくる。

Ratatouille de légumes du soleil, œuf mollet

夏野菜の冷たいラタトゥイユと半熟卵

※ランチのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 パリの赤ペン先生がフランス語表記を修正してきました。「légumes d’été (夏野菜)」から「légumes du soleil (太陽の野菜)」へと。なかなか粋な表現だと思いませんか?

 

Benoit東京で確固たる地位を得た食材…マダコ!≫

 「タコの産地といえば?」という問いに、真っ先に思い浮かぶのが兵庫県の明石(あかし)ではないでしょうか。高品質なうえに、水揚げ量が日本一を誇ります。これほどのタコ銘産地でありながら、存亡の危機に晒された時がありました。今から50年以上も前のこと、この海域に大規模な赤潮が発生し、タコが全滅に近い状況に陥ったのです。タコ産地としての復活を願う明石の漁師さんは、美味しいタコを探すべく全国を行脚したといいます。そして、彼らが選んだのが、熊本県天草のマダコでした。そこで、明石の漁師さんは天草へ船で訪れ、100tほどを譲り受けた後に明石の海に放流したのです。

 天草も明石も、島嶼群であり海流が速いことが、マダコの名産地たらしめているのでしょう。島の沿岸は岩がゴロゴロの磯浜が多く、海中はエビ・カニにとっては最高の住環境を与えてくれます。速い海流は、海水がよどむことを拒み、彼らの食餌となるプランクトンをたっぷりともたらします。そして、このエビ・カニをたらふく食(は)むのがマダコです。今Benoitには、天草の上島(かみしま)南西部沿岸にある「柳(やなぎ)漁港」で水揚げされたものが、直送されています。

 今回の前菜で、欠かすことができない食材が柑橘です。神奈川県小田原中心部から熱海のほうへと沿岸部を進んだ地にある江之浦の地で育まれた「バレンシアオレンジ」がBenoitに届きました。彼の地で柑橘を栽培し、さらに周辺の果樹栽培を生業とする方々をまとめ上げているのが、江之浦果樹園maruesuさんです。創業者が取り入れたのが〇にSという屋号、それでmaruesuというのです。なかなか、気さくな方だったのでしょう。柑橘の北限ともいえるこの出会いは、マダコの前菜のみならず、Benoitの料理・デザートに大いなる可能性をもたらしたのです!

 丁寧に下ごしらえされ、やわらかく茹でたマダコ。そして、極力甘さを控えて仕上げたバレンシアオレンジのマルムラード。さらに、ギリシャ風と銘打たれた野菜が一堂に会します。この野菜のギリシャ風とは、セロリ、ニンジン、タマネギ、カリフラワー、それにラディッシュ。レモンにコリアンダーの種を使い、絶妙な火加減で調理してゆき冷蔵庫で一晩休ませたもの。コリアンダーパクチーのことで、苦手の方の多い香草かと思います。しかし、このコリアンダーの種は、うんともすんともいわない味気ない食材。ところが、野菜とともに熱を加えることで、野菜本来の甘さを引き出すのです。

 ぬくいマダコが、天草産がどれほどの逸材であるかを教えてくれる。さらに、野菜それぞれの食感がリズミカルに口中に響き、野菜それぞれが甘さ旨さの旋律を奏でます。そして、江之浦バレンシアオレンジの甘ほろ苦さが、全ての食材を引きあわせ、調和をもたらす。この美味しさに酔いしれ、Benoitの窓へと目を移すと…そこにはエーゲ海がひろがっている…かもしれません。

Poulpe marinée, légumes à la grecque

天草産真タコと野菜のマリネ ギリシャ

※ディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 

Benoitテリーヌをお忘れなきように!≫

 ビストロというカテゴリーの飲食店において、日本のみならず本場フランスでも欠かすことができない料理が、「テリーヌ」ではないでしょうか。Benoitにおいても、前菜として不動の地位を得ており、メニューから姿を消すことはありません。これほどまでに馴染みの料理でありながら、これといった決まった素材や調理法があるわけではなく、テリーヌ型といわれる陶器の蓋つき容器を使ってじっくり焼き上げたもの。肉に限らず野菜や魚介でも、この型で焼けばテリーヌということになるのです。

