kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

五月雨の中で、ひっそり咲き誇るこの花は?

五月雨に ひとり日をふる ながめこそ なかなか伴(とも)の ある心ちすれ  寂然(じゃくねん)

  五月雨(長雨)が降り続くので、一人物思いに耽(ふけ)る日々。これがまたなんでも話を聞いてくれる従者と共にいるようで、一人でも退屈しないもだ。長雨もそう悪くはない、と寂然は詠う。今回の熊本豪雨のような記録的な大雨は例外とし、ぽつぽつとリズミカルに屋根板や地を叩く音。厚い雲で覆われながらも、夜が明け、おぼろげなる陽射しに輝く、草木の雨玉。軒下から、緩急織り交ぜて滴(したた)る雫(しずく)。確かに物思いに耽るにはうってつけかもしれません。

 「ふる」は「雨が降る」であり「時が旧(ふ)る、経(へ)る」という意も込められているいいます。さらに、「ながめ」は「眺め」であり「長雨」だといいます。「掛詞(かけことば)」、学生の頃には悪態をついたものですが、時が旧るほどに、この言葉遊びともとれる技の美しさに魅せられます。大いに物思いに耽ることができる梅雨時期だからこそ、これほどの「技巧を極めた」美しい歌を仕上げてしまったのでしょうか。

 その寂然の眺める先に、きっと咲いていたであろう、可憐な白い花…

 

 山眠る季節、自分の故郷である新潟県は、厚い雲に覆われる日々が続きます。しんしんと降り積もる雪の中から顔をのぞかせる「真っ赤なナンテンの実」に、ついつい足をとめてしまう。見事なまでにたわわに実った真っ赤な姿は、心ふさぎがちの我々に、何やら希望を与えてくれるようです。 

f:id:kitahira:20200708100630j:plain

 「ナンテン」は、漢字では「南天」と書きます。この読みを引用して、日本では「難転」と漢字を当てています。「難を転じて福となす」ということで、お正月飾りなどには欠かせない縁起物の樹。結実しても、可食できるわけではないにもかかわらず、庭木として植栽されているのは、前述したように、冬に我々を勇気づけてくれるからなのでしょう。

 なぜ、今この時期にナンテンの話を書いているのか?

 この五月雨の時期に、ナンテンの花が、人知れず咲き誇っているのです。これほどまでに目を惹く実をたわわに実らせる樹にもかかわらず、その花は可憐なほどに小さい。花が小さくとも、一斉に花開くのであれば、華やいだ雰囲気になるものですが、小さな花を、順々に咲かせてゆくのです。下の画像は、ナンテンの花を撮影したもの。白いふんわりとしたものは、花ではなく蕾。其処此処(そこここ)に見える、淡い黄色の小さいもの、これがナンテンの花。まばらに咲いてゆくのです。

f:id:kitahira:20200708100618j:plain

 ナンテンは虫媒花(ちゅうばいか)の分類に属し、受粉するのに虫の手助けを必要とします。そのため、虫たちが活動できない雨の日が続いた場合、受粉できずに花粉が雨で流れ落とされるという緊急事態に陥ることになります。ところが、この樹が花咲かす時期は、まさに今頃、梅雨の最中です。

 苛烈な自然界の生存競争を勝ち抜くためにも、開花は結実へと直結するために、大切な時期のはず。しかし、ナンテンはこの五月雨時期に開花することを選んだのです。人眼には可憐に映るこの花も、虫たちにとっては、地味で小さな花である。だからこそ、多くの花が咲き誇る「春」という時期を避け、雨の多い時期を開花に選ぶことで、生存競争を勝ち抜こうとしたのでしょうか。しかし、雨によって花粉が流れ落ちるリスクは看過できない。そこで、ナンテンは考えた!

