kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年6月 Benoitミュージックディナー「フレンチでタンゴ」のご案内です。

 動物界においては、自ら動き語ることで、パートナーとの出会いを探し求めるようです。美しく響き渡る小鳥たちのさえずり。さらには、美しくもリズミカルに舞うタンチョウ。どちらも、鳥たちにとっては言葉がなくとも通じる求愛の形です。

 人間の歴史を紐解いてみても、言葉という意思疎通のできるツールが無くとも、リズムを奏で、踊ることで神々と語り、感謝の気持ちを伝え、未来を占ってもらおう、もしくは導いてもらおうとしていることがわかります。力強くもリズミカルな太鼓の音に高ぶる気持ち、激しい舞を躍ることで神と一体化する儀式。神妙なる音楽に任せて、ゆったりと舞う巫女さんの姿には、尊厳の念を感じるものです。ほんの一例ですが、どちらも言葉を必要としません。

 神々への畏怖・畏敬の念から、愛情表現へと変わってゆくことは自然の流れであったはずです。そして、人々が切磋琢磨することで、至上の高みへ達した時、我々を魅了して止まない芸術となる。その一つが、「アルゼンチンタンゴ」です。そこで、「フレンチでタンゴ」と銘打って、皆様に音楽と舞の共演を、お食事も含め、五感を通してBenoitでお楽しみいただこうと思います。

 堤崎尚子さんとCristian Andrés Lópezさんは、2008年よりクリスティアン&ナオとして本格的に活動を開始し、翌年には世界選手権サロン・ステージ両部門でのファイナリストにまで上り詰める。さらにここから2012年まで4年連続での両部門ファイナリストという快挙を成し遂げるのです。

 情熱的・官能的でアクロバティックな踊りがタンゴダンスを思ってしまうのですが、彼らの舞を目の当たりにすることで、このようなタンゴのイメージが瓦解するのは必須。タンゴダンスの原点は「abrazo(抱擁)の舞」、彼らは我々に「パートナーと共に歩む」ことの大切さを伝えようとしている。

 しなやかながら機敏に流れ、一糸乱れぬ見事なステップの織りなす彼らの華麗なるダンス…感情のぶつけ合いや、挑戦的な行為を全て削ぎ、パートナーの優しさを感じることで、共鳴する感情を表現する。水の流れのように…清流のごとく美しくも繊細にしなやかに。さらに、緩急を織り交ぜながら…そうかと思えば、時の流れとともに大きな川へと変わり、緩やかながらも随所に見せる力強さ。そして母なる海へと導かれ、全てがまとめあげられ、見るものに感動と安堵感を与える。これが彼らの表現する舞です。

 飛ぶ跳ねる投げるなどのアクロバティックなものは、華やかに感動を思えるものですが、一見で十分です。彼らのダンスは「魅せる」ものであり、見とれるほどに美しいもの。登場の度に雰囲気を変え、飽きさせることはありません。だからこそ、アルゼンチン、ブエノスアイレスの有名なタンゲリア「Rojo Tango」のレギュラーダンサーとして活躍できていたのです。

 本場の素晴らしさを体感していただきたく、タンゴの音を担っていただくのは、アルゼンチンタンゴバンド。タンゴ独特の音色を奏でるバンドネオンは、2015年アメリカで行われたバンドネオン奏者世界一の栄誉に輝いた川波幸恵さん。悪魔の楽器と評されているバンドネオンを操り奏でる、世界が認めた彼女の音色は必聴です。

 そして、華やかなふくらみを与えるヴァイオリンは、専光秀紀さん。 タンゴ独特の馴染みの楽器でありながら、タンゴ独特の奏法により音色は、ところどころで深い味わいを残します。心地良く心の奥底に響くリズミカルな音色を奏でるピアノの青木菜穂子さんを忘れてはいけません。

 川波さんがアルゼンチンバンドを率い、クリスティアン&ナオと織りなす、Benoitでの一夜限りに物語。いったいどのような構成で我々を魅了するのでしょうか?当夜は、18時30分より第一部を開宴し、その余韻に浸りながらお食事をお楽しみいただきます。そして、いよいよ第二部が始まる…このような流れで、皆様には思う存分タンゴの世界をお楽しみいただこうかと思います。

Benoitミュージックディナー アルゼンチンタンゴ

日時:2022712()18:00より受付開始 18:30開演

料金:ダンススペース周辺のお席をS席、少し離れたA席をご用意させていただきます。

S席22,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料/税込)

A席19,800(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料/税込)

※質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。席数に限りがございます。ご予約は北平へのメール、もしくはBenoit(03-6419-4181)にご連絡いただけると幸いです。

 

メンバープロフィール

 