 このようにあいまいなカテゴリーなために、シェフによってさまざまなテリーヌが存在することになります。同じ肉主体でありながら、柔らかく仕上げたものもあれば、ゴロゴロと食感が残るようにこしらえたものもあります。違うからこそ、どのようなテリーヌが供されるのかもまた、楽しみの一つなのでしょう。

 Benoitシェフの野口は、長い調理人経験の中で試行錯誤を繰り返し、彼の求める美味しさを追求してきました。そのため、多くの店が提供しているとは、Benoitはひと味もふた味も違う。テリーヌの素材は、豚肉をメインに鶏レバーの加えて粗挽きでこしらえる。数多(あまた)あるテリーヌもそう変わらない。しかし、野口の肉のブレンド比率とスパイスとハーブの使い方が妙を得ているのでしょう、食感が心地よく旨味あふれる逸品に仕上がってるのです。

Terrine de campagne, pain toasté

テリーヌ・ド・カンパーニュ

※ランチのプリ・フィックスメニューの前菜としてお選びいただけます。ディナーでは、「サラダ・グルマン」の付け合わせとして登場いたします。

 

 さらに、鶏の「白レバー」のテリーヌも仲間入りしました。鴨のレバーを太らせたものが「フォアグラ」であれば、ニワトリを太らせると「白レバー」です。これをたっぷりと使うのですが、これではレバーペーストになってしまいます。そこで、粗挽きの豚肉を加え、よく混ぜ合わせ、テリーヌの型で焼き上げます。レバーの比率が高いため、熱が入り過ぎればパサパサとなってしまう。断面がほのかにピンク色となるような職人技ともいえる熱の加え方こそが、このテリーヌの美味しさを決める。まとわりつくような白レバーの旨味をお楽しみいただきたいです。

Terrine de foie de volaille, pain toasté

鶏レバーのテリーヌ

※ディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 

≪イサキがBenoitへ夏を告げに来た!≫

 東北地方以南の海藻生い茂る岩礁域を棲み処にしているイサキ。淡白な味わいの白身で、塩焼きで食べるというイメージをお持ちの方も多いと思います。しかし、旬の名産地のイサキともなると、この固定観念が覆ります。対馬海流や豊後水道でもまれにもまれ、豊富な小エビのようなアミ類やシラスなどの仔魚をたら食(は)んでいるからこそ、きれいな脂がのりにのった黒光りするパンパンの体系なのです。だからこそ、長崎県大分県のイサキは、他に類を見ないほどの美味しさを誇ります。参考までに、魚の鮮度は目の澄み具合で推し量るといいますが、イサキ鮮度に関係なく目が白濁するため、参考になりません。

 Benoitだけに、お刺身で楽しむわけにはゆきません。丁寧に下ごしらえされた、見るも美しい切り身に、最後の一手間である「焼き」という、簡単そうで奥の深い最後の工程が加わります。食材が持ちうる美味しさが、下ごしらえが、全て水泡に帰するかもしれません。「生」ではないが焼き過ぎない。言うは易く行うは難しとは、このことでしょう。職人としての経験に裏打ちされた「焼きの技」が、イサキのさらなる美味しさ引き出すのです。

 この時期のイサキは、「麦わらイサキ」と呼ばれ、夏を告げにくる魚だといいます。そこで、新樹を想わせるような青々とした夏を代表する野菜を添えたいものです。ズッキーニに、インゲン豆やツルムラサキ空心菜などの旬を迎えている緑野菜を細かく切り混ぜ、イサキの下に広げる。野菜それぞれの内包する甘さと心地よいヴィネガーの酸味が、これほどまでに相性が良いものだったのかと思わずにはいられません。

 イサキは「梅雨イサキ」とも呼ばれています。梅雨時期の寒暖乾湿の差が厳しい日々が、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくものです。そこで、夏の到来を教えてくれたイサキと夏の緑野菜を美味しくいただくことで、乗り切ろうではありませんか。旬の食材には、今我々が欲している栄養が満ち満ちているのですから。