f:id:kitahira:20200708100622j:plain

 花を一気に咲かせずに、開花タイミングを「ずらす」ことで、このリスクを回避しよう、と。小さな小さな花であり、順々に花開くために、虫たちに気付いてもらえない可能性もある。そこで、真っ白な蕾を群を成すことで、花が咲いているような姿となり、虫たちを集めることにした。そうすることで、苛烈な自然淘汰の中で勝ち残っていった、のだと思います。

 さすがに専門家ではないので断定はできませんが、なかなか説得力があるのではないでしょうか。思うに、この梅雨時期に花開く草木には、順々に咲くものが多い気がします。さらに、白く色づくことで虫たちを誘惑するものも。ヤマボウシハンゲショウ…下の画像はヤマボウシです。白く見えるのは花ではなく、葉っぱなのです。地味な小さな花が中央にあり、虫たちに「咲いてるよ」と教えているのが、この白い葉だといいます。

f:id:kitahira:20200708100633j:plain

 ナンテンの樹を植栽することに決めた家主は、「難を転じて福となす」という縁起物として、真冬にたわわに実る真っ赤な実を期待したのでしょう。そのため、軒下に植えてあることが多いかと思います。雨をしのぎ、少しでも多くの実を成すことで、「我が家に多くの福が実る」ことを期していたのでしょう。

 梅雨時期に、よくよくナンテンの樹を眺めてみると、可憐な花の美しさに感じ入るはずです。さらに、初春の若葉の透き通るような緑が美しい中で、ひときわ目を惹くナンテンの紅葉の美しさに、心惹かれることでしょう。「縁起物の実」というだけではなく、四季折々に我々の目を楽しませてくれること、これが庭木として重宝されている理由のはずです。

f:id:kitahira:20200708100626j:plain

 鑑賞用とばかり思っていたのですが、「南天葉(なんてんよう)」には、殺菌効果があるようです。お弁当や赤飯などに添えることは、彩りばかりが理由ではありませんでした。さらに「南天実(なんてんじつ)」は、昔から咳止めの生薬として活用されています。常盤薬品さんの「南天のどあめ」などは、まさにこの成分を利用した医薬品です。そう、医薬品です。効能を知っていても、素人が手を出してはいけません。

 

 自然界で淘汰されず生き残るため、ナンテンナンテンなりに考え、いや考えたのではなく進化を遂げてきたのでしょう。梅雨時期の順に花を咲かせることで、結実不良のリスクを減らす。可憐な花は、風雨に負けないためか、はたまた人間に摘まれないためなのか?梅雨時期の白色は、虫たちにアピールするためのものといい、結実時期の真っ赤な実と緑美しい葉のコントラストは、鳥たちへのアピールだといいます。彼らにそのような色彩感覚があるのか?無いからこの色なのか?思うほどに謎ばかり。

 ナンテンは、「難を転じて福となす」べく、進化を何千年と続けている。我々は縁起物というよりも、ナンテンに学び、「難を転じて福となす」よう努力すべきなのかもしれません。「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。行動し続けることが、いずれ結実します。今ナンテンに出会えたことは、我々にそう教えてくれているのかもしれません。五月雨の頃、そうこう思い耽るのも一興かもしれません。

 

 Benoitの一角に個室のようなスペースがございます。通常は5つほどテーブルを配置して営業を行っているため、すでにご存じの方も多いのではないでしょうか。

f:id:kitahira:20200708100614j:plain

 そこで、今回皆様にご提案させていただくのが、≪平日限定「7月個室プラン」≫です。7月と銘打った理由は、自分がシェフと相談し、皆様にお勧めしたいコース内容を組立てさせていただきたいのです。そのため、このプランは8月以降も継続しようと思いますが、料理内容は変更になります。

詳細は別ブログに書き記しております。以下よりご訪問いただける幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

 そう遠くない日に、「マスク無し」で笑いながらお会いできることを楽しみにしております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、熊本豪雨によって甚大なる被害を被った地のいち早い復興を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com