kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年7月Benoit 「Benoit東京で確固たる地位を得た夏食材…マダコ!」

 「タコの産地といえば?」という問いに、真っ先に思い浮かぶのが兵庫県の明石(あかし)ではないでしょうか。高品質なうえに、水揚げ量が日本一を誇ります。これほどのタコ銘産地でありながら、存亡の危機に晒された時がありました。今から50年以上も前のこと、この海域に大規模な赤潮が発生し、タコが全滅に近い状況に陥ったのです。タコ産地としての復活を願う明石の漁師さんは、美味しいタコを探すべく全国を行脚したといいます。そして、彼らが選んだのが、熊本県天草のマダコでした。そこで、明石の漁師さんは天草へ船で訪れ、100tほどを譲り受けた後に明石の海に放流したのです。

 天草も明石も、島嶼群であり海流が速いことが、マダコの名産地たらしめているのでしょう。島の沿岸は岩がゴロゴロの磯浜が多く、海中はエビ・カニにとっては最高の住環境を与えてくれます。速い海流は、海水がよどむことを拒み、彼らの食餌となるプランクトンをたっぷりともたらします。そして、このエビ・カニをたらふく食(は)むのがマダコです。今Benoitには、天草の上島(かみしま)南西部沿岸にある「柳(やなぎ)漁港」で水揚げされたものが、直送されています。

 今回の前菜で、欠かすことができない食材が柑橘です。神奈川県小田原中心部から熱海のほうへと沿岸部を進んだ地にある江之浦の地で育まれた「バレンシアオレンジ」がBenoitに届きました。彼の地で柑橘を栽培し、さらに周辺の果樹栽培を生業とする方々をまとめ上げているのが、江之浦果樹園maruesuさんです。創業者が取り入れたのが〇にSという屋号、それでmaruesuというのです。なかなか、気さくな方だったのでしょう。柑橘の北限ともいえるこの出会いは、マダコの前菜のみならず、Benoitの料理・デザートに大いなる可能性をもたらしたのです!

 丁寧に下ごしらえされ、やわらかく茹でたマダコ。そして、極力甘さを控えて仕上げたバレンシアオレンジのマルムラード。さらに、ギリシャ風と銘打たれた野菜が一堂に会します。この野菜のギリシャ風とは、セロリ、ニンジン、タマネギ、カリフラワー、それにラディッシュ。レモンにコリアンダーの種を使い、絶妙な火加減で調理してゆき冷蔵庫で一晩休ませたもの。コリアンダーパクチーのことで、苦手の方の多い香草かと思います。しかし、このコリアンダーの種は、うんともすんともいわない味気ない食材。ところが、野菜とともに熱を加えることで、野菜本来の甘さを引き出すのです。

 ぬくいマダコが、天草産がどれほどの逸材であるかを教えてくれる。さらに、野菜それぞれの食感がリズミカルに口中に響き、野菜それぞれが甘さ旨さの旋律を奏でます。そして、江之浦バレンシアオレンジの甘ほろ苦さが、全ての食材を引きあわせ、調和をもたらす。この美味しさに酔いしれ、Benoitの窓へと目を移すと…そこにはエーゲ海がひろがっている…かもしれません。

Poulpe marinée, légumes à la grecque

天草産真タコと野菜のマリネ ギリシャ

※ディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

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 関東はまだまだ梅雨の最中です。この寒暖乾湿の差は、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくもの。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、十分な休息と休養をお心がけください。そして、こまめな休憩と給水をお忘れなきように。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com