ISAKI au plat, légumes verts, sucs de cuisson

イサキのソテー 緑野菜

※ランチとディナー、ともにプリ・フィックスメニューの魚料理としてお選びいただけます。

 

 

≪剣先イカ、シロイカ、アカイカ、皆様いかが?≫

 関門海峡を横切るように架かる瀬戸大橋。その山口県側の下関沿岸、橋のたもとから少し西側へ向かった先に、唐戸市場が開けています。そこでは、毎日のように近海で水揚げされた旬の魚介類が競り落とされ、地方に送られるばかりではなく、その場でも購入することができ、さらには美味しくいただくこともできます。

 彼の地で、鮮魚店を営んでいる道中さんが、まさに旬を迎えている剣先イカをBenoitに送り出してくれます。剣先イカ山口県では「シロイカ」と呼び、島根県では「アカイカ」といいます。その地その地で愛称があるということは、旬の食材として愛着があることの証ではないでしょうか。それでも「白」と「赤」では、違い過ぎるのでは…そう思うも、鮮度の良い剣先イカの姿を見ると、なるほど!と思ってしまう自分がいます。

 「味のアオリイカ、食感の剣先イカ」と評される2種のイカアオリイカのほうが美味しいの?ということではなく、ともに美味しさ際立つイカであり、甲乙つけがたい。そこで、あえて違いを表現すると…こうなるのです。しかし、それぞれのイカは旬が異なるため、自分の中では「夏の剣先イカ、冬のアオリイカ」となる。そう、今の時期はアオリイカではなく剣先イカなのです!

 この剣先イカの食感を生かすように、Benoitシェフの野口は「焼き」にこだわりを見せる。焼き切ってしまえば、ただの焼きイカ。そこで、表面をちゃっちゃと軽く焼き、イカがくるっと反るようになった段階で、火から上げてしまうのです。この「mi-cuit(ミ・キュイ)」という焼きこそが、剣先イカが剣先イカたらしめる、その美味しさを発揮できるのです。

 バスク風のピペラードとは、パプリカと玉ねぎをしんなりと炒めることで野菜そのものの甘さを引き出し、完熟トマトでコクと心地良い酸味を加え、さらに生ハムで旨味を足したもの。これだけでも美味しい!これを剣先イカとともにお皿にも盛り付け、ニンニクで香りづけしたほわほわミルクをかぶせ、忘れてはいけないイカ墨のソース。さらに、バスク地方の特産である「Piment d’Espelette(ピモン・デスプレット)」をハラハラと。ん?ピモン・デスプレット?

 

 スペインと国境に近い海沿いに、Saint-Jean-de-Luz(サン・ジャン・ド・リュズ)という港町があります。美しい建物が並ぶ港町であり、美食の街とも呼ばれています。この町から東へ山の中を進むこと20kmほどでしょうか、Esprette(エスプレット)とう村に到着します。そう、この村の名を冠したものが、前述したPiment d’Esprette(エスプレット村の唐辛子)で、AOPの認証を受けている逸材です。

 ワインはAOCという表記で、原産地を名乗るためにクリアしなければならない厳しい規定があることはご存知かと思います。その食材版であり、EUという広範囲で規定したものが、このAOP(Appellation d'origine protégée / 原産地呼称保護)です。今ではワインのAOCルールも、このAOPに組み込まれており、AOCのルールがより厳格なため、ワインの表記はどちらを記載しても良いことになっています。ということで、AOPは、原産地を守り、品質を維持するため、フランス政府のみならずEU加盟国が保証した食材のこと。チーズもこの部類に入ります。

 このピモン・デスプレットははエスプレット唐辛子などと表現されるのですが、辛いだけではありません。日本の唐辛子よりも一回りも二回りも大きく、パプリカのように肉厚なので、野菜特有の甘味をも兼ねそろえているのです。夏に収穫したものを軒下に、まるで干し柿のように吊るして乾燥させる光景は、この村の風物詩です。窓枠と比較してみると、いかにこのピモン・デスプレットが大きいかお分かりいただけるのではないでしょうか。