クリスティアン&ナオ -タンゴダンサー- 】

堤崎尚子

Cristian Andres Lopez 

 2008年よりペアとして本格的に活動を開始。2009年〜2012年の4年連続で、世界選手権サロン・ステージ両部門ファイナリストという快挙。2013年より再び東京を拠点に活動し、2015年6月に南青山にタンゴサロン ブエノスアイレスをオープンする。最近では元宝塚のトップスター達が出演するミュージカルやコンサートに出演、コレオグラファーとしても活躍している。

<主な受賞歴 2008年 Japan Openタンゴダンス選手権サロン部門ステージ部門

共に準優勝/2009年アルゼンチンタンゴ世界選手権アジア大会サロン部門優勝/

世界選手権ステージ部門3位

2010年世界選手権サロン・ステージ両部門3位/

2012年メトロポリターノMILONGUEROS DEL MUNDO 優勝>

 

川波幸恵 -バンドネオン- 】

 第一回チェ・バンドネオン国際コンクール第1位、福岡市在住のメンバーで結成されたタンゴ三姉妹+では、2021年ピアソラ国際コンクールアンサンブル部門で第1位。海外での演奏地域は、20箇所を超える。渡辺えりと出会い、舞台「りぼん」に出演。以来、ジャンルや文化の壁を越え(西城秀樹沢田研二笑福亭鶴瓶らと共演)幅広く活動、「題名のない音楽会」などメディアにも多数出演。オリジナル楽曲「じゃばら体操」や折り紙を通して、音楽と笑顔の国際文化交流を行っている。

 

【専光秀紀 -ヴァイオリン- 】

 3歳からヴァイオリンを始める。東京音楽大学卒。クラシックを三本克郎、篠崎功子に師事。大学在学中より、小松亮太オルケスタティピカツアーに参加し音楽活動を開始。タンゴの世界に深く傾倒する。2012年アルゼンチンに渡りアリエル.エスパンドリオ、ガブリエル.リーバスに師事。日本では数の少ないコルネットヴァイオリンも演奏する。現在タンゴ楽団メンターオや、小松真知子タンゴクリスタル等、様々な楽団で演奏中。

 

【青木菜穂子 -ピアノ- 】

 武蔵野音楽大学ピアノ科卒業後アルゼンチンに渡り、ニコラス・レデスマに師事。2年間現地の市立楽団「オルケスタ・エスクエラ・デ・タンゴ」のピアニストとしてTVやラジオ等数々の場で演奏。帰国後自己のグループを率いて活動しその後も度々渡亜。ブエノスアイレスやチリでのフェスティバル、アメリカのバレンタンゴ祭、また世界各国から10人のピアニストを集めたバンクーバーでの10グランズ・ピアノコンサートに2年続けて招聘。現在は『Celeste Septet』『Cuarteto Confeito』主宰。

 

 アルゼンチン生まれのバンドネオン奏者であり名作曲家、アストル・ピアソラ。幼少の頃は、両親の仕事の関係上、ニューヨークにいたそうです。父親がタンゴ好きということが功を奏して、馴染みにある音楽がタンゴ。そして7歳の誕生日にバンドネオンをプレゼントされます。この時、「歴史が動いた」のでしょう。母国に戻った彼は色々なオーケストラでバンドネオン奏者として頭角を現します。

 しかし、彼は古いスタイルのアルゼンチンタンゴになじめず、独自のスタイルを追求すべくフランスへ。クラシックの作曲を勉強したく渡仏したピアソラですが、どうもしっくりこない。ナディア・ブーランジェ先生から、「本来の自分の演奏してみなさい」と言われ、タンゴを披露した所…「これがあなたの音楽よ」と喝破されるのです。それから彼は彼独特のタンゴをどんどん作曲していくことになります。

 当時、ピアソラの楽曲はアルゼンチンには受け入れられず、「タンゴの異端者」とまで酷評されます。しかし、時代とともに評価が変わり、いまでは偉大なタンゴの作曲家に名を連ねています。この彼の才能を見出し、後押ししたのが、フランスでした。ピアソラに限らず、アルゼンチンが軍事政権であった時代に、国を追われ逃れた地がフランスのパリでした。この国の寛容なる音楽への理解なくして、ピアソラの今は有り得なかったでしょう。

 「フレンチでタンゴ」と銘打って始めたBenoitのタンゴイベントが、当初は「なぜ?」と疑問が多かったことは事実であり、自分もその一人でした。しかし、フランスとアルゼンチンタンゴとのこの関係を教えてくれたのは、他でもないフランス人のお客様からでした。この場を借りて御礼申し上げます。

 

 関東の梅雨入りを迎えました。不安定な天気は、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくもの、油断はなりません。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下が追い打ちをかける時期です。皆様、こまめな休憩、十分な休息と休養をお心がけください。

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

http://www.benoit-tokyo.com