 

 剣先イカの旬の旨さを際立たせるかのような夏野菜。香り良いミルクのまろやかさ。イカ墨のソースで、さらなる旨味を加ええる。さらに、はらはらと振りかかるフランスの旧バスクの地、エスプレット村の特産唐辛子が、ピリりと全体を引き締める。全てが一堂に会する時、そこには旬そのものお楽しみいただける一皿が姿をみせます。

 「夏の剣先イカ、冬のアオリイカ」…今季も以下の季節が始まりました。秋に姿を見せる「アオリイカ」とは違う美味しさをお楽しみください。

Poêlée de calamars au piment d’Espelette, garniture d’une basquaise

下関産剣先イカポワレ パプリカのピペラード バスク

※ランチとディナー、ともにプリ・フィックスメニューの魚料理としてお選びいただけます。

 

 

Benoitでは、年に一度だけ姿を見せる仔羊です。≫

 「品質と特徴が、特殊な地理的環境に起因する」という大原則のもとに、EU加盟国で批准されているのがAOP(原産地呼称保護)。この厳格な基準よりも少しだけゆるくしたものがIGP(Identification Géographique Protégée / 地理的表示保護)というもので、「生産地に起因する品質、社会的評価、特徴がある」という解釈です。基準が緩和されたとはいえ、もちろん生産地が限定され、栽培・飼育に厳しい条件があるのです。

 今回、Benoitに届いている仔羊は、このIGP認定を受けている「Agneau de Lozère (アニョー・ド・ロゼール)」です。南フランスに位置する、かつてのLanguedoc-Roussillon(ラングドック・ルーション)地域圏とMidi-Pyrénées(ミディ・ピレネー)地域圏が合併してできたOccitanie(オクシタニー)地域圏の、北東に位置するのがLozère(ロゼール)県。この山岳部は、石が多く痩せた土壌で乾燥した気候から、2000年以上も前から羊の飼育が盛んだったという歴史を持ちます。

 この飼育環境のもとで、自然に乳離れするまで母羊に哺乳させ、人工飼料は与えないなどという、厳しい規定をクリアしたもののみがアニョー・ド・ロゼールを名乗ることができます。その肉はピンクがかった白色が美しく、肉質は絹のように滑らかで、きめが細かく引き締まっており、脂肪は硬く、ほのかに草の香りがする気がします。

 

 仔羊は丁寧にトリミングを施し、背肉を表面に焼き色を付け、ふつふつとしたバターをふりかけながら、ゆっくりゆっくり熱を加えてゆく。この魅惑的な香りをどう表現したものか。表面には美味しそうな焼目がつくが、中はまだ生のままです。肉が内包している温まった肉汁を利用し、中からじっくり熱がゆきわたるように、温かい肉部屋で休ませロゼ色に焼きあげます。この美しい焼色なくして、仔羊の美味しさを味わえないでしょう。

 トマト、ズッキーニ、ナスにピキオス(バスクパプリカ)と彩り豊かな夏野菜にパルメザンチーズを振りかけオーブンへ。チーズが溶けてふつふつとしたところで、仔羊とともに盛り付けます。目の前に運ばれてきた時、仔羊の焼き色と夏野菜のグラチネの色のコントラストが目を引き、甘い野菜と焼いたパルメザンチーズの香りが漂います。そこへ、仔羊の旨味の凝縮したソースを、そっとお肉へかけてゆく。全てが一堂に会する時、なぜシェフがお勧めするのか、お分かりいただけるはずです。

 ブノワでメニューの中に仔羊のローストが名を連ねるのは、7月末までです。この機会をお見逃しなく!

AGNEAU rôti, légumes gratinés

仔羊のロースト 野菜のグラチネ

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、主菜として+2,000円でお選びいただけます。

※産地が変更になることもあります

 

 

≪豚ホホ肉を知ると、もう牛ホホ肉には戻れない…≫

 豚ホホ肉…あまりにも豚肉が身近な食材なだけに、言われてみれば、特段珍しいものでもないはずなのに、見かけることは皆無でないでしょうか。なぜだろうかと考えてみました。思うに、名だたるレストランが牛ホホ肉の料理を提供しているために、豚ホホ肉の価値が見いだせていないのではないかと。お肉屋さんも、販売できない部位ではなく、販売しても売れない部位だから取り扱わない。だから、我々には馴染みがない食材なのでしょう…これほどまでに美味しいのに…

 牛ホホ肉の煮込みでは、赤ワインを使用します。しかし、豚ホホ肉は繊細な旨味があるため、白ワインを使います。香味野菜とともに煮こむこと1時間ほど、ほろりと崩れるようになる。ここでホホ肉を避難し、鍋に残った旨味のスープを煮詰め、フォン・ド・ヴォーを加え煮詰めたてゆく。この旨味そのものであるとろみのあるソースを、避難させていたホホ肉に絡め、ズッキーニとともに盛り付けます。パスタは別添えで。ナイフが必要ないほどに、ほろっと崩れるようにやわらかい豚ホホ肉、Benoitのランチでお楽しみください。

 どうして食材として名が挙がらないのか?と不思議になるほどの美味しさがあります。そう、豚ホホ肉を知ってしまうと、もう牛には戻れなくなる…

Joues de cochon cuisinées longuement, courgettes et pâtes fraîches

豚ホホ肉の煮込み ズッキーニとフレッシュパスタ

※ランチのプリ・フィックスメニュー、主菜としてお選びいただけます。

 

 

≪ボーノ(美味しい)という名を冠したボーノポーク?!

 「ボーノポーク」は、イタリア語で美味しいという意味の「ボーノ」という言葉を冠し、なんとも軽々しい印象を受けますが、その実は、岐阜県の中濃ミート事業協同組合の威信にかけて育て上げた銘柄豚です。飼育地は、県内の瑞浪(みずなみ)市、山県市、揖斐(いび)市の3地域。3つの種の掛け合わせで誕生した三元豚で、そのひとつが霜降り割合を増加させる能力を持つ、岐阜県が開発育種した「ボーノブラウン」という種豚です。

 抗酸化能とオレイン酸を多く含む植物性原料を含み、飼料中のアミノ酸バランスを調整した専用に開発された飼料を与えています。この飼料を含め、徹底した管理のもとで飼育されることで、霜降り割合が一般的な豚肉の二倍にものぼり、肉自体の旨味を十二分に堪能できる上に、脂の甘味か加味されるのです。さらに、一般に流通している豚肉よりもドリップロスが少なく、肉の旨味が逃げにくいのが特徴といいます。

 飼育した全てが「ボーノポーク」というブランドを冠することはありません。県下の和牛ブランド「飛騨牛」が、霜降り具合を目視によって5等級なのか4等級なのか、はたまた3等級なのかと振り分けるように、この豚もまたロース部位を目視によって判別してゆきます。違う点は、区分けが「ボーノポーク」か「一般的な豚」の2択であるということ。

 皆様が、「ボーノポーク」という豚の名前を耳にしたことがないのも当然、徹底した管理のために多くを飼育できない上に、厳しい選別ゆえに流通量が極端に少ないのです。その、貴重な豚肉がBenoitに届いています!どれほど美味しいのか?それは、Benoitが4年間にもわたり他の豚へ浮気しないことがなによりの証(あかし)です。

 

 どれほどのブランド肉でも、豚肉は生では食せず、良く焼くと硬くなります。そこで、ロースの部位を厚めにカットするのですが、休ませながら断面がうっすらとピンク色になるように丁寧に焼き上げることで、しっとりとした食感とボーノポークの旨味を十二分に堪能できるのです。さらに、ディジョンマスターにエシャロットの甘みを加えたものを下に、オリーブ2種とクルミを細かくカットしたものを上に。ボーノポークと会いまった時、その美味しさが際立つかのよう。この味わいのバランスこそが、この料理の神髄です。

Longe de cochon de Gifu en cocotte, pommes de terre nouvelles, lard paysan et cébettes

岐阜県ボーノポークロース肉のココット焼き 新ジャガイモと九条ネギ

※ディナーのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

 

 

鴨がネギをしょってくる?いやいやBenoitでは柑橘です。

 フランス料理で肉食材といえば、まっさきに思い浮かぶものは鴨ではないでしょうか。Benoitでも人気を誇る食材で、今までは、フランスやハンガリーから送られてきていました。…「た」、「送られてきています」と綴りたいところなのですが、残念ながら手に入れることができていません。これは戦争の影響ではなく、ひっそりとヨーロッパで広がりを見せている鳥インフルエンザの影響です。当面の間、鴨という食材の選択肢はないものと思っていました…

 また、「た」です。しかし、今度は喜びの「た」です。そう、フランス原産のバルバリー種の「津軽かも」と出会ったのです。このブランド名からお察しかと思いますが、飼育場は青森県津軽地方の6か所に点在しています。雄大な山々があり、そこより湧きいづる豊富な水資源、四季折々の優しさに厳しさ、この自然環境こそが、鴨にストレスを与えず健康に育て上げることのできる理由なのでしょう。さらに、平飼い開放鳥舎によって余裕のある飼育面積を確保し、飼料も独自開発したものを与えるという徹底ぶりです。

 

 バルバリー鴨は、他の鴨と比べて皮下脂肪が薄く、赤身は濃い鮮紅色です。鴨特有の臭みが少ないとはいいますが、やはり鴨は鴨。この独特の臭みの大部分は脂についているため、Benoitでは皮目に隠し包丁を入れ、余計な脂を落とすように焼き、その後は低温でじっくりと、表面がロゼ色になるようにこしらえます。

 「鴨がネギをしょってくる」とは言いますが、Benoitはフランス料理店なので、ここはオレンジをしょってきてほしいものです。しかし、ここで海外のオレンジを選ぶようでは、これほどまで食材にこだわるBenoitの名折れというもの。そこで、登場するのが、タコの料理でご紹介した神奈川県の江之浦果樹園maruesuさんの「バレンシアオレンジ」です。

 この時期に、これほどまでの品質のバレンシアオレンジに出会えるとは。それも露地栽培だからこその濃ゆく甘さに心地よい酸味に果皮の深みのある苦みがあり、ノーワックスとくる。Benoitにとって果肉はもちろん、果皮も重要な食材なのです。このバレンシアオレンジを惜しげもなくまるまると、軽くシロップで加熱したコンフィに、さらに細かくたたくように仕上げたコンディモンへと仕上げてゆきます。コンディモンとは、日本でいう薬味のようですが、味の重大要素を構成するためのアイテムです。

 青森県の「津軽かも」と江之浦の「バレンシアオレンジ」が。東京のBenoitで出会いました。ほぼ無農薬にノーワックスだからこそ、果実はもちろん果皮をも使って表現する鴨料理です。柑橘のもつ爽やかな香りに、ほど良い酸味と果皮の優しいほろ苦さが生かされたコンフィとコンディモン。この食材のマリアージュを、惜春の思いとともにお楽しみください。

Canard de Aomori à l’orange, carottes et navets

青森県産鴨胸肉のロースト カブとニンジン オレンジ風味

※ディナーのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

 

 ランチでは、「津軽かも」の代わりに、「丹波黒どり(たんばくろどり)」で、同じようなスタイルでご用意いたします。この鶏は、フランスの地鶏「ラベルルージュ」の血統をもち、京都で育種され地鶏認定を受けたもの。飼育羽数を制限し、90~100日という長期にわたる飼育期間は、きめ細かな肉質に、上質な脂肪分とコクのある味わいを約束してくれます。

 しかし、鶏肉であるがために、調理方法によっては、パサパサになってしまう難しい難しい食材です。そこで、Benoitでは、丁寧に下ごしらえされた丹波黒鳥の胸肉ともも肉を骨付きのまま、低温調理を施します。旨味を逃がさず損なわず、ゆっくりと。仕上げは、表面が色付くように焼いてゆくことで香ばしさを加味してゆきます。

さあ、「丹波黒どり」と江之浦の「バレンシアオレンジ」とのマリアージュをおたのしみいただけるのはランチのみです。

Volaille de Kyoto rôtie aux agrumes, carottes et navets

丹波黒どり"のロースト カブとニンジン  柑橘風味

※ランチのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

 

 おや?鴨料理の画像にカブとニンジンの姿がないけれども…と気づかれた方がいらっしゃったのではないでしょうか。料理画像で鴨肉に添えてあったのは「フェンネル(ウイキョウ)」です。この野菜は、さわやかな香りにやさしいセロリのようで、魚や肉料理を問わずして、Benoitでは必須の食材の一つ。しかし、馴染みがないからこそ、栽培している方が少ないのです。

 どうしたものかと思いあぐねる中で、香川県の野菜への想いが並々ならぬ八百屋「sanukis(サヌキス)」の鹿庭さんが、「栽培している方がいる」と教えてくれたのです。さっそく購入してみると、シェフが絶賛するほどの見事なフェンネルが届いたのです。すでに収穫期ということで、栽培していた全量をBenoitで購入しました…これは、年末年始のこと。

 香川県三豊市に畑を有する真鍋農園の園主である真鍋基彦さん、彼との出会いがBenoitフェンネル問題に新たな道筋を切り開いてくれたのです。今季から、Benoitのためにフェンネル(ういきょう)を植栽してくれるのです。さらに、暑さ寒さに弱いというフェンネルを、「初夏収穫が可能かもしれない…」とのことで、2月に1畝だけ植栽してくれたのです。それが、見事に育ったのです。そう、彼が丹精込めて育て上げたフェンネルがBenoitに届いた!

 そこで、カブとニンジンをお休みし、真鍋さんのフェンネルをご用意いたします。ディナーは青森県の「津軽かも」、ランチでは京都府の「丹波黒どり」、はつらつとした香りにきれいな酸味、さらに果皮の心地よいほろ苦さの神奈川県江之浦果樹園さんのバレンシアオレンジ、それにさわやかな風味にやさしい甘さも併せ持つ香川県真鍋さんのフェンネルが一堂に会するのです。

※在庫がなくなりしだいカブとニンジンに戻ります。

 

 

≪フランスの伝統デザート「リ・オ・レ」を完熟マンゴーで包む!?≫

 「Riz au lait (リ・オ・レ)」の、rizはお米のことで、au laitはカフェ・オ・レのオ・レのこと。このフランスの伝統デザートはお米をミルクで煮たものなのです。稲作文化の日本人には、お米をミルクで煮ることになにかしらの抵抗感があるものです。これは、フランス人が豆を甘く煮た「あんこ」に感じるものと同じかもしれません。

 このお米のミルク煮に対する先入観を消し去ってみると、リ・オ・レとはなかなかに美味しいものなのです。Benoitでは、コシヒカリではなく、リゾットように品種改良されたカルナローリというお米を使い、まろやかな甘みと素朴な風味が特徴の栗のハチミツを加え、米に芯が残る程度にミルクで煮てゆきます。これを、マンゴーで包む…

 宮崎県の完熟マンゴーは、ハサミを使った収穫ではなく、完熟して自然落果するのを待ちます。だからこそ、芳醇な香りに濃厚な味わいがある筋っぽくないのです。自然落果を待つということは、いつ収穫できるか「マンゴーに聞く」しかないのです。そのため、今季はBenoitに届くまで、3週間を待つことになりました。

 サイコロ状にカットしたこのマンゴーの上に、リ・オ・レをのせます。そこへ、カラメルとハチミツを使った2種のマンゴーのソースを、くるくると描くかのように絞り、マンゴーの果肉で包みます。まったりとしたリ・オ・レに、濃厚濃密な完熟マンゴーの組み合わせ…これでは味わいがぼやけてしまう。そこで、アラン・デュカスグループのアジア圏を統括するエグゼクティブ・シェフパティシエであるアリテア・ロシニョールは、このデザートに、なんと!ショウガとほんの少しのコリアンダー(パクチー)を加えるのです。

 Benoitだからこそ、マンゴー尽くしのデザートではない。それぞれの個性豊かな味わいを、ショウガという魔法をかけることで、一つのデザートへと仕上がってゆく。まるでヒマワリの花のようにこのデザートが、どのような美味しさなのか想像がつきますか?

Riz au lait à la mangue

宮崎県産完熟マンゴーのリ・オ・レ

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートとして+1,500円でお選びいただけます。

 

 

Benoitの夏のデザートといえば、ピーチ・メルバです!今季は630日から≫

 いよいよ桃の時期がやってまいります。この時期になると、自分の中では緊張感が高まってきます。お馴染みの食材である桃、皆様の中では7月から8月中旬までの期間が旬というイメージをお持ちかと思います。しかし、桃一品種の収穫期は一週間ほどという短さなのです。そこで、桃農家さんは実るための手間暇の分散と、少しでも長く皆様へ美味しい桃を提供できるようにと、収穫期の違う品種を植えるのです。さらに、桃という果実は栽培者のこだわりを強く反映する気がするのです。有名な産地は確かに栽培適地です。だからといって、その産地すべての桃が美味しいとは限りません。

 「魔法使いでもない限り、素材以上の美味しさはありえません。それを生かすも殺すも調理人の腕にかかっている。」と自分は考えています。自分にできることは、こしらえることではなく、美味しい食材を滞りなくBenoitに届くように画策すること。皆様が待望するピーチ・メルバを欠かすことができないというプレッシャーに加え、パティシエチームからは美味しい桃を手に入れるようにと念を押される。

 今季も綱渡りのような時期が始まります。まずは、熊本県の西川農園さんの「日川白鳳」と、香川県の桃名人大西さんの想いを引き継いだ草水さんの「夏おとめ」から。Benoitに届いた桃は、パティシエールチームによって追熟させてゆき、ここぞという時にデザートに姿を変えてゆくきます。そのため、どの産地でどの品種かが、目まぐるしく変わってゆくのです。昨年は日ごとに変わった時期もありました。品種によって味わいが異なることを考えると、一期一会のようなデザートといえるかもしれません。

 デザート「ピーチ・メルバ」は、6月30日に姿を現します。今季は、アリテア・ロシニョールによって、ピーチ・メルバという字面は同じでも、全くといっていいほど違う姿に変わります。皆様がBenoitにお運びいただくタイミングでは、黄桃「黄金桃」も登場するかもしれません。

Pêche Melba

ピーチ・メルバ

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートとして+800円でお選びいただけます。

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もします。これでは不十分であることは、すでに皆様ご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 「春」とはどのような季節なのでしょうか。薬膳の先生の言葉を借ります。「春は陽気に誘われるかのように、気持ちが上ずってしまう時期です。」確かに、寒い冬が終わり、ぽかぽかともなると、花粉症で苦しむ中でも気持ちが高ぶってくるものです。しかし、この高揚感に、身体がついてゆかず、心と体のバランスが崩れることで体調不良を引き起こしてしまうのだというのです。

 そこで、気持ちの高ぶりを落ち着かせるために、薬膳では春には「香りの良いもの」を取り入れる。往古、この時期の日本では山菜を楽しむ習慣があります。この春を代表する山の幸の「やさしいほろ苦さ」も同じ効用だといいます。そして、「シェフは薬膳を知らないと思うけれど、旬の食材で組み立てる料理こそが薬膳の考え方そのもの」なのだと。

 季節が過ぎ去ってゆくように、柑橘も品種を変えながら、産地も西から東へと、順を追って終わりを迎えていきます。さあ皆様、香り高く心地よい酸味の利いた柑橘を、食生活の中に取り入れませんか。美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。疲労困憊の時には、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。末筆ではございますが、皆様のご健康とご多幸を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com